サブプライム問題を本当に理解するには、証券化と格付けとい
う金融技術を避けて通ることはできません。しかし、この証券化
と格付け――なかなか難解なのですが、今日からできるだけわか
りやすく解説していくことにします。
銀行を中心として考えましょう。住宅ローンを銀行が販売し、
それをそのまま持ち続けるのではなく、証券会社に売ってしまう
というビジネス手法です。これなら、銀行はローンを販売しても
すぐに資金を回収できるわけです。
しかし、住宅ローンを販売するときはそれを証券化する必要が
あります。証券会社は証券化するための原材料に当たる多数の住
宅ローンを買い集めます。そのうえで住宅ローンをファンド化し
て、証券に加工するのです。
このようにして加工された証券は、資産担保証券――ABSの
ひとつであるMBS(モーゲージ・パックト・セキュリティ)に
組成されるのです。
しかし、MBSの原材料はほとんどがサブプライム住宅ローン
であり、リスクの高い証券なのです。それがどうしてどうして投
資家に売れるのでしょうか。
とくに証券化商品の購入者は、金利ものに投資する債権投資家
という、株式投資家に比べると、はるかに臆病で慎重な投資家な
のです。そのためには、「これは安全である」というお墨付きが
どうしても必要だったのです。その結果、登場したのが、モノラ
イン保険会社と格付け機関なのです。
モノライン保険会社のモノラインの「モノ」は「単一」を意味
し、複数(マルチ)の種類の保険を扱うマルチライン(フルライ
ン)保険会社と対比されて使用される言葉です。モノライン保険
会社は、証券化商品の支払いが滞ったとき、債務者に代わって、
元利払いを保証する保険会社なのです。
こうしたモノライン保険会社の保証の有無を含めて検討して、
総合的にその証券の支払いの確実性を判定するのが、格付け機関
なのです。証券会社として格付け機関に期待している評価は「ト
リプルA」なのです。「トリプルA」は、最高に確実であり安全
である」というお墨付きなのです。重要なことは、証券化商品の
ビジネスモデルは、この「トリプルA」を前提とするビジネスモ
デルなのです。
問題は、モノライン保険会社はMBSに対してどうして保証を
与えたのでしょうか。格付け機関は、モノライン保険会社の支払
い保証を前提として、「トリプルA」を出したのですから、モノ
ライン保険会社の判断が重要になります。
モノライン保険会社が支払いを保証する判断をするに至ったの
は、証券化における「優先劣後構造」なのです。優先劣後構造と
は一体何でしょうか。
倉橋透・小林正宏共著の『サブプライム問題の正しい考え方』
(中公新書/1941)に基づいて「優先劣後構造」について説
明することにします。
サブプライムローンであってもすべてが焦げ付くわけではない
のです。住宅ローンが100憶ドルあったとして、過去の実績か
ら2億円ぐらいが焦げ付く確率があるとします。この損失が最大
で20憶ドルまで拡大する可能性が0.1 %あったとします。
100憶ドルの住宅ローンのうち、80憶ドルに対してAAA
の格付けの証券として発行が可能になります。この部分を「シニ
ア」というのです。
残る20憶ドルの部分ですが、このうち実際に焦げ付く可能性
が高いのは2億ドルだけです。そうすると、残りの18憶ドルは
50〜99.9 %で元本は償還される可能性が高いのです。そこ
で、この部分を「メザニン」と呼ぶのです。これは「中2階」と
いう意味です。
最後の2億ドルは、最もリスクが高いクラスなので、当然ハイ
リスク・ハイリターンを求めることになります。こういうところ
に投資する投資家もいるのです。この部分を「エクイティ」と呼
ぶのです。
倉橋透・小林正宏共著の前掲書には、証券化のプロセスを次の
ようにわかりやすい説明を加えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
川の水を飲み水に変えていくプロセスを証券化になぞらえると
浄水場が証券化の機関となる。ここで一定に沈殿やフィルター
を通すことにより、飲料用として適した上水(優先部分)とそ
うでない下水(劣後部分)に分け、さらに下水を同様の浄化過
程により水道水(ストパーシニア)、工業用水(メザニソ)、
下水(エクイティー)に分解して再利用するのがCDOだと言
えば、かなり具体的なイメージがわくと思うが、いかがであろ
う。再利用した水道水もきちんと処理されていれば飲料用とし
て問題ないだろう。しかし、サブプライムローンで問題になっ
たのは、その浄化プロセスがサブプライムの属性に適して修正
されていたのか、ということである。
――倉橋透・小林正宏著
『サブプライム問題の正しい考え方』/中公新書/1941
―――――――――――――――――――――――――――――
説明のなかにあるCDOというのは、MBSをさらに証券化し
たものをいうのです。売れ残ったシニアやメザニンを集めて、再
度リパッケージして、優先劣後構造に組み替えたものをいうので
すが、CDOについては別の機会に再度説明します。
上記をまとめると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.シニア ・・・ 優先部分 ・・・ 水道水
2.メザニン ・・・ 中間部分 ・・・ 工業水
3.エクイティ ・・・ 劣後部分 ・・・ 下 水
―――――――――――――――――――――――――――――
優先劣後構造は、証券化を理解するうえで重要部分ですので、
明日再度取り上げます。[サブプライム不況と日本経済/11]
≪画像および関連情報≫
●「優先劣後構造」についてのプログ
―――――――――――――――――――――――――――
“優先劣後構造”とは、証券化の仕組みの中で、対象資産か
らの回収(返済)順位を優先部分と劣後部分に切り分け、優
先部分はリスクが低いので低い利回りを設定し、劣後部分は
リスクが高いので高い利回りを設定することです。リスク回
避を重視する投資家は優先部分に、リターンを重視する投資
家は劣後部分に投資することとなります。
http://blogs.yahoo.co.jp/cmbsjapan/37156011.html
―――――――――――――――――――――――――――
●民間の証券化/倉橋透・小林正宏著
『サブプライム問題の正しい考え方』/中公新書/1941
2008年08月28日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック
保険会社 倒産
Excerpt: 任意保険会社からの損害賠償額計算書ですが、これが妥当でしょうか?相手(車)、私(....任意保険会社からの損害賠償額計算書ですが、これが妥当で...
Weblog: 保険★【最新】★情報局*♪*★*
Tracked: 2008-08-28 07:38
野村證券 グローバルハウスの火種 2/2〜証券化は魔法のつえ
Excerpt: この本は、どの話も中身が無いので極めて抜粋が難しいのだが、何も書かないと分からないと思うので、 P83〜85 ガイ・ハンズ、94年11月、プリンシパル・ファイナンス・グループ(PFG)設立の責任者とし..
Weblog: 投資一族のブログ
Tracked: 2015-08-04 21:10