証券の3大証券が頭に浮かびますが、かつて、野村證券、大和証
券、日興証券の3社に「山一證券」を加えて4大証券と呼称して
いました。
山一證券は、創業1897年という歴史ある証券会社であり、
戦後の一時期には業績は業界トップの地位を占めていたこともあ
ります。法人向け業務が強く、企業の新規上場の際の主幹事証券
も数多く担い、「法人の山一」とも称されていたのです。
しかし、1997年、山一證券は自主廃業し、姿を消していま
す。帳簿に載らない債務「簿外債務」が拡大し、資金繰りが行き
詰まるとの判断から自主廃業を決定したのです。当時の野澤正平
社長の涙ながらの「社員は悪くありません」と訴えた記者会見が
記憶に残っている方も多いと思います。
今振り返って考えてみると、日本のデフレは、そのときから深
刻な状況になっており、現在まで続いています。実に26年間で
す。生まれたばかりの赤ん坊が成人になって大学を卒業し、就職
して、中堅社員になるまでの期間、物価も賃金もほとんど上がら
ない状態が続いているといえます。
6月2日のEJで、「行きつけのスーパーでいつも購入してい
る商品を買おうとしたとき、価格が10%上がっていたらどうし
ますか」と聞いたときの主要国比較を思い出してください。20
21年8月の調査です。
これと同じ調査を2022年5月にもやっているのです。20
21年といえば、コロナ禍の最盛期ですが、2022年8月とい
うと、コロナの収束が感じられる時期です。欧米では、既に経済
復興がはじまっています。その結果は次の通りです。
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◎2022年5月の調査
そのままその店で購入する 他の店に行く
英国 54%(62%) 46%(38%)
米国 64%(68%) 36%(32%)
カナダ 54%(61%) 46%(39%)
ドイツ 52%(60%) 48%(40%)
日本 56%(43%) 44%(57%)
註:()内は2021年8月の調査
──渡辺努著/講談社現代新書/2679
『世界インフレの謎』
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英国、米国、カナダ、ドイツについては、ほとんど変化はあり
ませんが、日本には大きな変化が起きています。約1年前はスー
パーでいつも買っている商品が10%値上がりしていたら、別の
スーパーに行くと答えた人が57%だったのが、値上がりしてい
ても、そのスーパーで買う人が56%と半数を超えており、やっ
と欧米と同じになったからです。日本人としては大変化です。
理由ははっきりしています。2022年というと、欧米では既
に高インフレがはじまっており、その関係で日本でも物価が上昇
していたからです。したがって、いつも買う商品が10%値上が
りしていても、他の店も同じだろうと考えて、その店で買うとい
うように、行動を変えたものと思われます。
物価の状況は、総務省統計局の「消費者物価指数」によって知
ることができます。約600の品目(モノとサービスを含む)に
ついて価格を調査し、毎月報告されています。簡単にいうと、い
ろいろな商品やサービスの詰まった「買い物かご」を想定し、あ
る時点で、同じものを買いそろえるにはいくらかかるかを計算し
比較して判定します。
「基準時」の買い物かごの価格と、比較したい「比較時」にお
いて、どのくらい変化しているかを比較するのですが、基準時の
費用を100として、比較時の費用を比率のかたちであらわした
ものが、消費者物価指数です。
渡辺努東京大学大学院教授は、600品目のそれぞれについて
前年の同じ月からどれだけ上がったか下がったかについて、個別
の品目ごとのインフレ率を計算し、その頻度分布をグラフにして
可視化しています。これは今までにやった人はいないということ
で「渡辺チャート」と呼ばれていますが、それを添付ファイルに
してあるので、ご覧ください。
このグラフの横軸は「前年比」、縦軸は「品目ウエイト」を意
味しています。横軸の前年比がプラス20%という場合、その品
目が20%上昇したことをあらわし、マイナス20%というとき
は、その品目が20%下落したことを示しています。
エネルギー価格が高騰して、前年比10%〜30%のゾーンは
急性インフレで、値上がりが顕著になっていますが、0%のとこ
ろに鋭角的に大きな山がそびえ立っています。これは、日常的に
購入しているモノとサービスのうち、約4割が前年と同じ値札を
付けていることをあらわしています。
欧米の物価についてこの「渡辺チャート」を作ってみると、急
性インフレについては、当然日本と同じようにあらわれますが、
ゼロ付近に見られるヤマ─前年と価格が変わらない─は見られな
いのです。したがって、日本の渡辺チャートに見られる山は日本
が「慢性デフレ」であることをあらわしています。
そうすると、日本は、もともと慢性デフレであることに加えて
コロナ禍によって、急性インフレも抱えていることになります。
日本はデフレを克服するため、安倍政権時代から「異次元の金融
緩和」をまだ続けていますが、急性インフレが進行しても、金融
緩和を維持せざるを得なくなっており、その結果、為替相場が円
安方向に不安定化するなど、不都合なことが起きています。
現在の岸田政権は、財務省官僚にがんじがらめにされており、
このあたりの状況が理解できず、政策実行のために、またしても
増税をしようとしています。また、野党も日銀総裁に利上げを迫
るなど経済オンチを丸出しにしています。困ったものです。
──[世界インフレと日本経済/019]
≪画像および関連情報≫
●円安がもたらす「狂乱物価」悪夢のシナリオ/《急性イン
フレ》《慢性デフレ》を徹底解説/渡辺努教授
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2021年後半からガソリンや食品を中心に、値上げラッ
シュが日本で起きていることは、皆さんも、実感しているで
しょう。商品やサービス価格が継続して上がっていく状態を
インフレ(インフレーション)といいます。日本はまだそこ
までいっていませんが、世界各国ではインフレが起きていま
す。2022年3月のアメリカの物価上昇率は前年比8・5
%。ドイツは7・6%。英国も7%と、どれも歴史的に高い
伸び率で、そこへロシアのウクライナ侵攻の影響も加わり、
物価上昇に拍車がかかっている状況です。
このまま値上げラッシュが続けば、日本でも海外のような
大幅なインフレが起きるのではない・・・。そんな不安を抱
かれる読者の皆さんも少なくないと思います。
またウクライナ侵攻をみて、1974年の第4次中東戦争
によるオイルショックと、前年比で23%も物価が上昇した
「狂乱物価」を思い起こした方もいるかもしれません。
そこで物価の研究を専門とする立場から、今後、考えられ
るシナリオを検討していきたいと思います。私は17年間の
日本銀行勤務を経て現在は大学で経済学を研究しています。
クレジットカードの購買記録やスーパーのPOSデータを利
用して、リアルタイムで物価を観察する新たな物価指数や、
消費動向の分析モデルを開発してきました。
https://onl.sc/Aq1asVX
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品目別価格変化率の分布