機がいかに深刻であるかを示す出来事があったのです。それは、
米政府が陸軍の実働部隊を米国全土に駐留させ始めたことです。
日本人にとっては、自国の軍隊を自国に駐留させることが何で
問題なのかと思うでしょうが、これは米国にとって南北戦争以来
の出来事であり、次の法律で禁じられていることなのです。
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Posse Comitatus Act
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この法律は、軍(州兵以外の連邦政府軍)の実働部隊を米国本土
に配備することを禁ずるものです。それを今回「テロ対策」とい
う名目で、法律の例外事項にしたのです。しかし、それは表面上
の理由であり、本当の目的は国民による暴動を阻止するためだっ
たのです。
実は米国では、何度も暴動が起きているのです。1929年の
世界大恐慌時にも大きな暴動が起こっています。それより規模は
小さいですが、最近では2005年にハリケーン「カトリーナ」
がニューオーリンズ市を直撃したときにも起きています。
このときは、市内で略奪や暴動が起きていることが報道された
ので、ホワイトハウスは「有事」と認定し、州知事の権限を剥奪
して軍を派遣しているのです。そのさい、派遣された軍と貧民層
の市民が衝突して、多くの市民の怒りを買っています。
今回、全米に陸軍の実働部隊を配置したのは、もし、大恐慌に
よって暴動が起きるとすれば、それは全国規模に拡大すると米政
府が考えたからです。しかし、世界一の経済大国である米国が国
民の暴動を恐れて軍隊を配備する――事態はここまで深刻化して
いるのです。
100年に一度の経済危機といいますが、今回の危機には次の
2つの側面があることを知っておく必要があります。これは、金
融政策論の世界的権威であるアラン・ブラインダープリンストン
大学教授がいっていることです。ブラインダー教授は、元FRB
副議長の経験があります。
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1.金融的側面
2.経済的側面
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第1の側面は「金融的側面」です。
今回起こっている金融混乱は、今まで例をみないものであり、
したがって、これを解決する本当のノウハウが誰もわからない状
況にある――これが深刻な点なのです。そのため、FRBは堤防
のあちこちに穴があくたびにそれを塞ぐ方法を模索していろいろ
な方策を打ち出しているが、確信をもって政策を打ち出している
わけではない――このように金融的側面に対する対応策は依然と
して霧の中にあるとブラインダー教授はいうのです。
第2の側面は「経済的側面」です。
ここで「経済的」とは実体経済のことです。米国は、2007
年12月以来、深刻なリセッション(景気後退)に陥っているが
2008年9月までは弱々しい景気が持続していたものの、9月
以降急激な収縮が始ったとしています。
しかし、このリセッションに対応する処方は既にわかっている
ことであり、政府はまず金融緩和策を講じ、早急にやるべき対策
がとられています。続いて、オバマ政権によって減税、さらに財
政出動という手が適切に打たれることになる――ブラインダー教
授はこういっています。
ブラインダー教授は、バーナンキFRB議長のこれまでの仕事
ぶりについて、次のように評価しています。
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バーナンキFRB議長はよい仕事をしてきたと思う。ただ、関
係の薄かったポールソン財務長官と組むというハンディを負っ
てきた。TARP(7000億ドルの不良資産買い取り計画)
はうまくいっていない。バーナンキ議長は、まさに海図のない
水域を航海しているようなものだ。もちろん、彼は非常に積極
的かつ創造的に問題に対処していることは高く評価したい。彼
は外面的な冷静さを失わない。――アラン・ブラインダー教授
「週刊東洋経済」新春合併特大号より
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ブラインダー教授のいう今回の危機の「金融的」側面――金融
危機には次の3つのフェーズがあります。現在は、どのフェーズ
にあるのでしょうか。
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1.流動性の危機
2.資 本の危機
3.本格的な恐慌
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現在、米国は第1のフェーズにあります。危機はまだ入口なの
です。クレジット・クランチ(信用収縮)によって金融機関同士
が疑心暗鬼になっており、インターバンク市場が機能不全になっ
ているのです。金融機関は、いわゆる「カウンターパーティリス
ク」に陥っているのです。なお、カウンターパーティーリスクの
詳細については、既に説明しております。次のURLをクリック
してください。
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http://electronic-journal.seesaa.net/article/104763449.html
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「流動性の危機」に関しては、1997年秋の日本の金融危機
によく似ています。バーナンキ議長は、もちろん日本のケースに
ついてよく調べています。彼は恐慌の研究家なのです。
しかも、今回は米国だけでなく、世界中で金融危機が進行して
いるのです。したがって、本当の解決策は米国一国レベルでは解
決できないのです。 ――[大恐慌後の世界/03]
≪画像および関連情報≫
●アラン・ブラインダーについてのプログより/本石町日記
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アラン・ブラインダーが警告した「自分の尾を追う犬」とな
った中央銀行の対話の危険性は、基本的には中央銀行が市場
を尊重しすぎてその近視眼性を取り込んだ場合を指している
と思われる。日銀の場合、自ら予断を与え、予断を与えられ
た市場との間で「尾を追う犬」化しているように見受けられ
ることで、これは何というか、ブラインダーの想像を超えた
市場との対話の失敗であるような気がする。願わくば、解除
ができ、景気が良くなり、物価も上がり、預金金利がタンス
預金を引きつけるほど上昇するような利上げが実現して欲し
い(リスクマネーとして株や不動産、外貨などに流れてもO
K)。そうでないと、振り返ってみた場合に、要らぬ予断を
与えたに過ぎなくなるからだ。
http://hongokucho.exblog.jp/3657444
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アラン・ブラインダー教授