2009年02月09日

●「ロシアの権力のトライアングル」(EJ第2507号)

 経済急縮――現在は米国発の金融危機によって、世界中の経済
がこういう状況になりつつありますが、ロシアについてはそれが
顕著なのです。
 2000年からの8年間、プーチン大統領は強気の国家運営を
進めてきたのです。まさにプーチン王国です。それができたのは
ロシアには過去8年間で、1兆3000億ドルの資源輸出の収入
があったからです。
 そして2008年以降は、メドベージェフ大統領プラスプーチ
ン首相の新体制で、ロシアは世界の勢力圏を塗り替えようとして
本格的に動き出しています。
 その矛先はグルジアだけではなく、ウクライナ、タジキスタン
キルギスタン、ウズベキスタン、モルドバ、アルメニア、ベラル
ーシなど、旧ソ連邦の国々に対し、経済援助や軍事力をバックに
した恫喝外交を展開しつつあったのです。
 旧ソ連邦の国々だけでなく、日本に対してもその矛先を向けつ
つあるのです。米国の力が衰え、日本の首相が相次いで職務を投
げ出していることにつけ込むように、1975年以来初めて、ロ
シアは、伊豆半島上空の領空侵犯や原子力潜水艦による領海侵犯
を繰り返すようになってきているのです。
 しかし、2008年10月から始まった原油の暴落によって、
ロシアには急激な経済急縮が起こったのです。原油暴騰を仕掛け
ていたヘッジファンド筋が株価急落による手元資金ショートのた
めに、いきなり原油市場から資金を引き揚げたことが原因です。
 それに追い打ちをかけたのが、ロシアによるグルジア侵攻なの
です。というのは、その直後から、欧米投資家がロシア投資を引
き揚げたからです。そのため、ごく短期間のうちに400億ドル
がモスクワ市場から消えたのです。その後襲ってきたのが、ウォ
ール街よりも激しい株価の暴落なのです。
 10月13日にRTS(モスクワ株式指標)は1日で19%も
下落し、15日にはさらに11%下落し、往時の3分の1となっ
てしまったのです。ロシア市場は一週間閉鎖したにもかかわらず
再開するとまたもや株式は急落したのです。このように、株式は
絶頂から80%前後の急落を繰り返したのです。
 しかし、ロシアは経済の急縮にもかかわらずこれまでの方針や
計画を変えるつもりはないようです。それどころか、海底地下資
源への思惑があるためか、アイスランドの銀行破綻に緊急資金援
助を発動し、54億ドルを支出するなど、経済的に見れば無謀で
あるが、政治的には西側の経済同盟の一角にクサビを打ち込むな
ど強気の姿勢を崩していないのです。
 ロシアは何を考えているのでしょうか。
 ロシア問題に詳しい佐藤優氏は、ロシアは2020年までに帝
国主義大国を目指すとして、プーチン首相の構想を次のように述
べています。
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 専門家の間では常識とされているのですが、2007年の秋く
 らいまでウラジミール・プーチンは後継大統領に政治的に弱い
 人物を任命して、その人物に一期だけ大統領を務めてもらうこ
 とを考えていました。その後、2012年の大統領選挙にはプ
 ーチンが再出馬して、2期連続、即ち2020年まで大統領職
 に就くことを考えていました。プーチンが大統領に就任したの
 は2000年ですから「20年王朝」の構築を考えたのです。
 そして、プーチンは2020年にドミトリー・メドページェフ
 を後継大統領に据えることを考えていたのです。もっとも20
 07年12月の国家院(下院)選挙で、プーチン与党が圧勝し
 たので、メドページェフを大統捕順に据えることを前倒しした
 のです。             ――副島隆彦×佐藤優著
      『暴走する国家/恐慌化する世界』/日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアには「権力のトライアングル」といわれるものがありま
す。それは、ロシアの次の3つの役職です。
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          1.    大統領職
          2.     首相職
          3.ガスプロム会長職
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 ウラジミール・プーチン氏が大統領のときは、ビクトル・ズブ
コフ氏は首相、ドミトリー・メドベージェフ氏はガスプロム会長
であったのです。プーチン氏は任期満了で大統領を降りると、メ
ドベージェフ氏が大統領、ズブコフ氏はガスプロム会長、そして
プーチン氏は首相になっています。これが現体制です。この権力
のトライアングルをぐるぐると回しているのです。
 ところで、ビクトル・ズブコフ氏というのは何者なのでしょう
か。ズブコフ氏は、プーチン政権内部で長年政権を支えてきた人
物ですが、その人物名はロシア国内でほとんど知られてこなかっ
たのです。そのため、情報は少ないのですが、ズブコフ氏を知る
関係者からは、同氏は誠実で勤勉な金融関係の専門家であると賞
賛されているそうです。
 佐藤優氏のいう「後継大統領に政治的に弱い人物」というのが
ズブコフ氏を指しているのは確かのようです。そうであるとする
と、ロシアは「プーチン・メドベージェフの二重王朝」といって
もいいと思います。あれほどの大国が、たったの2人の権力者に
よって動かされているというのは恐ろしいことです。
 今回のグルジア問題で誰の目にも明らかになったのは、米国の
衰えとEUの腰砕けです。グルジアのSOSに対して、ドイツも
フランスもイギリスもイタリアも、そして肝心の米国までも何も
できず、リップサービスでロシアに軍の撤退を呼び掛けただけな
のです。ロシアの圧倒的な軍事力とその決断の速さに恐れおのの
いたのです。EUは2008年9月1日の緊急理事会で「ロシア
への経済制裁は行わない」と宣言し、グルジア国民を大いに失望
させたのです。      ――――[大恐慌後の世界/25]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシアはなぜアイスランドを支援するのか
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  ロシアは、現時点では、信じられないほどの低い金利で巨額
  の安定的貸出しを供与することで、小さな島国国家のアイス
  ランドに金融支援を行なうことに同意した。これはなんであ
  ろうか?無思慮な寛容なのか、あるいは、慧眼の政治的ステ
  ップなのであろうか?そして、40億ユーロ、これは資金と
  して巨額なのか少額なのか。
  http://jp.rian.ru/analytics/economics/20081014/117713800.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

プーチンとズブコフ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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