2009年02月20日

●「米社会は『怒りの舞踏』の現代版」(EJ第2515号)

 1月30日からロシア問題を14回にわたって取り上げてきて
います。今回のテーマは「大恐慌後の世界はどのようになってい
くか」ですが、ロシアに重点を置いたのはそれだけロシアが重要
な存在であるからです。
 なぜなら、ロシアは、これからの国際政治体制を欧米中心の既
存の体制から、多極化の体制に切り換えることを狙っているから
なのです。多極化を推進するさい、エネルギーの問題はその重要
な核になるのですが、そういう意味でロシアのようなエネルギー
大国はその多極化のかぎを握っているのです。
 実際にメドベージェフ大統領は、2008年7月に、EUとの
協議会の席上、欧米間の安保体制であるNATOとロシアを合体
させ、欧米露による新たな集団安保体制を作ることを提案してい
るのです。NATOは米主導でロシアを敵視する軍事組織なので
すが、ロシアはこれを無力化しようとしているのです。
 現在のところ米欧諸国は、こういうロシアの画策について「メ
ドベージェフのたわごと」といって相手にしていませんが、ロシ
アは、天然ガスなどのエネルギーを武器にして着実に手を打って
いるのです。
 メドベージェフ大統領は、国際金融体制についても次のように
主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米は金融危機を悪化させるばかりなのに、米だけが国際金融体
 制を切り盛りする現体制は欠陥がある。ロシアは今後、ルーブ
 ルを国際基軸通貨の一つにして、国際金融危機を解決する方向
 に持っていく。モスクワは国際金融センターの一つになる。
                       ――田中宇著
      『メディアが出さないほんとうの話』/PHP出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、ロシアのやっていることは、徹底的な「米国外し」な
のですが、肝心の米国はこれに対してどういう戦略を持っている
のでしょうか。ここから米国について考えていきます。
 現在の米国はどのような社会になっているのでしょうか。はっ
きりといえることは、とんでもない格差社会になっているという
ことです。それは、今回の金融危機によって、一層明確なかたち
をとっています。
 米国の作家ジョン・スタインペックの有名な小説に『怒りの葡
萄』という作品があります。この小説によって、スタインペック
は、1940年にピューリッツァー賞、1962年にノーベル文
学賞を受賞しています。なぜ、この小説はこのように高い評価を
受けたのででしょうか。
 この小説の初版は1939年、あの世界大恐慌の後の時代なの
です。小説の舞台はカルフォルニア――しかし、カルフォルニア
も、折からの大恐慌の影響や農業の機械化・大規模資本主義農業
の進展によって土地を失った農民は働くところがなく、大土地資
本家の経営する農場で日雇い作業をするしかないという時代を背
景に物語が進んで行くのです。当時大恐慌下において、土地を奪
われ、仕事も誇りも失った農民が続出し、大きな社会問題となっ
たのですが、スタインペックはそれを見事に描き出しています。
 それではなぜこの作品に『怒りの葡萄』というタイトルが付い
たのでしょうか。
 それは、スタインペッグ自身が原作の第25章で、カリフォル
ニアに大量の果実や穀物が実っているのに、そして一方には飢え
た人々が多くいるのに、それらの果実や穀物が収穫されず、むざ
むざと腐れ果てていく様子を描いています。
 なぜ、こういうことが起こるのかというと、大農園・大資本に
よる果実の価格操作と農業労働者に対する賃金操作の結果なので
す。そして、富めるものは一層豊かになって土地と資本を増やし
ていくが、貧しいものは一層貧しくなり、わずかに持っていた農
地までも失ってしまい、放浪者となってしまうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人びとの目の中には、失敗の色がうかび、飢えた人びとの目の
 中にはしだいにわきあがる激怒の色がある。人びとの魂の中に
 は、怒りの葡萄が、しだいに満ちておびただしく実っていく。
 収穫のときをめざして、しだいにおびただしく実っていくので
 ある。              ――『怒りの葡萄』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の米カルフォルニアの郊外には、鉄道線路と飛行場の間に
ある荒地にテント村ができているのです。このテント村は、住宅
ローン危機で自宅を失った人々が集まっているというのです。現
在、200張りを超えるテントの数になっているのです。その後
も自家用車の中で生活する者もあらわれて、そういうホームレス
が増えているそうです。日本の「年越し派遣村」と同じです。ま
さに『怒りの葡萄』の21世紀版といえると思います。
 現在、米国経済は「五重苦」をかかえているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.米経済の不況
       2.米政府の財政赤字の急増
       3.世界的なインフレ
       4.ドルの信用不安
       5.金融危機
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本や中国の経済成長は、製造業が作り出した製品を主として
米国に輸出して得たものですが、米国の場合は、米国民の消費で
成り立っているのです。
 米国の場合、製造業は1980年代以降不振をきわめており、
中心の自動車産業では新時代の技術に大きく遅れているのです。
そこで、日本や中国などの世界から輸入した商品を消費する過程
で生ずるサービス業や金融ビジネスなどの経済活動で経済成長を
支えてきたのです。しかし、米国民は、今回の金融危機で消費の
資金源を失ったのです。   ―――[大恐慌後の世界/33]


≪画像および関連情報≫
 ●『怒りの葡萄』について
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  1939年のジョン・スタインベックの名作「怒りの葡萄」
  を名匠ジョン・フォード監督が映画化。1962年にスタイ
  ンベックがノーベル文学賞をとれたのはこの作品による功績
  だとも言われている。ヘンリー・フォンダはこの作品を読み
  ひどく感銘を受けた。20世紀FOXにかけあって映画化実
  現に向けての働きかけをしたが、社長のダリル・ザナックは
  映画化の交換条件としてヘンリー・フォンダに7年契約をす
  るように迫ったという。止む無くフォンダは7年契約にサイ
  ンをする。
  http://amerisoreiyu.blog27.fc2.com/blog-entry-1882.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

映画「怒りの葡萄」.jpg
映画「怒りの葡萄」
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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