2009年01月29日

●「金融危機に動じないインドの強さ」(EJ第2500号)

 今回の金融危機は、BRICsの一つであるインドにはどのよ
うな影響を与えているのでしょうか。中国に続いて、インドにつ
いて考えてみることにします。
 インドはこの4年ほどそのGDPの成長率は9%近くを記録し
てきています。これは中国に次ぐ高い成長率です。インドの強み
は何かというと、次の3つにあると考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.高い投資率
          2.高い貯蓄率
          3.人口の構造
―――――――――――――――――――――――――――――
 インド企業の利益の源泉は「内需」なのです。その中心は国内
インフラに対する投資意欲で、それはGDPの実に37%にも達
しています。それを支えているのは、GDPの35%に及ぶ貯蓄
率なのです。これが上記の1と2です。
 もうひとつインドの強みとして上げられるのは、人口の構造が
将来有望であることです。なぜなら、人口の65%が25歳以下
であることです。驚くべき若さであり、この若い世代が将来高度
な教育を受けて国を支えるとともに、消費者としても将来有望な
のです。既に現時点でも、高度成長期の日本のように「三種の神
器」をはじめとする製品が好調に売れています。したがって、イ
ンドの将来はきわめて明るいといえます。
 金融面はどうでしょうか。インドの銀行は、次の2つの数値が
示すように健全なのです。ナラナヤン・バグールICICI銀行
会長はこの数値を踏まえて「インドの銀行は一行も破綻しない」
と胸をはっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.高い自己資本率
          2.低い不良債権率
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の金融危機において、インドのIT業界は、ウォール街か
らのアウトソーシング先として発展を遂げてきたので、インドに
とっては米国発の金融危機は、計り知れないほど大きなダメージ
を受けたことは確かです。
 それに加えて、インド国内の賃金の上昇率や通貨ルピーが米ド
ルに対し、一年間で11%も切り上げられたことはインドにとっ
て逆風となっており、インドの国際競争力が現在厳しい局面を迎
えているのです。
 しかし、インド経済は今回の金融危機でも全体としては大きな
ダメージを受けていないのです。それは、インドの人は単にIT
に強いだけでなく、それを使って冷静に「鋭い先読み」ができる
国民だからです。
 インドの銀行はアジア通貨危機を経験しており、それを何とか
乗り越えた経験から、証券化商品をはじめとする複雑な金融商品
にはほとんど投資していないのです。数年前のことですが、不動
産価格が異常なほど高騰しているのを見たインド準備銀行は、国
内の銀行にこれらの商品を手仕舞いするよう勧告しており、なか
なか慎重なのです。
 不良債権比率は現在1%〜2%程度であり、問題はなく、外貨
準備高は対外債務の100%以上を維持しているので、心配な状
況にはないのです。
 また、インドの企業経営者もどうやら米国発の金融危機をかな
り早い段階で察知し、必要な対策を講じてきているフシがありま
す。なぜ、それがわかったかというと、インドのIT企業はウォ
ール街のシステムのかなり大きな部分を担っており、インド当局
はそれらに携わるインド人技術者からの情報を分析し、少しずつ
「ウォール街離れ」を行ってきたのです。
 しかし、インド人技術者の給与は米国人技術者の6分の1であ
り、人材の供給源としてきわめて魅力に溢れ、しかも高い技術力
があって、ウォール街のシステム全般を熟知しているのです。し
たがって、経営環境が厳しさを増すウォール街といえども、生き
残りのためにはインド人技術者に今後も頼らざるを得ないのが現
況なのです。
 そういう事情もあって、インドのソフトウェア会社の収益見通
しは、2008年度においても20%以上を確保するという状況
なのです。このようにIT部門は依然としてインドが比較優位を
保っているのです。
 このようにインドが比較優位を保つ企業はIT企業だけではな
いのです。アルセロール・ミッタルというインド企業をご存知で
しょうか。
 アルセロール・ミッタルは、世界最大の鉄鋼メーカーです。6
大陸に27の製鉄所を有し、従業員31万人、年間売上高は10
50億ドルというインド最大の企業です。
 それにインドを代表する財閥系のタタ・グループがあります。
傘下にタタ自動車を持ち、急成長をしています。タタ自動車は、
2008年3月に英国の老舗ブランド「ジャガー」と「ランドロ
ーバー」を買収し、フランスのルノーからスピンアウトした圧搾
空気で動く自動車「エアカー」のメーカーであるMIDIに資本
参加するなど積極的な経営を展開しており、現在東京証券取引所
の上場をもくろんでいます。
 米国発の金融危機で世界中が揺れているなか、2008年10
月22日、インドは月面探査ロケット「チャンドラヤーン1号」
の打ち上げに成功するなど、世界の経済的動揺を尻目に科学技術
の面でもその存在感を増しつつあるのです。
 そういうインドに対しては世界中から熱い視線が注がれていま
すが、日本もしかるべき手を打っています。現在インドは中国に
代わり、日本のODAの受け入れ国のナンバー・ワンになってい
ます。それにインドの弱点は農業であり、日本のきめ細かな農業
技術支援が役に立つはずです。世界が多極化に向かう中で、イン
ドの動向は注目です。   ――――[大恐慌後の世界/18]


≪画像および関連情報≫
 ●タタ自動車について/インド
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  タタ・モーターズ・リミテッドはインドの自動車製造企業。
  インドの財閥「タタ・グループ」のグループ企業の一つであ
  る。1945年に設立され、ムンバイに本社を置く。200
  4年にはニューヨーク証券取引所へADRを上場した。20
  06年の単体売上高は2060億2千万ルピー――約6千億
  円、2007年の単体売上高は72億ドル――約8千億円。
  2007年の時価総額は約9千億円。インド国内では商用車
  のシェアの60%を持っている乗用車分野への進出は後発な
  がらインド国内第2位のシェアを確保している。2004年
  には韓国で2番目に大きな大宇のトラック部門を買収してタ
  タタ大宇商用車を設立している。   ――ウィキペディア
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ナノ/タタ自動車.jpg
ナノ/タタ自動車
posted by 平野 浩 at 04:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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