2023年06月07日

●「日本人は値上げを受け入れつつある」(第5968号)

 ちょうど1年前の2022年6月6日のことです。当時日本銀
行の黒田総裁は「日本の家計は値上げを受け入れている」と発言
し、国民から非難が殺到し、釈明に追われるという事件がありま
したが、覚えているでしょうか。そのときの産経新聞ニュースを
以下に再現します。
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 日本銀行の黒田東彦総裁は、2022年6月6日、東京都内で
講演し、商品やサービスの値上げが相次いでいることに関連し、
「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との見解を示
した。さらに、持続的な物価上昇の実現を目指す上で「重要な変
化と捉えることができる」と指摘した。
 家計が値上げを受け入れ始めた背景として、黒田総裁は「ひと
つの仮説」と断った上で、新型コロナウイルス禍による行動制限
で蓄積した「強制貯蓄」が影響していると指摘。「家計が値上げ
を受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持
し、賃金の本格上昇につなげていけるかが当面のポイントだ」と
述べ、強力な金融緩和を続ける考えを強調した。
            ──2022年6月6日付、産経新聞
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 このときは、米国と日本の金利差によって、対ドル円相場は1
ドル=130円台後半で推移しており、そのために輸入の原材料
費が高騰し、物価が上がっていたのです。日米の金利差は、その
金融政策の違いによって生まれています。具体的には、米FRB
はインフレ退治のため、金利を上げているのに対し、日本銀行は
依然として異次元の金融緩和を続けているからです。
 ここで昨日のEJの内容を思い出していただきたいのです。例
の「スーパーでいつも買っている商品が10%値上がりしていた
ら・・・」の2回目の調査です。黒田総裁の発言は、その2回目
の調査の時期(2022年5月)と一致します。
 この2回目の調査で消費者は、10%値上がりしていてもその
店で商品を購入すると答えています。1年前の同じ調査では「そ
の店で買う43%/他の店に行く57%」でしたから、1年で行
動を変容させたことになります。「値上げを受け入れている」と
いう表現にはいささか問題はあるものの、消費者が1年間で行動
を変容させたことは確かです。黒田総裁は様々なデータから、そ
の変化を読み取っていたのです。
 このとき国会では、立憲民主党のある議員が黒田総裁を呼び出
し、「なぜ、金利を上げないのか。できないのなら辞任せよ」と
迫っていましたが、経済オンチもいいところです。どうもこの党
は経済の専門家が少ないように感じます。
 日本は、今でも依然としてデフレであり、そこから脱却するた
めには、金融緩和政策の継続が必要なのです。もし、利上げをし
たらどうなるでしょうか。利上げは金融を引き締めることであり
住宅ローンの金利などが一斉に値上がりして、不況になり、デフ
レがさらに深化してしまいます。だから、現在の植田日銀総裁も
金融緩和を継続しているではありませんか。そのデフレに重ねて
インフレが到来しています。日本は、デフレとインフレの両方に
向き合わざるを得ないのです。
 渡辺努東京大学大学院教授は、日本社会に沁みついたノルムの
ことを「物価・賃金ノルム」と呼んでいます。簡単にいうと、物
価は動かなくて当たり前、賃金も動かなくて当たり前と信じきっ
ていることです。しかし、コロナ禍によって、少なくとも物価に
ついては、その値上げを受け入れるようになっていることは確か
のようです。
 しかし、賃金の方はどうでしょうか。
 これについては、添付ファイルのグラフをご覧ください。渡辺
努教授の本に出ていたグラフです。これを見ると、日本以外の英
国、米国、カナダ、ドイツの4カ国は、「賃金が上がる」と「少
し上がる」の合計が40%を超えているのに対し、日本ではわず
か10%であり、大きな差があります。
 これに対して「賃金は変わらない」という回答は、他の4国が
50%前後であるのに対して、日本は65%を超えています。加
えて、「賃金が少し下がる」と「下がる」については、他の4国
が10%前後であるのに対して、日本は20%を超えています。
これに関して、渡辺努教授は、次のように述べています。
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 日本のノルムは物価と賃金の両方にかかわるものだと説明しま
した。消費者は価格が動かないことを前提に賃金が動かないのを
我慢する。企業は賃金が動かないことを前提に価格据え置きを受
け入れる。このバランスがノルムの持続性を生んだのでした。い
ま起こりはじめているのは、インフレ予想の上昇を起点として、
消費者が価格の上昇をやむを得ざるものと受け止めるようになり
それに呼応して、企業が価格への転嫁を始めているということで
す。しかし、消費者が価格上昇を甘受すると言っても、賃金が変
わらないうちはそれは長続きしません。ノルム問題の抜本的解決
には、「価格も賃金も動かない」というノルムから「価格も賃金
も上昇する」というノルムへの乗り換えが必要なのです。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
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 このように見て行くと、日本は欧米諸国と比べると、特殊な存
在であることがわかります。慢性デフレとインフレの両方を抱え
込もうとしているからです。しかし、コロナ禍後の状況を見ると
インバウンドが復活しつつあり、日本は株価が上昇し、経済が少
し上向きつつあるように見えます。
 確かに、5日の東京株式市場では、日経平均株価は、一時3万
2000円台をつけています。33年ぶりの高値であるといいま
す。今後の日本経済はどうなっていくのか。ここまでの分析を踏
まえて見ていくことにします。
          ──[世界インフレと日本経済/020]

≪画像および関連情報≫
 ●33年ぶり高値の日経平均脅かす逆行現象、1680円
  幅調整も──テクニカル
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   節目の3万円大台を超え、33年ぶりの高値を付けた日経
  平均株価の一段を、脅かす2つの逆行現象(ダイバージェン
  ス)が生じているとテクニカルアナリストは警戒している。
  SMBC日興証券の吉野豊チーフテクニカルアナリストは、
  30日付のリポートで、日経平均の「3月後半以降の上げの
  勢いの強さは、将来的な上昇余地の大きさを暗示する」と評
  価した半面、本来は連動して動くことが多い米国株指数や東
  証株価指数(TOPIX)の足元の伸び悩みは「気がかりな
  2つのダイバージェンス」だと指摘した。
   吉野氏によると、ダウ工業株30種平均とS&P500種
  株価指数、ナスダック総合指数の米国の主要3指数は3万4
  600ドル、4310ポイント、1万3240ポイントと、
  チャート分析上の節目をそれぞれ超えられず、伸び悩んでい
  る。また、日本ではTOPIXが節目の2180ポイント付
  近を抜けられずに押し戻され終わった。こうした動きは「上
  昇の勢いが強まっている日経平均も当面のピークを打ち、揺
  り戻しが生じる可能性が生じ始めていることを示唆する動き
  だ」と言う。日経平均の当面の上げがピークアウトした場合
  高値から1680円幅程度の反落が生じる可能性があり、そ
  れを超えると2670円幅か3500円幅程度まで揺り戻し
  が拡大する可能性があると吉野氏はみている。
                  https://onl.sc/2u4JuEf
 ●グラフ出典/渡辺努著/講談社現代新書の前掲書より
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1年後のあなたの給与はどうなると思いますか
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 世界インフレと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする