客を動員しているというニュースが入っています。6日(水)発
売の「ニューズウィーク」日本版の表紙は、この映画の主演俳優
であるベン・アフレックとケイト・べッキンセールの写真で大き
く飾られています。「ニューズウィーク」としてこの映画の特集
記事を組んでいるのですが、タイトルは次の通りです。
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『パール・ハーバー/「真珠湾」を娯楽にしたハリウッド』
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昨日のEJ631号で真珠湾攻撃のことを取り上げたので、今
朝もこの話題を続けたいと思います。
この映画の監督は、「アルマゲドン」の監督であるマイケル・
ベイ氏――大物監督による超大作なのですが、この映画は企画段
階から予算やキャスティングをめぐって大もめにもめて、やっと
完成したといういわく付きの作品なのです。
というのは、ウォルト・ディズニー社のマイケル・アイズナー
会長が予算を出し渋り、なかなかOKを出さなかったからです。
決定は、ウォルト・ディズニー社の戦略計画委員会にかけられ、
予算の額をめぐって何回も会議が行われたのです。
当初の予算は2億800万ドル、それがどんどん下げられ、遂
に1億4500万ドルになった時点で、キーマンであるディズニ
ー・スタジオのジョー・ロス会長がやめて新会社を設立するとい
う騒ぎになったのです。これに怒ったアイズナー会長は『パール
・ハーバー』の制作にストップをかけ、一時この映画は沈没寸前
というところまでいったのです。
しかし、何とか映画を完成させたいベイ監督をはじめ、制作の
ジェリー・ブラッカイマー、主演のベン・アフレックまでがギャ
ラの減額に同意して、総制作費1億3500万ドルに500万ド
ルまでは追加の余地ありという条件で決定されたのです。もし、
これをオーバーしたときは、ブラッカイマーとベイ監督が自腹を
切るという厳しい条件です。
現在映画は全米で公開中ですが、その出足はなかなか好調のよ
うです。すでに2週間で1億1930万ドルの興行収入を上げて
いるからです。赤字を免れるだけでも4億ドルの興行収入は必要
であるということですが、この調子ならクリアできるのではない
かと思われます。日本では7月14日に公開される予定です。
さて、この映画の制作に当って昨日のEJで述べたルーズベル
ト陰謀説も検討されたそうですが、結局は無視することに決まっ
たのです。この映画は基本的には娯楽映画であり、ラブ・ストー
リーになっているのですが、時代考証については、とくに正確に
行われているようなのです。
歴史家のドリス・カーンズ・グットウインは、「ルーズベルト
陰謀説などは『あり得ない』」と一蹴します。その理由として、
海軍を心から愛していたフランクリン・ルーズベルトが、350
0人もの兵員と大切な艦船を見殺しにするとは思えないというこ
とをあげています。
この点については確かに私もそう思いました。攻めてくるとい
う情報がわかっているのに、事前に何らの防御策も取らず、むざ
むざとサンドバックのようにやられるのを、いかに国益のためと
はいえ、人間として黙ってみていられるでしょうか。
しかし、疑問はたくさんあります。なぜなら、そのとき真珠湾
には、「アリゾナ」をはじめとする戦艦はいずれも第一次大戦当
時の年代物の戦艦ばかりであり、新鋭艦や空母など、そのあとの
戦争の展開に米軍にとって不可欠になる艦艇は、一隻もいなかっ
たのです。これはきわめて不自然なことです。
「ニューズウィーク」では、「あの日、私は真珠湾にいた」と
いう特集を組み、いろいろな人に取材しているのですが、その1
人であるジェームス・ワイヤー氏は次のように言っています。
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『連中(日本軍のこと)のやったことは絶対に許せなかった。
でも、ふと思った。アメリカ政府は事情を知っていたはずだ。
どうして5分前にでも、10分前にでも連絡してくれなかった
んだ?』。
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ワイヤー氏のようにごく普通の米国国民でも、米国政府が日本
のやっていることは、ほとんど把握して知っていると信じている
のですから、日本軍が真珠湾に来襲する情報だけ把握できなかっ
たとは思えないのです。
そこで、考えられることは、ルーズベルトが日本をなめ切って
いて、奇襲を受けても、あれほどひどい打撃を受けるとは予想し
ていなかったのではないでしょうか。ただし、新鋭艦や空母は、
一応湾の外に出して安全策をとったわけです。しかし、当時の日
本軍、とくに海軍は最強であり、それも十二分に訓練を重ねて組
織的に攻撃をかけてきたのです。ルーズベルトは、そのあたりが
見抜けなかったことはいえると思います。
もし、日米開戦という事態になった場合、日本軍が必ずハワイ
を攻撃してくるということは、軍事関係者であれば十分予測でき
たという別な事情もあります。というのは、日露戦争で日本がロ
シアに勝利したあと、「日米もし戦わば・・」という「日米未来
戦記」が日米で流行したことがあるのです。
その「日米未来戦記」の中で一番売れたのが、バイウォーター
という人の著作である『太平洋の軍事力』と『太平洋戦争』であ
るといわれます。もちろん日本語にも翻訳され、日本の作家や軍
事関係者たちに大きな影響を与えたといわれます。
この本に書かれていることは、実際に起こった日米戦争と驚く
ほど似ているのです。このことを私は『リメンバー』(ウィリア
ム・ホーナン著、徳間書店刊)によって知ったのですが、著者の
ホーナン氏は元ニューズウィークの記者です。この本は日米とも
に軍事関係者に多く読まれており、ルーズベルトが知らないとい
うことはあり得ないのです。
