2008年12月17日

●「郵政完全民営化は日本に何をもたらすか」(EJ第2473号)

 米国は、日本の郵政民営化に対して何を期待して強い要求を出
してきたのでしょうか。
 そのひとつの答えがここにあります。添付ファイルを見てくだ
さい。これは米国の国債保有状況をあらわしたグラフです。20
06年3月末現在の数字です。
 2006年3月末の国債発行額は、8.4 兆ドル(約920兆
円)であって、このうち25%は外国人が所有しています。その
外国人所有の40%は日本が持っています。米国としては日本は
信頼できるものの、残りの60%――1.3 兆ドルが不安のもと
になっています。
 そこで、米国としては日本以外の60%を安定した投資家に所
有してもらいたいが、できれば日本の持ち分をもっと増やしても
らえれば安心である――そこで、郵政公社を民営化させ、その保
有資金の120兆円で米国の国債を買ってもらう。そうすれば、
米国の国債調達構造が安定化するという虫のいいことを考えたの
ではないかと思われるのです。
 現在、日本にとって心配なのは、日本郵政株式会社が所有して
いる国債、財投債、預託金の合計266兆円が今後どうなるかな
のです。これが日本に残るのか、海外に流出するのかによって、
日本の金融市場と金融システムへの影響は大きく変わってくるこ
とになります。
 既に述べたように、2017年までにゆうちょ銀行とかんぽ生
命の株は100%市場で売却されることになっています。そうす
れば、必然的に外資が入ってくることは防ぎようがないのです。
 もっとも良くないシナリオを考えた場合、日本は世界一の債権
国でありながら国内は資金不足になり、新規国債の発行もままな
らない事態になり兼ねないのです。国内資金が国内で投資されず
海外に流出してしまうからです。
 どうしてそのような事態が起きるのかについて、ひとつずつ考
えていきましょう。
 完全民営化のさいにかんぽ生命は、ほとんど外資に買収される
可能性が高いといえます。それでは、仮にかんぽ生命が外資に買
収されたら、いったい何が起こるのでしょうか。
 日本国債中心の運用をしているかんぽ生命の債券投資85兆円
は、金利が低いので、外資中心に投資される可能性が高くなりま
す。そうすると、国債の国内での書き換えができなくなり、国債
が消化できなくなるので、国際価格は暴落して長期金利が急騰し
ます。資金は「官から民へ」ではなく、「官から外へ」という大
変な事態になってしまうのです。
 ゆうちょ銀行でも同じことが起こります。ゆうちょ銀行の総資
産は248兆円もあり、負債である郵貯残高は200兆円です。
メガバンクの筆頭である三菱東京UFJ銀行の資金量は約100
兆円ですから、ゆうちょ銀行は2倍の資産と預貯金を持っている
ことになります。メガバンク3行全部の資金量245兆円とほぼ
同じ資金量を持つ巨大な銀行になるのです。
 このような巨大な資金量を誇るゆうちょ銀行にも外資が入って
きます。そうすると、当然保有資産は金利の高い海外の投資証券
に振り向けられ、日本国債の書き換えや新規引受けは減少するこ
とになります。そうすると、やはり国債の市場価格は下がり、長
期金利は上昇することになります。
 さらにこれほどの超メガバンクが登場すると、地域銀行が苦し
くなり、収益が減少します。それに完全民営化されると、外資も
入っていることでもあり、ゆうちょ銀行は住宅ローンや中小企業
貸し出しも積極的にやるようになるなど、資金量にものをいわせ
るダンピング的商法も行うはずです。それによって地域銀行の収
益は確実に圧迫されるのです。
 それに加えて、金融庁の過度な管理行政が行われれば、自己資
本比率規制、早期是正措置、ペイオフによってますます地域銀行
は萎縮し、姿を消していくことになると思われます。そうすると
銀行の数は少なくなり、預金はますますメガバンクへとシフトす
るのです。
 その結果、その資金の多くの部分は海外に出ていき、国内は資
金不足になってしまう恐れがあります。それに伴い、新規国債の
発行は制約され、短期金利も上昇することになります。これによ
り、世界一の債権国でありながら、国内では長期金利も短期金利
も上がり、たちの悪い不況――スタグフレーションが定着するこ
とになるのです。
 このような郵政民営化の進展が、これからの日本経済にどのよ
うな影響を与えてくるのかについて、既出の菊池英博氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2006年3月現在で「郵便貯金198兆円とその他」は、国
 債124兆円と預託金80兆円に運用されており、少なくとも
 この半分(100兆円)は外債に向かうであろう。また、「簡
 易保険」の「保険契約準備金116兆円」は、ほとんど海外に
 投資されるであろう。こうして約200兆円(郵政公社保有の
 資金合計350兆円の約60%)が国内から海外への投資に回
 されると推測されよう。現状のままで対策を講じなければ、こ
 うした現象は、今後10年間で必ず発生するであろう。もはや
 地方ばかりでなく、日本の金融市場全体に大きな激震が起こり
 金融システムが破壊されることは問違いない。金融市場には潜
 在的な不安定要素が広がり、ある時点で突発的に金融危機や金
 融恐慌に発展するであろう。この点は、今からはっきりと予言
 しておきたい。     ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、完全民営化後のゆうちょ銀行やかんぽ生命では、資本
の利益が最優先されて、日本の国益など二の次三の次にされてし
まうでしょう。このまま何の対策も講じなければ、日本の金融は
危機を迎えるでしょう。   ――[円高・内需拡大策/31]


≪画像および関連情報≫
 ●長期金利とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  長期金利とは、償還期間の長い債券や満期までの期間が長い
  金融資産や負債の金利。期間が1年未満が短期とされ、1年
  以上が長期とされることが多い。残存期間が10年に最も近
  い国債の金利が日本では代表的な長期金利である。長期金利
  は、長い償還期間という理由からいくつか特徴がある。
   1.     物価変動の予測に左右される
   2.住宅ローンなど、長期融資の金利の基準
                    ――ウィキペディア
 ●図表の出典
――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
  ―――――――――――――――――――――――――――

米国の国債保有者内訳.jpg
米国の国債保有者内訳
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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