2009年02月02日

●「ロシアとウクライナの経済事情」(EJ第2502号)

 このところ日本はロシアに振り回されている感があります。メ
ドベージェフ大統領から麻生太郎首相に首脳会談の誘いがあった
かと思うと、27日には境港市のカニかご船「第38吉丸」がロ
シア当局に拿捕され、それに続いて北方四島への人道支援のため
に国後島に上陸しようとした外務省職員らにロシア当局が「出入
国カード」の提出を要求したので日本側は引き返すなど、ロシア
が何を考えているのかわからなくなっているというのです。
 これはロシアの常套手段なのです。何か日本から協力を引き出
したいとき、普通であれば日本側への対応を緩和させるなど日本
の機嫌をとって交渉を有利に進めるものですが、ロシアはそれと
は逆のことをするのです。
 境港市のカニかご船の拿捕にみられるように、今まで見過ごし
てきたことを厳格に適用したり、急に原則論に戻って今までの対
応を変化させたりして、外交交渉を有利に進める――いわゆる力
の外交を展開するのです。これは今までロシアがとってきた外交
のやり方であり、それほど珍しいことではないのです。
 それでは、ロシアが日本に求めているものとは何でしょうか。
 それはたくさんあります。ロシアは産業多角化を進めようとし
ているのですが、そのために最も必要とする情報技術(IT)、
液化天然ガス(LNG)、高速鉄道、原発建設、省エネ、自動車
などの技術――すべて日本の協力が必要なのです。
 ロシアが日本に接近する背景として、ゲオルギー・クナーゼ元
外務次官は、2007年10月24日付の『コメルサント』紙に
対する談話で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシア指導部は、エネルギー超大国ではなく潜在的な製造業立
 国、科学技術情報の輸出国となることを目指している。が、対
 中輸出の3分の2は資源であり、対中輸出に占める機械・設備
 の割合は過去10年で25%から1%に減った。中国は、ロシ
 アの資源にしか関心がない。現在のロシアにとって、日本から
 得られるものの方が多い。―木村汎・名越健郎・布施裕之共著
 『「新冷戦」の序曲か――メドベージェフ・プーチン双頭政権
                の軍事戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、昨年暮れのことですが、ロシアはウクライナとの価
格交渉が決裂し、前にもやったように1月1日からパイプライン
への天然ガスの供給をストップさせたのです。
 実はロシアはウクライナに対し、2006年の1月1日に同じ
ように天然ガスの供給を止めているのです。これは、2008年
3月のEJのテーマ「石油危機を読む」でも取り上げています。
ロシアとウクライナの問題は、第2314号〜2316号の3回
にわたって解説しています。URLを示しておきますので、興味
があればご参照ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/article/94610131.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/94936247.html
http://electronic-journal.seesaa.net/article/95148624.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、天然ガスの供給をめぐるロシアとウクライナの紛争
は、2006年1月から続いているのです。しかし、今回は原油
価格が暴落したことによって、今までとは少し事情が異なるので
す。それは経済にからむ問題です。政治的問題とは別に、ロシア
とウクライナ両国の台所事情が苦しいということです。
 まず、ウクライナは、ロシアに対し、多額の債務を抱えている
という事情があります。ウクライナは、21億1800万ドルも
ガス代を滞納しているのです。そのため、ロシアは2008年の
暮れにその滞納を一掃しない限り、天然ガス供給の新契約の締結
には応じないとウクライナに通告したのです。
 ロシアは、1999年からの10年間は年平均7%の経済成長
を遂げてきたのです。そして、サブプライム問題が顕在化した後
も経済の好調さを維持してきたのです。しかし、それは歴史的と
もいうべき原油高に支えられた経済の好調さであったのです。
 ところが、2008年7月には「1バレル=147ドル」を付
けた原価価格が12月末には4分の1以下の32ドルまで大暴落
してしまったのです。これが、GDPの40%、輸出の60%を
石油・ガスで稼ぐロシア経済に大打撃を与えたのです。
 これに慌てたロシア中央銀行は、株とルーブルを買い支えるた
めに、9月〜12月期に575億ドルを投入したのです。加えて
金融機関救済には140億ドルを注入しています。
 しかし、ロシアの外貨準備は、8月の6000億ドルから1月
には4754億ドルに減少したのです。ロシア首脳は、原油価格
引き上げのためにメッセージを次のように連発しますが、原油価
格は一向に反応しなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「OPECと協調し、原油の減産に踏み切る用意がある」
     ――2008.12.11/メドベージェフ大統領
  「安いガスの時代は終わった」  /ガス輸出フォーラム
         ――2008.12.23/プーチン首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 12月21日に「外車の輸入関税引き上げ反対」を口実にして
はじまった連邦政府への抗議デモは、極東から東西シベリア、そ
してモスクワにまで拡大したのです。
 ウクライナはもっと悲惨なのです。金融危機でウクライナの工
業生産は急速に落ち込んでいます。通貨グリブナの価値は、20
08年9月から現在までで半減し、IMFは170億ドルの緊急
支援を決めたのです。この事態はウクライナの経済が既に破綻し
ていることを示しています。
 借金を回収したいロシアと返すカネのないウクライナ――ウク
ライナがガス代を滞納したのは、こういう事情に基づくものなの
です。          ――――[大恐慌後の世界/20]


≪画像および関連情報≫
 ●ウクライナの政治事情について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (ウクライナの)ユーシェンコ大統領は今月20日、ティモ
  シェンコ首相がロシアのプーチン首相との交渉でまとめたガ
  ス合意(19日)について、ウクライナ向けガス価格が値上
  げされる一方、自国に支払われるパイプライン使用料が据え
  置かれた点を取り上げ「ウクライナの敗北」と批判した。ま
  た大統領側は、外国企業の参加が禁止されているパイプライ
  ン事業にティモシェンコ首相がロシア企業の参入を「密約」
  したと指摘。30日に安保防衛会議を開き、合意内容の見直
  しを求める方針だ。            ――毎日JP
  http://mainichi.jp/select/world/news/20090129ddm007030022000c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/「週刊ダイヤモンド」2009年1月/31号

原油価格暴落とガスプロムの株価.jpg
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(1) | TrackBack(1) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この記事の一説でウクライナの経済が既に破綻している。と聞いてショックでした。
私の妻はウクライナ人で現在は日本で生活しています。
私もウクライナには渡航しました。
最近になって妻も事あるごとにインターネットや国際電話で母国の両親、友人と連絡し、
ウクライナの今の現状を話しています。
日ごとにグりブナ対ドル為替が変動し物価高の変動も激しく買占めが盛んに始まっている
ようです。いまでは商店に品物不足が目立って
いて、日常食糧品の値段も破格な高値だ
そうです。
政府は大統領と首相の政権争いで対立し
国民生活には無関心だそうです。
今は円高なので、妻の両親にドル立て
で送金する事にしました。。

Posted by ヨシチカ at 2009年02月06日 01:58
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