2009年01月30日

●「金融危機がロシアに与える影響」(EJ第2501号)

 昨日のインドに続き、やはりBRICsの一国であるロシアに
金融危機はどのような影響を与えているのでしょうか。
 昨年の暮れの12月24日のことです。メドベージェフ大統領
はテレビの生放送に出演し、2008年の総括を行ったのです。
この放送について、「IBTimes /インターナショナルビジネスタ
イムズ」は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大統領は、ご多聞に漏れず、金融危機の原因として、アメリカ
 経済、並びに、グローバリゼーションを槍玉にあげた。また、
 インフレの抑制や経済の多様化という点では、政府の対策が及
 ばなかったことを認めた。しかし、メドベージェフ大統領は、
 ロシア経済にとって、金融危機の影響は、それほど深刻なもの
 にはならないとの見解を示した。
  http://jp.ibtimes.com/article/biznews/090108/26625.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、本当のところはどうなのでしょうか。
 ロシアは今回の金融危機でダブルショックを受けていると考え
られます。2つのショックというのは、いずれも米国発の金融危
機が原因で起こったものです。
 その一つは原油価格の下落です。これは金融危機が原因で原油
価格暴騰のひとつの要因になっていたヘッジファンドの手仕舞い
によって、起こったものです。そしてもう一つは米国発のリーマ
ン・ショックによる株式市場の下落です。とくに株式市場は、世
界のどこの市場よりも急激に下落し、一週間で50%もの資産が
吹っ飛んだのです。
 これは、欧米の投資家が金融危機によっていっせいに資金を引
き上げたのが原因であり、いかに資源に恵まれているロシア経済
であっても、欧米の経済・資本に強く依存しているということが
証明されたのです。
 メドベージェフ大統領は、金融危機の影響はそれほど深刻なも
のにはならないと平静を装っていますが、それはあくまで表向き
のことであり、その内情は厳しいものがあると考えられます。北
大名誉教授の木村汎氏は、現在のロシアの事情については次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ロシアは、世界規模の金融危機によって最大の被害国のひとつ
 となるかもしれない。その危機の原因は、他のどの国に比べて
 もより一層深刻だからである。   ――木村汎北大名誉教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 原油価格は、プーチン氏が大統領に就任した2000年には1
バレル/27ドルであったのですが、メドベージェフ氏が大統領
になった2008年には1バレル/147ドルになっていたので
す。プーチン政権下の8年間は、いわゆるプーチン戦略によって
原油価格は一貫して上がり続けたのです。
 とくに2007年以降の原油高騰では、なにしろ当時は原油が
1バレル当たり1ドル上昇するたびにロシアは17億ドル〜20
億ドルの余剰収入が入るほど潤ったのです。
 この原油価格暴騰によって、ロシアのGDPは世界第10位に
躍進し、国民一人当たりGDPは第52位、外貨準備高について
は、中国、日本に次いで5970億ドルの世界第3位にまで躍進
したのです。
 プーチン政権の時代から財務相を務め、エネルギー資源の供給
国の地位に甘んじている限り、ロシアは世界の一流工業国の仲間
入りはできないとの正論をプーチン前大統領に訴え続けているク
ドリン財務相は、2006年12月末の『プレーミヤ・ノーボス
チェイ』紙上で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去数年間、原油価格の上昇によってユーフォリア(陶酔感)
 が生まれた。しかし、このユーフォリアはロシアが8年前に苦
 しんだ恐ろしい危機「1998年の金融危機」に比べてさえ、
 より一層危険な現象なのである。       ――木村汎著
          『プーチンのエネルギー戦略』/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさしく2008年までのロシアは、クドリン財務相のいうと
ころの「ユーフォリア」――つまり、バブルに浸っていたといえ
るのです。そしてその状態が当たり前になり、それがいつまでも
続くと錯覚をしてしまっていたのです。
 このことは、ロシアの2008年度の国家予算が、1バレル/
70ドルの想定価格で組み立てられていることを見ても、ロシア
の現状がユーフォリアであることを忘れていると思います。昨年
はそれが1バレル/40ドル以下に急落しているからです。最悪
の予想では、1バレル/30ドルが想定されています。こうなる
と、国家予算は赤字に転落します。
 ナビウッリナ経済発展相は、プーチン政権の8年間で平均7%
で推移したGDP成長率は2.4 %まで下落し、インフレ率11
%、失業率は10%となると予測しています。
 クドリン財務相は、2009年度のロシアについて、次のよう
警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年は、世界同様にロシアにとっても、戦後最も困難か
 つ最悪の年になる。          ――クドリン財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 国有資源会社ガスプロムの株価は、2008年5月の最高値の
360ルーブルから10月には90ルーブルに下落しています。
加えて、ここ5年問右肩上がりだったルーブルも急落しているの
です。2009年1月上旬では「1ドル=32ルーブル」にまで
暴落していますが、これは1998年のデノミ実施以降の最安値
なのです。
 このように数値を見る限りロシア経済はけっして楽観できる状
況にはないのです。    ――――[大恐慌後の世界/19]


≪画像および関連情報≫
 ●クドリン副首相兼財務相について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アレクセイ・レオニードヴィチ・クドリンは、ロシアの政治
  家。副首相兼財務大臣。プーチン政権では、彼の出身地であ
  るサンクトペテルブルクで共に働いた急進改革派の経済専門
  家が多数登用されているが、クドリンもその一人である。但
  し、プーチンよりもアナトリー・チュバイスの直系であると
  見なされる。2008年5月からのプーチン内閣でも副首相
  兼財務相に留任した。        ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

アレクセイ・クドリン財務相.jpg
アレクセイ・クドリン財務相
posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック