行っています。10会合連続の利上げです。利上げ幅は0・25
%で、政策金利としては、単一通貨ユーロが誕生した1999年
以降で最高になります。インフレが収束しないからです。
ちなみに政策金利とは、景気や物価の安定など金融政策上の目
的を達成するため、中央銀行が設定する短期金利──誘導目標金
利──のことで、金融機関の預金金利や貸出金利などに影響を及
ぼします。これによってダメージを受けているのはドイツです。
英国の経済雑誌『エコノミスト』は、ドイツの経済低迷に対し、
次の見出しをつけています。
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ドイツは再びヨーロッパの病人か
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実は、ドイツはかつてそう呼ばれたことがあります。ドイツは
1990年の東西統一後、10%を超える失業率や慢性的な財政
赤字などに見舞われ、長期的な経済低迷が続いたのです。このド
イツの経済低迷に対し、欧州は「ドイツはヨーロッパの病人」と
と呼んだのです。
このドイツを救ったのは、ゲアハルト・シュレーダー元首相に
よる構造改革であり、このシュレーダー改革を引き継ぎ、ドイツ
をEUの盟主にしたのは、アンゲラ・メルケル元首相であるとい
えます。しかし、そのさい、経済については中国に接近しその成
長に助けられ、エネルギーに関しては、原発を廃止し、再生可能
エネルギー化を目指すかたわら、ロシアに依存したのです。
このシュレーダーとメルケルのドイツの構造改革は、メルケル
首相の退陣後のロシアによるウクライナ侵攻により、崩壊しつつ
あり、「ドイツは再びヨーロッパの病人か」といわれつつあるの
です。ドイツの現状について、朝日新聞のドイツに駐在する寺西
和男氏はドイツの現状を次のように書いています。
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ロシアによるウクライナ侵攻後、エネルギー高で製造業などが
打撃を受け、ドイツ経済の構造の弱さが改めて指摘されている。
人口減による労働力不足、緊縮財政による公共インフラの老朽化
新たな成長産業への投資不足、経済安全保障の観点からの中国経
済依存の見直しなど課題は多い。
ドイツ経済研究所のティム・ブンケ氏は「1990年代に抱え
ていた問題と比較すれば今は失業率は3%と低く、欧州の病人と
は言えない」という。ただ、「問題は連立政権内で意見が食い違
い、どこに向かっているのか明確なビジョンが見えないことだ。
一時的な景気刺激策ではなく、構造的な問題に本腰を入れて取り
組まないと、いずれ欧州の病人になる」と話す。
──朝日新聞ベルリン=寺西和男
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もっともEUでの合意形成は非常に困難です。なぜなら、EU
では、ECBが経済規模や財政政策が異なるEU圏20カ国の物
価情勢に広く配慮しながら、単一の金融政策でインフレを抑制し
なければならないからです。ちなみに消費者物価指数の伸び率は
ベルギーやスペインでは2・4%ですが、一番高いスロヴァキア
では9・6%になっています。
そのため、ECBによる利上げの継続に関しては意見が大きく
割れています。9月14日の日本経済新聞は、次のように報道し
ています。
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足元で欧州企業の景況感は急速に冷え込み始めており、7〜9
月期のユーロ圏の域内総生産(GDP)は再びマイナス成長に転
落する恐れがある。主要7カ国(G7)のなかでも、ドイツは、
インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」の懸念
が強い。急激な利上げが景気を過度に冷やさないか、ECBは慎
重にならざるを得ない。 ──2023年9月10日付
日本経済新聞/ニュース・フォーキャスト
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それでは、米国のインフレはどうなっているでしょうか。
米国では、このEJの発送日である19日と20日にFOMC
が開催されます。ここでFOMC参加者の経済見通しが示される
ことになっていますが、これによって利上げ見送りか、実施かが
決まります。
6月の経済見通しでは、2023年末の政策金利が中央値であ
る5・1%から5・6%に引き上げられましたが、現行の政策金
利は、5・25%〜5〜5%であり、この予想が変化するかどう
かがポイントになります。
「高インフレはまだ死んでいない」というエコノミストたちの
意見も多いですが、どの数値を見ても、伸びは鈍化しており、物
価の基調まで変化はしていない状況です。FOMCの新たな経済
見通しである「5・25%〜5〜5%」が維持されれば、利上げ
見送りもあり得るといわれています。アトランタ連銀のボスティ
ック総裁などは、「これ以上の金融引き締めは景気にとってマイ
ナスである」として、利上げの打ち止めを強く主張するFRBの
高官も出てきています。
これに対して、米FRBのパウエル議長は、相変わらず、次の
ように警戒感を崩しておらず、あくまで「利上げはデータ次第」
と主張するのみです。
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さらなる金融引き締めが正当化される可能性がある。物価の安
定回復までには、まだ長い道のりがある。
──パウエルFRB議長/8月25日/ジャクソンホール
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日本においても欧米よりも穏やかであるものの、このところ諸
物価が高騰しています。日銀の植田総裁は、依然として金融緩和
を続けていますが、今後の対応が注目されます。
──[物価と中央銀行の役割/023]
≪画像および関連情報≫
●ジャクソンホールで金融緩和の枠組み堅持の姿勢を示した
日銀植田総裁
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米カンザスシティ連銀主催の国際経済シンポジウム「ジャ
クソンホール会議」が、8月24日から26日の日程で開催
された。今年のテーマは「世界経済の構造変化」だった。最
終日の26日には「転換点にあるグローバリゼーション」と
題するパネルが開かれ、日本銀行の植田総裁も参加した。
公表されている講演資料と報道によると植田総裁は、アジ
ア地域の経済統合の進展や日本の貿易、直接投資の構造変化
について説明した模様だ。地政学リスクの高まりを反映して
日本企業は中国から他国あるいは日本に生産拠点を移す動き
を強めている。円安進行の後押しもあり、生産の国内回帰の
傾向が強まっているのである。
生産の国内回帰は、設備投資の増加や雇用増加などを通じ
て、日本経済にはプラスとなる。ただし、地政学リスクや経
済安全保障の観点から進む国内回帰は、生産コストを高め、
生産の効率性や価格押し上げにつながる点もある。こうした
国内回帰の懸念点についても、植田総裁は指摘した模様だ。
さらに植田総裁は、中国の最近の景気減速は「失望を誘うも
の」だとし、「根本的な問題は不動産セクターの調整と経済
全般への波及だと思われる」との見解を示したという。最近
の発言からも、中国を中心とする海外経済の下方リスクを植
田総裁は重視する姿勢がうかがわれる。この点は、日本銀行
に、政策修正の実施を当面慎重にさせる要因となるだろう。
https://onl.bz/Gf4F7Pj
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ジャクソンホールでの植田日銀総裁