2023年02月20日

●「H3ロケットが打ち上げ『中止』」(第5910号)

 2月17日、日本にとって心配な出来事が起きています。日本
の「H3ロケット」が打ち上げ中止になったことです。これにつ
いて、18日の日本経済新聞は次のように報道しています。
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◎H3打ち上げ「中止」/JAXA補助ロケット着火せず
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、17日、大型ロケット
「H3」初号機の打ち上げを発射直前に中止した。本体1段目で
異常を検知し、補助ロケットが着火しなかったという。詳しい原
因は調査中だが、電子機器の不具合の可能性などがあるという。
2022年度内の再挑戦を目指す。滞れば国の宇宙戦略の見直し
も求められる。  ──2023年2月18日付、日本経済新聞
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 「H3」ロケットの打ち上げ予定時刻は、17日、午前10時
37分55秒に設定されていたが、カウントダウンが始まり、打
ち上げの6・3秒前に主エンジン「LE9」に着火し、0・4秒
前に主エンジンを補助する固体ロケットブースター2本が着火す
る予定が、「LE9」は着火したものの、固体ロケットブースタ
ーは、何らかの理由で着火しなかったといいます。
 したがって、JAXAは、カウントダウン中であるので、これ
は、「打ち上げ失敗」ではなく、「打ち上げ中止」であるといっ
てます。しかし、予定の日と時刻に打ち上げられなかったという
ことは「打ち上げ失敗」であるといえます。
 今回のH3ロケットの目玉は主力エンジンである「LE9」で
す。なぜなら、このエンジンは低コストを実現できるからです。
ところが、その燃焼実験ではJAXAは何度も失敗しています。
燃焼室の内壁に亀裂が入ったり、エンジンに燃料を送るタービン
にひびが入ったりして、これまで何回も打ち上げが延期されてき
ています。
 しかし、JAXAの岡田匡史プロジェクト・マネージャーは、
「LE9」は正常に立ち上がったといっています。このエンジン
を支える固体ロケットブースターに何らかの原因で、着火信号が
送信されなかったといいます。
 JAXAは、「失敗でなく中止である」といいますが、こんな
ことを繰り返していると日本のロケットの信用性が失われるとし
て、もし「中止」というのであれば、3月中にはぜひ打ち上げる
べきであるといえます。世界の宇宙政策に詳しい鈴木一人東京大
学教授は、次のように警鐘を鳴らしています。
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 こうしたことが続くと、国際的な打ち上げ市場におけるイメー
ジが悪くなることは否めない。H3が信頼性の高い技術に基づい
ていることを示すためには、もし今回の問題が軽微ならば、なる
べく早く、再打ち上げを実現することが大切だ。
           ──鈴木一人東京大国際政治経済学教授
             2022年2月18日付、朝日新聞
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 まして日本は、2月7日に三菱重工業が、国産ジェット旅客機
「三菱スペースジェット(MSJ)」事業から撤退することを発
表したばかりであり、日本の産業技術力の信頼性がいま厳しく問
われているのです。
 日本の宇宙ビジネスの現状について知る必要があります。そも
そもロケットの打ち上げ費用を負担するのはどこでしょうか。そ
れは、宇宙に「荷物」を運びたい国や企業です。宇宙に運ぶ荷物
とは衛星や探査機などです。日本のこれまでの実績は、2001
年の運用開始から20年間で、海外から受注した衛星を5回打ち
上げています。20年間で5回です。
 これに対して世界を見ると、受注衛星の打ち上げは、2015
の1年間で、ヨーロッパは6回、アメリカは5回打ち上げている
のです。つまり、欧米は、日本が20年かかってやったことを1
年でやっています。実に大きな差です。
 種子島宇宙センターで日本の打ち上げ技術の基礎を築いたのが
Hシリーズです。
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        1986年 ・・・  H1
        1994年 ・・・  H2
        2001年 ・・・ H2A
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 Hシリーズでは、これまで、気象衛星「ひまわり」、小惑星探
査機「はやぶさ2」、政府の「情報収集衛星」、カーナビの位置
取得などに使われる準天頂衛星「みちびき」を打ち上げてきてい
ます。とくに「H2A」は、これまで46機中45機打ち上げに
成功しており、97・8%の成功率であり、その信頼度はきわめ
て高いのです。しかし、打ち上げ費用は、約100億円かかって
おり、世界水準より3割程度高額です。
 そこでJAXAと三菱重工業が2014年から開発を始めたの
が「H3」です。このH3で目指したのが、H2Aの半分の50
億円という低コストの実現です。そして2015年からスタート
したのが、ロケットの命ともいえるメインエンジン「LE9」の
開発です。
 問題は、どのようにしてコストを下げるかです。H2Aよりも
設計をシンプルにし、構造を簡素化して部品の数を2割減らした
ほか、3Dプリンタで部品を作ったり、乗用車の電子部品を活用
したりと徹底的にコストを削減したのです。
 ロケットエンジンは、燃焼試験に合格しないと打ち上げには使
えませんが、その燃焼試験が苦難の連続だったのです。2020
年5月の燃焼試験では、タービンにひびが入り、同年度に予定さ
れていた打ち上げが2021年に延期されましたが、またしても
タービンに不具合となる振動が確認され、打ち上げはさらに20
23年に延期されたのです。しかし、その2023年2月17日
も打ち上げが中止されてしまったというわけです。
           ──[メタバースと日本経済/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「あり得ない」「敬意のかけらもない」H3打ち上げ中止
  JAXA会見で反発広げた「記者の捨て台詞」
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   鹿児島県の種子島宇宙センターから2023年2月17日
  に打ち上げを予定していたH3ロケットだが、この日のカウ
  ントダウン中にシステムが異常を検知し、打ち上げは中止と
  なった。
   記者会見にのぞんだJAXAの岡田匡史プロジェクトマネ
  ージャーには、報道陣から「失敗ではないか」と認識を確認
  する質問が相次いだ。通信社の記者は「一般にいう失敗なん
  じゃないか」と追及し、岡田氏は否定。「失敗と呼ばれたか
  らといって、何か著しく不具合があるわけじゃないですね。
  皆さんの中では失敗と捉えていないけど、失敗と呼ばれてし
  まうのも甘受せざるをえない状況じゃないんですか」と矢継
  ぎ早に質問すると、設計の想定範囲内での事象のため、やは
  り失敗ではないとの見解を示した。
   この記者は「つまりシステムで対応できる範囲の異常だっ
  たんだけれども、起こるとは考えられなかった異常が起きて
  打ち上げが止まった。こういうことでいいですね」と論点を
  整理し、岡田氏が主張を繰り返すと、「わかりました。それ
  は一般に失敗といいます。ありがとうございます」と突き放
  すように切り上げた。
   通信社の記者とJAXA担当者の攻防は、多くの視聴者の
  目に留まった。この場面がツイッターで「記者の捨て台詞」
  などの文言とともに転載されると1万以上リツイートされ、
  「あり得ない」「難事業に対する敬意のかけらもない対応」
  と記者の態度を疑問視する声が広がっている。
                  https://bit.ly/3YSQPU8
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H3ロケット初号機打ち上げの現場.jpg
H3ロケット初号機打ち上げの現場
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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