2008年06月16日

●最初のケインジアン/ジョン・ロー(EJ第2347号)

 金と通貨の問題をお話しするときにどうしても知っておいてい
ただきたいある事件があります。それは、英国が古典的金本位を
始めた1816年のちょうど100年前の事件です。
 1715年に太陽王という異名をとったフランスのルイ14世
が亡くなっています。この当時のフランスは、度重なる戦争の影
響で深刻な財政破綻に瀕していたのです。新しい王となったのは
ルイ15世ですが、わずか5歳の幼少であったため、オルレアン
公フィリップが摂政を行うことになったのです。
 フィリップは遊び人で、たびたびパリのカジノに出没していた
のですが、そこでジョン・ローなるスコットランド人と知り合い
意気投合したというのです。
 このジョン・ローなる人物は大変の頭の良い男であり、とくに
経済理論に通じていたのです。後に英国の新古典派の経済学を代
表するアルフレッド・マーシャルやあのカール・マルクスは、彼
のことを次のように批評しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎アルフレッド・マーシャル
  向こう見ずでバランス欠如だが、実に魅力的な天才である
 ◎カール・マルクス
  詐欺師と予言者の性格を持つ面白い人格的な混合物である
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん良い評判ではないですが、これらの著名な大経済学者
があえてローについて言及したのは、彼の経済に関する考え方が
ユニークであったことによります。
 カジノでオルレアン公フィリップと知り合ったローは、早速宮
廷にフィリップを訪れて、あるレポートを渡したのです。それは
フランスの経済の建て直しの提案だったのです。それは、とても
カジノの博打打ちとは思えない立派な内容の提案だったのです。
 ローの論文を要約するとこうなります。まず、フランスの経済
が深刻なのは通貨が不足しているからであると原因を指摘したの
です。金貨だけに頼っていたのでは、到底フランスの経済的要請
を満たすことはできないというわけです。
 それではそれをどのように解決するか――それは紙幣の発行以
外には考えられないというのです。何しろ当時は金貨中心の時代
ですから、紙切れの紙幣など信用されないという反論に対しては
英国とオランダを例に出して紙幣の利点を強調し、巧妙なる信用
理論を駆使して、土地を担保にして紙幣を発行することで、フラ
ンスの経済に活力を与えることができると説いているのです。そ
して具体的には次の2つのことを提案しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.自分が王家の財産と収入を管理する銀行を設立する
  2.その収入と土地を担保にして銀行券を発行すること
―――――――――――――――――――――――――――――
 このローの提案を見ると、まるでケインズ理論そのものであり
そのため、ジョン・ローのことを「最初のケインジアン」と呼ん
でも差支えないほどに、その内容は現代の管理通貨制度とよく似
ていたのです。
 フィリップはローの提案を取り入れ、1716年に「バンク・
ドゥ・フランス」が設立されたのです。ローは、続いて設立され
た「ミシシッピ」という会社を通して、金と兌換しない不換紙幣
の発行に乗り出したのです。西欧世界はじめてのことです。
 このローの政策によって、フランスの景気は上向きになり、通
商は活発になって、税収は急速に増大したのです。金融活動も盛
んになり、フランス経済は急速に拡大しはじめたのです。本当に
最初の3年間は、まさにローのいうよう通りになったのです。そ
してローは一躍フランス中の尊敬を集める存在になったのです。
 しかし、1720年に金融機関で取り付け騒ぎが起こると、そ
れをきっかけにフランス経済は音を立てて崩れたのです。それは
ヨーロッパ全体の経済危機にまで発展することになります。
 金の裏付けを持たない紙幣の発行は、どうしても加熱すること
になるのです。株取引は劇的に増加し、市場はまさに熱狂状態と
なったのです。市場のこの状況を仔細に分析した複数のベテラン
の投資家たちは、この好況をバブルと見抜いて、保有する株式と
銀行券を一斉に売却したのです。
 経済が崩れだすとローは国外逃亡を企てますが、国境で逮捕さ
れます。そのときに彼が携えていた荷物には金貨と銀貨で一杯で
あったといいます。つまり、ジョン・ロー自身が自分の理論を信
じておらず、ひたすら金貨と銀貨を集めていたのです。
 このようにジョン・ローは一種の詐欺師的存在であったけれど
も彼の経済の考え方は実にユニークであったといえます。彼の有
名な理論に「水とダイヤモンド」というのがあります。
 水は「利用価値」は高いが「交換価値」がなく、ダイヤモンド
はもの凄い「交換価値」を持つけれども「利用価値」はほとんど
ない――これを説明するのに、アダム・スミスは水とダイヤモン
ドでは生産の労働コストにその違いを求めたのに対し、ローは財
の相対的な希少性がその交換価値を作るとしたのです。
 水は自由財に近く、希少性が少ないことから、供給曲線は限り
なく右側にあるので、価格は安いのです。それに対して、ダイヤ
モンドは希少性を持たせるために供給を制限しているので、供給
曲線は左側に抑えられている――これにより、水の価格は安く、
需給点が限りなく右側にあり、ダイヤモンドの価格は高く、需給
点が限りなく左側にあるのです。
 ジョン・ローは、以上のような論法で、貨幣は信用であり、信
用は「取引ニーズ」によって決まってくる――したがって、存在
する貨幣の量は、金の輸入や貿易収支などによって決まるのでは
なく、経済への信用供給によって決まると主張したのです。そし
てマネーサプライは内生的なもので、「取引ニーズ」によって決
まると考えたのです。
 しかし、大失敗をしたフランスは、その失敗に懲りず、財政を
さらに悪化させることになります。   ― [金の戦争/06]


≪画像および関連情報≫
 ●ジョン・ローの貨幣論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ローは貨幣としてそのモノ自体に希少性のある金貨銀貨が用
  いられる時代にあって、貨幣が価値をもつのはその交換性に
  おいてであり、交換の連鎖さえ引き起こせれば貨幣そのもの
  には価値は無くてもよいと考えた。これは貨幣が金や銀との
  交換機能を喪失した20世紀以降の貨幣制度と全く同じ考え
  方である。又、国富を増強するには国内外の交易を活発化さ
  せることであって、貨幣(金銀)を蓄積することそれ自身に
  意味はないとした。         ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・ロー.jpg
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 金の戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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