2023年09月04日

●「科学での対話拒否/感情的対応の中国」(第6005号)

 本日からEJを再開します。8月18日(金)に東大病院を退
院し、自宅に戻っております。19日間の入院であり、私にとっ
て最長期間の入院です。かなり体力が落ちているので、現在、元
気回復に努めています。なかでも107年ぶりの慶應義塾高校の
甲子園制覇は、私の元気回復に大いに寄与しております。久しぶ
りに慶応応援歌「若き血」を聞きました。
 EJの再開に関していくつかお願いがあります。EJの最大の
特色は「日刊」であり、できる限りこれにこだわるつもりですが
今後は体調によって書けない日もあると思います。そのさい、お
断りしないで、1日か2日、休むことがありますが、連載は続け
ます。なお、通信障害で届かない場合もありますが、そのさいは
EJのブログでご確認ください。EJを配信した日は、ブログは
必ず更新されます。
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     ◎ エレクトロニック・ジャーナル/EJ
     http://electronic-journal.seesaa.net/
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 今回のテーマは「物価と中央銀行の役割」です。このテーマを
続けますが、空白が丸1カ月に及んでいるので、別の話題から少
しずつ本テーマに戻ることにします。
 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受けて、中国が日
本の水産物を全面禁輸した問題について、岸田政権はどのような
対応を取ろうとしているのでしょうか。
 やると思っていましたが、岸田首相と一部閣僚は、福島産の魚
を食べて「安全」を強調したり、築地市場を視察し、その日獲れ
たタコを食べたりして、漁業関係者と話し合い、風評被害を防ご
うとしています。
 その一方で、高市経済安保相は、何か報復をとWTOへの提訴
を口にしていますが、これは避けるべきであると考えます。かつ
ての韓国への提訴のように、この問題に関しては、変な判決をも
らうわけにはいかないからです。
 冷静になって、この中国の暴挙が日本に与える影響について考
えてみます。2022年の日本の水産物の輸出総額は3873億
円ですが、その輸出先は、第1位は中国、第2位は香港、そして
第3位は米国です。どのくらい中国と香港に輸出されているかに
ついては次の通りです。
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      中国 ・・ 871億円/22・5%
      香港 ・・ 755億円/19・5%
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 中国・香港向けの水産物の輸出に関しては、実に42%、した
がって、今回の中国による水産物の輸出停止措置は、日本の水産
物輸出、水産業にとって大打撃になります。
 水産物の品目別では、ホタテ貝が467億円、なまこ(調製)
79億円、かつお・まぐろ類40億円などです。香港向け水産物
では、真珠222億円、ホタテ貝(調製)94億円、なまこ(調
製)85億円などとなっています。
 この日本の水産物禁輸措置の実施に当たって、中国は、韓国を
はじめ、アジア各国に共闘を呼び掛けてあり、多くの国が共闘を
組むと思っていたようです。しかし、中国の動きに賛同したのは
ロシアと北朝鮮ぐらいであり、中国は振り上げたこぶしを下すの
に苦慮しているようです。
 岸田政権としては、これによって打撃を受ける日本の水産業の
保護を手厚く行うべきであり、日本は十分それができる力を持っ
ています。しかし、担当の野村哲郎農水相による「汚染水」発言
のほか、「中国の全面禁輸措置はまったく想定しなかった」の発
言は言語道断であり、十分に辞任に値します。
 この中国の全面禁輸措置の日本の輸出または経済に与える措置
は限定的であり、中国および香港向け水産物輸出が輸出全体に占
める比率は0・17%に過ぎず、このまま1年間禁輸が続いても
日本のGDPの押し下げ効果は、0・03%に過ぎず、十分知恵
を絞って外交努力を重ね、見返りに半導体などの禁輸を解くこと
なく、解決すべきです。
 この全面禁輸措置に関して、中国から日本への大量の迷惑電話
や、中国のSNSではインチキ動画がアップされていますが、少
しずつ収まってきているようです。どうやら当局はこれらに対し
て規制をかけているようです。これに関して、東京財団政策研究
所・主席研究員の柯隆氏は次のように述べています。
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 過去に反日運動が盛んになった尖閣国有化の時と、起きる現象
は似ているが、質は全く別物だ。今回は、中央政府主導ではない
だろう。中国政府としてはこの「民衆のマグマ」を止めたがって
いる。日本企業の中国離れが進むことは、中国人の失業者がます
ます増えることにつながり、自分の首を絞めることになる。
 (中略)だから、今起きている表面的な反日運動に注目するの
ではなく、中国がカードを切ってきたときに備えた対中戦略が重
要である。   ──柯隆氏/2023年9月1日付、朝日新聞
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 何か問題のある現象について、人々が納得するのは「安全」と
「安心」の両方がクリアされることです。日本政府としては、か
ねてから「安全」について科学的に議論するため中国に対して話
し合いを要請してきていますが、中国は頑として応じません。科
学的対話は避けて、感情的面を含む「安心」の問題を前面に出し
て法外なクリームをつけてきています。
 中国も多くの原発を保有している以上、大量の処理水を海に流
しています。その処理水のトリチウムの濃度は日本の倍以上ある
といわれています。こういう国にとって都合が悪いことは、国民
には知らせず、日本を貶める情報は、それがフェイクニュースで
あっても平気で流す。習近平独裁体制は、本当に、大丈夫なので
しょうか。      ──[物価と中央銀行の役割/015]

≪画像および関連情報≫
 ●英国研究者ら「処理水のトリチウム濃度は、中国の放出の
  半分以下」
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   日本政府が早ければ8月24日に開始することを決めた福
  島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、イギリスの研究者
  らが23日、オンラインで会見を開きました。「トリチウム
  濃度は、中国の原発から放出される水の半分以下の数値であ
  り、人体への大きな影響はない」として、科学的見地から問
  題はないとの見解を示しました。23日に、オンラインで会
  見を開いたのは、イギリスで福島第一原発の事故について研
  究している大学教授らです。
   会見で、チョルノービリ原発の事故と、福島第一原発の事
  故の環境への影響を研究しているポーツマス大学のジム・ス
  ミス教授は、「今回放出される予定の処理水のトリチウム濃
  度は、中国の原発から放出される水の半分以下の数値であり
  人体への大きな影響はない」と述べ、放出について、科学的
  見地から問題はないとの見解を示しました。また、「放射線
  の影響について研究している人々の中で、今回の処理水の放
  出に反対している人はいないと思う」とも述べた上で、中国
  の日本産の食品への規制強化について、「科学的理由は何も
  ない。経済的影響は、健康への直接的な影響よりもはるかに
  深刻で、規制の強化は、漁業関係者の生活を損なうものだろ
  う」と批判しました。      https://onl.bz/bX7kt5i
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中国外務省報道官.jpg
中国外務省報道官
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2023年09月05日

●「宏池会内閣は下野するという因縁」(第6006号)

 岸田内閣の支持率が低迷し上昇しません。しかし、いま総選挙
をやっても、議席は大幅に減らしても自民党政権は敗北しないで
しょう。なぜなら、野党がバラバラであり、国民民主党にいたっ
ては、立憲民主党から分裂したのに、さらに、分裂騒ぎが起きて
いる始末です。
 しかし、最近になって、ある「因縁」が囁かれるようになって
います。考えてみてください。自民党が政権を失い、下野したの
は、次のたったの2回ですが、いずれも宏池会政権のときです。
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      宮澤喜一内閣 ・・・・ 1983年
      麻生太郎内閣 ・・・・ 2009年
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 実は、宮澤、麻生両氏ともに宏池会に関係があります。宮澤氏
は宏池会会長を務め、麻生氏は宏池会を創立した池田勇人氏の師
である吉田茂氏の孫です。現在、麻生氏は「志公会」という別グ
ループの代表ですが、当初は宏池会所属だったのです。
 そして、現在の岸田文雄氏も宏池会であり、現在、会長を務め
ています。ところで「因縁」ですが、今後さらに岸田内閣の支持
が落ちて、秋の総選挙が行われず、野党に一大改革が起きたとす
ると、またしても自民党が政権交代が起きるのではないかといわ
れています。あまりにも政権運営に問題があるからです。
 それはさておき、宏池会には財務官僚がたくさんいます。宮澤
・麻生両氏は、長く財務大臣を務めています。したがって、彼ら
は、増税には異常なほど熱心であり、その反面、絶対「減税」は
しないというスタンスです。
 さて、ロシアによるウクライナ侵攻以来高騰を続けてきている
ガソリン価格が、ついに「185円60銭」の最高値を更新して
しまっています。これに関して岸田内閣は、石油元売業者(EN
EOS、出光興産、コスモエネルギー3社)に補助金を出し、ガ
ソリン価格を下げる施策をとってきています。
 しかし、このガソリン価格軽減措置は段階的に縮小され、この
9月末にはすべて終了することになっています。しかし、ガソリ
ン価格は上昇する一方なので、岸田内閣は、これを今年の年末ま
で延長することを決めているようです。
 しかし、なぜ、石油元売業者に補助金を出してガソリン価格を
下げるという措置を取るのでしょうか。
 石油元売業者に補助金を出しても、どの程度価格を下げるかは
各石油元売業者に任されているからです。もちろん政府としては
どのくらい下がっているかチェックはしているでしょうが、石油
元売業者は自社のやれる範囲でガソリン代を少し下げて済まして
いることは確かです。
 ところで、政府は2022年1月からガソリン補助金制度を実
施していますが、この制度によって、石油元売業者はどうなって
いるのかについて、石油流通の専門家である桃山学院大学教授、
小嶌稔氏は次のレポートを出しています。これによると、補助金
制度のせいかどうかは不明ですが、いずれも、対前年比2倍以上
のブッチギリの最高益を上げているのです。
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 石油元売り大手の2022年4〜6月期決算は、ENEOSホ
ールディングス(HD)の最終利益(連結)が2213億円(対
前年同期比2・3倍)、出光興産が同1793億円(同2倍)、
コスモエネルギーホールディングス(HD)が同775億円(同
2・8倍)だった。
 3社合計で売上高6兆4221億円、営業利益6909億円、
純利益4780億円。営業利益には、原油高による評価益の44
01億円が含まれているため、実質的には2508億円まで圧縮
され、さらにセグメント別に石油製品だけだと、営業利益は12
30億円となる(在庫評価益除く3社合計)。
 業界の淘汰再編、合従連衡が進み、3社体制になったのが17
年。以降6年間の石油製品の営業利益を見ると、やはり今4〜6
月期決算はぶっちぎりの最高益であり、対前年比2・7倍に膨ら
んだ。高騰するガソリン価格を抑えるため、政府は1月(202
2年)末から通称「ガソリン補助金」を実施してきた。この最高
益は、予算規模1兆円もの莫大な補助金が投入されているからだ
と思う人もいるだろう。補助金の仕組みを端的に言うと、給付先
は石油元売りで、給付を前提に卸価格を抑え、結果として小売価
格が抑制されるというスキームだ。 ──小嶌稔山学院大学教授
                 https://onl.bz/HeFHR5D
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 あらゆる物価が高騰するさなかに、岸田内閣が本気でガソリン
価格をダウンさせ、国民の負担を少しでも下げようと考えている
ならば、石油元売業者に補助金を出すという姑息なやり方ではな
く、野党も賛成する方法があるのです。それが「トリガー条項」
発動という名の減税です。
 これは、価格が3カ月連続で160円を超えた場合、ガソリン
税の一部を減税し、130円を3カ月連続で下回るまで続けると
いう法律です。これについて、経済ジャーナリスト/荻原博子氏
は、岸田内閣の姿勢を次のように批判しています。
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 トリガー条項発動で、価格が変動して混乱が起きる課題がある
ということは前から言われていた。混乱が起きないように対策を
行う時間は十分にあったのに、つまりは何もやっていないという
ことだ。本気でガソリン価格を下げたいのなら、トリガー条項発
動をはじめ減税を行うべきだが、岸田政権には「死んでも減税し
たくない」という姿勢が感じられる。国民が困っているときに、
私たちが払っている税金を「減税にビタ一文使いたくない」とい
うのはおかしい。    ──経済ジャーナリスト/荻原博子氏
       ──2023年8月31日発行/「夕刊/フジ」
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           ──[物価と中央銀行の役割/016]

≪画像および関連情報≫
 ●「岸田政権の政策は期待薄」/高橋洋一氏/2021・12
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   問題点だらけだ。先ず、岸田文雄総理大臣自身は財務省と
  密接な関係にある。親戚内に財務官僚が大勢いて、これだけ
  多くいると大丈夫かと言わざるを得ない。
   岸田総理の父親は経産省出身で、叔父は財務官僚を歴任し
  広島銀行頭取だった岸田俊輔氏。叔母は第78代内閣総理大
  臣を輩出した宮澤家に嫁いでおり、その子供が自民党参議院
  議員の宮澤洋一氏だ。つまり宮澤洋一氏と岸田総理はいとこ
  にあたる。
   また、岸田総理の実の妹二人は、ともに財務官僚に嫁いで
  いる。岸田総理自身が経済政策を持っている訳でもないとな
  れば、親族の意見は裏切れないだろう。さらに言えば、最側
  近となる補佐官の木原誠二氏も村井英樹氏も元財務官僚、経
  済安全保障担当大臣の小林鷹之氏も同じく元財務官僚だ。そ
  れではあまりにも財務省色が強くなるからといって、元経産
  省事務次官の嶋田隆氏を内閣総理大臣秘書官に据えたのだが
  嶋田氏が連れてきたのは経産官僚ばかりで、結局、岸田政権
  は財務官僚と経産官僚ばかりで固められることになった。そ
  して、政府が史上最大規模の経済対策として財政支出を決定
  した55.7兆円の内容は、アベノミクスと全く同じ政策を
  掲げていながら数字だけを膨らませている。例えば「新しい
  資本主義」のための20兆円も、そのうち10兆円は安倍政
  権時代と同じような研究ファンドを推進するためのものだ。
                 https://onl.bz/FSyTtsD
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ガソリン価格どうなる!.jpg
ガソリン価格どうなる!
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2023年09月06日

●「『トリガー条項』というものがある」(第6007号)

 9月2日付の「朝日新聞デジタル」は、日本自動車連盟(JA
F)が政府に次の声明を出していることを伝えています。
─────────────────────────────
◎ガソリン税金「上乗せ廃止を」/JAFが政府に声明
 日本自動車連盟(JAF)は、ガソリン価格の高騰を受けて、
ガソリン税の「当分の間税率」の廃止などを政府に求める声明を
出した。8月31日付。複数の税金が上乗せされることで小売価
格がガソリン自体の価格の約1・6倍に上っているという。
 JAFが廃止や解消を訴えているのは、(1)2010年度の
税制改正で「当分の間」として上乗せされたままになっているガ
ソリン税の旧暫定税率分の25・1円(2)ガソリン税に消費税
が課税されている「Tax on Tax」の仕組み。
 レギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均価格が185
・6円となり、15年ぶりに過去最高値を更新。JAFによると
この価格はガソリン自体の114・9円に本来のガソリン税28
・7円のほか、旧暫定税率分の25・1円と消費税16・9円が
加わっているという。JAFは「自動車ユーザーが到底理解・納
得できない仕組みを一刻も早く解消すべきだ」としている。
(三井新)     ──2023年9月2日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 JAFが指摘している「Tax on Tax」とは、「二重課税」を意
味しています。実際に1リッター当たり「186円」でガソリン
を売っているガソリンスタンドを例にとって、本体価格やガソリ
ン税を示すと、次のようになります。
─────────────────────────────
           金額(円)       内訳(円)
  本体価格    112・49
 ガソリン税     53・80
  (本則)                  28・7
  (暫定)                  25・1
 石油石炭税+
 温暖化対策税     2・80
    小計     56・60
 消費税       16・91
 総合計      186・00
─────────────────────────────
 本体価格には、2つの税金がプラスされています。ガソリン税
と「石油石炭税+温暖化対策税」の合計の56・6円です。この
うちガソリン税には本則と暫定があり、本則税率部分は25・1
円、暫定税率部分は28・7円です。
 しかし、これで終わりではないのです。これに消費税がかかり
ます。ガソリン本体価格112・49円プラス53・8円の合計
額に対して、10%の消費税16・91円がかかります。その全
ての合計額が186円になるのです。したがって、ガソリン価格
の半分以上は税金であるということになります。
 つまり、ガソリン税と「石油石炭税+温暖化対策税」の合計額
にも消費税かかっており、二重課税ということになります。そも
そも暫定税率はどのような趣旨で設けられたのでしょうか。サイ
トには、次の説明があります。
─────────────────────────────
 暫定税率というのは文字通り暫定的に決められた税率で、普通
はガソリン税(揮発油税・地方道路税)などの「道路特定財源」
のための目的税の「本来の税率に暫定的に上乗せされた」税率の
ことをいいます。
 きっかけは1973年に起こった第1次オイルショック(石油
危機)でした。第4次中東戦争のあおりで石油価格が急騰し、狂
乱物価など激しいインフレーションを生んだオイルショックです
が、日本は国家をあげて「省エネ化」をめざしました。深夜放送
が自粛され、ネオンサインが消えるなど、その努力は相当なもの
だったのです。そして、省エネのため石油資源を節約し、石油の
消費を抑制することを狙いとして、ガソリン税などの税率を上乗
せする暫定税率が課せられることになったのです。
               ──ベスト・カー・ウェブより
─────────────────────────────
 「Tax on Tax」──税金に対してさらに税金をかける二重課税
は、けっしてあってはならないことです。しかし、ガソリン税に
はこれが明確に存在しています。これに目をつけたのは、政権奪
取前の旧民主党のグループです。彼らは、ガソリン値下げ隊を結
成し、2009年8月の政権交代の後、このガソリン税の暫定税
率に目をつけ、いろいろな経緯があったものの政権交代後の20
10年4月、「租税特別措置法第89条」として、導入したのが
「トリガー条項」です。
 トリガー条項の内容とは、「レギュラーガソリン1リットル当
たりの価格が、3ヵ月連続して160円を超えた場合、その翌月
からガソリン税の上乗せ部分(特別税率)25・1円の課税を停
止して、その分だけ価格を下げる」というものです。逆に元に戻
すには、「3カ月連続して1リットル当たり130円を下回った
翌月から」回った翌月から」となる──これが「トリガー条項」
です。トリガーとは「引き金を引く」という意味です。今回のよ
うに、ガソリン価格が連続して上昇しているときピッタリの法律
であるといえます。
 しかし、翌年の2011年3月に東日本大震災が発生し、その
復興財源確保の名目で適用が凍結されたのです。正式には、「東
日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法
律第44条」に規定され、そこには「租税特別措置法第89条の
規定は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し、別に法
律で定める日までの間、その適用を停止する」──このように規
定されたのです。しかし、岸田内閣はトリガー条項は減税になる
ので、完全に無視・黙殺の構えです。
           ──[物価と中央銀行の役割/017]

≪画像および関連情報≫
 ●【ガソリン代「トリガー条項」見送り】なぜ減税ではなく
  補助金を選ぶのか?岸田政権の姑息な本音
  ───────────────────────────
   ガソリン価格が15年ぶりに過去最高額を更新したが、緊
  急対策を打ち出した政府には「本気でやっているのか」と訝
  る声が後を絶たない。8月30日公表のレギュラーガソリン
  価格(全国平均)は15週連続値上げとなる185・6円に
  (1リットルあたり、以下同)。同日、岸田文雄首相は価格
  高騰への緊急対策を発表したが、価格高騰を抑える減税措置
  にあたる「トリガー条項発動」に踏み切る様子はない。
   岸田政権の緊急対策では9月末までの予定だった激変緩和
  措置(燃料油価格激変緩和補助金)を年末まで延長する一方
  9月7日から補助を拡充すると発表。しかし、あくまで対策
  は「補助金のみ」で、税を軽減する「トリガー条項発動」に
  ついては頬被りを決め込んでいるように見える。
   野党からは、国民民主党の玉木雄一郎代表が「ガソリンは
  税金の塊。取って配るよりもそもそも取ることを一旦停止す
  るほうがわかりやすい」と訴え、日本維新の会からもガソリ
  ン減税を唱える声があがっているが、政府は一貫して「補助
  金のみ」の姿勢だ。8月30日の対策発表の会見でも岸田氏
  は「(発動直前に)買い控え等の流通の混乱」が生じかねな
  い、という理由で減税案を退けている。
           https://www.moneypost.jp/1059547
  ───────────────────────────
トリガーを引かない岸田首相.jpg
トリガーを引かない岸田首相
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2023年09月07日

●「3度目の政権交代にオザワ動く」(第6008号)

 普通ガソリン価格が高騰すると、欧米各国では減税をします。
しかし、自民党政権──とくに宏池会政権は絶対に「減税」をし
ないことをモットーとしています。業者に補助金を渡して価格を
少し下げてもらう措置を取っています。しかし、日本には「トリ
ガー条項」という名の法律があるのです。ただし、民主党政権の
時代の法律ではありますが・・。
 なぜ、減税ではなく、補助金なのかについて、元財務官僚の嘉
悦大学教授・高橋洋一氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 減税型でも補助金型と同様の経済効果が出るのに、なぜか政府
は減税をやらない。補助金型が多いのは先進国で日本だけの特色
だ。例えば、ガソリン価格の安定のために、ガソリン税減税は行
わないが、補助金を出すのはその典型だ。減税は直接消費者に恩
恵が行くので明快だが、補助金は業者に行くので消費者から見れ
ばその効果が分かりにくい。しかし、官僚から見れば減税では自
分に頭を下げないが、補助金は恩を着せられると考えるだろう。
                 ──高橋洋一嘉悦大学教授
           2023年9月5日発行/夕刊「フジ」
─────────────────────────────
 「なぜ、トリガー条項」を引かないのか」に対する鈴木財務相
の発言は不可解なものです。「ガソリンの買い控えがあるから」
というものです。本当にこの人は財政のことがわかっているので
しょうか。
 ガソリンは毎日必要なので、買いだめは起きにくいのですが、
そういう矛盾に満ちたことを平気でいう鈴木財務相や松野官房長
官には首をひねってしまいます。岸田首相にいたっては、まるで
無関心の構えです。
 政府の本音は、減税になると、なかなか元に戻せないし、この
法律が民主党政権時代の産物であることが、反対の理由の2つで
しょうか。おかげで、石油元売りは大儲けです。
 9月4日のことです。次の衆議院選挙での自民・公明両党の選
挙協力について、岸田総理大臣と山口代表が会談し、公明党が、
いったんは解消するとしていた東京での協力を復活させることで
正式に合意しています。
 「選挙近し」を感じさせる情報ですが、そんなに前向きの話で
はなく、岸田政権が次の衆院選に関して、大きな不安感を抱いて
いるからです。それは、9月3日に投開票の行われた次の2つの
選挙の結果が暗示しています。
─────────────────────────────
           @岩手県知事選
           A市 川市長選
─────────────────────────────
 この2つの選挙において、いずれも自民党推薦の候補が敗北し
ています。とくに岩手県知事選の結果は、10万票の大差がつい
て、自民党の完敗です。
─────────────────────────────
    当 達増拓也 ・・・ 33万6502票
          立憲民主党など野党3党支援
      千葉絢子 ・・・ 23万2115票
             自民党/公明党が支援
─────────────────────────────
 岩手県といえば小沢王国であり、今回5選を果たした達増知事
は、小沢王国の中核的存在といえます。したがって、もし達増氏
が敗れれば、きっとメディアは「小沢王国潰したり」と大キャン
ペーンを展開したはずです。この選挙には公明党も支援していま
す。自民党が千葉絢子候補(地元放送フリーアナウンサー)を立
てたのは、一昨年の衆院選では、小沢一郎氏が小選挙区(岩手3
区)で敗れて比例復活となり、昨年の参院選では、広瀬めぐみ参
院議員が勝利したことで、広瀬参院議員が千葉候補をつきっきり
で応援すれば勝てると考えていたからです。
 しかし、広瀬参院議員は、「エッフェル塔騒動」で人気失速の
状態で、投開票一週間前には千葉候補は敗色濃厚になり、自民党
としてはなかばあきらめた選挙だったのです。しかし、今回の岩
手知事選では、達増知事は、選挙相手のエッフェル塔事件で勝っ
たわけではなく、これまでの知事としての実績と、岩手県では、
小沢王国が復活してきてことが勝利の原因です。
 8月27日(日)のことです。田原総一郎氏の番組(BS朝日
/激論クロスファイア)に小沢一郎衆院議員が出演したのです。
小沢氏のテレビ出演は本当に久しぶりであり、保守系メディアは
絶対に小沢氏をテレビに出そうとしません。メディアが小沢氏を
報道するときは、彼が失敗したときだけです。「壊し屋小沢」と
か「小沢王国崩壊」などの表現で紹介するのです。
 しかし、小沢一郎氏は何か悪いことをしましたか。検察審査会
で強制起訴され、裁判にかけられましたが、無罪を勝ち取ってい
くます。この裁判で検察側は、証拠を改ざんしてまで小沢氏を有
罪にしようとしましたが、できなかったのです。
 小沢一郎氏がやったことは、2度にわたって、自民党政権を下
野させたことだけです。ちなみに自民党が下野したことは、この
2回しかないのです。したがって、小沢一郎氏は自民党にとって
不倶戴天の敵ということになります。だからメディアは、小沢氏
についての報道しようとしないのです。
 その小沢一郎氏が立憲民主党のなかで動いてします。3度目の
政権交代のためです。EJでは、小沢一郎という政治家について
何度も取り上げています。興味があれば、バックナンバーをぜひ
ご覧ください。
 実は、自民党にとって、最も怖いのは、小沢一郎氏であると思
います。最近、小沢氏は橋下徹氏とも面談しており、少しずつそ
の行動が目立ってきています。この動きについては、EJで改め
て取り上げようと考えています。
           ──[物価と中央銀行の役割/018]

≪画像および関連情報≫
 ●「壊し屋」81歳の小沢一郎氏、次期衆院選が「最後の
  チャンス」…野党共闘へ動く
  ───────────────────────────
   衆院当選18回を重ねた立憲民主党のベテランの小沢一郎
  氏(81)が動きを活発化させている。次期衆院選での野党
  候補の一本化に向けた取り組みを主導し、党内には自らが会
  長を務める政策グループも設立した。ただ「政界の壊し屋」
  との異名を持つ小沢氏を警戒する声も出ている。
   「野党が候補者を統一しさえすれば、自公の候補に負けな
  いのが現実であり、国民の願いだ」
   小沢氏は24日、国会内で開かれた「野党候補の一本化で
  政権交代を実現する有志の会」の会合でこう述べ、野党の共
  闘態勢を整える必要性を強調した。6月にスタートした同会
  は、小沢氏も呼びかけ人に名を連ねている。結成の発端は、
  5月に立民の泉代表が、共産党との選挙協力を否定する発言
  を繰り返したことにあった。小沢氏は「政権交代する気があ
  るのか」と激怒し、同会の発足に向けた調整役を担った。立
  民内では「共産との選挙協力に後ろ向きな泉氏に圧力をかけ
  る狙いがあったのだろう」との見方が出た。
   同会には、立民の衆院議員95人のうち約60人が賛同し
  た。メンバーには、泉氏に近い議員も含まれている。こうし
  た動きなどを踏まえ、泉氏は、共産を含む野党間での候補者
  調整容認へと方針転換を余儀なくされた。
  https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230724-OYT1T50302/
  ───────────────────────────
小沢一郎衆院議員テレビ出演.jpg
小沢一郎衆院議員テレビ出演
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2023年09月08日

●「自民党を悩ます2つの厄介な事件」(第6009号)

 今週はEJの日刊書きのペースを整えるため、テーマに直接関
係のないテーマも取り上げています。今日は金曜日であり、自由
に書くことにします。
 内閣改造がこの秋に行われるとメディアは報道しています。そ
んななか、9月6日に「朝日新聞デジタル」が、木原誠二官房副
長官を留任させる方向で調整していると報じています。
 いわゆる「木原事件」を知らない人は少ないでしょうが、この
事件については『週刊文春』が詳細に報道しており、EJでは、
事件そのものについて述べることを控えます。しかし、その渦中
にある木原官房副長官を留任させる岸田首相の決断には非常にリ
スキーなものを感じます。
 異様であるのは、この事件について『週刊文春』以外のテレビ
を含むすべての他のメディアが絶対に報道しないことです。事件
は、木原官房副長官の家族の死亡にかかわるもので、その家族に
ついて警視庁が事情聴取や捜査をすることについて、木原官房副
長官がその職権を使って、止めているというのです。
 これを受けて、当時の警察庁の露木康浩長官は、この事件につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この事件は、証拠上、事件性が認められないと判断している
                 ──警察庁露木康浩長官
─────────────────────────────
 普通であれば事件はこれで幕引きです。何しろ警察庁のトップ
が「事件性はない」と断言したからです。内閣官房副長官には警
察庁はもとより、主要マスコミを「黙らせる」力があるのです。
 本来なら捜査も報道もこれで終わったはずです。しかし、この
事件を担当した警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係・通称「サツイ
チ」に所属していた佐藤誠警部補(当時)は、警察官を退職した
うえで記者会見を開き、「事件性がある」と反論したのです。佐
藤誠氏は、「事件性はない」とした当時の露木長官に対して次の
ように怒りをぶつけています。
─────────────────────────────
 警察庁長官のコメントは頭にきた。何が「事件性はない」だ。
あの発言は真面目に仕事してきた俺たちを馬鹿にしてるよな。当
時から我々はホシを挙げるために全力で捜査に当たってきた。と
ころが、志半ばで中断させられたんだよ。 ──佐藤誠元警部補
                 https://onl.bz/yFGKDVS
─────────────────────────────
 しかし、露木長官の発言を受けてか、岸田首相は、これで「木
原はシロである」として、9月5日、それまで自粛していたAS
EAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議やG20ニューデリ
ー・サミットには木原官房副長官を同道させています。しかし、
マスコミは政府専用機に乗り込む木原副長官の姿を一部とらえて
いますが、何とかそれを隠そうとしているように感じられます。
まさしく忖度です。
 この告発をした佐藤誠元警部補について、次のニュースが雑誌
『選択』/2023年9月号に出ています。
─────────────────────────────
 木原誠二官房副長官の妻を巡る『週刊文春』のキャンペーン報
道に関して、警視庁が不穏な動きを見せている。妻の元夫の不審
死について捜査していた警視庁の元刑事が実名で登場したことが
注目を集めた。元刑事は、記者会見を行って何を探っているのか
(警視庁)て持論を展開したが、この直後から警視庁が「元刑事
の周辺について内偵を行っている節がある」(情報筋)。「元刑
事との接触者を特定しているほか、関係先に問い合わせなどをし
ている」(同前)という。
 しかし、「警視庁担当記者は把握しておらず、どの部署が動い
ているかも判然としない」(同)。疑惑の焦点は元夫の不審死に
ついて、警視庁による捜査が不自然に打ち切られたことにある。
元刑事がどこまで核心を衝いているのかは不明だが、守秘義務に
反している可能性は否定できない。そのため「地方公務員法違反
で逮捕するつもりではないか」(同前)という見方が浮上してい
る。そうなれば疑惑の事件と同様、不自然な幕切れになりかねな
い。            ──『選択』/2023年9月号
─────────────────────────────
 しかし、これほどの事件の関係者を事実を明らかにしないまま
本人がいかに優秀であるとはいえ、国の重要に任務につけていい
のでしょうか。この事件はこのままでは終わらないといえます。
それは、岸田内閣にとって命取りとなる可能性があります。
 話を変えます。実は自民党にはもうひとつやっかいな事件があ
るのです。9月7日付の朝日新聞は、一面トップで、次の記事を
大々的に報道しています。
─────────────────────────────
◎秋本議員逮捕へ/6000万円受託収賄疑い
 秋本真利衆議院議員(48)=比例東関東、自民党を離党=が
洋上風力発電事業をめぐって、「日本風力開発」(東京)の前社
長からも多額の資金を受け取ったとされる事件で、東京地検特捜
部は7日にも、秋本氏を総額約6千万円の受託収賄容疑で、逮捕
する方針を固めた。 ──2023年9月7日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 この秋本真利衆議院議員は、自民党では珍しい反原発・再エネ
推進派で、河野太郎デジタル相の強い引きで、千葉県の市議から
国会議員になり、「私の大切な右腕」としてかわいがられていた
人物です。
 ここで注目されることは、秋本氏が、菅義偉前首相の側近でも
あったということです。つまり、菅グループのメンバーの1人で
もあり、法政大学の後輩であり、国土交通政務官に2度も起用さ
れています。つまり、特捜部は、秋本氏のもっと上を狙っている
のではないか、といわれているのです。今後どのようになってい
くか注目されます。  ──[物価と中央銀行の役割/019]

≪画像および関連情報≫
 ●秋本真利議員「再エネ疑獄」永田町で“延焼”の恐れ
  ・・・河野・菅・萩生田3氏は“無傷”でいられるか
  ───────────────────────────
   自民党を離党した秋本真利前外務政務官(4=比例南関東
  ブロック、当選4回)が風力発電会社「日本風力開発」から
  計3000万円もの資金を受け取ったとされる事件は、秋本
  氏の国会事務所などへのガサ入れから1週間が経った。
   東京地検特捜部は、秋本氏が資金提供の見返りに「日本風
  力開発」を利するような国会質問をした可能性があるとみて
  経緯を調べているが、当選4回のペーペー議員の関与だけに
  とどまるのか。永田町では「他の議員に“飛び火”するので
  は」と囁かれている。「狙いは『河野大臣潰し』ではないか
  といわれています。秋本さんは河野大臣の側近で、原発推進
  の自民党の中で共に『脱原発』を掲げる“異端児”。原発政
  策の大転換を決めた岸田政権にとって目障りな存在です。岸
  田官邸が河野大臣を黙らせるために、秋本さんを吊し上げる
  絵を描いたのではともっぱらの噂です」(官邸事情通)
   ある政界関係者は「河野大臣の後ろ盾で、秋本議員とも近
  い菅前首相の力をそぐ結果になるのではないか」とみる。
   萩生田政調会長の影もチラつく。秋本氏は2022年2月
  の衆院予算委員会分科会で、既に公募が始まっていた秋田県
  沖の洋上風力発電事業を巡って、「日本風力開発」の参入を
  後押しするかのような国会質問をしていた。入札の評価基準
  を「売電価格重視」だけでなく、「早期導入」にも重きを置
  くよう見直した上で、手続きのやり直しを要望。当時、答弁
  に立ったのが、経産相だった萩生田氏だ。
                 https://onl.bz/vu4YHSj
  ───────────────────────────
木原誠二官房副長官.jpg
木原誠二官房副長官
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2023年09月11日

●「輸出が増加し、輸入が減少する型」(第6010号)

 日本経済の話に戻ります。現在、EJが経済のテーマを取り上
げているのは、2023年度の日本経済は、一応「好調である」
というレベルにあり、ウォッチングする価値があるからです。と
いうわけで、内閣府が8月15日に発表した4〜6月期のGDP
の速報値に基づいて解説を書いたところ、なんと書き終わった直
後に「改定値」が出たのです。これによると、年率換算6・0%
が4・8%に下方修正されたのです。
─────────────────────────────
 ◎2023年4〜6月期GDP増減率内訳
      実質成長率    名目成長率    改定値
 GDP   1・5%     2・9%   1・2%
 年率換算   6・0%   12・0%   4・8%
 個人消費  ▲0・5%   ▲0・2%  ▲0・6%
 設備投資   0・0%    0・8%  ▲1・0%
 民間在庫  ▲0・2%    0・0%  ▲0・2%
 政府消費   0・1%   ▲0・0%   0・0%
 公共投資   1・2%    2・0%   0・2%
   輸出   3・2%    4・0%   3・1%
   輸入  ▲4・3%   ▲7・4%  ▲4・4%
                     註:▲はマイナス
              「民間在庫」はGDPへの寄与度
─────────────────────────────
 以下、解説は「年率換算6・0%」で書いていますので、一応
お読みいただき、その後、9月8日に発表された改定値に基づく
修正の解説を付け加えることにします。
 年率換算6・0%といってもピンとこないと思うので実額でい
うと「560・7兆円」──これまでの最高値である2019年
7月〜9月期の「557・4兆円」を超えるものです。これは名
目額で「約590兆円」にまで拡大しています。これはインフレ
の影響もあります。
 しかし、これらは見かけ上のもので、手放しでは喜べないので
す。最大の問題点は、日本のGDPの過半を占める個人消費が、
伸びていないことです。
 2022年から23年4月〜6月までの個人消費を四半期別の
数値で対前年比で比較して見ると、2023年は、次のようにマ
イナス0・5%になっています。
─────────────────────────────
           2022年   2023年
     1〜 3月期 ▲1・1%   0・6%
     4〜 6月期  1・8%  ▲0・5%
     7〜 9月期 ▲0・0%
    10〜12月期  0・2%    註:▲はマイナス
─────────────────────────────
 はっきりしていることは、「輸出」が増加して「輸入」が減少
していることです。輸出は前年比3・2%と好調ですが、これは
半導体の供給制約が緩和された自動車の増加がけん引しており、
インバウンド(訪日外国人)の回復もプラスに寄与しています。
外国人が来日してモノを買うインバウンド消費は、計算上は輸出
に分類されるのです。
 これに対して輸出は4・3%減で、マイナス幅は1〜3月期の
2・3%より拡大しています。原油など鉱物性燃料やコロナワク
チンなどの医薬品、携帯電話の減少が全体を下押ししています。
 ちょっと考えると、輸入というのは、海外への支払いであり、
国内のお金の総量であるGDPから見ると、マイナスに働くよう
に考えますが、実は輸入が減るということはGDPにはプラスに
貢献します。一種の統計のマジックです。
 さて、ここからが「改定値」に基づく解説です。GDP6・0
%はなぜ、4・8%増に下方修正されたかです。企業の設備投資
が速報値から下振れし、前期比でマイナスに転じたからです。マ
イナスは2四半期ぶりです。財務省による4〜6月期の法人企業
統計によると、金融・保険業をのぞく設備投資が、季節調整済み
の前期比で1・2%減だったのです。
 設備投資は製造業は堅調だったのですが、非製造業が減少に転
じています。ただ、前年の水準は上回っており、今回の下振れは
一時的な動きの可能性もあります。
 個人消費は、速報値の前期比0・0%減から、さらに0・6%
減に下方修正となっていますが、宿泊などのサービス消費が前年
比0・3%増が0・1%増に縮小したことが原因です。
 さて、改定値では、今期の最大の特色である「輸出」が増加し
て「輸入」が減少するパターンはどうなっているでしょうか。
 「輸出」は前期比3・2%増から3・1%増に縮小、「輸入」
は前期比3・2%増から3・1%増に下方修正されているので、
そのパターンは変わっていないといえます。この4〜6月期のG
DP(速報値)について、田中秀臣上武大学ビジネス情報学部教
授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
◎上武大学ビジネス情報学部教授
 これからさらにおカネの不足が深刻化する可能性がある。ガソ
リン代への補助金がまもなく打ち切られる。そのままだと国民の
購買力を大きく低下させる。車に依存する地方経済はとくに苦し
くなり、また経済活性化の基礎である物流のコストも上がるだろ
う。だが、いまのところ、岸田文雄政権からは継続する発言が聞
こえない。さらにいえば、おカネの不足を解消するには、減税や
給付金の拡大が必要になる。最近話題になっているブライダルな
ど業界団体への補助金には意欲的だが、他方で国民が広く恩恵を
得る消費税などの減税には、岸田政権はきわめて消極的だ。
      ──「ニュースの裏」/2023年8月21日発行
                 『「好調」GDPの裏表』
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/020]

≪画像および関連情報≫
 ●実質賃金7月2・5%減/16カ月連続マイナス
  ───────────────────────────
   厚生労働省が8日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報
  従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物
  価を考慮した実質で前年同月比2・5%減った。マイナスは
  16カ月連続。物価高の勢いに賃金の伸びが追いつかず、減
  少幅は6月の1・6%から拡大した。
   名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は、前年同
  月比1・3%増の38万656円だった。このうちボーナス
  など特別に支払われた給与は10万8536円で、0・6%
  増えた。ここ数カ月はボーナスが伸び、特別給与の増加率は
  5月が35・9%、6月は3・5%だった。増加傾向が、弱
  まったことが7月の実質賃金を押し下げた。
   現金給与総額を就業形態別にみると、正社員ら一般労働者
  は50万8283円、パートタイム労働者は10万7704
  円でいずれも1・7%伸びた。残業などによる所定外給与は
  一般労働者が1・1%増の2万6640円だったが、パート
  労働者は1・2%減の2830円と差が広がった。
   名目賃金のうち基本給に当たる所定内給与は1・6%増で
  5月以降1%台の増加が続く。厚労省は「春季労使交渉によ
  る賃上げ効果を反映している」とみる。
       ──2023年9月8日付、日本経済新聞/夕刊
  ───────────────────────────
田中秀臣氏.jpg
田中秀臣氏
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2023年09月12日

●「米国経済はソフティッシュ・ランディング」(第6011号)

 ところで、米国のインフレはどうなっているのでしょうか。
 2022年6月には前年同月比9・1%まで上昇し、ピークを
つけた消費者物価指数(CPI)は、2023年6月には3・0
%まで順調に低下しています。パウエルFRB議長の目指す「2
%以下」のインフレ目標が視野に入ってきています。
 パウエル議長は、2022年1月に、「ソフトランディング」
ではなく、「ソフティッシュ・ランディング」という言葉を使っ
て、次ののようにスピーチしています。
─────────────────────────────
 さて、私は、ソフトランディング、あるいはソフティッシュ・
ランディング、あるいはそのような結果を得るチャンスが十分に
あると思います。理由はいくつかあります。1つは、家計と企業
の財務状況が非常に良好なことです。バランスシート上の貯蓄は
以前のトレンドよりも大幅に増えている、という意味で、過剰に
なっています。企業の財務状態も良好です。労働市場も、先ほど
申し上げたように非常に強い。ですから、景気後退にはほど遠い
状態のようです。 https://q-leap.co.jp/financial-english12
─────────────────────────────
 「ソフトランディング」とは「軟着陸」の意味であり、「労働
市場を堅調に保ちながら、インフレ率を2%にすること」です。
しかし、労働市場は堅調であるものの、2%にすることは至難の
業といえます。それは、2020年から22年にかけて、様々な
供給制約の出来事があるからです。
 パンデミック、ロックダウン、侵略戦争、物流混乱、半導体不
足、気候変動、パニック的買占めなどによってできるカオスがま
だ完全に消えていないのです。そして、これにインフレのカギを
握るのは、エネルギー価格です。パウエル議長は、こうした情勢
を鑑みて、現況を「ソフトランディング」ではなく、「ソフティ
ッシュ・ランディング」という言葉を使ったものと思われます。
整理すると、次のようになります。
─────────────────────────────
      ソフトランディング ・・  Soft landing
                   軟着陸
 ソフティッシュ・ランディング ・・ softish landing
              軟着陸らしきもの
─────────────────────────────
 米国の経済には、もうひとつ懸念されていることがあります。
それは「逆イールド(長短金利差の逆転)」の存在です。逆イー
ルドについては、既にEJで取り上げていますが、期間の短い政
策金利が10年物国債の金利よりも高くなる現象のことです。通
常債券は期間が長いほど金利が高くなりますが、それが逆転する
現象のことをいいます。
 米FRBは、インフレを退治するため、政策金利(短期金利)
を何回も利上げしているので、それが10年物国債の金利との逆
転現象を生んでいるのです。
 なぜ、逆イールドが問題かというと、金利を上げて金融の引き
締めを行うと、一定の確率で1年か1年半後には景気後退が起き
る確率が高いからです。つまり、逆イールドは、「景気後退の予
兆」といわれているのです。
 現在、米国では、3年債と10年債、2年債と10年債の逆転
がありますが、2年債と10年債が、2022年7月以降ずっと
2年債利回りがずっと逆転していることです。
 今年の7月3日の米国債市場で、この2年債と10債の「逆イ
ールド」がさらに拡大し、一時1981年以来42年ぶりの大き
さになっていることがわかったのです。そのため、景気後退(リ
セッション)の予兆とされる逆イールドに再び注目が集まってい
るのです。
 そのため、パウエルFRB議長は、年内にあと2回の利上げは
あり得るといっています。この米当局の利上げによって通貨安が
進むのが中国と日本です。しかし、日本の場合、中国と違い円安
が深刻な局面に陥ることはないといえます。この日本と中国の違
いについて、9月9日の日本経済新聞は、次のように解説してい
るので、ご紹介します。
─────────────────────────────
 円安と人民元安は構図が似通う。日銀は世界の主要国で唯一マ
イナス金利政策を続け、中国は景況感の悪化から事実上の政策金
利である最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を引
き下げるなど金融緩和姿勢が鮮明となっている。欧米が2024
年も高い政策金利を維持する可能性が高まる中、円と人民元はと
もに売られやすい地合いとなっている。
          ──2023年9月9日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 中国の習近平国家主席がG20を欠席したのは、インドとの確
執もあるかもしれませんが、人民元暴落不安があったのでしない
かという説があります。
 中国の不動産バブルは今に始まったことではなく、これまで何
回も起きています。しかし、これまでは、それが金融危機を発生
するのを阻止してきています。しかし、根本的な解決策を図らな
いことによってバブルがだんだん大きくなり、その負債額の規模
はとんでもない規模に達しているのです。
 バイデン米大統領は、中国のことを「爆発するのを待っている
時限爆弾」とまでいっています。このままなら、外貨は中国市場
から逃げ出し、中国人の資産家は香港経由で資産を外国に移動さ
せています。その結果は人民元の対ドル相場に反映し、元安が一
段と進んでいるのです。添付ファイルのグラフは、産経新聞特別
記者・田村秀男氏のコラム(夕刊「フジ」)に出ていたものを転
載しています。
 なお、12日と13日は、オンラインでの仕事がありますので
休刊にし、13日と14日の2日間を休刊とし、15日から再開
します.       ──[物価と中央銀行の役割/021]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の逆イールドは42年ぶりの大きさとなる
  −1・06%まで拡大!
  ───────────────────────────
   米国の逆イールドは、6月30日に、1・06%まで拡大
  した。米国債の2年物と10年物の金利差は、通常は10年
  物の金利が2年物の金利を上回るという「順イールド」にな
  る。しかし、その反対の現象である「逆イールド」が起き、
  金利差が−1・0%を超えるレベルが6月下旬から定着して
  いるのだ。
   2年債の利回りが10年債を上回る逆イールドが発生した
  のは2022年3月29日だ。2019年の夏以来となる約
  2年半ぶりの出来事だった。あれから1年3ヶ月が経過した
  今、逆イールドはますます大きくなっている。6月30日時
  点の逆ザヤの−1・06%は、今回の逆イールドで最大レベ
  ルであり、1981年以来42年ぶりの大きさとなる。
   通常、債券の利回りは年限が長くなるほど返済リスクを踏
  まえて金利は高くなる。将来の経済や物価が不確実で見通せ
  ない分、投資家は高い利回りを求めるからだ。そのため1年
  債よりも3年債、3年債よりも10年債、10年債よりも、
  20年債の方が利回りは高くなる。当たり前の話だ。今起き
  ている2年債の利回りが10年債の利回りを大きく上回る現
  象は普通は考えられない。どうしてこのようなことが起きて
  いるのだろうか?
         https://diamond.jp/zai/articles/-/1018679
  ───────────────────────────
人民元決済と人民元の対ドル相場.jpg
人民元決済と人民元の対ドル相場
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2023年09月15日

●「なぜ、いま外相を交代させるのか」(第6012号)

 第2次岸田改造内閣が誕生したので、ひとつ触れておきたいこ
とがあります。「なぜ、林外相を外し、上川陽子元法相を抜擢し
たか」です。私は、以前から林芳正氏のテレビでの発言を多く聞
いていますが、国際的な諸問題についてそれぞれ立派な見識を持
つ人物であると思っています。
 それに、米国留学が長いことと、最終学歴がハーバード大学卒
であることを考えても、その語学力は抜群です。自民党の一部の
保守派からは中国寄りとの批判はありますが、外相は林氏にとっ
て、ふさわしいポストであると思っていますし、将来の有力な首
相候補でもあります。
 それに外交は継続性が重要であり、ミスもないのに交代させる
ことは国益に反します。この9月9日、林芳正外相は、ウクライ
ナでゼレンスキー大統領と会談し、同国に対する安全の保証を巡
る協議開始や経済復興での協力について話し合い、合意している
のです。それを突然交代とは・・・・。交代の理由として考えら
れるのは、次の3つです。
─────────────────────────────
 @林芳正氏は岸田首相と同じ派閥「宏池会」の次期首相候補
  で、その存在感があまり高くなることを恐れた。
 A岸田首相は、自身が長く外相をやっているので、最も外相
  が総理大臣に近いポストであるとわかっている。
 B岸田首相は常日頃から林外相が国際舞台で目立つことを恐
  れ、その存在感を気にしていたといわれている。
─────────────────────────────
 とはいっても、上川陽子氏が外相にふさわしくないというつも
りはありません。上川氏は3回も法相を務めているので、法曹界
の人物と思われがちですが、東京大学を出て、三菱総合研究所に
事務職として勤務しています。
 1985年に制定された男女雇用機会均等法をチャンスとして
とらえて研究職に転身し、政治行政学を学ぶため、ハーバード大
学に留学し、シンクタンクに勤めながら、時代の大きな流れのな
かで、情報化時代を先取りするアメリカを勉強しています。
 アメリカでは上院議員の政策立案スタッフを務め、大統領選の
選挙運動にも参加したり、日本に帰国すると「外から見た日本を
思い、政治のリーダーシップが必要だと痛感し、日本の将来を考
えた時に政治の中に身を置いてやっていきたい」と政治家を志し
たといわれています。立派な政治家です。
 しかし、とくにミスのない外相を1年10カ月で突然交代させ
のは乱暴な人事です。その目的が岸田首相自身の総裁選勝利のた
めであるとしたら、その動機は不純です。本当は、茂木幹事長も
外したかったのでしょうが、派閥の力学上できなかったので、自
派閥の林外相を切ったのでしょう。
 今回の内閣改造について、政治アナリストの伊藤敦夫は次のよ
うに酷評しています。
─────────────────────────────
 すべてが総裁選のため、各派閥の推薦準備を丸のみにしただけ
で、何ら新味もない。内向きの論理で動いているとしか思えませ
ん。日本社会が抱える課題に対して、政権としてどう取り組むの
か。まったく考えていないのではないか。
 あらためてこんな内閣が軍拡を推し進め、中国とのパイプもな
く、保身のためにますますま米国にすり寄るのだから、恐怖だろ
う。この改悪も国の転機になるかもしれない。
              ──政治アナリスト/伊藤敦夫氏
          日刊ゲンダイ/2023年9月14日発行
─────────────────────────────
 一番の問題は中国との関係です。現在、日本と中国の間にはさ
まざまな懸案問題が存在します。今年の3月に起きたアステラス
製薬の幹部である西山寛氏に対する反スパイ法による中国国家安
全局による不当拘束の問題が依然として未解決です。
 それに加えて、8月24日の福島第一原発の処理水の海への放
出に反発する中国による日本産の水産物の輸入を全面的に停止し
た問題が加わっています。確かに林外相はこの問題を解決できて
いませんが、こういうときにいかに上川氏が優秀な人材であると
はいえ、外相未経験の人物を外相に変更するのは、きわめてリス
キーであるといえます。
 現在、中国では習近平国家主席の3期目政権以降、不可解なこ
とが連発しています。秦剛前外相や人民解放軍幹部らが突然交代
する事態が相次いでいます。そして、習近平主席のG20のはじ
めての欠席があります。明らかに、現在中国では、深刻なことが
起きていることは確かです。
 9月12日のテレビ東京の「WBS」を見ていたとき、一番最
後のシーンで、解説者の滝田洋一氏は次のようにいったのです。
─────────────────────────────
 中国の国防相が動静不明になっている。異常なことです。中国
で何かが起きている。            ──滝田洋一氏
─────────────────────────────
 この情報は、9月12日付の日本経済新聞に次のように報道さ
れています。
─────────────────────────────
 中国の李尚福国防相の動静が2週間伝えられておらず、国内外
で憶測を呼んでいる。(中略)李氏は昨年10月に中央軍事委員
会員になり、今年3月に国防相に就任した。8月29日北京で開
いた「中国アフリカ平和安全フォーラム」での演説が発表されて
以降、動静が途絶えている。(中略)
 米国のエマニュエル駐日大使はX(旧ツイッター)への8日の
投稿で「習政権の閣僚陣は、今やアガサ・クリスティの小説『そ
して誰もいなくなった』の登場人物のようになっている」と書き
込んだ。     ──2023年9月12日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/022]

≪画像および関連情報≫
 ●中国経済“予想外”の息切れ 今何が起きているの?
  ───────────────────────────
   2023年6月15日に発表された5月の経済統計では、
  工業生産が新型コロナの影響で打撃を受けた去年の同じ月か
  らプラス3・5%と低い伸びにとどまりました。前年5月が
  上海市を中心に厳しい外出制限がとられていた時期だったの
  で、力強さに欠けた数字といえるでしょう。
   また、1月から5月までの不動産の開発投資は、マイナス
  7・2%と主要産業である不動産業の低迷も続いています。
  6月9日に発表された5月の消費者物価指数は去年の同じ月
  と比べて0・2%の上昇。4月は0・1%でかろうじてプラ
  スを保っているものの、デフレ懸念が浮上しています。
   さらに5月の16歳から24歳までの若い世代の失業率は
  20・8%と過去最悪の水準を更新。若い世代を中心に雇用
  への不安も広がっています。
   こうした状況に6月20日には事実上の政策金利を引き下
  げられる追加の金融緩和が行われると見込まれるなど、警戒
  感を強める中国当局による景気対策が打ち出されるとみられ
  ています。中国経済に今、何が起きているのか。
   中国経済が専門で上海に駐在するみずほ銀行(中国)の伊
  藤秀樹主任エコノミストに聞きました。「ゼロコロナ」政策
  の終了後、3月くらいまではリバウンドで回復したが、4月
  からはかなりゆっくりしたペースになっていて、予想より悪
  い。「足踏みに近い」状態だ。 https://onl.bz/ky2Cwfb
  ───────────────────────────
外相交代.jpg
外相交代
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2023年09月19日

●「ドイツは再び欧州の病人になる」(第6013号)

 9月14日、欧州中央銀行(ECB)が理事会で苦渋の決断を
行っています。10会合連続の利上げです。利上げ幅は0・25
%で、政策金利としては、単一通貨ユーロが誕生した1999年
以降で最高になります。インフレが収束しないからです。
 ちなみに政策金利とは、景気や物価の安定など金融政策上の目
的を達成するため、中央銀行が設定する短期金利──誘導目標金
利──のことで、金融機関の預金金利や貸出金利などに影響を及
ぼします。これによってダメージを受けているのはドイツです。
英国の経済雑誌『エコノミスト』は、ドイツの経済低迷に対し、
次の見出しをつけています。
─────────────────────────────
       ドイツは再びヨーロッパの病人か
─────────────────────────────
 実は、ドイツはかつてそう呼ばれたことがあります。ドイツは
1990年の東西統一後、10%を超える失業率や慢性的な財政
赤字などに見舞われ、長期的な経済低迷が続いたのです。このド
イツの経済低迷に対し、欧州は「ドイツはヨーロッパの病人」と
と呼んだのです。
 このドイツを救ったのは、ゲアハルト・シュレーダー元首相に
よる構造改革であり、このシュレーダー改革を引き継ぎ、ドイツ
をEUの盟主にしたのは、アンゲラ・メルケル元首相であるとい
えます。しかし、そのさい、経済については中国に接近しその成
長に助けられ、エネルギーに関しては、原発を廃止し、再生可能
エネルギー化を目指すかたわら、ロシアに依存したのです。
 このシュレーダーとメルケルのドイツの構造改革は、メルケル
首相の退陣後のロシアによるウクライナ侵攻により、崩壊しつつ
あり、「ドイツは再びヨーロッパの病人か」といわれつつあるの
です。ドイツの現状について、朝日新聞のドイツに駐在する寺西
和男氏はドイツの現状を次のように書いています。
─────────────────────────────
 ロシアによるウクライナ侵攻後、エネルギー高で製造業などが
打撃を受け、ドイツ経済の構造の弱さが改めて指摘されている。
人口減による労働力不足、緊縮財政による公共インフラの老朽化
新たな成長産業への投資不足、経済安全保障の観点からの中国経
済依存の見直しなど課題は多い。
 ドイツ経済研究所のティム・ブンケ氏は「1990年代に抱え
ていた問題と比較すれば今は失業率は3%と低く、欧州の病人と
は言えない」という。ただ、「問題は連立政権内で意見が食い違
い、どこに向かっているのか明確なビジョンが見えないことだ。
一時的な景気刺激策ではなく、構造的な問題に本腰を入れて取り
組まないと、いずれ欧州の病人になる」と話す。
              ──朝日新聞ベルリン=寺西和男
─────────────────────────────
 もっともEUでの合意形成は非常に困難です。なぜなら、EU
では、ECBが経済規模や財政政策が異なるEU圏20カ国の物
価情勢に広く配慮しながら、単一の金融政策でインフレを抑制し
なければならないからです。ちなみに消費者物価指数の伸び率は
ベルギーやスペインでは2・4%ですが、一番高いスロヴァキア
では9・6%になっています。
 そのため、ECBによる利上げの継続に関しては意見が大きく
割れています。9月14日の日本経済新聞は、次のように報道し
ています。
─────────────────────────────
 足元で欧州企業の景況感は急速に冷え込み始めており、7〜9
月期のユーロ圏の域内総生産(GDP)は再びマイナス成長に転
落する恐れがある。主要7カ国(G7)のなかでも、ドイツは、
インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」の懸念
が強い。急激な利上げが景気を過度に冷やさないか、ECBは慎
重にならざるを得ない。     ──2023年9月10日付
          日本経済新聞/ニュース・フォーキャスト
─────────────────────────────
  それでは、米国のインフレはどうなっているでしょうか。
 米国では、このEJの発送日である19日と20日にFOMC
が開催されます。ここでFOMC参加者の経済見通しが示される
ことになっていますが、これによって利上げ見送りか、実施かが
決まります。
 6月の経済見通しでは、2023年末の政策金利が中央値であ
る5・1%から5・6%に引き上げられましたが、現行の政策金
利は、5・25%〜5〜5%であり、この予想が変化するかどう
かがポイントになります。
 「高インフレはまだ死んでいない」というエコノミストたちの
意見も多いですが、どの数値を見ても、伸びは鈍化しており、物
価の基調まで変化はしていない状況です。FOMCの新たな経済
見通しである「5・25%〜5〜5%」が維持されれば、利上げ
見送りもあり得るといわれています。アトランタ連銀のボスティ
ック総裁などは、「これ以上の金融引き締めは景気にとってマイ
ナスである」として、利上げの打ち止めを強く主張するFRBの
高官も出てきています。
 これに対して、米FRBのパウエル議長は、相変わらず、次の
ように警戒感を崩しておらず、あくまで「利上げはデータ次第」
と主張するのみです。
─────────────────────────────
 さらなる金融引き締めが正当化される可能性がある。物価の安
定回復までには、まだ長い道のりがある。
   ──パウエルFRB議長/8月25日/ジャクソンホール
─────────────────────────────
 日本においても欧米よりも穏やかであるものの、このところ諸
物価が高騰しています。日銀の植田総裁は、依然として金融緩和
を続けていますが、今後の対応が注目されます。
           ──[物価と中央銀行の役割/023]

≪画像および関連情報≫
 ●ジャクソンホールで金融緩和の枠組み堅持の姿勢を示した
  日銀植田総裁
  ───────────────────────────
   米カンザスシティ連銀主催の国際経済シンポジウム「ジャ
  クソンホール会議」が、8月24日から26日の日程で開催
  された。今年のテーマは「世界経済の構造変化」だった。最
  終日の26日には「転換点にあるグローバリゼーション」と
  題するパネルが開かれ、日本銀行の植田総裁も参加した。
   公表されている講演資料と報道によると植田総裁は、アジ
  ア地域の経済統合の進展や日本の貿易、直接投資の構造変化
  について説明した模様だ。地政学リスクの高まりを反映して
  日本企業は中国から他国あるいは日本に生産拠点を移す動き
  を強めている。円安進行の後押しもあり、生産の国内回帰の
  傾向が強まっているのである。
   生産の国内回帰は、設備投資の増加や雇用増加などを通じ
  て、日本経済にはプラスとなる。ただし、地政学リスクや経
  済安全保障の観点から進む国内回帰は、生産コストを高め、
  生産の効率性や価格押し上げにつながる点もある。こうした
  国内回帰の懸念点についても、植田総裁は指摘した模様だ。
  さらに植田総裁は、中国の最近の景気減速は「失望を誘うも
  の」だとし、「根本的な問題は不動産セクターの調整と経済
  全般への波及だと思われる」との見解を示したという。最近
  の発言からも、中国を中心とする海外経済の下方リスクを植
  田総裁は重視する姿勢がうかがわれる。この点は、日本銀行
  に、政策修正の実施を当面慎重にさせる要因となるだろう。
                 https://onl.bz/Gf4F7Pj
  ───────────────────────────
ジャクソンホールでの植田日銀総裁.jpg
ジャクソンホールでの植田日銀総裁
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2023年09月20日

●「日銀がマイナス金利を撤廃する可能性」(第6014号)

 9月17日のことです。日本経済新聞は3面で銀行株の上昇に
ついて次の報道をしています。
─────────────────────────────
◎株式市場「金利復活」先取り
 銀行株5年半ぶり高値/脱デフレに期待/不動産株も好調
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 東京株式市場で金利の先高観が金融株を押し上げている。日銀
が早期にマイナス金利政策の解除に動くとの観測を背景に、融資
の利ざやや運用環境の改善期待から投資資金が流入。銀行株指数
は5年半ぶり高水準をつけた。金利復活の前提となる日本経済の
「脱デフレ」がみえてくれば日本株全体の底上げにもつながる。
       ──2023年9月17日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 この記事が出た背景は、植田日銀総裁の9月9日の読売新聞の
インタビューでの次の発言です。
─────────────────────────────
 マイナス金利の解除後も物価目標の2%が達成が可能と判断す
れば解除をやる。しかし、現在は来年の賃金上昇につながるか見
極める段階であり、十分だと思える情報やデータが年末までにそ
ろう可能性もゼロではない。        ──植田日銀総裁
              9日付の読売新聞のインタビュー
─────────────────────────────
 ここで、「マイナス金利とは何か」について、知る必要があり
ます。2022年9月以降、日本は世界唯一のマイナス金利政策
をとる国になっています。
 金融機関は、日銀に対して当座預金口座を設けており、日銀と
金融機関との資金のやり取りはすべてこの口座を通して行われま
す。基本的には日本銀行当座預金には利息は付きませんが、特例
としてつく場合があります。国内の資金量を調節するさいのオペ
レーションのときに、日本銀行当座預金を使って国債の売買が行
われることがあります。
 バブルが崩壊してからの日本は、この当座預金口座を通して頻
繁に国債の売買をしているので、実際には利息が付いていたので
す。したがって、日本の銀行は、この口座に資金を預けているだ
けで利息を取得していたことになります。
 しかし、黒田前日銀総裁は、なかなか目標のインフレ目標2%
が達成できないので、金融機関が当座預金に預けている一部に対
して、マイナス0・1%の金利をかけるようにしたのです。そう
すると、預けている資金が減少してしまうことになり、金融機関
は資金を引き出して、市場に回すようになると考えたからです。
これがマイナス金利です。2016年1月のことです。
 植田日銀総裁は、当初黒田前総裁の異次元の金融緩和路線をそ
のまま引き継ぎ、動かない人といわれたものです。動いたのは、
2022年12月と2023年7月に日銀は、長短金利操作(イ
ールド・カーブ・コントロール)を修正しています。これによっ
て、長期金利は1・0%まで上昇できるようになったのです。
 このとき、植田総裁は、為替操作の変動を抑える必要性に言及
しています。円安をけん制する発言と考えられます。本来為替政
策は財務省が所管しており、日銀は言及しないものであるのに日
銀はここまで言及しています。
 これに加えて今回の植田発言です。そうであるならば、日銀は
遠からずマイナス金利を解除する可能性があるとして、メディア
は、日銀が緩和修正の可能性があるとして報道したものと思われ
ます。これによって、長期金利は0・7%台に上昇しています。
これは9年8カ月ぶりのことです。
 「金利が戻る」──これについて、日本経済新聞は次のように
書いています。
─────────────────────────────
 金利の上昇は銀行にとって、預貸の利ざやと債券運用益の改善
という2つのルートから中長期的な収益拡大につながる。ゴール
ドマン・サックス証券の黒田真琴アナリストは長期金利が1%、
短期金利が0・2%それぞれ上がった場合、メガバンクの純利益
は将来的に約3割増えると試算している。自社株買いや、増配に
よる株主還元の強化に加え、海外展開やデジタル戦略の強化によ
る成長期待もある。三菱UFJは今年6月にインドネシアの自動
車ローン大手の買収を発表するなど、東南アジアの事業展開を強
化している。
 金利復活を先読みする動きは債券の長期運用に追い風となる保
険株にも及ぶ。東京海上ホールディングスやMS&ADインシュ
アランスグループホールディングス株は15日にかけて連日で上
場来高値を更新した。(中略)
 金利の目線が切り上がるなか、銀行株にとどまらず、日本株全
体への買いも徐々に戻りつつある。
       ──2023年9月17日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 以上に見るように、今回の世界インフレにおいては、日本は先
進各国と少し歩調が違うようです。もちろん日本もインフレです
が、デフレから脱却しつつある意味において、今度こそ脱デフレ
に期待が高まってきています。岸田政権の経済対策と、植田日銀
総裁のかじ取りに注目が集まっています。日経平均株価の4万円
突破は実現するでしょうか。いずれにせよ、今年度がデフレ脱却
のチャンスであることは確かです。
 さて、今週も19日〜20日の2日間、オンラインでの仕事が
あります。医師からは「しばらく1日1業を守るよう」指示され
ています。そのため当分大事を取って、このルールを守り、EJ
を書いていきます。よろしくお願いいたします。
 したがって、今週は、21日(木)を休刊とさせていただきま
すが、22日は配信いたします。週3回の配信です。誠に勝手な
がら、よろしくお願い申し上げます。
           ──[物価と中央銀行の役割/024]

≪画像および関連情報≫
 ●コラム:植田総裁、年末にもマイナス金利解除発言の真意
  を探る=熊野英生氏
  ───────────────────────────
   [東京 14日]──長期金利が0.7%台まで、上昇し
  た。2014年以来のことである。きっかけは、植田和男総
  裁の発言である。9月9日付読売新聞朝刊のインタビューで
  は、今年末利上げの可能性への言及があった。「来年(20
  24年)の賃金上昇につながるか見極める段階だ。十分だと
  思える情報やデータが年末までにそろう可能性もゼロではな
  い」と述べた。
   これは、マイナス金利を解除するタイミングについて述べ
  たと考えられる。安定的に2%を上回る物価上昇が見通せる
  という条件がクリアできれば、それはマイナス金利解除を意
  味する。いよいよ本格的な出口政策だ。
   インタビューの中では「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇
  に確信が持てた段階になればいろいろなオプションがある」
  とも語っている。これは、マイナス金利を解除したときは、
  長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)の枠
  組みを単に撤廃する以外に連続指し値オペの発動ライン(現
  状1.00%)を引き上げるなど多様な選択肢があり得るこ
  とを説明したといえる。マーケットの思惑先行に対して、長
  期金利のはね上がりを抑止できる仕掛けを設ける可能性を示
  唆していると筆者はみている。
     ──熊野英生・第一生命経済研究所首席エコノミスト
  ───────────────────────────
植田日銀総裁の発言.jpg
植田日銀総裁の発言
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2023年09月22日

●「金融緩和からの脱出の可能性はあるか」(第6015号)

 9月19日〜20日に開かれたFOMCで、FRBは利上げを
せず、政策金利を据え置く決定をしています。しかし、年内の利
上げをあと1回想定しているといわれます。9月20日のロイタ
ーは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 [ワシントン20日=ロイター]米連邦準備理事会(FRB)
は9月19〜20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で
フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、5・25─5・
50%で据え置いた。ただタカ派的なスタンスを強め、年内の追
加利上げを想定。金融政策は2024年を通して従来の予想より
大幅に引き締まった水準にとどまるとの見方を示した。(中略)
 パウエルFRB議長は、FOMC後の記者会見で「われわれは
入手されるデータのほか、進展する見通しとリスクを見極めなが
ら慎重に政策を進める立場にある」とし、FRBの選択肢はオー
プンとの姿勢を表明。同時に「適切なら一段の利上げを実施する
用意がある。
 インフレ率が目標に向かって持続的に低下していると確信でき
るまで、政策金利を制約的な水準に維持する」とも述べた。
─────────────────────────────
 米国に続いて日銀は、21日〜22日の2日間、金融政策決定
会合を開きます。実は真偽のほどはまだ不明であるものの、植田
日銀総裁がこの会合で、金融緩和の修正を行うのではないかとい
う噂があります。それをする良い条件が揃っているからです。
 米FRBが今回利上げしないことは予想されていたことですが
その通りになり、これを機に植田日銀総裁は、金融緩和の修正に
踏み切る可能性があるというのです。
 20日の外国為替市場では円が下落し、一時「1ドル=148
円台」まで円安になっています。これは、2022年11月以来
10カ月ぶりの安値です。原油価格の上昇で、米国のインフレが
長引くという警戒感があり、FRBが金融引き締めをより長く続
けるという見方がドル相場を押し上げています。これでは、円が
どんどん下落してしまいます。植田日銀総裁としては、何とかこ
れを阻止する責任があります。
 植田日銀総裁は、これに対して9月9日の読売新聞社とのイン
タビューにおいて、年末までにマイナス金利を解除する可能性に
言及しています。日銀総裁が年限を切ってマイナス金利解除の可
能性を口にしたことは大きいことです。植田日銀総裁は、ちゃん
と市場とコミュニケーションをとっています。この発言を受けて
円は145円台まで上昇しています。
 実はもうひとつ重要な発言があります。西村経産相の10日の
閣議後の次の発言です。
─────────────────────────────
記者:先ほど大臣がおっしゃった、やがて来るであろう金利高と
 いうことに関して、そういう状況が来たときに企業体制がきち
 んとできていることが重要という発言があったのですが、イン
 フレがずっと続いているわけですけど、金利はもう上がってい
 く方向にあるというふうに見ていらっしゃるのかというところ
 と、それから、そうなったときに企業や家計などに対してどの
 ような具体的なインパクトというか影響があるというふうに考
 えていらっしゃるのかお願いします。
西村:これは安倍政権が政権奪回した後、アベノミクスを実施し
 たときから私も甘利大臣の下で副大臣として関わり、日銀の金
 融決定会合にも十数回出席して議論をしてきています。
  金融政策は、日本銀行が独立した立場で判断しますので、そ
 の政策について私がコメントはしませんが、あのときから言っ
 ているように、この金融緩和は時間を買う政策で、この間に成
 長戦略、構造改革を進めて成長軌道に乗せていくというその思
 いは、私は今も持っています。残念ながら、コロナもあり、ロ
 シアのウクライナ侵略もあり、いろいろなことがこの間ありま
 したので、日銀は金融緩和を継続して続けているわけですが、
 世界的に物価が上がってくる状況になってきていますし、時間
 を買う政策もどこかで終了し、平常化していくわけです。
─────────────────────────────
 金融緩和は、アベノミクスの基本となる政策です。西村経産相
は「この政策をどこかで終了し、平常化していく」といっていま
す、自民党内最大派閥の安倍派の中核の発言です。これは、日銀
にとって、緩和修正の絶好のチャンスといえます。
 もうひとつ重要なことがあります。日銀の次回の日銀政策決定
会合は10月30〜31日です。現在、この時期は衆院解散総選
挙が行われるという噂が流れています。総選挙の時期に金融引き
締めは最悪であり、植田日銀総裁としては、この時期に解除は困
難と考えられます。
 しかも、植田日銀総裁は、マイナス金利の解除の可能性を明確
に口にしています。これは金融緩和解除の第1ステップですが、
「年末までに」と時期まで述べています。それでも「金融政策の
変更はない」という考え方が支配的です。
 もし、やるとしたら、今日と明日(21〜22日)の日銀政策
決定会合しかないという考え方もあります。これについて、金融
ジャーナリストの森岡英樹氏はつぎのように述べています。
─────────────────────────────
 確かに今週の日銀会合は緩和修正の環境が整っており、好機と
言えます。逆に先送りすれば、動きにくくなる。今回、動くとす
ればマイナス金利の解除と長期金利の上限撤廃を同時に踏み切る
大胆な措置も否定できない。中銀がマイナス金利と長期金利をコ
ントロールするのは特異なこと。この2つを同時にやめることで
一気に正常化を図るわけです。金融政策にサプライズはつきもの
ですよ。         ──金融ジャーナリスト森岡英樹氏
       2023年9月20日発行「日刊ゲンダイ」より
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/025]

≪画像および関連情報≫
 ●マイナス金利解除「物価上昇に確信持てれば選択肢」
  /植田総裁インタビュー
  ───────────────────────────
   日本銀行の植田和男総裁は、読売新聞の単独インタビュー
  に応じた。賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた
  段階になれば、大規模な金融緩和策の柱である「マイナス金
  利政策」の解除を含め「いろいろなオプション(選択肢)が
  ある」と語った。現状は緩和的な金融環境を維持しつつも、
  年内にも判断できる材料が出そろう可能性があることも示唆
  した。植田氏が今年4月に就任して以来、報道機関の単独イ
  ンタビューに応じるのは初めて。現状、「物価目標の実現に
  はまだ距離がある。粘り強い金融緩和を続ける」との立場は
  維持した。
   植田氏は、短期金利をマイナス0・1%とするマイナス金
  利政策の解除のタイミングについて、「経済・物価情勢が上
  振れした場合、いろいろな手段について選択肢はある」と回
  答。さらに、「マイナス金利の解除後も物価目標の達成が可
  能と判断すれば、(解除を)やる」と述べた。
   具体的な時期は、現状では「到底決め打ちできる段階では
  ない」とした。来春の賃上げ動向を含め、「年末までに十分
  な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」とした。
   日銀は7月の金融政策決定会合で、長期金利を0%程度に
  操作する金融緩和策「イールドカーブ・コントロール(YC
  C)」の上限を事実上1・0%にした。植田氏は長期金利が
  面は届かないだろう水準に設定したことを「リスクマネジメ
  ント(危機管理)」と表現。「経済・物価見通しが上振れし
  た時に、日銀がYCCを意図しない形で放棄するようなこと
  に追い込まれるリスクもゼロではなかった」と説明した。
  https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230908-OYT1T50416/
  ───────────────────────────
植田日銀総裁.jpg
植田日銀総裁
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2023年09月25日

●「外国為替管理局長が人民銀行総裁へ」(第6016号)

 9月21日〜22日開催された日銀政策決定会合では、日銀は
現状維持を決め、何の変化もなかったのです。これを受けて円は
対ドルで売りが強まり、一時「1ドル=148円台」を付け、円
安が進んでいます。この件については、改めて取り上げます。
 今年もあと3カ月ちょっとで終わりです。ここにきて世界経済
にとって心配なのは、中国の経済です。不動産バブル崩壊といわ
れていますが、一体中国において何が起きているのでしょうか。
 2023年7月25日付で、人民銀行(中央銀行)総裁が、易
鋼総裁に代わり潘功勝氏が就任しています。
 雑誌「フォーブス」は、この人事について、次のように紹介し
ています。
─────────────────────────────
 7月25日、中国の中央銀行である中国人民銀行の新総裁に潘
功勝が就任した。中国は、対米関係の緊張や世界2位の規模を持
つ経済の減速が懸念されている。潘はケンブリッジ大学とハーバ
ード大学で研究経験があり、豊富な国際人脈を活かした対外関係
改善への期待が高まっている。
 潘は、中国政府の強い統制下にある同国の金融システムにおい
て数々の役職を歴任してきた。公式の経歴によると、彼はハーバ
ード大学のシニアリサーチフェローを務め、ケンブリッジ大学で
はポスドクとして研究を行っていたというが、詳細な時期は記載
されていない。
 潘の総裁就任発表と同日に、中国外務省は同国で最も著名な外
交官の1人に関する謎めいた人事異動を発表した。外相を長く務
め、現在は共産党で外交政策を統括する王毅が、1カ月間表舞台
から姿を消している秦剛に代わって外相に復帰したのだ。交代の
理由に関する説明はなかった。
          ──2023年8月2日/「フォーブス」
─────────────────────────────
 人物像としては、易鋼前総裁が国際派にして学究肌であるのに
対して、潘功勝新総裁(60)は、欧米で教育を受けた経験豊富
な実務家で、習近平国家主席に対してとても忠実であるとされて
います。現在、中国では、経済の先行きに見切りをつけて、逃げ
出そうとする外資が多く、中国当局はその繋ぎ止めに必死になっ
ているといわれます。
 実は潘功勝氏は、2016年に国家外国為替管理局局長に就任
し、資本投資の抜け穴を封じてきた人物です。今年3月にアステ
ラス製薬北京オフィス幹部が「反スパイ法」違反の容疑で身柄が
拘束され、林外相(当時)が中国側に解放を要求しても、
いまだに拘束されたままになっていますが、潘功勝氏が外国為替
管理局局長のときの事件です。習主席は、この人物を、人民銀行
(中央銀行)総裁に抜擢したのです。
 添付ファイルをご覧ください。これは2022年2月から23
年8月までの外資の対中証券投資と人民元の相場をグラフにした
ものです。9月21日発行の夕刊フジ「田村秀男/お金は知って
いる」に掲載されていたものです。
 不動産バブルが進行するなか、22年3月から始まっていた外
資の対中証券投資の減少が読み取れます。同時並行で、人民元が
売られ、人民銀行はドル準備を取り崩して、人民元の防戦買い追
われているさまでよく読み取れると思います。
 9月18日、人民銀行は北京で外資大手の代表を集めて、シン
ポジウムを開催しています。18日のロイターはこのことを次の
ように伝えています。
─────────────────────────────
 [北京/18日=ロイター]中国人民銀行(中央銀行)と外為
規制当局が18日、外国の金融機関や企業との会合を開催した。
人民銀行の声明によると、JPモルガン、HSBC、ドイツ銀行
テスラなどが会合に出席した。潘功勝人民銀総裁は、政策を改善
し、市場志向で国際レベルのビジネス環境を構築すると表明。引
き続き金融サービスの質と効率の改善に取り組むと述べた。企業
側は、ビジネス環境の最適化を求めたとしている。
─────────────────────────────
 このとき出席した企業は、正確には、JPモルガン・チェース
やHSBCホールディングス、ドイツ銀行、BNPパリバ、UB
Sグループ、テスラなどです。米ウォール街の面々です。
 彼らだけではないのです。7月初旬にはイエレン財務長官が訪
中し、李強首相と会っているし、7月20日には、100歳にな
るキッシンジャー元米国務長官も訪中し、習主席と会談していま
す。続いて、米4大会計事務所の一角といえるKPMCが中国の
信託大手中植の財務監査を引き受けています。不良債権を査定し
投信家を納得させるためです。
 中植は中国の信託大手、中融国際信託の主要株主であり、設定
・運用する信託商品は一部償還停止となっており、中植の経営問
題が信託商品の運用などに波及した可能性があります。中植は、
金融業などを営む非上場の民営複合企業で、2022年末時点で
中融国際信託の32・99%の株式を保有しています。
 これだけではありません。8月14日には、米金融資本最大手
のJPモルガン・チェースが巨額の損失を抱え、急落が続く碧桂
園の株式を香港市場で買い増し、1億7100万株、株式の5%
以上を保有しています。JPモルガンのダイモンCEO(最高経
営責任者)はウォール街きっての親中派で、ことあるごとに米中
融和を呼びかけてきています。強欲に駆られる金融資本の対中融
和に西側世界がひきずられる恐れがあります。
 しかるに中国では、反スパイ法を使って外資を締め付けていま
す。成り構わないという姿勢です。EJでは、中国の経済の現状
を伝えてきていますが、その実態は想像以上に深刻です。少なく
とも経済政策のセオリーがきちんと行われておらず、現状は悪化
の一途をたどっています。さらに悪化すると、国民の目をそらす
ため、台湾への侵攻があってもおかしくない状況です。
           ──[物価と中央銀行の役割/026]

≪画像および関連情報≫
 ●中国人民銀総裁に潘氏、周小川氏以来の「一人体制」に
  ───────────────────────────
   [北京/25日=ロイター]中国全国人民代表大会(全人
  代、国会)常務委員会は25日、中国人民銀行(中央銀行)
  の新総裁に人民銀の共産党委員会書記を務める潘功勝氏を充
  てる人事を決めた。易綱現総裁は退任する。国営メディアが
  報じた。
   これにより、総裁と共産党幹部を同一の人物が務める「一
  人体制」となる。一人体制は、周小川元総裁以来となる。潘
  氏は2016年から中国国家外為管理局(SAFE)の局長
  を務めている。今月、訪中したイエレン米財務長官とも会談
  していた。
   潘氏は、為替投機家に対して厳しい姿勢をとることで知ら
  れ、国有銀行銀行改革や、不動産市場やフィンテック規制の
  強化、暗号資産の禁止にも携わった。
   ただ、人民銀行は、共産党の統括能力を強める今年の機構
  改革で「中央金融委員会」の監督下に入ったため、前任の総
  裁が進めた市場志向の改革を主導できるかは未知数だ。
                 https://onl.bz/Z3jbQvE
  ───────────────────────────
外国の対中証券投資と人民元相場/田村秀男氏のコラム.jpg
外国の対中証券投資と人民元相場/田村秀男氏のコラム
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2023年09月26日

●「中国のGDPの虚偽のからくり」(第6017号)

 7月25日に中国人民銀行の総裁に潘功勝氏が就任しましたが
前任者の易鋼氏との関係についてもう少しふれておきます。習近
平国家主席の考え方がわかるからです。
 易氏は、2018年3月に人民銀行総裁に就任し、2022年
10月に5年に一度の中国共産党大会において、中央委員候補か
ら外れ、退任が囁かれていたのです。これは中国の人民銀行の指
導部内での地位低下を表しているとの見方もあります。
 ちなみに、中国共産党大会で中央委員候補になるということは
大変なことなのです。しかし、易氏は候補から外れ、副総裁の潘
氏が人民銀行の総裁に昇進していますが、潘氏は、中央委員はお
ろか中央委員候補にすら名を連ねていないのです。潘氏は、国有
商業銀行の中国工商銀行などで勤務した後、2012年に人民銀
行副総裁に就任し、16年からは外国為替を監督する国家外貨管
理局の局長を兼任していたのです。
 この人事は、習近平国家主席が金融政策を含めたかじ取りの権
限を党中央に集中化させようとしていることが背景にあります。
3月には党に「中央金融委員会」を設置し、金融業務を統一的に
指導して、重要政策を進めていこうとしているからです。何もか
も自分の力の下に押さ込もうとしているのです。
 中国の話を続けますが、別テーマです。2023年4月18日
に中国国家統計局は次の発表を行っています。
─────────────────────────────
       ◎23年第1四半期(1〜3月)
        ●GDP(国内総生産)
         ・前年同期比/4・5%増
        ●固定資産投資総額
         ・前年同期比/5・1%増
        ●社会消費品小売総額
         ・前年同期比/5・8%増
─────────────────────────────
 まず、前年同期比4・5%増のGDPの数値ですが、固定資産
投資総額と社会消費品小売総額がそれぞれ5・1%、5・8%伸
びているなら、GDPが4・5%伸びても何も不思議はないとい
えます。このところ中国経済が悪いといわれますが、この数字か
らはそんなに心配することはないといえます。
 しかし、固定資産投資総額において、22年度と23年度を実
額で比較すると、次のようになります。
─────────────────────────────
    ◎2022年第1四半期/固定資産投資総額
               10兆4872億元
    ◎2023年第1四半期/固定資産投資総額
               10兆7282億元
─────────────────────────────
 中国国家統計局は、今年の第1四半期の「固定資産投資総額は
前年同期比5・1%増」と発表していますので、11兆0220
億元になるはずですが、そうなっていません。2938億元サバ
を読んでいることになります。この数字が正しい場合、正しい伸
び率は5・1%ではなく、2・3%になります。
 この国家統計局の公表数字のウソは、石平氏と高橋洋一氏が共
著の最新刊書に出ていたものですが、これについて、石平氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 以前の中国政府なら、せめて自分たちの発表した税収関連の数
字くらいは辻褄が合うように偽造したものですが、最近はそれす
らしない。もう、なりふりなどかまっていられないということな
のでしょう。             ──高橋洋一/石平著
 『断末魔の数字が証明する/中国経済崩壊宣言』/ビジネス社
─────────────────────────────
 中国といえば、若年失業率(16〜24歳)は、2023年6
月まで3カ月連続で20%の大台を超えているので、国家統計局
は、7月以降の数値の公表を取りやめています。これでは、中国
の大学生は、「卒業後即失業」になってしまうからです。実際に
就職状況がどの程度のものなのかについて調べてみたのです。
─────────────────────────────
      ◎2022年度就職状況
       文系学生 ・・・・ 12・4%
       理系学生 ・・・・ 29・5%
      エンジニア ・・・・ 17・3%
─────────────────────────────
 なぜ、中国経済がなぜこのような惨状に陥ったかについては、
EJで詳しく説明していきますが、少なくとも現在の状況を招い
たのは、習近平主席による「共同富裕」を目指す「国進民退」と
呼ばれる国有企業を優遇し民間企業をないがしろにする経済政策
であり、いま中国経済に大きな苦しみを与えています。経済評論
家の朝香豊氏は「国進民退」について次のように述べています。
─────────────────────────────
 「教育を営利事業で行うのはどうかと思う」などという話が出
て、学習塾など教育ビジネスが壊滅状態に陥った。「子どもたち
をダメにする」として、ゲーム業界にも大きな圧力がかかった。
アリババ、テンセントなどのIT系の企業も、大量の情報収集が
国家に損害を与えるとして、大打撃を受けた。
 中国経済の第一の柱であった不動産業ばかりか、今後の成長産
業と目されたIT、教育、娯楽産業で
     https://gendai.media/articles/-/110031?page=4
─────────────────────────────
           ──[物価と中央銀行の役割/027]

≪画像および関連情報≫
 ●貧困ゼロを宣言した中国 データで見る中国の不都合な現実
  ───────────────────────────
   中国の習近平国家主席は、2021年7月、中国共産党創
  立100年となるのに合わせた式典で、国の最重要課題の1
  つに掲げてきた農村部の貧困層をなくすという目標を達成し
  たとアピールしました。
   中国では経済発展に伴う貧富の格差が大きな問題となって
  いて、指導部は、農村部で所得などが一定の水準に満たない
  層を「貧困人口」と位置づけました。その上で、2012年
  末の時点で1億人近くに上っていたとする“貧困層”をゼロ
  にする目標を掲げていて、この目標を達成したと宣言したの
  です。
   では習近平指導部が「貧困がなくなった」とする今、中国
  の人たちは豊かになったのか?実際どんな暮らしをしている
  んだろう?そんなことを考えて取材したのは、都市別の経済
  規模で中国4位の大都市、南部広州市です。
   こう嘆いていたのは、出稼ぎ労働者の40代の男性。服飾
  工場で働く男性は、朝7時半に起きて夜10時半まで働き、
  あとは、洗濯をして寝るだけの日々だといいます。毎日12
  時間働いて、休みは月に1度。それでも、月収は日本円にし
  て10万円ほど。ふるさとにいる親や妻と子どもへの仕送り
  家賃と食費などを支払うと、手元にはほとんど残らないのだ
  そうです。彼が暮らすアパートは6畳ほどの部屋。ここで息
  子と2人で暮らしています。台所がないので食事を作るのも
  不便です。            ──国際ニュースナビ
  ───────────────────────────
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潘功勝中国人民銀行総裁
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2023年09月28日

● 「中国における5つの20%とは何か」(第6018号)

 中国の情報をお届けします。「中国における5つの20%」と
いわれているものがあります。これは、ネットなどには載ってい
ない最新情報といえるのではないかと思います。
─────────────────────────────
 @若年層失業率が20%を突破したこと
 A工業部門企業の利益が前年同期比で20%近く落ちたこと
 B地方政府の土地譲渡金収入が前年同期比で20%減ったこと
 C不動産の新規着工面積が前年同期比で20%減ったこと
 D消費者信頼感指数が20%以上落ちたこと
                   ──高橋洋一/石平著
 『断末魔の数字が証明する/中国経済崩壊宣言』/ビジネス社
─────────────────────────────
 第1の25%は、「若年層失業率が20%を突破したこと」で
す。中国の国家統計局は、23年6月15日、同年5月に16歳
〜24歳までの若年層失業率が20・8%に達したと発表してい
ます。ちなみに、日本の場合は、2022年、15歳〜24歳ま
での若年層完全失業率は、男性は4・9%、女性は3・5%、平
均して4・2%であり、同じ年齢層では、中国の現在の失業率は
日本の5倍になっています。
 第2の25%は、「工業部門企業の利益が前年同期比で20%
近く落ちたこと」です。これは、6月28日に中国の国家統計局
が発表した数字であり、23年1月〜5月、全国規模以上の工業
企業の利益は前年同期比では18・8%減になったといいます。
そのうち、民営企業の利益は前年同期比で21・3%の減です。
 第3の25%は、「地方政府の土地譲渡金収入が前年同期比で
20%減ったこと」です。これは、6月16日に中国財政部(財
務省)が発表した通りの数字です。地方政府土地譲渡金収入の大
幅減は、不動産業の衰退を意味すると同時に、各地方政府が深刻
な財政難に陥っていることを示しています。
 第4の25%は、「不動産の新規着工面積が前年同期比で20
%減ったこと」です。6月16日に中国国家統計局の発表した数
字で、正確にいうと、23年1月〜5月、全国の不動産新着工面
積は、前年同期比では22・6%減です。
 BとCの数字は、中国の不動産業の衰退と今後の減速を示して
いますが、中国経済の3割をつくりだしている不動産業の大不況
は、中国経済全体の沈没を意味しているといえます。
 第5の25%は、「消費者信頼感指数が、20%以上、落ちた
こと」です。消費者信頼感指数というのは、消費者の観点から米
国経済の健全性を図る指標の中国版のことです。いずれにしても
現在中国では、23年4月から「消費の大崩壊が起きている」と
いえます。
 これら「5つの20%」は、2023年6月25日に北京で開
催された経済シンポジウムの席上で、中国人民大学・国家発展と
戦略研究院の劉暁光教授が行った基調報告のなかで、話をされて
います。
─────────────────────────────
 ポストコロナにおいて、中国の経済回復は思うとおりに進んで
おらず、問題点として「5つの20%」があり、これを根拠に中
国経済は、すでに自己回復能力を失っているといえる。
             ──高橋洋一/石平著の前掲書より
─────────────────────────────
 現在の中国において、中国人民大学・国家発展と戦略研究院の
劉暁光教授とはいえ、ここまでいうとは大変なことです。
 ここで、中国のGDPのことを考えてみることにします。20
22年1年間のGDPは次の通りです。
─────────────────────────────
       ◎2022年1年間の中国のGDP
           121兆円02076億元
             2021年対比3%増
─────────────────────────────
 石平氏によるとこの数字は明らかに水増しされているといいま
す。しかも、3%増になっていますが、2022年の政府の定め
た経済成長率目標は5%であり、目標を大幅に下回っていること
になります。注目すべきは国内消費です。
─────────────────────────────
   ◎国内消費/2022年社会消費品小売総額
              13兆9733億元
           2021年対比0・2%減
─────────────────────────────
 高橋洋一氏によると、中国の統計が異常なのは、消費の割合が
異様に低いことです。普通の国であれば、消費は大体GDPの6
割であるのに、中国では実際にこの20年間、消費率はずっと4
割を切ってきています。その不足分を埋めているのが、投資であ
るといえます。
 2022年の固定資産投資総額は、57兆2130億元、全体
のGDPに占める割合は、約47%になっています。しかし、普
通の国であれば、投資は2割ぐらいであり、中国では、消費も投
資も異常といえます、
 投資の内容を調べると、一番大きかったのは、インフラ投資で
す。2022年のインフラ投資は9・4%増であり、明らかにイ
ンフラ投資に頼っていることがわかります。ウソか本当かは別と
して、何とか中国経済を3%成長させようとしています。
 しかし、いわゆる公共投資では、その社会便益が投資のコスト
を上回るものしかやらないのが大前提ですが、中国ではそれを全
く無視しており、その結果、必要もない、とんでもないものが、
たくさんできています。しかも作って終わりではない。維持、運
用、廃棄などで後々莫大なコストがかかります。
 現在、中国では、その不動産投資が危機的状況にあるのです。
中国経済は一体どうなってしまうのでしょうか。
           ──[物価と中央銀行の役割/028]

≪画像および関連情報≫
 ●中国経済は「時限爆弾」なのか 危機と根深い課題に直面
  ───────────────────────────
   中国経済にとって、この半年間は悪いニュースが続いてい
  る。成長率の鈍化、若者の失業率の記録的な上昇、外国から
  の投資の減少、輸出と通貨の低迷、そして不動産セクター危
  機だ。アメリカのジョー・バイデン大統領は、世界2位の規
  模である中国の経済を「時限爆弾」と表現し、中国の国内で
  不満が高まると予測している。
   中国の習近平国家主席はこれに反論。同国の経済について
  「強い回復力、途方もない潜在力、強大な活力」があるとし
  ている。正しいのは、バイデン氏なのか、それとも習氏なの
  か。多くの場合でそうであるように、おそらく答えは2人の
  中間にある。中国の経済がすぐに崩壊する可能性は低い。だ
  が、中国は巨大で根深い課題に直面している。
   中国の経済問題の中心は不動産市場だ。最近まで、中国全
  体の富の3分の1を不動産が占めていた。{おかしな状態だ
  った。まったくおかしかった」。シンガポールのビジネスス
  クールINSEADで経済学を教えるアントニオ・ファタス
  教授はそう言う。
   中国の不動産セクターはこの20年間、民営化の波で、開
  発が進み、活況を呈した。しかし、2020年に危機が訪れ
  た。新型コロナウイルスのパンデミックと国内の人口減少が
  急ピッチの住宅建設に水を差した。
                 https://onl.bz/fUpVvW3
  ───────────────────────────
石平氏.jpg
石平氏
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2023年09月29日

●「岸田内閣の減税は本物か偽物か」(第6019号)

 どうしてこうなんだろう──これは、私が現在、岸田内閣に抱
く思いです。「この人は『減税』を口にしないことで知られてい
ましたが、ここまでひどい」とは知らなかったからです。
 その岸田首相が「減税」を口にして、選挙戦を有利に運ぼうと
しています。「減税」──首相から「減税」という言葉を聞くの
はかつてないことですが、これについて、元厚労相である立憲民
主党の長妻昭政調会長は、次のように切り捨てています。
─────────────────────────────
 岸田首相が示した減税策は、企業・業界にお金を入れ、最終的
に国民に渡すという発想だ。国民目線ではない。これでは「中抜
き」で結局、格差が拡大する。選挙を念頭にした組織対策の一環
にしか見えない。
 ただ、「税収増を国民に還元する」として示された検討案は、
国民が期待する「所得税減税」や「消費税減税」「ガソリン税減
税(トリガー条項発動)」ではなく、「賃上げ企業への減税策」
「特許所得などへの減税制度」「ストックオプション(自社株購
入権)の減税措置」だった。 ──立憲民主党の長妻昭政調会長
           2023年9月28日発行「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 つまり、岸田首相の「減税策」は、いったん企業・団体にお金
を入れ、それを通じてその恩恵が国民に及ぶようにする──つま
り、あの「トリクルダウン」の理論の発想と同じではないか。現
に経団連の戸倉雅和会長は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 経団連(十倉雅和会長)は11日、2024年度税制改正に関
する提言を発表し、少子化対策を含めた社会保障制度の維持のた
めの財源として、将来の消費税の引き上げが中長期的に「有力な
選択肢の一つ」と主張した。一方で、法人税については減税を訴
えており、識者は「自分たちのことしか考えていないのか」と批
判する。             ──経団連の戸倉雅和会長
─────────────────────────────
 要するに、賃上げをして欲しいのなら、法人税を減税してもら
いたいといっているのです。それにより税収が減るというのであ
れば、消費税を上げればよいじゃないかといっているのです。
 「ガソリンのトリガー条項」でもそうです。現在、この法律が
想定している事態が起きているのに、この法律を適用せず、原油
元受会社会社に補助金を出すというわかりにくいことをやってい
るのです。「この法律は現在凍結されている」というますが、そ
れなら、凍結を解除すべきであるだけの話です。しかもトリガー
条項は税金の二重課税になっており、この機会に正しいかたちに
戻すべきです。
 トリクルダウン──この理論は既に否定されているのです。こ
の問題について、経済・不平等問題の専門家であるルカ・シャン
セル、トマ・ピケティ、エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズ
ックマンが中心となり、4年の歳月をかけて作成された「世界不
平等レポート/2022」は、富がどのように分配されているか
について、これまでにないデータを提供しています。著者たちは
「世界には極めて大きなレベルの所得や富の不平等が存在する」
と書いており、それは次の3つにまとめられています。
─────────────────────────────
 @経済全体に不平等があることは周知の事実だが、このほど発
  表された大規模な調査に基づくレポートで、その不平等の大
  きさが明らかになった。
 A富裕層への減税により「トリクルダウン」が起きるという神話
  は、「世界不平等レポート2022」で否定された。
 B世界人口のうち資産額が下位50%の層は、世界の富のわず
  か2%しか保有していないのに対し、上位10%の富裕層は
  76%を保有している。
       https://www.businessinsider.jp/post-247566
─────────────────────────────
 このレポートによって示されたデータによって「トリクルダウ
ン」という経済理論は完全に否定されています。トリクルダウン
とは、富裕層への減税によって、富がしずく(トリクル)となっ
て下層の人々にも流れ落ち、最終的にはすべての人に利益をもた
らすという考え方をいいます。
 アメリカではこれまで、ロナルド・レーガン元大統領の減税に
代表されるトリクルダウン理論に基づく政策が行われてきていま
す。50年にわたる減税によって富裕層が優遇され、不平等を悪
化させることがさまざまな研究で明らかになっているにもかかわ
らず、この理論は未だに生き残っており、岸田内閣はそれに近い
政策をやっているのです。
 「消費税を下げる」という選択肢はないのでしょうか。これに
対して自民党や公明党は、減税を求める国民多数の声に対し「消
費税は社会保障財源になっている」といって拒否しています。
 2022年6月19日放送のNHK「日曜討論」では、自民党
の高市早苗政調会長(当時)が「消費税の使途というのは、年金
・医療・介護・子育て、こういった社会保障に限定されている」
「法人税の引き下げに流用されているかのようなデタラメを公共
の電波でいうのはやめていただきたい」などと発言。これについ
て共産党の「しんぶん赤旗」は、次のように反論しています。
─────────────────────────────
 税財政の実態からみればこの発言こそデタラメです。確かに消
費税法第1条には消費税収について「年金、医療及び介護の社会
保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充て
る」とあります。しかし、この規定は消費税が導入されたときに
はありませんでした。消費税導入から20年以上たった2012
年、消費税率を5%から10%に段階的に引き上げる法律を決め
たときに増税の言い訳として持ち込まれたものです。
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           ──[物価と中央銀行の役割/029]

≪画像および関連情報≫
 ●「増税メガネのごまかし」発動! 岸田首相「企業減税」
  「低所得者向け給付」聞く耳傾けぬ経済対策に不満炸裂
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   9月27日、岸田文雄首相は、首相官邸で「新しい資本主
  義実現会議」を開催し、賃上げ促進や国内投資の拡大に向け
  た減税措置などを議論した。税制措置では、企業減税が柱と
  なる。首相は会議で「持続的賃上げについて、賃上げ税制の
  減税措置の強化を図る」と強調。また、国内投資の促進へ、
  「成長力強化に資する減税の実施を図る」とした。
   首相は25日、経済対策について「成長の成果である税収
  増を国民に適切に還元する」と強調。3つの減税政策を表明
  していた。@「賃上げ税制の減税制度の強化」、A「国内投
  資の促進や、特許所得に対する減税制度の創設」、B「スト
  ックオプションの減税措置の充実」
   この3つは、経団連が9月11日に発表した「2024年
  度税制改正に関する提言」に含まれているものだ。27日の
  会議で、企業向けの減税措置を打ち出す一方、個人向けの減
  税措置は議論されなかったことに、SNSでは批判的な声が
  多く上がった。《減税やる気あるらしいけど企業減税だって
  よ・・。費税や所得税どうした?賃上しても物価上がってん
  から可処分所得増えてねーし》
                  ──「ヤフーニュース」
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消費税、法人3税、所得税、住民税の推移.jpg
消費税、法人3税、所得税、住民税の推移
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物価と中央銀行の役割 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする