2023年10月02日

●「マイナス金利を見送った植田日銀総裁」(第6020号)

 9月19日から22日までは、「日米の中央銀行ウィーク」で
あったといえます。前半の2日間は米国のFRBのFOMC、後
半は日銀の日銀政策決定会合です。
 FOMCが今回利下げを行わないことは予測していた通りだっ
たのですが、FOMC参加者による2024年末の政策金利の見
通しが、次のように引き上げられています。
─────────────────────────────
    中央値で5・1%(前回から0・5%引き上げ)
─────────────────────────────
 米政策金利の高止まりです。これによって米市場参加者の「利
下げシナリオ」に狂いが生じてきています。投資家は、現在、高
金利長期化への備えを急いでいます。
 日銀は、当初この金融政策決定会合で、マイナス金利を撤廃す
るのではないかといわれていましたが、政策の現状維持を決めて
います。目標の消費者物価指数は、少なくとも9月までは目標の
インフレ目標2%を超えていますが、日銀は、賃金上昇を伴う形
での2%の物価安定目標の達成にはなお至っていないとして、物
価目標の実現に向けていまの金融緩和策を粘り強く続ける必要が
あると判断したようです。
 植田日銀総は、これについて22日の記者会見で、次のように
発言しています。
─────────────────────────────
 現状、目標の持続的安定な達成を見通せる状況には至っておら
ず、粘り強く金融緩和を続ける必要がある。実現が見通せる状況
になれば、政策の修正を検討することになるが、現時点では経済
物価をめぐる不確実性はきわめて高く政策修正の時期や具体的な
対応について到底決め打ちはできない。
                 ──植田日銀総裁/NHK
─────────────────────────────
 以下、記者団による主な質問と、植田日銀総裁の一問一答につ
いて、次のようにまとめます。
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記者:今後の「物価の見通し」について
植田:7月の展望レポートでは、2023年度と2024年度の
 物価見通しについて、上振れリスクの方が大きいと判断した。
 先行きの物価を巡っては、為替相場や資源価格の動向だけでな
 く、内外の経済動向や、企業の賃金・価格設定行動に関する不
 確実性も極めて高いと認識している。
記者:長期金利が若干上昇しているので、固定金利の住宅ローン
 金利が上昇するが・・・。
植田:ただ、その上昇幅も限定的で、固定金利で借りてる人の比
 率もそれほど高くないのが現状であり、マクロ的な影響は限定
 的と考える。今後、住宅ローン金利が上昇を続けていくのかど
 うかは、経済物価情勢およびそれを受けた日銀の政策の動きに
 大きく影響される。そうしたなかで目標に達するという見通し
 が立っておらず、現状維持ということで大きく動くということ
 は今の時点で申し上げられる状況ではない。
記者:実質賃金がプラスにならないことについては?
植田:実質賃金の上昇率がマイナスのままでプラスに転じないこ
 とは非常に心配している。実質所得が低下する中で家計にイン
 フレが負担になっている。
記者:世界経済の現状について、どう考えるか。
植田:アメリカ経済は、少しソフトランディングの期待が高まっ
 た。FOMCやパウエル議長の記者会見でもあったように、ど
 んどん金利を上げていくということではないが高くなった金利
 を高いまま維持していくという姿勢が見られている。アメリカ
 経済は若干強めだが、一方でその他の国を見ると、中国やヨー
 ロッパのように少し弱めの所もある。全体として将来に向けて
 のリスク要因ではあるものの、今回の政策決定に強い影響を及
 ぼしたわけではない。
記者:YCC=長短金利操作やマイナス金利政策を終了する条件
 をどう考えるか。
植田:YCCに関して現在のフォワードガイダンスで約束されて
 いるのは、YCCという枠組みを目標達成の見通しが立つまで
 維持するということだ。長期金利については7月に実施したよ
 うな修正、あるいは枠組みの柔軟化ということをYCCの全体
 の枠組みを維持した中で実施した。短期金利については、全体
 の見通しが達成されるまでは、マイナス金利でいくという認識
 でいる。
記者:為替の動向をどのようにとらえているか。
植田:為替の動向は、将来の経済動向や物価動向にいろいろな形
 で影響を及ぼす。したがって、われわれの物価見通しにも影響
 を及ぼすものであるという観点から、常に注視している。為替
 市場の動向だけでなく、経済物価への影響について政府とも緊
 密な連絡を取りながら注視してまいりたいと常に考えている。
記者:金利上昇についてはどうか。
植田:今後、仮に本格的に金利を上げていく、あるいは金利が上
 がっていくという局面になった場合、それが展望されるような
 局面ではしっかりと点検したうえで金利を上げていかないとい
 けないというふうに思っている。現状は7月との比較でいえば
 わずかな金利上昇で、まだはっきりと確認できる段階ではない
 が、インフレ期待の上昇の中での動きなのでそれほど心配する
 動きではない。         https://onl.bz/MhAmCJS
─────────────────────────────
 しかし、これによって、「1ドル=150円」台が確実に迫り
150円前後での攻防が続くことになります。29日の東京債券
市場では、長期金利(10年物国債利回り)が上昇し、年0・7
70%と約10年ぶりの高水準になっています。米国の利上げが
長引くとの見方に反応したものであると思われます。
           ──[物価と中央銀行の役割/030]

≪画像および関連情報≫
 ●金融市場の早期利上げ観測に水を差した日銀総裁記者会見
  ───────────────────────────
   9月22日の金融政策決定会合で、日本銀行は大方の予想
  通りに政策維持を決めた。ただし、金融市場の関心は、会合
  での決定よりも会合後の総裁記者会見での発言に向けられて
  いた。2週間前の読売新聞のインタビューで、植田総裁が、
  年内にも政策修正の判断ができるようになる可能性はゼロで
  はない」と発言したことを受けて、日本銀行の政策姿勢が変
  化し、マイナス金利解除の実施時期が早くなる、との見方が
  金融市場で強まったためだ。
   インタビュー記事での発言の真意に関する総裁への質問は
  さっそく記者会見の冒頭で幹事社によって出された。それに
  対する植田総裁の説明は、「政策姿勢に変化はない」ことを
  示すものであった。金融市場の受け止めについては「コメン
  トを控える」としたが、「物価目標の達成がなお見通せない
  現状では、金融緩和を粘り強く続けていく」、「先行きの経
  済、物価の不確実性は高く政策は決め打ちできない」、「政
  策は毎回の会合で判断していく」といった総裁の説明は、マ
  イナス金利解除が近づいているとの金融市場の一部の見方と
  かなり距離があるものだ。金融市場では、インタビュー記事
  を受けて、マイナス金利解除の時期についての見通しをかな
  り前倒しする動きが広がったが、これは過剰反応だった可能
  性が高い。          https://onl.bz/nARdQyA
  ───────────────────────────
9月22日/植田日銀総裁記者会見.jpg
9月22日/植田日銀総裁記者会見


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2023年10月03日

●「『インボイス』という名前の増税」(第6021号)

 国民のほとんどが何だかよくわからない内に、10月から「イ
ンボイス」が導入されています。メディアも政府に配慮してか、
導入直前でも報道のトーンを控えている感があったので、いまだ
に知らない人がたくさんいるはずです。どのような制度か、定義
を掲載しておきます。
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 インボイス制度とは、一定の項目が記載された適格請求書(イ
ンボイス)に基づいて、消費税の仕入税額控除額を計算し、証拠
書類を保存する消費税法上の制度である。
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 要するに、ごく簡単にいうと、これまで消費税を納めなくても
よかった人(年売上高1000万円未満)からも消費税を取り立
てることができる制度です。つまり、その人にとってはインボイ
スの導入は増税になるわけです。飲食店、雑貨店、フリーランス
の仕事をしている人にとっては増税となる可能性があります。
 10月1日といえば、4600品目以上の食品が値上がりし、
サービス価格の上昇についても予定されています。それに酒税の
改正で税額が上がる第三のビールなどがあります。どこも値上げ
ラッシュです。ちなみに、東京ディズニーランドの大人1日券は
繁忙期の最高額が1万9000円になるほか、日本郵便の「ゆう
パック」の運賃も上昇します。ところが岸田首相は、これから行
う経済対策について、次の趣旨のことを述べています。
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 コロナ禍で苦しかった3年間を乗り越えて、経済状況は改善し
つつある。しかし、国民はインフレによる物価高に苦しんでいる
ので、税収増を国民に還元する。長年続いてきたコストカット型
の経済から30年ぶりに歴史的転換を図り、人への投資や設備投
資などに取り組む。決して後戻りすることがないよう経済対策を
実行していきたいと考える。          ──岸田首相
─────────────────────────────
 なんと岸田首相は「減税」を口にしたのです。しかし、岸田首
相が掲げたのは、「賃上げ税制の減税制度の強化」、「国内投資
に対する減税制度の促進」、「ストップオフションの減税措置の
充実」などです。国民の期待する「消費税減税」や「社会保険料
の引き下げ」という言葉がどこにもないのです。そのため、「偽
減税」という声が多数上がっています。
 なかでも、青山繁晴自民党参議院議員は、「もっと庶民の負担
軽減に直結する政策を打ち出すべきである」として、次のように
岸田首相に直言しています。
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 岸田首相は増税に敏感になっているが、増税ばかりを考えてい
ると、国民に見透かされる。社保料引き上げも「ステルス的」と
受け止められている。増税・負担増の現実に気づかない国民はい
ない。それだけ、窮状は切実である。では、今、どういった施策
が必要なのか。
 武漢熱(新型コロナ)がようやく収束しつつあり、景気回復の
兆しがある。税収増はそのサインだ。賃上げと同時に、消費税の
減税などに踏み切れば、需要が喚起され、さらに税収も増える。
「新たな財源」は必要がなく、国民に還元される。消費減税はタ
ブーではない。もともと、消費税は柔軟に引き下げることができ
るのが特徴の税制である。   ──青山繁晴自民党参議院議員
              ──9月29日発行「夕刊フジ」
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 話をインボイスに戻します。「自分には関係がない」と考える
人も多いと思うので、「消費税は悪法である」とする消費税の権
威といわれる元静岡大学教授で弁理士の湖東京至氏との一問一答
をご紹介します。
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湖東:課税売上高が「1000万円以下」の人たちに影響が大き
 く出るということが問題なんです。建設業での1人親方、赤帽
 や個人タクシーの運転手、ウーバーイーツなどの宅配、映画や
 演劇の俳優、音楽家、英語の講師、外注の社員、農家、貸家、
 駐車場経営、太陽光販売、自販機業者など、今まで税金が免除
 されていた個人事業者が一番影響を受けます。とくに親会社が
 「消費税の課税事業者」だと困ることになる。
――:「インボイス」とは、一体何なのですか?これだけの個人
 事業主に影響が出るのですよね?
湖東:「インボイス」とは何だと聞かれると、「請求書」のこと
 です。日本の消費税法では、ただ、「請求書」と訳さずに「適
 格」という文字をつけて、「適格請求書」と言います。正規の
 「適格請求書」を総称して「インボイス」と言っています。そ
 の「インボイス制度」が、2023年10月1日から始まりま
 す。「インボイスの番号の登録」は2022年10月1日から
 始まっており、来年3月31日までに「インボイスの登録番号
 の登録」をすると決められています。
――:もう登録は始まっていたのですね。私は全然知りませんで
 した。
湖東:今現在、すでに登録をすませている人はいますが、まだ少
 数ですね。みんなこんなことを知りませんから、税務署は必死
 になって登録を勧めています。
――:先ほど「適格請求書」と「不適格請求書」があるといいま
 したが、同じ「請求書」なのに、何が違うのですか?
湖東:正規の請求書となる「適格請求書」と、「不適格請求書」
 の違いは「番号」です。登録申請書を税務署に提出し、審査を
 経て登録番号が通知されると、適格請求書発行事業者になりま
 す。この番号を付けた請求書が「適格請求書」で、番号なしの
 請求書を「不適格請求書」というようなります。この「番号を
 もらう」ということが大事なんです。
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           ──[物価と中央銀行の役割/031]

≪画像および関連情報≫
 ●これでマルわかり/「インボイス制度」「電子帳簿保存法」
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   請求書は手書き、もしくはパソコンで作成し、押印、封入
  して郵送する。請求書を受け取った側も、それを見ながら支
  払いを行い、請求書はファイルに保存する。
   どの事業者でもおこなっている日常的な業務だ。しかし、
  2023年10月以降、そのごく当たり前の業務は通用しな
  くなってしまう。「インボイス制度導入」と「電子帳簿保存
  法」の改正に対応しなければならないからだ。もちろん、中
  小の建設事業者とて例外ではない。
   インボイス制度がスタートすると、「請求書に記載すべき
  項目」が増える。しかも要件を満たした請求書を授受して保
  存しなければ、税額控除が受けられず、負担が増える場合も
  あるという。
   また、2024年1月からは、改正電子帳簿保存法の規定
  により、データで発行された請求書や領収書などは、紙のま
  までの保存は原則NGとなる。きちんと対応できていない事
  業者には罰則もあるのだ。
   制度に詳しい税理士の袖山喜久造氏は、「とくに一人親方
  などの職人に仕事を依頼している事業者にとっては他人事で
  はなく、早急な対応が必要」と指摘する。どんな点に注意し
  何から始めればよいのだろう
  https://www.sumitomokenki.co.jp/power/report/1269/
  ───────────────────────────
青山繁晴参院議員.jpg
青山繁晴参院議員
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2023年10月04日

●「インボイスは『増税』そのものである」(第6022号)

 インボイス──制度開始が日曜日だったせいか、関連記事は次
の1本のみで終わっています。選挙も迫っているので「増税」と
いう捉え方をされることを気にしているようです。
─────────────────────────────
 ◎インボイス/申請は途上/免税111万事業者が転換へ
             佐川急便:取引先数千社に確認
             大成建設:下請け対象の講習会
       ──2023年10月1日付/日本経済新聞
─────────────────────────────
 自民党の安倍晋三政権における消費税増税──5%〜10%へ
倍増。この大増税を仕掛けたのは自民党でなく、野田佳彦首相が
率いる民主党であり、インボイスはそのさいの副産物といえる存
在です。確かに、この制度にとって増税になるケースも出てくる
ので、政権与党としては静観の構えです。
 民主党がこの消費税増税によって政権を失い、立憲民主党と国
民民主党に分かれていますが、どちらの党も勢いがなく、このま
までは、立憲民主党は野党第一党の地位を失うでしょう。その原
因を作ったのは、旧民主党野田政権です。
 なぜなら、民主党は「消費税増税はやらない」と公約し、20
09年の総選挙で自民党を下野させて政権を奪取すると、ことも
あろうに、その公約を破棄し、下野している自民党/公明党と組
んで、当時5%であった消費税の税率を倍増させるスケジュール
を組んだのです。国民にとって、公党によるこれほどのひどい裏
切りはないといえます。
 それはさておき、消費税の制度を設計するさいに、収入の少な
い人に対する対策をめぐって、民主党と自民党で意見が分かれ、
次の2つのどちらかをとるかとになったのです。
─────────────────────────────
      @給付付き税額控除 ・・・ 民主党
      A    軽減税率 ・・・ 自民党
─────────────────────────────
 しかし、どちらにするか、選挙が実施され、民主党から政権を
奪還した自民党が採用したのは、Aの軽減税率だったのです。し
かし、軽減税率にすると、約1兆円以上の税収が失われてしまう
ので、それを穴埋めするために、小規模業者泣かせのインボイス
の導入を自民党は主張したのです。
 民主党の政権の存続と、消費税の5%アップを導入を引き換え
にしたともいえる野田元首相は、9月30日の朝日新聞のインタ
ビューに応じて次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
――軽減税率が選ばれていなければ、インボイスは始まらなかっ
 たのですか。
野田:始まっていないですね。11年前に首相として深く制度設
 計をして、もうちょっと頑張って、給付付き税額控除に決めき
 っておけばよかった、という後悔の念、ある種の痛恨の極みが
 あります。インボイスは税率の認識に違いがないようにするた
 めと言いますが、軽減税率が入って4年後という時間差で始ま
 まります。円滑にいくか心配しています。
――政府はかつて、インボイスによって2千億円以上の「増収」
 を計算しました。恩恵は見えてきますか。
野田:消費税で入る分が増えても、なかなか自分たちの暮らしの
 中の社会保障と直結しません。受益と負担の相関関係がわかり
 にくく、実感がわきにくいのは事実です。(聞き手/編集委員
 ・伊藤裕香子)   ──2023年9月30日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 選挙前の公約で国民に約束し、政権を奪取してそれを平然と破
る──絶対にあってはならないことです。公約違反として撤回を
迫る小沢一郎グループが民主党が離党しても、野田政権は増税路
線を突き進み、現在に至っています。
 朝日新聞デジタルは、そのあたりの野田元首相の考え方を別の
インタービューで聞いています。
─────────────────────────────
――野田さんは、なぜ首相自ら主導するかたちで消費税を増税し
 たのですか。
野田:人口減や高齢化が進む日本の社会保障制度を支えるのが、
 消費税です。その基本的な考え方は、いまも間違っていないと
 信じています。3党が合意して法律が通った以上は、税率を8
 %、10%としっかり2回引き上げて、安定した社会保障制度
 と財政の健全化が進んでいくと期待したのですが、コロナ禍も
 あって財政規律は大きく緩んでしまいました。
――政府はかつて、インボイスによって2千億円以上の「増収」
 を計算しました。恩恵はどこかに見えてきますか。
野田:消費税で入ってくる分が増えても、なかなか自分たちの暮
 らしの中の社会保障と直結しません。たとえば年金の財源で国
 が負担する割合を高めてもいますが、受益と負担の相関関係が
 わかりにくく、実感がわきにくいのは事実です。
――野田さんの後の安倍晋三首相は、税率が10%になる直前の
 2919年夏に「今後10年くらいの間は、消費税を上げる必
 要はない」と発言しています。
野田:安倍さんという、影響力の大きい方の言葉であるがゆえに
 政策議論を10年封印してしまう、ものすごく大きな方向性で
 した。この言葉を受け止めすぎているのが、いまの岸田文雄首
 相ではないでしょうか。環境的には物価が上がり、円安も進ん
 で、いま負担を求める議論はものすごくやりにくい。けれど、
 少なくとも丁寧な政治の議論は始めるべきでしょう。
─────────────────────────────
 野田元首相は、公約違反で国民を裏切り、民主党を機能不全に
させたことは、いまなお反省はないようです。今回のインボイス
も総選挙にとって、大きなマイナスであるといえます。
           ──[物価と中央銀行の役割/032]

≪画像および関連情報≫
 ●野田元首相が今語る「12年党首討論→解散」の本音
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  井手:まず、安倍晋三元首相の追悼演説でも触れられていた
   2012年11月14日の「丁々発止」の党首討論からの
   衆議院解散。そのときのことからお伺いします。
   当時、消費増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が
   自民・公明との3党合意で成立し、近いうちに解散して国
   民に信を問わざるをえない状況でした。特例公債法を人質
   に取られ、一票の格差問題もあった。民主党からは続々と
   離党者が出て、野田降ろしも起きる。党も内閣も支持率は
   低く、選挙をすれば当然負けるだろうという雰囲気で、や
   はり結果は惨敗。ご自身ではあの敗北をどう評価されてい
   ますか。
  野田:党首討論で解散を明示し、その結果が大敗で、私は敗
   軍の将となリました。ですが、一人の政治家としてはその
   ことに悔いはないんです。あのときはねじれ国会で、予算
   は成立しても、財源となる特例公債が発行できずにいた。
   結局、特例公債法が成立したのは11月16日、解散と取
   引したような形です。そのような状況だったので、あれは
   一致点を見いだすための討論だったんです。単に丁々発止
   のやり取りをすればいいというものではなく、ケンカ別れ
   するわけにもいかなかった。
         https://toyokeizai.net/articles/-/640154
  ───────────────────────────
民主党政権時代の「消費税引き上げ協議」.jpg
民主党政権時代の「消費税引き上げ協議」
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2023年10月06日

●「減税経済対策は果たして成功するか」(第6023号)

 岸田内閣の支持率が上がらないでいます。何をしても支持と不
支持が逆転のままですが、それは当然のことです。なぜかという
と、岸田首相は日本の防衛力強化のため、当初「増税」を主張し
ていたはずですが、それが突然「減税」に変わっています。これ
では、国民が戸惑うのは当然のことです。
 2022年度の国の一般会計の税収は約71兆円です。物価高
の影響で、消費税収が増えたことに加えて、企業の好業績や賃上
げにより法人税と所得税も上向いたことで、3年連続で過去最高
を更新し、史上空前の税収になっています。
 経済成長による成果というよりも、インフレによる物価高が主
因の税収増ではありますが、それを「適切に国民に還元する」こ
とは、良い心がけであると思います。今や多くの国民が物価高に
苦しんでいるからです。
 しかし、首相が「減税」として胸を張って打ち出した経済対策
は、企業、それも大企業への補助金ばかりであって、国民にとっ
て減税らしいものは一つとしてないのです。メインは「賃上げ税
制の減税制度強化」や、「国内投資促進や特許などの所得に対す
る減税制度」など、企業への優遇措置ばかり。インフレによる物
価高にあえいでいる国民への直接減税を完全に無視しています。
 もともと岸田首相は「直接国民に何かを配る」のが好きではな
いようです。2020年の安倍政権で、コロナ禍対応の現金給付
を実施するさい、当時政調会長の岸田氏は国民全員配布ではなく
一定所得以下の人に30万円配る案を安倍首相に提案し、一度は
了承されています。しかし、公明党に強く反対され、全員給付に
戻しています。おそらく岸田氏は、全員にお金を配ることは「バ
ラマキ」であると思っているのだと思います。
 今回の岸田首相の「減税案」について、経済ジャーナリストで
ある萩原博子氏は次のように岸田首相を批判しています。
─────────────────────────────
 物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金が16カ月連続マイナ
スという状況です。にもかかわらず、岸田政権が打ち出す経済対
策は企業への補助金ばかり。ガソリン価格や電気・ガス代の高騰
に対して、企業への助成を通じて抑制しようとしたのがいい例で
す。本気で「減税」して国民に「還元」する気があるなら、逆進
性の高い消費税の減税や廃止を訴えるべきでしょう。総選挙が近
いから「減税」というフレーズを持ち出して、人気を集めようと
しているとしか思えません。──経済ジャーナリスト萩原博子氏
          2023年10月04日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 このような「偽減税ではないか」という国民の批判に対して、
与党幹部はその対応に追われています。10月2日、茂木幹事長
と世耕参院幹事長は、「減税」について、次のようにそれぞれ見
解を述べています。
─────────────────────────────
◎税収増分をダイレクトに、減税措置などによって、国民に還元
することも十分あり得る。増えた税収を最大限に活用し、国民に
適切に還元していくことは当然のことである。
                 ──茂木敏光自民党幹事長
◎岸田首相が「税の増収を還元する」といっている。税の基本は
法人税と所得税なので、当然、減税の検討対象になってくる。
              ──世耕弘成自民党参議院幹事長
─────────────────────────────
 しかし、かねてから「財務省寄り」「増税派」のイメージの消
えない岸田首相が、表現上とはいえ、経済対策の基本姿勢を増税
姿勢から減税姿勢に変更したことは、岸田内閣にとって大きな前
進であるといえます。とくに、「コストカット型経済からの30
年ぶりの転機」というスローガンは秀逸であり、これを成し遂げ
ることによって「新しい資本主義」に移行するという流れができ
るといえます。
 しかし、岸田政権は、このスローガンを本当に実現できるので
しょうか。補正予算の規模の問題があります。これには、自民党
内の積極財政派と緊縮財政派の意見は完全に割れています。
─────────────────────────────
◎責任ある積極財政を推進する議員連盟
 現在の失業率の水準から計算すれば最低でも10兆円。日本経
済の潜在能力から推測すると、最大20兆円不足している。した
がって、20兆円規模の経済対策が必要である。消費の低迷が著
しいからである。
◎財務省および財政緊縮派
 経済対策は「規模ありき」ではない。政府の集計では、総需要
不足は解消している。4〜6月期の「受給ギャップ」が3年9カ
月ぶりにプラスに転じている。
─────────────────────────────
 この3年間の税収の予想からの上振れは平均して約4兆円であ
るといわれます。これを消費税に換算すれば、2%分に該当しま
す。したがって、本来であれば、日本経済の現状は個人消費の低
迷が問題化しているので、減税をやるなら、時限的に消費税の減
税を行うべきですが、岸田政権は絶対にやらないでしょう。財政
緊縮派によると、消費減税を行うと法律改正に時間がかかり、買
い控えが起きて、かえって税収が減ると主張するのです。
 ここに岸田首相がなぜ減税を行わず、企業への補助金にこだわ
る理由があります。補助金の場合は、すぐ戻せますが、法律の場
合は一度やってしまうと、簡単には戻せないからです。しかし、
消費減税に野党は反対しないし、協力すると思われるので、法律
改正はそんなに時間はかからないはずです。本音は岸田政権とし
ては、消費減税だけはやりたくないのでしょう。
 なお、解散が取り沙汰されていますが、10月22日に衆参の
2つの補選があり、その状況があまり芳しくなく、解散は難しい
と考えられているからです。
           ──[物価と中央銀行の役割/033]

≪画像および関連情報≫
 ●減税が焦点となってきた経済対策:税収の上振れ分を
  減税で国民に返すべきなのか?
  ───────────────────────────
   岸田首相は9月25日に、5本の柱からなる経済対策の方
  針を示した。対策の中核を成すのは、国民が高い関心を持っ
  ているガソリン及び電気・ガス料金の補助金制度延長などの
  物価高対策である。
   さらに経済対策の狙いについて岸田首相は、「経済成長の
  成果である税収増などを国民に適切に還元すべく対策を実施
  したい」とし、減税措置を検討する考えを示唆している。
   具体的には企業の生産・販売量に応じた法人税の税額控除
  制度の創設、特許など知的財産から得られる所得の税優遇措
  置、税優遇の対象となるストックオプション(株式購入権)
  の拡充を通じた外部人材確保の促進などが検討されている。
   さらに2023年度末までの既存の賃上げ税制を延長した
  うえ、赤字で税額控除を受けられない中小企業に新たに控除
  の繰り越しを認めることも検討されている。
   岸田首相は「税収増を国民に還元」と説明しているが、実
  際に検討されているのは個人ではなく企業に対する減税措置
12345678901234567890123456789
  であり、さらに税率引き下げなどの直接的な減税措置ではな
  く、税控除拡大などの間接的な措置である。しかし、岸田首
  相の「税収増を国民に還元」、「減税」という発言が、自民
  党内に減税議論を一気に巻き起こしており、減税が経済対策
  の大きな焦点となってきた感がある。
                 https://onl.bz/eENSRQV
  ───────────────────────────
経済対策の骨子を説明する岸田首相.jpg
経済対策の骨子を説明する岸田首相
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2023年10月10日

●「なぜ、米長期金利は上昇しているか」(第6024号)

 このところ日経平均株価が下がっています。10月5日の日経
平均株価は3万1075円36銭です。9月14日から10月5
日までの15日間の騰落数は次の通りです。○印は前日より上昇
/●印は前日より下落を表しています。
─────────────────────────────
      14日      〜      5日
        ○○●●●●○●○●●●●●○
─────────────────────────────
 下落の原因は何でしょうか。何よりも米国のインフレが収まっ
ていないことが原因としてあります。米国の長期金利の高止まり
を受けて、米景気の下押しリスクへの警戒感が強まったので、米
連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めが長期化するとの懸念
もあって、日本株はほぼ全面安の展開になったのです。一般的に
金利上昇の局面には、次の2つのパターンがあります。
─────────────────────────────
    @好景気に伴う企業の資金需要を見込んで上がる
    A財政悪化など国債の信用リスクの悪化で上がる
─────────────────────────────
 今回の金利上昇は明らかにAであるといえます。米政府は政府
封鎖こそ何とか回避したものの、10月3日には米連邦議会下院
が野党・共和党トップがのマッカーシー議長の解任動議を可決し
ています。そのため、米政府の利払い負担が急増するなか、財政
運営が混乱するとの見方から債券売りが進んだのです。
 これに伴い、米国では、長期金利が5%を超えるとの観測が強
まっています。金利が上昇すれば国債価格は下がり、米地銀など
が保有する国債の含み損がさらに脹らみ、銀行が融資を絞り込む
と、金融市場への負荷が高まる恐れがあります。
 長期金利の上昇について10月6日付の日本経済新聞では、4
人の米著名投資家の見解を掲載しているので、その見解を以下に
ご紹介します。
─────────────────────────────
◎ラリー・フィンク/ブラックロックCEO
 「長期金利は少なくとも5%かそれ以上になる」
◎ビル・アックスマン/バーシング・スクエア・キャピタル・
 マネジメントCEO
 「長期金利は近く5%に迫るとみている」
◎ビル・グロス/ビスコム共同創業者
 「債券市場は国債供給の人質」
◎JPモルガン/ジェイミー・ダイモンCEO
 「7%のような金利上昇への備えはできているだろうか。最
 悪のケースは7%の高金利と(インフレと景気後退が共存す
 る)スタグフレーションの併存だ」
        ──2023年10月6日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ここで考えてみるべきことがあります。「長期金利が上がる」
ということについてです。どのようなときに、長期金利は上昇す
るのでしょうか。金利には、その期間によって、次の2つがあり
ます。
─────────────────────────────
  @長期金利
   1年以上の金融資産の金利。代表例は10年物国債
  A短期金利
   1年未満の金融資産の金利。  代表例は政策金利
─────────────────────────────
 一般的に「利上げする」というときは、中央銀行が金融政策と
して、短期金利(政策金利)を上げることをいいます。長期金利
は、需給バランスや短期金利の推移、物価の変動などさまざまな
要素で変動します。なかでも、関係が深いと考えられているのが
国内景気、国内物価、為替、海外金利などです。
 長期金利が下落すると、株価は上昇するのが一般的です。なぜ
なら、金利が下がると、債券を購入するよりも株式を購入したほ
うが有利だと考えられるからです。逆に金利が上昇すると、債券
を買う投資家が増えるため株価は下がる傾向があります。とくに
米国債の長期金利は、世界中のさまざまな金融商品の指標にされ
ています。その利回りが上昇しつつあるのです。
 加えて長期金利は住宅ローンの金利にも関係します。当然金利
が低いほうが総返済額を低く抑えられます。とくに固定金利の場
合、借りた時点での金利によって、総返済額が大きく変わってく
るのです。
 問題は米国の長期金利の上昇はどこまで続くのでしょうか。上
昇した結果、どうなるのでしょうか。これについて、10月5日
付の日本経済新聞は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 米長期金利の上昇はどこまで続くのか。「市場は金利の適正水
準を探りあぐねている」。米ゴールドマン・サックスのトレーダ
ーは9月末の顧客向けメモでこう指摘した。10月に入っても状
況は変わっていない。
 「5%を超えても大きく上昇していく可能性はある」。大和証
券の谷栄一郎チーフストラテジストは、バイデン米政権の積極財
政に伴う国債の増発が今後も金利上昇を促していくとみる。もっ
とも、「5%という心理的節目に達すれば、マクロ系のヘッジフ
ァンドなどを中心に買い場とみる投資家も増えてくる」(東海東
京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジスト)と、一部の投資家
の買いが上昇トレンドを一服させるとの見方も根強い。
 FRB高官による講演や6日発表の9月の米雇用統計など、週
内は年内の利上げ見通しを左右するイベントが相次ぐ。米長期金
利の動向が世界の金融市場を揺らす展開はしばらく続きそうだ。
         ──2023年10月5日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/034]

≪画像および関連情報≫
 ●米国債メルトダウン:米国10年国債利回り5%に
  強い違和感
  ───────────────────────────
   米国債の価格急落、利回りの急上昇が続いている。いわば
  メルトダウン状態である。米国10年国債利回りは足元で、
  4・8%まで上昇し、5%台が目前に迫っている。30年国
  債利回りは既に4日に5%に達している。これは、2007
  年以降で初めてである。米国での長期国債利回りの上昇は、
  今春に生じた米銀の経営不安を再燃させかねない。
   米国の長期国債利回りの上昇こそが、日本では円安進行を
  促し、物価高を助長することで政府を苦しめている。またそ
  れは、日本の長期国債利回りを上昇させ、7月のイールドカ
  ーブ・コントロール(YCC)柔軟化後の日本銀行の利回り
  コントロールを難しくさせている。さらに、米国の長期国債
  利回りの上昇が米国の株価下落を促し、その影響で日本の株
  式市場も逆風に見舞われている。
   7月以降、米国の10年国債利回りは、ほぼ1直線に1%
  ポイント程度上昇してきた。これとほぼ連動して生じている
  のが、ドル高だ。7月に実施したYCCの運営柔軟化措置に
  よって、日本の10年国債利回りには上昇余地が広がった。
  これは米国の国債利回りが上昇する中でも、日米長期利回り
  の拡大を一定程度抑え、円安リスクを軽減しているはずであ
  る。しかしながら、米国の10年国債利回りの上昇があまり
  にも急速であるため、YCCの運営柔軟化後に円安はさらに
  進んでいる。        https://onl.bz/MeZMCPL
  ───────────────────────────
9月のFOMC後に米金利上昇が加速.jpg
9月のFOMC後に米金利上昇が加速
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2023年10月11日

●「景気後退軟着陸に挑む米FRB」(第6025号)

 ジェローム・パウエル米FRB議長の苦闘が続いています。2
020年3月13日のトランプ大統領によるコロナウイルスへの
対応のための国家非常対宣言以来、パウエル議長は大車輪の活躍
を続けています。当初は、世界的なパンデミックに対応するため
金融緩和を実施することであり、2021年3月からは世界イン
フレへの対応策です。そして、2022年2月24日にロシアに
よるウクライナへの侵攻が起きます。
 パウエル氏がFRB議長に就任したのは、2018年のことで
す。トランプ大統領は、リベラル色の強い前任のジャネット・イ
エレン氏を嫌っていて、ゴールドマン・サックス出身のゲーリー
・コーン米国家経済会議委員長(当時)への交代が、ほとんど決
まっていたのです。
 しかし、トランプ大統領がネオナチなどを含む白人至上主義者
を擁護するような発言するのを聞いて、コーン氏は辞退し、パウ
ェル氏がFRB議長に選ばれたのです。パウエル氏は、ウォール
街の投資ファンドで活躍していた法律の専門家で目立たない人物
であり、理事としてFRBに務めた6年間に、一度も反対票を投
じたことがなかったことでも知られています。そのためか、そう
いうパウエルに対して「ミスター普通」のニックネームが付けら
れたのです
 そのパウエル議長がここまで何をやってきたかについては、こ
の後振り返りますが、米国に関しては、少なくとも、2023年
7月には、パウエル議長による景気後退を回避する軟着陸のシナ
リオが現実性を増してきていることは確かなことです。
 2023年7月までの経済状況については、7月20日付の日
本経済新聞会員限定記事に次のように書かれています。
─────────────────────────────
 7月19日午前の米株式市場でダウ工業株30種平均は8日続
伸し、1年3カ月ぶりの高値で推移する。投資家心理を支えるの
がインフレの減速だ。この日発表の経済指標は予想に届かなかっ
たが、「インフレ鈍化には好都合」との楽観論が先行する。12
日発表の6月の消費者物価指数(CPI)では前年同月比の上昇
率が3・0%と2年3カ月ぶりに4%を割れた。米モルガン・ス
タンレーのチーフ・グローバルエコノミスト、セス・カーペンタ
ー氏は「インフレを巡る議論の転換点となりうる」と強調した。
 モノの価格急騰は収束がはっきりしてきた。新型コロナウイル
ス禍では世界でサプライチェーン(供給網)が寸断され、深刻な
モノ不足となった。一方、サービスからモノへの需要のシフトを
伴いつつ、各国政府による巨額の財政出動が消費意欲を強く刺激
した。ここにきて供給網の正常化による供給制約の解消に加え、
米連邦準備理事会(FRB)の急激な利上げや中国などの景気停
滞を背景に、需要面も落ち着きつつある。
 サービス価格も、高止まりしてきた家賃がようやくピークアウ
トしてきた。民間の先行指標は減速が鮮明だったが、CPIの統
計上、利上げの効果が遅れて出てきた。残る焦点である「家賃を
除くサービス」も伸びが縮小しつつある。労働市場の逼迫を受け
て賃金に上昇圧力がかかり、値段を押し上げてきたが、賃金指標
にも減速する兆しがみえ始めている。https://onl.bz/3jgGVTm
──2023年7月20日付、日本経済新聞/有料会員限定記事
─────────────────────────────
 このまま行けば、2024年には利下げも視野に入り、景気後
退の軟着陸も視野に入る──このように思われていてましたが、
10月に入って予想外の長期金利の上昇が起きて、シナリオに大
きな狂いが出つつあります。
 これについて、10月8日の日曜日の日本経済新聞は、3面に
次の見出しを付けた記事を載せて、インフレによる景気後退の軟
着陸の難しさを伝えています。
─────────────────────────────
 ◎米長期金利/迫る5%/経済軟着陸に試練
  雇用大幅増、利上げ長期化の見方/財政信認低下も背景
 【ニューヨーク=三島大地】 米長期金利が5%の大台に迫って
きた。6日発表の9月の米雇用統計で、就業者数が市場予想を大
幅に上回り、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが長期化する
との見方が広がったためだ。足元の急激な金利上昇の根底には米
財政への信認低下もある。
         ──2023年10月8日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 米国における長期金利の上昇については、10日のEJでも取
り上げていますが、なぜ問題なのかについては、改めて詳しく説
明することにします。
 2020年3月3日早朝、G7は緊急の財務相会議を開き、次
の共同声明を出しています。
─────────────────────────────
 持続的な成長を実現するため、あらゆる政策手段を用いて、経
済の下方リスクに立ち向かう。  ──G7財務相会議共同声明
─────────────────────────────
 この日、FRBも臨時のFOMCを開き、0・5%の緊急利下
げを決めています。米FRBは、G7中トップでこれをやってい
ます。先手必勝は、通貨防衛の鉄則だからです。ちなみに、FR
Bが臨時FOMCを開いて、利下げをするのは、リーマンショッ
ク以来11年半ぶりのことです。
 FRBはその後も立て続けに緩和措置を連発しています。トラ
ンプ大統領の非常事態宣言後の15日には、日曜日にもかからわ
ず、再び臨時のFOMCを開いて1%の大幅利下げを行っていま
す。事実上のゼロ金利政策の再開であり、FRBは米国債を50
00億ドル購入する量的緩和も復活させています。
 それにもかかわらず12日の米株式市場では、ダウ平均が1日
で、2352ドル安と過去最大の下落幅を記録しています。しか
し、16日にはさらに2997ドル安に見舞われます。
           ──[物価と中央銀行の役割/035]

≪画像および関連情報≫
 ●新型コロナウイルスの感染拡大で米FRBが緊急声明を
  発表追加利下げの可能性高まる
  ───────────────────────────
   ジェローム・パウエル米国連邦準備制度理事会(FRB)
  議長は2月28日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた
  緊急声明文を発表した。FRBは「新型コロナウイルスの動
  向と経済見通しに与える影響を注意深く監視」し、「経済を
  支えるために、われわれの政策ツールを使い、適切に行動す
  る」とした。
   市場では今回の声明文発表を受けて、次回3月17、18
  日に予定されている米国連邦公開市場委員会(FOMC)に
  おいて、FRBは最大0・5ポイントの追加利下げを決定す
  るのではないかとの見方が広がりつつある。例えばシカゴ・
  マーカンタイル取引所(CME)のデータによると、3月2
  日時点において市場が織り込む次回3月会合における0・5
  ポイント利下げの確率は100%となっている。
   これに加えて、声明文では「米国経済の基盤は引き続き力
  強い」ものの、「新型コロナウイルスは経済活動にリスクを
  もたらしている」とし、経済の下押しリスクに対する強い警
  戒感も示された。企業の購買担当者に対するアンケート調査
  結果をみると、既に景況感の悪化が確認され、2月の米国の
  IHSマークイット製造業購買担当者指数(PMI)(2月
  21日発表)は、前月(53・3)から3・7ポイント減の
  49・6となった。拡大局面を示すベースラインの50を下
  回るのは、政府機関の一部閉鎖があった2013年10月以
  来、6年4カ月ぶりとなる。       ──JETRO
  ───────────────────────────
サービス価格の動向が焦点.jpg
サービス価格の動向が焦点
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2023年10月12日

●「高インフレを読み誤ったFRB」(第6026号)

 コロナ禍のとき、米FRBは何をしていたのかについて知って
おく必要があります。以下の記述は、次の新刊書を参考にさせて
いただいています。著者の河浪武史氏は、日本経済新聞社金融・
市場ユニット金融部長です。
─────────────────────────────
                  河浪武史著
     日本銀行/虚像と実像/検証25年緩和
             ──日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 コロナ危機に対応する米FRBのゼロ金利・量的緩和でも株安
をどうしても止められないでいたのです。そのため、FRBは、
2020年3月23日に「無制限に国債を購入する」決断をした
ところ、ようやく株価は下げ止まっています。
 このときパウエル議長の率いるFRBが恐れていたのは、デフ
レであり、「経済の日本化」です。当時米国のインフレ率は目標
である2%を下回っており、ここで企業の設備投資を押さえつけ
てしまうと、経済の成長力そのものが失われ、経済は長期停滞に
陥る──これだけは避けなければならないと考えていたのです。
 このとき、FRB内部で一番真剣に検討されたのが、YCC導
入です。YCCを定義すると、次のようになります。日銀では、
現在も黒田前総裁のときから実施しているYCCを継続して行っ
ています。
─────────────────────────────
◎YCC/Yield Curve Control
 イールドカーブコントロールは、中央銀行が特定の国債の利回
りをターゲットとし、買い入れ操作を通じてその利回りをコント
ロールする金融政策手法のことである。通常の量的緩和政策では
資産の買い入れ額を決定するが、YCCでは特定期間の利回りを
ターゲットに設定する。
─────────────────────────────
 FRBも1942年にYCCを導入しています。第2次世界大
戦のときです。米連邦政府の戦費の調達を助けるために導入した
ものの、戦後も連邦政府の圧力が続いて終了できず、低金利政策
が長く続くことになったのです。
 コロナ危機の今回もYCC導入が検討されましたが、FRB内
部プロパーで構成する執行部が強く反対を主張します。執行部は
「40年代の経験からすれば、政府債務の大量購入を求められ、
金融政策の目的と国債管理政策が対立する可能性がある」として
反対し、結局YCCの導入は見送られています。
 しかし、2020年4〜6月四半期の実質GDP成長率は前期
比マイナス29・9%(年率換算)という大変な落ち込みになっ
たのです。
 失業率は、2月3・5%、3月4・4%、4月14・7%まで
急上昇し、失業者数は570万人、720万人、2300万人と
大幅に増加し、米国景気はマヒ状態に陥ります。戦後最悪のマイ
ナス成長であり、戦後最悪の失業率です。
 事態の深刻さに気が付いた米議会は、3月6日には第1弾の経
済対策として、コロナ検査の拡充など83億ドルの財政出動を決
定、3月18日には1000億ドル規模の経済対策第2弾を発出
し、27日には過去最大の2兆ドルの経済対策第3弾が成立して
います。
 この米政府による大判振る舞いによって、中小企業に3500
億ドルの補助金、家計には1人最大1200ドルの現金を支給し
たほか、家賃の支払いや食材の購入などを支援しています。この
過去最大の巨額な財政出動を支えたのが、FRBが無制限に国債
を買い入れる量的緩和政策です。つまり、米国も日本と同じよう
に、異次元の金融緩和政策をやっていたことになります。このと
きは、長期金利は大幅に下落し、5月には史上最低の0・5%ま
で下がっています。
 米国のコロナ禍での金融緩和策で大活躍のパウエル議長に対し
て、トランプ大統領は電話をかけて、「ジェローム、グッドジョ
ップ!」とねぎらいの言葉をかけたといわれています。
 2021年1月にバイデン政権が誕生しますが、バイデン大統
領は、前任者に負けないように、1・9兆ドルの新型コロナ対策
を発動しています。この追加財政出動の規模は名目GDPの9%
分であり、いささか多過ぎたといえます。
 なぜなら、トランプ政権では、経済封鎖を早めに解除し、20
21年の春時点での実質GDPは、ほとんど危機前の水準に戻り
つつあったからです。しかし、この頃から物価が上昇し、インフ
レ気味になっていったのです。しかし、パウエル議長は「物価上
昇は一時的であって、長く続かいと判断します。しかし、2%の
インフレ目標が安定的に目標の2%に戻るのには3年程度はかか
る」と考えていたのです。そのために1・9兆ドルの経済対策は
必要であると考えたようです。
 しかし、2021年の春になると、インフレは止まるどころか
激しくなっていったのです。消費者物価指数(CPI)上昇率は
2021年3月には2・6%、4月には4・1%に急上昇し、6
月には5%、10月には6%、12月には7%台になります。完
全なインフレです。
 2021年春の時点でなぜFRBがインフレを読み誤ったので
しょうか。FRBは、あらゆる経済データを高度に分析できる実
力を持っているのになぜこのミスを犯したのでしょうか。それは
コロナ危機で発生した供給制約を経済モデルにおいて的確にとら
えられなかったことにあります。
 それは、このインフレがこれまでのインフレと違い、需要面で
なく、供給面に起因する特殊なものであるからです。渡辺努東京
大学大学院教授が『世界インフレの謎』を上梓した理由でもあり
ます。パウエル議長はまだ難問を抱え、このインフレを制御でき
ていないでいる状態にあります。
           ──[物価と中央銀行の役割/036]

≪画像および関連情報≫
 ●「アメリカは利上げ終えた」と期待する市場の甘さ
  ───────────────────────────
   FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレを退治したう
  えにアメリカ経済をソフトランディング(軟着陸)させるこ
  とに成功するかもしれないという期待が金融市場で着実に高
  まっている。物価上昇やその要因となる雇用市場の逼迫が落
  ち着き始めている指標が相次いで出ており、FRBの利上げ
  は事実上終わったとの楽観論も出ている。
   8月29日にアメリカ労働省が発表した7月の雇用動態調
  査(JOLTS)では、非農業部門の求人件数(季節調整済
  み、速報値)が882万7000件にとどまった。市場予想
  は950万件だったほか、2021年3月以来の低水準でも
  あり、予想以上に、労働需給の逼迫が緩和していると思われ
  た。市場はすぐさま反応した。同日は、株式市場でS&P5
  00指数が1・5%高となり、6月上旬以来の大幅上昇。ハ
  イテク株中心のナスダック総合指数も1・7%上昇と直近1
  カ月で最大の上げ幅を記録した。債券市場でも、政策に敏感
  に反応するアメリカ2年物国債利回りは0・12ポイント低
  下で4・89%、ベンチマークでもある10年債利回りは、
  0・1ポイント低下して4・12%となった。
   9月1日に発表された8月の雇用統計でも非農業部門雇用
  者数は18万7000人増加と市場予想を上回ったものの、
  6月と7月の伸びがそれぞれ下方修正された。
         https://toyokeizai.net/articles/-/698836
  ───────────────────────────
苦悩するパウエル米FRB議長.jpg
苦悩するパウエル米FRB議長
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2023年10月13日

●「米雇用統計は重要経済データである」(第6027号)

 「FRBは米国の中央銀行であり、日本の日銀と同じ」という
説明を繰り返していますが、これは必ずしも正しい表現とはいえ
ないのです。
 米国の中央銀行制度は、FRSと呼ばれますが、FRBはその
中心機関になのです。FRSは、「連邦準備制度」といい、次の
英語の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
          ◎FRS連邦準備制度
         Federal Reserve System
  なお、「Federal」の「Fed」(フェッド)と呼ぶこともある
─────────────────────────────
 したがって、米国の中央銀行(制度)というと、「FRS」を
指しますが、その中心機関がFRB(連邦準備理事会)であるの
で、FRBを中央銀行といっているのです。
 なお、FRBは、FRSの最高意思決定機関ですが、金融政策
を実施するほか、全米12地区の地区連銀──連邦準備銀行を総
括しています。
 そして、このFRBのメンバーと、地区連銀総裁が年8回集ま
って行われるFOMC(連邦公開市場委員会)がありますが、こ
れは、日銀の「金融政策決定会合」と同じです。
 制度の違い以外にも日銀とFRBには、その目的に違いがあり
ます。日銀もFRBも、金融政策、すなわち金利の上下を通じて
景気をコントロールする役割そのものは同じですが、掲げている
目標は微妙に異なります。
 日銀は、「物価の安定」と「インフレ目標2%達成と維持」が
目標ですが、FRBの場合は、それらに加えて「雇用の最大化」
つまり失業率を下げるという役割も担っています。
 しかし、「物価」と「雇用」は密接に関係しています。失業率
が高いとします。この場合、中央銀行は金融緩和をしておカネの
流れをよくして景気を回復させようとします。この政策がうまく
いって、景気が回復し、失業率が低下したとします。すると企業
は、労働者を確保するために賃金を上げます。すると今度は企業
がコスト増加に見合った利益を確保するため、販売価格を引き上
げ、物価が上がります。このように、雇用と物価と賃金はそれぞ
れ表裏一体の関係にあるのです。
 10月8日付の日本経済新聞に「米長期金利迫る5%」の見出
しとともに、次の報道が掲載されています。
─────────────────────────────
 6日の米債券市場で長期金利の指標となる10年物国債利回り
は、一時、前日比0・16%上昇(債券価格は下落)の4・88
%と、2007年8月以来16年ぶりの高水準に上昇した。直近
2カ月の上昇幅は0・8%に達し、5%が視野に入ってきた。
 金利を押し上げたのは同日、米労働省が公表した9月の雇用統
計だ。非農業部門の就業者数は、前月比33万6000人増えて
17万人程度だった市場予想を大きく上回った。人手不足感の強
かった娯楽・接客業が、約10万人増え、全体の増加につながっ
た。       ──2023年10月8日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 この記事のなかに「金利を押し上げたのは同日、米労働省が公
表した9月の雇用統計だ」という部分があります。この米国雇用
統計に注目してみます。
 米国雇用統計のなかで、とくに注目すべきは、「非農業部門雇
用者数」や「失業率」です。「非農業部門雇用者数」は、農業関
連以外の産業で働く人の数や増減をまとめたデータです。「失業
率」は、米国内の失業者数を労働力人口(失業者数と就業者数の
合計)で割った数値です。
 原則、毎月第1金曜日に、前月分の統計が発表されるので月次
データとしての速報性があります。厳密には毎月12日を含む1
週間を対象とし、約16万の企業や政府機関の中から約40万件
のサンプルを調査・集計し発表します。
 発表時間は米国時間の朝8時半です。日本時間では、米国夏時
間(サマータイム。3月第2日曜日から11月第1日曜日)の場
合は夜21時半、それ以外の時期(冬時間)は夜22時半です。
 この米国雇用統計のデータがメディアに流れる前後に為替や株
が大きく動くことが多く、世界中の投資家にとって重要なイベン
トになっています。動画などのライブ放送をしているメディアも
あるほど、注目されているのです。
 この米国雇用統計は、単にトレンドを見るのでなく、市場予想
との対比で見ることが主流です。経済調査機関が出した経済予想
の平均値を「市場予想(コンセンサス)」といいます。米国雇用
統計を見る場合、非農業部門雇用者数や失業率が、市場予想に対
して「ポジティブ・サプライズ(いい数字)」だったか、「ネガ
ティブ・サプライズ(悪い数字)」だったかによって、金融市場
に与える影響が異なってきます。
 ちなみに、非農業部門雇用者数は前月比の増減で表し、「前月
比○万人増」というように発表されます。失業率は失業者数を労
働力人口で割った比率で表し、「失業率○%」というように発表
されます。この結果において、次の判断ができます。
─────────────────────────────
       ◎米国雇用統計の結果がよいとき
           ──ドルが買われやすい
       ◎米国雇用統計の結果が悪いとき
           ──ドルが売られやすい
─────────────────────────────
 数次の利上げにもかかわらず、米国の労働市場は依然として堅
調で、FRB関係者によれば「バランスを崩している」。急激な
利上げにもかかわらず、労働力の需要が供給を上回っているので
です。なぜでしょうか。このあたりの関係について、来週のEJ
で分析していきたいと考えています。
           ──[物価と中央銀行の役割/037]

≪画像および関連情報≫
 ●長期金利が上昇 → 金利がわかれば経済がわかる
  ───────────────────────────
   「長期金利6年ぶりに一時0・2%台に上昇」「住宅ロー
  ン固定金利、6年ぶり高水準」、「米FRB/3月に利上げ
  へ」。最近の朝日新聞に載っていた記事の見出しです。どれ
  も金利が久しぶりに上がっているという内容です。金利が上
  がることの何がニュースなのか、と思う人もいるかもしれま
  せんが、金利は「経済の体温計」です。金利の動きを理解す
  れば、今の世界経済がわかります。ひょっとすると、今の金
  利上昇は世界経済の転換点を示しているのかもしれません。
   まず、金利とは何かというそもそも論から始めます。金利
  は貸し借りするお金に対する利子の割合のことです。では、
  利子とは何かということです。お金を借りる人が貸す人に払
  うお礼と考えればわかりやすいと思います。モノを借りると
  きも貸してくれる人にお礼をするのが一般的ですが、お金も
  同じです。わたしたちが銀行にお金を預けると利子がつきま
  すが、それはわたしたちが銀行にお金を貸すので、銀行はわ
  たしたちにお礼をしているのです。国が発行する国債にも利
  子がついています。国債を買う人は国にお金を貸すというこ
  とですから、借りる側の国が買う人にお礼をしています。お
  金を借りたい人が世の中にたくさんいて、お金を貸す人が少
  ないと、たくさんのお礼をしないと貸してくれません。この
  状態は景気のいいときですので、景気のいいときは一般的に
  利子の割合、つまり金利が高くなっていくといえます。逆に
  お金を借りたい人が少なくて、お金を貸したい人が多いと、
  お礼は少なくてすみます。これは不景気のときですから、一
  般的に金利は低くなっていきます。
       https://www.asahi.com/edua/article/14543422
  ───────────────────────────
米長期金利は一時4・88%まで上昇.jpg
米長期金利は一時4・88%まで上昇
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2023年10月16日

●「なせ、長期金利は突然急落したか」(第6028号)

 連休明けの10月10日のことです。それまで株安・円安が続
いてきた東京市場では、これに急ブレーキがかかり、日経平均株
価は751円高と今年一番の今年最大の上昇になったのです。ち
なみに、10月10日の日経平均株価は3万1713円62銭で
す。3万円台を安定して維持しています。
─────────────────────────────
    9月20日    〜       ⇒10日
        ●●●○●○●●●●●○●○○
─────────────────────────────
 日経平均株価に影響を与えているのは、米FRBがインフレを
抑えるために行っている追加利上げです。利上げは、金融引き締
めることになるので、利上げが繰り返し行われると、米景気が後
退し、それに影響されて、日経平均株価が動くのです。
 原因は米10年物国債利回りの急落です。6日には「4・88
%」まで上昇(価格は低下)して5%を窺う勢いだったものが、
10日のアジア時間の取引では「4・6%台」まで低下したので
す。低下の原因としては、次の2つがあります。
─────────────────────────────
      @FRB高官による利上げへの抑制発言
      A労働市場の逼迫感が若干緩和している
─────────────────────────────
 FRB高官が相次いで足下の長期金利上昇を警戒した発言──
10日のEJ参照──をしたことにより、金利がそれ以上上昇す
るのを防いだといえます。FRBジェファーソン副議長はこれに
ついて講演で次のように述べています。
─────────────────────────────
 追加的な引き締めがどの程度必要かを慎重に見極める状況にあ
ると考える。        ──FRBジェファーソン副議長
─────────────────────────────
 次回の米FOMCは、10月31日〜11月1日ですが、FR
B高官らの発言によって、利上げの予想が3割台から、1割台に
落下しています。
 長期金利低下の原因のAは、労働市場をどう見るかによって異
なります。「堅調」ととらえるか、「緩和」と見るかで、意見は
分かれています。9月の米雇用統計で特徴的なのは、ここまでの
数次にわたるFRBによる利上げにもかかわらず、9月の米雇用
統計は、非農業部門の雇用者数の伸びが33・6万人と市場予想
を大幅に上回っているのです。
 何が起きているのでしょうか。この米国の非農業部門雇用統計
に基づく直近の興味あるレポートがあります。働き方を見直した
労働者による影響を論じています。
─────────────────────────────
 最新の統計によると、2023年1月の非農業部門雇用者数は
51万7000人増(季節調整済み)で、予想の平均の18万7
000人を3倍近く上回った。失業率は3・4%に低下し、過去
50年で最低の水準となっている。また、2022年12月時点
で、失業者1人につき2人近い求人がある。FRBが利上げペー
スを減速して、インフレの抑制に努めているにもかかわらず、労
働市場はなぜこれほど逼迫しているのだろうか。
 エコノミストは労働人口の減少を指摘している。実際、労働市
場参加率は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの直前か
ら0・9ポイント低下している。労働年齢にある米国人のほぼ1
%が、パンデミック前は働いていたが、現在は働いていないとい
うことだ。これは新型コロナに関連する早期退職だけでなく、パ
ンデミック以前から続く長期的な傾向を反映している。
         https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9409
─────────────────────────────
 興味深い指摘であると思います。労働力の供給には、次の2つ
の要素があります。
─────────────────────────────
       @         労働者の数
       A労働者1人当たりの労働時間数
─────────────────────────────
 多くの場合、労働者の数の増減が注目されます。米国の非農業
部門の雇用統計によると、労働者の数──労働に参加する人は増
えています。しかし、よく考えてみると、労働者の数が増加した
だけでは、真の労働供給量は決められないのです。そこに労働者
1人当たりの労働時間数が問題になっています。
 実際には、労働供給は需給の差に合わせて調整されるため、一
般に、労働市場が逼迫したり緩和したりするのは、雇用者や求職
者の数が、増えたり減ったりするからであるといえます。
 パンデミックからの回復に関してこのレポートでは、次の点を
指摘しています。
─────────────────────────────
 パンデミックからの回復は例外的だ。米国の総労働時間は20
19年から2022年にかけて、一人当たり年間33時間の減少
に相当するほど落ち込んだ。筆者たちの推定では、このうち15
時間は労働者の数の減少によるもので、残りは労働時間の減少に
よるものだ。
 つまり、米国の雇用者の労働時間は平均すると減少している。
では、誰の労働時間が減っているのだろうか。より顕著なのは学
号を持つ25〜55歳の男性、高収入の男性の労働時間が最も減
っている。たとえば、男性労働者の収入上位10%(年収14万
ドル以上)は、2019年の週44・7時間から2022年には
週43・2時間へと1時間半も減っている。対照的に、男性労働
者の収入下位10%(年収2万2000ドル未満)は2019年
の週22・6時間から2022年は23・4時間に増えている。
        https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9409
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/038]

≪画像および関連情報≫
 ●米雇用統計(23年9月)−非農業部門雇用者数は市場予
  想を大幅に上回る増加
  ───────────────────────────
   10月6日、米国労働統計局(BLS)は9月の雇用統計
  を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+33・6
  6万人の増加(前月改定値:+22・7万人)と+18・7
  万人から上方修正された前月、市場予想の+10・0万人を
  大幅に上回った。
   失業率は、3・8%(前月:3・8%、市場予想:3・7
  %)と前月に一致、低下を見込んだ市場予想を上回った。労
  働参加率は62・8%(前月:62・8%、市場予想:62
  ・8%)と前月、市場予想に一致した。
   9月の非農業部門雇用者数は市場予想の倍の増加を示した
  ほか、過去2ヵ月分が合計で、+11・9万人の大幅な上方
  修正となった結果、23年7〜9月期の月間平均増加ペース
  は、+26・6万人増と、23年4〜6月期の同+20・1
  万人増、23年初からの同+26・0万人増を上回っており
  足元で雇用増加ペースが再び加速していることを示した。
   一方、労働参加率は20年2月以来となった8月の水準を
  維持しており、人口動態から構造的に低下基調となる傾向を
  考慮すれば、水準を維持しただけで労働供給の回復継続を確
  認したと言えよう。       https://onl.bz/ri2fLn3
  ───────────────────────────
11月FOMCでの利上げ確率は低下.jpg
11月FOMCでの利上げ確率は低下
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2023年10月17日

●「あのバブルでも物価は動いていない」(第6029号)

 とんでもないことが起きています。ロシアによるウクライナ侵
攻が膠着状態に陥り、イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃
が起き、国際社会は、2つの大きな戦争を抱えることになってし
まったからです。
 7月10日からスタートしたEJの今回のテーマは「物価とは
何か」を追及しています。しかも、2023年の日本経済は、長
期デフレではなく高インフレが起きており、いつもとは異なる様
相を見せ、もしかすると、株価が4万円を超える可能性があり、
その周辺の情報を集めてお送りしています。日経平均株価の最高
値は次の通りです。バブル経済の絶頂期の記録です。
─────────────────────────────
   ◎1989年(平成元年)12月29日(大納会)
                3万8915円87銭
─────────────────────────────
 1980年代後半の日本は、「バブル景気」に湧いていた時代
です。ところで「泡」を意味する「バブル」という経済現象とは
どういう現象なのでしょうか。
 バブルは、不動産や株の価格が急上昇する景気過熱の経済現象
です。しかし、日本では、1990年代のはじめにはじけてしま
い、株は暴落するし、不動産は大幅値下がりし、買い手がつかず
ビジネスは停滞してしまったのです。その後、日本経済はデフレ
に突入し、現在まで続いています。
 このとき景気は超過熱しましたが、一つだけガンとして動かな
かったものがあります。それは「物価」です。そのとき物価に関
しては、ほとんどの人が気にしていませんしたが、このことを気
にしていた人物がいます。当時日銀職員だった渡辺努東京大学大
学院教授です。その当時のことについて、渡辺教授は次のように
述べています。
─────────────────────────────
 1980年代後半のバブル真っ盛りのころは景気も超過熱して
いたので、価格が上がるのが当然なのに、実際はそうならなかっ
たのです。私はそれが不思議でなりませんでした。消費者物価指
数(CPI)で測ったインフレ率の動きは極めて緩慢で、株価が
ピークをつけた1989年12月でもインフレ率は2・9%にし
かずぎませんでした。物価が停滞する近年の基準からすると、十
分に高く見えますが、当時の景気の過熱ぶりからすると、あり得
ないくらい低い水準です。
 物価が動かなかったのは、上がるべきときだけでなく、下がる
べきときもそうでした。バブルがはじけ景気が悪化し、失業率は
3%超まで悪化していきます。企業の生産も1992年春には前
年を1割下まわるという危機的な状況になりました。しかし、そ
の時点でのインフレ率2・5%程度であり、それまでより若干低
くなったとは言っても、物価安定が損なわれていると問題視され
る水準ではありませんでした。        ──渡辺努著/
         『物価とは何か』/講談社選書メチェ758
─────────────────────────────
 問題は、バブルが脹らんでも物価が上がらなかったことによっ
て、日銀が金融引き締めに動かなかったことにあるといえます。
もし、1980年代後半に物価が上がっていれば金融政策によっ
てバブルがあそこまで拡大しなかったといえます。
 同様に、バブルが1990年代前半に物価が急激に下がってい
たら、日銀はデフレを避けるため、大規模な金融緩和を行ってい
たはずです。残念ながら、日銀は両方とも動いていないのです。
 その当時の日銀総裁に責任をかぶせるつもりはありませんが、
バブルとその後始末に最も関連があったと思われる日銀総裁4人
を参考までに次に掲載しておきます。
─────────────────────────────
    ◎バブルに関係のある日銀総裁
     澄田 智 ・・・ 1984〜1989
     三重野康 ・・・ 1989〜1994
     松下康雄 ・・・ 1994〜1998
     速水 優 ・・・ 1998〜2003
─────────────────────────────
 経済学のテキストには「モノの値段は需要と供給のバランスに
よって決まる」と書いてあります。需要というのは「買いたい」
ということ、供給とは「売りたい」ということです。売り手と買
い手の間で意見交換を行うわけではありませんが、自然と売り手
と買い手の折り合いがつく値段に決まるというのです。
 しかし、「需要」と「供給」が食い違っているときは、なかな
か「価格」が調整されないのです。詳細については、欄外の≪画
像および関連情報≫を読んでください。需要と供給を一致させる
という市場の機能が十分に働くのであれば、中央銀行が金融政策
や財政政策によって有効需要を増やす必要はないのではないかと
いう疑問もあります。
 しかし、もともと物価は動きの鈍いものであり、これを「価格
の硬直性」と呼んでいます。ケインズが提唱したものです。これ
は、安倍元首相と黒田前日銀総裁が2013年から挑戦したアベ
ノミクスス「2%の物価目標」がないない達成されないというこ
とからも理解できると思います。これは、日銀にとって、世紀の
大実験であったといえます。
 「価格の硬直性」は1936年出版の『一般理論』で提唱され
て以来、ケインズに続く経済学者たちは、深くその理由を考える
こともなく、マクロ経済学といえば、「価格は動かない」という
前提の下で、失業や金融政策や財政政策を議論してきていますが
本格的な研究が始まったのは、2000年代に入ってからのこと
です。「バブルでも物価は動かない」──その理由を追及するこ
とはきわめて困難なことです。起こったことの追及はできますが
起こらなかったことのそれは、そもそも関心がないし、極めて困
難なことであるからです。
           ──[物価と中央銀行の役割/039]

≪画像および関連情報≫
 ●「モノの値段」ってどうやって決まるの?
  ───────────────────────────
   モノの値段の決まり方を知るために、100人の島にある
  リンゴを例に考えてみます。100人の島には、「リンゴを
  欲しい」と思っている人が15人いるとします。この15人
  全員が、「リンゴを100エンで買いたい」と思っているわ
  けではありません。人によっては、「200エンなら買いた
  い」「50エンなら買いたい」「そもそも、リンゴは買いた
  くない」と思うでしょう。同じようにリンゴが欲しいと思っ
  ていても、「リンゴ1個、〇〇エンなら買ってもいいかな」
  という買い手の価格感覚はそれぞれです。
   一方で、リンゴを売りたいと思っている人も15人いると
  します。この場合も、人によっては、「50エンでも売りた
  い」と思う人もいれば、「250エンなら売りたい」と思う
  人もいるでしょう。このように、「リンゴ1個、〇〇エンな
  ら売りたい」という売り手の価格感覚もそれぞれだというこ
  とが分かります。
   このように値段に対する買い手の人数分布を「需要曲線」
  売り手の人数分布を「供給曲線」と言い、この両者が存在す
  ることで値段が決まります。
  https://sanctuarybooks.jp/webmag/20220929-10675.html
  ───────────────────────────
1989(平成元年)12月29日大納会.jpg
1989(平成元年)12月29日大納会
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2023年10月18日

●「3つのシナリオ/原油価格に影響か」(第6030号)

 物価の話に戻そうと思ったのですが、またしても金利の話をし
なければならなくなりました。原因は、いうまでもなく10月7
日に発生したイスラエルとイスラム組織ハマスとの激突です。
 2023年10月16日付、日本経済新聞は、3面に次の記事
を掲載しています。なお、この原稿は16日に書いているので、
2日間で中東情勢がどう動くかについては予想できていません。
─────────────────────────────
◎米金利乱高下・中東緊迫、揺れる市場/中東緊迫/混迷深まる
                FRB追加利上げ見方割れる
 米長期金利の乱高下で世界の金融市場が揺れている。米連邦準
備理事会(FRB)による追加利上げを巡る見方はなお割れる。
イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に伴う中東情勢の影響も
読み切れず、市場は原油高の再燃などに身構える。
        ──2023年10月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 一般的な常識として、中東で何かが起きれば原油価格が上昇し
経済に影響を与えることは必至です。しかし、こんなことが起こ
ろうとは、だれも予想していなかったはず。大きな情勢変化であ
るといえます。
 このところEJは米長期金利の動きに注目しています。10月
上旬の米長期金利は、9月中旬の4・3%から4・88%まで上
昇し、5%を窺う勢いだったのです。このままでは、FRBは、
さらなる利上げが必要となり、インフレを軟着陸させることは困
難になります。
 ところが、9月の米雇用統計の数字がかなり良かったことによ
り、米長期金利は4・6%台に下がったのです。FRB高官の発
言も原因になっています。この数字は、過去50年で最低のレベ
ルです。日経平均株価はこれを好感して3日間で1500円近く
上昇していますが、今回のハマスによるイスラエル襲撃後の12
日、米国の消費者物価指数(CPI)は、市場の予想を大きく上
回ったのです。これによって、長期金利は4・7%へ上昇に転じ
潮目が変わったように見えます。
 問題は、このイスラエルとハマスの戦闘が原油高に火をつける
かどうかでです。これについてイスラエルのネタニアフ首相は、
「ガザに軍事侵攻し、制圧し、ハマスを根絶やしにする」といっ
ています。イスラエルは、ハマスによって突然攻撃され、大勢の
人が亡くなっています。したがって、イスラエルとしては、ハマ
スに対して、手緩い対応ができないのです。
 イスラエル軍は、形式上はガザ地区の住民に対し、「南に逃げ
ろ」と呼び掛けていますが、その一方でガザ地区のライフライン
を絶ったうえで、空爆をしており、実際に南に逃げられる人ごく
小数であると思われます。「できないことをやれ」といっている
のに等しいのです。
 ここで大事なことは、「パレスチナ=ハマス」ではないという
ことです。この関係について、明確にしておく必要があります。
─────────────────────────────
 ハマスとは、パレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織。
イスラエルの破壊と、その後のイスラム国家の樹立を、目標に掲
げている。2007年にガザ地区を掌握して以来、イスラエルと
何度か交戦してきた。戦争と戦争の合間にも、イスラエルに向け
てロケット弾を何千発も発射するほか、他の武装勢力にも発射さ
せてきた。別の攻撃方法でもイスラエル人らを殺害してきた。一
方のイスラエルも、繰り返しハマスを空爆。2007年からは治
安対策を理由に、ガザ地区をエジプトと共同で封鎖している。
                 https://onl.bz/ErS33qu
─────────────────────────────
 もし、イスラエル軍によるガザ地区への軍事侵攻が行われ、そ
こで大勢のパレスチナ人が亡くなると、ヒズボラがハマスを支援
する可能性が高いといわれます。
 ヒズボラとは、1982年に結成されたレバノンのシーア派イ
スラム主義の政治組織であり、ハマスを上回る武装組織です。イ
ランとシリアの政治支援を受け、その軍事部門はアラブ・イスラ
ム世界の大半で抵抗運動の組織とみなされています。ヒズボラの
バックにはもイランが控えています。
 この原稿を書いている時点では、まだ地上戦ははじまっていま
せんが、欧州金融大手UBSは、事態の推移によって、次の3つ
のシナリオを立てています。
─────────────────────────────
◎欧州金融大手UBSによる3つのシナリオ
 @イスラエルとハマスの敵対行動の速やかな停止が、人道的に
  最善で、市場の緊張も和らぐ。
 A長期化しても、対立がイスラエルとハマスの地域に限定され
  るなら市場への影響は薄れる。
 Bイランが関与し、米国がイラン制裁を強化する事態になると
  原油価格に重大な影響が出る。
        ──2023年10月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ドルと原油は逆相関の関係にある──原油が上がるときは、ド
ルが下がったのです。この関係は、資源輸入国にとっては、自国
通貨建ての原油価格を安定化させる方向に働いてきています。し
かし、この経験則がコロナ禍とウクライナ戦争を機に、効かなく
なってしまっています。つまり、供給面から原油高を招きやすい
構図が出来上がってきているといえます。
 もし、「ドルと原油の同時高」ということになると、日本や欧
州のような資源輸入国は一層苦しくなります。そして何よりも、
原油高によるインフレの懸念が浮上すれば、FRBの引き締めの
長期化は必至です。さらに西側陣営にとって何よりも困ることは
原油高がロシアを利することであり、それを中国がどのように見
るかという点にあります。
           ──[物価と中央銀行の役割/040]

≪画像および関連情報≫
 ●イスラエルとハマス衝突、ロシアは双方に停戦要求
  ──ウクライナ支援への関心低下狙いか
  ───────────────────────────
   イスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に対し
  ロシアが双方に停戦を求めた一方で、ウクライナはイスラエ
  ル支持を明確に打ち出し、対照的な反応を示した。ロシア側
  がウクライナ侵略への関心を低下させるため、情報戦に乗り
  出したとの見方もある。
   ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は7日、事態の深
  刻化に懸念を示した上で「75年にわたる紛争は武力ではな
  く、政治・外交的な手段でのみ解決できる」とし、双方に即
  時停戦を求めた。ロシアは中東情勢で中立的な立場を維持し
  てきた。ハマスを支持するイランとは友好関係にあり、イス
  ラエルとも関係を維持するためだ。イスラエル側も米欧主導
  の対露制裁やウクライナへの軍事支援からは距離を置く。
   米政策研究機関「戦争研究所」は7日、ロシアは中東の軍
  事衝突を「西側諸国のウクライナへの支援や関心をそぐため
  の情報戦に利用する」と分析した。実際、メドベージェフ前
  大統領はSNSに「(中東情勢こそ)米国やその同盟国が取
  り組むべきだ」と投稿した。
   一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領
  はSNSでハマスの攻撃を「テロ」とし、「イスラエルが自
  衛権があるのは議論の余地がない」と投稿した。米欧各国と
  同様、イスラエルを支持する姿勢を示している。
  https://www.yomiuri.co.jp/world/20231008-OYT1T50138/
  ───────────────────────────
米長期金利の振れ幅の大きさが市場を揺らす.jpg
米長期金利の振れ幅の大きさが市場を揺らす
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2023年10月20日

●「岸田首相はどんな減税を打ち出すか」(第6031号)

 米債券市場で、長期金利の乱高下が続いています。10月の今
日まで、長期金利が、1日に「0・1%」以上変動する日は7割
を超えています。これは、3月の米地銀の破綻が相次いだ以来の
荒い値動きになっています。
 ウクライナ戦争に加えて、中東でも戦争が起きる一歩手前にあ
り、情勢が読み難くなっています。そこで今日は金曜日でもある
ので、国内の問題を取り上げることにします。
 日本の政治の世界では不思議なことが起きています。岸田首相
が「減税」を口にしているからです。何度も述べているように、
岸田首相の辞書には「減税」ということばはないはずです。
 ネットでは、岸田首相のことを「増税メガネ」と呼んでいます
が、「なぜ、増税メガネ」なのでしょうか。これについて、国民
民主党代表の玉木雄一郎氏は、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 私はやっぱり、総理がもう少し、喜怒哀楽を出されたほうがい
いんじゃないか。この前もパネル作ってやってましたけど、何か
学校の先生がやってるみたいで、多くの人が黒板を見て指差しさ
れると嫌な感じばっかり印象に残っている。メガネかけた学校の
先生に難しい授業を教わっている感じになって、伝わるべきもの
は伝わってないんじゃないかな。
               ──玉木雄一郎国民民主党代表
─────────────────────────────
 それにしてもなぜメガネなのでしょうか。それは、2015年
の第28回目になる「日本メガネベストドレッサー賞」の政治部
門の賞を外務大臣のときに受賞しているからです。
 確かに岸田首相は、上品で、メガネも似合うし、スーツをきち
んと着こなして、外務大臣としての風格はあります。外務大臣を
長くやっているところから、語学力も達者です。しかし、岸田内
閣の最新の支持率は、今月の14日から15日に実施された朝日
新社の調査によると29%、不支持率は60%です。
 時事通信の10月調査によると、岸田内閣の年代別支持率は若
者の支持率が非常に低いのです。
─────────────────────────────
          ◎岸田内閣の年代別支持率
       18〜29歳 ・・ 10・3%
         30歳代 ・・ 18・1%
         40歳代 ・・ 25・1%
         50歳代 ・・ 24・0%
         60歳代 ・・ 32・4%
        70歳以上 ・・ 36・0%
                 ──時事通信の10月調査
          2023年10月18日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 内閣の支持率は年齢にほぼ比例するといわれます。そうすると
29%という支持率は70歳以上に位置づけられます。「70歳
以上」と「18〜29歳」は「25・7%」の開きがあります。
数字は出していませんが、男女別では「男性/29・9%」「女
性/22・5%」となっています。
 つまり、岸田内閣は、高齢者/男性の支持が高く、若者/女性
の支持が低いのが特徴なのです。若者の支持が高かった安倍内閣
と大きな違いがあります。これについて、井田正道明治大学教授
(計量経済学)は次のように述べています。
─────────────────────────────
 安倍内閣はキャッチフレーズがうまく、何か新しいことをやっ
ているイメージがありました。若者の雇用も改善した。菅内閣に
は携帯電話の料金を大幅に下げるという実績があった。だから、
若者の支持が高かったのでしょう。ところが岸田内閣からは何を
やりたいのか、ビジョンやメッセージが見えてこない。若者は、
そこにモノ足りなさを感じているのだと思います。
                 ──井田正道明治大学教授
          2023年10月18日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 10月17日のことです。自公両党は、岸田首相に経済対策の
提言を提出しています。しかし、このなかには、所得税減税の明
記は見送られています。これは、岸田首相が「減税の話は自分が
直接話す」といったからです。減税の話をする前に、先にアドバ
ルーンが上がってしまうと、自分が話すときのインパクトという
か、効果が小さくなると考えているのだと思います。
 すべてにおいて話が小さいのです。岸田内閣は、当初は「賃上
げ税制」など、国民に直接給付するのではなく、ガソリンの補助
金のように企業を通して給付しようとします。ガソリンに関して
は「トリガー条項」があるにもかかわらずです。お蔭で補助金を
託された石油会社は大儲けです。国民に直接給付するより、企業
を通して渡した方が、企業も政府に協力してくれるという発想で
しょうか。
 もし岸田内閣が所得税を減税をするとなると、どのくらいの規
模になるでしょうか。2020年に一律10万円配った特別定額
給付金の予算規模は、12兆8800億円ですが、今回はそんな
余裕があるわけはなく、せいぜい2兆〜3兆円の規模にとどまる
ことになると思います。
 しかも、これだけでは、課税最低限以下の低所得層には恩恵が
及ばないので、給付金が必要です。これら非課税世帯への給付金
とワンセットにすると、減税の規模は大きく縮小され、物価高対
策にはならないでしょう。岸田内閣は、何かそういうケチくさい
ところがあります。
 国民が真に望んでいるのは、やはり時限付き消費税減税です。
これについては、「法律改正に時間がかかる」「買い控えが起き
る」「一度下げると元に戻すのが困難」と、財務省(ザイム真理
教)は、できない理由ばかり並べて反対します。
           ──[物価と中央銀行の役割/041]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人の生活が苦しいホントの理由、なぜ「減税」は当てに
  ならないのか?
  ───────────────────────────
   私たち日本人は、仕事を持っている人の場合、所得税や地
  方税といった税金に加え、年金や医療など社会保障の保険料
  を納める必要がある。近年、こうした国民負担の重さについ
  て強く認識する人が増えている。ネットでは「日本のような
  重税国家では窒息してしまう」といった意見をたくさん目に
  するが、諸外国と比較すると日本の国民負担率はそれほど高
  くない。
   このように書くと、瞬間湯沸かし器のように怒り出す人が
  いるが、筆者は「負担率が低いので大したことはない」と主
  張したいのではない。むしろ筆者の見立てはもっと深刻であ
  る。諸外国と比較して負担率が低く推移しているにもかかわ
  らず、国民の負担感は諸外国より大きいのが現実であり、日
  本が置かれた状況はさらに厳しいと主張したいのだ。以下で
  はなぜそうなっているのか、どうすれば解決できるのかつい
  て考察していく。
   メディアでは「国民負担率」という言葉をよく目にするが
  実は国民負担率というのは日本独特の概念であり、諸外国に
  は存在しない。財務省が国民負担率の国際比較結果を公表し
  ているが、これは日本だけで通用する資料である。
   諸外国においては、所得税や地方税などの税金は一方的に
  徴収されるものなので「負担」とみなされるが、年金や医療
  については保険料を払っている本人が直接的な受益者であり
  負担とは位置付けられていない。だが、ここでは税と社会保
  障の支出を国民負担とする日本式の概念で議論を進めていく
  ことにする。         ──経済評論家 加谷珪一氏
  ───────────────────────────
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メガネが似合う岸田首相
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2023年10月23日

●「岸田所得減税/どのようが内容か」(第6032号)

 岸田内閣の「所得税減税」の話を続けることにします。増税の
イメージの強い岸田内閣が、所得税の減税をやるとはよほど差し
迫った事情があると考えられます。やはり総選挙を意識している
のでしょうか。今日のEJの執筆時点での最新の情報では、次の
ような減税が考えられています。
─────────────────────────────
     ◎「期限付き」所得税の(定額/定率)減税
            2023年10月20日現在
─────────────────────────────
 「所得税の減税」で思い出すのは、1997年の橋本政権のと
きの特別減税。1997年といえば、当時の巨大証券である山一
証券が、帳簿に載らない債務「簿外債務」が拡大し、資金繰りが
行き詰まるとの判断から、自主廃業を決定したことです。
 当時は橋本龍太郎内閣。橋本首相は、村山内閣のときに決まっ
ていた消費税率3%から5%への引き上げを行い、経済対策とし
て2兆円規模の特別減税を指示しています。
 ちなみに村山内閣というのは、自民党、社会党、新党さきがけ
の3党が「自社さ」連立政権の成立で合意し、村山富市社会党委
員長を首相とする内閣のことです。消費税は、竹下登内閣の19
89年4月1日から税率3%ではじまっています。
 まさか廃業するとは誰も思っていない山一証券が廃業するなど
国内が深刻な金融危機と不況の社会不安が広がっていたこともあ
り、橋本内閣としては所得税の減税を実施しようとしたのです。
 どのような減税だったのでしょうか。
 1998年分の所得税から本人は1万8千円、扶養家族は1人
当たり9000円を税額から差し引くなどの「定額減税」であり
1998年4月には追加で2兆円規模の減税になっています。
 1998年7月には参院選があり、当然橋本首相はその先頭に
立って選挙運動を行っていました。当時橋本内閣は支持率が高く
間違いなく選挙に勝てるという手応えを掴んでいたのです。
 そのためか、橋本首相は、1999年以降は上限を設けた上で
税額から一定割合を引く「定率減税」に切り替えて、これを「恒
久減税化」することを考えていたのです。その構想が選挙運動中
に「ポロッ」と出てしまったのです。そのいきさつを当時の朝日
新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 「特別減税のようなものではなく、恒久的な税制改革として打
ち出されていくと期待している」──橋本首相は、1998年7
月3日の記者会見で、税制改正を巡り、こう発言した。この発言
は恒久減税の実施を明言したと受け取られたが、2日後のテレビ
番組で「財源はどうするのか」などと追及されると、「恒久減税
という言葉は使っていない」とトーンダウン。「首相迷走」と一
気に批判を浴びた。
 8日の記者会見で「99年からの所得税の恒久減税」を明言し
て収拾を図ろうとしたが、有権者の不信感を 払拭 することはで
きなかった。12日の投開票日。自民党は改選61議席を大きく
下回る45議席(追加公認を含む)と惨敗した。
                     ──朝日新聞より
─────────────────────────────
 所得税の減税には、このような橋本内閣の「負の遺産」があり
リスクを伴いますが、岸田首相としては、何をやっても支持率が
上がらない焦りからか、一種の賭けに出たものと思われます。し
かし、恒久減税ならともかく、期限付き所得減税であり、それが
国民にどれほど受け入れられるかは疑問です。
 実施したのはいいが、すぐやめてしまうのでは所得税減税の効
果がないのです。そのため、橋本首相は「何とかこれを恒久減税
にしたい」と思っていたからこそ、失言したものと思われます。
 なお、今回の所得税減税には与党内からも慎重論があります。
10月19日の日経の「オピニオン」において、日本経済新聞社
のコメンテーターの小竹洋之氏は次のように書いています。
─────────────────────────────
 そもそも日本に税収増を還元する余裕があるのだろうか。国際
通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しを盛り込んだ報告書
で、主要27カ国の国内総生産(GDP)に対する公的債務残高
の比率を示した。コロナ危機前の19年から22年までの上昇幅
をみると、日本の24ポイント弱が最も大きい。
 賃上げ促進税制などの拡充はともかく、幅広い所得減税に踏み
込むような局面なのか。むしろ24年度予算案に盛り込む防衛費
や少子化対策、グリーン投資の財源に充て、この先に控える増税
や社会保険料の引き上げを少しでも抑えるほうが賢明に思える。
 日本の物価高は、資源や食料などの輸入価格の上昇が起点だ。
米欧とは逆方向の大規模な金融緩和が誘発した円安に助長された
面もある。これらを放置したまま、一時的な補助金や減税で痛み
を抑え続けるのは限界があろう。
       ──小竹洋之著「不思議の国 税収還元セール」
   2023年10月19日付、日本経済新聞「オピニオン」
─────────────────────────────
 岸田内閣は、なぜこれほど焦っているのでしょうか。
 それは、10月15日に投開票された東京都議選の立川市選挙
区補欠選挙(欠員2)で自民党公認候補が敗北し、自民内で動揺
が広がっているのです。
 今日のEJの時点では結果のわかっている2つの補選──参院
徳島・高知と、衆院長崎4区があります。いずれも与野党対決の
構図になっており、その結果はストレートに与党に響きます。自
民党がこれに敗れると、選挙どころか「岸田降ろし」が起きても
おかしくない事態です。
 しかし、国民は「減税は選挙目当て。後から増税が来る」と警
戒しており、今回の所得税減税がどれほど効果があるのか、きわ
めて疑問であるといえます。
           ──[物価と中央銀行の役割/042]

≪画像および関連情報≫
 ●岸田首相の“セコさ”目立つ経済政策・・「所得税減税は
  期限付き」に寄せられる国民の不信と不満
  ───────────────────────────
   10月20日に招集された臨時国会。最大のテーマは「経
  済対策」だが、早くも岸田首相の「セコさ」ばかりが目立っ
  ている。「注目されるのは所得税減税です。自民党は17日
  に提言を首相に手渡しましたが、そのなかにはかねてから主
  張していた所得税減税は盛り込まれていませんでした。周辺
  を取材すると、「所得税減税」ついては首相が打ち出す。そ
  の前に党に出されるとインパクトが弱くなる」と言うことで
  党は忖度をしたようです。
   永田町では「自作自演か」とまで酷評されていますよ。支
  持率回復のために、なりふり構わずなようです」と政治担当
  記者。それを裏付けるように、20日になり首相が自民党と
  公明党に“期限付き”の所得税減税を検討するように指示を
  出したと報道されている。「減税の期間や規模については今
  後の与党内協議に委ねられますが、“期限付き”の文言に与
  野党から、『首相には期限内に景気が良くなる確信や秘策が
  あるのか』と疑問の声が上がりました」(前出・政治担当記
  者)国民にも不信と不満がありありのようで、ネット上には
  このような声が多く寄せられている。《予想通り所得税減税
  やって来たよ。でもショボい期限付きW》《今更だしその期
  限って選挙終わるまででないの?》《年収400万の人間だ
  ったら年間を通したところで減税額なんてよくて年間で2〜
  3万円ですよね》など。    https://onl.bz/UgJFqsV
  ───────────────────────────
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日本に税収増を還元する余裕があるか
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2023年10月24日

●「インフレ/各国のMMTの結果である」(第6033号)

 10月19日、米長期金利(10年物国債金利)が遂に1・5
%に達しました。16年ぶりの高水準です。関連する日本経済新
聞の記事を掲載します。
─────────────────────────────
【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)のパウエ
ル議長は19日の講演で、利上げがすでに終結したと読む一部の
市場の見方をけん制した。次回の米連邦公開市場委員会(FOM
C)では政策金利を据え置く姿勢だが、その後は追加利上げの可
能性があると強調した。
 ニューヨークでのイベントで、パウエル氏は今後の金融政策運
営について「不確実性とリスク、これまでの道のりを考えて注意
深く進めている」と発言した。10月31日〜11月1日に予定
される次回のFOMCについて、金利先物市場では9割が利上げ
の見送りを予想している。
        ──2023年10月19日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 なぜ、長期金利は15%まで上昇したのでしょうか。その原因
としては、次の3つがあります。
─────────────────────────────
         @政権の拡張的財政支出
         A米連邦議会下院の混乱
         B幅広い通貨のドル買い
─────────────────────────────
 @は「政権の拡張的財政支出」です。
  米バイデン政権は国債の増発を行い、拡張的財政支出が増え
  ている。米国債はほぼ無リスクであり、それで15%の金利
  が付くなら株を売って、国債を買う人が増える。
 Aは「米連邦議会下院の混乱」です。
  米連邦議会下院議長が解任され、議長不在の異常がそのまま
  であり、大きな不安要素になっている。
 Bは「幅広い通貨のドル買い」です。
  長期金利の上昇を受け、外国為替市場では幅広い通貨に対し
  てドル買いが進み、円相場は一時「1ドル=150円」台ま
  での円安ドル高が進んでいる。
─────────────────────────────
 今回のテーマは、渡辺努東京大学教授の所論をテキストにして
物価に対する中央銀行の役割、インフレとの関連を追及していま
す。これを難しい理屈はともかくとして、少し別な角度から考え
てみることにします。
 積極的な財政運営を可能にするための絶対的な要件とは「長期
金利が低い」ことです。そのため、アベノミクスをサポートした
当時の黒田日銀総裁の「異次元金融緩和」の真の狙いは、長期金
利を低いレベルに下げてそれを維持することにあったのです。
 これに関連して、MMT(現代貨幣理論)という経済学の理論
があります。自国通貨で国債を発行できる国は、決してデフォル
トに陥ることはないので、国は国債を発行し、それを財源にして
いくらでも財政支出ができるという理論です。ただし、その場合
長期金利は低いレベルに抑え込んでおく必要があります。
 MMTに関しては、EJでもテーマとして取り上げて検討して
います。そのさい多くの本を読んで研究しましたが、MMTは、
決していい加減な理論ではなく、納得できることはたくさんある
と考えます。ただし、この理論の提唱者は、一つだけ次の条件を
付けています。
─────────────────────────────
 MMTで注意すべきことといえば、インフレにならないよう注
意することである。     ──ステファニー・ケルトン教授
─────────────────────────────
 コロナ禍では、各国は膨大な財政支出を行い、そのほとんどは
国債で賄われ、中央銀行は大量の国債を購入しています。当初は
各国政府が思うようにいくらでも財政支出が行えるように思えた
ものです。これによって、MMTは正しいのかと最初は考えられ
るようになったのです。しかし、その結果起きたのがインフレで
す。今回のインフレをこのように考えることもできます。
 これについて、野口悠紀雄一橋大学名誉教授は、自著で次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 経済学の教科書には、MMTが主張するような財政運営を行な
えば、インフレーションが起きると書いてある。インフレが起き
ると人々の購買力が減少するから、インフレは税の一種だ。しか
も、所得の低い人に対して重い負担を課す過酷な税だ。そのとお
りであることが実証されたのだ。
 誰も負担をせずに、財政支出の利益だけを享受できるという魔
法が実現できるはずはない。打ち出の小槌などありえない。ごく
当たり前のことが実証されただけだと言える。MMTの主唱者で
あるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は「支
出を行なう際に、適切な措置が行なわれなかったからだ」と防戦
しているが、説得性に欠けることは否めない。
   ──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
                   PHP新書め1353
─────────────────────────────
 野口教授は興味あることをいっています。それは「日本でもイ
ンフレは起きているが、それは米国のそれとは違う。米国では国
内で需要が増加し、また、賃金が上昇した結果、インフレになっ
ているが、日本はそれとは異なる」といっています。
 野口教授は、「日本の場合は、インフレは国内要因で起きたも
のではなく、輸入されたものだ。つまり、原油価格も、小麦価格
も海外要因によって上昇したのだ。輸入価格の高騰によって、国
内物価が受動的に上昇したからである」。しかし、日銀は利上げ
できない状態にある」と。
           ──[物価と中央銀行の役割/043]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のインフレを巡る不確実性:機動的な金融政策の
  必要性が浮き彫りに
  ───────────────────────────
   日本の総合、インフレ率は、金融・財政政策による下支え
  と観光業の急増を背景に景気回復が続いたため、2月に40
  年ぶりの高水準に達した。ここ数か月はエネルギー価格の下
  落によってインフレ率が減速したものの、生鮮食品とエネル
  ギーを除くコア価格の基調的な動向は勢いを増しており、4
  月には4・1%と40年ぶりの高水準を付けた。
   急激な物価上昇が望ましいとされることはあまりないが、
  日本は1980年代後半から1990年代初頭以降デフレを
  繰り返してきたため、例外と言えよう。世界第3位の経済大
  国が転換点に立ち、日本銀行がようやく物価を2%の目標付
  近で維持できる可能性があるという希望が見えてきた。その
  理由は3つある。
  ・インフレは当初、基調的な需要が底堅かったことからでは
   なく、世界的なエネルギーと、サプライチェーンの危機に
   よって引き起こされたが、価格圧力がより広範で、より持
   続的である兆候がますます見られるようになってきた。
  ・労働組合と大手企業間で、毎年行われる交渉「春闘」は物
   価上昇と一致するように予想以上の賃上げで合意する兆し
   である。
  ・企業調査は、インフレ期待が上昇し続けることを示してお
   り、これが企業の価格設定に影響すると考えられる。
   しかし、こうした要素にはインフレを維持することが困難
  になる注意事項も伴う。労働者の70%以上を雇用する中小
  企業は利益率が低く、十分な賃上げを行う余裕がないため、
  十分な賃上げができない可能性がある。
                     ──国際通貨基金
  ───────────────────────────
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「次回利上げは見送り」/パウエル議長
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2023年10月25日

●「異次元金融緩和の真の狙いとは何か」(第6034号)

 米長期金利の5%台への上昇によって、日本の長期金利も上昇
してきています。これによって、日本の長期金利(10年物国債
金利)も上限に近づいてきています。10月22日付の日本経済
新聞の関連記事を掲載します。
─────────────────────────────
◎日銀、金利操作の再修正論/米引き締め長期化で
 日銀で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YC
C)の再修正論が浮上している。米金利上昇に伴い国内の長期金
利も上がり、7月の修正で決めた1%という事実上の上限に近づ
きつつあるためだ。月末に開く金融政策決定会合で議論する見通
しだが、日銀内には温度差がある。
        ──2023年10月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 日本の長期金利は、7月の金融政策決定会合において、1%を
上限としていますが、10月20日には、一時「0・845%」
まで達しています。これは約10年ぶりの高水準です。そういう
わけで日銀は、今月の金融政策決定会合において、長短金利操作
の再修正論を議論するのではないかと見られています。
 ところで、「アベノミクス」という日本経済を活性化させよう
とする経済政策において、故安倍首相と黒田日銀総裁は一体何を
狙っていたのでしょうか。
 経済学というのは奥の深い学問です。しかし、生活に結びつい
ているので、素人でもある程度のことは理解できます。単純に考
えてみます。とにかく日本は何とかしてデフレから脱却する必要
があります。経済がまるで成長しないからです。
 そのため日銀は、市中に流れるお金を増やす必要があります。
お金の量が増えれば物価が上がると考えられるからです。それに
は日銀は金融緩和を実施する必要があります。具体的には、日銀
が民間の銀行が保有している国債を買い、その代金を民間銀行が
日銀に保有する当座預金に振り込むのです。その結果、当然です
が、日銀当座預金の量は激増します。
 事実日銀当座預金は、2013年から激増しています。4月末
には61・9兆円、2年後の2015年末には206・2兆円に
増加しています。しかし、その時点でも市中に流れるお金の量は
約100兆円レベルであって、増加していないのです。
 ちなみに日銀当座預金にいくらお金が積み上がっても、銀行が
そのお金を引き出して民間銀行の預金に移さない限り、市中のお
金の量は増えないのです。この日銀当座預金のことを「マネター
ベース」といい、日銀券と銀行預金などの合計を「マネーストッ
ク」といいます。その肝心のマネーストックは一向に増えていな
いし、これでは物価も上がらないことになります。
 しかし、そのマネーストックが、激増した年があります。20
20年〜21年です。コロナ禍により、政府が企業や個人に対し
緊急融資を行ったからです。マネーストックは急増しましたが、
物価は上がらなかったのです。この現象を「フィリップス・カー
ブの死」と呼ばれています。
 アベノミクスにおけるここまでの一連の考察の結果、野口紀雄
教授は、日銀の「異次元緩和」の目的は、物価ではなく、別のも
のだったのではないかとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 私は、異次元緩和が本当に行おうとしたのは、以下のようなこ
とだったのではないかと考えている。
 1.国債の大量購入によって金利を引き下げる。
 2.金利引き下げによって、財政資金の調達を容易にする。さ
   らに外国との金利差を拡大し、円安を実現する。
 3.円安によって大企業の利益を増大させる。
 4.それによって株価を引き上げる。
 このように考えれば、さまざまなことが整合的に理解できる。
株価が本当の目的として重視されていたことは、日本銀行がOE
CDの対日審査(2019年4月)で強い批判を受けながら、E
TFの購入という、中央銀行の政策としては大いに疑問のある政
策を採り続けたことからも窺える。
   ──野口悠紀雄著『日銀の責任/低金利日本からの脱却』
                   PHP新書め1353
─────────────────────────────
 ちなみに「ETF」とは、取引所で取引される投資信託のこと
であり、「上場投資信託」と呼ばれます。ETFは投資信託の一
種ですが、一般的な投資信託とは違って取引所に上場しているた
め、個別の株式と同じように、証券会社を通じて取引所で売買す
ることができるという点が最大の特徴です。
 「悪夢の民主党政権」──これは民主党から政権を奪取した故
安倍首相が国会答弁のときに使った言葉です。それは、株価にも
よくあらわれています。
 鳩山政権、菅政権、野田政権──それぞれの退任時の日経平均
株価は、鳩山政権9537円、菅政権8950円、野田政権90
24円となっており、いずれも日経平均株価は、1万円を大きく
割り込んでいたのです。株価の下落は、どうしても世の中に暗い
イメージを与えるものです。
 しかし、2012年11月16日に衆議院が解散され、12月
16日に実施された総選挙で民主党が大敗し、自公連立の安倍政
権が誕生すると同時に株価は上がり始めたのです。安倍政権に対
する期待から株価が上がったのです。
 日経平均株価を上げても、それでデフレから脱却できるわけで
はありませんが、少なくとも国民は少し息が付けます。安心でき
ます。当時の民主党政権は、経済のことが分かる議員が少なく、
不安に感じていた国民も少なくなかったと思います。
 そこで、安倍首相は黒田東彦氏を日銀総裁に任命し、株価を上
げるための一連の工作をしたことは十分考えられることです。そ
ういう観点から、アベノミクスを再検証する価値はあると思いま
す。         ──[物価と中央銀行の役割/044]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスとは何だったのか/安倍元首相が
   日本経済に遺したもの
  ───────────────────────────
   デフレおよび円高という二重苦から抜け出せなかった日本
  経済を転換させるきっかけとなったアベノミクス。だが、7
  年8カ月に及んだ第2次安倍政権下でその中身は次第に変質
  し、軌道修正が求められている。
   「大きな政策の実行には時間がかかる。まずは目に見える
  実績を積み重ね、政権を安定させる」。安倍氏が周囲に何度
  も語っていた言葉だ。
   1990年代のバブル崩壊以降、日本企業は産業構造の転
  換や新規事業の創出に踏み出せずにいた。2001年発足の
  小泉純一郎政権は、企業の成長を促す規制緩和や官から民へ
  の権限移譲といった構造改革を政治主導で進め、産業の効率
  化や新陳代謝を加速させようとした。
   安倍元首相は小泉元首相の側近としてこうした構造改革の
  重要性をよく理解していた。だが、構造改革の実行は時間を
  要するだけに、安定した政権基盤がないと取り組めない。ま
  ず「目に見える実績」を出し、国民の信頼を得るのが必要不
  可欠だった。そこで安倍元首相が頼ったのが金融政策、財政
  政策だった。これらと「成長戦略」と名を変えた構造改革を
  組み合わせたのが「大胆な金融緩和(第1の矢)」「機動的
  な財政出動(第2の矢)」「民間投資を促す成長戦略(第3
  の矢)」を柱とするアベノミクスである。
                 https://onl.bz/ap5srP8
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長期金利上昇と円安の同時進行.jpg
長期金利上昇と円安の同時進行
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2023年10月27日

●「1987年と酷似/日米の株高/金利高」(第6035号)

 ロシアによるウクライナ侵攻がずるずると長期化する一方で、
イスラム組織ハマスがイスラエルを突如急襲し、大勢の死者が出
ています。イスラエルは直ちに反撃するとともに、ハマスの潜む
ガザ地区に対し、10月24日現在、大規模な地上作戦を仕掛け
ようとしています。
 そのバックにはイランが控えており、最悪の場合、ヒズボラが
これに参戦する可能性があります。ヒズボラは、1982年に結
成されたレバノンのシーア派イスラム主義の政治組織であり、ハ
マスを上回る武装組織です。もし、ヒズボラが加わると、戦争は
簡単には終わらない中東有事になります。
 バイデン米大統領をはじめ、西側欧米諸国は、イスラエル支持
を表明しながらもイスラエルに対して、大規模地上作戦の延期を
求めていますが、止めることは非常に困難な情勢です。おそらく
今日のEJが届くころには、大規模地上作戦は始まっている可能
性は十分あります。
 少し気になることがあります。「ブラックマンデー」というの
をご存知でしょうか。1987年10月19日にそれは起きてい
ます。世界中の株式市場で株価の大暴落が起きた日です。以下、
ブラックマンデーで起きたことを記述します。
─────────────────────────────
 1987(昭和62)年10月19日、ニューヨーク市場で株
価が急落。翌日の東京市場も売りが殺到し、世界中の株式市場が
暴落に見舞われました。
 この日、NYダウ平均株価は22・6%安と史上最大の急落に
見舞われました。翌20日の東京市場では日経平均株価が前日比
3836円48銭安の21910円08銭と急落しました。下落
幅だけでなく、14・90%の下落率も過去最大となり、欧州に
も連鎖しました。
 しかし、翌21日には日経平均が、2037円32銭高と急反
発。このことが安心感を生んで、世界株安は急速に収束していき
ます。NYダウが急落した原因は、コンピューターによる「プロ
グラム売り」とされました。株価の急落を受けて、コンピュータ
ーがプログラムに従って投げ売りを指示。さらに株価が下がって
売り物が増えていく悪循環となったのです。
                  ──トウシル/楽天証券
─────────────────────────────
 なぜ、ブラックマンデーなのかというと、現在の株価や金利の
の状況と、中東の情勢などが今回と酷似していることです。詳し
くみていくことにします。
 「恐怖指数」という何やら恐ろしげの指数があります。投資家
の心理状態を表す指数です。「VIX指数」ともいいます。
─────────────────────────────
◎「恐怖指数」/Volatility Index
 株式指数が暴落したときなど、投資家の不安が大きくなったと
きに、VIX指数が上昇する。株式市場の温度感を知るのに便利
な指標とされている。
─────────────────────────────
 一体1987年に何が起きていたのでしょうか。
 ポール・ボルカー氏という人物がいます。1979年8月に米
FRB議長に就任しています。当時の米国は、第2次石油危機の
影響で、深刻なインフレに直面していたのです。そのため、ボル
カー議長はインフレと戦うために利上げを連続して行っていたの
です。現在のパウエル議長と同じです。
 金利が上がると、景気が悪くなり、株価が下がるのが一般的な
現象です。しかし、株価は一向に下がらず、ダウ平均は高止まり
し、株高を維持していたのです。それが、10月19日の月曜日
に一気にはじけてしまうのです。米ダウ平均は1日で23%下落
し、世界同時株安に発展します。日経平均株価も15%近く値下
がりしています。
 この「金利高にして株高」のパターンが、ブラックマンデーの
ときと同じであり、投資家を心配させているのです。米FRBが
17回もの利上げを実施しているのに、足下の長期金利は高止ま
りしたままです。
 パウエル議長のやったことを簡単に振り返ってみます。パウエ
ル議長は、インフレを軟着陸させるため、2022年3月にゼロ
金利政策を解除し、計11回、幅5・25%もの利上げを実施し
てきていますが、足元の長期金利は、約16年ぶりの高さにあり
ダウ平均は3万ドル台と好調をキープしています。日経平均も3
万円台を維持しています。
 10月20日の「恐怖指数」を計算してみると、次のようにな
ります。「20」を上回ると、投資家に強い警戒感を示すとされ
ています。
─────────────────────────────
    ◎10月20日の恐怖指数
     日経平均の恐怖指数 ・・・ 23・20
         米ダウ平均 ・・・ 21・71
─────────────────────────────
 実は、もうひとつ類似点があるのです。1987年のときは石
油危機、今回は、ハマスによるイスラエル攻撃を受けての中東情
勢がからんでいます。もしイスラエル軍が、苛烈な地上戦に振り
切ったり、イラン軍がホルムズ海峡で通貨船を攻撃するなどの動
きがあると、割高になっている米国株が暴落し、世界同時株安に
なることは十分ありえることです。
 1987年のときは、イラン軍がタンカーを攻撃し、米軍がイ
ランの海上油田に報復攻撃し、市場に緊張感が高まっていたので
す。イランならやりかねないといえます。
 EJがとくに米国の金利の動きを詳しくウオッチングしている
のは、「株高・金利高」+「中東有事」が引き起こす世界同時株
安の危険性があるからです。
           ──[物価と中央銀行の役割/045]

≪画像および関連情報≫
 ●ブラックマンデーの1987年、現在と不吉な類似
  ──オーサーズ
  ───────────────────────────
   金融業界では1987年との比較は決して歓迎されない。
  同年10月に起きたブラックマンデーの暴落は、いまだに最
  も悲惨な一日として市場の歴史に刻まれている。このため、
  現在の状況がブラックマンデーの数カ月前に酷似していると
  の指摘は少しぞっとする。筆者に最近届いた3通の電子メー
  ルが、この不吉な年に言及していた。
   1通は、ソシエテ・ジェネラルの超弱気派ストラテジスト
  として長年知られているアルバート・エドワーズ氏からのメ
  ールだった。だが、債券利回りが上昇する中でも株高が進ん
  だ今年の展開は87年を想起させると指摘したのは同氏だけ
  ではない。インタラクティブ・ブローカーズのスティーブ・
  ソスニック氏は「自分が金融業界に入った87年は、年の大
  半で債券が弱気相場に落ち込む一方で、株価は大きく値上が
  りしていた。もちろんそれが急激に反転するまでの話だが」
  と振り返った。
   株式相場が20%下落した87年10月19日に債券利回
  りの反転がどれほど急激で、今年とどれほど似ているかを説
  明するために、以下のチャートを紹介したい。両年の年初か
  らの米10年債利回りの動きを重ね合わせたものだ。
                    ──ブルームバーク
  ───────────────────────────
2023年と1987年の長期金利の動き.jpg
2023年と1987年の長期金利の動き
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2023年10月30日

●「なぜ、『増税メガネ』と呼ばれるのか」(第6036号)

ネームが付いたかです。それに岸田首相はこのニックネームをす
ごく気にしており、このイメージを払拭するために、唐突に所得
税の減税を打ち出してきたのではないかといわれています。
 なぜ「増税メガネ」というニックネームが付いたかについて、
経済評論家の山崎元氏は次の趣旨のことをいっています。
─────────────────────────────
 岸田首相は、人の目を見て話さない。いつも役人の書いた原稿
を読んでおり、目は下を向いています。本人の言葉ではないので
言葉に力がない。まるでしゃべる空き箱だ。表情にも顔にも注意
が向かない。したがって国民にはメガネしか印象にのこらないの
である。          ──「山崎元氏/経済快説」より
          2023年10月25日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 岸田内閣が発足したのは2021年10月4日のことです。翌
年の2月24日、ロシアはウクライナへの本格的な軍事侵攻を開
始します。これに伴い、2022年9月末、岸田政権は「安保関
連3文書」と呼ばれる防衛政策のよりどころを改定する作業を本
格化させます。
 これによって自民、公明両党の与党協議が始まり、2022年
12月3日に文書改定を終え、来年度政府予算案とリンクさせる
作業に着手します。具体的には、2023年度から5年間の防衛
費を総額約43兆円にする計画です。デフレ脱却のための2%の
物価目標を目指して、最初から「規模ありき」です。
 そして2023年2月3日、政府は防衛費増額に向けた財源確
保法案を国会に諮らず閣議決定してしまいます。そして2023
年6月16日、2023─27年度までの5年間に43兆円の防
衛予算を支出する計画を「骨太の方針」として公表します。これ
は、前の5年計画(2019─23年度)と比べ、1・6倍近く
に急増させる計画となっており、当然財源の手当てが大きな課題
になってきます。
 政府はここで基本的には増税不可避と決めています。ただし、
その実施時期は2025年以降としているものの、増税を避ける
ことは困難です。それなのに、なぜ、ここにきて「減税」を打ち
出したのでしょうか。
 岸田首相の立場に立った場合、それは総選挙対策に決まってい
ます。低迷し続ける支持率向上対策です。所得税を改正するには
所得税法などの改正が必要であり、その期間を調整すれば、減税
の実施は来年の夏頃になり、ボーナス時期に間に合うという計算
も成り立つと思われます。そこで圧勝すれば、2024年9月の
自民党総裁選は無投票でスルーできる──岸田首相はそれを狙っ
ていると思われます。
 しかし、国民が求めているのは物価上昇対策であり、インフレ
対策です。ところが政府がやろうとしているのは、所得税の定額
減税です。「所得税3万円/住民税1万円」の年間計4万円を1
回ただけです。何かがおかしいです。国会での立憲民主党の代表
質問と岸田首相の答弁を読んでみてください。
─────────────────────────────
泉代表:「まず総理。『経済、経済、経済』と言うだけではなく
 国民が望むのは今年中のインフレ手当の『給付、給付、給付』
 じゃないですか。これを実行すべきだと」
岸田総理:「デフレ脱却を確実にするためには、賃上げが物価高
 に追いつくまで、政府が支えることも重要だと。こうした観点
 からの国民への還元について、その実施時期も含め、早急に具
 体化してまいります」
泉代表:「物価上昇局面に過度の財政出動を行うと一層のインフ
 レを招き、実質賃金が低下し、個人消費が落ち込む。規模あり
 きではなく必要な方々への対策の重点化を図るべきだ」
                   ──国会での代表質問
─────────────────────────────
 本来の物価対策として効果があると考えられるのは「消費税の
税率を下げる」ことです。現在ほとんどのモノに対して10%の
税金がかかっており、物価を押し上げています。したがって、仮
に10%の税率を5%に下げれば、5%分モノは安く買えること
になります。だから、強力な物価対策になります。
 ところが消費税減税の話になると、鈴木俊一財務相は、必ず次
のようにいって反対します。
─────────────────────────────
 消費税は社会保障の重要な財源になっており、下げるとその代
替財源が必要になる。それに税率を下げるには、法改正が必要に
なり、その間にモノの買い控えが生じ、その結果消費が低迷する
ことによって、かえって不況になる。したがって、消費税を減税
するのは反対である。            ──鈴木財務相
─────────────────────────────
 この反論は、一国の財務大臣の反論になっていないです。財務
省の役人に入れ知恵されたのでしょう。最近財務省は「ザイム真
理教」と呼ばれています。なお、鈴木財務相は岸田首相の「税収
増を還元する」という方針に対し、次のように反論しています。
─────────────────────────────
    十分な財源的な裏付けがあるとは思っていない
                ──鈴木俊一財務相
─────────────────────────────
 これはとんでもない発言です。なぜかというと、首相の予算編
成方針に対して、閣内から平然と異議を唱えているからです。ザ
イム真理教は首相や国民の上に立っているとでも思っているので
しょうか。首相に対してきわめて失礼な発言であるとは考えない
のでしょうか。消費税の捉え方にも問題があります。社会保障の
財源といいますが、本当にそうなっているのでしょうか。他国で
はコロナ禍のとき、消費税を下げて、さらに給付金も配っていま
す。         ──[物価と中央銀行の役割/046]

≪画像および関連情報≫
 ●年4万円の「定額減税」方針表明/岸田首相が政府与党
  に具体化を指示
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   岸田文雄首相は10月26日、首相官邸で開いた政府与党
  政策懇談会で、税収増の還元策として、1人あたり年4万円
  の所得税などの「定額減税」を行う方針を示し、具体的な制
  度設計を進めるよう指示した。住民税の非課税世帯に7万円
  の現金給付を実施することと合わせて政府の総合経済対策に
  盛り込み、11月2日に決定する。
   首相は自民、公明両党の幹事長や政調会長らを前に「賃金
  上昇が物価高に追い付いていない国民の負担を緩和するには
  可処分所得を直接的に下支えする所得税、個人住民税の減税
  が最も望ましい」と説明した。
   2021年度と22年度の2年間で増えた所得税と個人住
  民税3・5兆円を「国民に税の形で直接還元する」と語り、
  来年度に限り、1人あたり年4万円の定額減税を行う考えを
  示した。所得減税3万円、住民減税1万円の計4万円で、扶
  養家族も対象とし、来年6月から始める。所得制限への言及
  はなかった。納税額が少なく、減税の恩恵を十分に受けられ
  ない人への対応も検討するとした。
   首相は、減税の対象にならない低所得者について、住民税
  非課税世帯に1世帯あたり7万円を現金給付する考えも表明
  した。物価高対策として今年3月に決めた3万円の支給に加
  え、「合計10万円を目安に支援を行う」と述べた。政府は
  住民税は課税されているが所得税が非課税の納税者にも10
  万円の給付を検討する。
  https://digital.asahi.com/articles/ASRBV6K8GRBVUTFK00F.html
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増税メガネ/岸田首相.jpg
増税メガネ/岸田首相
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2023年10月31日

●「日銀はYCCをいつまで続けるか」(第6037号)

 現在世界はインフレになっています。インフレになると、新聞
紙上では金利の話が多くなり、話が難しくなります。中央銀行の
出番であり、インフレ抑制に動き出します。ここまでの分析によ
ると、インフレの原因は「コロナ禍」とされています。
 その一方で日本はインフレなのかデフレなのかわからない表現
が使われます。「デフレでない状況」とか、「デフレから脱却し
つつある」という表現です。しかし、日本の中央銀行である日銀
は、デフレからの脱却のために現在も金融緩和を継続しており、
欧米とは明らかに異なる金融政策をとっています。その結果とし
て、円安が止まらないでいます。
 日本も間違いなくインフレです。その証拠に幅広い商品に物価
高が起きており、政府はその物価高対策として、所得税の定額減
税を打ち出しています。そして、10月28日の日本経済新聞に
次の記事が掲載されています。
─────────────────────────────
 日銀の物価観にようやく変化の芽が出てきた。31日(今日)
公表する消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しは2022〜
24年度まで3年連続で前年度比2%以上になる公算が大きい。
きっかけは輸入物価の上昇という外的圧力だったが、日銀の想定
以上に価格転嫁が長引いており、物価目標達成に向けて条件は整
いつつある。(中略)
 日銀が重視する物価の基調指標も2%目標への接近を示す。変
動が大きい品目の影響を除いて算出する3指標は、「動かぬ物価
指標」とされてきた加重中央値も含めて、9月にすべて2%以上
になった。幅広い品目の値上げを示す。
      ──2023年10月28日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 問題はここにきて日経平均株価が下がってきていることです。
10月26日の日経平均株価の終値と、その年初来高値を以下に
比較してみることにします。
─────────────────────────────
 10月26日/日経平均株価 ・・ 3万0601円78銭
  6月19日/日経平均株価 ・・ 3万3772円89銭
─────────────────────────────
 日経平均株価は大幅に下落し、かろうじて3万円台をキープし
ている状態です。なぜ、このようなことになったかですが、原因
としては、次の2つが考えられます。
─────────────────────────────
   @利上げにより金融引き締め効果が出始めてきている
   Aウクライナとガザでの紛争で、地政学リスク高まる
─────────────────────────────
 日銀は、2016年から長期金利(10年物国債利回り)をゼ
ロ%前後に抑える「イールド・カーブ・コントロール/YCC」
を敷いています。長期金利をなぜ低く抑えるのかというと、日銀
が国債を大量に買い入れる必要があるからです。
 YCCについては、これまで何度も出てきていますが、ここで
もう一度説明をしておきます。これが分かると、日経の金利関連
記事の意味が理解できると思うからです。
 そもそも中央銀行がコントロールできるのは、銀行間取引市場
での短期金利だけだとされていたのです。長期金利を抑え込むに
は長期金利を大量に買い入れなければならず、やり過ぎると財政
規律の緩みにつながり、いわゆる「禁じ手」に近い策になってし
まうからです。
 安倍政権の要請を受けて、黒田前日銀総裁は年50兆円の国債
の積み増しを政策目標としましたが、2014年にはそれを80
兆円に大きく増やしてしまっています。そこで国債保有量ではな
く、長期金利を政策目標にしようと考えて導入したのがYCCで
す。これを黒田総裁に提言したのは、当時副総裁をしていた雨宮
正佳氏だったのです。
 中央銀行による長期金利のコントロールの歴史的事例は、19
33年にフランクリン・ルーズベルトに対して、経済学者のジョ
ン・メイナード・ケインズが次のようなアドバイスしています。
─────────────────────────────
 FRBが長期債を購入して短期債を売却するだけで、長期国債
の金利は、2・5%かそれ以下に低下し、かつそれが債券市場に
好ましい効果を及ぼすのであるから、私にはあなたがそれを行わ
ない理由が分からない。           ──河浪武史著
          『日本銀行虚像と実像/検証25年緩和』
                     日本経済新聞出版
─────────────────────────────
 しかし、2022年になると、世界金利の上昇によって、日本
国債市場にも圧力がかかり、日銀は再び国債を大量に購入せざる
を得なくなったからです。日銀の国債の買い入れ量は、2022
年には、111兆円に達し、前年の1・5倍の規模にまでなって
いたのです。もはや限界です。
 経済評論家の斎藤満氏は、植田新総裁に代わった日銀の政策に
ついて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本銀行は西側諸国で唯一、金融緩和をつづけてきたが、そろ
そろ限界に近づいています。長期金利の“上限”を1%に設定し
ていますが、マーケットは日銀を試すように1%の天井を突き破
ろうとしている。金利は0・86%まで上昇しています。もし日
銀が上限1%を死守しようとすると国債を買いつづける必要があ
るが、日銀はホンネではこれ以上国債を買いたくないはずです。
上限1%をギブアップするのも近いのではないか。この10年、
日本の株価は日銀の金融緩和に下支えされてきただけに、下支え
が終了すれば株価は下落してしまうでしょう」(斎藤満氏)
         2023年10月27日発行/日刊ゲンダイ
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/047]

≪画像および関連情報≫
 ●イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しは
  なぜ必要か
  ───────────────────────────
   植田総裁のもとでも、日本銀行は直ぐには政策を見直さな
  いとの見方が金融市場で強まっている。それが、為替市場で
  円安圧力を生み、株価の押し上げにも大いに寄与している。
  国債市場で政策金利(短期金利)の先行きの見通しを反映す
  る傾向が強い2年国債の利回りは、昨年12月に日本銀行が
  イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅引き上げ
  を突如発表したことを受けて急上昇し、年末時点では0%を
  上回った。政策金利(短期金利)の早期引き上げの可能性を
  織り込んだのである。
   2年国債の利回りは、年末から年初のピークで+0・04
  %まで上昇したが、足元では−0・07%程度と昨年10月
  頃の水準まで低下している。早期のマイナス金利解除への期
  待は萎んでしまったのである。
   マイナス金利解除など、日本銀行が過去10年続いた異次
  元緩和の「枠組みの見直し」に本格的に着手するのは、まだ
  先のことだろう。筆者は早くても来年後半以降と現時点では
  考えている。
   ただし、多くの問題を抱えるYCCについては、本格的な
  「金融緩和の枠組み見直し」とは別枠で、昨年12月の柔軟
  化措置の延長、との名目で変動幅の再拡大や変動幅の撤廃年
  内にも実施する可能性が見込まれる。その結果、長期国債利
  回りが小幅に上昇する可能性がある。
                 https://onl.bz/MLu7TUu
  ───────────────────────────
雨宮正佳前日銀副総裁.jpg
雨宮正佳前日銀副総裁
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