道しています。
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◎米金利逆転/42年ぶりの長さ
債券市場では米景気の先行きを不安視する見方が増えている。
期間が短い米国債利回りが、長いものを上回る異例の状態を「逆
イールド」と呼び、景気後退のサインとされる。満期まで2年の
国債と10年の国債を比べると、逆イールドの状態が26日時点
で226日間続いている。1981年以来、42年ぶりの長さと
なる。(中略)
背景には米連邦準備理事会(FRB)によるインフレを抑え込
むための金融引き締めが、景気を下押しするとの懸念がある。4
月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比4・4%上昇
で市場予想を上回るなど、インフレの粘着性が明らかになってい
る。FRBによる利上げ継続の思惑が強まり、逆イールドの長期
化につながっている。
──2023年5月31日付、日本経済新聞
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「逆イールド」とは何でしょうか。
債券の利回りを「イールド」といいますが、債券を償還までの
期間の短い順に左から右に並べて、線でつないだグラフを「イー
ルドカーブ」といいます。通常は償還までの期間が長くなるほど
利回りが高くなるので、イールドカーブは右肩上がりの形状にな
るはずです。
ところが、米国債の利回りは、満期まで2年の国債と10年の
国債を比べると、逆イールドの状態が226日間続いているので
す。逆イールドが続いているのです。これは、景気後退のサイン
といわれています。通常ではないからです。
それでは、なぜ、逆イールドになるのでしょうか。それに、逆
イールドはなぜ不況のサインなのでしょうか。
それは、中央銀行が短期金利(政策金利)を引き上げることに
よって、金融引き締めをするからです。今回は、米FRBがイン
フレを抑えるため、2年債の利上げを行い、それが2022年に
入って10年債を逆転したのです。これは、金融引き締めが原因
ですから、世界景気減速のシグナルになります。
世界インフレの話に戻します。31日のEJで、トルコ出身の
エコノミストであるエミン・ユルマルズ氏の主張を紹介しました
が、その一部を再現します。
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インフレ下の日本企業が他国と違うなと感じるのは、価格転嫁
しないようギリギリまで頑張るところだろう。
──エミン・ユルマルズ氏
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これを裏付けるデータが、渡辺努東京大学大学院教授の本に掲
載されています。それは、「行きつけのスーパーでいつも購入し
ている商品を買おうとしたときに、価格が10%上がっていたら
どうしますか」と聞いたときの答えです。日本と4カ国とを比較
しています。2021年8月のデータです。
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そのままその店で購入する 他の店に行く
英国 62% 38%
米国 68% 32%
カナダ 61% 39%
ドイツ 60% 40%
日本 43% 57%
──渡辺努著/講談社現代新書/2679
『世界インフレの謎』
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この数字を見てわかるように、日本の消費者だけがいつもの商
品の価格が10%も上がっていれば、別のスーパーに行く割合が
高いのです。それがわかっているから、企業としては、ユルマル
ズ氏のいうように、ギリギリまで原材料費の価格転換をしないで
頑張るのです。また、商品の内容量を少し減らす「ステルス値上
げ」という苦肉の対策をとる企業もいます。その代わり従業員の
給与がなかなか上げられないでいます。
エミン・ユルマルズ氏によると、日本においても2022年9
月に前年同月比で10・3%も企業物価が上がっていすが、日本
の同月の消費者物価は3%増であり、7・3%増を企業側が吸収
してきたことを意味するといっています。米国の場合は、企業物
価が最高11・3%増まで高まりましたが、企業物価と生産者物
価(CPI)とが離れても、せいぜい2%で程度あり、日本とは
格段の差があります。
渡辺努教授によると、日本人のインフレ感度の違いであるとし
ています。2021年8月に、英国、米国、カナダ、ドイツ、日
本を対象にアンケート調査が行われています。その調査において
「今後1年で物価はどうなると思いますか」という質問に対して
日本以外の4カ国では、30〜40%が「物価はかなり上がる」
と答えているのに対して、日本ではそう答えたのは10%未満で
あり、他国よりも大幅に少なくなっています。それに対して「ほ
とんど変わらない」という回答は、日本が5カ国中最も多かった
というのです。
この日本人による「値上げ嫌い」と「価格の据え置き慣行」は
セットで存在している──渡辺努教授はこう指摘しています。こ
れは社会の当たり前になっていて、これを経済学では「ソーシャ
ル・ノルム」(社会的規範)といいますが、その結果として企業
は利益が出ないので、賃金も上昇しなくなるわけです。したがっ
て、渡辺努教授はこの日本の社会規範を「物価・賃金ノルム」と
称しています。このような日本のノルムは、他国から見ると、非
常に奇妙な現象として映るようです。
──[世界インフレと日本経済/017]
≪画像および関連情報≫
●誤解が多すぎ「日本の賃金が上がらない」真の理由
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日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は、
大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7
カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。
ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」
と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、
もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれ
ても・・・」と思う人もいる。
はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるために
はどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第3回は、
「生産性と賃金の関係」について、学習院大学経済学部教授
の宮川努氏が解説する。
日本経済の低迷が続く中で、「日本は生産性が伸びないか
ら、低迷が続いている」という議論が行われている。一方、
賃金もまた長期にわたって低迷を続け、2022年7月に行
われた参議院選挙の重要な争点の1つになった。経済学者は
こうした長期にわたる賃金所得の低迷の背後には必ず生産性
の動向が関係していると考えているが、生産性への言及は少
ない。ここでは、この問題を労働生産性という概念を使って
簡単に説明し、生産性向上こそが賃金上昇の王道であるとい
うことを述べたい。 https://onl.sc/uq8Zeye
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逆イールド現象