2008年07月31日

●「なぜIMFは金を放出したか」(EJ第2379号)

 各中央銀行は、1980年代後半から1999年にかけて――
とくに1998年から1999年の2年間に一般市場で大量に金
を放出しているのです。本当にこの2年間にはいろいろなことが
起こっているのです。
 1999年3月16日のことです。クリントン大統領(当時)
は、IMFが保有する金を売却するという提案をしています。こ
れにフランスのシラク大統領(当時)も賛意を表明しています。
開発途上国の経済を支援するというのがその目的です。
 これに対して、財務長官のロバート・ルービンは、次のように
コメントしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 IMFが債務救済プログラムへ資金を提供するため、500万
 から1000万オンスの金を売却することになっても、市場が
 混乱することはないだろう。     ――ルービン財務長官
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は目的の「開発途上国の経済を支援する」というのが問題な
のです。開発途上国のほとんどが産金国であるからです。つまり
IMFによって金が大量に売却されると金価格は下落し、そうす
れば南アフリカ、ガーナ、マリ、ペルーなどの経済はさらに低迷
してしまうと思われるからです。
 例えば、そのなかのガーナについていうと、ガーナは多重債務
貧困国のひとつであり、その総輸出額の40%は金が占めている
のです。債務救済計画への資金提供を目的としたIMFの金の売
却によって金価格は下落し、ガーナの経済力は低下してしまうの
です。これでは何のための資金提供か意味をなさないのです。明
らかに何か別の目的があると考えられます。
 このことは米連邦議会でも取り上げられ、クリントン政権のこ
の提案は誤っているとして、上下両院合同経済委員会のジム・サ
クストン下院議員は、次のように発言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 IMFによる新たな金売却は市場による価格形成を歪め、官僚
 国際公務員、そしてウォール街の金持ちといった一部の特権者
 に納税者の富が移転するのを助長するだけである。
                ―ジム・サクストン下院議員
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、このIMFによる金放出の目的は何でしょうか。こ
の謎を解明するには、1980年代のレーガン政権時代に戻る必
要があります。
 レーガン大統領という人は、無能で経済の知識は皆無であった
ので、ヴォルカーFRB議長は自分の思うように次々と金利を引
き上げたのです。これはインフレを退治するためのFRB議長と
して当然の処置であったのですが、これが株と金の先物市場に大
きな痛手を与えたのです。ヴォルカーの金利の引き上げによって
金相場のデリバティブが不安定になったのです。
 このレーガン政権のときから、金価格の上昇を狙うロンドンと
チューリッヒのデル・バンコ一族――国際通貨マフィアと、それ
に抵抗するウォール街のディーラーとの間で、壮絶な金の戦争が
開始されたのです。そして、その結果、ウォール街のディーラー
は敗れたのです。
 この戦争によって、米国の象徴ともいうべき、チェース・マン
ハッタンとJPモルガンは深刻な痛手を被ったのです。これによ
り、チェース・マンハッタン銀行の経営者であるデイヴィット・
ロックフェラーは、米国の象徴ともいわれた「ロックフェラー・
センター」を三菱地所に売却せざるを得なかったほど、追い詰め
られたのです。
 御代田雅敬氏は、当時のチェース・マンハッタン銀行について
次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 86年にはムーディーズの格付けがそれまでAa3であったの
 が低下の一途をたどり、90年にはBa3まで低下したことに
 如実に表れているように、80年代中盤以降の収益が悪化して
 いた。ホールセール(法人営業)ではJPモルガンに後塵を拝
 し、リテールではシティコープほどのスケール・メリットがな
 い。いわば中途半端であるとの辛い評価が多く見られた。国際
 的な銀行としてラ米(ラテン・アメリカ)にも積極的であった
 チェースは、他のマネーセンターバンク同様、ラ米債権の焦げ
 付きで苦しみ、そして不動産融資の不良債権化を見てリストラ
 を決断したのである。          ――御代田雅敬著
           『米銀の復活』/日本経済新聞出版社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 JPモルガンはどうだったのでしょうか。
 JPモルガンは銀行ですが、証券業務に進出するという行動を
とったのです。そして、この銀行は金利変動リスクに対処する高
度な技術をマスターしているのです。
 それまでは長期債を発行し、大企業の生産力維持に寄与してき
たのですが、やがてその大企業に対して、スワップ・オプション
などのデリバティブ商品を売り込んだのです。これによって、G
Mもフォードもクライスラーも、車を造ることよりもデリバティ
ブの世界にのめり込んでいったのです。
 銀行というものは、金利の安い資金を調達し、これを企業に高
い金利で貸してそのローンの利ざやから利益を得るのです。しか
し、JPモルガンはトレーディングやデリバティブによって利益
を得ようとしたのです。
 そして、JPモルガンは金の戦争に巻き込まれます。既に述べ
たように、JPモルガンは世界の各中央銀行から金地金を借りて
すでにこの金を安値で売っていたのです。しかし、金が高騰して
金利負担が増大し、現物の返済も迫られていたのです。
 米財務省は、チェース・マンハッタンとJPモルガンに対して
協力し、金の放出を繰り返してきたのですが、限界に近づきつつ
あったのです。           ――[金の戦争/38]


≪画像および関連情報≫
 ●ガーナ共和国について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ガーナ共和国、通称ガーナは、西アフリカに位置する共和国
  国家。東にトーゴ、北にブルキナファン、西にコートジボワ
  ールと国境を接し、南は大西洋に面する。首都はアクラ。サ
  ハラ以南のアフリカ諸国で、初めて現地人が中心となってイ
  ギリスから独立を達成した。初代大統領エンクルマは、アフ
  リカ統一運動を推進したことで有名。かつてゴールドコース
  トと呼ばれた海岸を保有しており、ダイヤモンドや金を産出
  する。カカオ豆の産地としても有名。
  ―――――――――――――――――――――――――――

クリントンとルービン.jpg

  
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 金の戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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