2008年06月11日

●基軸通貨システムは長続きできない!?(EJ第2344号)

 ブレトン・ウッズ体制がスタートした1940年代――その頃
の米国には世界の金のほとんどが集まり、経済も絶好調であった
のです。何しろ圧倒的な金をベースにして発行されるドルは、金
と同等の価値があったのです。そのため、このブレトン・ウッズ
体制のことを「金・ドル本位制」と呼ぶのです。
 しかし、それまでの基軸通貨であるポンドを押しのけてドルを
世界に、とくにヨーロッパにおいて広げるのは、そう簡単なこと
ではなかったのです。
 そこで、1940年代から50年代にかけて、それまでに貯め
込んだ膨大な貿易収支の黒字をヨーロッパ中心に対外投資に注ぎ
込むことによって、米国は資本輸出国として絶対的な地位を築い
て行ったのです。
 この経験を通じて米国は対外投資が一定の政治的パワーを生み
出すことを学習していたのです。1956年に勃発したいわゆる
スエズ戦争において、そういう米国のパワーを垣間見ることがで
きます。
 第2次中東戦争/スエズ戦争は、普通の歴史のテキストでは次
のように記述されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1956年、国民投票で大統領に就任したナセルは、スエズ運
 河会社の国有化を宣言。これに対して英仏などの西欧圏やイス
 ラエルは動揺する。英仏は運河の無料通航を要求してエジプト
 侵攻を決意。この危機に対して国連安保理事会は英仏の拒否権
 で機能せず、英仏は10月29日、ナセル打倒に向けてエジプ
 トに軍事侵攻、続いて英仏両軍がスエズ地区に出兵した。11
 月1日の国連緊急総会はスエズ運河国有化の正当化と即時停戦
 を決議、英仏のエジプト侵攻を非難。国際世論に屈した英仏と
 イスラエルは遂に侵攻を断念し、1957年3月までに撤退し
 た。ナセル・エジプトを代表とするアラブ民族主義の大勝利で
 あった。これによりスエズ運河国有化は完成し、スエズ運河は
 エジプトのもとで運営されることが決まった。これが第2次中
 東戦争、すなわち「スエズ戦争」の概要である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この戦争の顛末を見ると、英仏軍がいかにもあっさりと撤退し
たことが奇異に感じられます。しかし、これには歴史の表面には
出ないウラの事情があるのです。
 英仏軍が撤退した本当の理由は米国の働きかけによるものなの
です。このとき米国は英仏によるエジプトへの干渉に強硬に反対
し、もし英国が応じないときは、米国が保有する英国債を全額売
却すると警告したのです。
 そのとき米国は膨大な額の英国債を保有しており、それが売却
されると、どのような恐ろしいことになるのか英国はわかったの
で、フランスを説得して軍を引いたのです。そのとき米国は軍事
力のみならず、マネー・パワーもまた国際的政治力を発揮する有
効な手段になり得ることを確認したのです。
 しかし、ブレトン・ウッズ体制には大きな欠陥があり、いずれ
破綻をきたすことを英国を代表してあのブレトン・ウッズで米国
のホワイトと交渉したケインズは早くからそれを見抜いていたと
いわれます。ケインズに関しては次のような話があるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国での難しい交渉と長い船旅を終え英国に降り立ったケイン
 ズと、取り巻いた新聞記者の間で交わされたというやり取りが
 今に伝えられている。
 「ケインズさん、あんたは英国を、アメリカの49番目の州に
 しちゃったって、もっぱらの噂です。ほんとなんですか」
 アラスカ、ハワイが連邦入りし州になるのは1959年のこと
 だから、当時のイギリスが合衆国に組み入れられるとしたら、
 「49番目」の州となる計算である。ケインズは聞かれてあっ
 さり、こう答えたそうだ。
 「ああ、そういう幸運には恵まれないね」――ずいぶんと皮肉
 がきいている。――谷口智彦著、『通貨燃ゆ/円・元・ドル・
         ユーロの同時代史』より/日本経済新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 新聞記者の質問に対して「ああ、そういう幸運には恵まれない
ね」と答えたケインズ――英国が米国の49番目の州になるとい
う「幸運」は訪れないという意味をこめてそういったのです。既
にこの時点でケインズはこの制度が長く続かないことがわかって
いたのです。
 ブレトン・ウッズ体制は、誰もが予想しなかったほどその失墜
は早く訪れたのです。この点に関して、ブレトン・ウッズ体制に
は基本的な制度設計に欠陥があると見るのが、今日まで世界の学
界における通説となっています。
 その基本的な制度上の欠陥とは、基軸通貨国というのは必然的
に国際収支が赤字とならざるを得ない仕組みになっているという
ことであり、俗に「トリフィン・ジレンマ」という理論で知られ
ているのです。要約すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 基軸通貨は基軸通貨国の国際収支赤字によってのみ外国人に供
 給され、その国際収支赤字は基軸通貨の信認を低下させるから
 基軸通貨の供給量(対外供給残高)拡大と信認継続とは両立し
 えない。   ――谷口智彦著、『通貨燃ゆ/円・元・ドル・
         ユーロの同時代史』より/日本経済新聞社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、ドル紙幣を刷ることは世界経済の規模を拡大するた
めに不可欠なことであるけれども、それをすればするほど赤字の
垂れ流しが起こり、ドルの信認に傷がつく――したがって、その
ような制度は長続きしないというものです。これが「トリフィン
・ジレンマ」です。
 しかし、この学説には強い反論があり、大きな議論になってい
るのです。             ―― [金の戦争/03]


≪画像および関連情報≫
 ●トリフィン・ジレンマとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トリフィン・ジレンマ――「アメリカの双子の赤字の拡大」
  と「基軸通貨ドルの下落傾向」の矛盾は、益々拡大している
  といわざるを得ません。それどころか矛盾解消の処方箋とし
  てトリフィンが為替調整策とともに嫌った外国為替国際市場
  に身を任せる、所謂市場原理主義が幅を利かせ暴走する「変
  動相場制」が採用され、その弊害がトリフィン・ジレンマの
  矛盾を拡大再生産しているのが現状です。「サブプライムロ
  ーンの焦付き」と「原油高の高騰」が、ヘッジファンドなど
  投機マネーの暴走に力を借り、トリフィン・ジレンマは益々
  加速しています。
    http://kerukamo.blog115.fc2.com/blog-entry-108.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

ブレトン・ウッズでのケインズ.jpg
posted by 平野 浩 at 04:20| Comment(1) | TrackBack(2) | 金の戦争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして
このケインズの写真の左側に写っている筈のホワイトとは、ハル・ノートを書いたと言われているHarry Dexter Whiteです。どうして左側をカットされたのでしょうか?Operation SnowのsnowはWhiteの名に由来しています。彼は世界銀行とIMF設立の父だと言われています。しかも国際連合構築計画にも参画しています。
http://goodlucktimes.blog50.fc2.com/blog-entry-126.html
ハル・ノートを日本に差し出したという事実すら、米国内の共和党の反戦派の人たちには知らされていなかったそうですね。ハル・ノートのハルは単に手渡した国務長官の名前に過ぎないようです。ソ連のスパイなのにケインズと肩を並べるだけの優秀な経済学者でもあったんですね。
Elizabeth Bentleyに名指しされ、スパイの疑いをかけられ法廷に呼ばれて、すぐ後で心臓発作で亡くなっています。スパイの死によくあるパターンです。
Trackbackを入れました。そこに経済の巨匠二人並んだ写真を置いています。
Posted by Bruxelles at 2011年10月29日 15:15
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