2023年06月01日

●「日本のインフレ率はなぜ低いのか」(第5964号)

 世界インフレはなぜ起きたのでしょうか。ここで話を整理して
先に進むことにします。
 世界インフレを引き起こした最大の原因はパンデミックです。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中の人と企業が、
行動変容を起こした結果、世界インフレが発生しています。
 第1に、人の行動変容です。人には「消費者」という側面と、
「労働者」の側面があります。消費者としての行動変容は、サー
ビス消費からモノ消費への急速な転換です。これによって、モノ
の生産が間に合わなくなり、価格が上昇します。
 続いて、「労働者」としての行動変容です。コロナが収まって
も職場に戻らなくなり、その結果、労働供給が減少し、経済全体
の生産能力が低下し、価格が上昇します。とくにシニア層はコロ
ナを機会に早期にリタイアを決めたり、女性は自発的に離職する
ケースが増加しています。
 第2に、企業の行動変容です。パンデミックに伴うロックダウ
ンなどにより、企業間のグローバル供給網であるサプライチェー
ンが目詰まりを起こし、製品の部品などの調達に問題が生じ、経
済全体の生産能力がダウンし、供給不足になって、モノの価格が
上昇します。
 しかし、人や企業の行動変容は、本来はバラバラであり、同一
方向への行動変化も、普通は長期的にわたって徐々に起きるもの
です。それが、なぜ、世界インフレを起こすまでに急速に高まっ
たのでしょうか。
 渡辺努東京大学大学院教授によると、それはパンデミックによ
り、突然にしかも世界の人と企業の行動が同期したからであると
いいます。これについて、渡辺教授は、自著で次のように述べて
います。
─────────────────────────────
 通常、出来事はゆるゆると起こり、人々の反応もまちまちとな
りがちです。それに対して、突然、しかも人々が同期するかたち
で出来事が起こると、経済へのインパクトは最大になります。パ
ンデミックはまさにそれです。このように、「突然」と「同期」
は、パンデミックの経済への影響を考える際のキーワードだと、
私はみています。
 3つの行動変容の、もうひとつの共通点は、過度な「つながり
(connectedness) の揺り戻し」ということです。パンデミツク
以前の社会は、人と人、人と企業、企業と企業が濃密につながる
ことを徹底的に追求してきました。それによって経済効率が上が
るからです。(中略)
 もしかすると私たちは安易に「つながり」を作りすぎたのかも
しれません。脱「グローバル化」は明らかにその揺り戻しです。
多様な人材を一ヵ所に集めることで、生産と技術革新の効率性を
徹底的に追及してきた企業が、「大離職」「大退職」の憂き目に
遭っているのも、過度なつながりの揺り戻しです。フェイス・ト
ウ・フェイスで他者とつながる心地よさを求めてきた消費につい
ても、サービスの経済化の反動が起こっています。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 世界インフレは、現在でも一向に収まっていません。インフレ
率はGDPと違って低いに越したことはありませんが、現状はど
うなっているのでしょうか。IMF(国際通貨基金)による20
22年の世界各国のインフレ率ベスト5とG7各国のインフレ率
のランキングを以下にご紹介します。2003年4月14日に公
開された最新の数字です。
─────────────────────────────
    ◎インフレ率世界ランキング(2022年)
     1. ベネズエラ ・・ 200.91%
     2. ジンバブエ ・・ 193.40%
     3.  スーダン ・・ 138.81%
     4.アルゼンチン ・・  72.43%
     5.   トルコ ・・  72.31%
    75.  イギリス ・・   9.07%
    81.  イタリア ・・   8.75%
    82.   ドイツ ・・   8.67%
    99.  アメリカ ・・   7.89%
   118.   カナダ ・・   6.80%
   138.  フランス ・・   5.90%
   187.    日本 ・・   2.50%
                  https://onl.sc/pSXc8ph
─────────────────────────────
 これを見てわかるように、日本のインフレ率は2・5%であり
全193国中187位で、非常に低いことが分かります。しかし
このインフレ率は、欧米と比べると、日本とは状況が大きく異な
ることを考慮する必要があります。
 なぜなら、欧米諸国は、日本と違ってパンデミック後の経済の
復興時期も早いし、ロシアによるウクライナ侵攻による影響の度
合いも日本とは比較にならないほど大きいからです。そういう意
味においては、日本と比較の対象になるのは韓国です。経済復興
の時期も同じくらいであり、両国ともウクライナから大きく離れ
ているからです。日本と韓国のインフレ率は次の通りです。
─────────────────────────────
     153.    韓国 ・・ 5.09%
     187.    日本 ・・ 2.50%
─────────────────────────────
 韓国と比較しても韓国のインフレ率は、日本よりも、約3%上
回っています。このように比較してみると、日本の場合、物価は
確かに上がっているものの、世界的に、きわめて低いインフレ率
ということになります。日本で何が起きているのでしょうか。
          ──[世界インフレと日本経済/016]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ日本は低インフレが続くのか/青木大樹氏
  ───────────────────────────
   多くの諸外国とは対照的に、日本では低インフレ率が続い
  ている。その結果、日本国債市場は堅調に推移し、日本と他
  の先進諸国との金利差が拡大する中で、円安が進んでいる。
  生鮮食品を除いたコア消費者物価指数(CPI)の直近10
  月(2021)の前年同月比は、「+0・1%」となってい
  る。これは2020年12月の同「−1・0%」を上回るも
  のの、なお日銀の目標である2%を大きく下回っている。
   日本経済は、他国と同様、自動車部品の不足とエネルギー
  価格の上昇に大打撃を受けている。原油価格と消費者物価の
  間にはおよそ4〜7カ月のタイムラグがあることを考慮する
  と、エネルギー価格の上昇がCPIに及ぼす影響は2022
  年4〜6月頃にピークに達する可能性が高い。にもかかわら
  ず、2022年のCPIインフレ率は1・5%にさえ届かな
  いかもしれない。本レポートでは、なぜ日本では低インフレ
  率が続くのかを考察する。
   第1に、景気回復の遅れにより日本のGDPギャップ(需
  給ギャップ)は大幅なマイナスになっている。つまり、日本
  では実際のGDP(総需要)が平均的な雇用と資本を活用し
  た潜在力(供給力)に達していないのだ。
                  https://onl.sc/prr6MEX
  ───────────────────────────
渡辺努教授の本「世界インフレの謎」.jpg
渡辺努教授の本「世界インフレの謎」
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2023年06月02日

●「日本人の『物価・賃金ノルム』」(第5965号)

 5月31日付の日本経済新聞は、米金利の逆転を次のように報
道しています。
─────────────────────────────
◎米金利逆転/42年ぶりの長さ
 債券市場では米景気の先行きを不安視する見方が増えている。
期間が短い米国債利回りが、長いものを上回る異例の状態を「逆
イールド」と呼び、景気後退のサインとされる。満期まで2年の
国債と10年の国債を比べると、逆イールドの状態が26日時点
で226日間続いている。1981年以来、42年ぶりの長さと
なる。(中略)
 背景には米連邦準備理事会(FRB)によるインフレを抑え込
むための金融引き締めが、景気を下押しするとの懸念がある。4
月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比4・4%上昇
で市場予想を上回るなど、インフレの粘着性が明らかになってい
る。FRBによる利上げ継続の思惑が強まり、逆イールドの長期
化につながっている。
         ──2023年5月31日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 「逆イールド」とは何でしょうか。
 債券の利回りを「イールド」といいますが、債券を償還までの
期間の短い順に左から右に並べて、線でつないだグラフを「イー
ルドカーブ」といいます。通常は償還までの期間が長くなるほど
利回りが高くなるので、イールドカーブは右肩上がりの形状にな
るはずです。
 ところが、米国債の利回りは、満期まで2年の国債と10年の
国債を比べると、逆イールドの状態が226日間続いているので
す。逆イールドが続いているのです。これは、景気後退のサイン
といわれています。通常ではないからです。
 それでは、なぜ、逆イールドになるのでしょうか。それに、逆
イールドはなぜ不況のサインなのでしょうか。
 それは、中央銀行が短期金利(政策金利)を引き上げることに
よって、金融引き締めをするからです。今回は、米FRBがイン
フレを抑えるため、2年債の利上げを行い、それが2022年に
入って10年債を逆転したのです。これは、金融引き締めが原因
ですから、世界景気減速のシグナルになります。
 世界インフレの話に戻します。31日のEJで、トルコ出身の
エコノミストであるエミン・ユルマルズ氏の主張を紹介しました
が、その一部を再現します。
─────────────────────────────
 インフレ下の日本企業が他国と違うなと感じるのは、価格転嫁
しないようギリギリまで頑張るところだろう。
                 ──エミン・ユルマルズ氏
─────────────────────────────
 これを裏付けるデータが、渡辺努東京大学大学院教授の本に掲
載されています。それは、「行きつけのスーパーでいつも購入し
ている商品を買おうとしたときに、価格が10%上がっていたら
どうしますか」と聞いたときの答えです。日本と4カ国とを比較
しています。2021年8月のデータです。
─────────────────────────────
      そのままその店で購入する    他の店に行く
  英国           62%       38%
  米国           68%       32%
 カナダ           61%       39%
 ドイツ           60%       40%
  日本           43%       57%
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 この数字を見てわかるように、日本の消費者だけがいつもの商
品の価格が10%も上がっていれば、別のスーパーに行く割合が
高いのです。それがわかっているから、企業としては、ユルマル
ズ氏のいうように、ギリギリまで原材料費の価格転換をしないで
頑張るのです。また、商品の内容量を少し減らす「ステルス値上
げ」という苦肉の対策をとる企業もいます。その代わり従業員の
給与がなかなか上げられないでいます。
 エミン・ユルマルズ氏によると、日本においても2022年9
月に前年同月比で10・3%も企業物価が上がっていすが、日本
の同月の消費者物価は3%増であり、7・3%増を企業側が吸収
してきたことを意味するといっています。米国の場合は、企業物
価が最高11・3%増まで高まりましたが、企業物価と生産者物
価(CPI)とが離れても、せいぜい2%で程度あり、日本とは
格段の差があります。
 渡辺努教授によると、日本人のインフレ感度の違いであるとし
ています。2021年8月に、英国、米国、カナダ、ドイツ、日
本を対象にアンケート調査が行われています。その調査において
「今後1年で物価はどうなると思いますか」という質問に対して
日本以外の4カ国では、30〜40%が「物価はかなり上がる」
と答えているのに対して、日本ではそう答えたのは10%未満で
あり、他国よりも大幅に少なくなっています。それに対して「ほ
とんど変わらない」という回答は、日本が5カ国中最も多かった
というのです。
 この日本人による「値上げ嫌い」と「価格の据え置き慣行」は
セットで存在している──渡辺努教授はこう指摘しています。こ
れは社会の当たり前になっていて、これを経済学では「ソーシャ
ル・ノルム」(社会的規範)といいますが、その結果として企業
は利益が出ないので、賃金も上昇しなくなるわけです。したがっ
て、渡辺努教授はこの日本の社会規範を「物価・賃金ノルム」と
称しています。このような日本のノルムは、他国から見ると、非
常に奇妙な現象として映るようです。
          ──[世界インフレと日本経済/017]

≪画像および関連情報≫
 ●誤解が多すぎ「日本の賃金が上がらない」真の理由
  ───────────────────────────
   日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は、
  大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7
  カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。
  ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」
  と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、
  もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれ
  ても・・・」と思う人もいる。
   はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるために
  はどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第3回は、
  「生産性と賃金の関係」について、学習院大学経済学部教授
  の宮川努氏が解説する。
   日本経済の低迷が続く中で、「日本は生産性が伸びないか
  ら、低迷が続いている」という議論が行われている。一方、
  賃金もまた長期にわたって低迷を続け、2022年7月に行
  われた参議院選挙の重要な争点の1つになった。経済学者は
  こうした長期にわたる賃金所得の低迷の背後には必ず生産性
  の動向が関係していると考えているが、生産性への言及は少
  ない。ここでは、この問題を労働生産性という概念を使って
  簡単に説明し、生産性向上こそが賃金上昇の王道であるとい
  うことを述べたい。       https://onl.sc/uq8Zeye
  ───────────────────────────
逆イールド現象.jpg
逆イールド現象
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2023年06月05日

●「インフレの犯人は企業の便乗値上げ」(第5966号)

 インフレが起きると、欧米の企業はためらいなく製品や商品に
価格転嫁するといいます。トルコのエコノミスト、エミン・ユル
マズ氏にいわせると、平気でインフレ率以上の価格転嫁をして利
益を増やしているそうです。
 日本経済新聞の米駐在コメンテーターである西村博之氏による
と、現在米国市内では「SALE」を行う店舗が拡大し、値下げ
競争が起きています。こういう状況を踏まえて西村博之氏は、6
月1日付、日本経済新聞の「ディープ・インサイト」で、次のよ
うに書いています。
─────────────────────────────
 この動きが気になった理由は2つある。第1に、値引きの広が
りはインフレ収束の兆しととれる。第2に、値上げが想定外に利
益を増やしたなら、逆に企業の利益拡大がインフレを生んだ可能
性もある。
 なぜなら、今のインフレの起点とされるのは、新型コロナウイ
ルス禍による供給難と需給バランスの崩れだ。果敢な財政支援も
拍車をかけた。ロシアのウクライナ侵攻による資源高、人手不足
による賃金上昇を価格転嫁する動きも指摘される。そこに「企業
の利益拡大→インフレ」というメカニズムは登場しない。
          ──2023年6月1日付、日本経済新聞
     「ディープ・インサイト/インフレに新犯人か」より
─────────────────────────────
 このレポートのなかで西村博之氏が取り上げているのは、米カ
ンザスシティ連銀の研究者らが記述した『空前の企業利益は最近
のインフレにどれほど貢献したか』という論文です。この論文に
ついて、西村氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 インフレは企業からみれば値上げだ。その裏ではコストか利潤
もしくは両方が増えている。経営者らは、「コスト高で値上げす
る」と説明するから利潤も減ったと思いがちだが、値上げ幅がコ
スト増を上回れば利潤は増し、それ自体がインフレを促す。これ
がまさに起きたと研究者らは指摘した。
 コロナ禍に先立つ10年間、米公開企業の利幅(売上高と費用
の差)は、年平均0・4%増とほぼ横ばいだったが、2021年
は3・4%に跳ねた。物価全体の動きを示す個人消費支出(PC
E)物価指数の伸びの6割近い。企業の利幅拡大はインフレに寄
与したどころか「主因だった」との結論だ。
          ──2023年6月1日付、日本経済新聞
     「ディープ・インサイト/インフレに新犯人か」より
─────────────────────────────
 要するに、インフレの主犯はコロナ禍による供給制約という現
象を逆手に取って、企業が必要以上に値上げすることであるとい
うのです。このことを「excuseflation/言い訳フレーション」
というそうです。
 赤城乳業という企業があります。「ガリガリ君」というアイス
キャンデーの発売元です。2016年に赤城乳業はガリガリ君を
値上げしましたが、同社の社長や社員が揃って顧客に謝罪するテ
レビCMを流して話題になりました。そのときのCMの動画があ
ります。時間は3分間です。
─────────────────────────────
  ◎ガリガリ君/値上げに謝罪/CM
   https://www.youtube.com/watch?v=xpltiHWtvXA
─────────────────────────────
 これはきわめて異様なCMです。もちろん狙いは、ジョークで
あって、このユーチューブ動画は、200万回を上回る回数が再
生され、かえって売り上げは増加したそうです。しかし、これは
欧米から見ると、異様に映ったようです。なぜなら、アイスキャ
ンデー原材料費が上がっているのに、なぜ、それを価格に上乗せ
するのが悪いのか、欧米では理解できないのです。
 そういうわけで、2016年5月19日付のニューヨーク・タ
イムズ紙はこの問題を取り上げたのです。これについては、添付
ファイルをご覧ください。このニューヨーク・タイムズ紙の記事
についてのコメントです。
─────────────────────────────
 「景気低迷によって、日本ではここ20年間、殆どの商品の価
格が上昇していない。多くの値上げはヘッドライン(重大ニュー
ス)になる」と、日本における物価状況を説明した。
 デフレ脱却のために、アベノミクスは、2%の物価上昇率の達
成を目標とした。しかし、消費者物価指数は、2016年3月は
前年同期比でマイナス0・1%とゼロを割り込み、目標とは開き
がある。記事はガリガリ君の値上げは「活気に満ちた経済や強力
な消費活動を反映するものではない」と分析。「企業は、コスト
高による減益に直面している。デフレ傾向が依然として続いてい
る。また、コスト高に直面する企業は賃金を上げないため、ほと
んどの日本人の購買力は一世代前と比べて減少している」と述べ
た。               https://onl.sc/jrHDuZD
─────────────────────────────
 このニューヨーク・タイムズ紙の記事は、値上げを嫌い、価格
を据え置こうとする日本のソーシャル・ノルムが、欧米では、き
わめて異様に映ることを表しています。
 この日本のノルムは、今から考えると、1997年の山一證券
の破綻をはじめとする多くの金融機関が次々と経営難に陥ったと
き以来のものであるといえます。このすさまじい経験によって、
人々は生活を切り詰めるようになり、それを反映して企業も値上
げを控えるようになったといえます。
 それ以来26年間、日本では、ずっとデフレの状態が続いてい
ます。つまり、経営者は守りの姿勢に入り、賃金が上がらなくな
り、それで当たり前であるという感覚に陥っています。しかし、
今回の世界インフレは、日本が変化する機会になる可能性があり
ます。       ──[世界インフレと日本経済/018]

≪画像および関連情報≫
 ●世界の中で日本だけ賃金も物価も上がらない理由
  ───────────────────────────
   スーパーで値札の脇の文字に目がとまった。「この商品は
  9月×日にメーカーが値上げします」。保存が効くものだか
  ら、と思わず2つとってカゴに入れた。値上げ、値上げ、値
  上げ──。
   エネルギー価格の高騰に円安があいまって原材料コストが
  上昇し、食品をはじめとして値上げが広がっている。日本は
  長年、インフレ率(消費者物価指数の前年同月比)がプラス
  マイナス1%程度の間で推移してきたが、2022年4月か
  ら2%台が続いている。
   物価が上がっても賃金が上がらなければ、「安いうちに買
  う」では済まなくなる。日本は賃金も長らく停滞してきた。
  物価が上がれば賃金も上がる、とは到底楽観できない。では
  日本だけがなぜ、賃金も物価も上がらない状態が続いてきた
  のだろうか。
  https://toyokeizai.net/articles/-/616244
  ───────────────────────────
ガリガリ君値上げ謝罪/ニューヨーク・タイムズ.jpg
ガリガリ君値上げ謝罪/ニューヨーク・タイムズ
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2023年06月06日

●「物価に関する日本人の意識変化」(第5967号)

 現在、証券会社といえば、野村證券、大和証券、SMBC日興
証券の3大証券が頭に浮かびますが、かつて、野村證券、大和証
券、日興証券の3社に「山一證券」を加えて4大証券と呼称して
いました。
 山一證券は、創業1897年という歴史ある証券会社であり、
戦後の一時期には業績は業界トップの地位を占めていたこともあ
ります。法人向け業務が強く、企業の新規上場の際の主幹事証券
も数多く担い、「法人の山一」とも称されていたのです。
 しかし、1997年、山一證券は自主廃業し、姿を消していま
す。帳簿に載らない債務「簿外債務」が拡大し、資金繰りが行き
詰まるとの判断から自主廃業を決定したのです。当時の野澤正平
社長の涙ながらの「社員は悪くありません」と訴えた記者会見が
記憶に残っている方も多いと思います。
 今振り返って考えてみると、日本のデフレは、そのときから深
刻な状況になっており、現在まで続いています。実に26年間で
す。生まれたばかりの赤ん坊が成人になって大学を卒業し、就職
して、中堅社員になるまでの期間、物価も賃金もほとんど上がら
ない状態が続いているといえます。
 6月2日のEJで、「行きつけのスーパーでいつも購入してい
る商品を買おうとしたとき、価格が10%上がっていたらどうし
ますか」と聞いたときの主要国比較を思い出してください。20
21年8月の調査です。
 これと同じ調査を2022年5月にもやっているのです。20
21年といえば、コロナ禍の最盛期ですが、2022年8月とい
うと、コロナの収束が感じられる時期です。欧米では、既に経済
復興がはじまっています。その結果は次の通りです。
─────────────────────────────
◎2022年5月の調査
      そのままその店で購入する    他の店に行く
  英国      54%(62%)  46%(38%)
  米国      64%(68%)  36%(32%)
 カナダ      54%(61%)  46%(39%)
 ドイツ      52%(60%)  48%(40%)
  日本      56%(43%)  44%(57%)
            註:()内は2021年8月の調査
         ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                  『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 英国、米国、カナダ、ドイツについては、ほとんど変化はあり
ませんが、日本には大きな変化が起きています。約1年前はスー
パーでいつも買っている商品が10%値上がりしていたら、別の
スーパーに行くと答えた人が57%だったのが、値上がりしてい
ても、そのスーパーで買う人が56%と半数を超えており、やっ
と欧米と同じになったからです。日本人としては大変化です。
 理由ははっきりしています。2022年というと、欧米では既
に高インフレがはじまっており、その関係で日本でも物価が上昇
していたからです。したがって、いつも買う商品が10%値上が
りしていても、他の店も同じだろうと考えて、その店で買うとい
うように、行動を変えたものと思われます。
 物価の状況は、総務省統計局の「消費者物価指数」によって知
ることができます。約600の品目(モノとサービスを含む)に
ついて価格を調査し、毎月報告されています。簡単にいうと、い
ろいろな商品やサービスの詰まった「買い物かご」を想定し、あ
る時点で、同じものを買いそろえるにはいくらかかるかを計算し
比較して判定します。
 「基準時」の買い物かごの価格と、比較したい「比較時」にお
いて、どのくらい変化しているかを比較するのですが、基準時の
費用を100として、比較時の費用を比率のかたちであらわした
ものが、消費者物価指数です。
 渡辺努東京大学大学院教授は、600品目のそれぞれについて
前年の同じ月からどれだけ上がったか下がったかについて、個別
の品目ごとのインフレ率を計算し、その頻度分布をグラフにして
可視化しています。これは今までにやった人はいないということ
で「渡辺チャート」と呼ばれていますが、それを添付ファイルに
してあるので、ご覧ください。
 このグラフの横軸は「前年比」、縦軸は「品目ウエイト」を意
味しています。横軸の前年比がプラス20%という場合、その品
目が20%上昇したことをあらわし、マイナス20%というとき
は、その品目が20%下落したことを示しています。
 エネルギー価格が高騰して、前年比10%〜30%のゾーンは
急性インフレで、値上がりが顕著になっていますが、0%のとこ
ろに鋭角的に大きな山がそびえ立っています。これは、日常的に
購入しているモノとサービスのうち、約4割が前年と同じ値札を
付けていることをあらわしています。
 欧米の物価についてこの「渡辺チャート」を作ってみると、急
性インフレについては、当然日本と同じようにあらわれますが、
ゼロ付近に見られるヤマ─前年と価格が変わらない─は見られな
いのです。したがって、日本の渡辺チャートに見られる山は日本
が「慢性デフレ」であることをあらわしています。
 そうすると、日本は、もともと慢性デフレであることに加えて
コロナ禍によって、急性インフレも抱えていることになります。
日本はデフレを克服するため、安倍政権時代から「異次元の金融
緩和」をまだ続けていますが、急性インフレが進行しても、金融
緩和を維持せざるを得なくなっており、その結果、為替相場が円
安方向に不安定化するなど、不都合なことが起きています。
 現在の岸田政権は、財務省官僚にがんじがらめにされており、
このあたりの状況が理解できず、政策実行のために、またしても
増税をしようとしています。また、野党も日銀総裁に利上げを迫
るなど経済オンチを丸出しにしています。困ったものです。
          ──[世界インフレと日本経済/019]

≪画像および関連情報≫
 ●円安がもたらす「狂乱物価」悪夢のシナリオ/《急性イン
  フレ》《慢性デフレ》を徹底解説/渡辺努教授
  ───────────────────────────
   2021年後半からガソリンや食品を中心に、値上げラッ
  シュが日本で起きていることは、皆さんも、実感しているで
  しょう。商品やサービス価格が継続して上がっていく状態を
  インフレ(インフレーション)といいます。日本はまだそこ
  までいっていませんが、世界各国ではインフレが起きていま
  す。2022年3月のアメリカの物価上昇率は前年比8・5
  %。ドイツは7・6%。英国も7%と、どれも歴史的に高い
  伸び率で、そこへロシアのウクライナ侵攻の影響も加わり、
  物価上昇に拍車がかかっている状況です。
   このまま値上げラッシュが続けば、日本でも海外のような
  大幅なインフレが起きるのではない・・・。そんな不安を抱
  かれる読者の皆さんも少なくないと思います。
   またウクライナ侵攻をみて、1974年の第4次中東戦争
  によるオイルショックと、前年比で23%も物価が上昇した
  「狂乱物価」を思い起こした方もいるかもしれません。
   そこで物価の研究を専門とする立場から、今後、考えられ
  るシナリオを検討していきたいと思います。私は17年間の
  日本銀行勤務を経て現在は大学で経済学を研究しています。
  クレジットカードの購買記録やスーパーのPOSデータを利
  用して、リアルタイムで物価を観察する新たな物価指数や、
  消費動向の分析モデルを開発してきました。
                 https://onl.sc/Aq1asVX
  ───────────────────────────
品目別価格変化率の分布.jpg
品目別価格変化率の分布
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2023年06月07日

●「日本人は値上げを受け入れつつある」(第5968号)

 ちょうど1年前の2022年6月6日のことです。当時日本銀
行の黒田総裁は「日本の家計は値上げを受け入れている」と発言
し、国民から非難が殺到し、釈明に追われるという事件がありま
したが、覚えているでしょうか。そのときの産経新聞ニュースを
以下に再現します。
─────────────────────────────
 日本銀行の黒田東彦総裁は、2022年6月6日、東京都内で
講演し、商品やサービスの値上げが相次いでいることに関連し、
「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との見解を示
した。さらに、持続的な物価上昇の実現を目指す上で「重要な変
化と捉えることができる」と指摘した。
 家計が値上げを受け入れ始めた背景として、黒田総裁は「ひと
つの仮説」と断った上で、新型コロナウイルス禍による行動制限
で蓄積した「強制貯蓄」が影響していると指摘。「家計が値上げ
を受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持
し、賃金の本格上昇につなげていけるかが当面のポイントだ」と
述べ、強力な金融緩和を続ける考えを強調した。
            ──2022年6月6日付、産経新聞
─────────────────────────────
 このときは、米国と日本の金利差によって、対ドル円相場は1
ドル=130円台後半で推移しており、そのために輸入の原材料
費が高騰し、物価が上がっていたのです。日米の金利差は、その
金融政策の違いによって生まれています。具体的には、米FRB
はインフレ退治のため、金利を上げているのに対し、日本銀行は
依然として異次元の金融緩和を続けているからです。
 ここで昨日のEJの内容を思い出していただきたいのです。例
の「スーパーでいつも買っている商品が10%値上がりしていた
ら・・・」の2回目の調査です。黒田総裁の発言は、その2回目
の調査の時期(2022年5月)と一致します。
 この2回目の調査で消費者は、10%値上がりしていてもその
店で商品を購入すると答えています。1年前の同じ調査では「そ
の店で買う43%/他の店に行く57%」でしたから、1年で行
動を変容させたことになります。「値上げを受け入れている」と
いう表現にはいささか問題はあるものの、消費者が1年間で行動
を変容させたことは確かです。黒田総裁は様々なデータから、そ
の変化を読み取っていたのです。
 このとき国会では、立憲民主党のある議員が黒田総裁を呼び出
し、「なぜ、金利を上げないのか。できないのなら辞任せよ」と
迫っていましたが、経済オンチもいいところです。どうもこの党
は経済の専門家が少ないように感じます。
 日本は、今でも依然としてデフレであり、そこから脱却するた
めには、金融緩和政策の継続が必要なのです。もし、利上げをし
たらどうなるでしょうか。利上げは金融を引き締めることであり
住宅ローンの金利などが一斉に値上がりして、不況になり、デフ
レがさらに深化してしまいます。だから、現在の植田日銀総裁も
金融緩和を継続しているではありませんか。そのデフレに重ねて
インフレが到来しています。日本は、デフレとインフレの両方に
向き合わざるを得ないのです。
 渡辺努東京大学大学院教授は、日本社会に沁みついたノルムの
ことを「物価・賃金ノルム」と呼んでいます。簡単にいうと、物
価は動かなくて当たり前、賃金も動かなくて当たり前と信じきっ
ていることです。しかし、コロナ禍によって、少なくとも物価に
ついては、その値上げを受け入れるようになっていることは確か
のようです。
 しかし、賃金の方はどうでしょうか。
 これについては、添付ファイルのグラフをご覧ください。渡辺
努教授の本に出ていたグラフです。これを見ると、日本以外の英
国、米国、カナダ、ドイツの4カ国は、「賃金が上がる」と「少
し上がる」の合計が40%を超えているのに対し、日本ではわず
か10%であり、大きな差があります。
 これに対して「賃金は変わらない」という回答は、他の4国が
50%前後であるのに対して、日本は65%を超えています。加
えて、「賃金が少し下がる」と「下がる」については、他の4国
が10%前後であるのに対して、日本は20%を超えています。
これに関して、渡辺努教授は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本のノルムは物価と賃金の両方にかかわるものだと説明しま
した。消費者は価格が動かないことを前提に賃金が動かないのを
我慢する。企業は賃金が動かないことを前提に価格据え置きを受
け入れる。このバランスがノルムの持続性を生んだのでした。い
ま起こりはじめているのは、インフレ予想の上昇を起点として、
消費者が価格の上昇をやむを得ざるものと受け止めるようになり
それに呼応して、企業が価格への転嫁を始めているということで
す。しかし、消費者が価格上昇を甘受すると言っても、賃金が変
わらないうちはそれは長続きしません。ノルム問題の抜本的解決
には、「価格も賃金も動かない」というノルムから「価格も賃金
も上昇する」というノルムへの乗り換えが必要なのです。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 このように見て行くと、日本は欧米諸国と比べると、特殊な存
在であることがわかります。慢性デフレとインフレの両方を抱え
込もうとしているからです。しかし、コロナ禍後の状況を見ると
インバウンドが復活しつつあり、日本は株価が上昇し、経済が少
し上向きつつあるように見えます。
 確かに、5日の東京株式市場では、日経平均株価は、一時3万
2000円台をつけています。33年ぶりの高値であるといいま
す。今後の日本経済はどうなっていくのか。ここまでの分析を踏
まえて見ていくことにします。
          ──[世界インフレと日本経済/020]

≪画像および関連情報≫
 ●33年ぶり高値の日経平均脅かす逆行現象、1680円
  幅調整も──テクニカル
  ───────────────────────────
   節目の3万円大台を超え、33年ぶりの高値を付けた日経
  平均株価の一段を、脅かす2つの逆行現象(ダイバージェン
  ス)が生じているとテクニカルアナリストは警戒している。
  SMBC日興証券の吉野豊チーフテクニカルアナリストは、
  30日付のリポートで、日経平均の「3月後半以降の上げの
  勢いの強さは、将来的な上昇余地の大きさを暗示する」と評
  価した半面、本来は連動して動くことが多い米国株指数や東
  証株価指数(TOPIX)の足元の伸び悩みは「気がかりな
  2つのダイバージェンス」だと指摘した。
   吉野氏によると、ダウ工業株30種平均とS&P500種
  株価指数、ナスダック総合指数の米国の主要3指数は3万4
  600ドル、4310ポイント、1万3240ポイントと、
  チャート分析上の節目をそれぞれ超えられず、伸び悩んでい
  る。また、日本ではTOPIXが節目の2180ポイント付
  近を抜けられずに押し戻され終わった。こうした動きは「上
  昇の勢いが強まっている日経平均も当面のピークを打ち、揺
  り戻しが生じる可能性が生じ始めていることを示唆する動き
  だ」と言う。日経平均の当面の上げがピークアウトした場合
  高値から1680円幅程度の反落が生じる可能性があり、そ
  れを超えると2670円幅か3500円幅程度まで揺り戻し
  が拡大する可能性があると吉野氏はみている。
                  https://onl.sc/2u4JuEf
 ●グラフ出典/渡辺努著/講談社現代新書の前掲書より
  ───────────────────────────
1年後のあなたの給与はどうなると思いますか.jpg
1年後のあなたの給与はどうなると思いますか
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2023年06月08日

●「米国の利上げはラッシュはまだ続く」(第5969号)

 いま起きている世界インフレがどうなるか。これについては、
予断を許さない状況になっているといえます。問題は、インフレ
がなかなか収まらないことです。
 日本の日本銀行に当たる米国のFRBは、5月2日〜3日に行
われたFOMC(米連邦公開市場委員会──日本の金融政策決定
会合)で、政策金利を0・25%引き上げる利上げを実施してい
ます。この会合の1日前、5月1日にはファースト・リパブリッ
クバンクが破綻するなど、銀行システムへの不安が再燃していた
のですが、FRBのパウエル議長は、個人消費支出物価指数(P
CEコア/食料、エネルギーを除く)が、3月に前年同月比「プ
ラス4・6%」と、FRBが目標とする物価目標2%を大幅に上
回っていたことから、引き続き物価の安定回復に比重を置いた政
策決定を行ったものです。
 PCEに近い言葉にCPI(消費者物価指数)があります。C
PIは家計調査ですが、PCEは企業調査であり、より広い範囲
をカバーするものです。
 しかし、3月10日にシリコンバレー銀行、3月12日にシグ
ネチャーバンクの破綻に続き、5月1日のファースト・リパブリ
ックバンクの破綻が起こっているので、FRBとしては、利上げ
には慎重にならざるを得ない状況下での追加利上げです。したが
って、次のFOMC(6月13日〜14日)では、利下げは難し
いが、利上げは行わず、政策金利は据え置かれるであろうと予想
されています。これが、世界経済に一服感をもたらしているとい
えます。
 しかし、6月のFOMCで利上げが止まる可能性は少ないと予
想されます。なぜなら、インフレが依然として収まっていないか
らです。その理由について、6月6日付の日本経済新聞は、次の
ように報道しています。
─────────────────────────────
 背景には、雇用の強さがインフレの高止まりにつながるという
市場の懸念がある。5月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が
前月から33万9000人増え、市場予想(19万人)を大幅に
上回った。3月と4月の就業者数もそれぞれ4〜5万人程度上方
修正し、労働市場の強さを印象付けた。
 みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「平
均時給の伸びも前年比で4%を超えており、利下げを議論できる
段階ではない」と指摘する。雇用の強さは、人件費の影響を大き
く受けるサービス価格の上昇につながりやすい。賃金と物価の連
鎖的な上昇が続き、市場参加者のインフレへの懸念を高める。
 仮に6月に政策金利を据え置いたとしてもそれは「ポーズ(休
止)」ではなく、「スキップ(見送り)」になるとの見方が大勢
だ。大和証券の山本賢治シニアエコノミストは「FRBは6月の
利上げを見送った上で、2023年末の政策金利見通しを前回よ
りも引き上げる」と予想する。
 22年は、ドルの独歩高が進み、32年ぶりの円安を招いた。
23年はドル高が一服するとの予想が多かった。ドル高の継続は
各国のインフレ長期化や新興国からの資金流出につながり、世界
経済の波乱を招く恐れもある。(添付ファイル参照)
          ──2023年6月6日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 なぜ、インフレは収束しないのでしょうか。
 欧米の中央銀行が現在行っているインフレ対策は「利上げ」で
す。インフレには、需要サイドを原因として起こるものと、供給
サイドを原因として起こるものがありますが、利上げは、前者、
すなわち、需要サイドを原因として起きるインフレ退治に効力を
発揮するとされています。
 需要サイドを原因として起きるインフレとは、具体的にどうい
うインフレでしょうか。
 景気が良くなるとモノやサービスが良く売れます。象徴的なモ
ノに住宅の購入があります。しかし、景気が過熱し過ぎると、需
要が供給を上回るようになり、モノやサービスの価格が上昇して
インフレになります。これが需要サイドを原因として起きるイン
フレです。
 こういうインフレに対して、中央銀行は金利を上げるこで対処
しようとします。利上げをすると、これに連動して動く住宅ロー
ンの金利が高くなり、住宅購入者が組めるローンの額が利上げ以
前よりも高くなります。その結果、住宅購入が減少し、家に関連
する家具や家電などの売り上げにも減少します。これによって、
需要が抑えられ、インフレ率も下がることになります。要するに
利上げによって、景気の過熱感を冷やすことによって、インフレ
率が下がることになります。
 これに対して、供給サイドを原因として起こるインフレとは、
具体的に起きるどういうインフレでしょうか。
 これは、供給サイドに原因があってモノやサービスの提供が不
足して価格が上がって起きるインフレです。現在、起きているイ
ンフレは、コロナ禍のダメージによって、サービス消費がモノ消
費に転換し、供給の担い手である労働力が不足して、モノやサー
ビスの価格が上がるインフレです。
 この供給サイドに原因があって起きるインフレに対しても、各
国の中央銀行は、利上げで対応しています。利上げを繰り返し行
うと、需要が抑制されます。そして、少なすぎる供給と同じレベ
ルまで需要が下がってきて、インフレ率が低くなります。
 どっちにしても、インフレ率は下がるではないかといわれるか
もしれませんが、これは経済の縮小均衡であって、真の問題の解
決にはならないといえます。何とか供給を増やす手段はないもの
でしょうか。しかし、供給不足に起因するインフレに対処するに
は、経済の大きな仕組みを変える構造改革が必要であって、中央
銀行のやれることを超えています。さらに、日本は、欧米諸国と
は異なる難問を抱えています。それは、慢性インフレと、世界イ
ンフレの2つです。 ──[世界インフレと日本経済/021]

≪画像および関連情報≫
 ●今の日本はインフレ、それともデフレ?意外と知られていな
  い経済事情
  ───────────────────────────
   世界的にエネルギー価格や原材料価格が高騰している。ニ
  ュースに目を通せば「世界的なインフレ懸念」という見出し
  の記事をいくつも見るし、実際にガソリンを入れたり、スー
  パーで買い物をしていたりすると日本でも物価上昇を実感す
  ることもあるだろう。しかし、一方で日本は未だにデフレを
  脱却出来ていないという話も聞く。今回は一見すると矛盾し
  ている、この事象の背景について学んでいこう。
   そもそも一般的に物価が上昇している、下落しているとい
  う場合、何をもって物価というのだろうか。日本では総務省
  統計局が毎月発表している「消費者物価指数」を指して物価
  という。消費者物価指数は物価全体を表す「総合指数」以外
  にも、「生鮮食品を除く総合」、「生鮮食品及びエネルギー
  を除く総合」という2つのデータも重視されている。
   なぜ、生鮮食品やエネルギーの価格を除くのか。それは台
  風や干ばつなどの天候要因で価格が大きく変動してしまう生
  鮮食品や、地政学リスクや投機資金の流出入など実需以外の
  要因によって価格が大きく変動してしまうエネルギー価格の
  影響を除くことで物価動向の実態を把握するためだ。冒頭で
  インフレやデフレという言葉を使ったが、経済に馴染みのな
  い方のために簡単に説明をしておこう。インフレは「インフ
  レーション」の略で物価が継続的に上昇する状態を意味し、
  デフレは「デフレーション」の略で物価が継続的に下落する
  状態を意味している。
         https://signal.diamond.jp/articles/-/952
  ───────────────────────────
インフレ率は高く、失業率も低い.jpg
インフレ率は高く、失業率も低い
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2023年06月09日

●「スタグフレーションにどう対応するか」(第5970号)

 6月7日の朝日新聞には、「世銀見通し/金融不安を懸念」の
記事が出ています。世界インフレとも関係があるので、お知らせ
しておきます。
─────────────────────────────
◎24年の世界成長率「最悪なら0・3%」
 世界銀行は6日、最新の世界経済見通しを発表した。先進国の
金融不安が銀行の深刻な貸し出しの縮小(信用収縮)を招けば、
2024年の世界の経済成長率は、1・3%にとどまると推計し
た。こうした危機が世界中に拡大すれば、0・3%まで縮むとい
い、世銀は「世界経済は景気後退に陥る」と警告している。
 (中略)今年、米国では中堅銀3行が相次いで経営破綻し、欧
州では金融大手クレディ・スイス・グループが救済買収された。
世銀は「更なる無秩序な破綻の可能性」も否定しない。金融の機
能不全が世界中に拡散すれば、成長率は0%台になるおそれもあ
るとした。(ワシントン=榊原謙)
            ──2023年6月7日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 問題は、インフレがなかなか収まらないことです。とくに日本
ではインフレが進行し、もし、賃金が上がらないとすると、何が
起きるでしょうか。日本人は、インフレについては少しずつ受け
入れつつありますが、賃金が上がるとは考えていないようです。
渡辺努教授のいう「物価・賃金ノルム」です。
 そうすると、物価が上がる一方で賃金が据え置かれることにな
ります。この状況が続くと、実質賃金が低下し、収入が減少して
きます。その結果、人々は節約をせざるを得なくなるので、消費
が減少し、GDPが下がってきます。そういう状況になれば、景
気が悪化し、不況になります。ここで、少し紛らわしい次の言葉
を覚えておく必要があります。
─────────────────────────────
      @ スタグネーション  stagnation
      Aスタグフレーション stagflation
─────────────────────────────
 「スタグネーション」とは、景気悪化という意味です。これに
インフレ(inflation) が、同時に進行するということになりま
す。景気悪化とインフレが同時に進行することを「スタグフレー
ション」といいます。不況なのに、物価が上がる──とくに日本
は、賃金が上がっていないのにインフレが進行しているのです。
まだ、スタグフレーションにはなっていませんが、もしなったら
最悪の状況になります。伊藤元重氏という東京大学名誉教授は、
スタグフレーションになったときのマクロ経済政策のむずかしさ
について、近著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 スタグフレーションに直面した時、マクロ経済政策はどのよう
なスタンスを取るのが好ましいのか。インフレーションとスタグ
ネーションという2つの動きに対応するためには、少なくとも2
つの政策を準備する必要がある。政策目標が2つあれば、政策手
段も2つ必要となるという、ティンバーゲン=マンデルのポリシ
ーミックスの考え方だ。
 マクロ経済政策ということで言えば、金融政策と財政政策の組
み合わせをどうすべきか、ということになる。景気過熱による物
価上昇という通常のインフレーションであれば、話は簡単だ。景
気過熱を抑えることがインフレを抑制することにもつながる。財
政も金融も引き締めぎみにすればよい。
 しかし、インフレと不況の組み合わせということになると、財
政政策と金融政策の方向を逆にすることが必要となる。常識的に
考えれば、インフレを抑制するために金融は引き締め気味に、そ
して不況への対応として財政は景気刺激の方向に活用するという
ことだろう。インフレを抑えるために財政を引き締め、景気を刺
激するために金融を緩和するという組み合わせは考えにくい。問
題はこうしたポリシーミックスで、どこまでスタグフレーション
に対応できるのかということだ。       ──伊藤元重著
             『世界インフレと日本経済の未来/
   超円安時代を生き抜く経済学講義』/PHPビジネス新書
─────────────────────────────
 スタグフレーションとは、景気悪化とインフレが同時に進行す
ることです。その対処策としては、不況には財政出動と金融緩和
そしてインフレには、利上げと財政引き締めという正反対の政策
をミックスで対応する必要がある──これが伊藤元重東京大学名
誉教授の考え方です。
 現在、日本は経済的に非常に特異なポジションに置かれていま
す。現在起きている世界インフレに対して、世界中の中央銀行が
利上げで対応しているのに、日本銀行は、アベノミクス時代から
の金融緩和を続けています。現在、黒田総裁は退任し、植田和男
新総裁になっていますが、それでも黒田総裁時代の金融緩和政策
は維持されています。
 そのせいか、日本のインフレ率は他国に比べると比較的穏やか
で、このところ日経平均株価も3万円台を回復し、順調のように
見えます。アベノミクスについて、伊藤元重東京大学名誉教授も
次のように述べています。
─────────────────────────────
 ここで強調しておきたいことがある。財政・金融のポリシーミ
ックスは、アベノミクスからコロナまでの7年間、金融緩和・財
政引き締めで運用されてきたということだ。この時期に金融緩和
であったことは言うまでもないが、財政は引き締め方向に推移し
たと述べてよいだろう。アベノミクスの前年の2012年には財
政赤字はGDP比で7・6%だったが、コロナ前の19年には、
3・4%まで減少している。消費税率もこの間に5%から10%
に引き上げられている。   ────伊藤元重著の前掲書より
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/022]

≪画像および関連情報≫
 ●スタグフレーションで日本経済の暗雲広がる
  ───────────────────────────
   日本経済は2021年の秋から、スタグフレーションに突
  入した。それまで長い間続いてきたデフレが終わり、物価が
  上昇に転じたのである。コロナ禍が始まって1年半、世界中
  でインフレが亢進するなかで、日本だけ物価が上がらなかっ
  た。日本企業は、原材料費などのコストの上昇を価格に転嫁
  せずに耐えてきたからだ。しかし、その忍耐もついに限界に
  達した。
   こうして2022年に入ると、物価はさらに上がり、メデ
  ィアも「日本もインフレになった」と言うようになった。し
  かし、これはインフレではない。なぜなら、物価が上がって
  も、それに連動して給料が上がらないからだ。給料が上がら
  ないなか、一方的に物価が上がり、貯金、現金の価値が低下
  する。これはスタグフレーションであって、経済的には最悪
  の現象である。
   過去の日本でスタグフレーションが起こったのは、原油価
  格の高騰で物価が急騰した1970年代のオイルショックの
  ときだった。このスタグフレーションによって、それまで続
  いてきた、奇跡と言われた日本の高度経済成長”が終わり
  を告げている。
   インフレには2種類がある。「良いインフレ」と「悪いイ
  ンフレ」だ。良いインフレでは、物価の上昇とともに給料も
  上がる。    https://zuuonline.com/archives/252217
  ───────────────────────────
伊藤元重東京大学名誉教授.jpg
伊藤元重東京大学名誉教授
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2023年06月12日

●「名目GDPはどこまで伸長するか」(第5971号)

 先週の金曜日、6月9日の日経平均株価の終値は3万2265
円です。7日と8日は少し下落したものの、9日には持ち直して
います。これは、きわめて注目すべき出来事なので、少し書くこ
とにします。
 日経平均株価が3万円を超えたのは6月1日(木)のことであ
り、終値は3万0976円でした。直近で3万円を超えたのは、
2021年9月14日の3万0670円以来のことです。日経平
均株価の過去最高額と最低額は次の通りです。
─────────────────────────────
 ◎日経平均過去最高額と最低額
  最高額:3万8915円87銭/1989年12月29日
  最低額:  7054円98銭/2009年 3月10日
─────────────────────────────
 2023年6月9日の日本経済新聞に次の記事が出ていたので
以下に示します。
─────────────────────────────
◎名目成長率、32年ぶり伸び/今年度4・0%、物価上昇で
 日本経済新聞社が民間エコノミスト10人に聞いたところ20
23年度の名目国内総生産(GDP)成長率予測は平均で4・0
%となった。1991年度以来、32年ぶりの高さになる。税収
増で財政収支の改善が進む中、歳出圧力が強まるリスクがある。
海外経済の減速で外需が冷え込む可能性もある。(中略)
 デフレが続いてきた日本は、名目成長率が低迷していた。23
年度の名目成長率がエコノミストの予測通りならば、91年度の
5・3%以来の高さだ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏は「企
業がちゅうちょしてきた価格転嫁や賃上げが実現した結果だ」と
指摘する。     ──2023年6月9日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 名目成長率(名目国内総生産『GDP』成長率)というと、物
価の変動による影響を含んだ国内総生産(GDP)のことですか
ら、物価が上がっているときは当然上昇します。そのため、名目
成長率から物価の変動分を調整して算出した成長率のことを「実
質成長率」といいます。
 近頃の大学生に「GDPとは何か」という質問をすると、的確
な答えが返ってこないことが多いので、一応基本的なことを書い
ておきます。
 GDPというのは、一定期間に国内で産み出された付加価値の
合計で、国の経済活動状況を表す数値です。付加価値というのは
「儲け」のことなので、GDPによって国内にどれほど儲けが産
み出されたのか、すなわち、国の経済の良し悪しを知ることがで
きるのです。GDPを式であらわすと、次のようになります。
─────────────────────────────
    GDP=「民需」+「政府支出」+「貿易収支」
          │
        「民需」=「個人消費」+「設備投資」
─────────────────────────────
 コロナ禍と諸物価値上がりによって、個人消費は節約志向で縮
小していますが、企業の設備投資は上昇傾向を続けています。帝
国データバンク情報統括部の調査によると、2023年の調査で
は、60・5%と伸びています。それに加えて、コロナ対策で政
府支出が大きく増えており、名目GDPは増大しています。これ
については、添付ファイルも参照してください。
─────────────────────────────
◎設備投資計画の推移
             実施ないし実施検討中企業
   2020年調査          57・8%
   2021年調査          58・0%
   2022年調査          58・9%
   2023年調査          60・5%
   %は、設備投資を既に実施+実施予定+実施検討の合計
                  https://onl.sc/qdZeJRN
─────────────────────────────
 一般論ではありますが、名目GDPが増えるということは、税
収が増えることを意味します。政府は2025年度までに、基礎
的財政収支(プライマリーバランス/PB)を黒字化する目標を
立てていますが、2023年度の名目成長率見通しが2・1%で
その後3%で推移すれば、プライマリーバランスは26年度に黒
字化する計算になります。
 しかし、海外経済の悪影響が懸念されます。6月7日にはカナ
ダ銀行(中央銀行)は、市場の大方の予想に反し、3月と4月の
2回連続で停止していた政策金利の引き上げを再開し、0・25
%引き上げ、政策金利を4・75%としたのです。
 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は、6月6日に理事会を
開き、政策金利のキャッシュレートの誘導目標を25ベーシスポ
イント(1ベーシスポイント=0・01%)引き上げ、4・10
%にすることを決定しています。キャッシュレートの4%台超え
は、2012年4月以来、11年2ヵ月ぶりのこととなります。
市場では、今回、据え置きの見方が優勢だったため、2会合連続
の利上げはサプライズになっています。
 これらの海外経済の悪影響について、日本経済新聞は次のよう
に記述しています。
─────────────────────────────
 海外経済の悪影響は懸念材料だ。エコノミストの間では「急速
な利上げの影響などで、欧米経済は今後、一段の景気悪化が見込
まれる」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏)との
見立てが多い。輸出の下押しを通じ成長率が下振れする可能性も
あり、成長率が想定ほど高まるかは不確実性もある。
          ──2023年6月9日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/023]

≪画像および関連情報≫
 ●日本経済一人勝ちへの期待が崩れる:3月短観は景気後退
  前夜の日本経済の姿を映し出す
  ───────────────────────────
   昨年の年末頃には、主要国の中で日本の成長率が2023
  年には一番高くなる、との各予測機関の見通しが注目を集め
  ていた。欧米経済が金融引き締めの影響で減速する中、日本
  経済は比較的高めの成長を続けるという、いわば「日本経済
  一人勝ち」への期待が強まっていたのである。その背景にあ
  るのは、感染リスクの後退によって、個人消費の回復傾向が
  他国に遅れて強まっていく、との見通しであった。
   しかしその期待は、既に崩れている。昨年10〜12月期
  の実質GDP(2次速報)は前期比年率でわずか+0・1%
  と、ほぼ横ばいに留まった。期待されていた実質個人消費も
  前期比+0・3%と力強さを欠いている。感染リスクが低下
  する中、全国旅行支援という政策の後押しがあった中でも、
  前期の同+0・0%と均してみると、実質個人消費は予想外
  に低い成長ペースを続けたのである。
   日本銀行の消費活動指数(実質)をみると、2021年末
  頃に同指数はコロナ問題発生時の2020年1〜3月期の水
  準まで戻ったが、その後はほぼ横ばいを続けている。コロナ
  ショックからの回復は既に相当進んでおり、この先、リベン
  ジ消費と呼ばれるような強い回復局面が来ることを期待する
  のは、楽観的過ぎるのではないか。https://onl.sc/S1aKQW8
  ───────────────────────────
企業の設備投資計画の推移.jpg
企業の設備投資計画の推移
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2023年06月13日

●「『安いニッポン』から脱却できるか」(第5972号)

 「安いニッポン」という言葉があります。「悪い円安論」とも
いわれます。本来「円安」は、日本にとって歓迎すべきことだっ
たはずです。とくに輸出企業にとっては。しかし、2022年3
月以降の経済界の声は、すこぶる厳しいのです。時の黒田日銀総
裁への不満をあからさまにする経営者もいます。そういう不満の
声をひろってみました。すべて2022年の発言です。
─────────────────────────────
◎経済同友会/桜田謙悟代表幹事/3月29日
 現在の為替水準(円安)が適切だとはとても思えない。企業に
よって受け止めは異なるものの、全体としては行き過ぎとの評価
になっている。
◎日本鉄鋼連盟/橋本英二会長/3月29日
 (円安の恩恵を受けて競争力が改善してきた過去と比較して)
今回はまったく様相が違う。円安のリスクというのはこれが初め
て。日本が一人負けしていることの象徴。大変大きな問題。
◎日本商工会議所/三村明夫会頭/4月7日
 海外輸出をほとんどやらない、海外事業をやっていないにかか
わらず、中小企業にとっては円安のメリットはない。デメリット
の方が大きい。一般の消費者にとっても全く同じようなことがい
える。円安が輸出企業の賃金の引き上げや設備投資につながれば
いいが、今は生産も増やせていない。原料価格が上がったため、
メリットは受けられない。
◎ファーストリテイリング/柳井正会長兼社長/4月14日
 円安のメリットは全くありません。日本全体から見たら、デメ
リットばかりだというように考えます。    ──唐鎌大輔著
  『「強い円」はどこへ行ったのか』/日経プレミアシリーズ
─────────────────────────────
 ディズニーランドの入場料は、東京が7900円〜9400円
であるのに対して、フロリダは約1万900円、パリは1万50
000円です。「安いニッポン」の象徴です。
 ニューヨークのラーメンの価格は1杯2340円。日本と比較
すると約3倍、ラーメンは豪華ディナーになっています。1ドル
=130円で計算するとそうなります。
 ここで考えるべきことがあります。もし、米国でモノの価格が
上昇し、日本が価格不変であるとすると、本来であれば「円高」
になるはずです。この場合は、日米のモノの価格差は、円高が消
してくれるので、何の問題がないことになります。
 しかし、実際には、「円高」ではなく、「円安」になっている
のです。どうして、そうなったのでしょうか。ここに日本におけ
る例の「物価・賃金ノルム」が関わってくるのです。
 「購買力平価」という考え方があります。例えば、米国では1
ドルで買えるハンバーガーが、日本では100円で買えるとする
と、1ドルと100円では同じモノが買える。つまり、1ドルと
100円の購買力は等しく、為替レートは「1ドル=100円」
が妥当である──こういう考え方が「購買力平価」です。
 添付ファイルのグラフをご覧ください。このグラフは、渡辺努
東京大学大学院教授の本に出ていたものです。点線が購買力平価
であり、実線が円ドル相場です。購買力平価と円ドル相場は方向
性は一致していますが、ときどき大きな乖離が見られます。乖離
が上に向かうと円安であり、下に向かう場合は円高です。
 2003年頃から2011年頃までは、購買力平価と円ドル相
場は、ほぼ一致していましたが、2013年以降は円ドル相場は
購買力平価から上に乖離し、円安になっています。すなわち、実
際の為替レートが購買力平価に比べて安すぎる──すなわち、日
本のモノが割安になる状況が続いているのです。日本のモノの価
格も割安になりつつあります。
 この傾向は、2013年からの日銀の異次元緩和と関係があり
ます。いわゆるアベノミクスの開始です。日本がデフレの底に沈
んでいたからです。日銀と政府の考え方は、金融緩和によって円
安を実現し、これをテコにして日本のモノの価格を上昇させ、デ
フレから脱却させようとしたのです。
 それから10年、その結果、何が起きたでしょうか。既に内閣
は、安倍、菅に続いて、岸田内閣になり、日銀総裁も植田和男総
裁になりましたが、異次元の金融緩和はまだ続いています。まだ
デフレから脱却できていないからです。確かに円ドル相場につい
ては、「1ドル=78円」から「1ドル=123円」まで円安に
はなりましたが、まだデフレから脱却できていない状況です。
 しかし、モノの価格は、わずかに上がりはしたものの、期待さ
れていたレベルには遠く及んでいない状況です。長期間にわたっ
て凍りついていたモノの価格の「解凍」にはならず、その結果、
日本のモノが割安になったのです。このような日本経済の現況に
ついて、伊藤元重東京大学名誉教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 今の状況がよいとは思わない。円安で食料の輸入価格がさらに
上がれば、私たちの台所を直撃することになる。過度な円安を是
正するような政策努力は必要だろう。ただ、日本が全てに安くな
ってしまったのは、足元の円安だけが理由ではない。20年以上
続いているデフレの結果でもある。デフレで日本の賃金や物価が
上がらないことで、日本の全てが海外に比べて安くなつていった
のだ。嘆いていてもしかたない。割安感が出ている日本経済の状
況を、日本経済を活性化させる手段として活用することを考える
必要がある。コロナ後を見通したインバウンドには大いに期待で
きる。安くなった日本に向けて多くの観光客がくるだろう。地域
の製造業にも期待できる。これまでは人件費でコストが高いこと
が輸出競争力を弱めていたが、現状では日本の製造業のコスト競
争力は高まっている。            ──伊藤元重著
             『世界インフレと日本経済の未来/
   超円安時代を生き抜く経済学講義』/PHPビジネス新書
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/024]

≪画像および関連情報≫
 ●2023年の日本経済見通し/三井住友DSアセット・マネ
  ジメント
  ───────────────────────────
   日本では、経済活動の再開を背景に、景気が持ち直しつつ
  あります。新型コロナウィルスと共存する「ウィズコロナ」
  の生活様式が浸透するなか、外出規制などでいったん抑え込
  まれていた消費者の需要、いわゆるペントアップディマンド
  が顕在化し、また、日本政府による水際対策の緩和や、円安
  の追い風などから、訪日外国人(インバウンド)消費も回復
  しています。
   企業の景況感について、日銀が、12月14日に発表した
  12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、原材料費
  の高騰や、海外景気減速の影響を受け、大企業製造業の景況
  感が悪化傾向にある一方、前述のペントアップディマンドの
  顕在化などで、大企業非製造業の景況感は改善傾向が確認さ
  れています。また、省力化や気候変動対応で、企業の設備投
  資計画は依然として堅調です。
   景気の持ち直しは当面続くとみていますが、2023年度
  前半は海外景気の一段の減速で国内の経済成長はいったん鈍
  化し、その後は海外景気の持ち直しとともに成長ペースは回
  復すると見込んでいます。実質GDP成長率は前期比年率で
  2022年10〜12月期が+3・6%、2023年1〜3
  月期が+1・7%、4〜6月期が+0・6%、7〜9月期が
  +0・8%、10〜12月期が+1・5%、2024年1〜
  3月期が+1・3%で、2022年度は前年度比+1・7%
  2023年度は同+1・3%の予想です。
                  https://onl.sc/935r9h1
  ───────────────────────────
円ドルの購買力平価.jpg
円ドルの購買力平価
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2023年06月14日

●「誰もいわなくなった『悪い円安論』」(第5973号)

 「安いニッポン」の続きです。とにかく2022年は、いわゆ
る「円安亡国論」花盛りであったといえます。『週刊ダイヤモン
ド』の2022年5月21日号では、次のタイトルの大特集を組
んでおり、次のリード文が書かれています。
─────────────────────────────
◎ニッポンの「国力」低下危機「円安の善と悪」
 急激な円安が日本経済を激しく揺さぶっている。円が急落した
背景には、日本と米国の金利差拡大や資源高による経常収支の悪
化という構造的な要因がある。これまで円安は日本経済への恩恵
が大きいとされてきたが、足元では「悪い円安」が強く意識され
ている。円安は善なのか、悪なのか。大転換期にある「通貨」地
政学を徹底検証する。
     ──『週刊ダイヤモンド』/2022年5月21日号
─────────────────────────────
 とにかくこの記事を読むと、日本は本当に大丈夫なのかと思え
るほど、日本にとって暗い内容です。しかし、現在はどうでしょ
うか。「悪い円安論」はほぼ完全に鳴りを潜めています。とくに
今年に入って4月以降は、ドル・円は、139円30銭〜40銭
(6月9日現在)と、依然円安は続いているにもかかわらず、誰
も何もいいません。この落差は異常です。
 なぜ、「悪い円安論」が鳴りを潜めたかについては、株価が上
がったことが契機になったと考えられます。これについて、元内
閣参事官で、喜悦大学教授の高橋洋一氏は、2023年6月9日
発行の夕刊フジのコラム『「日本」の解き方』で次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
 日経新聞など国内メディアの多くは、円安による輸出増が見ら
れないことから、円安による輸入価格アップによるデメリットの
ほうが大きいと考え、悪い円安論を展開したようだ。古今東西あ
る近隣窮乏化理論に無謀にも挑んだわけだが、最近の株高を目の
当たりにすると、さすがに悪い円安論は言いにくくなったとみら
れる。株価指数を構成している企業は、円安メリットを享受しや
すい輸出関連・対外投資関連企業が多いからだ。
      ──高橋洋一著/『「日本」の解き方』/3266
─────────────────────────────
 「近隣窮乏化理論」とは何でしょうか。
 「近隣窮乏化理論」とは、英国の経済学者ジョーン・ロビンソ
ンが名づけたもので,自国の経済状態を改善するために他国の経
済状態を悪化させるような経済政策をとることをいいます。
 例えば、政府が為替相場に介入し、通貨安へと誘導することに
よって、国内産業の国際競争力を強化し、輸出を増大させたとし
ます。さらに、国内経済においても国産品が競争力を持ち、その
結果、国内産業が育成され、それによって国民所得は増加し、国
内の失業は減少します。
 その一方において、貿易の相手国では、通貨高による国際競争
の低下、輸入の増大と輸出の減少、雇用の減少などが次々と起こ
ります。多くの場合、相手国も対抗措置として為替介入を行い、
自国通貨を安値に誘導しようとし、さらにそれに対して相手国が
対抗措置をとる──こういった政策のことを「失業の輸出」とい
い、さらに関税引き上げ、輸入制限強化などの保護貿易政策が伴
うと、国際貿易高は漸次減少していき、やがて世界的な経済地盤
沈下を惹起することになります。
 高橋洋一氏は、近隣窮乏化理論は自国通貨安が国内総生産(G
DP)増につながると主張し、GDP動向と株価には一定の相関
があるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 円安の最大の利益享受者は、純資産が100兆円以上もある日
本政府だ。いうまでもなく外国為替資金特別会計(外為特会)で
ある。評価益のみならず円貨換算の運用益も大きくなる。なので
円安で苦しむ企業への対策は容易なはずだが、なぜかメディアは
悪い円安論一辺倒で、日本政府が最大の利益享受者として容易に
対策財源を捻出できることを言わなかった。
 悪い円安論が出るたびに、筆者の意見を含めて日本政府が円安
で最も儲けていることが、テレビやネットでしばしば流れた。筆
者の邪推だが、それを政府が嫌い、忖度したマスコミが悪い円安
論をあまり言わなくなった可能性もあるのではないか。外為特会
は、いわゆる「埋蔵金」なので、とりわけ財務省は隠したがるも
のだ。もっとも、「為替は国力であり、円安は国力低下だ」とい
う経済学的には意味不明の意見もいまだに少なくない。為替は長
い目で見れば、単に2国間の金融政策の差で決まるものであって
国力の差を表すものでない。
      ──高橋洋一著/『「日本」の解き方』/3266
─────────────────────────────
 また、難しい言葉が出てきています。「外国為替資金特別会計
(外為特会)」とは何でしょうか。
 「外国為替資金特別会計」とは、政府が外貨取引をするさいに
使われる「特別会計」の1つで、外国為替市場に介入するさいの
資金の供給源です。市場介入の決定権は財務相(財務省)が握っ
ており、その指示で日本銀行が実務を行うことになっています。
 わが国の外貨準備高は、1兆2275億ドル(約162兆円/
2022年末現在)であり、円安ドル高のときは、日本政府は大
儲けができることになります。だから、「埋蔵金」といわれてい
るのです。
 日本では、30年デフレなので、インフレを知らない国です。
1970年代に深刻なインフレを経験していますが、当時の日本
は、経済全体が高成長を続けていたので、国民もそれなりの生活
を維持することができたのです。したがって、今回のインフレは
ほとんどの国民にとって、はじめての体験であり、政府もインフ
レに対して効果的な対策を立てられないでいます。
          ──[世界インフレと日本経済/025]

≪画像および関連情報≫
 ●米国の行き過ぎたインフレは株にマイナス/窪田真之氏
  ───────────────────────────
   今日のレポートでは、2023年の日本のインフレ見通し
  と、インフレ・ヘッジとしての日本株の価値について、お話
  しします。最初に結論(筆者意見)です。
   日本のインフレ率はやっと3・7%まで上昇(2022年
  10月時点)したところですが、楽天証券経済研究所では、
  2023年後半に1・6%まで低下すると予想しています。
  市場のコンセンサス予想(主要エコノミストの予想平均値)
  も同じです。来年後半に日本のインフレ率は1%台に低下す
  ると予想されています。
   インフレは国民生活にマイナスだが、企業業績・株価には
  プラス。来年も3%台のインフレが続けば日本株に追い風。
  ところが、来年はインフレ率低下の見通し。デフレ逆戻りな
  ら消費者にプラスでも日本株にはマイナス。
   以上が結論です。結論(2)を説明するために、「なぜイ
  ンフレが起こるのか?」「インフレで損をするのは誰で、得
  をするのは誰か?」などの論点についても解説します。
   インフレは、景気や株価にプラスでしょうか、マイナスで
  しょうか?一言で言えば、「適度なインフレはプラスだが、
  過度なインフレはマイナス」です。今年は、世界中で深刻な
  インフレが起こり、インフレが世界経済にとって重大なリス
  クとして意識されています。
   https://media.rakuten-sec.net/articles/-/39952?page=2
  ───────────────────────────
高橋洋一氏.jpg
高橋洋一氏高橋洋一氏
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2023年06月15日

●「日本株はどうして上がっているのか」(第5974号)

 日経平均株価の6月12日の終値は3万2434円です。相変
わらず3万円台を安定的にキープしています。昨日のEJで、政
府の「埋蔵金」(「外国為替資金特別会計(外為特会)」)の話
を取り上げましたが、現在ネットでは、日銀の埋蔵金の話が話題
になっています。
 日銀の埋蔵金とは何でしょうか。
 それは日銀が保有するETF(上場投資信託)の含み益です。
ETFとは、特定の指数、例えば、日経平均株価や東証株価指数
(TOPIX)などの動きに連動する運用成果を目指し、東京証
券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託です。
 2023年3月時点で日銀が保有するETFの簿価と時価を比
較すると、含み益は次のように約16兆円あります。
─────────────────────────────
       ◎ETF/2023年3月時点
        簿価 ・・・・ 約37兆円
        時価 ・・・・ 約53兆円
       含み益 ・・・・ 約16兆円
─────────────────────────────
 ところが、その後も株高が続き、5月末の含み益は約20兆円
さらに株価は上がっているので、その時価は60兆円に迫ってい
るといわれます。これについて、金融ジャーナリストの森岡英樹
氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 世界の中央銀行の中でETF買いをしているのは日銀だけ。い
ずれ、売却を進め、出口に向かう必要がありますが、今が絶好の
チャンスです。巨額の利益を上げられるし、今なら海外投資家が
日本株を買い支えているので、売却によるショックも比較的小さ
いはずです。少子化対策の財源であれば、世論の支持も見込まれ
「何もしない」と評判の良くない植田総裁の”株”を上げること
にもなります。──2023年6月12日発行「日刊ゲンダイ」
─────────────────────────────
 岸田政権が実施しようとしている「異次元の少子化対策」の財
源は年間3・5兆円必要ですが、ETFの20兆円の含み益を充
てれば6年分(3・5×5=21兆円)確保できるのです。
 ところで、日本株はなぜ上がっているのでしょうか。
 いろいろな見方がありますが、雑誌『選択』/6月号は、かな
り厳しい見方をしています。「現在の日本株は、15年前のイン
ド株と同じ匂いがする」として、次のように書いています。
─────────────────────────────
 (日本株が)買われる理由は「ガバナンス、株主還元の向上」
「中国外しのサプライチェーン再構築」、「バフェット氏訪日」
「東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ是正勧告」など
である。(中略)また、日本株の上昇率が他国より高い理由は、
円安を一気に織り込んだから、ともいえる。
              ──『選択』/2023年6月号
─────────────────────────────
 現在、日本株が上がっている理由の一つに、2022年4月の
東京証券取引所(東証)の大改革があることは確かです。その狙
いの一つが「ガバナンス、株主還元の向上」です。これについて
は、改めて述べることにします。
 それでは、「東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ是
正勧告」とはどういう意味でしょうか。
 これを理解するには、「PBR(株価純資産倍率)」について
知る必要があります。PBRは、現在の株価(時価総額)を企業
の資産価値(純資産)で割った指標のことです。この指標が1倍
を切ると、資産の方が上回るので、経営者失格の烙印を押されて
しまいます。
 東証のデータによると、大手企業で構成するTOPIX500
の銘柄において、その4割以上の企業が、1倍を下回っていると
いわれます。こうしたことを東証は重視し、今年に入ってから、
PBR1倍割れの企業に対して、是正策の開示や実行を促してい
るのです。この点が海外投資家に評価されたのは間違いないこと
であると考えます。
 ところで、この3月31日、トヨタ自動車を14年近く率いて
きた豊田章男社長(現会長)が退任しています。当日の終値は、
1880円、在任中の株価は2・6倍になったものの、PBRは
0・9倍で1倍を切っているのです。数値としては、経営者失格
ということになります。これについて、ある株式評論家は、次の
ように話しています。
─────────────────────────────
 退任時の1倍割れは、章男氏の父・幸一郎さんが社長の時代で
も後を継いだ(章一郎氏の弟の)達郎さん、奥田(碩)さん、張
(富士夫)さん、渡辺(捷昭)さんの全ての方においてもありえ
なかった。特に奥田さんの時は2倍を超えており、渡辺さんは株
価が下落していたリーマン・ショック後の退任でも、1倍を超え
ていた。          ──『選択』/2023年5月号
─────────────────────────────
 それでは、「現在の日本株は15年前のインド株と同じ匂いが
する」というのはどういう意味でしょうか。
 2007年のことですが、フランスの大手金融機関・BNPパ
リバグループが「投資ファンドの解約を凍結する」と宣言し、パ
リバショックが起きたのです。サブプライムローン問題が顕在化
します。そのとき、ジョージ・ソロス氏をはじめ世界中の資金が
サブプライムローンと関係のないインドに向かったのです。
 マネーが殺到したインドのムンバイ証券取引所では、株価が暴
騰して取引を中止する異常事態が起きたのですが、その後の金融
危機で、インドの株価は3分の1以下まで大暴落します。現在の
日本の株高はそれに似ていると専門家はいうのです。景気後退の
直前にはよくこういうことが起きるといわれています。
          ──[世界インフレと日本経済/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「日経平均3万超え」でも日本株に全力投球しない理由
  ───────────────────────────
   5月に入り、日本株の強さが光ります。日経平均株価は、
  2021年9月に3万795円78銭のバブル後高値をつけ
  て以降、上がったり下がったりを繰り返すボックスの動きに
  終始していましたが、5月19日に3万924円57銭まで
  上昇し、ボックスを上抜けてきました。
   TOPIX(東証株価指数)はこれよりも早い段階で20
  21年9月の高値を超えてきており、これで日経平均株価、
  TOPIXともバブル後の高値を更新したことになります。
  日経平均株価のチャートを見ると、2年ほど上がったり、下
  がったりを繰り返していましたので、ボックス上抜けにより
  さらなる上昇も期待したいところです。
   横ばいが続いていた日本株が一気に軽々と3万円超え、そ
  してバブル後高値更新となったことに筆者も驚いていますが
  この株価上昇の原動力は、誰の買いによるものなのでしょう
  か?東京証券取引所が発表している投資部門別売買状況によ
  れば、4月以降外国人投資家は日本株を継続して買い越して
  います。4月第1週以降の6週間での買い越し額はおよそ2
  兆9000億円に達しています。
   一方、個人投資家はこの間に日本株を1兆2000億円近
  く売り越しています。日本株が大きく上昇するときは、ほぼ
  「外国人投資家の大量買い、個人投資家の大量売り」のパタ
  ーンになります。思えば2013年前半のアベノミクス相場
  初期は、怒涛(どとう)の外国人投資家の買いによって株価
  の大きな上昇がもたらされました。
      https://media.rakuten-sec.net/articles/-/41502
  ───────────────────────────
植田日銀総裁.jpg
植田日銀総裁
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2023年06月16日

●「FRBによる利上げ見送りの波紋」(第5975号)

 昨日のEJで「PBR(株価純資産倍率)」の話題を取り上げ
トヨタの「PBR1倍割れ」について言及しましたが、6月14
日付の日本経済新聞に関連記事が掲載されたので、以下に示して
おくことにします。
─────────────────────────────
◎PBR1倍割れトヨタが解消
 米国株高は13日の日本株式市場にも波及した。日経平均株価
は3日続伸し、約33年ぶりに3万3000円台で終えた。この
日の相場を象徴したのは時価総額で日本最大のトヨタ自動車だっ
た。上昇率は5%を超え、節目となるPBR(株価純資産倍率)
1倍台を回復した。本業の成長力で選別される局面が近づく。
 トヨタの時価総額は13日、時点で35兆円。1日だけで1兆
7000億円ほど増えた。2027年にも電池寿命の長い「全固
体電池」を搭載した電気自動車(EV)を投入することが材料視
された。東海東京調査センターの長田清英チーフストラテジスト
は「自動車業界ではEVなどへの取り組みがそのまま株価のプレ
ミアム(上乗せ分)になる」と指摘する。
         ──2023年6月15日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 本日は、今回のEJのテーマに関連のある重要なニュースがあ
ります。それは、13〜14日に開催された米FOMCの定例会
合で、利上げを見送り、政策金利の誘導目標を5〜5・25%に
据え置く決定を行ったことです。これについては、毎日新聞の速
報記事をご紹介しておきます。
─────────────────────────────
◎FRBが利上げ見送り、経済への影響見極め/年内に2回実施
 を示唆
 米連邦準備制度理事会(FRB)は14日、利上げを見送り、
政策金利の誘導目標を5〜5・25%に据え置くと決めた。利上
げの見送りは2022年1月以来11会合ぶり。今年に入り銀行
破綻など利上げの副作用が出ており、経済への影響を見極める。
ただ、賃金上昇など物価上昇(インフレ)圧力は収まっておらず
FRBは年内に2回の追加利上げをすると示唆した。(中略)
 パウエル議長は会合後の会見で、これまでの急激な金融引き締
めの効果や3月以降の銀行破綻が米経済をどの程度減速させるか
見極める必要があると指摘。「追加情報と金融政策への影響を評
価するため、政策金利を維持するのが賢明と判断した」と利上げ
見送りの理由を説明した。
           ──2023年6月15日付、毎日新聞
─────────────────────────────
 このFRBの利上げ見送りは日本株に大きな影響を与えると考
えられます。ちなみにこの原稿は15日の午後に書いています。
FRBの金利据え置きは、2022年3月のゼロ金利解除以降は
じめてのことで、11回会合ぶりということになります。
 問題は、パウエルFRB議長の経済見通しに関する次の発言で
す。パウエル氏は「23年度内にあと2回分の利上げをする」と
いっています。早速この発言を受けて、今後日米の金利差はさら
に広がるとみて、141円の円安になっています。しかし、日経
平均株価は、円安を好感して3万3485円49銭(終値)で終
わっています。
 米国が目指しているインフレ率は2%ですが、13日に公表さ
れた5月の消費者物価指数(CPI)は、エネルギーと食品をの
ぞくコア指数の伸びが前年同月比で5・3%と高止まりしていま
すし、個人消費支出(PCE)物価指数も前年同月比で4・4%
と、目標よりも2倍以上高いのです。
 日本でも日銀は、植田和男新総裁のもとで2回目となる金融政
策決定会合が、この原稿を書いている6月15日〜16日に開か
れています。しかし、日銀に政策変更の動きはなく、異次元の金
融緩和は、継続される見通しです。
 海外投資家の多くは、FRBの利上げ見送りと日銀の政策変更
なしと読んで、日本株への運用配分を「アンダーウエイト」から
「ニュートラル」ないし「オーバーウエイト」へ引き上げて日本
株を買っています。こういう海外投資家について、豊島&アソシ
エイツ代表の豊島逸夫氏は、自身のコラム「豊島逸夫の金のつぶ
やき」で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 すでに日本株を購入した投資家は、日本株保有の「初体験組」
が多いので、その決断が正しかったのかどうか、不安な心理状態
にいる。そのため、日本株についての好意的な記事をあさるよう
に探している。マーケティング理論でいうところの「認知的不協
和」を最小限に抑えるように行動しているのだ。こうして日本株
の存在感は米国市場で日々、確実に強まっている。
 そうはいっても、危うさも見え隠れする。日本経済や日本株に
関する知識が断片的で、一夜漬けの傾向も目立つからだ。例えば
昨日(6月13日)も経済専門チャンネルの著名な株式専門キャ
スターが「日本株が買われている理由は円安だ。日本は輸出企業
が多いので、円安が朗報なのだ」と説明していた。
            ──「豊島逸夫の金のつぶやき」より
─────────────────────────────
 日本株について、JPモルガン証券チーフ株式ストラテジスト
の西原里江氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 日本の構造変化も見逃せない。大きいのがデフレ経済からイン
フレへの移行だ。賃金上昇と物価高の好循環が回りつつある。東
証による資本コスト改革や米中の分断も中長期的に日本株に追い
風だ。日本が変わりつつあるタイミングでウォーレン・バフェッ
ト氏が来日し、日本株への追加投資の可能性を示したのは偶然で
はないだろう。  ──2023年6月15日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/027]

≪画像および関連情報≫
 ●物価上昇率の低下持続でFRBは利上げ見送りへ
  ───────────────────────────
   6月13日に発表された米国消費者物価(CPI)は、総
  合で前年同月比+4・0%(前月比+0・1%)と2年2か
  月ぶりの低水準、食料・エネルギーを除くコアでは前年同月
  比+5・3%(前月比+0・4%)と1年3か月ぶりの低水
  準となった。依然として物価目標である+2%を大きく上回
  っており、米連邦準備制度理事会(FRB)によっては許容
  できない水準にある。しかしこの物価統計は、昨年3月以来
  の連続した利上げが経済、物価に与える影響を見極める猶予
  をFRBに与えるものとなったと言えるだろう。6月14日
  の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、昨年3月以来の
  利上げ局面で初めて利上げが見送られる可能性が高い。7月
  のFOMCで利上げが再開される可能性は、現時点では50
  %程度と見ておきたい。いずれにせよ、利上げは最終局面に
  ある。
   消費者物価指数全体の34・6%もの高いウエイトを持つ
  住居費は、2か月連続で低下したとはいえ、5月に前年同月
  比+8%高い上昇率を維持している。住居費を除くとコアC
  PIは前年同月比+3・4%である。
   ただし、住宅費は物価全体に遅行する傾向が強い。他方、
  消費者物価の住宅費に先行する傾向がある、米不動産情報サ
  イトのジローの数字によると、5月の家賃の前年同月比上昇
  率は+4・8%と、昨年2月の+17%から既に大きく低下
  している。住宅費の上昇率がこの先低下傾向を強めていけば
  コアCPIの上昇率は、低下のペースが高まることになるだ
  ろう。       ──NRI/木内登英氏のコラムより
  ───────────────────────────
利上げ見送りを決めるFRBパウエル議長.jpg
利上げ見送りを決めるFRBパウエル議長
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2023年06月19日

●「6月の日米中銀の決定会合の結果」(第5976号)

 6月15日の新聞は「FRBの連続利上げ停止」の記事が満載
です。しかし、欧州中央銀行(ECB)は、15日に開いた理事
会で、0・25%の利上げを決めています。8会合連続の利上げ
であり、はじめてのことです。かねてからECBでは、景気後退
が深刻なレベルに陥らない限り、金融引き締めの継続を求めるタ
カ派的意見が多いのです。
 米FRBパウエル議長は、今回は利上げを停止したものの、困
惑の色を隠せないでいます。それが残り2回の利上げの示唆にあ
らわれています。実は、FRBの今回の利上げ停止は、多くの人
が予測していたものの、パウエル議長が次の発言をしたことには
サプライズとされています。
─────────────────────────────
 目的地に近づくにつれて利上げを緩やかにするのは理にかなっ
ている。ほぼ全ての連邦公開市場委員会(FOMC)参加者が、
さらなる利上げは必要だと考えている。年末時点の政策金利(中
央値)については、今の水準から0・25%幅の利上げが2回分
となる5・6%を見込んでいる。  ──パウエル米FRB議長
─────────────────────────────
 過去10回の利上げにより、5月の消費者物価指数(CPI)
は、前年同月比の上昇率は4・0%に下がっています。これは、
2年2カ月ぶりの低水準です。この延長線上に今回の利上げ停止
があります。そうであるのに、なぜ、さらなる2回の利上げを示
唆したのでしょうか。
 利上げ停止を決断しながら、23年の年末に向けてさらなる利
上げを示唆する──このチグハグな対応は、パウエル議長の困惑
を象徴しているといえます。
 問題は個人消費支出(PCE)コア物価指数の、エネルギーと
食品を除いたべースで前年同月比上昇率を見ると、この半年間で
4・5%を超えていることです。パウエル議長はこれに関してさ
らなる抑制が必要であると考えているようです。
 これに関連するのは、新型コロナウイルス流行時の給付金支給
や、行動制限によって積み上がった余剰貯蓄が減少していること
です。この余剰貯蓄は、サンフランシスコ連銀の試算によると、
2021年夏のピーク時点で、約2・1兆ドル(約290兆円)
あったものが、現在は5000億ドルまでに減少し、これが消費
を支える効果は、2023年10月〜12月までになくなる可能
性が高いと予測されています。
 今回のFOMCの決定に関して、2人の米エコノミストのコメ
ントを以下にまとめます。
─────────────────────────────
◎クリストファー・ラブキー氏
 /フォワードボンズチーフエコノミスト
 FRBは利上げを見送り、さらに追加利上げはないかもしれな
いと市場は見ていた。意外だったのは、FRBのパウエル議長が
CPIの減速よりも個人消費支出(PCE)コア物価指数の高止
まりに着目してインフレは鎮静化していないと判断したこと。
 (中略)7月の次回会合に向け注目したいのは、新規失業保険
申請件数。申請件数が予想以上に増えれば、雇用情勢が本格的に
鈍化していることを裏付ける。
◎ジョシュア・シャピロ氏/MFRチーフエコノミスト
 金利据え置きという政策判断と、経済・政策見通し(SEP)
は1つのパッケージだった。ブラックアウト期間に入る前に、F
RB高官の多くは、今回会合での利上げを示唆。実際は利上げせ
ず、投票は全会一致だった。利上げすべきだという参加者を納得
させるため、タカ派的な姿勢を取る必要があった。そのため今後
も利上げが続くというシナリオを示した。(中略)
 銀行システムについて、パウエル議長は、軽く考えているよう
に映った。私は、商業用不動産(向け融資が焦げ付く可能性)は
非常に現実的なリスクと考える。パウエル議長は、「(融資のエ
クスポージャーは)分散している」と述べるにとどめた。今後利
上げを進めるにあたり、振り返れば「利上げしすぎた」となる事
態が起こり得ると思う。
         ──2023年6月16日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 一方、2023年6月15日〜16日、日銀は日銀政策決定会
合を開き、次の決定──これまで通り異次元金融緩和政策の延長
を決めています。
─────────────────────────────
  長期金利の変動幅 ・・ プラスマイナス0・5%程度
      短期金利 ・・      マイナス0・1%
─────────────────────────────
 6月の日銀政策決定会合についての速報については読売新聞オ
ンライン速報を次に示します。
─────────────────────────────
 日銀は15、16日に開いた決定会合で大規模な金融緩和策を
継続することを全会一致で決めた。植田氏は、経済・物価動向に
ついて、「基調的に高まっていくが、来年度以降の賃上げなどの
不確実性は高い。企業収益や、雇用動向などを丁寧に見ていきた
い」と語った。
 また、日銀が前回会合で決めた過去25年の金融政策を検証す
る「多角的レビュー」について、当時の金融政策が経済に与えた
影響や、1990年代以降のグローバル化や少子高齢化がもたら
した企業や家計への影響などを分析する方針を明らかにした。植
田氏は「多様な視点を取り入れる」と語り、外部識者を招いた作
業部会や結果に対する意見公募を行う考えも示した。日銀は来月
にも専用のホームページを作り、随時、情報発信するという。
           ──2023年6月16日/15:55
                    読売新聞オンライン
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/028]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀金融政策決定会合前に予想する、植田日銀はいつ
  金融政策正常化に動くのか/唐鎌大輔氏
  ───────────────────────────
   6月15日から16日にかけて開催される日銀金融政策決
  定会合については、現状維持を予想する声が大勢だ。ただ、
  一方で7月以降の政策変更の可能性について、金融機関から
  質問を受ける機会が増えている。
   「次の一手」として有力視されるイールドカーブコントロ
  ール(YCC)の修正に関し、撤廃するのか、あるいは変動
  幅の拡大なのかという議論はあるが、いずれ円安抑止策とし
  てYCC撤廃を活用したいであろうことを踏まえれば、当面
  この枠組みが温存される可能性が高いと筆者は考えている。
   ※イールドカーブ・コントロール(YCC):長短金利操
  作。長期金利と短期金利の誘導目標を操作し、イールドカー
  ブ(利回り曲線)を適切な水準に維持すること
   裏を返せば、円安相場が収束したという判断があれば、7
  月にでもYCC修正は可能という見方もあるが、米連邦準備
  理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の利上げ停止が
  読み切れない中、円安相場の収束を判断するのは容易ではな
  い。筆者はFRBやECBの利上げ停止が確実なものとなり
  利下げ可能性の議論が浮上してくるであろう10〜12月期
  後半、もしくは年明け1〜3月期までYCCは温存されると
  考えている。ラフなイメージとして、今年の冬まではYCC
  が温存されるという見立てである。
        https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75600
  ───────────────────────────
利上げの到達点予測は上方修正の連続だった.jpg
利上げの到達点予測は上方修正の連続だった
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2023年06月20日

●「日本株上昇原因/PERとEPS」(第5977号)

 6月15日〜16日に開催された日銀政策決定会合──植田新
総裁にとって2回目になる会合ですが、長短金利操作(イールド
・カーブ・コントロール/YCC)のもとでの金融市場調節の方
針について現状維持を全員一致で決めています。
 この日銀政策の現状維持のニュースを知るや、トレーダーは、
安心して円を売り、また、低利の円を借りて高金利の通貨を買う
ことで金利差収益を狙う「円キャリー取引」で、リターンを稼ご
うとしています。その結果、外国為替市場では、一方的な円安が
続いています。
─────────────────────────────
     1ドル     ・・・・・・ 141円
     1ユーロ    ・・・・・・ 155円
     1英ポンド   ・・・・・・ 182円
     1スイスフラン ・・・・・・ 158円
          ──2023年6月16日現在
─────────────────────────────
 ドルに関しては、2022年11月以来の円安・ドル高水準で
あり、ユーロに関しては2008年9月以来の15年ぶりの円安
水準にあります。英ポンドでは、2015年12月以来のポンド
高・円安水準です。
 対ドルの141円は落ち着いているといえますが、注目すべき
はユーロです。対ユーロの円相場の週間下落率は3・5%であり
2017年4月以来6年ぶりの大きさになっています。これがさ
らに進行すると、日銀による為替介入の可能性が考えられます。
 そのなかにあって、日本株は上昇が続いています。2012年
末に安倍自民党が、民主党から政権を奪回し、2013年から安
倍政権がはじめたアベノミクスのときも日本株は急上昇しました
が、そのときと今回の主要経済数値の比較が日本経済新聞に出て
いるので、掲載します。
─────────────────────────────
                 今回    2013年
 日経平均株価     3万3706円  1万1191円
 東証時価総額       823兆円    330兆円
 PER(株価収益率)   15・3倍    19・1倍
 配当利回り        1・92%    1・73%
 円相場(対ドル)   141円14銭   92円08銭
 長期金利        0・400%   0・765%
        ──2023年6月17日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 「PER(株価収益率)」とは何でしょうか
 PERとは、会社の利益と比べて、今の株価が割安かどうかを
見る指標です。そのためには、「1株当たりの純利益」であるE
PSを知る必要があります。EPSとは、会社の最終利益である
純利益を発行済み株式数で割ったものです。
 仮に、純利益が1000万円とします。発行済株式数が10万
株とした場合、EPSは次のように求められます。
─────────────────────────────
     1000万円÷10万株=100円=EPS
           1株当たりの純利益は100円
─────────────────────────────
 このときの株価が2000円だったとします。そうすると、E
PSの20倍ということになります。すなわち、現在の株価は、
1株当たりの純利益の20倍です。これがPERということにな
ります。すなわち、PER(株価収益率)とは、今の株価が「1
株当たりの純利益}の何倍なのか」を示したものです。
 日本の株高に関連する情報のなかで、2023年6月17日付
日本経済新聞「ディープ・インサイト/Deep Insight」の梶原誠
氏の次の論文は興味深いです。梶原誠氏は、日本経済新聞社のコ
メンテーターです。
─────────────────────────────
                 梶原誠著
       『「誤算の株高」を保つには』
         ──2023年6月17日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 「誤算の株高」とは何でしょうか。この論文についてはいずれ
取り上げるとして、ここでは著者がPERのことに言及している
ので、それについて述べることにします。
 日本経済新聞では、毎年正月に、主要経営者による日経平均の
年間予想を掲載しています。それによると、昨年末の終値2万6
094円に対し、1月1日に掲載した20人の予想は、2万20
00円から3万3000円の範囲だったのです。
 そのなかで、最も強気の予想をしたのは、大和証券グループ本
社の中田誠司社長だったそうです。中田社長は、日経平均が3万
1000円だった5月31日に、経営説明会で、正月の予想につ
いて「違和感のない水準」と振り返っています。その根拠は次に
よります。
 日経平均採用銘柄の予想EPSは2238円となっているので
PERは次のように算出されます。中田社長の予測は的中してい
るといえます。
─────────────────────────────
    ◎日経平均採用銘柄のEPS予想値=2238円
     /同PER予想値14・5倍
        2238円×14・5=3万2451円
─────────────────────────────
 6月17日付の日本経済新聞では、PERは15・3倍になっ
ており、EPSを2238円として計算すると、3万4241円
になります。6月16日の日経平均株価は3万3706円08銭
でほぼそれに近くなっています。PERとEPS──覚えておい
ても損はないと思います。
          ──[世界インフレと日本経済/029]

≪画像および関連情報≫
 ●日経平均なぜ3万円超え?4つの視点から株価急上昇の
  要因を考える
  ───────────────────────────
   日経平均株価が<1年8カ月ぶりに3万円台を回復しまし
  た。投資家、外部環境、国内経済という視点から株価急上昇
  の要因を考えます。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコ
  ノミストの解説です。
   5月19日、日経平均株価は3万0808円で取引を終え
  ました。ゴールデンウイーク明けのわずか2週間で一気に、
  2000円近く上昇し、バブル崩壊後の最高値を約1年半ぶ
  りに更新しました。
   この株価上昇の背景には、2022年度決算及び株主還元
  策が投資家の期待を満たしたことがあります。東証が、PB
  R(株価純資産倍率)が1倍を割れている(会社が保有して
  いる純資産に対して株式の評価が低い)企業に対して、資本
  効率の改善を求めたことに企業が呼応し自社株買いや増配な
  ど株主還元策を強化したことで、投資家の日本株に対する評
  価が上がった形です。またそれとは別にここへ来て世界的に
  製造業の底打ち感が強まっていることも効いています。米国
  経済は、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事
  会)が行った金融引き締めの副反応によって、企業の資金繰
  り環境が悪化するといった不気味な材料が多くなっている反
  面、日本株との関係が深い製造業については、そのサイクル
  に反転の兆しが認められています。
                 https://onl.sc/9Tf5wsx
  ───────────────────────────
「円は幅広い通貨に対して下落している」.jpg
「円は幅広い通貨に対して下落している」
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2023年06月21日

●「『東証の大改革』について考える」(第5978号)

 2022年4月4日のことです。東京証券取引所(東証)が、
それまでの市場区分を見直し、市場を再編成しています。これが
「東証の大改革」といわれるものです。現在起きている日本株の
株高は、この改革と無関係ではないといわれています。2022
年4月以前の市場区分は次の4つに分かれていたのです。
─────────────────────────────
   @ 市場第一部 ・・ 流通性の高い企業向けの市場
   A 市場第二部 ・・   実績ある企業向けの市場
   BJASDAQ ・・ 成長性のある企業向けの市場
   C  マザーズ ・・     新興企業向けの市場
─────────────────────────────
 第一部と第二部の差は何となくわかるし、マザーズは新興企業
ということで理解できると思いますが、JASDAQは少し複雑
なので簡単に説明しておくことにします。JASDAQは、次の
2つに分かれています。
─────────────────────────────
    @JASDAQスタンダード ・・ 659社
    A  JASDAQグロース ・・  35社
─────────────────────────────
 JASDAQスタンダード(JAS)は、一定の規模・実績を
持つ成長企業を対象としている市場です。上場銘柄としては、日
本マクドナルドホールディングス株式会社、株式会社ワークマン
東映アニメーション株式会社など659社です。
 JASDAQグロース(JAG)とは、成長性の高い新興企業
(ベンチャー企業)中心の市場です。35社と数が少ないですが
ユニークな技術やビジネスモデルを持つ企業が上場しています。
シンバイオ製薬株式会社、株式会社リプロセルなど35社です。
 JASDAQとマザーズは、上場審査基準が異なります。例え
ば、JASDAQスタンダードは、見込み株主数が400人以上
時価総額が10億円以上であるのに対し、マザーズは上場したさ
いの見込み株主数が150人以上、時価総額が5億円以上となっ
ています。念のため、「時価総額」とは、次の計算によって得ら
れる数値です。
─────────────────────────────
     時価総額=現在の株価 × 発行済株式数
─────────────────────────────
 以上のような東証の市場区分は、2022年4月4日から新し
い次の3つの市場に再編されいいます。
─────────────────────────────
 @  プライム
  ・多くの機関投資家の投資対象になる規模の時価総額(流
   動性)+より高いガバナンス水準を持つ企業向け市場
 Aスタンダード
  ・一定の時価総額(流動性)+基本的なガバナンス水準を
   持つ企業向けの市場
 B  グロース
  ・高い成長可能性を実現するための事業計画を適時・適切
   に開示+相対的にリスクの高い企業向けの市場
─────────────────────────────
 この「東証の大改革」は、すこぶる評判が悪いのです。これに
ついて『週刊東洋経済』は、2022年4月4日号で、鋭く批判
しています。なぜなら、東証一部上場の84%が「プライム」に
そのままスライドしたからです。(添付ファイル参照)『週刊東
洋経済』は、これについて次のように書いています。
─────────────────────────────
 そもそも東証1部を巡っては、かねて玉石混交という批判が渦
巻いている。時価総額が30兆円を超える企業から、同10億円
台の企業までが入り乱れ、規模やガバナンス(統治)の程度があ
まりにもかけ離れている状態だからだ。その状況で改革議論の出
発点にあったのは、上場をゴールとせず、持続的な企業価値向上
にむけてどう動機付けを図り、その一環として最上位市場の構成
企業をどう厳選していくか、ということだった。
         ──『週刊東洋経済』2022年4月4日号
─────────────────────────────
 旧東証1部上場企業のなかには、そのポジションに相応しくな
い企業も多く含まれています。今回の改革は、そういう企業を適
正な市場に位置付ける絶好の機会でもあります。しかし、東証一
部上場の84%が「プライム」に横滑りしてしまったのです。
 実力が伴わないのに旧東証第一部に位置付けられている企業に
とっては、新しいプライムに移籍できないと、企業の一大イメー
ジダウンになります。
 そもそも旧東証一部上場企業は、政権党である自民党に親和性
のある企業が多いのです。当然そういう企業は、プライムにスラ
イドできるよう自民党議員に対して働きかけを強めるはずです。
献金などをエサに「配分を決める役人に働きかけてください」と
いう要請を行うはずです。上記の『週刊東洋経済』には、次のエ
ピソードが出ています。
─────────────────────────────
 「優秀な若者が地元で就職するとしたら、県庁、銀行、1部上
場と相場が決まっているわけ。その1部上場企業がもし“降格”
になったときの影響は、君たちが考えているよりもはるかに大き
いからね。よろしく頼むよ」
 東京・永田町にある自由民主党本部。6階の会議室での会合後
国会議員の1人に呼び止められた金融庁幹部は、そう言われて腰
をぽんと叩かれた。同幹部にとっては、担当外の話だったため、
「なぜ自分に」と思ったが、議員が言わんとしていることはすぐ
にわかった。当時まさに金融庁の審議会で議論していた案件だっ
たからだ。    ──『週刊東洋経済』2022年4月4日号
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/030]

≪画像および関連情報≫
 ●東証改革「終わりではなく始まり」 迫る市場再編
  ───────────────────────────
   「想定より多いな」。東京証券取引所の再編に伴う企業か
  らの申請が大詰めを迎えていた2021年12月。東証幹部
  の目は日々更新されるエクセルシートにくぎ付けだった。従
  来の最上位の東証1部から、あえて中間的な位置づけの「ス
  タンダード」に移行する企業の数が関心の的だ。
   「当初は100社くらいかな、と思っていた」。日本取引
  所グループ(JPX)の最高経営責任者(CEO)、清田瞭
  は明かす。蓋を開けてみると、東証1部の2180社のうち
  スタンダードへの移行を選んだ企業は339社にのぼる。ス
  タンダードへの「くら替え」を選ぶ企業の数を気にするのは
  現在の東証1部が膨張していることの裏返しだ。13年の旧
  大阪証券取引所との統合を経て、上場社数は10年前より約
  3割えた。東証1部の上場約2200社全体を運用対象にす
  る投資家は少なくない。日銀も、金融緩和策で買い入れてい
  る。一方、米国の主要企業の株価指数は500社。東証1部
  の上場企業は「玉石混交」との指摘があった。
          ──2022年3月7日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
1部上場の84%がプライムにスライド.jpg
1部上場の84%がプライムにスライド
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2023年06月22日

●「なぜ、ROEが重視されるのか」(第5979号)

 EJでトヨタの「PBR1倍割れ」のことを書いたのは、6月
15日のことです。そうしたら、16日の日本経済新聞に「PB
R1倍割れトヨタが解消」の記事が出て、6月19日付、日本経
済新聞夕刊の「ニュースぷらす」に「PBR1倍割れ、何が問題
?」という解説記事が掲載されています。日本の株価が、なぜ上
がっているのかが大きな関心を呼んでいるのです。
 「PBR1倍割れ」とは、企業の成長期待の低さを映すもので
日本の時価総額の大きい企業でも低PBRに沈んでいるのです。
誰でも知っている次の10社のうち、実に7社が、PBR1倍割
れになっています。
─────────────────────────────
                   PBR(倍)
     トヨタ自動車 ・・・・・・・・ 1・10
     三菱UFJフィナンシャルG ・ 0・68
     ソフトバンクG ・・・・・・・ 1・07
     ホンダ ・・・・・・・・・・・ 0・65
     三井住友フィナンシャルG ・・ 0・61
     みずほフィナンシャルG ・・・ 0・58
     パナソニックHD ・・・・・・ 1・07
     ゆうちょ銀行 ・・・・・・・・ 0・41
     住友商事 ・・・・・・・・・・ 0・99
     JR東海 ・・・・・・・・・・ 0・92
           ──2023年6月16日現在
        2023年6月19日付、日本経済新聞/夕刊
─────────────────────────────
 PBRにPERにEPS──似たような言葉が次々と登場する
のが株の世界です。これに加えて「ROE(自己資本利益率)」
について知っておく必要があります。なぜなら、米国の企業では
ROEの20%超えが当たり前であるのに、日本企業のROEは
10%程度であるからです。
 「ROE(自己資本利益率)」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
        ROE/Return on Equity
    自己資本利益率(株主資本利益率)
─────────────────────────────
 「R」は利益、「E」は株主資本を表しています。株主資本と
は、自己資本とも呼ばれ、主に株主から集めた資金と利益の蓄積
で構成される企業の総資本の一部です。この自己資本がどれだけ
効率的に儲けを生んでいるかの指標がROEです。
 ROEはどのように計算するのでしょうか。計算式は、次のよ
うになります。
─────────────────────────────
      ROE=「当期純利益」÷「自己資本」
─────────────────────────────
 例えば、総資産が100億円で、1億円の当期純利益を上げて
いるA社とB社があります。しかし、A社の自己資本が10億円
B社の自己資本50億円であるので、A社のROEは10%、B
社は2%になります。したがって、A社の方が自己資本を有効に
生かしていることになります。
─────────────────────────────
              A社      B社
     当期純利益   1億円     1億円
      自己資本  10億円    50億円
       ROE   10%      2%
─────────────────────────────
 なぜ、ROEが重視されるのかというと、それには理由があり
ます。日本の投資家は、PER(株価収益率)やPBR(株価純
資産倍率)、配当利回り(年間配当÷株価)を投資判断にする傾
向がありますが、外国人投資家は、自分が出した資金で企業がど
れだけ利益を上げるか、すなわち、ROEを重視する傾向がある
といわれます。したがって、高成長企業が配当を行うと、「その
分を事業に投資してもっと利益を上げるように」と注文をつける
株主もあるほど、ROEを重視します。
 ところで、ここにきて、なぜPBRが注目されているかという
と、東証が3月末にPBRが1倍を下回る上場企業に改善を要請
したからです。その結果、何が起きたかというと、上場企業の自
社株買いの増加です。5月に東京証券取引所の上場企業の自社株
買いは約3・2兆円を超え、2004年以来で過去最高になって
います。この資本効率改善に向けた取り組みが市場に好感され、
33年ぶりといわれる株価を支えているのです。
 「自社株買い」とは何でしょうか。
 自社株買いとは、上場企業が既に発行している株式を自分の資
金を使って買い戻すことです。その目的の1つは、株主に対する
利益還元をすることにあります。
 企業は取得した自己株式を消却することで、発行済株式数を減
らすことができます。その結果、一株当たり利益(EPS)や、
自己資本利益率(ROE)など財務指標を改善することができる
のです。また、発行済株式数が減少することで、1株当たりの配
当金の増加などが期待できます。
 この自社株買いをめぐる政府の方針に、投資家が動揺したこと
があります。2021年12月の衆議院予算委員会において、自
社株買いについて質問した議員に対して、岸田首相は、「自社株
買いに関するガイドライン(指針)を策定する可能性」に言及し
ています。役人のペーパーを読んだだけかもしれませんが、需給
悪化を懸念した多くの投資家が動揺したものです。
 東証の大改革の評判は良くないですが、改革以来、上場企業に
対して、いろいろな要請を出しています。そのため、日経平均株
価が上昇していることは確かであり、改革はけっして無駄ではな
かったといえるのではないでしょうか。
          ──[世界インフレと日本経済/031]

≪画像および関連情報≫
 ●自社株買いは株主にどんなメリットがあるのか
  ───────────────────────────
   上場会社は、株主に対してどのような形で利益還元してい
  るのでしょうか。それには大きく分けて2つの方法がありま
  す。1つは配当金、もう1つは自社株買いです。
   配当金や自社株買いに必要な資金は、税引後利益を利用し
  たり、あるいは利益剰余金や資本剰余金などを取り崩して、
  その資金を使うことも可能です。
   ちなみに自社株買いとは、上場会社が自社の株式を市場で
  購入することです。株価操作に悪用されるおそれがあったた
  め、日本では長い間、禁止されていましたが、持ち合い解消
  の受け皿として利用できるように、1994年から消却など
  に限って解禁されています。
   97年にはストックオプション(自社株購入権)について
  も認められ、さらに2001年からは目的を限定しない自社
  株買い(金庫株)が認められるようになっています。それ以
  外にも、自社株買いの使い勝手がいいように、いくつかの改
  革が進められています。
  2001年からは、法定準備金のうち資本金の4分の1を上
  回る分を取り崩して、自社株買いの原資となる剰余金に振り
  替えることができるようになり、さらに03年からは、取締
  役会の決議でも自社株買いができる(それ以前は株主総会で
  の決議が必要だった)ようになっています。
         ──2020年3月28日付、日本経済新聞
  ───────────────────────────
日本の主要上場企業のPBRは欧米企業に見劣りする.jpg
日本の主要上場企業のPBRは欧米企業に見劣りする
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2023年06月23日

●「賃金・物価スパイラルが起きている」(第5980号)

 欧米のインフレがなかなか収まりません。6月22日の日本経
済新聞から、英国と米国のインフレの状況について、記事をピッ
クアップします。
─────────────────────────────
◎英消費者物価8・7%上昇/5月根強いインフレ懸念
 【ロンドン=大西康平】英統計局が21日発表した英国の20
23年5月の消費者物価指数は前年同月比8・7%上昇した。伸
び率は前年比横ばいで、鈍化しなかったのは3カ月ぶり。賃金と
サービスの価格の上昇による根強いインフレへの懸念が高まって
いる。(中略)
 英国は賃上げを求めるストライキが頻発。4月の平均賃金の前
年同期比の伸び率は2カ月連続で上昇して6・5%となった。
◎「米インフレ圧力なお強く」/FRB議長、議会で証言
 【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)のパウ
エル議長は21日、米連邦議会の下院金融サービス委員会で証言
した。米国の物価上昇率は鈍化傾向にあるが、パウエル氏は「イ
ンフレ圧力は依然として強く、(目標の)2%に戻すには長い道
のりがある」と強調して、追加の金融引き締めの必要性を示唆し
た。       ──2023年6月22日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 ところで、世界の中央銀行は、政策金利を何によって決めてい
るのでしょうか。
 これについては、昔から論争があるのです。「ルールか、裁量
か」の論争です。現実には、「ルール」と「裁量」の一方だけが
正しいと決めることはできないので、近年の先進国の金融政策運
営を見ると、基本的にはルールに従いつつ、ある程度の裁量は必
要という考え方が主流であるといえます。
 「ルール」というものは存在します。1993年に米国の経済
学者ジョン・ブライアン・テイラーが提唱したルールで、「テイ
ラールール」といわれています。
 テイラールールは、インフレ率とGDPから、望ましいインフ
レ率(インフレターゲッティングの目標値)を実現するために必
要な金利水準を算出することができます。日銀を含む主要国の中
央銀行は、このルールから得られる数値を参考にして、政策金利
の決定を行っています。
 渡辺努東京大学大学院教授の著書には、米Fed(連邦準備制
度)が制御する金利、フェデラルファンドレート(FF金利)の
実績値と、テイラールールの公式を使って算出された金利水準の
推移を示すグラフが掲載されています。このグラフを添付ファイ
ルにしてあるので、ご覧ください。渡辺努教授は、このブラフに
ついて、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 これを見ると、過去のFedによる金利操作は、おおむねテイ
ラールールが指示する水準に沿っていることがわかります。しか
し、2020年以降を見ると、FF金利の実績値とテイラールー
ルが指示する金利水準が大きくかけ離れていることに気がつきま
す。2020年の春、米国ではパンデミックによる景気悪化にと
もないインフレ率が下がりました。このときテイラールールが指
示した金利水準は、なんとマイナス5%でした。マイナス金利を
採用している中央銀行は日銀を含め世界にいくつかありますが、
さすがにそこまで大幅にマイナスを掘り進んだ例はありません。
 テイラールールの公式には「マイナス金利は難しい」という要
素は入っていないので、プラスであれマイナスであれ、必要な金
利水準はこれだと手加減なしに指示してくるのです。しかしこの
ときFedは、マイナス金利は副作用が大きいと考えており、ま
た、そもそもパンデミックにともなう景気悪化は一過性と考えて
いたこともあって、実際に行われた利下げの水準は、ゼロにとど
まりました。その後、インフレ率が上昇するにつれて、テイラー
ルールは、金利の大幅引き上げをFedに要求するようになりま
す。しかしFedはすぐには利上げに向かいませんでした。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 米国の中央銀行であるFRBは、金融政策の実施を通して、米
国の雇用の最大化、物価の安定化、適切な長期金利水準の維持を
実現し、その結果として、米国経済を活性化することを目標とし
ています。しかし、日銀の場合、日本銀行法第1条第1項、第2
条には、金融政策の目的として、物価の安定は、経済が安定的か
つ持続的成長を遂げていくうえで不可欠な基盤であるとしている
ものの、雇用の最大化は目的に入っていません。
 今回のインフレの原因となったものは、最初の経済ショックを
もたらしたパンデミックとウクライナ戦争です。渡辺努教授は、
これを「インフレの第1ラウンド」と呼んでいます。この第1ラ
ウンドで、中央銀行がうまくインフレを収束させていれば、第2
ラウンドはなかったのです。
 しかし、第1ラウンドで中央銀行は利上げを行い、インフレを
鎮静化させようとしたのですが、収束させることができなかった
のです。これが賃金の上昇に火をつけ、それに伴う人件費増を企
業が価格に転嫁し、第1のインフレが賃上げを経由して、さらな
るインフレを呼んで、第2ラウンドに入ってしまったのです。こ
のような状況を「賃金・物価スパイラル」といいます。
 まして欧米の経営者は、日本の経営者と違って、人件費が上が
れば、それに応じて、モノやサービスの価格を必要以上に引き上
げ、それがインフレを加速させてしまうことが多いのです。そう
すると、物価はさらに上がり、それが賃金の要求が激しくなると
いうように、どんどんインフレが進行してしまうのです。これが
「賃金・物価スパイラル」であり、現在のインフレはそうなって
います。米国のFOMCのメンバーは、年内にあと2回の利上げ
が必要だといっています。果たしてそれで、インフレは収まるの
でしょうか。    ──[世界インフレと日本経済/032]

≪画像および関連情報≫
 ●英国と日本の賃金・物価スパイラル【渡辺努】/2022年
  ───────────────────────────
   英国ではインフレ率が二桁に達した。ボリス・ジョンソン
  前首相とベイリー中央銀行総裁は、英国経済が賃金・物価ス
  パイラルに突入する可能性があるとの見方を示している。一
  方、労組は、賃金の上昇がインフレに追いついていないと訴
  えており、真っ向から対立している。
   賃金・物価スパイラルはインフレの第二段階だ。パンデミ
  ックと戦争をきっかけにインフレが起こった。インフレは生
  計費を上昇させるので、人々は雇用主に賃上げを要求する。
   労働者は賃金を上げてもらえないなら他の職場に移ると脅
  したり、ストライキに打って出たりする。そうした交渉を経
  て、雇用主は、良質な労働力を失いたくないという思いから
  賃上げ要求を受け入れる。これで労働者は当面の生活が維持
  できるようになる。
   次は、雇用主(経営者)がどのようにして経営を維持する
  かを考える番だ。賃上げで人件費が増えるので、そのままで
  は収益が悪化してしまう。人件費以外のコストを削るという
  のは一つの方法だが、それにも限界がある。最終的には自分
  の作る製品の価格を人件費増の分だけ引き上げる、つまり価
  格に転嫁することになる。かくして、物価がもう一段上がり
  それを受けて労働者の生活が再び困窮し、賃上げ要求が再び
  なされる。それがさらに・・・というように、値上げと賃上
  げのスパイラルがいつ終わるともなく続く。
        https://koken-publication.com/archives/1681
  ───────────────────────────
テイラールールが指示する金利水準.jpg
テイラールールが指示する金利水準
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2023年06月26日

●「日本以外の9カ国は逆イールド」(第5981号)

 今回のテーマにおいて「逆イールド」のことを取り上げたのは
6月2日のEJ第5965号でのことです。逆イールドとは、短
期金利と長期金利の逆転現象のことです。米国の2年債と10年
債が逆転したことを伝えています。債券は通常、満期までの期間
が長いほど利回りが高くなります。期間が長ければ、その分返済
が不透明になるため、投資家がより高いリターンを求めるからで
す。これが逆転すると不況になるといわれています。
 2023年6月24日の日本経済新聞は、11面で逆イールド
の拡大について、次のように伝えています。
─────────────────────────────
◎「逆イールド」先進国で拡大
 景気後退のサインとされる「逆イールド」が先進国で広がって
いる。「G10」と呼ばれる主要10通貨のうち、日本を除く9
カ国で債券の長短金利の逆転が発生する異例の事態となった。イ
ンフレが長期化するなか、22日に英国など複数の国が利上げに
踏み切るなど、金融引き締めの流れは継続している。景気の先行
きに対する警戒感が一段と増している。
         ──2023年6月24日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 記事を少し補正します。日本を除く9カ国とは、ベルギー、カ
ナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン、
英国、米国の9カ国です。なぜ、逆イールドになると不況になる
のかというと、短期金利は、預金や短期市場を通じた調達金利で
あり、中期や長期の金利は貸出金利に当たるからです。逆イール
ドが起きれば、調達金利が貸出金利を上回ることになり、銀行は
貸し渋ったり、貸出金の回収を急いだりするので、その結果、景
気後退に陥りやすくなるというわけです。
 日本とそれ以外の9カ国とは、金融政策の違いによって、政策
金利は次のようになっています。日本は実にマイナス金利です。
─────────────────────────────
                政策金利/2023
    日 本            −0・10%
    米 国       5・00%〜5・25%
    ユーロ 3・50%、4・00%、4・25%
    英 国             4・50%
─────────────────────────────
 しかし、日本でもインフレは進行しています。総務省が23日
に発表した5月の消費者物価指数によると、生鮮食品を除くと、
前年同月比3・2%の上昇です。より物価の基調に近い生鮮食品
とエネルギーを除く総合で見ると、前年同月比4・3%の上昇で
あり、上昇率は0・2ポイント拡大しています。この伸び率は、
第2次石油危機末期の1981年6月以来、41年11カ月ぶり
の伸び率です。
 しかし、日本の物価は政府の政策支援の影響を受けて、抑え込
まれていることを知っておく必要があります。これについても日
本経済新聞は次のように書いています。
─────────────────────────────
 足元の物価は政府の政策支援で抑えられている。電気・都市ガ
ス代の抑制と全国旅行支援による押し下げは生鮮食品を含む総合
に対して計1・05ポイントある。総務省によると、政策効果が
ないと仮定すると、5月は前年同月比4・3%のプラスとなり、
4・0%だった米国を上回ることになる。当面は価格転嫁の動き
と円安が物価に一定の上昇圧力をもたらす可能性が高い。
         ──2023年6月24日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 その一方で、22日の米ニューヨーク外国為替市場では、円安
ドル高が進んでいます。一時、昨年11月以来約7カ月ぶりとな
る「1ドル=143円」台まで円は下落しています。これをどう
見るかです。
 昨年秋の円安局面では、円が144円まで下がった9月14日
に日銀が「レートチェック」というものをやっています。レート
チェックとは、中央銀行が民間銀行に対して、「いまのレートは
いくら?」と聞くことをいいます。この情報は市場関係者にすぐ
伝わりますから、円売りドル買いを続ける市場関係者に対する牽
制になります。
 しかし、それでも円安は止まらず「1ドル=146円」に迫っ
た9月22日、24年ぶりとなる円買いドル売り介入に踏み切っ
ています。さて、現在の143円に対して、日本政府はどう動こ
うとしているのでしょうか。
─────────────────────────────
 政府・日銀はこれまで、介入にあたり重視するのは為替の水準
ではなく、値動きの大きさだとしてきた。鈴木俊一財務相は20
日、「ドル円水準は安定的に推移するのが望ましい。引き続き為
替動向に注目している」と市場を牽制(けんせい)した。
 ただ、市場は、昨年9月の「最近の為替相場の変動は、やや大
きい」という鈴木氏の発言より、牽制の度合いが弱いと受け止め
る。財務省関係者は「1日で1円も2円も動いていた前回とは違
う」と言う。 ──2023年6月24日付、朝日新聞デジタル
─────────────────────────────
 確かに昨年9月と現在は事情が異なるのです。昨年は、円安が
物価高に拍車をかけていましたが、今年は4月以降、輸入物価は
前年同月比でマイナスに転じています。円安は、訪日外国人の増
加につながり、株価をバブル後最高値圏にまで押し上げているの
です。米FRBも今年中にあと2回利上げをするといっています
が、終わりは見えていると思います。
 しかし、経済が好循環に入る起点となる賃金の上昇は、依然と
して物価上昇に追いついていません。物価を考慮した実質賃金は
4月まで13カ月連続で前年割れとなっています。賃上げ問題は
日本にとって、大きな課題です。
          ──[世界インフレと日本経済/033]

≪画像および関連情報≫
 ●2023年の世界経済成長率は2・1%、世界銀行が予測
  ───────────────────────────
   世界銀行は6月6日、「世界経済見通し」〔プレスリリー
  ス(英語、日本語)〕を発表した。2023年の世界の経済
  成長率(実質GDP伸び率)は、2・1%と、2022年の
  3・1%から低下すると予測した(添付資料表参照)。前回
  2023年1月発表の1・7%からは0・4%ポイントの上
  方修正となったが、世界的な金利上昇が続く中、世界の経済
  成長は減速し、新興・途上国・地域の金融リスクが高まって
  いるとの見方を示した。
   中国を除く新興途上国・地域(EMDEs)では成長率が
  2022年の4・1%から2・9%に後退する見通し。これ
  らの国々の大半ではこれまで、先進国・地域における最近の
  金融不安がもたらす影響は限定的だったが、現在では信用状
  況が世界的にますます厳しくなり、EMDEsの4カ国に1
  カ国が事実上、国際債券市場へのアクセスを失っているとし
  た。また、EMDEsの経済活動は、2024年末までパン
  デミック直前に予想された水準を約5%下回ると見込まれて
  いる。新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻、
  世界的な金融引き締めによる成長減速という三重のショック
  が足かせとなり、EMDEsの成長が減速する状況が当面続
  くと予想されている。ただし、東アジア大洋州エリアのEM
  DEsの成長率は、中国の成長率の力強い回復に支えられて
  持ち直すと予測。    ──JETROビジネス通信より
  ───────────────────────────
足下で逆イールドが深まる.jpg
足下で逆イールドが深まる
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2023年06月27日

●「アマゾンの詐欺は実に巧妙である」(第5982号)

 6月23日にアマゾンで本を一冊購入しました。新刊書なので
すが、書店では見つからなかったので、アマゾンで購入したもの
です。アマゾンのアカウントはかなり前に取得しており、そのア
カウントを使ったのです。
 前にもEJで述べたことがありますが、私は書籍を購入すると
きは、大型書店(主として池袋・ジュンク堂丸善)に足を運ぶこ
とにしています。なぜかというと、本を選ぶのに各階に椅子が多
く用意されていることや、書店に行くことによって、思いがけな
い書籍を発見することが多いからです。アマゾンのアカウントは
一般の書店では売っていない古い書籍を購入するためのものであ
り、これまでアマゾンでモノを買ったことは1回もない今どき不
思議な人間の一人であると思います。
 しかし、最近では、年齢による体力の衰えにより、ジュンク堂
に行くのでさえ、億劫になり、本とCDに関しては、少しずつ通
販を利用するようになっています。
 なぜ、アマゾンの話をしているかというと、最近では、アマゾ
ンを利用する場合、とんでもない詐欺に遭うリスクがあると思う
からです。しかも、それは非常に巧妙に仕組まれており、うっか
りすると、多くの人がひっかかってしまうと考えます。したがっ
て、テーマとは外れますが、今日のEJはアマゾンによる詐欺の
話をすることにします。
 最近、PCには、各種銀行、各種クレジットカード会社、ウー
バーイーツ、アマゾンなどから、利用確認のメールや、利用の一
部制限などのメールが毎日送られてきます。そのほとんどを私は
使っていないので、いつも完全に無視しています。皆さんのPC
はどうでしょうか。
 これは、機械的に膨大なメールアドレスを自動的に作成して、
送り付けてくるので、送付側としては相手を特定して送ってくる
わけではありません。そのメールに反応するのを待っているので
す。したがって、身に覚えのないメールは、絶対に開封すること
なく、即削除をお勧めします。まして、銀行やクレジットカード
会社が本当に本人に何かを確認したいときは、そのほとんどは封
書か、場合によっては書留で送られてくるので、メールで送られ
てくることはありません。
 一度銀行のATMで通帳を忘れたことがあったのですが、その
ときは、私の携帯電話宛てに銀行から電話があり、窓口に取りに
行ったことがあります。近郊によると、メールで本人に通知する
ことはないそうです。
 しかし、アマゾンなどの通販業者の場合は、メールで商品注文
の確認メール、手続き終了メール、商品発送メール、商品着信メ
ールがその都度送られてきます。とても親切であり、商品を受け
取る側としては助かります。私がアマゾンで注文した本は、23
日に注文し、24日の昼にポストに入っていました。プライム会
員のサービスです。
 今回の場合、23日の注文後、アマゾンから詳細な注文書籍の
確認メールがアマゾンから届いています。ところが、注文日の6
月23日の夜、アマゾンから次のメールが来たのです。異常なの
は午前3時39分という時間です。正確にいうと、24日の午前
3時39分ということになります。
─────────────────────────────
 Amazonアカウントのロック解除と情報の更新のお知らせ

 尊敬するお客様へ
 Amazonをご利用いただき、ありがとうございます。お客様のア
カウントのセキュリティを最優先に考えておりますが、最近のセ
キュリティ上の問題により、お客様のアカウントがロックされて
います。
 お客様のアカウントを安全に保つために、以下の手順に従って
アカウントのロック解除と情報の更新を行ってください。
                       (以下省略)
─────────────────────────────
 既に6月23日の18時25分にアマゾンから、注文の確認メ
ールが届いており、アカウントのロックはあり得ないのですが、
メールのフォームはアマゾンのそれと酷似しており、うっかりす
ると、ひっかかってしまいます。
 メールは開封していませんが、指定するURLをクリックし、
アカウントの書き直しをしていたら、その情報は完全にメールの
差出人に渡ってしまっていたことになります。アマゾンのアカウ
ントのフォームは、プログラマであれば、そっくり作り直すこと
ができます。
 6月24日、午前11時52分、アマゾンから注文商品到着の
通知があり、商品はポストに入っていました。しかし、その後、
13時11分にアマゾンから、次のメールが届いたのです。
─────────────────────────────
 Amazon お客様
 この度はAmazon をご利用いただき、誠にありがとうございま
す。お客様の注文の支払い方法に問題が発生しており、現在注文
を出荷できない状況になっています。問題が解決されるまで、ご
注文を出荷することができませんので、ご迷惑をおかけして申し
訳ございません。お客様のAmazon アカウントで登録されている
支払い方法について、以下の点を確認してください。
                       (以下省略)
─────────────────────────────
 商品が届いた後ですから、矛盾もいいところですが、私がアマ
ゾンを利用したことはわかっているようです。なぜ、わかったの
か理解できないでいます。偶然なのでしょうか。最近の詐欺は実
に巧妙化しており、十分に注意して利用しないと、ひっかかって
しまいます。身に覚えのないメールは絶対に開封しないことです
が、覚えのあるメールであれば、注意が肝要です。
          ──[世界インフレと日本経済/034]

≪画像および関連情報≫
 ●今来たAmazonからのメールは詐欺かも?見極める
  4つのポイントを解説
  ───────────────────────────
   知名度が高く、生活に密着した「Amazon」。そんなアマゾ
  ンの名前を悪用した詐欺が急増していることをご存じでしょ
  うか。最近の手口は巧妙化しており、アマゾンの公式メール
  アドレス「amazon.co.jp」からメールが送信されるケースも
  多発しています。そして、ユーザーは悪質な詐欺だと見分け
  がつかず、なんの疑いもなく添付されたURLをクリックし
  てしまうのです。
   アマゾンを名乗った詐欺の目的は、主に個人情報を盗取し
  てさまざまな場面で悪用すること。そして、アマゾンの詐欺
  メールに気付かず偽サイトにログインしてしまった場合は、
  直ちにログイン情報を変更したり、登録しているクレジット
  カード情報を削除したりと対処しなければなりません。
   冒頭でも述べたとおり、大手ECサイトであるアマゾンを
  装った詐欺が近年多発しています。フィッシング対策協議会
  によれば、2020年の1年間だけを見てもフィッシング詐
  欺の報告件数は毎月増加傾向にあり、同年12月には、32
  171件もの報告がありました。前月と比べても1204件
  増えています。そして、フィッシング詐欺に悪用されている
  ブランド調査では圧倒的にアマゾンが多く、全体の約50%
  を占めている状況です。アマゾンのほかには、「三井住友カ
  ード」「楽天」「アプラス(新生銀行カード)」 「MyJCB」
  などもブランド名が悪用されています。
  https://securitynews.so-net.ne.jp/topics/sec_20189.html
  ───────────────────────────
詐欺が多いアマゾン.jpg
詐欺が多いアマゾン
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2023年06月28日

●「賃金と物価が手を取り合い凍り付く」(第5983号)

 インフレになると何が起きるでしょうか。高インフレが進行す
ると、物価が上がり、生計費が上昇します。生計費とは生活者が
生活をするうえで必要になる経費のことです。生計費が上がると
生活をしていけなくなるので、労働者は雇用主に賃上げの要求を
出します。
 企業が労働者の要求に素直に応じてくれるとは限らないので、
労働者は賃上げ実現のためにストライキを行ったり、それに応じ
てくれる企業に移ろうとしたりします。こういう動きが現在、欧
米で起きていますが、現在の日本では考えられない状況です。
 しかし、昭和30年代後半から40年代にかけて、日本でもそ
ういう状況が起きていたのです。私が勤務していた生保会社では
さすがにストライキはしなかったものの、交通機関が長期ストラ
イキをしていて電車が動かないので、会社に何日も泊まり込んだ
りして、仕事をしたものです。
 労働者の要求に対して賃上げを実施した企業は、人件費の増加
分を製品やサービスの価格に転嫁します。そうすると、物価がま
た上がって、生計費が増加し、労働者は企業に対して賃上げを要
求します。この繰り返しです。それに企業が応ずると、さらに物
価が上がり、高インフレが進行します。これを「賃金・物価スパ
イラル」といいます。
 この「賃金・物価スパイラル」には、3つの条件が整うことが
必要であるとして、渡辺努東京大学大学院教授は、これについて
次のように述べています。
─────────────────────────────
 賃金・物価スパイラルが起こるための基本的な要件は、インフ
レ予想の不安定化です。しかし、それ以外にもいくつかの条件が
必要で、それらが揃ったとき、スパイラルが起こることが知られ
ています。
 第1の条件は、労働需要が旺盛であること、そして、それにも
かかわらず労働供給が増えずに労働需給が逼迫し、労働者の交渉
力が強くなっていることです。
 第2は企業に関するものです。企業の価格決定力が強く、人件
費の増加分を価格に転嫁する能力をもつことが条件となります。
 そして第3の条件は、企業が人件費増を価格に転嫁するか否か
を考える際に、ライバル企業も価格転嫁を行うと確信できること
です。
 以上の3つの条件が揃ったとき、労働者は賃上げを要求し、企
業は賃上げを受け入れたうえで人件費増を価格に転嫁するという
ことを行い、スパイラルが生じます。
          ──渡辺努著/講談社現代新書/2679
                   『世界インフレの謎』
─────────────────────────────
 しかし、日本の場合は、欧米とは大きく異なります。国際的に
見た場合、日本の賃金がどのような位置にあるのかご存知でしょ
うか。賃金の伸び率があまりにも低いのです。
 世界の先進国で構成されるOECD(経済協力開発機構)加盟
国の名目賃金の2000年から2021年の伸び率で見ると、日
本は「−0・2%」で最下位です。同じ年度における実質賃金で
見ると、日本は「0・1%」で、最下位のメキシコ、ギリシャ、
スペイン、イタリアに次ぐビリから5番目です。日本はこんなレ
ベルに甘んじています。
 内閣府の資料によると、「1991年=100」とする、20
20年の名目賃金と実質賃金の主要国の伸び率は次の通りです。
─────────────────────────────
          名目賃金      実質賃金
       米国  249・1   146・7
       英国  243・4   144・4
      ドイツ  200・5   133・7
     フランス  181・7   129・6
       日本  100・1   103・1
        註:1991=100とした場合/内閣府資料
─────────────────────────────
 名目賃金とは企業から従業員に支払われる金額のことです。こ
の名目賃金から消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引
いて算出した金額が実質賃金です。2023年5月9日に厚労省
が発表した3月の実質賃金は、前年同月に比べ2・9%減少し、
12カ月連続のマイナスとなっています。基本給や残業代などを
合わせた現金給与総額は29万1081円で0・8%増加して、
15カ月連続のプラスでしたが、物価の上昇率に追いつかない状
況が続いています。
 欧米では、賃金と物価が手を取り合って上昇していますが、日
本では、賃金と物価が手を取り合って凍り付いているのです。添
付ファイルをご覧ください。渡辺努教授の本に出ていたグラフで
すが、棒グラフは、賃金改定(ベースアップと定昇を含む)を行
わない企業の割合がどのように変化したかを表しています。19
75年から90年代前半までは、賃金改定を行わない企業の割合
は2〜3%で、ほとんどの企業は賃金改定を行っていたのです。
 ところが1990年代後半になると、賃金改定を行わない企業
の割合が激増し、2000年の始めには、その割合が全体の25
%を超えています。しかし、2010年頃から、賃金改定を行わ
ない企業が減少し、2013年以降は顕著に減少しています。こ
れは、アベノミクスが寄与していると考えられます。
 折れ線グラフは、賃金改定を実施した企業の平均賃金改定率を
表しています。目盛りは右です。しかし、賃金改定の幅は限定的
であり、せいぜい2%程度にとどまっています。これを見ると、
日本の場合、すべての企業の平均値が動かず、凍り付いているこ
とがわかります。
 このような日本の賃金の実情は、どのようにしたら、変えるこ
とができるでしょうか。
          ──[世界インフレと日本経済/035]

≪画像および関連情報≫
 ●誤解が多すぎ「日本の賃金が上がらない」真の理由
  宮川勉学習院大学経済学部教授
  ───────────────────────────
   日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大
  きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ
  国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。た
  だ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と
  感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、も
  うこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれて
  も・・・」と思う人もいる。
   はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるために
  はどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第3回は、
  「生産性と賃金の関係」について、学習院大学経済学部教授
  の宮川努氏が解説する。
   日本経済の低迷が続く中で、「日本は生産性が伸びないか
  ら、低迷が続いている」という議論が行われている。一方、
  賃金もまた長期にわたって低迷を続け、2022年7月に行
  われた参議院選挙の重要な争点の1つになった。
   経済学者は、こうした長期にわたる賃金所得の低迷の背後
  には必ず生産性の動向が関係していると考えているが、生産
  性への言及は少ない。ここでは、この問題を労働生産性とい
  う概念を使って簡単に説明し、生産性向上こそが賃金上昇の
  王道であるということを述べたい。
         https://toyokeizai.net/articles/-/629479
  ───────────────────────────
賃金改定を行わない企業の割合.jpg
賃金改定を行わない企業の割合
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2023年06月29日

●「株価の高度恐怖症/4%ライン」(第5984号)

 2023年6月27日付、日本経済新聞の「クローズアップ日
経平均株価」の15日間の星取表です。右端が直近、○は上昇、
●は下落を表しています。当日の日経平均株価は3万2698円
81銭です。
─────────────────────────────
      ◎日経平均株価の過去15日の騰落
       ○●●○○○○●○●○○●●●
─────────────────────────────
 この日経平均株価の動きをどう見るべきでしょうか。6月27
日付の日本経済新聞「スクランブル」は次のよう書いています。
─────────────────────────────
◎日本株「4%ライン」の警報
 日本株の息切れ懸念が強まってきた。株と米国債の利回りから
はじいたデータ上では、過去10年以上にわたって何度も跳ね返
されてきた割高ラインが突破され、相場の先行きに警戒信号がと
もる。上値の重さを払拭するために、期待先行の買いを裏付ける
企業業績の「確度」が必要な局面にさしかかっている。
         ──2023年6月27日付、日本経済新聞
                   「スクランブル」より
─────────────────────────────
 日経平均株価は、直近安値の3月中旬から6月19日にかけて
27%上昇しています。しかし、先週は11週ぶりに反落し、こ
のところ3日間連続して下落しています。これには、株の世界で
いうところの「高所恐怖症」といわれる数値が関係しているとい
われています。
 少し専門的な話になりますが、東証株価指数(TOPIX)の
予想益回りから、米国10年債利回りを差し引いた「日米イール
ドギャップ」という指標です。この指標は「4%」が底であり、
このラインに近接すると、株価の調整が起きるのです。アベノミ
クスのときもそうであったといわれています。
 この日米イールドギャップは、先週末の時点で3・3%と、4
%を大きく割り込んでいます。これは「警戒水準」に当たる数値
です。ちなみに、東証株価指数(TOPIX)とは、東京証券取
引所に上場する銘柄を対象として算出・公表されている株価指数
であり、日経平均株価と並ぶ日本の代表的な株価指標であるとい
えます。TOPIXは次の言葉の略です。
─────────────────────────────
        ◎東証株価指数(TOPIX)
         Tokyo Stock Price Index
─────────────────────────────
 2011年から2023年までの日米イールドギャップがグラ
フとして、添付ファイルにしてあります。大和証券が作成したも
のです。4%が警戒ラインであり、下に向かうほど、株は割高感
があるということになります。
 なぜ、日米イールドギャップが4%を割ったのでしょうか。6
月27日の日経の「スクランブル」では、その理由について、次
のように書いています。
─────────────────────────────
 4%突破の大きな要因は2つある。PBR(株価純資産倍率)
1倍割れ企業に是正要請をした東京証券取引所と、商社株を買い
増すバフェット氏の存在だ。両者が呼び水となった期待先行の買
いが相場を押し上げた。(中略)
 肝心の業績見通しはどうか。大和証券がまとめた主要企業の業
績予想は、23年度の経常利益(金融除く)は前年度比2・8%
の増益にとどまる。一方、24年度は同7・8%の増益と、利益
の伸びが大きくなる見通しだ。(中略)
 ただ、投資家の目線が来期に向くのは4〜9月期決算発表の後
とされる。秋ごろまでは目が向かいにくく、目先は上値が重くな
りそうだ。    ──2023年6月27日付、日本経済新聞
                   「スクランブル」より
─────────────────────────────
 今回の日本の株高には、投資の神様といわれるウォーレン・バ
フェット氏が日本の総合商社に注目し、株を買い増ししているこ
とが、株式市場を活性化させていることは確かです。バフェット
氏が率いる投資・保険会社バークシャー・ハサウェイが日本の5
大商社の株式を買い始めたのは、20208月の頃であったとい
われています。5大商社とは、伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住
友商事、三菱商事のことです。
 問題は、バフェット氏は、なぜ、日本の商社株を買っているの
でしょうか。
 6月26日発行の「日刊ゲンダイ」は、バフェット氏の次なる
戦略について、次のように報道しています。さすが投資の神様、
先の先を読んでいます。
─────────────────────────────
 日本政府が半導体やEV(電気自動車)への産業支援策を本格
化させましたが、ここに商社が大きく絡むとバフェット氏は読ん
だのかもしれません。
 もう一つ、忘れてはならないのがウクライナ紛争です。戦争そ
のものはいまだ終結せず、ウクライナの反転攻勢も報じられてい
ます。一方で復興に向けた動きも出てきました。先週21〜22
日には61カ国の代表がロンドンに集まり、ウクライナ復興会議
が開かれています。この会議を通じて、65億ドル(約9200
億円)の支援が固まりました。
 エネルギーなどインフラ関連の支援も実施されます。今後、こ
の会議に限らずさまざまな形でウクライナ支援は行われていくで
しょう。復興に日本の5大商社が深く関わるのではないか――そ
うバフェット氏が感じたとしても不思議はありません。
          ──2023年6月26日/日刊ゲンダイ
─────────────────────────────
          ──[世界インフレと日本経済/036]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜバフェット氏は日本株を買い増すのか/尾藤峰男氏
  ───────────────────────────
   4月上旬のウォーレン・バフェット氏の突然の来日、その
  後のインタビューや報道記事での発言をきっかけに、日本株
  への関心が高まっている。来日の目的は、軒並み7・4%の
  保有比率まで株式を買い増した5大商社(伊藤忠商事、三菱
  商事、三井物産、住友商事、丸紅)の経営陣との会談であっ
  た。この会談は、バフェット氏から申し入れたもので、投資
  先に、投資した意図や今後の保有姿勢を説明し、商社の事業
  戦略や経営方針を聞き、お互いの信頼関係を築くためであっ
  た。バフェット氏自身、この面談は大変有意義であったと、
  満足げに答えている。
   バフェット氏が来日して、商社株を買い増し、日本株への
  さらなる投資意向を表明(4月11日)してから5月26日
  までで、日経平均株価は実に10・72%も上昇、その間の
  米S&P500種株価指数の上昇幅、2・35%を大幅に上
  回った。日経平均株価は5月19日に33年ぶりの高値を更
  新、19日まで実に海外勢は8週連続の買い越しで、8週間
  の買い越し額は3兆6000億円に上った。海外勢がバフェ
  ット氏の日本株へのさらなる投資意向の表明に触発されたこ
  とは明らかである。バフェット氏の世界の投資家への影響力
  の強さを改めて実感する。
           ──「エコノミスト」/オンラインより
                 https://onl.sc/hsGms5m
  ───────────────────────────
日米イールドギャップは警戒水準に.jpg
日米イールドギャップは警戒水準に
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2023年06月30日

●「『3つの4』を実現する日本経済」(第5985号)

 欧米のインフレが収まりません。6月26日に、欧州中央銀行
(ECB)が主催する国際金融会議「ECBフォーラム」がポル
トガルで開催されたのですが、ラガルドECB総裁は基調講演で
次のように述べています。
─────────────────────────────
 見通しに重大な変化がなければ7月も利上げを継続する。ユー
ロ圏のインフレ率は高すぎで、今後も高止まりするだろう。中央
銀行が近い将来、政策金利がピークに達したと完全に自信を持っ
て言えるようになる可能性は低い。
          ──クリスティーヌ・ラガルドECB総裁
         ──2028年6月28日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 しかし、欧米のこのような状態に対して、日本経済はまさに景
気回復の好循環のセトギワに立っているといえます。2023年
6月27日放送の「BSフジプライムニュース」では、まさしく
この問題について議論が行われています。今日のEJは、この番
組から一部の発言をひろってみることにします。詳しくは、ビデ
オをご覧ください。
─────────────────────────────
◎2023年年6月27日(火)/プライムニュース
 『いつまで続く?株価高 下期の経済見通しは?/与野党の経
 済通が激論』     https://tver.jp/episodes/epxdl5qscf
─────────────────────────────
 まず、司会者から現在日本株が上昇している背景について、尋
ねられたPWCコンサルティング合同会社チーフエコノミストで
元日銀審議委員の片岡剛士氏は、次のように発言しています。
─────────────────────────────
司会:なぜ、現在日本株は注目されているのですか。
片岡:日本以外の海外を見ると、欧米はインフレで利上げが行わ
 れていますし、中国もコロナ後の経済状況がうまくいってなく
 て、期待できない状況です。そのなかにおいて、比較的安定し
 ている日本へ目線が向けられていると思います。日本経済の状
 況は、ポジティブな材料でいうと、金融緩和を継続しており、
 経済にネガティブな影響が少ない。それに、コロナ外交、イン
 バウンド需要もあり、相対的に日本が選ばれているのです。
司会:株価が上がっていると、日本経済は成長しているといえる
 のでしょうか。
片岡:日本以外の国のほとんどの国は、株価は右肩上がりなので
 す。日本のように、1990年代以降、バブルが崩壊して30
 年かかってデフレが続いていますが、諸外国は安定したインフ
 レの下で、株価は緩やかに上がっています。現在の日本はいわ
 ば、異常な状態から普通の状態に戻りつつあるといえます。
       ──2023年年6月27日/プライムニュース
─────────────────────────────
 続いて、司会者は、玉木雄一郎国民民主党代表に対して、同じ
質問をしています。
─────────────────────────────
司会:玉木さんはどのようにお考えですか。
玉木:4万円を超えますよ。私はいつも日本経済を「3つの4」
 を達成できるようにすべきであると思っていますが、今 それ
 が達成されようとしています。
  1つの「4」は、名目賃金上昇率が4%程度になろうとして
 いることです。今年の連合の春闘の要求は、定期昇給を含む賃
 上げ額は、平均で前年同期に比べて、4795円増の月1万1
 114円、賃上げ率は1・59ポイント増の3・70%であり
 ほぼ4%に近いといえます。これは30年ぶりの高水準です。
  2つの「4」は、10人の日本のエコノミストによる今年度
 の名目GDPは4%を予想していることです。
  3つの「4」は、日経平均株価は、このまま行くと、4万円
 を超えると予想されます。
  これらの「3つの4」が達成されると、日本の税収は70兆
 〜80兆になります。日本の金融財政担当者は、これを達成で
 きる政策を実施すべきです。
       ──2023年年6月27日/プライムニュース
─────────────────────────────
 これに対してもう一人の出席者である宮沢洋一自民党税制調査
会長に対して、司会者は次の質問をします。
─────────────────────────────
司会:日本経済は明らかに回復基調にある。そういうときに増税
 というのはやめた方がよいというのが、玉木さんのお話しでし
 た。これに対して宮沢さんはどうお考えですか。
宮沢:増税といっても、消費税を上げるという話と防衛増税は違
 うと思います。法人税を3%を下げたけれど、よいことは何も
 なかったのですよ。だから1%ぐらい返してもらってよい。中
 小企業は対象外です。所得税は現在は増税にならない。しかし
 私も対象者ですが、たばこを吸う人は増税になってしまうので
 すよ。したがって、それが景気の足を引っ張るとか、経済の足
 話引っ張るとか、私にはとても想像がつかない。
       ──2023年年6月27日/プライムニュース
─────────────────────────────
 日経平均株価は、6月27日現在、3万2538円で、このと
ころ4日連続で下げていますが、玉木国民民主党代表は、4万円
になるといっています。きっかけは、コストプッシュインフレで
す。これによって、物価が上昇したことがきっかけで、経済の好
循環がはじまったのです。日本はこの状況を大事にしなければな
らないと考えます。インフレで物価が上がれば、企業はそれを製
品やサービスに価格転嫁して、労働者の賃金を上げる──この何
でもないことが、日本ではこの30年間できなかったのです。岸
田政権には慎重に対応してほしいものです。
          ──[世界インフレと日本経済/037]

≪画像および関連情報≫
 ●日経平均「4万円超え」期待させる“中長期”の景気循環
  日本株上昇の背景に日本景気の拡大
  ───────────────────────────
   東京株式市場で日本株が堅調な推移を続けている。日経平
  均株価は、バブル崩壊後の高値の更新を続け、1990年以
  来、33年ぶりに3万3000円台を回復した。
   日本株上昇の背景として、海外投資家による買いの動きや
  日本株の割安感、東京証券取引所による上場企業に対する企
  業価値改善への対応の要請などが指摘されている。しかし、
  こうした動きだけでは、上昇相場の継続は見込みにくく、日
  本経済の相対的な底堅さが評価されているとみられる。
   米国や欧州では、金融引き締めが続く中、銀行不安などの
  金融問題に対する懸念も払拭し切れていない。金融引き締め
  の効果はラグを伴い今後も続くと予想されており、景気の先
  行きに対する不安が強い。
   これに対して日本では、日本銀行がインフレ率の上昇につ
  いて目標である2%を持続的・安定的に達成する状況には、
  至っていないと判断しており、金融緩和を続けている。加え
  て、米国や欧州などに比べ、日本は経済再開・正常化に向け
  た動きが遅れ、足元で景気の持ち直しの動きが明確となって
  きている。23年1〜3月期のGDP統計(2次速報)では
  実質成長率が上方修正され、前期比年率プラス2・7%と2
  %台後半の成長が示された。経済再開・正常化に向けた動き
  を受け、個人消費が増加しているほか、新型コロナウイルス
  の感染拡大防止対策として打ち出されていた入国制限などの
  水際対策の緩和でインバウンド需要も急増している。
           https://diamond.jp/articles/-/325047
  ───────────────────────────
2023年6月27日/BSフジプライムニュース.jpg
2023年6月27日/BSフジプライムニュース
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