2023年02月13日

●「黒田金融政策は当分の間継続する」(第5905号)

 今朝のEJの一番のニュースは、何といっても日銀総裁人事で
しょう。当面の日本経済浮上のカギは、黒田総裁後任の新日銀総
裁が握っているといっても過言ではないからです。
 2月11日付、日本経済新聞は、次期日銀総裁と副総裁の人事
について次のように報道しています。
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 政府は日銀の黒田東彦総裁(78)の後任に経済学者で元日銀
審議委員の植田和男氏(71)を起用する人事を固めた。黒田氏
の任期は4月8日まで。政府は人事案を2月14日に国会に提示
する。衆参両院の同意を経て内閣が任命する。
 副総裁には氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起用
する方針だ。現在の雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月
19日まで。政府は黒田氏の後任総裁として雨宮副総裁に打診し
たが、同氏は辞退した。
         ──2023年2月11日付、日本経済新聞
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 報道を受けて、植田和男氏は、自宅前で朝日新聞の取材に次の
ように、答えています。
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記者:黒田総裁による日銀の金融政策について、この10年をど
 う見ているか。
植田:金融政策は景気と物価の現状、それから将来の見通しをも
 とに決めていかなければならない。現状の金融政策は適切だと
 考えている。当面、現状は金融緩和を継続する必要がある。
           ──2023年2月11日付、朝日新聞
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 植田氏が、まだ就任前であるにもかかわらず、「当面、金融緩
和を継続する必要がある」と言明したのは、日本経済新聞が次期
総裁は雨宮副総裁」と報道したとき、市場で円が売られ、株高に
なったからであると思われます。そのため、慎重に市場にメッセ
ージを送ったものと思われます。
 副総裁には、氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起
用する方針とされていますが、とくに内田真一日銀理事の起用は
注目すべきです。なぜなら、この人事なら、植田新総裁になって
も、まさに植田氏のいう通り、当面は黒田時代の金融政策と大き
な変化はないと考えられるからです。
 内田真一氏とはどういう経歴の人物なのでしょうか。
 内田真一氏は、日銀のプロパーで、前日銀総裁の白川方明氏の
時代の2012年に、40歳の若さで新潟支店長から、企画ライ
ンの重要幹部である企画局長に起用されています。そして、黒田
総裁になってからも企画局長を続投しています。
 黒田総裁になって、総裁の指示で、当時理事で、急遽大阪から
呼び戻された雨宮氏らとともに2週間ほどで「異次元緩和」の原
案を作り上げています。つまり、内田真一氏は「異次元緩和」の
原案の作成者でもあるのです。
 しかし、「2年で2%」の日銀の目標がなかなか達成できない
と、2016年にはマイナス金利政策の導入をしたり、その後の
イールドカーブ・コントロールなどにも、内田氏は、企画局長し
てとして関わっています。
 内田真一氏は、2017年には名古屋支店長、18年には国際
担当の理事になって、企画ラインから離れますが、20年5月に
は、企画局などを担当する理事に昇進し、企画ラインの事務方の
トップに就任しています。明らかに、黒田総裁後を睨んだ人事配
置と考えられます。
 日銀の金融政策・市場エディターで、日本経済新聞の「日銀ウ
オッチ」の執筆を務める大塚節雄氏は、2022年4月2日の時
点て、内田真一氏の次期日銀総裁の副総裁就任を次のように予測
しています。
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 日銀は企業や家計を苦しめる輸入インフレを「望ましい物価上
昇ではない」とみて緩和継続の構えを崩さない。米国など海外の
金融引き締め路線のあおりで円安と金利上昇圧力が生じ、3月下
旬には日銀が「指し値オペ」と呼ぶ国債購入の手段で長期金利の
上昇を抑え込もうとするほど円安が進み、円相場は一時1ドル=
125円台まで下落した。海外勢には「日銀が物価上昇と円安の
圧力を放置するのは正しい態度ではない」(外国銀行ストラテジ
スト)として早期の政策修正の観測もくすぶる。
 修正は簡単ではない。いったん金利上昇を容認してしまうと際
限のない債券売りの投機を呼び込みかねない。結局は金融緩和に
追い込まれ、むしろ円安圧力が再燃するリスクもある。そもそも
巨額債務を日銀に支えてもらっている政府にとって、利払い負担
の急増につながる金利上昇は許容しにくい。東短リサーチの加藤
出社長は「様々な不確実性がある非常に難しい局面のなか、現在
の緩和の仕組みに精通する内田氏に引き続き実務のかじ取りを担
わせる必要がある、ということかもしれない」とみる。
               https://s.nikkei.com/3loKZey
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 岸田内閣が、次期日銀総裁として本命視したのは、雨宮正佳副
総裁だったのですが、雨宮氏は「今後の金融政策には新しい視点
が必要である」として固辞したため、人事は難航をきわめたとい
われます。最終的には、学者ではあるが、実務経験もあり、現在
の金融政策にも精通している植田和男氏に頼ったといわれます。
しかし、黒田体制を支えた政策参謀である内田真一氏を副総裁と
して残せば、引き継ぎはうまく行くと考えたフシがあります。
 もう1人の副総裁候補である氷見野良三氏は、国際金融姿勢を
担うバーゼル銀行監督委員会や金融安定理事会で要職を務めた国
際派として知られています。ちなみに、氷見野良三氏は、日銀プ
ロパーではなく、大蔵省(財務省)の出身であり、組織変更で、
金融庁に移籍したことを記しておきます。
           ──[メタバースと日本経済/021]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀総裁人事、植田氏の起用に驚きも・・・市場は緩和策の
  行方に注目/読売新聞オンライン
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   新たな日本銀行総裁として政府が指名したのは、経済学者
  の植田和男氏(71)だった。新体制は、戦後初となる学者
  出身の総裁をトップに、副総裁として、金融システムの分野
  で世界をリードしてきた行政マンと、マイナス金利政策を立
  案・設計した日銀マンが脇を固める3人の「トロイカ体制」
  となる。
  「政策の判断を論理的に、判断の結果を分かりやすく説明す
  ることが大事だ」。植田氏は10日夜の取材でこう語った。
  黒田東彦総裁の下で10年続いてきた金融緩和を急に転換す
  れば、金融市場の混乱を招きかねないとの認識がある。
   金融政策の転換は、金融市場を通じて、企業や家計にも打
  撃を与えかねない。低金利を続けるために日銀が大量の国債
  を買い入れているため、日銀の国債保有比率は5割を超えて
  いる。仮に日銀が、国債の買い入れを減らせば、金利が急騰
  する可能性がある。金利の上昇で債券価格が下落すると、国
  債を持つ金融機関の業績は悪化する。企業への貸し出しが鈍
  る可能性もある。
   家計にとっては金利の上昇を通じた負担が増えかねない。
  日銀が昨年12月に長期金利の上限を0・25%から0・5
  %に拡大しただけで、長期金利に連動する金利固定型の住宅
  ローンの利率は軒並み上昇した。日銀がマイナス金利政策の
  撤廃などに動けば、住宅ローンの7割を占める変動型金利に
  も影響を及ぼしかねない。    https://bit.ly/3RNTs7b
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内田真一氏.jpg
内田真一氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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