2008年12月26日

●「巨額のドル買い介入の真の目的」(EJ第2479号)

 「あまりにも脆い!」――日本企業で“最強”を誇るトヨタ自
動車が戦後初の営業赤字に転落するというニュースを聞いたとき
の率直な感想です。
 「円高が1円進むとトヨタ自動車の営業利益は年350億円減
少する」とよくいわれます。トヨタ自動車の2007年3月期の
営業利益は連結ベースで次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     トヨタの営業利益/2兆2386億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 2007年7月に比べると、2008年3月までには実に22
円の円高が進んでいるのです。そうすると、1円で350億円で
あるから、22円なら7700億円――2兆2386億円の営業
利益の34%減少したことになります。
 ところで、同じ時期のトヨタ自動車の株価はどうかというと、
7780円から5200円まで下落しています。その下落率33
%、奇しくも営業利益の減少と同じ率であることがわかります。
これによって、次のことがいえるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         為替レートが株価を決める
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルは、「2006年1月=1」として、為替レート
と株価の連動を見たものですが、株価上昇は明らかに為替レート
と相関していることがわかります。
 それは、欧米諸国がこの10月初めに緊急利下げを行い、日本
との金利差が縮小、もしくは逆転したことが原因です。当面イン
フレ懸念が遠のいているので、近い将来利下げはなく、今後円安
方向に動く可能性は少ないと考えられます。
 既に述べたように、日本の金利が海外に比べて低いことが原因
となって、投機が投機を生むような円キャリー取引が流行するこ
とになったのです。それは長期にわたって日本がゼロ金利と量的
緩和を続けたことにあります。
 これについては、日本の政策当局も認めており、日本銀行は、
2008年1月に発表した「金融市場レポート――2007年後
半の動き」において、次の趣旨のことを書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本と海外の短期金利差と円レートの変化率とのあいだには、
 07年前半には正の相関があった。これは、円キャリーが円安
 の原因になっていたことを示唆する。しかし、07年後半には
 相関がマイナスに転じた。これは、巻き戻しが生じたことを示
 す。このため、円が増価する一方で、ニュージーランド・ドル
 や豪ドルが減価した。11〜12月には、円とスイスフランが
 増価する一方で、豪ドル、英ポンド、加ドルが減価した。日本
 の個人投資家による投資信託を通じる対外証券投資は続いてい
 るが、増加率は大きく低下した。FX取引も8月以降半減し、
 円高に寄与した。            ――野口悠紀雄著
 『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この原稿を書いている12月23日の円相場は、対ドル89円
83銭〜86銭になっています。これをもって私たちは、異常な
「円高」が続いていると考えますが、もともと100円〜110
円というのは「円安バブル」であり、それがサブプライムショッ
クを契機に、それまで歪んでいた為替レートが正常な水準に戻り
つつあるプロセス――円安バブルのはじまりと考えるべきである
と野口悠紀雄氏はいうのです。
 少し歴史を振り返ってみましょう。1971年のニクソンショ
ック、さらに1985年のプラザ合意――それ以降何かというと
大きく円高に振れてきており、1990年代の後半までは、日本
人の投資家は円高に過敏に反応したのです。
 しかし、2000年代に入ると、円高に対してあまり騒がなく
なります。なぜかというと、円高になると、必ずといってよいほ
ど、当局が市場に介入して円安に戻すようになったからです。と
くに、2003年〜2004年にかけては、大量のドル買い介入
を行い、強引に円安を維持したのです。
 なかでも2003年1月〜3月は、実に17営業日にわたり介
入を続け、その総額は2兆4000億円のドルを買い上げている
のです。さらに、同年4月〜6月の介入額は、再び巨額のドル買
い介入を行い、その総額は1月〜3月の倍に当たる4兆6000
億円を超えたのです。この2003年4月は、大手銀行の破綻を
示唆した竹中発言によって、日経平均株価が8000円を下回っ
たあの時期に当たるのです。ちょうどそのとき、こういう異常な
ドル買い介入が行われていたのです。
 当時米国はITバブルの崩壊と、9.11 のテロ以降、デフレ
の兆しが出ており、海外からの資本の流入が激減している苦しい
時期だったのです。ところで、当局は2003年5月8日、円相
場が1ドル120円〜115円に向かうところで大量の介入をし
ているのですが、これにはわけがあるのです。
 この5月8日は、米財務省が四半期に一度ずつ実施している米
国債の定例入札の当日だったのです。これについて、榊原英資氏
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 入札の直後からドル安が進み、債券が投げ売りされるようなこ
 とになれば、米国の長期金利は急上昇しかねない。デフレを懸
 念するFRBが短期金利を低めに誘導しても、長期金利が上昇
 したのでは逆効果である。海外からの資本流入に頼る米国のア
 キレス腱はここにあった。その矛盾を埋めたのが日本による介
 入資金だったのだ。円売り・ドル買い介入の役目は円高の防止
 にだけあるのではない。介入の結果、積み上がった日本の外貨
 準備は、米政府証券の購入に充てられていたのである。
  ――榊原英資著、『強い円は日本の国益』/東洋経済新報社
――――――――――――――――[円高・内需拡大策/37]


≪画像および関連情報≫
 ●トヨタ自動車はなぜ営業赤字に転落したか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トヨタが初の営業赤字に転落した最大の要因は、金融危機に
  伴う世界市場の急激な冷え込みにある。欧米や日本のみなら
  ず、好調だった中国など新興国でも販売台数の伸びは減速に
  転じ「すべての国、地域で日を追って変わっていて底が見え
  ない」(渡辺社長)状態。「トヨタ・ショック」と呼ばれた
  11月6日の販売見通し下方修正から1カ月半で、昨年1年
  間の富士重工業の販売台数を上回る70万台が消えた計算に
  なる。
  http://mainichi.jp/select/biz/news/20081223ddm003020073000c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図の出典/「為替レートと株価の連動」
  野口悠紀雄著/『円安バブル崩壊/金融緩和策の大失敗』/
  ダイヤモンド社刊
為替レートと株価の連動.jpg
為替レートと株価の連動
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック