2009年02月12日

●「BTCパイプライン建設の経緯と影響」(EJ第2509号)

 カスピ海からの原油は、北ルートにせよ、西ルートにせよ、い
ずれも黒海に達するのです。その後運ばれてきた原油はタンカー
で黒海を渡って、トルコのボスポラス海峡を通過して地中海に抜
けるのです。それよりほかに方法はないからです。
 ボスポラス海峡は、トルコのアジア部分とヨーロッパ部分を隔
てる海峡であり、黒海と地中海を結ぶ海上交流の要衝なのです。
しかし、この海峡には問題があるのです。狭いし、浅いのです。
そのため、トルコ当局は、事故防止という名目で交通を制限し、
1日当たり1タンカーの通行しか認めないのです。
 そのため、足止めを食うタンカーが続出しています。2004
年には30日間も待機させられたタンカーもあったそうです。そ
の場合、その分の費用が原油価格に上乗せされるので、原油価格
が高くなるというマイナスがあるのです。
 このボスポラス海峡のネックを解消するため、アゼルバイジャ
ンと欧米諸国がこの海峡を通らないプランを考え出したのです。
それは、アゼルバイジャンのバクー(B)からグルジアのトリビ
シ(T)を経て、トルコのジェイハン(C)に達するパイプライ
ンのことです。ジェイハンとは、トルコの地中海沿岸の港であり
トルコ語の頭文字は「C」なのです。
 このパイプライン――BTCパイプラインというのですが、こ
の構想は1992年に既に構想されていたのですが、敷設しても
採算が取れるかどうかが危惧されのです。るのです。なぜなら、
そのパイプラインの全長は1768キロメートルにおよび世界最
長になり、建設費が膨大になるからです。
 しかし、1999年に、アゼルバイジャン、グルジア、トルコ
そして米国はこのパイプラインの建設を決断し、2005年秋に
完成したのです。費用は最終的に39億ドルかかったのですが、
英国のブリティッシュ・ペトロリアム(BP)が主要事業主体と
なって、企業連合を形成して資金を調達したのです。日本も伊藤
忠商事が参加しています。
 当然のことながら、ロシアはこのBTCパイプラインには不快
感を示しています。米ブッシュ大統領、グルジアのサーカシビリ
大統領とロシア下院外交委員長のコメントをご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪米ブッシュ大統領≫
  パイプラインはカスピ海の発展に新時代を拓く。
 ≪グルジアのサーカシビリ大統領≫
  (BTCパイプラインは)アゼルバイジャンとその同盟国に
  とっての地政学的な勝利である。
 ≪コンスタンチン・コサチョフ・ロシア下院外交委員長≫
  この(BTC)プロジェクトが経済的ではなく、むしろ政治
  的な理由によって生まれたことは、火をみるよりも明らか。
  すなわち、カスピ海のエネルギー資源をロシアとイランのよ
  うな国を迂回して西側へ輸送する、安定した代替肢をつくる
  という目的である。            ――木村汎著
           『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実質的にBTCパイプラインは動き出したのです。2006年
5月に最初の原油がジェイハンに到着しており、2009年には
日量100万バレル、年間5000万トンに達する予定です。
 そうすると、その量はロシアの石油輸出量の4分の1、カスピ
海全体の2分の1に相当するのです。これだけの能力を備えては
いるのですが、果たしてそれだけの原油がBTCラインで輸送さ
れるかどうかは、カザフスタンの出方にかかっていると、北海道
大学名誉教授の木村汎氏は述べています。カザフスタンしだいで
BTCパイプラインは採算がとれなくなるというのです。
 このカザフスタンの問題について、木村教授の話を以下にまと
めておきます。詳しくは、前掲の『プーチンのエネルギー戦略』
(北星社刊)を読んでいただきたいと思います。
 カザフスタンにはもともと「テンギス油田」という大きな油田
があるのです。さらに2000年にはカスピ海沖にカシャガン油
田という巨大油田が発見されているのです。それは、推定ながら
380億ドルの原油埋蔵量を持っていて、2019年には、日量
150万バレルの生産が期待できるというのです。
 これだけの生産が可能であり、それをBTCパイプラインで運
ぶことが実現すれば、BTCパイプラインは確実にペイすること
になります。しかし、そのためには、カザフスタンのアウタウか
らアゼルバイジャンのバクーを結ぶルートが必要になります。
 実際に米国とアゼルバイジャンは、カザフスタンの原油をBT
Cパイプラインで運ぶための「カスピ海横断石油・ガス・パイプ
ライン」のフィージビリティ・スタディ(FS)を始めることを
決めています。
 しかし、カザフスタンはロシアの意向に強くは逆らえない弱み
があるのです。カザフスタンという国は、ロシアと長い国境線を
持っているからです。
 さらに国内には多くのロシア系住民を抱えているのです。それ
は、全人口の30%にもおよび、それは中央アジア5ヶ国の中で
最も高い比率なのです。
 そうすると、カザフスタンとしては、ロシアとアゼルバイジャ
ンおよび欧米諸国を両てんびんにかける二股外交をせざるを得な
いということになります。どちらかひとつに絞ることは非常に困
難なことなのです。
 こういう状況をロシアが腕をこまねいて見ているわけではない
のです。BTCパイプラインの対抗策として現在進めているのは
「沿バルカン石油パイプライン」です。これは、カスピ海のロシ
ア原油をグローズヌイを経由してノボロシースク港に運び、そこ
からタンカーでブルガリアのブルガス港に運ぶのです。
 ブルガスからはギリシャのアレクサンドロポリスまで石油パイ
プラインを建設するという計画です。これは2008年から工事
が始められる計画です。  ――――[大恐慌後の世界/27]


≪画像および関連情報≫
 ●フィージビリティ・スタディ(FS)とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  FSとは、費用対効果調査、費用便益調査のことである。具
  体的には新製品や新サービス、新制度に関する実行可能性や
  実現可能性を検証する作業のこと。業務面、システム面、資
  金面、投資採算など、複数の視点から分析を行い、その実現
  可能性を検証する。  ――ウイズダム/ビジネス用語辞典
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊

BTCパイプライン.jpg
BTCパイプライン
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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