2008年11月25日

●「なぜ、柳澤大臣は解任されたのか」(EJ第2457号)

 『文藝春秋』の2008年12月号に「世界同時不況」という
特集が出ています。この特集では、未曾有の経済危機の核心につ
いて7人の経済のエキスパートが宮崎哲弥氏の司会で、討論を繰
り広げているのです。
 その中の「株安・円高地獄の脱出策」のテーマの討論で、竹森
俊平慶応義塾大学教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉・竹中改革は近ごろ評判悪いですが、2002年から金融
 担当大臣となった竹中さんが不良債権の処理を大胆に進めてい
 なかったら、今ごろ日本経済は目も当てられない惨状を呈して
 いたでしょう。不良債権がないことだけが今の日本経済の救い
 なのです。竹中さんは日本経済にとって恩人だと思いますよ。
  ――竹森俊平氏の発言/『文藝春秋』12月号/2008年
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かに不良債権の処理ということに関しては、もしあのとき処
理をしなかったら、日本経済はおかしくなっていたことは事実で
すが、それをもって竹中平蔵氏の功績と断するのはいささか疑問
があるのです。
 というのは、そういう不良債権がある計画性をもって意図的に
増加させられており、当時の竹中経財相がそれにかかわっていた
のではないか思われている情報があるのです。
 そのことを指摘している本を最初にご紹介しておきます。この
本は既にEJでご紹介しております。
―――――――――――――――――――――――――――――
                      菊池英博著
  『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠/このままでは
   日本の経済システムが崩壊する』/ダイヤモンド社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 菊池英博氏は、現在日本金融財政研究所所長の職にある国際金
融論のスペシャリストで、都市銀行(東京銀行)の勤務経験もあ
るのです。衆参両院の予算公聴会の公述人にもなったことがあり
ますが、政府の方針に反する意見が多いためか、テレビに出演す
ることはほとんどない識者のひとりです。菊池英博氏は、ずばり
次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2002年10月に始まった金融改革プログラムは理念も手法
 も根本的に誤りであり、意図的に大手銀行を潰し、金融システ
 ムを寡占化、硬直化、弱体化させてしまった。世界の金融史上
 に残る一大失政である。まさにこの間の出来事は「金融庁が偽
 装した経済恐慌」であり、ここでは「金融庁による偽装恐慌」
 と呼ぶことにする。   ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 この菊池英博氏の主張をベースとして以下、少し詳しくお伝え
します。日本経済が今後どの方向に進むべきかということと重要
な関連があるからです。
 2000年度の主要行の不良債権比率は5%まで下がっていた
のです。これは健全といわれる比率です。このことをまず、踏ま
えておく必要があります。しかし、当時の日本経済はデフレであ
り、不況だったのです。
 不良債権というのは、銀行などの金融機関において、貸付先企
業の経営悪化や倒産などの理由から、回収困難になる可能性が高
い貸付金のことです。
 しかし、2001年4月に小泉内閣が発足すると、デフレで不
況であるにも関わらず、緊縮デフレ政策を採ったので、そのため
2001年度の主要銀行の不良債権比率は8.4 %に上昇したの
です。政府として景気振興策を打っていれば、不良債権はこれほ
ど増えることはなかったのです。
 その時点の金融担当大臣は柳澤伯夫氏だったのです。IMFは
「公的資金を投入して不良債権を処理すべし」という要求を日本
政府に突き付けてきたので、金融庁としては、次のように不良債
権処理方針を発表しています。2001年8月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不良債権を7年間で半減する。当初3年間で残高増ゼロ、その
 後2007年度までに不良債権を半減させる。この間、不良債
 権の償却は大手行の収益に任せる。――柳澤伯夫金融担当大臣
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに柳澤大臣としては、「公的資金を投入する必要はなく
自然治癒に任せる」ことを表明したのです。柳澤氏は自らワシン
トンのIMFまで出かけていって説明し、IMFの対日勧告を撤
回せよと迫ったのです。
 2002年9月12日に小泉首相は国連総会に出席し、米ブッ
シュ米大統領と会談を行います。そして次の約束をするのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      不良債権処理を一段と加速させる
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは大変奇怪なことなのです。不良債権問題は日本の内政問
題です。それを外国の首脳との会談で約束するのはきわめて異例
なことであったからです。
 そのとき、日本の国内ではデフレではあったが、不良債権が金
融不安を引き起こしていたわけではなかったのです。そもそもそ
の時点で増加していた不良債権は、小泉政権が自らが緊縮財政を
行った結果であり、原因ははっきりとしていたのです。
 そうすると小泉首相は、自ら増加させた不良債権を米国へ行っ
て、処理を約束したことになるのです。これはきわめておかしな
話です。
 小泉首相はニューヨークから帰国すると、主要行への公的資金
投入は不要と主張する柳澤伯夫金融担当大臣を解任し、竹中平蔵
氏をその後任に任命するのです。まるで最初から予定していたよ
うです。          ――[円高・内需拡大策/15]


≪画像および関連情報≫
 ●不良債権処理法について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  不良債権の処理方法には、大きく分けて間接償却と最終処理
  の2つがある。間接償却とは、バランスシート上の処理をす
  ることで、貸倒引当金を引き当をすることである。そして、
  最終処理とは、直接償却や不良債権の売却などである。直接
  償却は、清算、会社更生法、民事再生法などの法的整理によ
  って不良債権を切り離すことや、債権放棄などの私的整理が
  ある。       ――オール・アバウト/マネー用語集
  ―――――――――――――――――――――――――――

柳澤伯夫元金融担当大臣.jpg
柳澤伯夫元金融担当大臣
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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