2008年12月25日

●「投資銀行消滅が米国民にもたらすもの」(EJ第2478号)

 夕刊「フジ」に「風雲永田町」というコラムがあります。政治
評論家鈴木棟一氏の人気コラムです。2008年12月23日付
(22日の夕刊)に「ゼロ金利、日米で正反対」というテーマの
コラムが掲載されたのです。内容が今回のテーマとも関係がある
ので、ご紹介することにします。
 今回の金融危機に対応して米FRBはゼロ金利政策をはじめま
したが、日本人の多くは、むかし日本がやったことをFRBでも
やっている――そういう反応です。しかし、これは日米で事情が
ぜんぜん違うというのです。
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 クレジット・カードの機能が全く違う。10万円の服を買った
 ら、日本では翌月か翌々月に口座から自動引き落としされる。
 しかし米国では自動引き落としが圧倒的にない。預金者が銀行
 を信用しないから自動引き落としを認めない。支払いは自分で
 確認して、自らの個人小切手を送る。
    ――12月23日付「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういうことです。クレジットカード会社の信用でも
のを買い、個人小切手で支払うという構図です。銀行では仕事さ
えもっていれば、クレジットカードを発行してくれるし、各種ロ
ーン――住宅ローンも含めて――も受けられるのです。
 米国では、高校生からほとんど例外なく全員が小切手帳を持っ
ているそうです。小切手で決済するのは米国における普通の決済
方法なのです。
 しかし、自動引き落としではなく、小切手で決済してもいいで
はないかと考えますが、買い物金額の全額を支払うのではなく、
ミニマムしか支払わないことが慣例化しているのです。
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 10万円の買い物なら支払いは5000円ぐらいでいい。これ
 が慣例化している。米国人は常にこの種の借金がある。(一部
 略)年収の3倍は借金がある感覚だ。それが米国の消費を支え
 てきた。      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうであるとすると、FRBがゼロ金利政策をとったことの意
味は日米で大きく異なってきます。問題は、ゼロ金利で誰がトク
をし、誰がソンをするかです。
 米国ではクレジットカードを持っている米国民が助かる――し
たがって、これは徳政令なのです。つまり、FRBは何とかして
米国民の消費マインドを冷やさないようにして国民の負担軽減を
狙ったのです。といっても無理であると思いますが・・・。
 しかし、日本の場合はどうでしょうか。
 日本には国民の金融資産が1500兆円もある貯金国家です。
したがって、ゼロ金利政策をやられると、預金金利はゼロに近く
なり、国民は多大の損失を受けるのです。一方でトクするのは銀
行であり、それは銀行に対する徳政令となるのです。これはまさ
に暴挙そのもの――そのように鈴木棟一氏はいうのです。
 もし、日本のような状況のもとでゼロ金利政策をやったら、米
国では間違いなく暴動が起こるでしょう。しかし、日本ではそう
いうことはまず起こらない。それはコトの本質がよくわかってい
ないからです。鈴木棟一氏はコラムの最後を次の言葉で結んでい
ます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    民主国家と大企業国家の差がはっきり見える
      ――「夕刊フジ」/「風雲永田町」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さて、巨額の経常赤字を出しながらも、消費を落とすことなく
やってこれたのは、実は米国が投資銀行王国であったからなので
す。しかし、2008年9月の時点で事実上、米国のすべての投
資銀行(5行)が消滅してしまっています。
 そうなると、それは米国へのマネーの流入を止め、家計は逼迫
し、米国民は今までのような生活をすることは困難になる可能性
があるのです。このように主張しているのは三菱UFJ証券チー
フエコノミストの水野和夫氏です。
 2007年6月までは、米投資銀行は、外国人(出資者)から
毎月910億ドルの資金を集め、そのうち月間経費として615
億ドルを――米経常赤字額に相当――消費していたのです。この
金額は、3億人の米国人が高い生活水準を享受するために、日本
をはじめとする諸外国から、自動車や石油などの購入額――輸出
控除後のネットの輸入額――これに相当するのが経常赤字という
ことになるのです。
 米投資銀行帝国(米国)は、外国人の出資額である910億ド
ルから経費である615億ドルを差し引いた295億ドルを対外
投資し、それから莫大な配当・利息収入をあげていたのです。
 この対外投資から受け取る配当・利息から対外支払利息・配当
を差し引いたものが「投資収益収支」です。1998年以後、対
外純債務の増大テンポが加速していったにもかかわらず、投資収
益収支の黒字幅は拡大したのです。
 1973年〜1998年までの投資収益収支は、年平均219
億ドルの黒字であったものが、それ以後急増し、2008年1月
〜6月(年率換算)では1211億ドルに達していたのです。つ
まり、対外負債コストの増加を相殺して余りある、対外投資から
得られる配当・利息の増大があったのです。
 1999年以降、米国の対外純債務が対GDP比で悪化してい
くなかで、投資収益収支を黒字にさせる機能を担ったのが、5つ
の投資銀行だったのです。しかし、米国にとってこの貴重な投資
銀行がサププライムショックによって破綻してしまったのです。
 投資銀行の破綻は、必然的に米家計に過剰債務の調整を迫るこ
とになります。外国から潤沢なマネーが流入してこなければ、月
間615億ドルもの経常赤字をを出すことなど、とても不可能で
あるからです。       ――[円高・内需拡大策/36]


≪画像および関連情報≫
 ●「経常収支」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国際,つまり国境を越える外から内への受取の流れと,内か
  ら外への支払いの流れの対照。国際収支を一定期間について
  記録したものが国際収支表である。商品とサービスの輸出入
  を経常取引といい,その経常勘定に記入する。経常収支は,
  貿易収支,貿易外収支,移動収支の3つから成る。資本の取
  引を資本取引といい,資本勘定に記録される。資本収支は短
  期資本収支と長期資本収支とに分れる。経常収支と資本収支
  の合計が総合収支で,この総合収支のギャップを均衡させる
  役割を果すものとして金融勘定がある。
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 ●図の出典/「週刊エコノミスト」2008.12.2日号

米投資収益収支と対外純資産の対GD比.jpg

posted by 平野 浩 at 04:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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