う行為をロシアが行ったとき、その行為に対して世界各国からさ
まざまな意見が巻き起こったのです。
これらの意見の多数説について、既出の木村汎教授は次のよう
に述べています。
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欧米世界にたいする外交上の影響という観点からみるかぎり
クレムリンが06年正月におこなったガス停止決定は、失策で
あった。おそらくこのように判断すればこそ、クレムリン当局
は早々と幕引きすることにしたのだろう。
――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
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要するに、ロシアのガスの元栓締めは失策であったとするのが
多数説であるというのですが、木村教授はそれを補強する情報と
して、そのときロシアを訪問していたアンゲラ・メルケル独首相
に対するプーチン大統領の次の発言を紹介しています。
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もちろん、ヨーロッパの顧客たちが驚いたわけではない。だが
とくに普通の人々は、ガス分野におけるロシアーウクライナ間
の議論について多くの疑問をいだいた。このおりのわれわれの
誤りは、この事件の本質を直ちに十分はっきりと正確に説明し
なかったことだった。 ――プーチン大統領(当時)
――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
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ここでプーチン大統領は「われわれの誤り」と述べ、ガスの元
栓を締めたことが間違いであったことを認めているのです。そし
てこの事件に対する多数説は、ロシアがつねづねCIS諸国や欧
米諸国に対して公言してきている次の「3つの柱」をその行為に
よって壊してしまったとしているのです。
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1.ロシアはウクライナを含むCIS諸国の友邦である
2.ロシアは欧州諸国への安定的なエネルギーの供給源
3.ロシアはG8加盟国の相応しいメンバーであること
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CIS諸国とは、バルト3国を除く旧ソビエト連邦の12ヶ国
で形成される緩やかな国家連合体――CIS:独立国家共同体の
ことであり、ベラルーシの首都ミンスクにその本部が置かれてい
るのです。ロシアにとって、CIS諸国は外交の最優先地域とさ
れる地域で、軍事同盟をはじめ、各国の思惑がからみあう複雑な
利害関係を有する地域でもあるのです。CIS12ヶ国を次に示
しておきます。
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1.ロシア 7.ベラルーシ
2.カザフスタン 8.モルドバ
3.タジキスタン 9.アルメニア
4.ウズベキスタン 10.アゼルバイジャン
5.キルギス 11.グルジア
6.ウクライナ 12.トルクメニスタン
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しかも、2006年という年はロシアにとって重要な年であっ
たはずです。なぜなら、2006年1月1日からロシアは主要国
(G−8)首脳会議の議長国に就任したからです。その年の冒頭
でロシアはガスの元栓を締めたのです。
このロシアの行為に対して、コンドリーサ・ライス米国務長官
(当時)は次のようにロシアを批判しています。
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ロシアの行為は、「明らかな政治的な動機」にもとずいてなさ
れた。それは、G−8の責任あるメンバーに期待された行動様
式とは異なる。ロシアが国際経済の一員となりたいのならば国
際的ルールにしたがってプレイすべきである、と。
――木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
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しかし、その後の行動をみると、ロシアは何ら反省などしてい
ないと思われます。なぜなら、プーチン政権は2007年の元旦
に今度はベラルーシに対してほとんど同じことをやっているし、
2009年元旦には、また同じウクライナに対し、ガスの元栓を
締める行為を繰り返しているからです。こうなると、この手法は
ロシアの今後のエネルギー戦略そのものになっているのです。
とくにロシアは、2008年からメドベージェフ大統領になっ
てからは、そういうロシア的エネルギー戦略に拍車がかかったよ
うに思えるのです。それが、2008年7月25日のトルクメニ
スタンとのガス交渉――ロシアがトルクメニスタンの天然ガスを
買い上げる契約でみることができます。
トルクメニスタンに対しては、それまで天然ガスの購入価格は
1000立方メートル当たり140ドルだったのですが、それを
225ドルに引き上げたのです。この価格はガスプロムが欧州諸
国に売る平均価格なのです。したがって、この価格ではガスプロ
ムは利益が出ないことを意味しています。
つまり、ガスプロムは、トルクメニスタンのガスでは儲けない
代わりに、今後20年間にわたってトルクメニスタンのガスを全
量ロシア経由で運び出すことをトルクメニスタン政府に約束させ
ているのです。
この契約では、ガスプロムはビジネスとしては儲からないです
が、政治的には画期的な契約といえるのです。なぜなら、この契
約によってロシアを迂回するBTCパイプラインをほとんど無価
値化できるからです。
現在、欧州諸国が消費する天然ガスの30%近くはガスプロム
が提供しているのです。もし、BTCパイプラインの利用を制限
することに成功すれば、欧州のガスプロムへの依存度を上げるこ
とができるという戦略です。 ―――[大恐慌後の世界/31]
≪画像および関連情報≫
●トルクメニスタンという国
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トルクメニスタンは砂漠の国。旧ソ連の中央アジア諸国の中
では、カザフスタンに次いで2番目に人口密度が低い国だ。
何世紀にもわたって遊牧が行われてきたこの国は、19世紀
後半にロシアに征服され1991年に独立を果たした。19
50年代に、運河としては世界有数の長さを誇るカラクム運
河が開通し、アム・ダリヤ川からトルクメニスタン南部へ水
を供給しているが、現在は老朽化し、土壌の塩化が砂漠化を
進行させている。また、アム・ダリヤ川から水をくみ上げて
いるため、アラル海が干上がる原因ともなっている。
――ナショナル・ジェオグラフィック
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イスラム建築の秘宝/トルクメニスタン