2023年04月03日

●「半導体の製造装置中国への輸出規制」(第5938号)

 4月1日(土)の日本経済新聞の1面と3面に半導体関連の重
要記事が掲載されています。
─────────────────────────────
◎半導体「ブロック化」鮮明
 日本が先端半導体の製造装置の輸出規制に踏み出す。中国への
対抗姿勢を強める米国の要請で足並みをそろえる。オランダも同
調する。経済のブロック化が鮮明になり、企業は戦略の見直しを
迫られる。分断のコストが成長の重荷になる懸念も強まる。
          ──2023年4月1日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 このニュースは日本にとって衝撃的です。遂に恐れていたこと
が始まった感があります。ところで、半導体製造装置とは、その
名の示す通り半導体を製造するための装置です。
 半導体の製造工程はきわめて複雑で、たくさんの工程がありま
す。半導体の材料を洗浄する工程、フォトリソグラフィという回
路のパターンを転写する工程、検査をする工程、組み立てる工程
などたくさんの工程があります。
 これを止められると、半導体メーカーは半導体を生産できなく
なります。米国の要請によるもので、事実上中国を対象に、日本
では、外国為替法を改正し、半導体の製造に必要な「洗浄」「成
膜」「露光」「検査」などの各工程において、先端品向け23項
目を今年の7月から規制対象に加えることになります。
 なぜ、これがなぜ日本にとって衝撃的かというと、中国は、半
導体製造装置の重要なお得意様であるからです。規制するという
ことは、それだけ、売れなくなるということであり、売上高の減
少を招くということになるからです。
 当然中国は反発するでしょうし、報復措置も十分あると考えら
れます。早速中国外務省の毛寧副報道局長は、次のような反発の
コメントを出しています。
─────────────────────────────
 世界のサプライチェーン(供給網)の安定を破壊する行為で
 ある。          ──中国外務省毛寧副報道局長
─────────────────────────────
 米国が半導体製造装置の輸出規制にまで、関係国と組んで規制
を行うのは、事態を深刻に認識している証拠です。ところで、世
界の半導体製造装置の市場はどうなっており、日本はどのような
位置を占めているのでしょうか。
 2021年度の半導体装置の世界シェアを以下に示すと、次の
ようになります。
─────────────────────────────
  1位:アプライドマテリアルス ・・・・・ 22・5%
  2位:ASМL ・・・・・・・・・・・・ 20・5%
  3位:東京エレクトロン ・・・・・・・・ 17・0%
  4位:ラムリサーチ ・・・・・・・・・・ 14・2%
  5位:KLA ・・・・・・・・・・・・・  6・7%
  6位:ASМパシフィックテクノロジー ・  3・3%
  7位:SCREENホールディングス ・・  2・7%
  8位:日立製作所(旧日立ハイテク) ・・  2・1%
  9位:キャノン1 ・・・・・・・・・・・  2・7%
 10位:KOKUSAI ・・・・・・・・・  1・5%
                  https://bit.ly/4307Pur
─────────────────────────────
 売上高ベースで評価した場合、トップに位置しているのは、米
国のアプライドマテリアルス、2位のオランダのフィリップスが
出自のASМL、3位は日本の東京エレクトロン、4位は米国の
ラムリサーチです。これら4社は、「半導体製造装置の四天王」
といわれ、この業界に君臨しています。今回はこれら4社が組ん
で輸出規制を行うので、中国への輸出は事実上困難になり、中国
は大きなダメージを受けます。
 ところで、東京エレクトロンはどういう企業でしょうか。
 東京エレクトロンは、売上高海外比率80%超、世界の拠点数
76のわが国を代表する超一流のグローバル企業です。TBSの
出資によって設立され、フラットパネルディスプレイ製造装置に
も強みを持ちます。
 KLAというのは、1975年に設立された米国に本拠を置く
大手半導体製造装置メーカーです。ウエハ検査・計測装置に強み
を持つ企業です。ASМパシフィックテクノロジーは、オランダ
に本拠を置く半導体製造装置メーカーです。成膜工程に強い企業
です。
 7位から10位までは日本企業です。SCREENホールディ
ングスは、ウェハ洗浄に強みをもつ洗浄装置大手です。日立製作
所はプロセス製造装置に強みを持っています。キヤノンは、19
37年に創業された日本を代表する光学・OA機器メーカーで、
カメラ、複写機、プリンターなどの分野で業界首位級です。半導
体露光装置では、オランダのASМL社に差をつけられつつある
ものの、ニコンと並び露光装置大手のメーカーです。
 KOKUSAIは、日立国際電気の半導体事業が2018年6
月に分社して誕生した製造装置メーカーです。半導体回路周辺の
絶縁膜等の成膜装置に強みを持ちます。このように、多くの日本
企業が半導体製造装置にかかわっています。
 この半導体製造装置の輸出規制について、西村康稔経済産業相
は、「最先端品向けに品目を絞っており、影響は限定的である」
と説明しているが、日本企業にとって、かなりの影響を受けるこ
とが必至の情勢です。どうしてこんな楽観的なことがいえるので
しょうか。2022年に10月の中国に対する輸出規制の影響で
10〜12月期の中国向け輸出額は、日本が前年同期比16%減
ですが、米国にいたっては50%減で、アプライドマテリアルス
とASМLの順位が入れ替わっています。それでも止めないとい
けないところに日米輸出規制の難しさがあります。
           ──[メタバースと日本経済/054]

≪画像および関連情報≫
 ●日本政府、半導体製造装置を輸出管理対象に
  米が対中規制要請
  ───────────────────────────
  [東京/31日ロイター]経済産業省は31日、軍事転用の
  防止を目的に、半導体製造装置を輸出管理対象に追加すると
  発表した。中国の台頭を懸念する米国は、製造装置に強い日
  本とオランダに輸出規制の強化を求めていた。日本は,管理
  対象の仕向け地を中国に限らず全地域とし、高性能装置の輸
  出を事前許可制とする。日本メーカー10数社が影響を受け
  る。外為法の省令を改正し、輸出には経産大臣の事前許可が
  必要になる。パブリックコメントの募集を経て5月に公布、
  7月の施行を予定している。対象の仕向け地は全地域だが、
  輸出管理体制の状況などを踏まえ米国など42カ国向けは包
  括許可に、中国を含めその他向けは輸出契約1件ごとの個別
  許可とする。
   東京エレクトロンが手掛けるエッチング装置やニコンが手
  掛ける露光装置など6分類23品目が対象で、回路線幅14
  ナノ前後よりも微細な先端半導体を製造できる高性能装置が
  規制される。経産省によると、10数社が影響を受ける。
   米国は昨年10月、中国が軍事転用する恐れがあるとして
  半導体の輸出規制を強化。先端半導体を作るのに必要な技術
  や製造装置の輸出に広く網をかけた。製造装置メーカー最大
  手の米アプライドマテリアルなどが影響を受ける中、米国は
  有力な製造装置メーカーを抱える日本とオランダにも足並み
  をそろえるよう求めていた。   https://bit.ly/3Gxzzgr
─────────────────────────────
半導体製造装置メーカーの売上高ランキング(四半期ベース).jpg
半導体製造装置メーカーの売上高ランキング(四半期ベース)
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2023年04月24日

●「GFがIBM提訴/ラピダスに影響か」(第5939号)

EJを半月ぶりに復刊します。体力はまだ万全ではないものの
EJを復刊できるレベルに達したと考えています。3日間の新入
社員研修も無事に終了できています。
 今回のテーマにおいて、EJは、3月31日付の5937号ま
でお送りしています。半導体製造装置の規制のことを書いていま
したが、最新のニュースから入ることにします。いずれにしても
半導体に関する話です。
 4月19日のことです。米半導体受託製造大手企業であるグロ
ーバルファウンドリーズ(GF)が、IBMを提訴したのです。
日本の半導体ファンドリとして新設したラピダスはIBMと提携
を結んでおり、ラピダスに影響が及ぶ恐れがあります。これにつ
いて、4月20日の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
【シリコンバレー=渡辺直樹】米半導体受託製造大手のグローバ
ルファウンドリーズ(GF)は19日、知的財産と企業秘密を不
正に利用したとして米IBMを提訴したと発表した。GFは20
15年にIBMの半導体部門を買収したが、IBMが、その後も
提携する日本のラピダスと米インテルに技術を開示したとしてい
る。日本の先端半導体戦略に影響が及ぶ可能性がある。
 米ニューヨーク州の南部地区の連邦裁判所に提訴した。GFは
IBMが部門をすでに売却したにもかかわらず、知的財産と企業
秘密をラピダスなどの提携企業に開示し、「IBMが数億ドルの
ライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っている」と主張
している。日本経済新聞はIBMにコメントを求めたが返答がな
かった。同日の決算会見でも訴訟について言及しなかった。ラピ
ダスの広報担当者は「コメントする立場にない」と話し、インテ
ルもこの件についてコメントはないとした。
         ──2023年4月20日付、日本経済新聞
              https://s.nikkei.com/3H51mop
─────────────────────────────
 なぜ、米IBMはGFから提訴されたのでしょうか。
 これについて知るには、日本の半導体企業「ラピダス」がなぜ
誕生したかについて知る必要があります。ラピダスは、2022
年8月に設立されています。それも「ビヨンド・2ナノ」を目指
す本格的なファウンドリです。
 日本に本格的な半導体企業を設立することを一番望んでいたの
は米国政府です。米国としては、米中摩擦の緊張が高まるなかに
あって、地政学的に安全性の高い日本から先端半導体を調達した
かったからです。現在は台湾のTSMCに依存している状況です
が、その依存度がさらに高まるのは、地政学的にも好ましくない
と考えているのです。それに、日本はかつての半導体製造王国で
あり、そのDNAを持っていると米国は考えたのでしょう。
 米国政府と同じ思惑を米IBMも持っていたのです。IBMと
しては、スーパーコンピュータや量子コンピュータの開発に先端
プロセス半導体は欠かせないし、それによってTSMCへの依存
度がさらに高まることは経営戦略上も不安がある──IBMはこ
のように考えたのです。
 一方、米国政府から先端半導体工場設立の要望を受けた日本政
府と国内の半導体関連団体は揺れに揺れていたといいます。なぜ
なら、政府がこれはという企業に打診しても、先端半導体製造を
担おうとする企業が1社も現れなかったからです。それは、技術
的にも資金的にも高い壁があったからです。
 そういうときに、米IBM社から、2ナノ世代プロセスの製造
に必要な「GAA構造」という構造技術を提供するという提案が
きたのです。これを受けて、浮上したのは、既存の企業ではなく
新会社を設立するという考え方です。それは、ラピダスとLST
Cを設立するというアイデアです。LSTCとは、中央研究所機
能を担う半導体研究機関です。STCとは次の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎LSTC/技術研究組合最先端半導体技術センター
   Leading-edge Semiconductor Technology Center
─────────────────────────────
 ところで「GAA構造」とは何かです。GAAは「ゲート・オ
ール・アラウンド」(Gate All Around) の省略形で、既存の設
計よりも性能と効率が大幅に向上し、多くの高性能製品の競争力
が変わる可能性があるといわれる半導体の技術です。このGAA
構造を巡って、インテル、サムスン電子、TSMCは、莫大な投
資を行い、技術を競っているのです。GAA構造をやさしく説明
するのは極めて困難なことですが、これは明日のEJ以降で概要
を説明することにします。
 「GAA構造技術を提供する」というIBMからの提案は、新
会社設立を模索していた関係者にとって大きな朗報であり、設立
への決断になったことは確かです。そして、ラピダス設立から4
カ月後の2022年12月、IBMと最先端の回路線幅2ナノメ
ートルの半導体製造で提携しています。そのIBMが、GAAを
含む技術権利の件で、そのGFから訴えられたのです。ラピダス
にとっては大事件です。
 このニュースについて朝日新聞デジタルは、次のように報道し
ています。
─────────────────────────────
◎「ラピダスに秘密を提供」──米半導体受託製造大手がIBM
 を提訴
 GFによると、IBMは、2015年に半導体事業をGFに売
却。GFは、その際、IBMと共同開発した技術の独占的な権利
を譲り受けたにもかかわらず、IBMが提携先のインテルやラピ
ダスに技術を提供し、数億ドルの収入を不正に得ていたと主張し
た。GF側は損害賠償や技術提供の差し止めを求めている。
                 ──朝日新聞デジタルより
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/055]

≪画像および関連情報≫
 ●存在感増すラピダス、2ナノ半導体量産へ打つ布石
  ───────────────────────────
   回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)以下とい
  う世界最先端のロジック半導体の量産を目指すラピダス(東
  京都千代田区、小池淳義社長)が本格的に始動した。3月に
  は北海道千歳市に新工場の建設を決めたほか、ベルギーの世
  界的な次世代技術の研究機関imec(アイメック)と次世
  代半導体の微細加工に必要な極端紫外線(EUV)露光技術
  の開発で連携するなど着々と布石を打っている。
   「新工場は、顧客が望む最終製品に近い形で提供する最初
  のファブ(工場)にしたい。人工知能(AI)を駆使した完
  全自動のファブにするが、後工程でチップを3次元に重ねる
  3Dパッケージング(実装)技術も、融合することを検討す
  る」。4月19日、日刊工業新聞などの取材に応じた小池社
  長は千歳市に建設する新工場について試作ライン段階から、
  ウエハーに回路を形成する前工程だけでなく、ウエハーから
  半導体を切り分けてチップにする後工程も含め、一貫生産を
  する可能性があるとの考えをあらためて示した。こうした半
  導体工場は世界的にも例がない。
   小池社長は、「我々が供給する先端半導体を非常に速いス
  ピードで届けることで、それを使った企業が新たな価値や商
  品を生み出す、そういういい循環を期待している」とした上
  で、「サイクルタイムを極限まで短くするには(複数の半導
  体を一つのチップのように扱う)『チップレット』の技術が
  重要で前工程と後工程が融合しないと成果が刈り取れない」
  と指摘した。          https://bit.ly/3oy3bE4
  ───────────────────────────
ラピダス米IBMと提携.jpg
ラピダス米IBMと提携
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2023年04月25日

●「なぜ、GFはIBMを提訴したのか」(第5940号)

 IBMがGF(グルーバルファンドリーズ)に訴訟を起こされ
ている件ですが、このGFという半導体製造企業について知る人
は少ないようです。なぜなら、「GF」をキーワードとして検索
しても出てこないからです。
 GFは、インテルと並んでウィンテル陣営を支え、このところ
「ライゼン」という名前のCPUが人気のAMD(アドバンスト
・マイクロ・デバイセズ)から、2009年3月、分離・独立し
たファウンドリです。つまり、GFはもともとはAMDの半導体
製造部門だったのです。
 今回GFがIBMを訴えたという訴訟は、IBMの方が先にG
Fを契約不履行であるとして訴えている訴訟と無関係ではないと
いえます。そもそもIBMとGFは、どのような関係にあるので
しょうか。IBMとGFの関係について、ネット上に次の情報が
あります。
─────────────────────────────
 IBMは2014年当時、半導体製造事業から撤退しようとし
ていた。老朽化した製造施設の一部を売りに出したが、一つも売
却先を見つけることができず、最終的にはGFに実質的に15億
米ドルを支払い引き取ってもらった。両社は当時IBMがそれま
で開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスをGFが完了さ
せることで合意した(実際にGFはそうした)。GFはIBMに
14nmチップを供給し(これも実際にそうした)、同時に次の
ノードの開発に取り組む計画だった。
 「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造
事業での競争状況を踏まえ、GFは10nmを飛び越えてすぐに
7nmに進んだ。GFは、IBMがこの決定にも賛同したと主張
している。
 当時GFは、7nm開発においてTSMCとサムソン電子に大
幅に後れを取っており、2018年には、同プロセスの開発を完
了できない見込みであることを発表した。7nmの開発を完了さ
せていたら、財務面で破滅的な状態に陥っていた可能性があると
同社は主張している。IBMによる契約不履行の訴えの核心は、
GFが7nmチップ製造プロセスの開発に失敗したことである。
                  https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 上記のいきさつから判断すると、IBMは自社の半導体部門を
売却するにあたって、GFに15億米ドルを提供し、さらに追加
として10億米ドルを支払っています。これは、半導体部門の売
却というよりも、条件付き資金付きの譲渡のようなものです。そ
れは、GFに対して、生産する最先端の半導体をIBMに優先的
に提供するという約束のためであると思われます。
 GFは、IBMから得た資金を投じて、IBMの製造設備を改
修し、14nmプロセスを開発、続いて7nmプロセスの開発に
着手したのです。なぜ、10nmプロセスではなく、7nmプロ
セスとであるかというと、IBMとは最先端の半導体生産の約束
をしていたからです。
 しかし、競合相手のTSMCやサムソン電子は、既に数百億ド
ルの資金を投入して7nmプロセスに着手しており、GFとして
は大きく遅れていたのです。実際問題として、14nmプロセス
から7nmプロセスへの飛躍は、技術的にきわめて困難であると
判断し、GFは7nmチップの生産を断念し、戦略を転換したの
です。2018年のことです。
 どのように戦略を転換したかというと、1桁台のプロセスノー
ドの生産を断念し、TSMCやサムスン電子では引き受けてもら
えない半導体の生産に切り換えたのです。実は、この需要はたく
さんあって、そのための設備が充実しているGFは売り上げが増
大します。そして、2020年には、IPO(新規株式公開)の
情報もあります。この戦略転換がうまくいって、現在、ファウン
ドリとしては、TSMC、サムソン電子に次いでGFは、世界第
3位になっているのです。
 しかし、IBMはGFの変化を契約違反であるとして、7nm
チップをサムソン電子に委託しています。そして、2020年に
なってGFを契約違反であるとして提訴したのです。その内容は
次のようなものです。
─────────────────────────────
 GFは、高性能半導体チップの開発/供給を含め、IBMに対
する法的義務を果たしていない。この訴訟は、そうした不正と意
図的な契約不履行を隠蔽するためのGFによるさらにもう一つの
試みである。IBMはGFが次世代チップを供給できるよう同社
に15億米ドルを提供したが、GFは最後の支払いを受けてすぐ
にIBMから完全に離れ、自社の発展のためにIBMとの取引で
得た資産を売却した。それによる重大な損害の回復を探る機会を
IBMは歓迎する。         https://bit.ly/3V1i0LB
─────────────────────────────
 2020年といえば、日本が米国政府からの強い要請を受けて
本格的な半導体企業を設立しようと模索していたときです。その
動きをIBMが知らないはずはなく、1桁台の最先端半導体を求
めていたIBMは、日本の関係者に接近し、IBMの技術提供を
提案したのではないかと思われます。つまり、IBMとしては、
GFに期待していたものの、GFが約束を守らなかったので、ラ
ピダスに生産を委託しようと考えたものと思われます。実際に、
IBMとラピダスは、2022年12月に提携を発表し、2ナノ
メートル(ナノは10億分の1)の半導体製造において、協力し
ていくことを約束しています。
 この事実を知ったGFは、IBMが2021年に次世代半導体
技術で協業すると発表したインテルに知的所有権を不法に開示し
悪用したと主張し、「IBMは、潜在的に数億ドルのライセンス
収入やその他の利益を不当に受け取っている」として、IBMを
提訴したものと考えられます。
           ──[メタバースと日本経済/056]

≪画像および関連情報≫
 ●グローバルファウンドリーズがIBM提訴、「ラピダスと
  知財不法共有」
  ───────────────────────────
   [オークランド(米カリフォルニア州)19日ロイター]─
  米半導体受託生産大手グローバルファウンドリーズは19日
  トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が出資して
  設立した半導体メーカー、Rapidus(ラピダス)と知
  的所有権および営業秘密を不法に共有したとして、米IBM
  を提訴した。
   IBMとラピダスは2022年12月に提携を発表し、2
  ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体製造で協力し
  ている。グローバルファウンドリーズはまた、IBMが20
  21年に次世代半導体技術で協業すると発表したインテルに
  知的所有権を不法に開示し悪用したと主張。「IBMは、潜
  在的に数億ドルのライセンス収入やその他の利益を不当に受
  け取っている」とした。訴状によると、グローバルファウン
  ドリーズとIBMはニューヨーク州オールバニで数十年にわ
  たり共同で技術を開発。15年にその技術のライセンスと開
  示の独占権がグローバルファウンドリーズに売却された。グ
  ローバルファウンドリーズはIBMに対し、補償的損害賠償
  および懲罰的損害賠償のほか、営業秘密の使用を禁止する差
  し止め命令を求めている。またIBMがグローバルファウン
  ドリーズのエンジニアを採用する動きがラピダスとの提携発
  表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を
  命じるよう裁判所に求めた。IBMはロイター宛ての電子メ
  ールで「申し立てには全く根拠がない」と反論した。インテ
  ルはコメントを控えている。ラピダスは「コメントする立場
  にない」としている。      https://bit.ly/3H2I4jt
  ───────────────────────────
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ.jpg
4ナノメートルまで微細化された半導体チップ
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2023年04月26日

●「ラピダスとGFのIBM提訴問題」(第5941号)

 4月25日の朝日新聞にラピダスに関する次の記事が掲載され
ています。ラビダスに関する情報が増えてきています。
─────────────────────────────
◎ラピダス追加補助2600億円
 政府方針/次世代半導体新工場に
 大手企業8社が、次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社
「Rapidus(ラピダス)」 が北海道に建設する新工場に対し、政
府は新たに2600億円を補助する方針を固めた。次世代半導体
をめぐる国際競争が激しさを増すなか、政府肝いりの事業として
すでに700億円の補助を表明しており、計3300億円に上る
巨額の国費を投じることになる。
           ──2023年4月25日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 何度も繰り返し述べているように、ラビダスは、2022年8
月に設立された日本版の最先端半導体のファウンドリ(製造受託
企業)です。その目標は「ビヨンド2ナノ」です。ナノは10億
分の1を意味します。現在この世界の最先端は2nm(2ナノメ
ートル)ですが、ラピダスは1nm台を狙おうとしています。先
を行くTSMCやサムスン電子を追撃しようというのですから、
その「やる気やすこぶる良し」といえるでしょう。
 ラピダスは、工場建設地に北海道千歳市を選んでいますが、本
気で最先端を目指すのであれば、将来的に3〜4棟の工場は必要
であり、そのためには相当大きな敷地が必要になるからです。つ
まり、今後の拡張性を重視して千歳市を選んでいます。現在、2
つの工場の建設が予定されており、それは「IIM1」と「II
M2」と呼ばれています。
─────────────────────────────
  「IIM(イーム)1」 ・・・ 2nm世代対応工場
  「IIM(イーム)2」 ・・・ 1nm世代対応工場
─────────────────────────────
 ところで、「IIM」とは何でしょうか。
 「IIM」とは、「ファブ(Fab)」 (工場)に代わる半導体
工場の独自の呼び方です。ラピダスの小池淳義社長が口にした言
葉であり、これまでの半導体の常識を打ち破るまったく新しい半
導体の製造を目指しているといいます。なお、IIMは次の英語
の省略形です。
─────────────────────────────
    ◎IIM(イーム)
     Innovative Integration for Manufacturing
─────────────────────────────
 小池社長によると、IIMと呼ぶには、具体的には、次の3つ
のことに力を入れるからであるといいます。
─────────────────────────────
      @サイクルタイムの極限までの短縮
      AAIを活用した製造工程の自由化
      B前工程と後工程の統合の受託生産
     註:前工程=ウェハー工程、後工程:パッケージング
─────────────────────────────
 ラピダスでは、新技術開発のため、どのくらいの人数を集めよ
うとしているのでしょうか。
 既に100人程度の技術者が集まっているといいます。これを
2023年中に200人まで増やす計画で、最終的には300〜
500人の規模になるといいます。どういう人を集めているのか
というと、国内で他企業に移籍した半導体技術者や、海外に移っ
た半導体技術者などで、世界中から毎日のように応募がきている
といわれ、エンジニア集めには苦労していないようです。平均年
齢は50歳程度といわれます。
 ラピダスは、第1陣の技術者を米IBMの開発拠点であるアル
バニー・ナクテク・コンプレックスに派遣しており、開発業務に
当たっているといっています。このことによってわかることは、
ラピダスと米IBMの関係が非常に緊密であるということであり
GFの訴訟は、ラピダスにも大きな影響を与えます。
 アルバニー・ナクテク・コンプレックスとは、ニューヨーク州
アルバニーにあるIBMの先端半導体の研究所のことです。IB
Mは、2015年に半導体の工場と外販の設計チームを別会社に
事業譲渡していますが、先端技術の基礎研究はこの施設で研究開
発を続けているのです。そこでは、IBMの研究員たちが、公共
機関や民間企業のパートナーたちと緊密に、コラボレーションし
ロジック・スケーリングや半導体の能力の限界を超えるために働
いているのです。
 現時点においてのラピダスのIBM依存度は、相当高いと考え
るられます。したがって、もし、GFの訴訟においてIBMの動
きに制限が加えられた場合、人材の確保や半導体の生産自体にも
大きな影響が及びます。これらについて、4月21日の日本経済
新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 ラピダスとIBMが量産を目指す2ナノ品はTSMCやサムス
ンも開発を進めている。2ナノ品では素子構造が従来から大きく
変わる。材料や製造手法も変化し、ラピダスのように最先端品参
入を狙う動きがある。GFについても「提訴を通じて、IBMと
(特許を相互利用する)クロスライセンスを結び、最先端品への
参入の足がかりにするのではないか」との見方もくすぶる。
 IBMは「(GFの)申し立ては全く根拠のないものであり、
我々は裁判所が同意すると確信している」とコメントした。ラピ
ダスは「コメントする立場にない」としている。仮にIBMとい
う後ろ盾がなくなった場合、量産化は実現できるのか。先端品の
国産計画はシナリオの複線化も求められている。
         ──2023年4月21日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/057]

≪画像および関連情報≫
 ●ラピダスに入り混じる期待と不安
  ───────────────────────────
   近年、様々な面で注目を浴びている半導体業界だが、20
  22年も多くのニュースがあった。そのなかの1つが、次世
  代半導体の量産を目指す新会社Rapidus(株) (ラピダス/
  東京都千代田区)の始動だ。キオクシア(株)、ソニーグル
  ープ(株)、ソフトバンク(株)、(株)デンソー、トヨタ
  自動車(株)、NEC(日本電気(株))、NTT(日本電
  信電話(株))、(株)三菱UFJ銀行といった日本の大手
  企業が出資し、2020年代後半に、2nm世代の最先端ロ
  ジックファンドリーとして量産することを目指すと発表し、
  半導体業界に大きなインパクトを与えた。
   国もバックアップする体制を示しており、NEDO(新エ
  ネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト「ポスト5
  G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造
  技術の開発」を介して、700億円が、ラピダスに助成され
  る。この助成金を活用してラピダスは、2nm世代のロジッ
  ク半導体技術の開発を行い、国内でTAT(生産の開始から
  終了までにかかる時間)が短いパイロットラインを構築し、
  テストチップによる実証を行う。22年度については、2n
  m世代の要素技術の獲得、EUV露光機の導入着手、短TA
  T生産システムに必要な装置、搬送システム、生産管理シス
  テムの仕様策定、パイロットラインの初期設計を実施する。
                 https://bit.ly/41O0ooQ
  ───────────────────────────
ラピダスが工場建設を決めた工業団地.jpg
ラピダスが工場建設を決めた工業団地
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月27日

●「GAA構造チップとはどういうものか」(第5942号)

 ラピダスが米IBMから提供を受けるのは「GAA構造」の技
術です。2ナノ世代プロセスの製造に必要な半導体の技術です。
日本の半導体メーカーが量産化できるレベルは40ナノ〜60ナ
ノ程度でしかないのです。IBMでも2ナノ世代プロセスの製造
の技術は持っているものの、量産化技術は持っていないのです。
 トップランナーは、台湾のTSMCと韓国のサムスン電子です
が、この2社も2ナノ世代プロセスのチップは作れるが、量産化
技術はまだ持っていないといわれています。
 このように考えると、ラピダスの目標がいかに高いかわかると
思います。半導体の生産において、よく「微細化」という言葉を
使いますが、微細化とは何でしょうか。なぜ、微細化が必要なの
でしょうか。
 それにはトランジスタの基礎について知る必要があります。ど
こまでやさしく説明できるか自信はありませんが、以下説明を試
みることにします。これから半導体不足問題は、世界レベルで、
さらに深刻になり、話題になることが多くなるので、知っておい
て損はないと考えます。
 半導体にもいろいろありますが、これから説明するのは、「ロ
ジック半導体」の話です。ロジック半導体とは、スマホやPCの
CPUとして使われるもので、電子機器の頭脳の役割を担うもの
です。これまで回路を微細にして、トランジスタ(素子)の数を
増やし計算能力を高めてきています。
 ロジック半導体で使われている「MOSFET」と呼ばれる半
導体があります。「MOSFET」とは次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎MOSFET/金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ
   Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor
─────────────────────────────
 添付ファイルの「図A」をご覧ください。これがMOSFET
の一種であるプレーナFETの構造図です。「G(ゲート)」と
呼ばれる部分がありますが、そこに一定以上の電圧を与えるか、
与えないかによって「S(ソース)」と「D(ドレイン)」とい
う部分に電流が流れます。つまり、G(ゲート)は、ON/OF
Fのスイッチの働きをしているのです。これが2進数の0と1に
対応します。
 しかし、チップの微細化によって──これはゲート幅が短くな
ることを意味する──このスイッチの働きが曖昧になります。具
体的には「リーク電流」が起きてしまうのです。つまり、OFF
のときでも電流が流れてしまう現象です。S(ソース)とD(ド
レイン)が水平なので、微細化によって、SとDが近づきすぎる
と、リーク電流が生ずるのです。
 この現象をホースで庭に水をまくさい、ホースを足で踏みつけ
たり、離したりすることに例えることがあります。これではON
/OFFがうまく機能しなくなるのです。
 そもそもなぜ「微細化」が必要なのでしょうか。その理由には
4つあります。
─────────────────────────────
           @ コスト削減
           A 低消費電力
           B動作速度向上
           C  高機能化
─────────────────────────────
 @は「コスト削減」です。
 ここでいうコストとは、トランジスタの製造コストの削減のこ
とです。半導体は、1枚のウェハーという物質の上にトランジス
タを積み上げるのですが、1枚のウェハーに含まれるトランジス
タが増えれば増えるほど、トランジスタ1個当たりの製造コスト
が下がることになります。ちなみにウェハーとは、半導体材料を
薄く円盤状に加工してできた薄い板のことで、半導体基板の材料
として用いられています。
 Aは「低消費電力」であり、Bは「動作速度向上」です。
 微細化とは、トランジスタが小さくなることをいいます。トラ
ンジスタが小さくなるということは、ゲート長が短くなることを
意味しますが、これに成功すると、オン/オフに必要とされる電
子の個数および移動時間が小さくなり、小さな電力かつその素早
い移動によって、低消費電力と高速化が可能になります。
 Cは「高機能化」です。
 これまで複数のチップで実現していた機能を一つのチップ内に
収めることができれば、AとBの理由によって、機能間の通信を
高速化できるし、省電力化も実現できます。
 プレーナFETは、オフのときでも電流が漏れるリーク電流が
問題だったのです。これを防ぐため「FinFET」が考案され
ています。添付ファイルの図Bの真ん中の図形をご覧ください。
リーク電流を防ぐため、チャネルをゲートに食い込ませることで
3面から囲み、リーク電流を抑制しています。「Fin」とは、
英語で魚のヒレを意味し、そのように見えることから「FinF
ET」というのです。
 実は、この「FinFET」は日本が開発した技術です。19
89年に日立製作所が発表しています。しかし、商用生産ができ
るようになったのは20年後の2011年で、その担い手は日本
企業ではなく、インテルだったのです。
 その発展形が図2の一番右の図です。これが「GAA」です。
GAAは「ゲート全方向(Gate All Around)」 と呼ばれ、その
名の通り、ゲートが全方向からチャネルを包み込む構造になって
います。「FinFET」との大きな違いは、チャネルの制御面
を3面から4面に増やしたことです。具体的にいうと、「Fin
FET」のチャネルを90%回転し、縦に積層し、リーク電流を
ほぼ完璧に抑えていることです。いずれにしても、現在ではこの
ように立体構造になっているのです。
           ──[メタバースと日本経済/058]

≪画像および関連情報≫
 ●IBMが「2nm」プロセスのナノシートトランジスタ公開
  ───────────────────────────
   IBMは、米国ニューヨーク州アルバニーにある研究開発
  施設で製造した「世界初」(同社)となる2nmプロセスを
  適用したチップを発表した。同チップは、IBMのナノシー
  ト技術で構築したGAA(Gate-All-Around) トランジスタ
  を搭載している。同社は、「この新しいプロセス技術によっ
  て、2nmチップは、現在生産している最先端の7nmチッ
  プと比べて45%の性能向上と75%の消費電力削減を実現
  できる」と述べている。
   IBMは、7nmと5nmのテストチップのデモンストレ
  ーションも業界で初めて行っている。IBMが発表したテス
  トチップは、約500億個のトランジスタを搭載し、GAA
  トランジスタの一部にナノシート構造を採用している。GA
  Aは、その前身となるFinFETのスケーリングの限界に
  対する解決策として開発された新しいトランジスタアーキテ
  クチャである。         https://bit.ly/3n245s9
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GAA構造とは何か.jpg
GAA構造とは何か
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2023年04月28日

●「失敗は絶対に許されないラピダス」(第5943号)

 ラピダス(Rapidus) とは、ラテン語で「速い」を意味するそ
うです。ところで、ラピダスは果たして成功するのでしょうか。
そういう不安が生ずるのは、これが経済産業省が中心となる国策
プロジェクトだからです。日本は、過去の例を見ても、こういう
国策プロジェクトの運営が上手ではないからです。
 西村康稔経済産業相は、記者会見において、次のように抱負を
語っています。
─────────────────────────────
 次世代半導体はあらゆる分野で大きなイノベーション(技術革
新)をもたらす中核技術だ。米国をはじめとする海外の研究機関
産業界とも連携しながら、わが国の半導体関連産業の基盤の強化
競争力強化につなげていきたい。   ──西村康稔経済産業相
─────────────────────────────
 しかし、景気の良いことばかりはいってはいられない。かつて
政府の主導で作られ、最終的に経営破綻したエルピーダの失敗が
あり、今回のラピダスも、同じことを繰り返すのではないかとい
う不安が一部にあることは確かです。
 ところで、「エルピーダ」という企業をご存知ですか。
 エルピーダは、1999年以降、NEC、日立製作所、三菱電
機のDRAM事業を統合して設立され、2003年には三菱電機
の半導体部門を吸収し、日本で唯一であるDRAM専業メーカー
となった企業です。「日の丸半導体メーカー」といえます。
 DRAMは、PCのメインメモリに使われているメモリですが
現在、DRAMの分野では、韓国勢が圧倒的なシェアを誇ってい
るのです。サムスン電子とSK・ハイニックスを合わせると、実
に70%を超えるシェアを有しています。しかし、1980年代
では、この分野は日本が圧倒的なシェアを独占していたのです。
 ところが「日の丸半導体メーカー」のエルピーダは、2012
年に破綻してしまうのです。
 なぜ、エルピーダは破綻したのでしょうか。微細加工研究所所
長の湯之上隆氏は、エルピーダの破綻について、次のようにコメ
ントしています。
─────────────────────────────
 事業は各社の不採算部門の寄せ集めで、各社からエルピーダに
配属された従業員は、「能力もやる気もない、指示待ち族の集ま
り」と酷評された。
 出身会社ごとの規格を統一することもかなわず、エルピーダの
収益力は低迷。経営危機に陥り、リーマン・ショック後の200
9年には、日本政策投資銀行を通じて300億円の公的支援が行
われた。だが、それでも持ち直すことはできず、最終的に12年
会社更生法の適用を申請して経営破綻した。
                  https://bit.ly/3Lebgpe
─────────────────────────────
 しかし、ラピダスの設立はエルピーダのときとその背景事情が
大きく異なるのです。その一番大きなものは、米中対立の激化で
す。「半導体の開発では絶対中国には負けられない」という強い
決意のもと、2022年8月9日、バイデン米大統領は「CHI
PS法」に署名し、法案を成立させています。CHIPS法とは
次の言葉の省略形です。
─────────────────────────────
     ◎CHIPS法
      The CHIPS and Science Act of 2022
─────────────────────────────
 この法律の目的は、先端半導体技術において、米国がリーダー
シップを取り戻し、中国の競合をかわすことにあります。この法
律では、安全保障上の懸念のある国において、最先端および先端
半導体製造能力の「実質的な拡張を含む重要な取り引き」が禁止
されます。
 この法律により、米国内の半導体の生産や開発を支援する補助
金として527億ドル(約7兆5000億円)が使われることに
なっています。支援を受ける企業は、今後10年間、28ナノ以
降の半導体製造にかかわる中国向けの投資が禁止されます。これ
に加えて、2022年10月からは、18ナノ以下のDRAM、
128層以上のNANDメモリ、3ナノ以下の回路や基盤を設計
するEDAツールが輸出できなくなっています。これによって、
中国が大きな打撃を受けることは確実です。
 以上が米国の状況ですが、EUも同様の半導体開発支援を目的
として、公的資金110億ユーロを投資し、その他、民間を加え
て、430億ユーロ(約6兆円)を投資することが12月のEU
閣僚理事会で決定しています。
 そもそも半導体不足は何で起きたかですが、それは、コロナ禍
が原因です。これについて、英国の調査会社オムディアの杉山和
弘コンサルティング・ディレクターは、次のようにコメントをし
ています。
─────────────────────────────
 コロナ禍の半導体不足から、半導体サプライチェーンにおいて
製造は、台湾・韓国依存が高いことが認識されました。これに加
えて、米中対立による地政学的なリスクから、日本も自国で必要
な半導体は自国で生産する必要がある、という自国に回避するこ
とが前提にあると思います。この理由は、経済安全保障のリスク
マネージメント要因が大きいとみています
        ──杉山和弘コンサルティング・ディレクター
                 https://bit.ly/3HguQQt
─────────────────────────────
 ラピダス設立は、日本にとって周回遅れの状態から脱出する最
後のチャンスといえます。日本は、世界の半導体の技術レベルと
比較して、10年〜20年以上遅れています。果たして、ラピダ
スによって世界のレベルに追いつくことができるのか、大きな関
心をもって、注視していく必要があります。
           ──[メタバースと日本経済/059]

≪画像および関連情報≫
 ●エルピーダ破綻に見る産業政策の「不在」
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   2012年2月末に、日本唯一のDRAMメーカーで、D
  RAM世界市場3位のエルピーダメモリが会社更生法の申請
  を行い、製造業として戦後最大の負債総額4480億円で経
  営破綻した。2009年6月末に産業活力再生特別措置法の
  認定を経済産業省から受けて、日本政策投資銀行(政投銀)
  の増資引き受け(300億円)や、政投銀と民間銀行団の融
  資(約1000億円)によってテコ入れされてから、3年弱
  だった。この失敗を日本政府、経済産業省の産業政策との関
  わりで評価し、今後のあるべき政策を示唆したい。
   結論を先回りすると、筆者の考えでは、この失敗は産業政
  策の過剰ゆえではなく深いレベルの産業政策の不在ゆえであ
  り、また政策における賢さと断固たる粘り強さの不足ゆえで
  ある。以下、その点を示すが、最初にエルピーダ社自身の問
  題も指摘せねばならない。
   あまり報道されていないが、同社を救済したときの法的認
  定を正確にみると、携帯電話などに向けた「プレミアDRA
  M」を中核とした事業再構築計画に対する認定だった。確か
  に、2010年度に同社のプレミアDRAM売り上げは大き
  く伸びた。だが、それでもその売り上げ比率は同年度に金額
  で30%に過ぎなかった。2009年の救済認定当時から、
  パソコン用などの一般DRAMの生産能力を台湾に移管し、
  同社の広島工場は、プレミアDRAMの生産に傾斜するはず
  だったが、2011年9月末の報道によると、実際は広島工
  場の能力12万枚/月のうち約4割に当たる5万枚分を「こ
  れから」台湾に移管するとされていた。
                  https://bit.ly/3V826ix
  ───────────────────────────
エルピーダメモリ広島工場.jpg
エルピーダメモリ広島工場
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする