2008年10月01日

●「FRBの資金供給とドル危機」(EJ第2421号)

 米経済および金融システム危機を回避するため、FRBはなり
ふり構わず大量の資金を供給し続けています。FRBが構築した
セーフティーネットの対象は、銀行と米政府証券公認ディーラー
――プライマリーディーラーに限られていたのですが、それを証
券会社や保険会社にまで拡大せざるを得なくなったのです。AI
Gへの最大850憶ドルの資金支援は、そのあらわれであるとい
えます。
 AIGへの貸出条件は、政府は24ヵ月もの長い貸出期間を与
え、AIG株の79.9 %を受け取り、これによって株主への配
当支払いを拒否する権利を握ったのです。その一方で貸出金利は
市中銀行間の金利に対して8.5 %を上乗せした高い水準に設定
しています。AIGが資産を売却することによって、少しでも早
い返済を期待した設定であると思われます。
 そもそもFRBはどのくらい資金を持っているのでしょうか。
そんなに貸し込んでも大丈夫なのでしょうか。FRBのバランス
シートについて、新生証券シニアアナリストである松本康宏氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 従来のFRBのバランスシートにおける貸出金は、総資産の5
 %程度しか占めておらず、約9割が国債だった。しかし、サブ
 プライムローン問題による金融機関の損失が表面化し始めた昨
 年夏ごろから、FRBの貸出金は増加し始め、昨年末から増加
 ペースが速まり、3月のベア・スターンズ破綻時点から急増し
 ている。5月末現在で、FRBの総資産は8947億ドル−約
 93兆円であり、貸出金はその32%にあたる2882憶ドル
 まで急増している。
   ――「週刊エコノミスト」/2008年9月30日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは5月末の数字であり、そのあとAIGに緊急融資をして
いるので、5月末時点と総資産が変わらないとすると、貸出金は
総資産の50%近くを占める計算になります。このように、FR
Bの抱えるリスクは相当高いものであり、それはそのままドル危
機に結びついてくるのです。
 リチャード・クー氏は、2008年と2009年の2年間は、
世界経済にとって大変な試練の年になるといっています。現在ド
ルは下がっており、バーナンキFRB議長もドル安を指向してい
るし、IMFもドル安の重要性を表明しています。
 確かに米国は、巨額の貿易赤字――2006年には8170億
ドルを抱えており、こういう状況下ではドルを下げる必要がある
のです。しかし、ドルは基軸通貨なのです。世界のドル安に対す
る不信、警戒感は過去最高にまで高まっているといわれます。つ
まり、ドルを下げながら、今まで果たしてきている基軸通貨とし
ての役割が一気に崩壊しないようにしなければならないのです。
 米国の大統領は、米国にとって巨大な貿易赤字が重要な課題で
あることは認識しながらも、一期目はあえて手をつけず、二期目
になってはじめて手をつけるのが習性になっています。
 もし、一期目に貿易収支の改善に取り組み、もし、ドルが暴落
するようなことになったら、再選が困難になるからです。米国の
場合、大統領の三選はないことになっているので、困難なことは
二期目にやろうとするのです。
 現ブッシュ政権も、再選を果たした2週間後の2004年11
月19日に早くもグリーンスパン前FRB議長はトークダウンを
始めています。トークダウンというのは、ドルの為替レートが下
がるように誘導する発言をすることです。通常それに呼応してホ
ワイトハウスからも財務省からもドル誘導発言が加わると、ドル
は急速に下がってくるのです。
 しかし、2005年2月になって石油価格が上昇をはじめたの
です。今までは、石油価格が上がっても先物市場を見ると、先に
行くほど下がるという傾向がはっきりしていたので問題はなかっ
たのですが、このときは、石油価格の最期先物の価格も上昇して
いたのです。
 石油価格が上昇しているときにドル安が進むと、そこから大き
なインフレ圧力が出てきて、米国経済を正常に保てなくなる恐れ
があったのです。そこで、ブッシュ政権はトークダウンを止めた
のです。そうすると、ドルは再び上昇したのです。
 貿易赤字をそのままにしておけないブッシュ政権は、2回目の
ドル安にチャレンジしたのです。2006年4月末のことです。
今度は、FRB議長がトークダウンをするのではなく、IMFと
G7を使ってドル安誘導をやったのです。
 最初にIMFが「グローバル・インバランサス問題」の解消を
強く打ち出したのです。グローバル・インバランサス問題という
のは、世界的な貿易収支の不均衡のことです。これを解消するた
めにIMFは、貿易黒字国には内需をもっと増やすことを求め、
貿易赤字国に対しては内需を減らすことに加えてドルの大幅な引
き下げが必要であることを主張したのです。これを「内需のリ・
バランシング」といいます。
 IMFは、通常では為替レートに影響を与える発言はしないも
のですが、このときばかりは明確に「各国の通貨はドルに対して
大幅に上昇すべきである」とまでいっているのです。
 2006年4月末から5月にかけて行われたG7でもグローバ
ル・インバランサス問題の解消を打ち出しています。G7の声明
文というのは通常一枚ものなのですが、このときは2枚になって
おり、2枚目はすべて貿易不均衡についての懸念を表明する文書
になっていたのです。
 このようにしてIMFとG7のメッセージによって、2006
年5月からドルが全面安になったのです。しかし、それと同時に
株価が下り始め、米国はもちろんのこと、日本、インドも、世界
的に株価が急落したのです。これを見た米金融当局はあわててド
ル安政策を引っ込めてしまいます。結局このときも失敗に終わっ
たのです。    ――[サブプライム不況と日本経済/33]


≪画像および関連情報≫
 ●貿易収支の赤字・黒字について/情報経済研究所ブログ
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  貿易収支は、国際収支を構成する一項目です。簡単にいうと
  一年間に一国から輸出されるモノの合計価格が輸入されるモ
  ノの合計価格を上回っていると貿易黒字と呼び、反対なら、
  貿易赤字と呼びます。国際収支は、大きく分けて、経常収支
  資本収支、外貨準備増減、誤差脱漏になります。これらの項
  目を合算すると必ず0になります。これは簿記上のルールと
  一緒です。経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支
  経常移転収支によって構成されます。
          http://yaplog.jp/infoecono/archive/39
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●表/FRBのバランスシート
  ―「週刊エコノミスト」/2008年9月30日号より

FRBのバランスシート.jpg
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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