2008年10月06日

●「過去にもあった石油ドル表示危機」(EJ第2424号)

 実はかつてアラブ産油国は一度石油のドル表示をやめようとし
たことがあるのです。1978年〜79年のカーター政権のとき
の話です。第2次オイルショックがあったときです。
 当時の米国国内は2桁のインフレでドルは急落し、貿易収支は
赤字だったのです。そしてアラブ産油国は米国が支持するイスラ
エルと戦争をしていたのです。アラブ産油国にとって「敵の味方
は敵」というわけで米国は敵であり、なぜ敵である米国の通貨で
石油を売らなければならないのか、もう石油のドル表示はやめよ
うではないか――こういう疑問がアラブ産油国の間で噴き出した
のです。
 ところがこのときユーロがまだなかったので、SDR建てにし
ようとしたのです。SDRというのは、IMF加盟国の特別資金
引出権のことです。SDRについては、前回のEJのテーマ「金
の戦争」で取り上げているので、次のURLを参照していただき
たいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
http://electronic-journal.seesaa.net/archives/20080704-1.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 この情報を入手した米国はパニックに陥ったのです。石油のド
ル表示が廃止されると、ドルの基軸通貨としての価値は激減し、
それはドル暴落に発展する可能性があったからです。
 ドルを防衛しないと大変なことになる――FRBは政策金利を
一挙に22%まで引き上げたのです。これによってインフレは抑
え込まれ、ドル安にも歯止めがかかったのです。しかし、その大
変な後遺症として、米国内の建築業界は壊滅的打撃を受けること
になったのです。
 当時S&L――貯蓄貸付組合という金融機関が全米で6000
行もあったのですが、FRBが金利を22%に上げたことによっ
て一夜にしてそのほとんどが潰れてしまったのです。当時のS&
Lは短期の預金を集め、長期固定金利の住宅ローンを貸し出す業
務を専門にやっていたのです。
 そのときのS&Lの金利は30年固定金利で10%強でしか回
らないのに、FRBの金利は22%になってしまったのですから
とんでもない逆ざやが生じ、たちまちS&Lは債務超過に陥って
しまったのです。
 このとき米国は、建設業界とS&Lをすべて潰してもいいから
石油のドル表示を守るという国としての強い意志を示したので、
アラブ産油国は石油のSDR表示案を取り下げたのです。
 当然このとき米当局はS&L救済処理として、RTC――整理
信託公社を創設したのですが、これについてリチャード・クー氏
の前著から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 S&L危機について言えば、数々のS&Lの破綻に直面した米
 国当局は、1989年、整理信託公社(RTC)という公的金
 融機関を設立して、破綻したS&Lの資産を一気に売却処理す
 るという手法を採った。連邦政府は貯蓄貸付組合のために、連
 邦貯蓄貸付保険公社(FSLIC)という預金保険機構を作っ
 てあったのだが、あまりにも多くのS&Lが破綻してしまった
 結果、この預金保険機構まで破綻してしまったのである。そこ
 でどうしようもなくなって連邦政府が作ったのが、RTCとい
 う機関だった。    ――リチャード・クー著/楡井浩一訳
   『デフレとバランスシート不況の経済学』より/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の米金融危機を受けて米金融安定化法に盛り込もうとし、
最後までもめにもめたのがこのRTC構想なのです。このRTC
によって、今回の危機の引き金となった住宅ローンを中心に銀行
から不良債権の買い取らせる――こういう構想なのです。それで
も何とかまとまったのは、金融安定化法審議の最中に、S&Lの
大手であるワシントン・ミューチャルが破綻してしまったからで
あるといわれています。
 しかし、決定が長引いた分、さまざまな条件が付加され、ハー
ドルが高くなって、使い勝手の良くないものになったのは確かで
あり、その実効性が懸念されるところです。
 1970年代の米国の貿易赤字は現在と比べると、微々たるも
のであり、しかもユーロという強力なライバルもいないのです。
現在はそのときの30倍の貿易赤字を抱えて、しかもドルに代替
できるユーロが存在しているのです。
 このようなときにもし石油のドル表示が廃止されたら、国家の
存亡にかかわる危機であるといえます。しかも、今回の米金融危
機によってドルも大幅に下落しているのです。
 そうであるのに、バーナンキFRB議長は「ドル表示はシンボ
リックなもの」と呑気に構えているのは、理解に苦しむ発言であ
るといえます。実際にバーナンキFRB議長が今年の2月にそう
答えたとき、為替市場は反応し、ドルは急落しているのです。
 このところブッシュ大統領は2回にわたって、サウジを訪問し
ていますが、これは明らかにこの問題に関係があると考えられる
のです。クー氏のその解決策について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この間題にも解決法がないわけではない。一つの方法は、サウ
 ジ・アラビアがドル・ペッグは維持しつつ自国通貨のリアルを
 切り上げるという方法である。例えば、サウジ・リアルを15
 %上げても、ドル・ペッグは維持するのである。こうすれば、
 サウジ・アラビアがすぐにドルを放棄するわけではないから、
 石油のドル表示は維持できるかもしれない。もちろん、そうは
 ならないかもしれないが、最低限、アメリカはサウジ・アラビ
 アに対してこの方法を依頼すべきだろう。
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
         ――[サブプライム不況と日本経済/36]


≪画像および関連情報≫
 ●IBタイムズ/ブッシュ大統領中東歴訪
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  ブッシュ大統領とサウジアラビアアブドラ国王は5月16日
  にサウジアラビアで会談を行い、アブドラ国王に対し、エネ
  ルギー価格の高騰が米国含むサウジアラビア原油消費大国各
  国を苦しめていることに配慮を示すように話し、「原油価格
  高騰の影響に配慮すべきだ。エネルギー価格高騰が米国のよ
  うな世界各国で代替燃料開発促進の動きを高めている」と述
  べた。
  http://jp.ibtimes.com/article/biznews/080517/19687.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

中東を歴訪する米大統領.jpg
中東を歴訪する米大統領
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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