2009年01月14日

●「投資銀行の暴走を可能にした法律」(EJ第2489号)

 リチャード・ファルド氏に関連して、ヘンリー・ポールソン財
務長官についても知っておく必要があります。ヘンリー・ポール
ソン――1946年生れの62歳、誰もが知るユダヤ資本を代表
するゴールドマン・サックスCEO出身の米財務長官です。あと
わずかではありますが、現時点では現役の財務長官です。
 日本では考えられないことですが、ウォール街の企業のトップ
が財務長官になり、任が終わると再び元の企業に戻る――こうい
う「民」と「官」を行き来するのは米国では普通なのです。
 ポールソンは、ダートマス大学を卒業し、1970年にハーバ
ード大学のビジネス・スクールで経営学を学び、MBAを取得し
て国防総省に入ります。最初は、国務次官補のアシスタントを務
め、その後ニクソン大統領の内政担当補佐官であるアーリックマ
ンの下で仕事を仕込まれたのです。
 アーリックマンは、ニクソン大統領の最も親しいアドバイザー
のひとりであり、ウォーターゲート事件の陰の主役といわれる人
物です。ニクソン大統領の懐に深く入り込み、あらゆるところか
ら情報を集め、敵対する当時の民主党議員や共和党の有力者の追
い落としをはかったのです。その手段として使ったのが、非合法
の盗聴だったのです。
 ポールソンは、1974年にゴールドマン・サックスに入社し
ますが、アーリックマンから教わった情報収集や追い落としのテ
クニックを縦横に使い、ライバルを蹴落として、1999年に同
社のCEOに就任します。ポールソンは目的のためには手段を選
ばないところがあるのです。そして、2005年にポールソンは
財務長官に就任するのです。
 今回の金融危機が起こり、2008年10月3日に金融救済法
が下院で可決されてからというもの、ポールソン財務長官はブッ
シュ大統領よりも大きな権限を持っているといっても過言ではな
い――このように浜田和幸氏はいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、ポールソン氏は実質的にアメリカの大統領と言っても過
 言ではない。彼の采配によって、ウォール街の大手金融機関は
 生殺与奪権を握られているといってもいいだろう。彼が目指す
 金融再編のシナリオは、自らの親しい仲間が経営陣に連なる古
 巣のゴールドマン・サックスとシティーグループ、そしてJP
 モルガン・チエースの3社による支配体制である。7000億
 ドルの公的資金を税金から注入するという荒業を成し遂げたポ
 ールソン氏。今や彼がヨーロッパやアジアの金融機関も支配下
 に置こうと目論んでいることば、想像に難くない。
                 ――浜田和幸著/光文社刊
    『「大恐慌」以後の世界/多極化かアメリカの復活か』
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 どうして米国がこういう深刻な事態になったのか考えると、そ
れはレーガン政権にまで遡ることができます。いわゆるレーガノ
ミックスです。しかし、レーガノミックスは、旧ソ連を崩壊させ
1990年代に米国に空前の繁栄をもたらしており、一概にそれ
を批判することはできないと思います。
 しかし、1990年代のクリントン政権は、1999年に次の
法律を制定しています。
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    グラム・リーチ・ブライリー法/1999年
              金融サービス近代化法
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 この法律の狙いは、金融機関同士の垣根を取り払うことにある
といえます。これによって、銀行と証券の区別がなくなり、金融
機関同士の競争が激化したのです。
 保険会社であるAIGがCDSを多く抱え込むことができるよ
うになったのも、投資銀行が少ない資本でで大きなレバレッチを
利かせることができるようになったのも、すべてこの法律によっ
て可能になったことなのです。
 もともと米国では、次の法律によって証券と銀行は完全に切り
離されてきたのです。
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     グラス・スティーガル法/1933年
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 この法律は一般家庭の投資熱を煽ったとの反省から生まれたも
のであり、商業銀行による株式や社債の引き受け禁止、投資銀行
による預金受け入れ禁止、商業銀行と投資銀行との提携禁止など
を規定したものであり、この法律によって、商業銀行と投資銀行
は完全に分離されてきたのです。この法律の成立には、カーター
・グラス上院議員の功績があり、そのためこの名があります。
 しかし、この法律は1994年に廃止されるのです。この法律
の廃止に動いたのは、フィル・グレアム氏であり、この人は今回
の共和党の大統領候補マケイン氏の経済顧問なのです。この法律
の廃止は次にくる「グラム・リーチ・ブライリー法」の成立への
布石であり、グラム・リーチ・ブライリー法はオバマ陣営のマケ
イン氏への攻めどころであったのです。オバマ氏は、この法律は
3億ドルをロビー活動に投じた金融機関の合併を容易にしただけ
であるとして、この法律の制定を批判しています。
 しかし、この法律の推進者は、クリントン政権で財務長官を務
めたロバート・ルービン氏やローレンズ・サマー氏であり、2人
ともオバマ陣営の経済顧問をしているので、どっちもどっちとい
うところなのです。
 結局、グラム・リーチ・ブライリー法の制定に対して体を張っ
て止めに動いた政治家はおらず、この法律の制定については米国
全体に責任があると考えてよいと思います。
 米国という国は、政治家も経済界も、いずれも水面下ではつな
がっているのです。したがって、ウォール街が勝手に暴走したわ
けでなく、米国人が求めたものを可能にするようなかたちで法律
ができたのです。       ――[大恐慌後の世界/07]


≪画像および関連情報≫
 ●「グラス・スティーガル法」について
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  1933年に成立した米国銀行法。大不況期の混乱へ対処
  するために制定された同法全体をさす場合と、同法のうち
  銀行・証券の分離規定だけをさす場合がある。1980年
  代以降、当局の行政命令によって分離は緩和された。また
  分離規定そのものも改廃する法案も連邦議会で何回も審議
  されてきたが、成立にはいたっていない。
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アーリックマン&ポールソン.jpg
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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