2008年11月28日

●「意図的に積み上げられた不良債権」(EJ第2460号)

 昨日のEJで述べた「金融再生プログラム」の2つの骨子を再
現しておきます。
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 1.資産査定の厳格化によって、不良債権を加速処理させる
 2.米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上させる
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 資産査定の厳格化を実現するため、竹中大臣は、「DCF方式
の導入」を決断します。DCF方式とは何でしょうか。
 DCFとは、ディスカウント・キャッシュ・フローの略で、日
本語では「割引現在価値」と呼んでいます。DCF方式とは、融
資先の将来の収益を正確に推計し、それをもとに回収不能になる
リスクなどを差し引いて現在の債権価値を導き出す方式であり、
米国で主流の資産評価法になっています。そして、そのようにし
て算出した債権価値が債権元本の帳簿価格を下回るときは、その
下回る分を銀行に引当金として計上させるのです。
 このDCF方式は、1995年頃から銀行の資産査定の方法と
して使われはじめたのです。1995年というと、ニューヨーク
の株式市場で株価が上がり始め、物価が年率2〜3%で上昇し、
景気がはっきりと回復してきた頃に当たります。
 このように物価――物価の総合指数GDPデフレーターが上昇
していれば、数年先の収入は、仮に販売数量は一定でも10%〜
15%は増加するのです。DCF方式では、4〜5年先の収益を
予測して債権元本の帳簿価格と比較するので、景気が良く、物価
が上昇しているときは現在の債権価値は高くなります。
 したがって、DCF方式は景気の良いときは資産評価法として
よく機能するのです。しかし、竹中大臣はこれをデフレ、それも
長期デフレで物価が毎年2〜3%以上下がっている日本であえて
実施したのです。
 デフレの日本でDCF方式による資産査定を行うと、4〜5年
先は販売数量が不変でも5〜10%の減益になるのです。そうす
ると販売数量をデフレ率以上にアップしないと、収入は増えない
ことになります。したがって、回収不能額が増加し、不良債権は
どんどん増えることになるのです。
 続いて、竹中大臣は、「減損会計の導入」を実施したのです。
要するに不動産の時価会計です。企業が保有している不動産をそ
の時点の市場価格(時価)で売却したと想定し、購入したときの
帳簿上の価格より想定売却価格の方が低い場合、損失が発生する
のです。この損失を計上させるのが「減損会計」です。つまり、
減損会計というのは、不動産の含み損をを表面化させるための手
段であるといえます。
 仮に期間収益が1億円上がっている貸出企業があるとします。
ところが保有している不動産が値下がりしているので、減損会計
上は1億5000万円の評価損が出たとします。当時そういう企
業は多くあったのです。
 そうすると、金融庁の査定では、5000万円の赤字――すな
わち、不良債権と認定され、銀行はその貸出企業に貸倒引当金を
積まなければならないことになります。
 金融庁は、これらDCF方式と減損会計の両方を使って貸出企
業を不良債権化し、銀行への公的資金投入の状況づくり行ったの
です。そのターゲットにされたのは、債務の多い企業だったので
す。金融庁は「整理回収機構」――RCCを作り、債務の多い企
業への貸付金を不良債権としてRCCに買い取らせ、回収を行わ
せるという血も涙もない方法をとったのです。
 RCCに貸付金を買い取られてしまうと、貸付金をきちんと返
していても次の融資は出ないわけであり、それらの企業の多くは
破綻してしまったのです。こういうやり方はまさに「金融ファッ
ショ」以外のなにものでもないといえます。
 以上が「金融再生プログラム」の1「資産査定の厳格化によっ
て、不良債権を加速処理させる」についての説明です。竹中大臣
のいう「資産査定の厳格化」というのはこういうことをいってい
るのです。彼のやったことはわざわざ不良債権を増やすことだっ
たのです。そういう査定法の元祖である米国は、今回の金融危機
に際して時価会計方式を凍結しています。自分たちにとって都合
が悪くなるとやめたり、ルールを変更する――あまりにも身勝手
であると思いませんか。
 続いて、「米国並みに厳しい基準で自己資本を査定して計上さ
せる」について述べます。1については、銀行に資金を借りてい
る企業が対象だったのですが、2はそういう企業に資金を提供し
ている銀行の問題です。
 2のテーマに入る前に、その前提知識をおさらいしておく必要
があります。銀行には「自己資本比率規制」というものがありま
す。銀行には、海外に営業拠点を持つ銀行(国際基準行)と国内
だけに営業拠点を持つ銀行(国内基準行)があります。
 これら国際基準行と国内基準行には、次のように資産に対して
の自己資本比率の規制があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  国際基準行 ・・・ 資産に対して8%以上の自己資本
  国内基準行 ・・・ 資産に対して4%以上の自己資本
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 この国際基準行への規制は「BIS規制」といって、国際的に
(といっても米国が主導して)定められたものですが、国内基準
行への4%の規制は日本が決めた規制なのです。
 貸出債権の不良債権化が進むと、それに応じて貸倒引当金を積
まなければならないので、その分利益が減ることになります。も
し、大量の不良債権が出ると、決められている自己資本比率を守
れなくなり、公的資金が投入されないと、銀行は破綻に追い込ま
れることになります。
 竹中大臣の率いる金融庁は、そこに着眼し、銀行の自己資本の
毀損に狙いを定めたのです。彼らが何をやったのかについては、
来週お話しします。     ――[円高・内需拡大策/18]


≪画像および関連情報≫
 ●BIS規制とは何か
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  BIS規制とは、国際業務を行う銀行の自己資本比率に関す
  る国際統一基準のことで、バーゼル合意ともいいます。BI
  S規制では、G10諸国を対象に、自己資本比率の算出方法
  (融資などの信用リスクのみを対象とする)や最低基準(8
  %以上)などが定められました。自己資本比率8%を達成で
  きない銀行は、国際業務から事実上の撤退を余儀なくされま
  す。BIS規制は、国際間における金融システムの安定化や
  銀行間競争の不平等を是正することなどを目的として、19
  88(昭和63)年7月にバーゼル銀行監督委員会により発
  表され、1992(平成4)年12月末(日本では1993
  年3月末)から適用が開始されました。また、日本の金融機
  関が自己資本比率を計算する場合には、自己資本に有価証券
  の含み益の45%を参入することが認められました。
            http://www.findai.com/yogo/0024.htm
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菊池英博氏の本.jpg
菊池英博氏の本
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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