2008年08月18日

●「なぜ、住宅バブルは発生したか」(EJ第2391号)

 原油の高騰の影響を受けて諸物価が上昇し、経済がどんどん減
速しているのに、今まで「仕方がない」として経済に対して何も
手を打ってこなかった福田政権が総合経済対策づくりに着手しよ
うとしています。
 それは、4〜6月期のGDPが年率換算で2.4 %減に落ち込
むことがはっきりしたからです。今まで財政再建重視、バラマキ
批判を繰り返し強調してきた自公与党幹部としては、このGDP
のマイナス成長を待っていた感があります。前言撤回の良い口実
になるからです。
 しかし、総理から指示されて自公与党幹部から打ち出された補
正予算の規模は「1兆円超」規模であるというのです。何をやる
にしても遅くて、みみっちい――というのが正直な感想です。
 これと対照的なのがグリーンスパン前FRB議長の経済対策の
素早い対応と打ち出しの大胆さです。実はサブプライム問題の発
端はITバブルの崩壊にあるのですが、そのさいのグリーンスパ
ン議長(当時)の鮮やかな采配ぶりをご紹介することにします。
 2000年の終わり頃のことです。ITバブルが崩壊し、欧米
はもちろん、日本でもIT関連株が大幅に下がったのです。米国
ではナスダック市場が4分の1にまで急落したのです。
 当時のFRB議長は、このまま放置すると米国経済は1990
年の日本のバブル崩壊と同じ現象が起きると考えたのです。とい
うのはこの時点で借金までしてIT企業に投資していた米国の企
業はあまりにも多かったからです。
 リチャード・クー理論によると、バブルの崩壊に直面すると、
IT企業に投資していた企業は、キャッシュフローを設備投資な
どに回さず、バランスシート修復に振り向けるといいます。経営
の軸足を本来あるべき利益の最大化から債務の最小化に移してし
まうからです。
 グリーンスパン議長は、米国の総需要は、家計が貯蓄した分と
企業の借金返済分を合わせた金額だけ減少すると考えて、直ちに
次の経済対策を打ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.金利を一挙に下げる
        2.減税を実施したこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、金利を下げたのです。それも半端ではない下げ方をした
のです。当時6.5 %あった金利を一挙に1%に下げたのです。
1%の金利は1957年以来なので、43年ぶりのことです。
 米国の民間銀行は預金残高に応じて米国の中央銀行に当たるF
RBに準備預金を行うのです。この準備預金のことを「フェデラ
ル・ファンド(FF)」と呼び、その資金を短期市場で調達する
際の金利を「FF金利」というのです。日本のコール市場金利に
該当します。これはFRB議長の判断で手が打てるのです。
 時の米大統領は現ブッシュ大統領でしたが、ブッシュ大統領は
就任早々減税を打ち出していたのです。ところがその時点で、グ
リーンスパンFRB議長は減税による財政赤字の拡大は好ましく
ないとして反対を表明していたのです。
 しかし、事態の深刻さを把握したグリーンスパンFRB議長は
ブッシュ大統領に会いに行き、「減税をすべきである」と進言し
たのです。今ここで財政出動をしないと、米経済はバブル崩壊後
の日本のようになると懸念したからです。
 このため、グリーンスパンFRB議長は当時減税に反対してい
た多くの議員から「変節漢」とか「裏切り者」というレッテルを
貼られることになるのです。
 FRB議長から進言を受けたブッシュ大統領は、早速減税を実
行したのです。これが原因で米国の財政赤字はGDPの3.6 %
まで膨れ上がったのです。
 減税前は2.4 %の黒字であったものが減税後は3.6 %の赤
字になったのです。したがって、この財政出動はGDPの6%分
に当たる大きなものであったのです。
 事情が違うとはいえ、今回自公政権が打ち出した補正予算の規
模はたったの1兆円なのです。GDP500兆円に対して0.2
%でしかない。原油高や原材料高で20兆円を超える富が海外に
流出しているのです。経済評論家の山崎元氏は、1兆円という規
模について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済対策の目安はGDPの1%ですから、少なくとも5兆円は
 必要。50兆円ともいわれる埋蔵金を使えば簡単な話です。
       ――2008.8.15/「日刊ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 グリーンスパンFRB議長のとった処置によって米経済はバブ
ル崩壊後の日本経済のようにはならなかったのですが、その代わ
り住宅バブルを引き起こしたのです。
 グリーンスパンがFF金利を下げたとき、住宅価格の上昇率は
年率5%で推移していたのです。そこへ6.5 %のFF金利が一
気に1%まで下がったのです。住宅部門は経済の中で最も金利感
応度が高い分野であり、すぐ反応したのです。
 金利の急低下によって、人々の借りられる住宅ローンの金額が
急増したことにより、これらの人々が住宅購入に殺到して住宅価
格を高騰させたのです。利下げ後の住宅価格は前年比10%、あ
るいはそれ以上の勢いで上昇していったのです。
 住宅価格が上昇すれば住宅市場にお金が集まってきます。これ
によって住宅建設業者は、住宅建設数をどんどん上昇させていっ
たのです。住宅着工数は2006年まで急速に上昇していき、そ
のあとバブル崩壊をもたらすのです。
 グリーンスパンは住宅バブルが発生することはわかっていたの
です。ITバブルが崩壊したので、しばらくの間それを住宅バブ
ルに置き換えて、企業がITバブルによるバランスシート修復を
終えるまでの間、それによってGDPを支える――こういう考え
方だったのです。 ――[サブプライム不況と日本経済/03]


≪画像および関連情報≫
 ●FF金利(政策金利)について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  通常、景気が減速し資金需要がない時には、資金量が豊富な
  のでFF金利は下がり、逆に景気が上昇し資金需要が出てく
  ると、資金が足りなくなりFF金利は上がる傾向にある。連
  邦準備銀行の連邦準備制度理事会(FRB)では、FF金利
  の目標を誘導することで金融市場における資金の需給調節を
  行う。
   http://allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007504.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●米国の住宅着工数
  リチャード・クー著/『日本経済を襲う二つの波/サブプラ
  イム危機とグローバリゼーションの行方』/徳間書店刊より

米国の住宅着工数.jpg
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | サブプライム不況と日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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