ロシア軍が越境進軍して南オセチア州だけではなく、グルジアの
首都近くまで攻め込まれたことに対して、グルジアのサーカシビ
リ大統領は、ロシアはあらかじめ北オセチアに軍を集結させてお
き、進軍の機会を窺っていたといっています。
これは本当のことなのでしょうか。
これについて、米のジョージ・ソロス系のシンクタンクは、次
のように指摘しています。
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ロシアは開戦4ヶ月前の4月から戦争を準備し、7月中旬には
北オセチアなどで軍事訓練を行い、侵攻準備を整えてサーカシ
ビリが陽動に引っかかって侵攻してくるのを待ち構えていた。
だから、悪いのはロシアだ。 ――田中宇著
『メディアが出さないほんとうの話』/PHP出版
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グルジア領内の南オセチア州がどのような立場に置かれていた
かということをよく知らない人にとっては、グルジア軍が南オセ
チアに攻撃を加えたのは「内政問題」であり、それを理由として
ロシア軍がグルジア領内に侵攻したのは明らかな「内政干渉」で
あると考えてしまいます。
しかし、既に述べているように、南オセチアはグルジアからの
独立を求めて戦っている特殊な地域であり、そこには、グルジア
とロシアも参加して定めていた「停戦・平和維持協定」があった
のです。グルジア軍は、この協定を破って侵攻したことになり、
これはロシアではなくグルジアに非があるといえます。
それでは、現在ロシア軍は何をしているのでしょうか。
その前に、グルジアについてもうひとつ知っておくべきことが
あります。それは、グルジアには南オセチアのほかにもうひとつ
独立を求めて戦っている地域があることをです。それは、ロシア
と国境を接するアブハジア州なのです。
南オセチアに侵攻したロシア軍は、南オセチアの州境に近いグ
ルジア本土側の都市ゴリ――スターリンの生まれ故郷――にも侵
攻し、ゴリ周辺のグルジア軍の設備を破壊するとともに、ロシア
に国境を接するアブハジア州にも進軍しているのです。
このアブハジア州も南オセチアと同様に、「停戦・平和維持協
定」が制定されており、ロシア側は今回のアブハジア侵攻はその
協定に基づく処置であると主張しているのです。
そして、現在ロシア軍は、南オセチアとグルジア本土、アブハ
ジアとグルジア本土に緩衝地帯を作る作業を行っているのです。
米欧はこの行為に対して批判を繰り返していますが、ロシア側は
あくまで停戦協定に従った行為であると反論しています。
しかし、米国の批判は口だけであり、実際に軍事行動を起こし
たロシアは、事実上南オセチアとアブハジアを親ロシアとして取
り込むことに成功したといえます。
今回のグルジア紛争で苦しい立場に追い込まれている国があり
ます。それは、イスラエルです。グルジアは、8〜9世紀にユダ
ヤ教のハザール国の影響圏であったことから、ユダヤ人が多い国
なのです。
サーカシビリ政権の閣僚のうち、国防相と国家再統一相はユダ
ヤ人なのです。サーカシビリ大統領が米ネオコンと通じて米政界
に食い込んだこともあり、グルジアはイスラエルとの関係の深い
国であるといえます。
イスラエルは直接的ではないもののグルジアに対し、グルジア
軍の特殊部隊の訓練を行ったり、無人偵察機などの諜報機器もグ
ルジアに売ってきたのです。したがって、何かことが起こったと
き――有事のときは、米国と一緒にイスラエルが軍事支援をして
くれると考えていたと思います。
しかし、実際にグルジアが有事に陥っても、米軍もイスラエル
軍もグルジアを助けなかったのです。なかでもひどかったのは、
米国の対応です。なぜなら、実質的にロシア軍が越境進軍してく
る原因を作ったのはほかならぬ米国であるからです。
2008年7月、ロシア軍がグルジア国境の近くで軍事訓練を
行ったとき、グルジアに駐留していた米軍顧問団はそれに対抗し
てグルジア軍と一緒に軍事訓練をやるなど、ことあるごとにロシ
アを挑発しているのです。
それでいて、戦争が起こると、米軍もイスラエル軍も知らん顔
であり、サーカシビリ大統領が少し気の毒なような気がします。
米国にベッタリの日本にとってもこの戦争の顛末は他人事ではな
い気がします。
ところで、グルジアに駐留し、グルジア軍に影響を与えていた
米軍顧問団の正体とは何でしょうか。
既出の田中宇氏によると、この米軍顧問団は米海兵隊の特殊部
隊であるというのです。その軍顧問団はグルジア軍の南オセチア
侵攻については知らなかったと主張しているようですが、これは
とうてい考えられないことです。
なぜなら、諜報や情勢分析に優れた能力を持っている米海兵隊
がそれを知らないはずはないのです。米国は、いずれロシアが越
境進軍してきて、グルジアとロシアは戦争し、そしてグルジアが
負けることも十分知っていたはずです。それでいて、米国はグル
ジアを救えなかったのです。やったことは、被災者への人道支援
だけだったのです。
イスラエルがグルジアを助けなかったのは、ユダヤ人――とく
に金持ちユダヤ人の多くは親ロシアが多く、そういうユダヤ人の
支援で当選してきている多くのイスラエルの国会議員は、グルジ
ア支援に動けなかったのです。
現在、多くのイスラエルの国会議員のグルジア戦争に対する意
見は「地政学的な紛争には首を突っ込むべきではない」というも
のです。しかし、グルジア紛争において米、イスラエルがとった
対応は、とくに欧州の親米の各国にとてつもない衝撃をもたらし
たのです。 ――[大恐慌後の世界/22]
≪画像および関連情報≫
●グルジア/アブハジアについて
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アブハジアは、カフカースの一地域で、アブハジア自治共和
国としてグルジアに属するが、事実上、独立状態にある。そ
の独立は国際的には認知されていなかったが、2008年8
月26日にロシア連邦が承認を発表した。それに続きヘラル
ーシが支持、ニカラグアが承認を発表した。自治共和国の首
都はスフミである。アブハジアはグルジアの最西端に位置し
黒海北岸に面する。北のカフカス山脈をロシア連邦との国境
とする。山がちな地域であり、居住地は黒海沿岸やいくつか
の峡谷に限られている。気候は温暖で、ロシア帝国・ソビエ
ト連邦時代にはガグラなどのリゾート都市が国内屈指の保養
地として知られた。茶やタバコ、ワイン、果実などを産す。
――ウィキペディア
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サーカシビリ大統領