2008年10月29日

●「日本は住宅の世界最大の資源浪費国」(EJ第2440号)

 サブプライム問題が起こったことで、テレビで米国の銀行に差
し押さえられた住宅物件を見る機会が多くあります。それを見て
感ずるのは、いずれも日本の住宅と比べると、サブプライムロー
ンで入手した家にもかかわらず立派な家であるということです。
広い庭があり、プールまである住宅もあるのです。床面積は広く
リビングも大きく、ゆったりとってある家が多いのです。
 米国をはじめとする他の国では、住宅は「半永久的に保つ」と
いう前提に立っているのです。欧米では住宅は何年経っても、建
物の価格はあまり下がらないのです。これに対して、日本は車と
同様に大幅に価値が下落するのです。つまり、日本では住宅は車
と同じ耐久消費財なのです。
 これに対して欧米の住宅は、耐久消費財ではなく、資本財とし
てとらえられているのです。米国では住宅は資本財というか貯蓄
の代替物なのです。したがって、人々は家を入手するとそれに付
加価値を付け、評価を高めようと努力するのです。
 屋根を修復し、外壁を塗り直し、設備を近代化するなど庭づく
りには時間をかける――こうして住宅にお金をかけるのです。も
ちろん、こうした投資は統計上は「消費」に計上されますが、そ
れに見合う十分なリターンがあるからです。その十分なリターン
とは、売る時に評価が上がることです。日本の場合はこういうよ
うにはならないのです。
 リチャード・クー氏は、同じように焼け野原から出発した日本
とドイツとを比較して、60年が経過した現在、日本人よりもド
イツの人たちの方が立派な住宅に住んでいると指摘しています。
日本は毎年「富」を捨てていますが、ドイツでは富に富を積み上
げてきた結果であるというのです。日本に関して、クー氏は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近の日本の住宅建設費は毎年だいたい20兆円である。そう
 して建てられたマンションを売ろうとした時、上物の評価がゼ
 ロ(タダ)になるのに何年かかるかを算出してみると、約15
 年である。話を簡単にするために、ストレート・ラインでタダ
 になると考えれば、新しくできた家は1年目に15分の1の価
 値がなくなることになる。同時に、2年前につくられた家もそ
 の1年で当初の建築費の15分の1の価値を喪失する。3年前
 につくられたのも同様である。つまりトータルで見ると、1年
 に失われる「富」は、ちょうど1年分の建設費という計算にな
 る。言い換えれば、日本では1年で20兆円の富が煙のごとく
 消えているのである。ドイツが毎年20兆円を積み上げている
 のに、日本は毎年20兆円をドブに捨てていれば、60年もし
 たら両者の差は1200兆円にもなる。この差が両者の町並み
 の差であり、実質的な生活水準の差になるのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 毎年20兆円――これは日本のGDPの4%に当たるのです。
こんなことをしていて国民が豊かになれずはずはない――クー氏
はこのようにいっているのです。日本という国が富の上に富を積
み上げるような政策をとってこなかったことに原因があります。
 この日本と欧米諸国との差をみると、日本の住宅政策がいかに
いびつであるかがよくわかります。添付ファイルは、日米英仏の
中古住宅市場をあらわしています。
 棒グラフの上のパーセンテージは、中古住宅のシェアをあらわ
しています。これをみると、日本の住宅市場がほぼ完全に新築の
みの市場である(中古住宅率13.1 %)のに対し、米国、英国
フランスはそのほとんどが中古市場であることがわかります。米
国にいたっては、77.6 %が中古住宅なのです。これは過去に
建設された住宅がきちんと補修され、付加価値が付けられた資本
財になっていることの証明です。
 それでもバブルが崩壊する以前では、地価が上昇していたので
住宅価格は大きく減価しなかったのです。住宅地の実質価格――
インフレ調整後の価格は、高度成長期は6大都市で年率11%で
上昇していたのです。
 当然名目価格は年率16.3 %も上がっていたので、住宅価格
というよりも土地価格として資産は形成されていたのです。それ
に日本は住宅を耐久消費財に入れているので、減価償却は27年
になっています。つまり、30年に一回は建て替えるという考え
方であるので、最初から30年程度しか保たない住宅になってい
るわけです。
 しかし、バブル崩壊後は土地価格が下落し、それが15年も続
いたのです。そのため、建物の減価分を地価の上昇で補うことが
できなくなり、住宅を保有している家計は大打撃を被ったことに
なります。
 もうひとつ気になる統計があります。米国では過去20年、人
口が年間250〜300万人増えているのに対し、住宅着工は、
150万戸前後なのです。これに対して日本では、人口増加幅が
減り続けて、ここ数年はゼロになったのに対し、住宅着工は年間
100万〜150万戸あるのです。これに対し、クー氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人口が全然増えていないのに毎年100万戸近い住宅が建てら
 れ売られているということは、ほぼ同数の住宅が壊されている
 か放棄されているからである。こんなことをやっていて日本が
 欧米やアジアのようにリッチになることは永久にあり得ないだ
 ろう。日本は世界一の省エネ国家かもしれないが、こと住宅資
 産という観点では世界最大の資源浪費国とも言えるのである。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
         ――[サブプライム不況と日本経済/52]


≪画像および関連情報≫
 ●住宅に関わる税制改正
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  国交省が創設を要望している新税制の一つ目は、「住宅の長
  寿命化(200年住宅)促進税制」というものです。欧米に
  比べて短命と言われる日本の住宅を長持ちさせるため、国が
  定めた耐久性や維持管理の基準に適合する住宅を認定し、登
  録免許税や不動産取得税、固定資産税を軽減しようという内
  容になっています。
  http://allabout.co.jp/house/mansionbeginner/closeup/CU20070831A/
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●図表/リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サ
  ブプライム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店
  刊より

世界の中古住宅市場.jpg

posted by 平野 浩 at 04:19| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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