2008年07月04日

●最後の土壇場でのSDR(EJ第2361号)

 ド・ゴールが登場すると、その後、金の戦争の話はニクソン・
ショックの局面に移るのですが、もう少していねいに事態を見て
行くことにします。
 米国は最後の土壇場で、いろいろな手を打ってきたのです。そ
のひとつが「SDR」――Special Drawing Rights/IMFの特
別引出権――です。その仕組みを考えたのは、米財務省のファウ
ラー長官ということになっていますが、実際の考案者はそのとき
ファウラー長官の下で次官をしていたボルカー次官ではないかと
いわれているのです。
 このポール・ボルカーという人物――大のケインズ嫌いのバン
カーですが、ハーバード大学、ロンドン大学スクール・オブ・エ
コノミクスフェローの資格を持つ経済の専門家でおり、後にFR
B議長になっています。有名なグリーンスパン議長の前任者とい
うことになります。
 ところで、「SDR」とは何でしょうか。
 SDRをごく簡単にいうと、中央銀行だけが保有できる特殊な
外貨準備であり、一定量の金に相当するものとして、その価値を
表示されたもの――つまり、特殊な通貨と考えるべきです。した
がって、米財務省はSDRのことを「ペーパーゴールド」と呼ん
だのです。
 このことをもっと正確に理解するには、ブレトンウッズ会議で
決まった「世界銀行」と「國際通貨基金/IMF」について知っ
ておく必要があります。
 世界銀行とIMFはどう違うのでしょうか。
 世界銀行は貧しい国の救済・復興・成長のための銀行として創
設されたのです。これに対してIMFは、加盟各国が経済危機に
陥ったとき、それが一時的なものであることがわかる場合、短期
間の融資を行い、経済危機を乗り越えさせることを目的とする機
関のことです。
 実際にIMFのお蔭で、多くの国の経済危機が回避されている
のは事実です。SDRはそのIMFの特別引出権――つまり、S
DRを発行できるわけです。ということになると、IMFも金と
かかわり――金が入ってくる仕組みがあることになります。それ
では、IMFと金はどのように関係があるのでしょうか。
 IMFによる融資の財源は、加盟国による寄付金によって賄わ
れるのです。それには、次の2つルールがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.寄付金の75%は加盟国の自国通貨で用意できる
  2.残りの25%は「金」で用意する必要があること
―――――――――――――――――――――――――――――
 この寄付金規定によって、IMFには金が入ってくることにな
り、以後金の戦争に深くかかわることになるのです。
 さて、SDRは各国の中央銀行だけが保有できる「通貨」であ
り、市場で投機の対象とされることがないのです。それは米国に
とって、対外支払い分の能力に対する市場の不信が表面化しない
ので、とても好都合であるといえます。
 ここで知っておくべきは、世界銀行とIMFの「総裁」には次
の内規というか、約束事があるということをです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.世界銀行の総裁は米大統領が決定
     2.IMF総裁はヨーロッパ人がなる
―――――――――――――――――――――――――――――
 ちなみに世界銀行の場合、その総裁の任命には米国の大統領が
かかわるのですから、当然米国人が今まで選ばれています。この
ことも知っておいて損はないと思います。関連する話として、6
月29日の『サンデー・プロジェクト』(テレビ朝日)において
高村外相は次のような発言をしていましたが、お聞きになったで
しょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 北朝鮮が米国の「テロ指定国家」解除を受けると、北朝鮮は世
 銀で融資が受けられるといっているが、日本は世銀の大株主で
 すよ。そういう大株主の意向に反してですね。世銀はそう簡単
 に何もできないのですよ。          ――高村外相
―――――――――――――――――――――――――――――
 既に述べたように、世銀の総裁は米大統領が決めるのです。し
たたかな北朝鮮が米国との直接交渉において、大切な「世銀の融
資の取り付け」の確認を取っていないとは思えないし、米国が交
渉上のエサとして使っていると思います。しかし、6ヶ国協議で
はそんな秘密交渉はできない。だから、北朝鮮は米国との2ヶ国
協議にこだわったのです。こういうときに世銀という機関の性格
を知っておくと高村発言の実現性のなさがわかると思います。
大株主として日本は本当に「反対」を貫けるのでしょうか。
 さて、SDRですが、どうしてIMF加盟各国は、このように
米国にとってのみ都合のよいものに賛成したのでしょうか。
 既に多量のドルを保有していたIMF加盟各国は、もしかする
と米国はドルを金と兌換しないのではないかと心配しはじめてお
り、米国はそれを逆手にとってIMF加盟各国に一種の「脅し」
をかけてSDRを承認させたのです。
 そういう各国の思惑もあって、SDR――ペーパーゴールドが
成立すると、ロンドン市場の金相場は一時的に35ドル以下まで
下落したのです。しかし、インフレの危険もあって、どうしても
SDRの量には制限がかかり、結局、米国にとってSDRは救世
主にはならなかったのです。
 実はこのSDR――ブレトンウッズ会議でケインズが持ち出し
た「バンコール」という世界通貨を基にする戦略と基本構想は同
じです。米財務省の一からの構想ではないことは確かです。
 要するに、IMFに各国の金準備をすべて集め、加盟国が提供
する金準備と交換に手に入れる証券を世界通貨として使うという
のがケインズの構想です。米国はブレトンウッズ会議でそれを潰
し、後でコッソリ使ったのです。    ―[金の戦争/20]


≪画像および関連情報≫
 ●ポール・ボルカーについてのサイトより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私が記憶している範囲で、グリーンスパン以前に彼と同様の
  尊敬を集めたFRBの議長は、直前のポール・ボルカーだろ
  う。彼についても「ボルカーがいなくなったら、金融市場は
  大変なことになる」と言われたものだ。ボルカーとは実際に
  会ったことがあるが、正直言って190センチをゆうに越え
  (170弱の私が見上げるような大男だった)、声も太く、
  財務省で財務次官としても活躍したボルカーが「去る」とい
  う噂が出ただけで、外国為替市場ではドルが急落したのだ。
  それも一度や二度ではない。そして彼は去った。しかし、世
  界の経済は当たり前だが、回り続けた。
        http://www.ycaster.com/chat/greenspan.html
 ――――――――――――――――――――――――――――

ポール・ボルカー元議長.jpg
posted by 平野 浩 at 04:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 金の戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。