CICを設立したのです。シンガポールの政府系ファンド「テマ
セック・ホールディングス」がモデルであるといわれています。
テマセック・ホールディングスは、1974年に設立されたシ
ンガポール政府傘下の運用会社です。元々は、電力・通信・航空
などの政府系企業の管理会社として、全額政府出資で設立された
会社なのです。その後、シンガポール航空などを国際的な企業に
育て、傘下企業の上場で得た株式の売却益などを元手に、現在で
は高いリターンを戦略的に追求する投資活動を国内外で展開して
おります。
CICは、中国政府が溜めこんだ膨大な外貨を元手にして、海
外の石油や食料資源などのコモディティへ投資することが目的で
設立されたのです。
しかし、中国のファンド・マネージャーは経験が不足しており
中国政府としては、米国のヘッジファンドや金融機関に資金を提
供し、利益を確保するとともに、あわせて投資のノウハウを学ぶ
という計画であったのです。
そして、CICが最初に行った大型投資は、米国の最大手投資
ファンドであるブラック・ストーンへの30億ドルの投資です。
続いてCICは、2007年12月にあのモルガン・スタンレー
へ50億ドルの出資をするのです。
ちょうどその一か月前の2007年11月に世界最大の金融機
関シティグループに対して、アブダビ投資庁が75億ドルの資金
注入をしているので、「米国は買占められている」という声が出
たのも当然だったのです。その頃から世界の金融市場に新規参入
する中国の国富ファンドCICは「赤いハゲタカ」と呼ばれるよ
うになったのです。
このような国富ファンドのことを「SWF――ソブリン・ウエ
ルス・ファンド」というのですが、現在世界に40ほどのSWF
が設立されているのです。SWFは次の言葉の省略形です。
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SWF=Sovereigh Wealth Fund
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SWFの目的は国によってさまざまであり、とくに中国のCI
Cは特殊な目的を持っていると、稀代の投資家ジョージ・ソロス
氏は次のようにいっています。
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各国のSWFはみな独自の戦略を持っている。中東のファンド
と中国ではまったく違う。シンガポールもロシアも政府系ファ
ンドは見事に別物だ。同じ生き物と捉えると判断を誤る。たと
えば、中国は西側の先端技術を取り込むことに主眼を置いてい
る。ロシアの場合は自国のエネルギーを売りさばくインフラ整
備に力点を置く。 ――浜田和幸著/光文社刊
『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
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CICは、米国の金融機関に次々と投資したのですが、ウォー
ル街の崩壊で大きな評価損を出すことになってしまっています。
ブラック・ストーンの時価総額は、2008年3月時点で50%
目減りしているし、モルガン・スタンレーについては投資銀行の
看板を下ろしており、CICの初期の投資としてはことごとく失
敗しているといえます。
このようにCICが米国の金融機関への投資に失敗した場合は
中国マネーを吸い上げた金融機関を国有化してしまえば、それは
米国の戦略的勝利になるという声もあります。
しかし、米国としては「赤いハゲタカ」と呼んで中国のCIC
に強い警戒心を持っており、米議会の圧力を受けて、ポールソン
財務長官はたびたび「人民元の切り上げ」を中国に対して要求し
ているのです。
また、G7の経済・金融関係の会合では、中国をはじめとする
世界各国のSWFに対して、「透明性」を求める議論や提案が続
出しており、IMFに対してSWFを規制する圧力をかけること
を要求する動きが急になっています。
しかし、中国政府は、この世界からの圧力に対して相当強く抵
抗しており、次のような声明を発しているのです。
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これ以上の人民元切り上げ要求は承服しがたい。アメリカがそ
のような要求を撤回しないのであれば、われわれは手持ちのド
ルや国債を1兆ドル分放出する用意がある。 ――中国政府
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中国に次ぐ外貨準備としてのドルを保有しながら、米国に何ひ
とついえない日本に比べて、中国の主張は堂々と国益に立って対
決姿勢を鮮明にしています。中国は戦わずして米国に勝つための
さまざまな戦略を用意しているといわれています。
中国には「超限戦」というものがあるそうです。超限戦とは、
従来の軍事的な手段だけでなく、あらゆる手段を組み合わせた戦
争の形態のことをいうのです。もともと超限戦は、1999年に
中国空軍大佐の喬良/王湘穂の共著『超限戦』において提唱され
た戦争の形態についての概念なのです。
これは米国に対する「金融ゲリラ戦略」というべきものであり
米国のドルの価値を意図的に下落させ、戦わずして米国を内部か
ら崩壊させるという戦略です。中国はドルを世界一保有しており
やろうと思えばできる戦略であるだけに、米国としても警戒を強
めているのです。
そういうこともあって、FRBは世界中に出まわっているドル
の総量であるM3を発表しないことを2006年3月に宣言して
いるのです。したがって、中国としては、CICに「透明化」を
求める前にFRBこそ透明化を行うべしといっているのです。中
国の主張にも一理はあります。
それでは、米国はなぜM3を発表しないのでしょうか。明日の
EJで述べます。 ――――[大恐慌後の世界/16]
≪画像および関連情報≫
●アリコからクリコなのか
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中国資本がAIGグループの核である「アリコ」に出資する
との記事が日経に出ている。日経の記事では、交渉中との段
階で最大出資は過半数に満たない49%となるようだ。AI
Gのアリコは、当初から一括売却を前提に買収先探しをして
いたが、そんなに規模のでかい投資をできるのは新興国のS
WFだけだったとみえる。日本のセイホは、AIGスター生
命やAIGエジソン生命の国内資本への「奪還」をめざすの
だろう。
http://amesei.exblog.jp/8953128/
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