2008年11月10日

●「巨額の外貨準備は円高拒否のサイン」(EJ第2447号)

 「上場企業今期26%減益」――2008年11月8日の日本
経済新聞のトップ記事の見出しです。
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 上場企業の業績が一段と悪化する。2009年3月期の連結経
 常利益は前期比26%減と、8月時点の予想(8.6 %減)に
 比べ減益幅が大幅に拡大する見通しだ。失速が目立つのは前期
 まで6期連続増益をけん引した製造業。世界的な景気減速や急
 激な円高で下期は減収になる可能性が出ており、企業収益は転
 機を迎えている。
     ――2008年11月8日付、「日本経済新聞」より
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 この記事を見ると、急速な「円高」が製造業を中心に企業業績
をむしばみ始めていることがわかります。このような記事を読む
と、「円高」という言葉に不吉なものを感じてしまいます。
 しかし、円高のどこが悪いのでしょうか。「円安」ならどうい
う点が良いのでしょうか。
 税の問題を無視して、例のビックマックの例でもう一度考えて
みましょう。
 非現実的な話ですが、東京で276円で購入したビックマック
をニューヨークに持って行って売るとします。ニューヨークでは
ビックマックは3.49 ドル、「1ドル=100円」のレートで
日本円に直すと349円――73円儲かることになります。
 もっともビックマックは食品であり、ニューヨークまで持って
行くと品質が劣化して実際には売れませんが、製造業の製品であ
れば、こういう取引はできることになります。
 仮に製品やサービスの価格の比率が日米で同じあるとして、自
動車はビックマック1万個分と決まっているとします。そうする
と、日本で276万円の車が米国では3万4900ドルになり、
「1ドル=100円」のレートで349万円、73万円の利益が
出ることになります。よい商売です。このようにして日本の自動
車産業の利益は増加し、それによって株価は上昇することになり
ます。サブプライムローン問題が起きるまで、トヨタ自動車をは
じめとする日本の自動車産業の収益が大きく向上したのは、こう
いう「円安」のメカニズムが働いたからです。
 このように輸出関連企業のトップは円高は困るので、政府のプ
ロジェクトなどに積極的に参加し、政府寄りのポジションを築こ
うとします。実際に政府は、今までは少しでも「円高」になると
巨額の資金を使って市場に介入し、円安に誘導をして、輸出関連
産業を守ってきたのです。
 しかし、円安になるということは、日本人が貧しくなることを
意味しているのです。1995年前後のことですが、円高のおか
げで、今までは大金持ちしか泊まれなかった海外の高級ホテルに
泊まることができたし、外国からの輸入品も安く買うことが可能
であったのです。つまり、それだけ豊かになったわけです。
 しかし、サブプライムローン問題が起きる前までは海外旅行を
するとホテル代や食事代を非常に高く感じていたのです。これは
円安であったからです。つまり、円安は日本国民を貧乏にし、逆
に円高は豊かにするのです。
 しかし、円安による貧しさというものは、日常生活では実感が
湧かないのです。これまでの日本のマクロ経済政策は、一貫して
円安方向にシフトしていたのですが、日本人はそれが正しい方向
だと思ってしまったのです。
 日本はこれまで10年以上にわたって円安を続けているのです
が、日本国民でそれを批判する人は少なかったのです。輸出関連
企業に限ってのことですが、円安による企業業績の拡大を歓迎し
て株価が上昇して、何となく安心していられるからです。実際に
2007年夏までは株価は高値を続けていたのです。
 そして、今回のように円高になって株価が下落すると、心配に
なる人が増えて、円安を望むようになります。円高・株安は人々
の不安要因になり、景気は一層冷え込むことになります。
 しかし、よく考えてみると、これは少しおかしな話なのです。
というのは、円安のコストは日本国民が払っているからです。そ
れでいて、国民はそれに気がついていないのです。国民の犠牲に
よって輸出関連企業が栄えているといってもよいからです。
 2000年は「1ユーロ=約89円」――これは最安値だった
のですが、昨年まではこれが2倍以上になっていたのです。そう
すると、ヨーロッパ旅行をすると、ホテルや食事代が非常に高い
し、国内でもヨーロッパのブランド品や自動車、ワインなどはと
ても高くなっています。ちなみに、11月8日現在は「1ユーロ
=124円67銭」となっています。
 ところで、EJ第2445号でも述べましたが、日本の外貨準
備高は、今年の7月時点で1兆ドルを超えています。約100兆
円ということになります。これはあまりにも巨額です。
 本来変動相場制の下では、外貨準備は不要なのです。なぜなら
国際収支の不均衡が発生すれば、為替レートが変化して調整をす
るからです。しかし、巨額の外貨準備を持つことは、為替レート
の自動調整機能を拒否していることになります。ちなみに米国の
外貨準備高は日本の10分の1以下程度です。
 したがって、巨額な外貨準備を持つということは、海外に向け
て次のメッセージを出していることになるのです。
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        日本政府は円高を望んでいない
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 このメッセージは、日本国内も含む全世界の投資家に対して、
円から外貨に転換して運用しても、為替差損をかぶる恐れはあり
ませんよという意味になるのです。これは、世界中に投機取引を
煽っていることと同じです。
 したがって、今回のサブプライムローン問題と日本の外貨準備
高は無関係ではないのです。円キャリー取引で、欧米の住宅バブ
ルに一役買っているのです。 ――[円高・内需拡大策/05]


≪画像および関連情報≫
 ●外貨準備高とは何か
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  金融当局は、対外債務の返済、輸入代金の決済のほか、自国
  通貨の為替レートの急変動を防ぎ、貿易等の国際取引を円滑
  にするために、外貨準備を行なう。完全な変動相場制の場合
  基本的には中央銀行が為替市場へ介入しないため、国際収支
  は0となり外貨準備は変動しない。しかし、急激な為替変動
  などに際して為替収入する場合には外貨準備が変動する。例
  えば、急速に円高が進展する場合に、それを緩和しようとし
  て円売りドル買い介入(円安介入)を行なうと、結果的にド
  ルの保有額が増え外貨準備が増大することになる。
                    ――ウィキペディア
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ビックマック.jpg
ビックマック
posted by 平野 浩 at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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