2008年11月12日

●「米国民は「変化」を求めている」(EJ第2449号)

 2008年11月4日――米大統領選で「CHANGE」を求
めた民主党候補のオバマ上院議員が、共和党のマケイン候補を大
差で破り、第44代米大統領に決定しました。これはひとつの米
国の終りであり、これによって世界経済は大きな時代の転換点を
迎えることになります。まさしく「CHANGE」です。
 今までひたすら円安を求め、輸出立国を目指してきた日本もま
た大きな転換点に立っているといえます。これまでのように日本
は米国の後ろについて行くという姿勢では駄目なのです。
 かつて「円安」は海外からは非難の対象だったのです。米国の
自動車業界は「日本の自動車が米国の自動車産業の雇用を奪って
いる」として、激しいジャパン・バッシングが巻き起こったもの
です。1985年の「プラザ合意」も自動車業界の圧力によって
行われたといわれているのです。
 プラザ合意は、「円安/ドル高」を「円高/ドル安」に誘導し
ようとするものであったといえます。このプラザ合意によって、
円高になり、日本は不況に苦しむことになります。
 しかし、その後20年にわたる円安誘導によって、2007年
にはいつの間にかプラザ合意直前のレベルの円安になっていたの
ですが、これに対する海外からの批判は一切なかったのです。こ
れには、次の2つの理由があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.日本はもはや製造業の輸出国として注目されていないこと
2.先進国の経済構造が製造業中心から脱却してしまっている
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は「日本はもはや製造業の輸出国として注目されて
いないこと」です。
 現在世界が製造業の輸出国として注目しているのは、日本では
なく、中国なのです。したがって、円安で日本の輸出が伸びても
世界にとってはもはや大した問題ではなくなっているのです。
 第2の理由は「先進国の経済構造が製造業中心から脱却してし
まっている」です。
 米国には自動車産業は残っていますが、もはや衰退産業になっ
ているのです。現在の米国はIT産業における若い、革新的な企
業の成長によって支えられているといってよいのです。
 そのIT産業もモノ作りの部門からソフトウェアの部門へ重点
が移っているのです。その象徴的な出来事が、IBMがPC事業
を中国企業レノボ――聯想に売却した出来事です。もはやハード
ウェアで勝負する時代ではなく、付加価値の高いソフトウェア部
門に重点が移っているのです。
 欧米主要国の経済全体に占める製造業の比率は日本では20%
程度ですが、米国、英国では半分の10%程度です。英国は製造
業が弱体化したのですが、金融業が成長して経済全体を活性化し
て、国を支えているのです。
 1970年代から80年代にかけて米国は、エレクトロニクス
自動車、半導体などが経済の牽引車になって輸出産業という形で
発展して行ったのです。しかし、そのときには既に次の時代の担
い手が育ちつつあったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1970年代の終わりから80年代にかけてアメリカの優秀な
 人材の養成校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)やス
 タンフォード大学の工学部、さらにスタンフォード大学やハー
 バード大学などのビジネススクール(経営学大学院)を卒業し
 た学生の就職先が大きく変化しました。彼らはソフトウェア、
 通信技術、バイオテクノロジーという3つの新しい業種にこぞ
 って就職しました。そして反対に自動車や鉄鋼といった既存の
 主要産業には人材か集まらないという現象が起きたのです。
    ――原 丈人著、『21世紀の国富論』より/平凡社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、企業家も先を読む資本家も上記3つの分野――ソ
フトウェア、 通信技術、バイオテクノロジー、すなわち、より
付加価値の高い分野に飛び込み、成果を上げていったのです。し
かし、2000年にそのITバブルも崩壊し、米国経済は大きな
壁にぶつかってしまいます。
 ネットバブルの崩壊後、2001年には全米売り上げ第7位の
エンロンが不正会計の発覚によって破綻し、さらに2002年に
は、米国の大手通信会社のワールドコムの粉飾決算が発覚し、米
国史上最大の経営破綻が起こります。
 このあたりから米国は少しずつおかしくなっていくのです。こ
の時点で既に米国では、出資した企業の株を株主が長期的に保持
し、その成長を見守るという前提が崩れ、株式市場の大部分は、
日々の投機によって動くようになっていったのです。株主の多く
は短期的に株価を吊り上げて高値で売り抜けるという一種のマネ
ーゲームと化していったのです。明らかに資本主義が暴走をはじ
めたといえます。
 株式市場は次世代を牽引する産業が何であるかを特定できない
まま、大幅な金融緩和を背景として、特殊な金融技術を駆使する
見せかけの繁栄を追い求めているようにみえます。そして、その
当然の帰結として、詐欺的手法同然のサブプライムローン問題が
起こり、住宅バブルが崩壊して現在の深刻な金融危機を発生させ
たのです。
 こういう状況において、米国民は新しい時代のリーダーとして
オバマ上院議員を次の大統領に選んだのです。米国の「変化」を
求めてオバマ上院議員を選んだのです。そういう意味において米
国民は、ブッシュ政権時代の小さい政府を前提とする「市場原理
主義=新自由主義」のチェンジを求めていると思われます。
 日本にも「変化」が求められています。問題は何をどう変える
べきかということです。小泉・竹中政権によって何が破壊され、
現状はどうなっているのかについて分析する必要があります。
 日本は現在、どういうポジションにあるのでしょうか。次回か
ら考えていきます。     ――[円高・内需拡大策/07]


≪画像および関連情報≫
 ●プラザ合意とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プラザ合意とは、1985年9月22日、NYのプラザホテ
  ルに集まった会合で決定した外国為替市場での協調介入を行
  うことの合意。アメリカの呼びかけで、当時の先進5ヵ国、
  (日・米・英・独・仏=G5)の大蔵大臣・財務長官と中央
  銀行総裁が参加。具体的には各国がドル安に向けて協調行動
  つまりドルに対して参加各国の通貨を一定の幅で切り上げる
  こと、その方法として参加各国が外国為替市場で協調介入を
  行うという内容。         ――政治・経済用語集
 http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007624.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

原丈人著『国富論』.jpg

posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック