2008年10月17日

●「なぜ財政政策を嫌うのか」(EJ第2432号)

 2008年度補正予算案が10月16日の参院本会議で、与党
や民主党の賛成多数で成立しました。しかし、これは福田政権の
ときに作った補正予算案であり、あくまで「国の財政再建を阻害
しない範囲で」という条件付きの予算案なのです。
 そのため、公明党が主張する定額減税の額などは依然として決
まっていない状況です。現時点でも財源が明確になっていないか
らです。どこかから埋蔵金を探してきて、あくまで単年度で実施
する考え方のようです。そのようなことで、とうてい現下の景気
を回復させる力はないといえます。
 そのため追加補正予算案を組む必要性に迫られていますが、異
常なほど財政政策を嫌う政治情勢では、思い切った景気対策を打
つことは困難な状況といえます。
 とにかく現在の日本においては、国会議員をはじめ経済学者、
評論家、新聞記者、そして国民も800兆円の累積財政赤字を理
由として財政政策を目の敵として排斥しようとします.麻生首相
はリチャード・クー氏の意見を聞くほどですから、場合によって
は赤字国債を出してでもと考えているはずですが、反対が強くて
それをいい出せない状況です。
 10月15日発行の夕刊「フジ」に取材記者・町田徹氏による
「深彫り経済リポート」では、次の一文を載せています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 麻生首相も危うい発言を繰り返している。「政局より、経済回
 復、景気対策だ」との発言がそれで、政府・自民党は、道路料
 金の割引や定額減税を柱にした追加経済対策の策定に躍起だ。
 だが、恐慌の震源地が欧米であることを考えれば、そもそも効
 果が薄い財政に拘る愚かさがわかるはず。世界経済フォーラム
 の「2008年版世界競争力報告」で、日本の順位はまた1つ
 後退、9位に転落した。原因は、「政府債務の水準」が134
 カ国・地域中129位と最下位クラスの評価であることだ。実
 効のない財政出動で、政府債務をこれ以上膨らますことは絶対
 に許されない。      ――「深彫り経済リポート」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事の中でも「効果が薄い財政に拘る愚かさ」と財政政策
をこきおろしていますが、それならばどうすればよいのかと聞い
てみたい気持ちがします。
 小泉政権の時代に竹中平蔵氏の腹心といわれ、最近では「上げ
潮派」の理論的支柱になっている高橋洋一氏の新著には、この問
題に関する興味深い主張が出ているので、何回か取り上げてみた
いと思います。
 高橋洋一氏は、新著の冒頭で、「経済回復の特効薬は公共投資
だ」といまどき本気で信じている経済音痴の国会議員が多いのに
はいまさらのように驚いた――このように切り捨て、次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策と財政政策はマクロ経済政策の二本柱だといわれてい
 る。景気対策という言葉が示すように、日本では景気刺激には
 財政政策が効果的だと信じられていて重きが置かれるが、世界
 の主要国では逆だ。財政政策よりも金融政策を重視する考え方
 が主流になっているのである。金融政策は発動すればすぐに効
 果が現れる。それに対して、金融政策のラグに加えて、財政出
 動までには国会の決議などの手続きがあり、実施に移すまでに
 さらなるタイムラグがある。こうした「遅きに失する恐れがあ
 る」といったよくいわれる理由だけでなく、本質的に財政政策
 は景気対策という点では、いまやほとんど意味を失っている。
       ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋氏のこの主張の中でとくに違和感があるのは、「金融政策
は発動すればすぐに効果が現れる」という点です。高橋氏は、景
気対策に財政政策が効いたのは、はるか昔の固定相場制の時代で
あり、変動相場制のもとでは財政出動は景気浮揚に効果がないと
いっているのです。そして、高橋氏は次のように続けます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 変動相場制のもとでは、景気回復には金融政策のほうがはるか
 に効果がある。金融政策では金利を下げて需要を増やす。金利
 が下がると企業の設備投資が活発になる一方で、円安が進み、
 輸出増になる。この相乗効果によって景気が良くなるのだ。
       ――高橋洋一著、『日本は財政危機ではない!』
                         講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋氏は「金利が下がると企業の設備投資が活発になる」とい
うが、日本はとっくの昔に金利を下げていて、金融緩和も目いっ
ぱいやっているのです。まさに金融政策をやっているわけです。
しかし、企業の設備投資は一向に活発にならないのです。高橋氏
はこのあたりをどう考えているのでしょうか。
 高橋氏は経済学のテキストに書いてあることをそのままいって
いるのですが、それでは現状の説明にはならないのです。そのあ
たりのことをリチャード・クー氏は「バランスシート不況」と呼
び、金利が下がっても企業がお金を借りず、設備投資を活発化さ
せないことを説明しています。クー氏の説明なら、素人にも理解
ができますし、納得性があるのです。
 学者というのは自説にこだわるものです。高橋氏は「バランス
シート不況」をどのように考えるのでしょうか。認めると自説が
覆るので、無視しているのでしょうか。少なくとも彼の本を読む
限り、そのようなものは一顧だにしないという態度です。
 金融政策はバランスシート不況のもとでは効かない――このよ
うにクー氏はいっています。日本の金利は長くほとんどゼロであ
り、現在でも0.5 %です。この金利をゼロにしたとしても企業
設備投資は活発にならないと思います。それでも金融政策を打て
というのでしょうか。―[サブプライム不況と日本経済/44]


≪画像および関連情報≫
 ●日本経済は下振れリスク、景気回復は先ずれ/白川総裁
  ―――――――――――――――――――――――――――
  市場の一部には、相変わらず協調利下げ観測がくすぶってい
  る。これに対し、白川総裁は「金融政策については、効果・
  波及のタイムラグを考えながら、各国の経済・物価情勢に照
  らして、それぞれが有効と判断すると金融政策を実行してい
  くことが適当であるということが各国中央銀行の共通した理
  解だ」と強調。さらに「金融政策の協調という場合、各国の
  経済・物価の状況からすると本来は望ましくないことを協調
  して行うというのが「協調」という言葉のニュアンスだと思
  うが、そういう意味での協調は望ましくない」とも付け加え
  市場の見方をけん制した。
  ―――――――――――――――――――――――――――

高橋洋一氏の本.jpg

posted by 平野 浩 at 04:16| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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