2009年02月03日

●「新冷戦か/ロシアのグルジア侵攻」(EJ第2503号)

 最近書店では、「第3次世界大戦」という物騒なタイトルをつ
けている新刊書が目につきます。一体世界では何が起こっている
のでしょうか。
 われわれは現在金融危機に目を奪われていますが、これとほぼ
並行してもうひとつの大きな危機が進行中なのです。その危機と
は、ロシアの軍拡による世界の安全保障問題です。
 今回の金融危機が表面化する前から「新冷戦」という言葉がさ
かんにいわれるようになってきています。これは、資源国として
のロシアが「強いロシアの復活」というかたちで、米国の一極支
配への挑戦をはじめたことを意味しています。
 「新冷戦」が、はっきりと具体的なかたちを見せたのが、ロシ
ア軍のグルジア侵攻です。この戦争は単なる地域紛争ではなく、
情勢次第では今後深刻な事態に発展する恐れがあるといわれてい
るのです。そこには複雑な裏事情が存在します。
 戦争のきっかけは、2008年8月7日夜、グルジアの軍隊が
自国領ではあるものの半独立状態で中央政府に敵対してきた南オ
セチア州の州都ツヒンバリに侵攻し、ロケット攻撃などで市街を
破壊したことがそれです。
 ところが、その南オセチアには、OSCE(欧州安全保障協力
機構)の協定に基づき、ロシア軍が「平和維持軍」として駐屯し
ていたのです。グルジア軍はこのロシア軍にも攻撃し、15人の
ロシア兵が戦死しているのです。
 南オセチア州は、埼玉県ほどの広さであり、人口は約7万人、
人口の3分の2はオセチア人、4分の1はグルジア人です。南オ
セチアはロシアと国境を接しており、ロシア側には北オセチア共
和国があるのです。南オセチアの人々はかねがね北オセチアとの
統合を希望し、ソ連崩壊直後にグルジアからの独立戦争を起こし
たのです。しかし、成功せず、決着がつかないまま、長期紛争と
なって現在にいたっています。南オセチアがグルジア国内にあり
ながら半独立状態にあるのはこうしたいきさつからです。
 問題は、グルジア側が南オセチア侵攻の日として選定した20
08年8月7日というタイミングです。単なる偶然であるとは思
えないのです。この日は北京オリンピックの前日に当たり、プー
チン首相は北京に行っており、メドベージェフ大統領はボルガの
川下りの船中で夏季休暇中であって、ロシアの2人の権力者がク
レムリンにいなかった日なのです。グルジア側にすれば、そうい
う時期に侵攻すれば、ロシア軍の対応判断が遅れると予測したも
のと思われます。
 しかし、グルジア軍が南オセチアに侵攻するや、まるでそれを
待っていたかのようにロシア軍が越境進軍して、グルジア軍を退
散させたのです。これについて、副島隆彦氏は、佐藤優氏との対
談で、次のように興味あることを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 副島:私は8月8日(日本時間)のグルジア軍の南オセチアヘ
 の軍事侵攻を知り、そしてすぐあとに、怒涛のごとく北から山
 を越え進軍してきたロシアの戦車軍団によって、グルジア軍が
 撃退されたことをニューズで知りました。インターネットの画
 像にロシアの戦車隊の姿がすぐに現われました。この日の朝は
 北京オリンピックの開会式でした。私はニューズ番組で、チラ
 リと北京の例のスタジアム(鳥の巣)の貴賓席で、ブッシュ大
 統領に向かってプーチン首相が激しい剣幕で、いかにも「オレ
 は許さないからな」と言っているような口論のシーンを見まし
 た。これは、グルジア軍による南オセチアへの進攻に対して、
 ロシアが即座に反応したことを表わしていた。
 ――副島隆彦×佐藤 優著『暴走する国家/恐慌化する世界』
                       日本文芸社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア軍のグルジアへの越境進軍の指示を誰が出したのかにつ
いては予測するしかないのですが、プーチン首相が北京からロシ
ア軍に反攻の指示を出したと考えられます。
 北京の鳥の巣での米ブッシュ大統領とプーチン首相の話してい
るシーンは私もテレビで見ましたが、実際にそのときそのことを
話したかどうかは別にして、プーチン首相としては米国がどう出
るかをいろいろ探ったことは間違いないと思いまいす。しかし、
退任間近のブッシュ大統領の消極姿勢を見抜いたプーチン首相は
自信を持って進軍指令を軍に出し、直ちに北京を離れて、前線の
南オセチアに飛んで、軍の指揮をとったものと思われます。
 それでは、どうしてこのグルジアの戦いが、ロシアと米国の戦
いになるのかです。これについてはいろいろな事情があるので、
少していねいに説明することにします。
 国際ジャーナリストの田中宇(さかい)氏によると、グルジア
が侵攻したタイミングは米大統領選に関係があるというのです。
2008年8月7日が選ばれたのは、翌日から米大統領選挙戦で
優勢な民主党オバマ候補(当時)が、夏期休暇で故郷のハワイに
戻って選挙運動を一週間休んだ時期に当たるのです。
 そこでブッシュ政権が、その間に共和党マケイン候補を挽回さ
せるため、グルジアのサーカシビリ大統領を焚きつけて、南オセ
チアを侵攻させたという推測なのです。そうすると、必ずロシア
が出てきて戦争になることは必至であったからです。
 グルジアのサーカシビリ政権と米国のネオコンとは関係が深い
のです。米国はグルジアに130人の米軍顧問団を置いており、
武器も支援してきています。
 また、マケイン候補(当時)の首席外交顧問のランディ・シュ
ーネマンは、2008年3月に問題視されるまでの4年間、グル
ジア政府から合計90万ドルの資金をもらい、米政界でグルジア
のNATO加盟への根回しなどのロビー活動をしていたのです。
 したがって、ロシア側としてもグルジアの背後には米国が介在
していることは百も承知でグルジアに越境進軍しているのです。
しかし、ロシアの進軍の目的はあくまで「同胞救援」なのですが
事実上の米国との戦争なのです。――[大恐慌後の世界/21]


≪画像および関連情報≫
 ●ロシアがグルジア空爆/産経ニュースより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【モスクワ=遠藤良介】世界各国の首脳が集い北京五輪が開
  幕した8日、旧ソ連を構成したロシアとグルジアが、同国か
  ら独立しロシアへの編入を目指す南オセチア自治州をめぐり
  交戦状態に突入した。旧ソ連の崩壊後、両国が本格的な戦争
  状態に陥ったのは初めて。グルジアは8日未明、独立状態に
  ある南オセチアの再統合を目指し侵攻、激しい戦闘となり、
  双方に多数の死傷者が出た。これに対し、同自治州の後ろ盾
  となってきたロシアが報復攻撃を敢行。ロシア軍が、グルジ
  アの首都トビリシ近郊の軍基地を空爆したほか、戦車などか
  らなる地上増援部隊を同自治州に派遣し、双方の間で戦闘が
  行われた。両国による全面戦争への拡大が懸念される。
  ―――――――――――――――――――――――――――

南オセチアの地図.jpg
南オセチアの地図
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック