2008年09月26日

●「救済されたベアとされなかったリーマン」(EJ第2418号)

 ニューヨーク大学にノリエル・ルービニという教授がいます。
このルービニ教授は、3年前から米国の住宅バブル崩壊を予言し
ていたのですが、予言は的中し、ルービニ教授の指摘通りになっ
ています。ルービニ教授は、この7月に、ブルームバーグTVの
インタビューで次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米投資銀行4社――ゴールドマン、モルスタ(モルガン・スタ
 ンレー)、メリル、リーマン)は破綻するか、もしくは伝統的
 な商業銀行によって買収されるだろう。
          ――「週刊エコノミスト」/9月30日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 その根拠として、ルービニ教授は投資銀行の「資金調達におけ
る脆弱性」を指摘しています。商業銀行と投資銀行とはどのよう
に違うのでしょうか。
 商業銀行と投資銀行の一番大きな違いは、商業銀行には預金業
務があるのに対して、投資銀行にはそれがないという点にありま
す。銀行にとって預金は、低コストで得られる貴重な資金であり
それだけでも銀行には安定感があります。
 これに対して投資銀行は、株式や社債、銀行からの借り入れな
ど、通常の企業と同じ手段で資金調達を行っているのです。その
中で、短期金融の手段としてよく使われるのが「レポ取引」とい
われるものです。
 「レポ取引」というのは、買い戻し条件付き売却契約のことで
証券を担保として使う融資の一種です。短期資金が必要になった
投資銀行は、保有している証券を銀行などに売却し、将来の一定
の日――たとえば一ヶ月後に一定価格で買い戻すのです。そのさ
いの価格は売却価格よりも高く設定され、その差額分が利息にな
るのです。
 日本ではこの取引のために証券として国債が使われますが、米
国では株式や資産担保証券(ABS)、住宅ローン担保証券(R
MBS)などが使われるのです。
 このレポ取引――担保になる証券の価格が安定しているときは
いいのですが、サブプライム問題で価格が下落すると、追加担保
を求められたり、売却契約そのものが成立できなかったりして、
投資銀行は一挙に資金不足に陥ってしまうのです。ベア・スター
ンズとリーマン・ブラザーズの破綻の原因のひとつがこのレポ取
引の不成立だったのです。
 9月22日のロイター通信によると、米ゴールドマン・サック
スとモルガン・スタンレーは、銀行持ち株会社に移行することに
なったと報じています。これは投資銀行から銀行になることを意
味しています。これによる大きな変化は、両社の監督権限が今ま
での証券監視委員会から連邦準備理事会(FRB)に移り、自己
資本規制比率に縛られるようになることです。
 この動きは、ハイ・レバレッジ(てこの原理)を使って借入金
を膨らませて高収益を上げてきた投資銀行のビジネスモデルの終
焉を意味しています。
 ここで解けない謎がひとつあります。それは、米政府が業界第
5位のベア・スターンズは事実上救ったのに、業界第4位のリー
マン・ブラザーズをなぜ見殺しにしたのかということです。
 ベア・スターンズは破綻し、JPモルガン・チェースに買収さ
せるかたちをとっていますが、政府はニューヨーク連銀を通して
必要な資金供与をしているのです。国有化はしていませんが、事
実上救済しているのです。
 しかし、なぜ、リーマンは救済しなかったのでしょうか。
 大きな理由としては、次の2つがあげられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.ベイルアウトを容認する政治意思がなくなったこと
  2.システミックリスクの懸念は少ないという当局判断
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の理由は、政府としてモラルハザードをこれ以上醸成した
くないという政治意思を示したことです。
 3月のベア・スターンズの救済に続き、9月のファニーメイと
フレディ・マック、さらにAIGへの救済措置と短い期間に4つ
の救済を重ねており、政府としてモラルハザードをこれ以上醸成
したくないと考えたのです。ノー・ベイルアウト(救済しない)
という政府の意思です。まして、大統領選挙の年であり、あまり
納税者の税金を使うことは不利と考えたものと思われます。
 第2の理由は、リーマンの場合、ベア・スターンズに比べて、
CDS取引が多いないという判断があったことです。
 CDS――クレジット・デフォルト・スワップといって、企業
に融資したが、企業が倒産して貸し付けたお金を返してもらえな
いリスクを対象とするデリバティブ――一種の保証業務と考える
とわかりやすいと思います。
 このデリバティブの取引関係は複雑であり、ベア・スターンズ
の場合、CDSにはとくに力を入れていたのです。したがって、
もし、ベア・スターンズを破綻させると、複雑な連鎖破綻が起こ
り、システミックリスクが起きかねないという懸念があったもの
と思われます。これに対してリーマンは、ベア・スターンズほど
CDSは多くないと当局は判断していたのです。
 また、ベア・スターンズの破綻は突然であったのに対して、リ
ーマンの場合はその半年後のことであり、市場がリーマンの経営
難を織り込んでいたと当局は考えたのです。
 そのほか、リーマンが救済されなかったのは、最初に買収先と
して名前の上がったのが、バークレイズ(英国)であって外銀で
あったことも政府が資金を供与しにくくしたといえます。
 また、リーマンのCEOが途方もない報酬を手にしており、そ
の商売のやり方が強引であるところから、そういう企業を救済す
ることへの納税者の反発も考慮したのではないかともいわれてい
ます。いずれにせよ、リーマンは救済されにくい状況にあったこ
とは確かです。  ――[サブプライム不況と日本経済/30]


≪画像および関連情報≫
 ●レポ取引について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  レポ取引とは、債券の貸借取引のことで、当事者の一方が他
  方に債券を貸出し、見返りに担保金を受入れ、一定期間経過
  後にこの債券の変換を受けて担保金を返却する取引のこと。
  リパーチェス取引とも呼ばれる。債券の借り手は、債券に対
  する貸借料を支払う。この差額(担保金金利−債券貸借料)
  がレポ−レートと呼ばれる。日本でレポ市場という場合、現
  金担保付債券貸借市場のことを言う。借り手はトレーディン
  グ決済に必要な債券を調達すること、貸し手は債券の品貸料
  担保金の運用益の獲得を目的として取引が行われる。
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベア・スターンズ.jpg
ベア・スターンズ
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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