2001年05月30日

『2001年宇宙の旅』/「火の鳥」との関連(EJ626号)

 今朝も「2001年宇宙の旅」の話です。
 宇宙船ディスカバリー号には、HAL9000というスーパー
コンピュータが搭載されています。HALは、人間的な会話、視
覚、判断などをし、誤りは冒さない超人工知能的コンピュータで
あり、宇宙船やミッション全体を完全に制御しています。
 HALは、次の“ロボット3原則”というものを守らされてい
るのです。“ロボット3原則”とは、SF作家アシモフがロボッ
トなどの作品で提唱しているものです。
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 第1原則:人間を傷つけてはいけない。または、傷つくのを見
逃してはならない。
 第2原則:上記の第1原則に反しない限り、人間の命令には従
うこと。
 第3原則:第1原則と第2原則に反しない限り、自分の身を守
ること。
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 さらにHALは地球を出るとき、ひとつの指令を与えられてい
るのです。それは「月面で発見されることになるモノリスについ
ては乗員に知らせてはならない」という内容です。これはロボッ
トの3原則と矛盾し、それが原因でHALは発狂してしまうこと
になります。
 少し横道にそれますが、ロボットというと、私が子供のとき読
んだある漫画を思い出します。手塚治虫原作の「メトロポリス
という作品です。これは、ミッチイという名のロボットの物話で
あり、内容は非常に感動的です。「鉄腕アトム」より前のロボッ
トを主人公にした名作です。最近この「メトロポリス」が映画と
して再現されるという話です。
 手塚治虫の作品といえば、「2001年宇宙の旅」の、とくに
その後半の展開が、「火の鳥/宇宙編」と酷似しているのです。
火の鳥/宇宙編」は、疾空するロケットの中での不可解な殺人
事件、宇宙漂流、不思議な惑星への漂着、そして永遠の処罰など
あまりにもよく似ているのです。「2001年宇宙の旅」の公開
は1968年、「火の鳥/宇宙編」が描かれたのは1969年で
すから、手塚の方が影響されたということも考えられます。
 「火の鳥/宇宙編」は、生命を蔑ろにするという許されざる罪
を犯した男が、罰として火の鳥に永遠の命を与えられ、流刑星に
閉じ込められてしまうのです。考えてみると、永遠の命が与えら
れるということは、もっとも厳しい刑罰といえます。
 「2001年宇宙の旅」を「火の鳥/宇宙編」をベースに解釈
すると、ボウマン艦長は宇宙船ディスカバリーの中で2つの殺人
を犯し、生命を蔑ろにしたということで神はそれを許さず、最後
はロココ調の監獄に収監して、永遠の命を与えられます。
 ボウマン艦長はどんどん歳をとって老衰で亡くなる瞬間、胎児
として生まれ変わり、そしてどんどん歳をとる――これを永遠に
繰り返すのです。
 ところで、宇宙船の中での2つの殺人事件とは何でしょうか。
それは、副艦長のフランク・プールの殺害とそれから突然狂い出
して人間に対して攻撃的になったHAL9000の殺害です。ロ
ボットの殺害というのはおかしいですが、HALは人間的感情も
あり、人間そのものなのです。
 この殺人事件の黒幕がボウマン艦長であるかどうかは、ぜひこ
の映画をもう一度見て、ディブ・ボウマン艦長、副艦長フランク
・プール、それにHAL9000の3者の会話をよく聞いていた
だくと興味深いことがわかります。
 しかし、昨日のEJで書いたようなぜんぜん別のとらえ方もあ
るのです。この映画の真の意図は映画を見る観客自身があれこれ
考えるところに楽しさがあるのです。
 ロココ調の部屋に現れたモノリスは、サイバースペース型のコ
ンピュータであり、最も優秀な人間とされたボウマン艦長の生体
情報を吸収し、それを何回も再生させることができるのです。で
すから、ボウマンが胎児からこれ以上はないというほど朽ち果て
た老人になって消滅すると、モノリスがボウマンの生体データを
再生して胎児を生み出すというわけです。
 それから、この映画の音楽のことにも触れておく必要があると
思います。この映画の中で流れる音楽は、2曲のクラシック曲で
す。1つは、リヒャルト・シュトラウスの「ツァストストラはか
く語りき」であり、もうひとつはヨハン・シュトラウスの「美し
き青きドナウ」です。なぜか両方とも“シュトラウス”であるこ
とも面白いですね。まさか偶然の一致というわけではないと思い
ます。キューブリックのことですから・・・。
 「ツァストストラはかく語りき」は、映画の冒頭に類人猿が骨
を武器として持つシーンで流れます。この曲は同名のニィーチェ
の著書に基づいて作曲されているのですが、この書というのが、
相対論について書かれているのです。
 これに対して「美しき青きドナウ」は、宇宙船ディスカバリー
が宇宙を漂うシーンで流れます。「ツァストストラ・・」の動と
「美しき青き・・」の静――これは二元論ですね。キューブリッ
クという監督はこの二元論を手法としてよく使うのです。
 そろそろ紙面が終わりに近づいてきたので繰り返します。この
映画を見ていない人はもちろんのこと、見た人についても、6月
10日(日)の午後7時20分からNHK衛星第二放送を録画し
ていただきたいと思います。その上でぜひ、アーサー・クラーク
の同名の小説を読むべきです。それは大変興味深いです。これは
考える映画なのです。
 音楽でひとつ付け加えておきます。映画の中でモノリスが登場
するたびに流れるテーマらしい曲は、ハンガリーの作曲家、ジェ
ルジ・リゲティの「レクイエム」だそうです。そういう意味では
モノリスは“死”をイメージしているのです。
 DVDがごく身近な存在になって映画が復活しそうです。また
60歳以上の人は映画が安く見られるので大いに見るべきです。

626号.jpg
 『2001年宇宙の旅』講義
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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