2023年11月01日

●「中国の米国債保有率が減少している」(第6038号)

 10月29日(日)付の日本経済新聞のトップ第1面に次の記
事が出ています。
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◎中国で消えてゆく米国債/保有14年ぶり低水準
 人民元買い支え説
 中国が米国債の保有を減らし続けている。8月末の残高は14
年ぶりの水準となり、足元では減少ペースが速まっている。米金
利上昇(債券価格は下落)の一因ともみられ、市場は保有額圧縮
の背景を探ろうとする。有力な説の1つは当局主導による中国の
通貨・人民元の買い支えだ。
   ──2023年10月29日(日)付の日本経済新聞より
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 中国の米国債保有高は、8月時点で8054億ドル(約120
兆円)ですが、2013年対比で4割も減少しています。中国は
外貨準備の運用先として米国債を購入してきていますが、もし大
口投資家として売り手側に回れば、金利上昇要因として市場で意
識されやすくなります。米長期金利上昇の裏側には、中国の存在
があるといってよいと思います。
 それでは中国当局は、なぜドルを売っているのでしょうか。現
在、人民元は「1ドル=7・3元」と安値圏にあり、中国通貨当
局は、元安抑止を狙って、国有銀行にドル売り、人民元買いを指
示しており、銀行はその原資を確保するために米国債を売ったも
のと思われます。だが、このまま米国債保有減が止まらなければ
それは長期金利の上昇圧力として意識されることになります。
 米商務省が10月26日に発表した7〜9月期の実質国内総生
産(GDP)速報値は、同期比の年率換算で4・9%増だったの
です。4〜6月期の2・1%増から大幅に伸びています。利上げ
をしているにもかかわらず、衰えない個人消費が強い米経済をけ
ん引しているといえます。
 なぜ、米個の消費がそんなに強いのかについて、日経は次のよ
うに分析しています。
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◎米経済、足元には不安材料
 FRBのパウエル議長は19日、見通しを巡っては、「10〜
12月期から来年にかけて冷え込むというのが一般的な予測だ」
と語った。遅れて経済に浸透する利上げ効果に加えて、米経済に
は逆風となる要因が増える。
 10月からはコロナ禍で猶予されていた学生ローンの返済が再
開される。残高は6月時点で1・57兆ドル(およそ、235兆
円)と大きく、借り手は幅広い世代にわたる。第一生命経済研究
所は10〜12月期の成長率を1・8ポイント押し下げると試算
している。
 サンフランシスコ連銀は8月の時点で、コロナ対応の現金給付
で膨らんだ家計の過剰貯蓄が7〜9月期に枯渇する可能性が高い
と指摘していた。過剰貯蓄はピークの21年8月には2・1兆ド
ルと歴史的な水準になり、旺盛な消費を支えてきた。
 過剰貯蓄については、6月時点ですでに上位2割の高所得層以
外で使い果たされていたとの見方もある。それでも小売売上高は
9月に再加速した。コロナ禍前を3割程度上回る株価や不動産価
格の上昇、物価を上回って上昇する賃金など消費の追い風となる
要因も少なくない。      ──2023年10月27日付
                     日本経済新聞より
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 深刻なのは、中国から資金流出が加速していることです。9月
は流出超過額が7年8か月ぶりの規模になっています。これが人
民元の強い下押し圧力となっています。理由は、次の3つが考え
られます。
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 @外資企業が中国からの撤退や事業縮小に伴って、資産を償却
  売却し、資金流出を加速させている。
 A中国の景気回復が遅れていることから、対中投資をためらう
  海外投資家は少なくない事実がある。
 B中国の将来に不安を抱く中国人富裕層が資産を先進国の不動
  産市場など逃がしたいと考えている。
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 第1の理由は、外資企業の撤退に伴う資金の流出です。
 中国における製造業など工業分野の外国企業数は、今年の7月
末の時点で、4万3348社。これは、2004年11月末以来
の水準に減少しています。
 これには、米国による対中投資規制や、中国が反スパイ法の摘
発対象を広げたことが背景にあります。
 第2の理由は、そもそも対中投資自体が減少している事実があ
ります。株式や債券など、証券投資に伴う流出超過は148億ド
ルあり、それが続いています。中国は米国と対立し、景気回復に
もたついており、多くの海外投資家は、対中投資に慎重になって
いることは事実です。
 第3の理由は、将来に不安を抱く中国人富裕層が海外に資産を
移しつつあります。ブルームバークの記事を参照してください。
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 中国が新型コロナウイルス禍に伴う渡航制限を解除したことで
中国人富裕層の海外移住の動きが加速している。こうした中国人
が海外の不動産や資産を購入し、巨額の資本流出につながる可能
性がある。複数の移住コンサルタントがインタビューで明らかに
したところでは、ゼロコロナ政策が昨年12月に撤廃されて以来
多くの中国人富裕層が不動産のチェックや移住計画の最終確認の
ため、海外に渡航し始めている。こうした中、金融市場を圧迫し
得る資本流出に加え、頭脳流出が懸念されている。
     ──2023年1月29日/ブルームバーク記事より
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           ──[物価と中央銀行の役割/048]

≪画像および関連情報≫
 ●逆回転し始めた中国の高成長の仕組み
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   8月は中国経済の悪化リスクが一段と高まり、投資資金の
  流出が加速した。投資に依存した中国経済の成長メカニズム
  は限界を迎え、既に逆回転し始めている。
    1978年の「改革開放」以降、中国は、重厚長大分野
  で国有・国営企業の経営体制を強化してきた。経済特区を設
  けて海外企業の直接投資を呼び込み、製造技術の移転も促進
  した。安価で豊富な労働力を背景に「世界の工場」としての
  地位を固め、輸出競争力を上げた。それに加えて、国内の不
  動産投資を活発化させることで、90年代以降は10%超の
  高い経済成長率を実現した。
   リーマンショック後、世界全体で貿易取引は減少すると、
  共産党政権は投資による経済成長を重視した。4兆元(当時
  の為替レートで換算すると約56兆円)の経済対策を実施し
  不動産などへの投資を増加。農村地域への自動車や家電の普
  及も加速した。
   地方政府は、土地の利用権をカントリー・ガーデンなどの
  デベロッパーに売却し財政収入を確保した。その資金を使っ
  て道路建設などインフラ投資を実施。電気自動車(EV)普
  及など補助金政策も強化した。鉄鋼など基礎資材の生産能力
  強化のために、固定資産投資(主に企業の設備投資)も増え
  た。   https://diamond.jp/articles/-/328321?page=2
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中国の米国債保有残高.jpg
中国の米国債保有残高


posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする