2023年02月01日

●「『60年償還ルール』高橋氏の意見」(第5897号)

 1月25日のニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」 に
高橋洋一氏が出演して、「60年償還ルール」について、次のや
りとりがあったのです。
─────────────────────────────
高橋:いま話題になっている「60年償還ルール」というのがあ
 りますよね。
飯田:国債の・・
高橋:あれを一時的に撤廃する。2023年度予算では16・4
 兆円の債務償還費があるけれど、実はこれを他のところに繰り
 入れることができるのです。債務償還費をどこに繰り入れるか
 と言うと、もともと国債整理基金特別会計というものがありま
 す。予算で一般会計の歳出は立っていて、他のものはすべて国
 民に配るのだけれど、これは国債整理基金特別会計として、国
 のポケットに繰り入れるのです。
飯田:政府が支出してどこかにお金が行く。
高橋:行き先は間違いなく国のポケットです。右のポケットか、
 左のポケットなのです。左のポケットにはもう1つ、防衛力強
 化資金がある。そこに繰り入れればいいのです。そうすると、
 防衛財源確保法案は、ほとんど意味がなくなるし、防衛増税は
 全部吹っ飛ぶのですよ。
飯田:なるほど。          https://bit.ly/3HgEEcv
─────────────────────────────
 このやり取りを聞いていて理解できるでしょうか。重要なポイ
ントは、毎年の国家予算には、国債残高の1・6%が一般会計か
ら、国債整理基金特別会計に組み入れられることになっているの
です。2023年度予算では、16・4兆円が国債整理基金特別
会計という国のポケットに入ります。これは、国債の償還費に充
てられる資金です。
 実は、この「60年償還ルール」のような制度は、最初はどこ
の国もやっていたのですが、今では合理性がないということで、
廃止しており、今でもやっているのは日本だけです。なぜ、日本
はやっているのかというと、「財務省がやっているから」としか
いいようがないです。
 その旧態依然たる制度を大学の財政学の教授の多くは、何だか
んだとと理屈をつけて、その重要性を説いています。そうしない
と、国債の信認がなくなり、国債が暴落すると発言し、財務省の
歓心を買っています。まさに財務省のポチです。ポチにならない
と、テレビにも出してもらえないからです。メディアも事情はよ
くわかっているのに、財務省を怒らすような記事を書くことは、
まずないといえます。
 しかし、国債整理基金特別会計のポケットにはお金が積んであ
るので、高橋洋一氏によると、財務省ではときどきそれを別の目
的で使うことがあるそうです。それでは、償還のとき、お金が足
りなくなるではないかといいますが、もともと定額で支払うもの
を定率で積んでいるので、そこには誤差が生じ、不足分は借換債
に含めて処理しています。これについては、高橋洋一氏の次の発
言に注目していただきたいと思います。
─────────────────────────────
高橋:「それで何が悪いのか?」ということです。「国債整理基
 金特別会計を他に繰り入れたら国債が暴落する」と財務省は言
 うのだけれど、私は財務省のなかでこれを何回も破った常習犯
 なのです。
飯田:そうなのですか?
高橋:11回やりました。そのうち3回くらいは私の関連です。
 財務省からは、それをやると「国債が暴落する」と言われたの
 ですが、「暴落しない!」と言って進めてしまいました。そう
 したら、全然暴落しなかったのです。
飯田:何に使ったのですか?
高橋:他に使いました。いろいろと。
飯田:前例はあるのですか?
高橋:11回あります。今回は12回目をつくるかどうか、それ
 だけの話ですし、過去11回は何の問題もないですから。
飯田:なるほど。
高橋:まず大丈夫ですね。他の国でこんなことをしているところ
 はないから、まったく大丈夫です。
飯田:「60年償還ルール」で償還費を積んでいる国は、先進国
 にはない。
高橋:ありません。「国債償還が滞るではないか」と言うけれど
 国債整理基金特別会計では借換債という国債を出せるから、何
 の問題もないです。償還資金のための借換債を出すという意味
 で、まったく何の問題も起こりません。過去11回も行ったこ
 とがあるのに、12回目ができないというのは、信じられない
 です。そんなことになったら予算が混乱するでしょう。
飯田:確かに。
高橋:予算組み替えでも私はいいと思うけれど、財務省は絶対に
 嫌だと言うでしょうね。
飯田:なるほど。でも国民からすると、「他からそうやってお金
 が出てくるのであれば、まずはそちらをやってよ」と思います
 よね。いきなり増税ではなくて。  https://bit.ly/3Hg2V2f
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 高橋洋一チャンネルという動画があります。「国債60年償還
ルール」について、高橋洋一氏が解説しています。きわめて明快
な解説です。ぜひご覧ください。
─────────────────────────────
   ◎高橋洋一チャンネル
    今回の質問:国債60年償還ルールについて
                  10分22分
             https://bit.ly/3kPx8O2
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/013]

≪画像および関連情報≫
 ●防衛財源確保「国債60年償還」延長論も 自民が本格議論
  ───────────────────────────
   防衛費増額の財源を巡る自民党の特命委員会が16日に始
  まった。歳出改革や税外収入など、増税以外の財源を模索す
  る。国債の「60年償還ルール」見直しで財源を捻出すべき
  だとの案も浮上する。償還期間を延長・廃止しても、浮いた
  国債費を防衛費に使えば借金は膨らむ。借金返済の担保が消
  えれば、市場の信認を失う恐れもある。
   萩生田光一政調会長が委員長を務める。初回の16日は非
  公開の役員会を開いた。増税幅の圧縮に向け、税以外の財源
  を議論する。安倍派を中心に根強い増税への不満を吸収する
  狙いがある。政府は防衛財源の確保法案を通常国会に提出す
  る方針だ。16日は法案審査を優先的に実施することで一致
  した。出席した党幹部は、「国会での法案審議が一段落した
  タイミングで税以外の財源論を議論する。『60年償還ルー
  ル』も議題に上がる」との見通しを示した。
   政府は2022年末、27年度の防衛費を現状から3・7
  兆円ほど上積みする方針を決めた。うち2・6兆円以上を歳
  出改革や税外収入、決算剰余金で捻出。残り1兆円強を法人
  ・所得・たばこの3税の増税で確保する。増税時期の具体的
  な議論は23年に先送りした。
               https://s.nikkei.com/40d4XJe
  ───────────────────────────
飯田浩司のOK!Cozy up!.jpg
飯田浩司のOK!Cozy up!
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2023年02月02日

●「安倍元首相の『日銀子会社発言』」(第5898号)

 2022年5月9日のことです。故安倍晋三元首相が大分市の
会合で、次の発言をして、大騒ぎになったのを覚えているでしょ
うか。奇しくもその2か月後に、安倍首相は銃撃され、亡くなっ
ています。そのときの発言は次の通りです。
─────────────────────────────
 政府の1000兆円の借金(国債)の半分は日銀に国債を買っ
てもらっている。しかし、日銀は政府の子会社なので、60年で
返済の満期が来たら、返さないで借り換えて構わない。心配する
必要はない。              ──安倍晋三元首相
              https://s.nikkei.com/3JuOV7H
─────────────────────────────
 この発言の趣旨は、日本政府は約1000兆円の借金(国債)
を抱えているが、政府の子会社である日本銀行(日銀)がその約
半分を買ってくれているので、財政破綻などを心配しなくてもよ
いということです。しかし、この安倍発言には、次の2つの問題
点があります。
─────────────────────────────
   1.日本銀行は本当に政府の子会社であるかどうか
   2.日本銀行が半分相当の国債を持つとなぜ安心か
─────────────────────────────
 最初に「1」について考えます。
 この安倍元首相の発言について、鈴木俊一財務相は次のように
明確に否定しています。2022年5月13日のことです。
─────────────────────────────
 日銀は政府の子会社にはあたらない。政府は日銀に55%出資
しているものの、議決権を持たないことなどから、政府が経営を
支配している法人とは言えず、会社法でいうところの子会社には
あたらない。              ──鈴木俊一財務相
                  https://bit.ly/3Ds0hFI
─────────────────────────────
 当の黒田総裁も安倍元首相の発言に対して、5月13日にオン
ラインで行った講演で次のように反論しています。
─────────────────────────────
 日本銀行は、政府から過半の出資を受けているが、議決権が付
与されていないし、金融政策は、政策委員会が決定を行う仕組み
である。日本銀行の金融政策や業務運営は、日銀法により自主性
が認められていて、日本銀行は政府が経営を支配している法人で
はない。               ──黒田東彦日銀総裁
                  https://bit.ly/3RiN7jO
─────────────────────────────
 安倍元首相の発言に対して、肯定的発言も多数あります。国民
民主党代表の玉木雄一郎氏は、ツイッターで次のコメントを発信
し、これに対して「アゴラ」を運営する経済学者、池田信夫氏は
玉木氏のツイートに関連して、次のコメントをしています。
─────────────────────────────
◎国民民主党代表玉木雄一郎氏
 安倍元総理の「日銀は政府の子会社」発言に反発が出ているが
政府は日銀の株の55%保有しており、「統合政府」の考え方は
国際的にも常識。さらに財政法5条但書に基づき借換え債の直接
引受は行われている。その上で、一般的な直接引受は禁止されて
いるので、にわかに独立性が害されているわけではない。
◎池田信夫氏/「アゴラ」
 野党では玉木さんだけが正確に理解している。「統合政府」で
考えるのは常識で、問題は「直接引き受け」を認めるかどうか。
今の日銀法では認めていないが、これも検討の余地がある。
─────────────────────────────
 そして、極め付きは、やはり高橋洋一氏です。高橋洋一氏は、
5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」 に出
演し、次のやり取りをしています。
─────────────────────────────
飯田:この発言に対して「日銀の独立性を脅かす発言だ」と一部
 が報じています。
高橋:この件については私は昔から「マスコミが間違っている」
 と言っているし、安倍さんは小泉政権のときに、副長官や幹事
長、官房長官をされていましたので、安倍さんには何回も説明し
たことがあります。
高橋:何が間違っているかと言うと、「独立性」という意味をマ
 スコミが勘違いしているのです。「子会社としての独立性があ
 る」ということですが、日々のオペレーションについては親会
 社から指示は受けませんよね。指示を受けるのは、大きな方針
 だけです。そういう意味での「独立性」ということです。これ
 は元FRB議長のバーナンキさんも言っています。
飯田:FRBの議長だった方。
高橋:バーナンキさんが日本へ来たときに、日銀で講演したので
 す。そのときに「どういう話をしたらいいか」と私に聞くので
 「独立性の話について、日本の解釈は間違っています」と言っ
 たら、彼はいま私が言ったようなことと同じような話をしてく
 れたのです。しかし、マスコミの報道では、なぜかそこだけ落
 ちていた。
飯田:報じられなかった。
高橋:そこだけすっぽり落ちていた。「ええ?」と思ったので、
 FRBのホームページを確認したら、FRBのホームページに
 は全部きちんと書いてありました。 https://bit.ly/3kRzlIS
─────────────────────────────
 このように、政府や日銀は公式には「日銀は政府の子会社では
ない」と否定しているものの、「日銀の独立性」の解釈の違いで
あって、安倍元首相の発言は、間違いではないといえます。問題
は、「2」の国債の保有の問題ですが、これについては、明日の
EJで検討することにします。
           ──[メタバースと日本経済/014]

≪画像および関連情報≫
 ●「日銀は政府の子会社」/安倍氏発言は本音か?
  焦りの表れか?
  ───────────────────────────
   「日銀は政府の子会社だ」。安倍晋三・元総理のこの発言
  が大きな波紋を広げている。政府・日銀はこれを真っ向から
  否定しているが、政府内では「安倍さんの本音が出た」と見
  る向きも多い。
   発言が飛び出したのは2022年5月9日、大分市で開か
  れた会合だった。安倍氏は1000兆円の政府債務のうち、
  半分は国債の形で日銀が購入しているとしたうえで「日銀は
  政府の子会社なので満期が来たら、返さないで何回借り換え
  てもかまわない。心配する必要はない」と解説してみせた。
   安倍氏は2012年末に政権に返り咲くと、翌13年1月
  に日銀に「物価目標2%」の導入を飲ませ、日銀にアベノミ
  クスの一翼を担わせてきた。黒田東彦氏を総裁に据えたほか
  副総裁、審議委員といった日銀の最高意思決定機関の人事も
  任命権者とし牛耳り、日銀を事実上、政府の支配下に置いて
  きた。
   この間、空前の異次元の金融緩和を続けさせるなど、日銀
  を「便利使い」してきたと言っても過言でない安倍氏として
  は、「政府の子会社」発言に何の違和感も抱かなかったのか
  もしれない。しかし、思わぬ批判が沸き起こった。「身内」
  であるはずの政府・与党内からの猛批判にさらされているの
  だ。「日本銀行は政府がその経営を支配している銀行とは言
  えず、会社法でいうところの子会社にはあたらない」
                  https://bit.ly/3XRrOZ1
  ───────────────────────────
「日銀は政府の子会社」発言の安倍元首相.jpg
「日銀は政府の子会社」発言の安倍元首相
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2023年02月03日

●「統合政府で日本の財政はどうなるか」(第5899号)

 「日本銀行は政府の子会社である」という安倍元首相の発言の
2つの問題点を再現します。
─────────────────────────────
   1.日本銀行は本当に政府の子会社であるかどうか
 → 2.日本銀行が半分相当の国債を持つとなぜ安心か
─────────────────────────────
 続いて「2」について考えます。
 「統合政府」という考え方があります。政府と中央銀行(日本
では日本銀行)を一体化したものを「統合政府」といい、国の財
政状況は統合政府として考えるべきであるという考え方です。
 この「統合政府」の考え方について、鈴木財務相は、2022
年3月16日の参院財政金融委員会において、次のように反対意
見を述べています。
─────────────────────────────
 日銀は、政府から独立して金融政策を行っているにもかかわら
ず、日銀が永久に国債を保有し、結果的に財政ファイナンスを行
うと誤解される恐れがあるため、財政を統合政府で考えるのは適
切でない。                 ──鈴木財務相
─────────────────────────────
 現在、日銀は安倍元首相によるアベノミクス政策の推進によっ
て政府の借金である国債の50%以上を保有しています。これは
統合政府の考え方に立つと、子会社が親会社の債務を負っている
に過ぎないことになります。
 したがって、政府と日銀を統合した連結財務諸表を作れば、親
会社の債権・債務が相殺されてしまいます。これによって政府債
務は激減し、その結果、日本の財政は危機的ではなくなり、逆に
財政余力が生じることになります。このように、統合政府によっ
て、政府と中央銀行が連結財務諸表を作ることは、世界の常識に
なっています。
 そのため、ノーベル経済学賞受賞経済学者、ジョセフ・スティ
グリッツ教授が来日したときに、「政府や日銀が保有する国債を
相殺すると、日銀の資産である国債が相殺される」という発言を
したのです。高橋洋一氏によると、スティグリッツ教授のいった
「相殺する」という言葉は、英文の原資料では「cancelling」と
いう英語をなっていたそうです。
 しかし、会社法上の親子会社が連結財務諸表で一体に評価でき
るのは、その親子会社の目指す目的が一致していることが条件に
なります。しかし、政府と日銀はその目指すものが異なります。
政府と日銀の目指すものとは次の通りです。
─────────────────────────────
 @政府の目的は、国民の生活水準向上のために、福祉、公共投
  資、教育、防衛などの歳出を行うことである。
 A中央銀行の最大の目的は、国民が生活するうえで絶対に欠か
  せない通貨の価値を安定化させることである。
─────────────────────────────
 第2次安倍政権が発足した2013年は、日本経済はデレフの
状況にあったといえます。デフレとは、通貨の価値が強すぎる状
況であり、日銀としては、デフレを克服するには、通貨を増加さ
せることによって、通貨を弱める必要があります。一方政府とし
ては「デフレから脱却する」ためには、継続的に、大規模な財政
出動をする必要があります。
 したがって、「デフレから脱却する」という局面においては、
政府と日銀の目的は、ある程度一致しているといえます。すなわ
ち、政府がアベノミクスを掲げて、デフレ克服に取り組む局面に
おいては、統合政府は説得力を持つことができるといえます。
 しかし、インフレが懸念される状況になると、事情が変わって
きます。インフレが激しくなると、通貨価値は棄損され、国民生
活を混乱に陥れます。日銀としては、通貨価値の安定を図るため
に、膨張する政府の財政を監視する役割を担うことになります。
この段階において、政府と日銀の目指す目的が異なってきます。
そうなってくると、統合政府の考え方は説得力を失いつつあると
いえます。現在はそういう状況に近づきつつあるといえます。ま
さしくこの時期において、日銀の黒田東彦総裁は退任し、3月に
は新総裁が着任することになります。
 統合政府の危うさを指摘する声も多くあります。金融PLUS
の金融グループ次長の石川潤氏は、統合政府について、次の指摘
をしています。
─────────────────────────────
 日銀が国債を買えば買うほど統合政府の負債から国債は消えて
無利子の日銀券や超低金利の当座預金に置き換わる。日銀が買っ
てくれる限り、国債発行を増やしても問題ないという発想はここ
から生まれてくる。
 だが、こうした発想はかなり危ういといえる。日銀はコストな
しにお金を生み出せるとみられがちだが、これは利子の付かない
日銀券の発行などに限った話。現在、日銀の負債は日銀券120
兆円に対し、当座預金が550兆円程度ある。
 当座預金は民間銀行が国債などを日銀に売った見返りとして受
け取ったお金の積み上がりなどで、日銀の国債保有が増えるにし
たがって膨らんできた。民間銀行に支払う当座預金の金利はいま
でこそ極めて低いが、日銀が利上げに動く局面では、政策金利と
同じように上がっていく。
 日銀が国債を買い続けても、言い換えれば、統合政府の負債が
国債から当座預金に置き換わっても、負担はなくならない。むし
ろ、負債が長期の国債から短期の当座預金に置き換わることで、
将来の金利上昇局面で負担が膨らみやすくなる。
               https://s.nikkei.com/3X90rsB
─────────────────────────────
 実際の統合政府のバランスシートについては、来週のEJで詳
細をご紹介することにします。
           ──[メタバースと日本経済/015]

≪画像および関連情報≫
 ●過大債務の実態は不変/銀行課税リスクは避けられない
  スティグリッツ教授の「日銀保有国債の無効化」提案
  ───────────────────────────
   ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が、20
  17年3月14日の経済財政諮問会議に出席して行ったプレ
  ゼンテーションが反響を呼んでいる。スティグリッツ教授の
  提案の狙いを考察し、その実現方法と効果(副作用)を検討
  してみる。これは『金利と経済』でも触れた「統合政府とい
  う観点から財政コストを考える」点の応用問題ともいえる。
   スティグリッツ教授のプレゼンテーションに関して公表さ
  れた資料をみると、最終的な結論部分には、下記のように記
  されている。
  ・金融政策は限界に到達しており、日本は成長に悪影響を及
   ぼすことなく必要な税収を得るため、炭素税を導入する必
   要がある。
  ・最も重要なのは構造政策―イノベーションにおけるリーダ
   ーシップを日本が取り戻すために必要な政策を含む。
  ・世界第2位の民主主義国家として、世界は、来る数年間の
   日本のリーダーシップを特に必要とするだろう。
   プレゼンテーション資料全体の流れをみても、スティグリ
  ッツ教授の従来の持論でもある炭素税の導入が関心の中心で
  あることがわかる。しかし、メディアが大きく報道したのは
  必ずしも炭素税導入ではなかった。たとえば、ブルームバー
  グは「スティグリッツ教授:政府・日銀保有国債の無効化主
  張−諮問会議」という見出しで今回のプレゼンテーションを
  報道した。           https://bit.ly/3YaVu3d
  ───────────────────────────
鈴木俊一財務相.jpg
鈴木俊一財務相
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2023年02月06日

●「日銀当座預金に債務性はあるか否か」(第5900号)

 今回のテーマの第1回(1月4日)において、「朝まで生テレ
ビ」での森永卓郎氏の発言をご紹介しています。この発言をもう
一度再現します。
─────────────────────────────
 2020年度でいうと、政府が1600兆円の負債をかかえて
います。その一方で、1100兆円の資産を持っており、その7
割は金融資産なんです。つまり、日本の純債務は500兆円しか
ない。GDPとほぼ同額の債務であるなら、先進国ではほぼ並み
の水準です。しかも、日本の場合、日銀が大量に国債を持ってい
て、それが500兆円ぐらいになる。日銀が国債を保有した瞬間
に借金は消えるんです。ということは、日本は、完全に無借金に
なっているのです。にもかかわらず、財務省は増税を続けようと
している。         ──森永卓郎氏の朝生の発言より
─────────────────────────────
 会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた
額を「ネット」といいます。森永卓郎氏によると、日本のネット
債務(純債務)は約500兆円であり、GDPとほぼ同額の債務
なので並みの水準であり、財政破綻の心配などないといっていま
す。これに対して、財務省系の人々は、資産を一切無視して、借
金の大きさだけを問題視しています。
 この森永氏の主張に対して、高橋洋一氏は、自著で次のように
述べています。
─────────────────────────────
 伝統的な財政の考え方では、政府のグロス債務、または債務残
高の対GDP比に着目する。バランスシートの右側だけを見て、
借金がどれだけあるか、その借金がGDPに占める割合はどれぐ
らいか、ということだ。
 しかし、借金だけ見るのは一面的すぎて、本当の財政状況はつ
かめない。それを、まずバランスシートの右側と左側の両方を見
よう。しかも日銀のバランスシートも合体させてみよう、という
のが、「統合政府バランスシート」だ。これは私が勝手にいって
いることではない。        ──高橋洋一著/あさ出版
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
─────────────────────────────
 その「統合政府バランスシート」として、高橋洋一氏は、次の
図を掲げています。
─────────────────────────────
   ◎資 産       ◎負債
    資 産 1000   国 債   1500
    国 債  500
    徴税権  400   銀行券など  500
─────────────────────────────
 高橋洋一氏は、負債の「銀行券など」について、「利子負担な
し、償還(返済)負担なしだから、実質的に債務とはいえない。
したがって税収を除いても『統合政府バランスシート』の資産と
負債は、ほぼイーブンになる」といっています。
 これに対して、言論プラットフォーム「アゴラ」の代表である
池田信夫氏は、次のように述べて、政府と日銀の本物の連結財務
諸表を示しています。これについては、添付ファイルをご覧くだ
さい。
─────────────────────────────
 本物の財務省の連結財務諸表では、資産が1121兆円なのに
対して、負債は1661兆円。政府(一般会計+特別会計)は、
540兆円の債務超過なのだ。
 高橋氏のバランスシートがバランスしていないのは、統合政府
の負債に日銀当座預金を入れていないからだ。540兆円の国債
は日銀当座預金でファイナンスされているので、統合政府では負
債側にも同額が計上される。国債をすべて日銀が買い取ったとし
ても、図のように統合政府の負債は消えない。日銀の市中銀行に
対する負債に置き換わっただけだ。
 政府が債務超過になるのは大した問題ではない。ほとんどの国
の財政は赤字だが、資金繰りには困らない。国債が消化できなく
なくなったら増税すればいい。それが高橋氏の図に描かれている
「徴税権」である。つまり、将来の税収が借金の担保になってい
るのだ。
 徴税権は簿外資産で、正確にいうとプライマリーバランスの累
積黒字である。現実には将来、540兆円も黒字が出ることは考
えられないが、国債を全額償還する必要はない。消費税をヨーロ
ッパ並みに上げるだけで、毎年20兆円以上、黒字が増えること
が、財源の担保になっている。    https://bit.ly/3RC6CnF
─────────────────────────────
 日銀当座預金とは何でしょうか。
 日銀当座預金とは、金融機関が日本銀行に開設している原則と
して無利息の当座預金のことです。主として、金融機関同士や、
日銀、国との決済手段のほか、金融機関が企業や個人に支払う現
金通貨の支払い準備、準備預金制度の対象となっている金融機関
の準備預金のために利用されます。
 添付ファイルの「統合政府バランスシート」では、540兆円
の国債は、日銀当座預金でファイナンスされているので、統合政
府バランスシートでは、負債側に同額が計上されています。国債
を日銀が購入したからといって、政府債務がその分なくなること
はないというのです。
 これについては、高橋洋一氏と明治大学教授の田中秀明氏が、
日本の政府債務問題について同様の論争を繰り広げています。し
かし、当初は巨額の政府債務をめぐる是非の話だったものの、日
銀の当座預金に債務性はあるのかという、かなりテクニカルな問
題に入り込んでしまっています。
 果たしてどちらが正しいのでしょうか。明日のEJでもこの問
題について考えることにします。
           ──[メタバースと日本経済/016]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀の債務超過懸念の真相、世界の有識者は「心配無用」
  高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   日銀が金融引き締めに転じた際、赤字や債務超過が懸念さ
  れるという説が話題になっているが、その是非はどうか。
   景気が良くなれば国債金利が上がる(国債価格は下落。割
  引債なら、金利1%なら価格99円だが、金利2%なら98
  円)ので、国債を保有していた日銀は損失になるという論説
  だ。実はこの種の議論は、20年以上前から行われている。
   かつてローレンス・サマーズ元米財務長官が来日したとき
  日銀関係者から同様の質問が出たことがあるが、サマーズ氏
  は一言、「So what?(それがどうした)」 とあきれて返答
  したのだ。
   説明は二通りある。一つは中央銀行だけでみる。中央銀行
  の負債は、ほぼ銀行券と当座預金で、銀行券はもちろん無利
  息・無償還だ。形式的に負債であるが、負担がないのだから
  経済的な意味で負債性はない。
   当座預金は銀行券と完全に代替する。このため、これも本
  来は無利息・無償還だ。民間企業が民間金融機関に預ける当
  座預金をみればわかる。しかし、日銀の場合、民間金融機関
  への「お小遣い」として、200兆円までは0・1%の利息
  をつけている。この付利は白川方明(まさあき)総裁時代に
  設けられたものであって、それ以前はなかった。本来の無利
  息であれば、債務超過という概念に意味はないが、仮に一定
  の債務超過になっても大したことはない。むしろ当座預金へ
  の付利を止めるべきだ。    https://bit.ly/3HUKpOs
  ───────────────────────────
統合政府/連結貸借対照表.jpg
統合政府/連結貸借対照表
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2023年02月07日

●「日銀保有国債は政府債務と相殺される」(第5901号)

 知識を整理して先に進みます。政府の借金である国債の残高は
2022年末には1029兆円に上るとみられています。この額
は、国の経済規模(GDP)の2倍を超えており、主要先進国の
中で最も高い水準にあります。
 しかし、この国債残高の半分の約500兆円は日銀が保有して
います。これは、2012年から発足した安倍政権が、日銀と連
携して2020年9月まで推し進めてきた経済政策「アベノミク
ス」の結果であるといえます。
 この日銀の保有する国債約500兆円について、2つの意見が
あります。
─────────────────────────────
    @政府の借金である国債の半分はなくなっている
    A中央銀行による過大な国債保有はリスクがある
─────────────────────────────
 @の根拠は、日銀は政府の子会社であり、政府と中央銀行を合
わせた統合政府バランシートで見れば、政府の国債残高の約半分
は相殺されるという考え方です。
 Aの根拠は、中央銀行が国債の約半分を引き受けても、それは
統合政府バランシート上で負債に計上され、それは、日銀にリス
クをもたらすという考え方です。
 大量に国債を引き受けたことによる中央銀行(日銀)のリスク
について考えてみます。リスクの1つに「日銀が大損をする」リ
スクがあるといいます。
 日銀は金融機関から高値で国債を買っていますが、景気が良く
なると、国債価格は下落します。景気が回復したので、日銀が、
金融緩和策から金融引き締め策へと転ずると、日銀には逆ザヤと
なって巨額の損失が生じます。だから、中央銀行が国債を買うこ
とには強い批判があるのです。
 これに関して、米国の中央銀行であるFRB元議長のベン・バ
ーナンキ氏が、来日したとき、日銀関係者などから、日銀のリス
クについて質問があったのですが、そのとき、バーナンキ元FR
B議長は、次のように答えています。
─────────────────────────────
 日銀資産の評価損は政府資産の評価益だから問題はない。もし
気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を結べはいい。
             ──ベン・バーナンキ元FRB議長
                 ──高橋洋一著/あさ出版
    『新・国債の真実/99%の日本人がわかっていない』
─────────────────────────────
 それでは、日銀はどのようにして、国債を入手したのでしょう
か。国債は民間金融機関が保有しているので、日銀は各金融機関
が日銀に対して設定している日銀当座預金に代金を振り込んで国
債を入手しています。
 この場合、政府債務である国債は、当座預金ということになっ
ていますが、投資家は貨幣そのものと認識します。つまり、国債
は貨幣に置き換わっただけです。したがって、統合政府バランシ
ート上では、国債は「資産」に、貨幣や当座預金は「負債」に記
載されます。つまり、国債を貨幣化したに過ぎず、実際としては
それ以上でもそれ以下でもありません。
 これをめぐって、経済学者の高橋洋一氏と田中秀明明治大学教
授が「日銀の当座預金に債務性はあるかないか」というかなりテ
クニカルな論争を繰り広げています。この論争について、経済評
論家の加谷珪一氏は、2016年の時点で、次のように論評して
います。
─────────────────────────────
 高橋氏が主張するように、政府と日銀のバランスシートを統合
すれば政府がもつ負債900兆円のうち、日銀が保有する400
兆円分の国債は相殺され、政府の負債は実質的に500兆円に減
少する。理屈上は、政府が持つ負債をすべて日銀が買い取れば、
政府の借金をゼロにすることも可能だ。
 では、消えてしまった借金はどこに行ったのだろうか。それは
日銀当座預金ということになる。日銀は400兆円の国債を保有
する代わりに、同じ金額分の通貨(日本銀行券と当座預金)を発
行しているので、この会計上の操作は、政府債務を貨幣化したこ
とにほかならない。簡単に言ってしまえば輪転機を回して借金分
だけお札を印刷したというわけだ。
 ここで両氏は、当座預金の債務性について論争を繰り広げてい
る。田中氏は、当座預金を帳消しにはできず、しかもこれを維持
するためには、相応の金利負担が必要であり、実質的に国債と変
わらないと主張。高橋氏は、原則として当座預金は無利息で償還
期限はないので、実質的な債務性はないと主張し、両氏の主張は
対立している。というよりも、両氏の主張はあまり噛み合ってい
ない。               https://bit.ly/3joJXPf
─────────────────────────────
 「日銀の当座預金に債務性はあるかないか」という議論はテク
ニカルで難しいですが、高橋洋一氏のいう通り、日銀当座預金は
一般的な意味での「債務」という解釈にはなりにくいと考えられ
ます。したがって、日銀が国債を買うということは、高橋氏のい
う通り、有償還・有利子の国債を無償還・無利子のマネタリーベ
ースに置き換えることを意味しているのです。
─────────────────────────────
 統合政府のバランスシートで考えるというのは、日銀が購入し
た有償還・有利子の国債が、無償還・無利子のマネタリーベース
と置き換えられることを意味する。このため統合政府のバランス
シートの負債は、負債側は国債等950兆円、日銀券100兆円
日銀当座預金300兆円となるが、マネタリーベースの400兆
円は実質的に負債から除いて考えてもいい。  ──高橋洋一氏
                  https://bit.ly/3jsXtkP
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/017]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀当座預金を民間銀行の「預金」と勘違いする人々へ
  高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   この「ダイヤモンド・オンライン」(DOL)で興味深い
  論考があった。11月1日の田中秀明氏による「『日本は借
  金が巨額でも資産があるから大丈夫』という虚構」である。
  田中氏は財務官僚出身で、民主党政権時代にブレーンになっ
  ていた人だ。
   この記事は、2015年2月5日の筆者の「国の債務超過
  490兆円を意外と簡単に減らす方法」への反論だろう。こ
  れは、日銀のマネタリーベースには実質的な債務性がないこ
  とを使うと、統合政府ベースで実質的に国債はなくなること
  を書いたものだ。
   田中氏の論考は長く誤りが少なくないが、ここでは次の一
  点に絞っておこう。
   11月1日付けのDOLの論考で、《「統合政府ベースで
  日銀が保有する国債を相殺することができても、日銀に預け
  た民間の預金は負債として残り、統合ベースで見た場合に負
  債が減ることはない。もし、政府が強制的に負債の部から預
  金を落とし政府の負債を減らすというのであれば、それは国
  民から貯蓄を奪うことであり、言い換えれば、預金に対して
  100%の税率で課税することになる。先ほど連結のBSで
  説明した、日本郵政が保有している国債と同じことだ。」》
  と説明している。この記述は誤りである。
                  https://bit.ly/3XVhtvj
  ───────────────────────────
加谷珪一氏.jpg
加谷珪一氏
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2023年02月08日

●「失われた30年/自公政権に責任あり」(第5902号)

 今年に入ってからのEJは、日本においてプラスの面を探して
取り上げています。なぜかというと、元旦夜の「朝生」で、今年
の日本が良くなると答えた人が14%で、悪くなると答えた人が
85%もいたからです。きわめて悲観的な意見です。
 そのため、日本にも世界トップのものがあるとして、対外純資
産31年連続の世界第一位をご紹介したのです。2021年度の
日本の対外純資産は411兆1841億円であり、2位のドイツ
に約100兆円の差をつけています。しかし、この事実を知って
いる日本人は非常に少ないと思います。なぜなら、国もメディア
もこのことを積極的にPRしないからです。
 それから日本人なら子供まで知っている「借金大国日本」の本
当の実態の分析です。日本の国債残高は、2022年度末には約
1029兆円。これは財政を生み出す元となる国の財政規模(G
DP)の2倍を超えています。これがきわめて深刻な事態である
ことは確かです。
 しかし、これにも対外純資産世界一に加えて、国の保有する金
融資産などを考慮する純債務で見たり、日銀がその約半分の国債
を保有している現状についても検討すると、必ずしも危機とはい
えないのです。むしろ問題なのは、失われた30年といわれる経
済の低成長による労働賃金が伸びていないことの方が問題です。
その30年のほとんどの期間において政権を担ってきた自公政権
の経済政策の失敗こそ責任が問われるべきです。
 「防衛増税」に対する国民の怒りがくすぶっています。国民の
多くは、防衛費増額には賛成であるものの、増税はないだろうと
思っています。消費税の税率を5%から10%に倍増させたばか
りであり、現在起きているインフレによる諸物価高騰に政府とし
て何の対策も講じていない岸田政権に対する怒りからでしょう。
 しかし、防衛増税は既に決まっています。決まっていないのは
実施時期だけです。野党は、通常国会で追及するといっています
が、どのように追及しても、政府は絶対に防衛増税を変更しない
でしょう。岸田政権はこの問題に関しては、「聞く耳をもたない
政権」であるからです。
 野党は「増税するなら解散して信を問え!」といっていますが
岸田政権は広島サミット後を解散の時期を慎重に探っているもの
と思われます。仮に選挙をしても、自民党が勝利すると思ってい
るからです。
 しかし、岸田政権について、自民党元事務局長の久米晃氏は、
雑誌『選択』の取材に次のように答えています。自民党は決して
安泰ではないということです。
─────────────────────────────
──自民党はこの10年間、国政選挙で勝ち続けています。
久米:勝ったように見えているだけだ。第2次安倍晋三政権が誕
 生した2012年の総選挙以降、自民党が「国政選挙8連勝」
 などといっているが、間違っている。投票率はずっと下がり続
 けて、有権者の半分程度しか選挙に参加しない。前回の参議院
 議員選挙で自民党の比例票は1800万程度しかとれておらず
 野党を合わせた数字より低いのが実情。それでも野党側に勢い
 がないから、勝っているように見えるだけだ。投票というのは
 有権者による未来への先行投資。選挙に行かないのは、政治に
 対する期待感がないからだ。自民党は決して安泰ではない。
  ──『選択』/2023年2月号「巻頭インタビュー」より
─────────────────────────────
 問題なのは、防衛増税に反対しているのは野党だけではなく、
自民党内部の旧安倍派を中心とする勢力であることです。「国債
60年償還ルール」の変更を主張しているのもこの勢力です。
 この「国債60年償還ルール」の変更ないし、廃止に関して、
ネットではさまざまな批判が出ています。それはこのルールを変
更したり、廃止すると、日本国債の信認が下がるというレポート
です。私は、これらのレポートのほとんどを読みましたが、レポ
ートの著者を調べると、そのほとんどが財務省出身の学者です。
増税の時期になると、いつもこれらの財務省の御用学者たちが蠢
動を始めるのです。
 岸田政権が2023年と2024年にかけて計画している増税
スケジュールは次の通りです。
─────────────────────────────
◎2023年
    4月:国民健康保険料の上限を2万円引き上げ
      :自賠責保険料の引き上げ
   10月:インボイス制度導入(消費税引き上げ議論開始)
◎2024年
    4月:たばこ税増税
      :法人税増税
      :所得税増税
      :復興特別所得税の期間延長
    年内:後期高齢者医療保険の保険料上限を年73万円に
       引き上げ
      :高齢者の介護保険の自己負担を1割から2割へ
      :国民年金加入年齢を60歳から65歳に引き上げ
       決定
                  https://bit.ly/3HVQf28
─────────────────────────────
 もの凄い増税ラッシュです。上記以外に、「異次元の少子化対
策」の財源として、消費税税率13%も、きっと行われるとみて
います。これでは、日本経済はさらに失速し、失われた40年、
50年になってしまいます。
 岸田首相は政権奪取の記者会見で、ある記者から、「財務省の
ポチといわれていますが」といわれ、苦笑いをしていましたが、
首相周辺のスタッフのほとんどが、財務省の出身者で固められて
おり、首相のその提案の上に身を委ねているからです。
           ──[メタバースと日本経済/018]

≪画像および関連情報≫
 ●「失われた30年」でなく「失った30年」、デジタル革命
  を逸した日本の危機
  ───────────────────────────
   「失った30年」。経済同友会が2022年10月11日
  に発表した提言に次のような一節がある。「バブル崩壊後の
  『失われた30年』は、自責の念を込めて、敢えて『失った
  30年』と表現したい。特に、イノベーションによる社会変
  革は民間が主導すべきであり、企業経営者には日本再興を本
  気で成し遂げる気概に欠けていた」。
   その反省はよしとしよう。ただ、責任は経営者だけにある
  のではない。同友会の提言でも「失った30年は政治・行政
  ・企業による不作為」と記している。そして何よりも問題な
  のは、直近の10年間の不作為だ。少し前までよく使われた
  フレーズは「失われた20年」であった。本来ならこの10
  年は失われた20年を取り戻すべく、DX(デジタル変革)
  などの改革に全力で取り組まなければいけなかった。
   10年前から今日に至るまで、この問題意識は広く共有さ
  れていたはずだ。2012年12月に成立した第2次安倍晋
  三政権の経済政策、いわゆるアベノミクスでは、金融緩和や
  財政出動と共に成長戦略が「3本の矢」とされた。中でも重
  要なのが成長戦略で、規制緩和などにより民間の投資を引き
  出し、イノベーションによる社会変革や経済の持続的成長を
  促そうというものだった。    https://bit.ly/3XkEJC1
  ───────────────────────────
防衛費増額/増税の記者会見.jpg
防衛費増額/増税の記者会見
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2023年02月09日

●「日本は『眠れる森の美女』である」(第5903号)

 2022年12月の話です。慶応義塾大学名誉教授の竹中平蔵
氏の話です。彼は次のようなことを話していたそうです。
─────────────────────────────
 先日参加したロンドンの会合で、参加者から「日本はスリーピ
ングビューティー(眠れる森の美女)」と言われた。企業にはテ
クノロジーも、人材もお金もある。円安をきっかけに、改めて日
本に進出する機運が高まっている。      ──竹中平蔵氏
─────────────────────────────
 「眠れる森の美女」は、ヨーロッパに伝わる古い童話で、魔法
使いによる100年の呪いで眠り続けているお姫様のことです。
ある王子様がその呪いを解いて、お姫様が目を覚ますという話で
す。チャイコフスキー作曲のバレエ音楽にもなっています。
 「眠れる獅子が目を覚ます」という言葉もありますが、現在の
日本は「獅子」というよりも「美女」の表現の方がふさわしいと
いう判断になったものと思われます。
 なぜ、このように、いわれたかというと、2022年10月に
発表されたIMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」が原因
と思われます。これについては、添付ファイルの3つのグラフの
うち、左上の棒グラフをご覧ください。数字を書き出しておくこ
とにします。
─────────────────────────────
    ◎IMFの主要先進国の予想経済成長
          日本 ・・  1・6%
         カナダ ・・  1・5%
          米国 ・・  1・0%
        フランス ・・  0・7%
          英国 ・・  0・3%
        イタリア ・・ ▲0・2%
         ドイツ ・・ ▲0・3%
─────────────────────────────
 これによると、2023年の日本は、G7のなかで最も経済成
長率が高く、適度なインフレがあって、金融緩和が続くという、
株式のようなリスク資産にとっては、極めて居心地の良い外部環
境が続くという判断がされていることがわかります。
 失われた30年といわれ、成長しない経済が特色であった日本
が、予測とはいえ、2023年度は経済成長率がトップになると
は、考えられないことです。昨年後半に急速な円安が進んだこと
によって、多くの人が黒田日銀総裁のことをボロクソに批判しま
したが、黒田総裁の方針は間違っていなかったといえます。
 これについては、添付ファイルの左下の折れ線グラフを参照し
てください。三井住友DSアセットマネジメントの解説を以下に
示します。
─────────────────────────────
 エネルギーや食品の価格上昇を背景に、世界的な高インフレが
続いています。特に欧米諸国は一次産品の値上がりがサービス価
格や賃金にも波及し、ユーロ圏では10%超、米国でも7%台後
半のインフレが続いています。一方の日本では、久しぶりの物価
高が大いに話題となっていますが、消費者物価指数(CPI)
の前年同月比上昇率は3%台にとどまり、変動の大きい食品(酒
類を除く)やエネルギーを除いたCPIは、1・5%の上昇にと
どまっています(2022年10月現在)。
 エネルギー価格の高騰や円安の一服から、日本のインフレは今
後もマイルドな水準に留まる可能性が高そうです。このため日銀
は、当面現在の金融緩和を続けるものと思われ、欧米のように大
幅な利上げによる景気後退リスクをあまり意識しなくてもよさそ
うです。       ──三井住友DSアセットマネジメント
─────────────────────────────
 解説にもあるように、欧米諸国は7%から10%の高インフレ
に見舞われ、中央銀行は政策金利の利上げを行うことによって、
インフレを抑え込もうとしています。しかし、それが長期化する
と、景気が失速し、必然的に経済が弱体化します。
 しかし、日本は、もともと30年デフレで、欧米諸国とは真逆
の金融緩和を現在も続けているのです。それでも物価は高騰して
いますが、欧米諸国よりもはるかに低く、約3%程度に抑えられ
ています。いわゆるマイルドなインフレですが、もともと日本は
それを目指していたはずです。
 黒田日銀総裁は、「異次元金融緩和」の目的として、「2%の
物価上昇」を目指していたのです。もっとも日銀の目指している
のはCPIでも「コアコアCPI」の方です。コアコアCPIと
は、天候や市況など、外的要因に左右されやすい食料(酒類を除
く)とエネルギーを除いて算出した指数のことです。これについ
て、竹中平蔵氏は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 市場であまり議論されないのが不思議だが、日銀の黒田東彦総
裁が就任してから、コアコアCPIの上昇率が2%を超えたのは
初めてのこと。これが続くと日銀は政策を変えやすくなる。
                      ──竹中平蔵氏
─────────────────────────────
 「コアコアCPIの上昇率が2%を超える」とは、日銀の目標
であり、このレベルのマイルドなインフレが持続することは、日
本にとって好都合なことです。これについては、添付ファイルの
右上の折れ線グラフをご覧ください。
 これは、主要株価指数の推移を示していますが、日本のTOP
IXと日経平均がダントツです。この状況が持続して、岸田政権
が経済政策を間違えなければ、日本は完全にデフレから脱却し、
経済は成長するはずです。マイルドなインフレなら、企業は賃上
げをし易くなるし、設備投資も活況化するはずです。そうすれば
日経平均株価4万円超えも実現する可能性があります。しかし、
岸田政権はうまく経済をコントロールできるでしょうか。
           ──[メタバースと日本経済/019]

≪画像および関連情報≫
 ●2023年の日本経済見通し
  ───────────────────────────
   日本は欧米と比べてコロナ禍からの回復が遅れていたが、
  2022年には感染症と経済活動の両立が進む中で順調に回
  復した。ただし、実質GDPは、2019年平均の水準まで
  回復しきれていない。
   2023年の実質GDP成長率は、前年比+1%台の緩や
  かな回復が続く見通しである。海外経済の減速により輸出は
  弱含むことが想定されるが、コロナ禍からの回復余地が残っ
  ている個人消費や設備投資の回復が続き、内需主導の緩やか
  な回復が続くとみられる。2022年は欧米で記録的な高イ
  ンフレが続いていた中、日本のインフレ率は相対的に低位で
  はあったものの、4月以降は日銀の物価目標である2%を超
  えて推移してきた。       https://bit.ly/3x0c8a6
  ───────────────────────────
2023年の日本を占う3つのグラフ.jpg
2023年の日本を占う3つのグラフ
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2023年02月10日

●「『令和のトラトラトラ』が勃発」(第5904号)

 昨日のEJでご紹介したように、2023年は日本経済にとっ
て、30年ぶりに巡ってきた経済成長のチャンスのようです。2
月7日の日本経済新聞の報道によると、政府が次期日銀総裁の後
任として、雨宮正佳副総裁に就任を打診したことがわかると、円
相場は3円以上値下がりし、「1ドル=132円」台半ばまで円
安が進み、日経平均株価は、一時300円以上値上がりしていま
す。金融緩和が当分続くとの期待からです。
 環境面から判断すると、日本の経済成長はやっと軌道に乗ろう
としています。マイルドなインフレが続く限り、日本の経済成長
は軌道に乗ると考えられるからです。しかし、大きなマイナス要
因があります。それは、岸田政権による増税路線が、日本経済に
とってこの千載一遇のチャンスをブチ壊しかねないことです。そ
のバックには財務省の存在があります。
 この財務省がどのような省庁であるか、もっと多くの人が知る
必要があります。事実上の「官庁の官庁」であり、莫大な国家予
算を握り、各政権に重要な影響力を持つ主力官庁です。最近では
「増税カルト教団」と呼ぶ人さえいます。
 ところで、『安倍晋三・回顧録』(中央公論新社)という本が
発刊されているのをご存知でしょうか。
 この回顧録は、安倍氏が首相を退任後の2020年10月から
21年10月、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏らが18回、
計36時間行ったインタビューを中心に構成され、2月6日に店
頭発売されています。
 この本で安倍氏は、森友学園への国有地売却をめぐる問題につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 「籠池泰典学園理事長という人物に一度も会ったことがないの
で、潔白だという自信があった」と自身の関与を否定。「財務省
の策略」の可能性に言及し、「財務省は当初から土地取引が深刻
な問題だと分かっていたはずだ。でも、私の元には、土地取引の
交渉記録などは届けられなかった。森友問題は、マスコミの報道
で初めて知ることが多かった」としている。
            ──2023年2月7日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 森友学園事件が安倍首相失脚への策略であったか否かは別とし
て、故安倍晋三氏という政治家は、私の判断ではもっとも厳しく
財務省と対立した人物であったと思っています。このようにいう
と、5%の消費税の税率を自分の任期中に10%に倍増させたで
はないかと反論されますが、この増税は、民主党の野田政権が、
当時下野中の自民党の増税派と組んで法律化したもので、安倍氏
としては、実施するより、他に方法がなかったといえます。その
代わり、安倍首相は、複数の延期と解散総選挙で信を問うていま
す。なお、アベノミクスが成功しなかった原因の一つもこの増税
にあるといえます。
 岸田政権による「1兆円増税」決定を映画のエンドロール風に
書くと、次のようになります。
─────────────────────────────
        主演:岸田文雄内閣総理大臣
        助演:宮沢洋一自民党税調会長
        脇役:木原誠二官房副長官
  製作/脚本/演出:財務省
─────────────────────────────
 岸田首相の周りは、ぎっしりと財務省人材で埋まっています。
税調会長の宮沢洋一氏は首相のいとこですし、政権の内閣官房副
長官の木原誠二氏や総理大臣補佐官の村井英樹氏は財務省出身で
す。さらに、首相の義弟に、財務省理財局長、国税庁長官を務め
た可部哲生氏がいます。加えて、自身の不祥事で総務大臣を辞任
した前総務大臣の寺田稔氏も財務省の出身です。
 まさに財務省一家です。これを財務省が利用しないとは考えら
れないことです。
 それでは「1兆円増税」がどのように決まったかについて、ご
紹介します。
 2022年12月8日(木)のことです。81年前の同日、太
平洋戦争が勃発しています。政府与党政策懇談会という聞き慣れ
ない名前の会議において、岸田首相がいきなり与党側に次のこと
をいい出したのです。トップダウンです。
─────────────────────────────
 安全保障環境が急速に厳しさを増すなか、防衛費は5年以内に
緊急的に強化する必要がある。2027年度以降、財源が毎年4
兆円不足するが、うち約1兆円については国民の税制で協力をお
願いしなければならない。           ──岸田首相
─────────────────────────────
 これを宮沢洋一自民党税調会長は、まるで総理からそういう発
言があることをあらかじめ知っていたかのように、「防衛費の財
源問題が降ってきた。来週から議論する」と引き取っています。
12月15日の与党税制改正大綱の取りまとめまで1週間しかな
いタイミングです。
 これに対して、高市早苗経済安全保障担当相、西村康稔経済担
当相が反対を表明したが、そのまま押し切られています。もとも
と2人が呼ばれたのは政府与党連絡会議であり、そんな案件が飛
び出す会議ではなかったのですが、会議名は財務省の策略によっ
て「政策懇談会」と直前に変更されていたのです。
 翌9日から自民党内は蜂の巣をつつく騒ぎになり、萩生田政調
会長が開いた会議では、発言者の8割が反対論をぶったといわれ
ます。しかし、そのときの会議での反対論は、財務官僚によって
逐一記録され、官邸に上げられています。
 その後、官邸の根回しによって、森元総理が動き、反対の動き
は、鎮静化させられています。官邸ではこの策略を「令和の真珠
湾攻撃」と呼んでいるといわれています。
           ──[メタバースと日本経済/020]

≪画像および関連情報≫
 ●年1兆円の「防衛増税」はあり得ない/その前に講じるべき
  打ち手
  ───────────────────────────
   岸田文雄首相が表明した、いわゆる年間1兆円の「防衛増
  税」をめぐって批判が噴出している。自民党で行われた会合
  では怒号が飛び交う展開になった。岸田首相は、2023年
  年度から2027年度の5年間の防衛費を43兆円規模とす
  る方針で、2019年度から2023年度の総額の約1・5
  倍の金額となり、新たに十数兆円の財源が必要となる。
   財源確保の対象となっているのが「法人税」「たばこ税」
  「所得税」だ。12月11日時点では、法人税7000億〜
  8000億円・たばこ税2000億円強・東日本大震災の復
  興特別所得税2000億円を確保する案が出ている。地政学
  リスクが高まるなか、GDPの2%程度に防衛費を増強する
  ことは既定路線になっている。ただ「そもそも2%で足りる
  のか」「防衛費を何に使うのか」といった議論も必要だ。イ
  ンフラや国際協力など、直接防衛費とは関係ない費目が入る
  のかもしれないという懸念もある。明らかに、「防衛力の中
  身」の説明が足りていない段階での増税はあり得ない。
   現在候補に挙がる3つの税についてはどう考えるべきか。
   「法人税」は企業が賃金を払った後、残った利益に対して
  課税するものであるため、賃上げに影響はないとの意見も見
  かける。しかし、そうとは言い切れない。企業は、法人税が
  課税されるとなれば設備投資や人的資本への投資を萎縮し、
  保守姿勢になるのが普通だ。経営者の決断に、数値だけでな
  く、「不安感・気持ち」の判断も寄与することを考えれば、
  「賃上げ」は明らかにマイナス。 https://bit.ly/3ll184O
  ───────────────────────────
年1兆円強の財源が不足.jpg
年1兆円強の財源が不足
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2023年02月13日

●「黒田金融政策は当分の間継続する」(第5905号)

 今朝のEJの一番のニュースは、何といっても日銀総裁人事で
しょう。当面の日本経済浮上のカギは、黒田総裁後任の新日銀総
裁が握っているといっても過言ではないからです。
 2月11日付、日本経済新聞は、次期日銀総裁と副総裁の人事
について次のように報道しています。
─────────────────────────────
 政府は日銀の黒田東彦総裁(78)の後任に経済学者で元日銀
審議委員の植田和男氏(71)を起用する人事を固めた。黒田氏
の任期は4月8日まで。政府は人事案を2月14日に国会に提示
する。衆参両院の同意を経て内閣が任命する。
 副総裁には氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起用
する方針だ。現在の雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月
19日まで。政府は黒田氏の後任総裁として雨宮副総裁に打診し
たが、同氏は辞退した。
         ──2023年2月11日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 報道を受けて、植田和男氏は、自宅前で朝日新聞の取材に次の
ように、答えています。
─────────────────────────────
記者:黒田総裁による日銀の金融政策について、この10年をど
 う見ているか。
植田:金融政策は景気と物価の現状、それから将来の見通しをも
 とに決めていかなければならない。現状の金融政策は適切だと
 考えている。当面、現状は金融緩和を継続する必要がある。
           ──2023年2月11日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 植田氏が、まだ就任前であるにもかかわらず、「当面、金融緩
和を継続する必要がある」と言明したのは、日本経済新聞が次期
総裁は雨宮副総裁」と報道したとき、市場で円が売られ、株高に
なったからであると思われます。そのため、慎重に市場にメッセ
ージを送ったものと思われます。
 副総裁には、氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起
用する方針とされていますが、とくに内田真一日銀理事の起用は
注目すべきです。なぜなら、この人事なら、植田新総裁になって
も、まさに植田氏のいう通り、当面は黒田時代の金融政策と大き
な変化はないと考えられるからです。
 内田真一氏とはどういう経歴の人物なのでしょうか。
 内田真一氏は、日銀のプロパーで、前日銀総裁の白川方明氏の
時代の2012年に、40歳の若さで新潟支店長から、企画ライ
ンの重要幹部である企画局長に起用されています。そして、黒田
総裁になってからも企画局長を続投しています。
 黒田総裁になって、総裁の指示で、当時理事で、急遽大阪から
呼び戻された雨宮氏らとともに2週間ほどで「異次元緩和」の原
案を作り上げています。つまり、内田真一氏は「異次元緩和」の
原案の作成者でもあるのです。
 しかし、「2年で2%」の日銀の目標がなかなか達成できない
と、2016年にはマイナス金利政策の導入をしたり、その後の
イールドカーブ・コントロールなどにも、内田氏は、企画局長し
てとして関わっています。
 内田真一氏は、2017年には名古屋支店長、18年には国際
担当の理事になって、企画ラインから離れますが、20年5月に
は、企画局などを担当する理事に昇進し、企画ラインの事務方の
トップに就任しています。明らかに、黒田総裁後を睨んだ人事配
置と考えられます。
 日銀の金融政策・市場エディターで、日本経済新聞の「日銀ウ
オッチ」の執筆を務める大塚節雄氏は、2022年4月2日の時
点て、内田真一氏の次期日銀総裁の副総裁就任を次のように予測
しています。
─────────────────────────────
 日銀は企業や家計を苦しめる輸入インフレを「望ましい物価上
昇ではない」とみて緩和継続の構えを崩さない。米国など海外の
金融引き締め路線のあおりで円安と金利上昇圧力が生じ、3月下
旬には日銀が「指し値オペ」と呼ぶ国債購入の手段で長期金利の
上昇を抑え込もうとするほど円安が進み、円相場は一時1ドル=
125円台まで下落した。海外勢には「日銀が物価上昇と円安の
圧力を放置するのは正しい態度ではない」(外国銀行ストラテジ
スト)として早期の政策修正の観測もくすぶる。
 修正は簡単ではない。いったん金利上昇を容認してしまうと際
限のない債券売りの投機を呼び込みかねない。結局は金融緩和に
追い込まれ、むしろ円安圧力が再燃するリスクもある。そもそも
巨額債務を日銀に支えてもらっている政府にとって、利払い負担
の急増につながる金利上昇は許容しにくい。東短リサーチの加藤
出社長は「様々な不確実性がある非常に難しい局面のなか、現在
の緩和の仕組みに精通する内田氏に引き続き実務のかじ取りを担
わせる必要がある、ということかもしれない」とみる。
               https://s.nikkei.com/3loKZey
─────────────────────────────
 岸田内閣が、次期日銀総裁として本命視したのは、雨宮正佳副
総裁だったのですが、雨宮氏は「今後の金融政策には新しい視点
が必要である」として固辞したため、人事は難航をきわめたとい
われます。最終的には、学者ではあるが、実務経験もあり、現在
の金融政策にも精通している植田和男氏に頼ったといわれます。
しかし、黒田体制を支えた政策参謀である内田真一氏を副総裁と
して残せば、引き継ぎはうまく行くと考えたフシがあります。
 もう1人の副総裁候補である氷見野良三氏は、国際金融姿勢を
担うバーゼル銀行監督委員会や金融安定理事会で要職を務めた国
際派として知られています。ちなみに、氷見野良三氏は、日銀プ
ロパーではなく、大蔵省(財務省)の出身であり、組織変更で、
金融庁に移籍したことを記しておきます。
           ──[メタバースと日本経済/021]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀総裁人事、植田氏の起用に驚きも・・・市場は緩和策の
  行方に注目/読売新聞オンライン
  ───────────────────────────
   新たな日本銀行総裁として政府が指名したのは、経済学者
  の植田和男氏(71)だった。新体制は、戦後初となる学者
  出身の総裁をトップに、副総裁として、金融システムの分野
  で世界をリードしてきた行政マンと、マイナス金利政策を立
  案・設計した日銀マンが脇を固める3人の「トロイカ体制」
  となる。
  「政策の判断を論理的に、判断の結果を分かりやすく説明す
  ることが大事だ」。植田氏は10日夜の取材でこう語った。
  黒田東彦総裁の下で10年続いてきた金融緩和を急に転換す
  れば、金融市場の混乱を招きかねないとの認識がある。
   金融政策の転換は、金融市場を通じて、企業や家計にも打
  撃を与えかねない。低金利を続けるために日銀が大量の国債
  を買い入れているため、日銀の国債保有比率は5割を超えて
  いる。仮に日銀が、国債の買い入れを減らせば、金利が急騰
  する可能性がある。金利の上昇で債券価格が下落すると、国
  債を持つ金融機関の業績は悪化する。企業への貸し出しが鈍
  る可能性もある。
   家計にとっては金利の上昇を通じた負担が増えかねない。
  日銀が昨年12月に長期金利の上限を0・25%から0・5
  %に拡大しただけで、長期金利に連動する金利固定型の住宅
  ローンの利率は軒並み上昇した。日銀がマイナス金利政策の
  撤廃などに動けば、住宅ローンの7割を占める変動型金利に
  も影響を及ぼしかねない。    https://bit.ly/3RNTs7b
  ───────────────────────────
内田真一氏.jpg
内田真一氏
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2023年02月14日

●「植田新総裁への内外専門家の評価」(第5906号)

 政府が植田日銀新総裁を決めたことに対しての国内だけでなく
世界の反響について、もう少し探ることにします。このEJは、
12日(日)に書いていますが、11日は土曜日と建国記念日が
重なっているので祝日であり、夕刊は休刊です。おまけに13日
の月曜日は新聞休刊日ですべての新聞が休刊です。肝心な時に新
聞はきちんと報道できないのです。全新聞が休む新聞休刊日は廃
止すべきです。
 実は、経済専門紙の日経が大チョンボを冒しています。日経は
6日の夕刊、7日朝刊において「日銀新総裁雨宮氏に打診」とい
うスクープを放っていますが、これが大間違いだったことです。
しかし、10日になると、「総裁に植田氏」の報道が一斉に流れ
雨宮副総裁説は一掃されています。これは、官邸からのリークで
あると思われます。
 実は読売新聞の解説によると、新日銀総裁の人選は首相、木原
官房副長官らが、水面下で折衝を重ね、1月下旬には、植田和男
氏の起用が固まったとあるので、2月7日の日経の大スクープは
まさに大間違いだったことになります。読売新聞は、どうして何
でも知っているのでしょうか。
 10日夕方に政府が植田氏を日銀新総裁に起用するとの人事を
固めたという報道が流れると、長期金利(10年物国債の金利)
は上限の0・5%まで上昇し、円相場は「1ドル=129円台」
まで円高が進みましたが、植田氏が「当面金融緩和を継続する」
と発言すると、131円台まで円が売られています。
 植田氏にはこのようなエピソードがあります。2000年8月
こと。植田氏は日銀審議委員をしていましたが、当時日本経済は
バブルが崩壊し、デフレで苦しんでいたのです。その8月の金融
政策決定会合で、「ゼロ金利を解除して利上げをする」という案
に植田氏は、審議委員として反対投票を投じています。
 そのとき、反対したのはたったの2人で、ゼロ金利政策の解除
は賛成多数で決まっています。しかし、その後、国内景気は一層
悪化し、利上げの決定は日銀の拙速であったとの批判が数多く出
されています。景気の動向を見極めないで、利上げをするとこう
いうことが起きるのです。今回もそれに似ています。
 植田日銀新総裁について、日本をよく知る海外のストラテジス
トの評価を拾ってみます。ストラテジストとは、経済動向などを
分析し、投資に関するストラテジー(Strategy=戦略)や方針を
立案する専門家のことです。
─────────────────────────────
◎バンダ・リサーチ/ビラジ・バテル氏(ロンドン在勤)
 これは私の臆測に過ぎないが、雨宮氏が就任を辞退したという
ことは、ハト派でイールドカーブコントロール支持者と見なされ
る同氏と岸田政権との間に明らかな緊張があるということではな
いか。結論として、市場は「クロダノミクス・アベノミクス」か
ら離れた新たな日銀の政策枠組みの確率が高まったことを織り込
まなければならないだろう。これは究極的に円にプラスだ。
◎ノルディア銀行/ヤン・フォンヘリッヒ氏(ヘルシンキ在勤)
 植田氏の下では、少なくとも雨宮氏の場合よりは政策修正の可
能性が高いと市場は考えている。しかし見通しは、数カ月前や日
銀が、10年物国債の許容変動幅を拡大した時に比べ、はるかに
不透明である。
◎CIBC/ジェレミー・ストレッチ氏(ロンドン在勤)
 植田氏は次期日銀総裁の有力候補の中には入っていなかったが
1998〜2005年に日銀審議委員を務めた経歴から、明らか
にある程度の信頼性がある。雨宮氏が起用されるとの観測がかね
てからあり、同氏は路線継続のための候補で、アベノミクスを延
長すると見なされていた。従って、雨宮氏以外の誰であっても政
策正常化を進める確率は比較的高いと考えられ、米国債と日本国
債の利回り格差縮小を促し、円高には寛容になるだろう。
 註:CIBC/カナディアン・インペリアル・バンク・オブ・
   コマース           https://bit.ly/3IhyABX
─────────────────────────────
 続いて、植田和男氏について、日本の専門家の評価はどうなっ
ているでしょうか。
─────────────────────────────
◎三菱UFJ銀行の関戸孝洋氏
 どれ程の難局が待ち受けているか、大げさに言っても言い切れ
ない。日銀は過去10年で相当のことをしてきた。政策も非常に
複雑になった。わずかな政策修正でも多くの市場が影響を受ける
だろう。
◎クレディ・アグリコル証券の会田卓司氏
 植田体制でも日銀が2023年中に金融引き締めに転じること
はないとの従来の予想を変えていない。新執行部の下、日銀が現
行の金融政策の点検・検証を行うとしても、金融緩和効果の持続
性を維持するための手段が議論となり、必ずしも金融引き締めに
つながるものにはならない可能性が高い。
◎元日銀審議委員/野村総合研究所の木内登英氏
 植田氏は、黒田氏の政策姿勢とは距離を置いている。慎重かつ
緩やかに金融緩和の枠組みの見直し、金融政策の正常化を進めて
いくだろう。
◎東短リサーチの加藤出氏
 例えば、米景気が悪化して利下げが視野に入ってくるような状
況になれば、政策の変更を見送るなどの柔軟性を持つ人である。
─────────────────────────────
 以上の専門家の意見を総合すれば、植田和男新日銀総裁は、黒
田政策を急激に変更することはなく、当面は金融緩和を継続しな
がら、じっくりと状況を見極めて、少しずつ政策を変更していく
人のように考えられます。リフレ派とか、構造改革派のように、
「何とか派」というくくり方に当てはまらない人であり、現総裁
を引き継ぐ人材としては最適の人といえます。
           ──[メタバースと日本経済/022]

≪画像および関連情報≫
 ●首相が日銀総裁起用意向の植田氏“現状は金融緩和継続
  が重要”
  ───────────────────────────
   こと4月で任期が切れる日銀の黒田総裁の後任に、岸田総
  理大臣は、日銀の元審議委員で経済学者の植田和男氏を起用
  する意向を固めました。
   植田氏は10日夜、都内で記者団に対し後任の日銀総裁へ
  の起用について「現時点では何も申し上げられません」と述
  べました。一方で今の日銀の大規模な金融緩和については、
  「金融政策は景気と物価の現状と見通しにもとづいて運営し
  なければいけない。そうした観点から現在の日本銀行の政策
  は適切であると思います。現状では金融緩和の継続が必要で
  あると考えています」と述べました。
   在任日数が歴代最長となっている日銀の黒田総裁は、今の
  2期目の任期が4月8日に満了を迎えることから岸田総理大
  臣は、後任人事の検討を進めてきました。そして、日銀の元
  審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する意向を固め与党
  幹部らに伝えました。
   岸田総理大臣としては、植田氏が、日銀の政策運営に深く
  関わった経験があることに加え、経済や金融をめぐる幅広い
  研究実績を重視したものと見られます。日銀総裁の交代は、
  10年ぶりで、新たな総裁は、ひずみも指摘されている「異
  次元の金融緩和」の「出口戦略」をどう描くかといった難し
  い課題に取り組むことになります。
                  https://bit.ly/3jOxEvJ
  ───────────────────────────
植田和男氏.jpg
植田和男氏
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2023年02月15日

●「最も期待できない閣僚とはだれか」(第5907号)

 繰り返しになりますが、現在、日本経済は30年ぶりに良いポ
ジションにつけています。しかし、電気代を筆頭に諸物価が高騰
し、国民の生活は苦しくなっています。高インフレに襲われてい
る米国はFRBによる利上げが続いていて、日米の金利差の拡大
によって円安が定着しています。「インフレ(物価高)と安い日
本」──多くの日本国民はこれをマイナスとしてとらえていて、
政府にさらなる支援を求めています。
 しかし、2023年は、IMFの予測では、G7では日本の経
済成長率はトップと予想されており、政府としての舵取りを間違
えなければ、日本経済はかなり成長する可能性があります。
 黒田日銀総裁の目指す2%の物価上昇は、まだ達成されていま
せんが、日本経済は長い間なかった3%程度のインフレになって
おり、状況は変化しつつあります。
 いわば千載一遇のチャンスが巡りつつあるといえますが、岸田
内閣は「防衛増税」をはじめとする増税を持ち出し、そのせっか
くのチャンスをブチ壊そうとしています。
 そこで気になるのが、日銀新総裁の人事です。しかし、13日
と14日の2日間、EJで検討した結果、植田和男新総裁は、当
面は黒田路線を継続するということなので、適切な人選であった
と評価できると思います。
 問題は、岸田内閣自身です。岸田首相は聞く力を標榜していま
すが、防衛増税などは独断で決めています。そのため、相変わら
ず支持率が低迷していますが、本人はなぜ支持率が低いか、きっ
とわかっていないと思います。
 ところで、女性誌『女性自身』が「岸田政権で最も期待できな
い閣僚」のテーマでアンケートを実施し、約501人の男女から
回答を得ています。ベスト5は次の通りです。
─────────────────────────────
     ◎岸田政権で最も期待できない閣僚
      第1位:岸田文雄 ・・・ 244票
      第2位:高市早苗 ・・・  42票
      第3位:河野太郎 ・・・  39票
      第4位:林 芳正 ・・・  31票
      第5位:浜田靖一 ・・・  15票
─────────────────────────────
 驚くなかれ、第1位は岸田総理大臣で、その得票は全投票数の
約50%を占めるダントツの244票を集めています。なぜ、そ
うなるのか、実際の国民の声は次のようになっています。
─────────────────────────────
・「景気が増税できるほどに回復していないのに、増税しようと
 しているから」(10代男性・学生)
・「国民の生活や将来や今の状況をわかってない」(50代女性
 ・専業主婦)
・「国民に寄り添う力も聞く力も決断する力も何もない。増税な
 どを決断するのはやたらと早い」(60代女性・専業主婦)
・「何が『聞く力』だ。国民の声なんて、何一つも聞いてない。
 ニュースで、顔を観るのも嫌」(40代女性・会社員)
・また2月9日にはフィリピンへ2年で6000億円の官民支援
 を約束したばかり。国民の生活負担が増えるなかでの”海外支
 援”に対する不満の声も少なくない。
・「外国にばかりいい顔をして国民には増税を迫るから」(30
 代女性・専業主婦)
・「国民のためになるようなことは検討に検討を重ね、防衛増税
 はさっさと決める。外国人を大切にして国民を守る気がない」
 (30代女性・医療従事者)    https://bit.ly/3YrEeXR
─────────────────────────────
 確かに、岸田首相の物事の決め方を見ると、「聞く耳を持つ」
といいながら、国民にとっては、十分検討し、慎重に決めて欲し
いことは自ら速断し、すぐに実行して欲しいことは、検討に検討
を重ね、国民にとって不満足な形で実施するか、なかなか実施し
ようとしないところがあります。だから、「検討使(遣唐使)」
といわれるのです。
 振り返ってみると、安倍元首相の国葬に始まり、防衛費増額に
伴う防衛増税、原発再稼働・新設などのエネルギー政策大転換は
「令和の真珠湾攻撃/トラトラトラ」と揶揄されるほど速断して
いますが、統一教会問題、少子化対策、LGBT問題などは相当
な時間をかけています。
 ところで、2023年以降の日本が明るいという根拠の一つと
して、2022年度の設備投資動向計画(修正計画)において、
全産業の投資額が前年度実績25・1%増の30兆8048億円
となり、2007年度以来、15年ぶりに過去最高を更新してい
る事実があります。つまり、設備投資が急増しているわけです。
─────────────────────────────
◎設備投資修正計画(▲は減)
        社数      A     B     C
 全 産 業 950 308048  0・4% 25・1%
 ・ 製造業 525 186909  1・1% 28・2%
 ・非製造業 425 121139 ▲0・7% 20・6%
 海外投資額 578  35202  1・4% 41・3%
           註:A/2022年度修正計画(億円)
                 B/  当初計画比増減率
                 C 21年度実績比増減率
─────────────────────────────
 けん引しているのは製造業で、1・1%増と2年連続プラスに
なっています。その投資額は18兆6909億円と前年度実績比
28・2%増で、1988年以来34年ぶりの高い伸び率である
といえます。しかし、非製造業は伸び悩んでいます。その修正率
は0・7%減と、3年連続のマイナスです。コロナの影響で設備
納入が遅れ、工期遅延が生じているからです。
           ──[メタバースと日本経済/023]

≪画像および関連情報≫
 ●「検討おじさん」岸田氏の経済政策が空中分解の訳
  ───────────────────────────
   やろう、これをやろうと検討しながら、なかなか実行に移
  さない。このことは、「新しい資本主義」ほど当てはまるも
  のはないだろう。
   具体的には、1)日本の企業と国民間にある所得配分を是
  正することによって消費者の購買力を高める、2)日本が高
  度成長期のように多くの起業家を生み出すことで生産性上昇
  を加速させる、というどちらの計画についても、数カ月にわ
  たる検討の末、政府は中途半端な姿勢を示している。
   関係者によれば、岸田首相らはこれらの目標に対して真摯
  に取り組んでいるという。だが、同首相はどんな問題でも抵
  抗勢力に出会うと、たいてい引き下がってしまう。本稿では
  前者の再配分について、現在どのような状況にあるのか検証
  する。
   20年以上にわたって、日本政府は日本の所得配分の偏り
  に大きな役割を果たしてきた。法人に対する税金を1994
  年の最高税率52%から現在の30・6%まで引き下げる一
  方で、消費税を通じて国民には増税してきた。これが、消費
  者の需要、つまりGDPの成長が鈍い主な理由のひとつであ
  る。データを見てみよう。1995年から2022年まで、
  非金融企業の税引き前利益はGDPの6%から17%近くま
  で急増している。それは、賃金の緊縮と金利の引き下げが重
  なったためである。       https://bit.ly/3xiXgUy
  ───────────────────────────
迷走を続ける岸田内閣.jpg
迷走を続ける岸田内閣
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2023年02月16日

●「メーカーの国内回帰の動きが顕著」(第5908号)

 2022年2月24日──ロシアがウクライナに対する軍事侵
攻に踏み切った日です。それから約1年が経過しようとしていま
す。ロシアが特別軍事作戦と呼称する”戦争”は、まだ終結する
どころか、ますます激しくなっています。
 この1年で日本には大きな変化が起きつつあります。これにつ
いては、添付ファイルを参照してください。このグラフは次の2
つのことを示しています。
─────────────────────────────
    @2022年1月〜12月のドル円相場の推移
    A2022年度の製造業の設備投資額の伸び率
─────────────────────────────
 @は「2022年1月〜12月のドル円相場の推移」です。
 こういう危機になると、これまでであれば、円は買われる傾向
にあったのですが、今回の危機では、ドル高が一気に進み、3月
頃から円安の傾向が顕著になり、一時は「1ドル=150円」を
付けるなど、約32年ぶりの円安水準になっています。
 Aは「2022年度の製造業の設備投資額の伸び率」です。
 正確にいうと、2022年度の製造業の設備投資額の前年比伸
び率を示したものです。以下に数字を書き出してみます。
─────────────────────────────
      2022年 3月 ・・  9・0%
      2022年 6月 ・・ 20・5%
      2022年 9月 ・・ 21・2%
      2022年12月 ・・ 20・3%
─────────────────────────────
 現在、日本企業の設備投資意欲が増加しています。22年度の
製造業による設備投資の計画額は、2022年6月以降、20%
増加しています。その中心にあるのは、海外ではなく、国内への
投資です。一体何が起きたのでしょうか。
 1つは円安傾向です。2021年の始めは、1ドル=100円
強だったのですが、ウクライナ危機が起きると、1ドル=120
円を超え、秋までに1ドル=150円まで駆け上がるのです。
 思えば、日本企業の海外生産は、90年代以降の急激な円高を
背景に急進展しています。日本の有力メーカーは、円高でも利益
が出せる生産体制を求めて、中国をはじめ、東南アジア、そして
欧米へと海外生産を拡大させてきたのです。
 しかし、今その海外生産の潮流に変化が生じています。円安に
なると、日本国内での生産に優位が生まれ、海外からの輸入は割
高となり、デメリットを発生させる恐れがあります。問題は、今
回の円安が一時的なものかどうかの見極めです。なぜなら、円安
傾向になったからといって、国内生産に回帰して、また円高にな
るリスクもあるからです。
 こう1つは国際情勢の変化があります。米中対立の激化による
世界経済の分断の動きです。米国による対中国制裁関税の影響は
脱中国を加速させています。さらにそれにウクライナ危機が加わ
り、経済安全保障の面でも過度の海外依存は、有事のさいに国民
生活を脅かすリスクになり、国内回帰の必要性が高まりつつある
のが現状といえます。
 このような情勢変化を受けて、すでに多くの日本の有力メーカ
ーが海外生産を減らし、国内回帰に向けて、実際に行動を起こし
ています。その具体的な例を以下に示します。
─────────────────────────────
◎半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、5月に電気自動車
 (EV)向けに需要が拡大するパワー半導体の生産能力増強を
 発表。14年にいったん閉鎖した甲府工場を復活させることを
 明らかにした。
◎SUBARUは、EV専用として約60年ぶりに国内新工場の
 建設を決め、既存工場でのEV生産を含め約2500億円を投
 資する方針である。
◎SMCは岩手県遠野工場(遠野市)のエリアを整備して、「遠
 野サプライヤーパーク」を建設。サプライヤーを誘致し、生産
 能力を拡大する計画である。
◎TDKは、秋田県にかほ市に電子部品の新たな生産拠点となる
 「稲倉工場西サイト」を建設中で、秋田地区の電子部品の生産
 拠点強化を進めている。
◎セイコーエプソンは、水平多関節(スカラ)ロボットの生産能
 力を25年度までに、国内で20年度比で5倍に高める方針で
 あることも伝わっている。米国輸出時の対中制裁関税の影響を
 避けるため、国内での生産能力を増強する意向があるとみられ
 ている。             https://bit.ly/3jWlMrt
─────────────────────────────
 今回の動きのきっかけになったと思われるのは、先端半導体の
量産で世界一の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県での新工
場建設です。日本政府は数千億円規模の支援をするというかたち
での国策誘致であり、これが、日本への設備投資回帰の呼び水に
なったといえます。
 岸田首相は、2022年10月の所信表明演説で、TSMCの
熊本工場について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 大きな経済効果・雇用創出が見込まれ、経済安全保障の要とな
る半導体には、今後とくに力を入れる。この分野に官民の投資を
集める。                   ──岸田首相
─────────────────────────────
 TSMC熊本工場は、敷地面積約21ヘクタール(東京ドーム
約4・5個分)もあり、2024年末までに稼働予定とされてい
ます。TSMC子会社には、ソニーグループやデンソーも出資し
ており、その投資額は総額86億ドル(約1兆1000億円)で
あり、同工場の雇用予定者は1700人を見込んでいます。まさ
に日本は大きく変化しようとしています。
           ──[メタバースと日本経済/024]

≪画像および関連情報≫
 ●製造業、国内回帰相次ぐ 円安で輸出強化の動きも
  ───────────────────────────
   製造業の間で生産の「国内回帰」が相次いでいる。新型コ
  ロナウイルスや米中貿易摩擦などで混乱したサプライチェー
  ン(供給網)見直しの一環だが、急速な円安を踏まえ、輸出
  競争力の強化をにらんだ動きも出てきた。海外移転を進めて
  きた製造業にとって、歴史的な円安は大きな転機となる可能
  性もある。
   生活用品メーカーのアイリスオーヤマ(仙台市)は9月以
  降、衣装ケースなど約50種類のプラスチック製品の生産を
  中国から国内の複数工場に移し始めた。原油高で日本への輸
  送費用が膨らんでおり、「国内生産への切り替えでコストを
  平均2割削減できる」(同社)という。
   アパレル大手のワールドは、岡山県の工場などで生産能力
  を増強し、百貨店向け製品の国内生産比率を4割から9割に
  高める。コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)で、海外か
  らの輸入が滞ったためだ。JVCケンウッドは、カーナビの
  製造をインドネシアや中国から日本に移し、長野県伊那市に
  ある工場の生産規模を5倍に増やす。
   これらは国内販売分を国内で生産する取り組みだが、日立
  製作所の子会社は冷蔵庫などの白物家電に関し、国内生産に
  占める輸出の割合を来年3月までに従来の2倍の10%に引
  き上げる方針だ。円安は海外での価格競争力強化につながり
  企業収益へのメリットも大きい。政府も月内に策定する経済
  対策に、円安を生かして事業展開する企業への支援策を盛り
  込む考えだ。          https://bit.ly/3JZ8SDP
  ───────────────────────────
 ●グラフの出典/日経ビジネス/02.13
円安の進行と企業の設備投資意欲.jpg
円安の進行と企業の設備投資意欲
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2023年02月17日

●「23年の日本の経済見通しは順調」(第5909号)

 2月14日のことです。2022年10〜12月期のGDPの
速報値が、内閣府から発表されました。14日の日本経済新聞夕
刊は、これについて次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎日本のGDP年率0・6%増
         /10〜12/2四半期ぶりプラス
 内閣府が14日発表した2022年10〜12月期の国内総生
産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整
値で前期比0・2%増、年率換算で0・6%増だった。プラス成
長は2四半期ぶり。22年の実質GDPは前年比1・1%増で、
2年連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍から経済の正常
化が緩やかに進んでいる。    ──2022年2月14日付
                   日本経済新聞夕刊より
─────────────────────────────
 これによって、2022年の成長率は、個人消費や設備投資な
どが全体を押し上げた結果、2022年における実質経済成長率
は、1・1%になっています。海外需要は0・6ポイント押し下
げになったものの、国内需要が1・7ポイントのプラスになって
います。
 GDPを項目別にみると、個人消費は2・1%増加し、コロナ
禍からの回復によって、サービスなどの消費が伸びています。設
備投資は1・8%増と、2021年の0・8%増からの伸びが加
速しています。
 しかし、2022年は、1〜3月期と7〜9月期がマイナス成
長になるなど、コロナ禍からの回復の足取りは鈍く、2022年
暦年のGDPは546兆円と、コロナ禍前の水準である550兆
円を下回っている状態です。後藤茂之経済財政・再生相は、次の
ようにコメントを出しています。
─────────────────────────────
 ウィズコロナの下で景気が緩やかに持ち直している。目下の物
価高に対する最大の処方箋は、物価上昇に負けない継続的な賃上
げの実現である。       ──後藤茂之経済財政・再生相
─────────────────────────────
 ちなみに、名目GDPは1・3%で、実質GDP1・1%を上
回っています。これは、物価が上昇し、時価のGDP、すなわち
名目GDPが膨らんだ結果です。これを調整するためのGDPデ
フレーターは、前年比プラス0・2%であり、これは2021年
のマイナス0・2%から、上昇に転じています。
 なお、GDPデフレータは、名目GDPの物価水準の変化分を
調整するときに使われます。物価が上昇している場合には、「名
目GDP>実質GDP」となりますが、物価が下落している場合
には、物価の下落分をGDPデフレーターにより膨らませるため
反対に「名目GDP<実質GDP」となります。
 2月9日のEJ第5903号でご紹介した2023年のIMF
の「世界経済見通し」について、2月14日の日本経済新聞夕刊
では、次のようにコメントしています。このなかで日本の経済見
通しについては、1・8%と上方修正し、インフレで苦しむ欧米
と違って、日本は、G7トップの成長率を確保できるものと伝え
ています。
─────────────────────────────
 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、23年に
日本の実質成長率は1・8%に加速する。この数字だけとれば、
インフレ退治の利上げの影響もあって、成長が鈍化すると思われ
る米国(1・4%)やユーロ圏(0・7%)を上回る予測だ。実
態として経済の正常化は米欧が先行しており、日本はコロナ前と
比べたGDPの回復ではなお後れを取る。
     ──2022年2月14日付、日本経済新聞夕刊より
─────────────────────────────
 それでは、2023年1〜3月期はどうなるかについて、日本
経済新聞は、民間エコノミスト10人に対して、今後の経済見通
しを聞いたところ、次のように、2022年10〜12月期に続
いて、2期連続のプラス成長と予測しています。
─────────────────────────────
    ◎2023年1〜3月期経済見通し
     実質成長率の予測平均=前年比年率1・6%
─────────────────────────────
 10人の予測によると、1〜3月期の実質成長率は1%台半ば
に回復し、2023年を通して1%台を維持すると予測していま
す。個人消費が前年比0・4%増加し、設備投資も0・6%増加
して支えるからです。
 10人の民間エコノミストの予測で一番意見が分かれたのが、
「外需」です。外需とは、輸出から輸入を差し引いたものです。
多くのエコノミストは、世界経済は利上げによる景気減速懸念が
高まると判断し、輸出は減少するとみています。輸出の減少は、
日本経済を下押しします。
 しかし、前向きの見方もあります。伊藤忠総研の前田淳氏は、
外需は0・3ポイントプラス寄与するとしています。それは、イ
ンバウンドが大きく回復するとみているからです。
 インバウンド(Inbound) とは、外国人が訪れてくる旅行のこ
とで、日本へのインバウンドを訪日外国人旅行または訪日旅行と
いいます。これに対し、自国から外国へ出かける旅行をアウトバ
ウンド(Outbound)または海外旅行といいます。
 このインバウンドは、GDP統計では「輸出」に含まれます。
経済学では、輸出が増加すると、国民の収入が増えて国内の消費
も増加するという理論があります。さらに、消費が増えると、ま
た誰かの収入が増え、さらに消費が増えるという好循環が発生す
るため、インバウンド需要による経済効果は、単純な輸出額の増
加よりも大きなものとなるという考え方です。いずれにせよ、日
本経済は、多くの人が考えているより、良い方向に向かっている
といえます。     ──[メタバースと日本経済/025]

≪画像および関連情報≫
 ●緩慢な経済成長/インフレ、ピークに達する/国際通貨基金
  ───────────────────────────
   世界経済成長率は、2022年の3・4%(推定値)から
  2023年に2・9%へ鈍化した後、2024年には3・1
  %へと加速する見込みだ。2023年の予測は、2022年
  10月の世界経済見通し時点から0・2%ポイント上方修正
  されたものの、歴史的(2000―2019年)な平均であ
  る3・8%を下回っている。物価上昇に対処するための中央
  銀行による利上げと、ロシアのウクライナでの戦争が引き続
  き、経済活動の重しとなっている。中国では2022年に新
  型コロナウイルスの急速な感染拡大が成長の妨げとなったが
  最近国境を再び開放したことで当初の予想よりも速い回復の
  道筋がついた。
   世界のインフレ率は、2022年の8・8%から2023
  年に6・6%、2024年に4・3%と鈍化していく見込み
  だが、両年とも依然としてパンデミック前(2017―20
  19年)の水準である約3・5%は上回っている。
   リスクのバランスは依然下振れ方向に傾いているが、20
  22年10月のWEO以降、下振れリスクは和らいだ。上振
  れリスクとしては、各国で見られる繰延需要によって景気が
  押し上げられることや、インフレが予想よりも速く落ち着く
  ことが挙げられる。      https://bit.ly/3xqWepG
  ───────────────────────────
日本経済/2019との比較.jpg
日本経済/2019との比較
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2023年02月20日

●「H3ロケットが打ち上げ『中止』」(第5910号)

 2月17日、日本にとって心配な出来事が起きています。日本
の「H3ロケット」が打ち上げ中止になったことです。これにつ
いて、18日の日本経済新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
◎H3打ち上げ「中止」/JAXA補助ロケット着火せず
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、17日、大型ロケット
「H3」初号機の打ち上げを発射直前に中止した。本体1段目で
異常を検知し、補助ロケットが着火しなかったという。詳しい原
因は調査中だが、電子機器の不具合の可能性などがあるという。
2022年度内の再挑戦を目指す。滞れば国の宇宙戦略の見直し
も求められる。  ──2023年2月18日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 「H3」ロケットの打ち上げ予定時刻は、17日、午前10時
37分55秒に設定されていたが、カウントダウンが始まり、打
ち上げの6・3秒前に主エンジン「LE9」に着火し、0・4秒
前に主エンジンを補助する固体ロケットブースター2本が着火す
る予定が、「LE9」は着火したものの、固体ロケットブースタ
ーは、何らかの理由で着火しなかったといいます。
 したがって、JAXAは、カウントダウン中であるので、これ
は、「打ち上げ失敗」ではなく、「打ち上げ中止」であるといっ
てます。しかし、予定の日と時刻に打ち上げられなかったという
ことは「打ち上げ失敗」であるといえます。
 今回のH3ロケットの目玉は主力エンジンである「LE9」で
す。なぜなら、このエンジンは低コストを実現できるからです。
ところが、その燃焼実験ではJAXAは何度も失敗しています。
燃焼室の内壁に亀裂が入ったり、エンジンに燃料を送るタービン
にひびが入ったりして、これまで何回も打ち上げが延期されてき
ています。
 しかし、JAXAの岡田匡史プロジェクト・マネージャーは、
「LE9」は正常に立ち上がったといっています。このエンジン
を支える固体ロケットブースターに何らかの原因で、着火信号が
送信されなかったといいます。
 JAXAは、「失敗でなく中止である」といいますが、こんな
ことを繰り返していると日本のロケットの信用性が失われるとし
て、もし「中止」というのであれば、3月中にはぜひ打ち上げる
べきであるといえます。世界の宇宙政策に詳しい鈴木一人東京大
学教授は、次のように警鐘を鳴らしています。
─────────────────────────────
 こうしたことが続くと、国際的な打ち上げ市場におけるイメー
ジが悪くなることは否めない。H3が信頼性の高い技術に基づい
ていることを示すためには、もし今回の問題が軽微ならば、なる
べく早く、再打ち上げを実現することが大切だ。
           ──鈴木一人東京大国際政治経済学教授
             2022年2月18日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 まして日本は、2月7日に三菱重工業が、国産ジェット旅客機
「三菱スペースジェット(MSJ)」事業から撤退することを発
表したばかりであり、日本の産業技術力の信頼性がいま厳しく問
われているのです。
 日本の宇宙ビジネスの現状について知る必要があります。そも
そもロケットの打ち上げ費用を負担するのはどこでしょうか。そ
れは、宇宙に「荷物」を運びたい国や企業です。宇宙に運ぶ荷物
とは衛星や探査機などです。日本のこれまでの実績は、2001
年の運用開始から20年間で、海外から受注した衛星を5回打ち
上げています。20年間で5回です。
 これに対して世界を見ると、受注衛星の打ち上げは、2015
の1年間で、ヨーロッパは6回、アメリカは5回打ち上げている
のです。つまり、欧米は、日本が20年かかってやったことを1
年でやっています。実に大きな差です。
 種子島宇宙センターで日本の打ち上げ技術の基礎を築いたのが
Hシリーズです。
─────────────────────────────
        1986年 ・・・  H1
        1994年 ・・・  H2
        2001年 ・・・ H2A
─────────────────────────────
 Hシリーズでは、これまで、気象衛星「ひまわり」、小惑星探
査機「はやぶさ2」、政府の「情報収集衛星」、カーナビの位置
取得などに使われる準天頂衛星「みちびき」を打ち上げてきてい
ます。とくに「H2A」は、これまで46機中45機打ち上げに
成功しており、97・8%の成功率であり、その信頼度はきわめ
て高いのです。しかし、打ち上げ費用は、約100億円かかって
おり、世界水準より3割程度高額です。
 そこでJAXAと三菱重工業が2014年から開発を始めたの
が「H3」です。このH3で目指したのが、H2Aの半分の50
億円という低コストの実現です。そして2015年からスタート
したのが、ロケットの命ともいえるメインエンジン「LE9」の
開発です。
 問題は、どのようにしてコストを下げるかです。H2Aよりも
設計をシンプルにし、構造を簡素化して部品の数を2割減らした
ほか、3Dプリンタで部品を作ったり、乗用車の電子部品を活用
したりと徹底的にコストを削減したのです。
 ロケットエンジンは、燃焼試験に合格しないと打ち上げには使
えませんが、その燃焼試験が苦難の連続だったのです。2020
年5月の燃焼試験では、タービンにひびが入り、同年度に予定さ
れていた打ち上げが2021年に延期されましたが、またしても
タービンに不具合となる振動が確認され、打ち上げはさらに20
23年に延期されたのです。しかし、その2023年2月17日
も打ち上げが中止されてしまったというわけです。
           ──[メタバースと日本経済/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「あり得ない」「敬意のかけらもない」H3打ち上げ中止
  JAXA会見で反発広げた「記者の捨て台詞」
  ───────────────────────────
   鹿児島県の種子島宇宙センターから2023年2月17日
  に打ち上げを予定していたH3ロケットだが、この日のカウ
  ントダウン中にシステムが異常を検知し、打ち上げは中止と
  なった。
   記者会見にのぞんだJAXAの岡田匡史プロジェクトマネ
  ージャーには、報道陣から「失敗ではないか」と認識を確認
  する質問が相次いだ。通信社の記者は「一般にいう失敗なん
  じゃないか」と追及し、岡田氏は否定。「失敗と呼ばれたか
  らといって、何か著しく不具合があるわけじゃないですね。
  皆さんの中では失敗と捉えていないけど、失敗と呼ばれてし
  まうのも甘受せざるをえない状況じゃないんですか」と矢継
  ぎ早に質問すると、設計の想定範囲内での事象のため、やは
  り失敗ではないとの見解を示した。
   この記者は「つまりシステムで対応できる範囲の異常だっ
  たんだけれども、起こるとは考えられなかった異常が起きて
  打ち上げが止まった。こういうことでいいですね」と論点を
  整理し、岡田氏が主張を繰り返すと、「わかりました。それ
  は一般に失敗といいます。ありがとうございます」と突き放
  すように切り上げた。
   通信社の記者とJAXA担当者の攻防は、多くの視聴者の
  目に留まった。この場面がツイッターで「記者の捨て台詞」
  などの文言とともに転載されると1万以上リツイートされ、
  「あり得ない」「難事業に対する敬意のかけらもない対応」
  と記者の態度を疑問視する声が広がっている。
                  https://bit.ly/3YSQPU8
  ───────────────────────────
H3ロケット初号機打ち上げの現場.jpg
H3ロケット初号機打ち上げの現場
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2023年02月21日

●「日本のGDPがドイツに抜かれる!」(第5911号)

 今回のテーマは、依然としてデフレから完全に脱却できていな
い日本が、持ち前の技術力を発揮し、現在世界で急速に進行しつ
つあるデジタル化の変化に便乗し、メタバースなどを積極的に活
用しながら、経済の復活が図れないか検討するのが目的です。
 しかし、三菱重工の国産ジェット旅客機からの撤退など、日本
の持ち前の技術力が揺らいでいることや、足元の急激な円安・ド
ル高によって日本の国力が弱体化しつつあるなど、日本経済の真
の回復にはほど遠いのが現状であるといえます。
 2023年2月19日付の日本経済新聞は、次のようなショッ
キングなニュースを伝えています。
─────────────────────────────
◎名目GDP、ドイツが肉薄/日本世界3位危うく
 日本が維持してきた国内総生産(GDP)で世界3位という地
位が危うくなってきている。長引くデフレに足元の急激な円安・
ドル高が加わり、ドル換算した名目GDPで世界4位のドイツと
の差が急速に縮まっている。世界最大の人口大国になったもよう
のインドも猛追しており、世界経済で日本の存在感はしぼみつつ
ある。    ──2023年2月19日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 日本が西ドイツ(当時)のGNP(国民総生産)を抜いたのは
1968年のことです。そして、2002年には、日本の名目G
DPはドイツの2倍あったのです。以下、2002年と2022
年とを比較してみます。
─────────────────────────────
     ◎ドル建てGDPによる比較/2002年
      日 本 ・・・ 4兆1800億ドル
      ドイツ ・・・ 2兆0800億ドル
     ◎ドル建てGDPによる比較/2022年
      日 本 ・・・ 4兆2300億ドル
      ドイツ ・・・ 4兆0600億ドル
       ──2023年2月19日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 なお、この数値は、日本とドイツの名目GDPに年平均の為替
レートをかけあわせて比較しています。20年前の2002年の
場合、日本の名目GDPは、ドイツの2倍以上の規模があったの
ですが、20年後、ドイツは2倍に膨らんだのに、日本はたった
の1%しか増えていないのです。
 この20年間、米国の名目GDPも2倍以上に増えて、25兆
ドルで世界第1位の地位を固め、12倍になった中国が18兆ド
ルで第2位を占めています。このように見ると、日本の不甲斐な
さが明らかになっています。日本とドイツの内訳を見ると、次の
ようになります。
─────────────────────────────
     ◎日本とドイツ/内訳の比較
      日 本/実質GDP ・・・ 1・1倍
             物価 ・・・  −6%
          為替レート ・・・  −5%
      ドイツ/実質GDP ・・・ 1・3倍
             物価 ・・・ 1・4倍
          為替レート ・・・  10%
       ──2023年2月19日付、日本経済新聞より
─────────────────────────────
 日本のGDPがドイツに抜かれ、日本はGDP世界第3位に転
落する──これは、日本にとってきわめて屈辱的なことです。な
ぜ、屈辱的かというと、日本の人口は1億2462万人、ドイツ
のそれは8336万人であり、日本の方がドイツよりも1・5倍
多いからです。
 現在、GDPで日本の上位にいる中国の人口は14億1196
万人、GDPトップの米国のそれは3億3390万人であり、い
ずれも日本とは比較にならない人口差です。しかし、ドイツより
も、1・5倍の人口を有する日本がドイツに抜かれるということ
は、それは日本にとって相当ショッキングな出来事になります。
 経済成長を生み出す要因は何かというと、次の3つであるとい
われています。
─────────────────────────────
           @   労働力
           A    資本
           B全要素生産性
─────────────────────────────
 Bの「全要素生産性」とは、@の「労働力」やAの「資本」と
いった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因のことで、技
術進歩や生産の効率化などがそれに該当します。TFPと呼ばれ
ますが、Total Factor Productivity の省略形です。
 一般的に、Bは容易に変化しないので、量的な生産要素である
@で決まるものですが、日本とドイツの場合、人口の多い日本が
優位であるにも関わらず、ドイツに抜かれるということは、日本
が@とAの劣化が激しいということになります。
 みずほ銀行チーフ・マーケットエコノミストである唐鎌大輔氏
は、2023年の為替次第では、ドイツの日本逆転は、2023
年中にもあり得るとして、次のように述べています。新日銀総裁
のうでの見せどころであるといえます。
─────────────────────────────
 日本のドイツに対するリードに関し、22年は、+6・7%、
23年は+6・0%、24年は+5・3%と縮小していく見通し
であることに振れた。ということは、他の条件が全て一定とした
場合、23年中に円が対ドルで▲6・0%下落するか、ユーロが
対ドルで+6・0%上昇すれば、ドル建てGDPに関し日本はド
イツと同等の規模になる。     https://bit.ly/3xDSNM8
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/027]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のGDP、今年にもドイツに抜かれ4位転落の恐れ
  産経新聞
  ───────────────────────────
   米中に次ぎ世界第3位の日本の名目国内総生産(GDP)
  が、経済の長期停滞などを受けて早ければ2023年にもド
  イツに抜かれ、4位に転落する可能性が出てきた。近年の円
  安に伴うドルベースの経済規模の縮小に加え、「日本病」と
  も揶揄(やゆ)される低成長が経済をむしばんだ結果だ。専
  門家は企業の労働生産性や国際競争力を高める政策をテコ入
  れしなければ、遅くとも5年以内には抜かれる可能性が高い
  と警鐘を鳴らす。
   経済規模の国際比較に用いられる名目GDPは、国内で生
  産された財・サービスの付加価値の総額だ。物価変動の影響
  を取り除いた実質GDPに比べて、より景気実感に近いとさ
  れる。国際通貨基金(IMF)の経済見通しでは、22年の
  名目GDP(予測値)は、3位の日本が4兆3006億ドル
  (約555兆円)なのに対し、4位のドイツは4兆311億
  ドルで、ドイツが約6・7%増えれば逆転することになる。
   IMF予測では23〜27年も辛うじて逆転を免れるもの
  の23年時点(予測値)でその差は約6・0%に縮小する。
  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの試算では
  仮に今年のドル円相場が年間平均で1ドル=137円06銭
  より円安に振れれば順位が入れ替わる計算という。
                  https://bit.ly/3IC11en
  ───────────────────────────
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経済規模トップ5カ国は20年で変化
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2023年02月22日

●「国産ジェット機はなぜ失敗したか」(第5912号)

 2月7日のことです。三菱重工が国産ジェット旅客機の事業か
ら撤退を表明しています。6日の日本経済新聞は、この件につい
て、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 三菱重工業が国産ジェット旅客機の事業から撤退する方針を固
めたことが6日、分かった。2020年秋に「三菱スペースジェ
ット(MSJ)」の開発を事実上凍結していたが、今後の事業成
長を見通せないと判断した。開発子会社の三菱航空機(愛知県豊
山町)も清算する方針。累計1兆円の開発費を投じながら納期を
6度延期するなど空回りが続いた。新たな産業育成に向けた官民
による国産旅客機の構想は頓挫した。7日にも発表する。
          ──2023年2月6日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 この事業が発足したのは2008年のことです。経済産業省が
全面支援し、トヨタ自動車も三菱重工業傘下の三菱航空機に出資
するなど、まさに「国策民営」のプロジェクトそのものだったと
いえます。スタート時の名称は「三菱リージョナルジェット(M
RJ)」。それが15年が経過して失敗とは・・・。国策民営プ
ロジェクトの失敗です。
 三菱航空機は、既にMRJについて、国内外の企業から267
機の注文を受けていたのです。これらの企業に対しては、事業撤
退ということになると、違約金の支払いが発生することは必至で
あると思われます。
─────────────────────────────
   ANAホールディング ・・・・・・・  25機
   日本航空(JAL) ・・・・・・・・  32機
   米スカイウェスト ・・・・・・・・・ 200機
   エアマンダレー(ミャンマー) ・・・  10機
 ─────────────────────────
                      267機
─────────────────────────────
 なぜ、このプロジェクトは失敗したのでしょうか。
 それは、一にも二にも「型式証明」がとれなかったことに尽き
ます。型式証明とは、各国の航空当局の審査を通して、開発した
航空機が安全に空を飛べることを立証する耐空証明手続きのこと
です。具体的には、設計から製造工程、品質管理にいたるまで、
機体が安全かどうか、定められた計算方法や各種試験、検証方法
を通して立証するものです。
 「型式証明」が取れなかったのは、三菱航空機だけの責任では
なく、国交省航空局にも重大な責任があります。なぜなら、日本
の空を飛ぶには、国交省航空局の型式証明が必要ですし、販売先
の国の型式証明も必要になります。しかし、国による違いはある
ものの、審査内容はほとんど同じであり、相互に認証し合う協定
もあります。
 そこで、三菱航空機としては、国交省の航空局の審査をクリア
できることに標準を定め、これをクリアすれば、他国の審査にも
対応できるだろうと考えて、事業を進めていたのです。しかし、
これが大きな失敗だったのです。国交省の航空局自体がジェット
旅客機の審査の細部がわからなかったからです。
 国交省航空局にとって国産旅客機「YS−11」以来、半世紀
も航空機の型式証明審査をやったことがなく、まして航空機に独
特の設計をしようとすると、型式証明を取得するのが一層困難化
するのです。その点、米国のFAA(米連邦航空局)などは、ボ
ーイング機などで豊富な経験を積んでおり、知見豊富であるのに
対して、日本は大きく遅れているのです。
 事実上の国家プロジェクトでありながら、国交省航空局にも型
式証明取得のための努力不足があったとして、『日経ビジネス』
は次のように国交省航空局を批判しています。
─────────────────────────────
 機体や操縦システム、電気系統などの設計は、教科書通りの一
般論は存在する。「ある意味、経験則が生きるのが航空機の世界
だが、MRJは燃費性能が高いエンジンや革新的な空力設計、高
度な電気システムを採用した。それがさらに審査を難しくさせ、
必要あるかないか分からない証明作業を求められた。それに三菱
航空機は対応しきれなかった」(同社元関係者)。国家プロジェ
クトでありながら、国が最新の航空機の知見を取り入れ、安全性
を判定する能力を養ってこなかったのは三菱航空機にとって不幸
といえる。三菱重工の組織も、最後まで一枚岩になりきれなかっ
た。   ──『日経ビジネス』より/https://bit.ly/3XDAqSk
─────────────────────────────
 しかし、不可解なことがあります。三菱重工業はこのプロジェ
クトのこれまでの「MRJ/三菱リージョナルジェット」の名称
を途中で「スペースジェットM100」に改称すると発表してい
ることです。2019年6月25日のことです。
 リージョナルジェットというのは、座席数が50席から100
席程度の比較的短距離の地域間輸送航路に適した小型ジェット旅
客機のことであり、リージョナルには「地域の」という意味があ
ります。それをなぜ、名称を変更したのでしょうか。これほどの
巨大プロジェクトの名称変更はあり得ないことです。
 それは、三菱重工が、カナダの重工業メーカーであるボンバル
ディアとのあいだで、同社航空機部門のボンバルディア・エアロ
スペースが製造しているリージョナルジェット機「CRJ」事業
の譲渡契約を締結したからなのです。
 ボンバルディア・エアロスペースは、カナダの国営航空機メー
カーであるカナディアを前身として設立された企業です。同社は
カナディア・リージョナルジェットを「CRJ」として商品化し
1800機以上が生産されるベストセラー機となったのです。
 しかし、近年ではボンバルディアは、経営状態がが悪化し、航
空機事業の譲渡を進めていたのです。
           ──[メタバースと日本経済/028]

≪画像および関連情報≫
 ●三菱重工が国産初のジェット旅客機事業から撤退
  ───────────────────────────
   三菱重工業は2月7日、国産初のジェット旅客機事業から
  撤退すると発表した。2020年にジェット旅客機「スペー
  スジェット(旧MRJ)」の開発を事実上凍結していたが、
  事業性が見込めないことから名実ともに幕を下ろす決断をし
  た。同社は発表で、開発中止の理由として、国が機体の安全
  性を証明する型式証明の取得には「さらに巨額の資金」を要
  するほか、海外パートナーの協力確保が困難なことや足元で
  のパイロット不足の影響で小型ジェット機の市場規模が不透
  明な点などを挙げた。
   同社はスペースジェットで培った知見を次期戦闘機の開発
  などに活用していくとしている。また、泉沢清次社長は会見
  で、今後の取り組みの一環として「将来の完成機も視野に入
  れた次世代技術の開発や、他社との共同検討も考えていきた
  い」とも語った。
   08年に開発が始まったスペースジェットは初号機の納入
  が6度にわたり延期され、政府からの支援を含め巨額の資金
  が投じられてきた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で航
  空需要が激減し、三菱重工は、20年10月にスペースジェ
  ット向けの開発費を大幅に縮小。主力機として位置付けてい
  「M90」の開発はいったん立ち止まることを明らかにして
  いた。             https://bit.ly/3IgCTMU
  ───────────────────────────
「三菱リージョナルジェット/MRJ」.jpg
「三菱リージョナルジェット/MRJ」
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2023年02月24日

●「スコープクローズというネックがある」(第5913号)

 三菱重工業の国産ジェット旅客機撤退の話の続きです。なぜ、
この事業についてEJが追及するかというと、ほとんど国家プロ
ジェクトに近いこの事業の失敗をこのままにしておくと、日本は
今後ジェット航空機というものを製作できなくなるし、「技術の
日本」の誇りに大きな傷がつくからです。
 この事業は、2008年に「三菱リージョナルジェット(MR
J)」としてスタートしましたが、2019年になって、名称を
「三菱スペースジェット(MSJ)」に変更しています。スター
トから11年後にプロジェクト名を変更し、その5年後に事業か
らの撤退を表明しているのです。
 それは、米国では「スコープ・クローズ」という航空会社とパ
イロット組合とが結ぶ労使協定があることを知りながら、三菱重
工がリージョナルジェットにこだわったからであるといえます。
 「スコープ・クローズ」とは何でしょうか。
 広大な領土を有する米国の航空業界では、大きな都市を結ぶハ
ブ(基幹路線)と、各地の小需要路線(スポーク)を結ぶ路線形
態である「ハブ・アンド・スポーク」をとっています。各地の小
需要路線に関しては、大手航空会社は、リージョナル航空会社に
運航の委託をしています。
 しかし、小需要路線のスポークでも、人気路線ができて利用者
が増えると、リージョナル航空会社は、大型航空機を使ってその
需要を満たそうとします。この現象は、大手航空会社のパイロッ
トたちの仕事をリージョナル航空会社に奪われることを意味して
います。
 そこで、大手パイロット組合は、自分たちの仕事を守るため、
リージョナル航空会社と話し合い、運航に関する制限事項を決め
ているのです。2016年12月1日に合意されたリージョナル
・ジェットへの制限は次のようになっています。
─────────────────────────────
       座席数:最大76席
    最大離陸重量:39トン(8万6000ポンド)
─────────────────────────────
 しかし、三菱重工のプロジェクトは、最初から座席数90席の
リージョナルジェット機(MRJ─90)を基本モデルとしてき
たのですが、2016年に上記の制限が決まり、座席数と重量の
制限をオーバーしてしまったのです。
 そこで、「MRJ─90」に関しては、2019年に制限の見
直し検討が行われるので、それに期待をかけると共に、制限が緩
和されない場合に備えて、「MSJ─70」を並行して開発する
ことにしたのです。このモデルは、座席数76席で、最大離陸重
量はギリギリでクリアしています。
 そして、2020年6月に、カナダのボンバルディアのCRJ
事業を買収しています。買収額は、5億5000万ドル(約57
6億円)といわれています。この頃には、6度目の商用初号機引
き渡し延期で「凍結」か「撤退」がささやかれていたにもかかわ
らずです。目的はMSJのアフターケアで、CRJのネットワー
クを活用するためです。
 この買収について、長年日本航空で機長を務め、現役当時ジャ
ンボジェットの乗務時間で、世界最長の記録を保持していた航空
評論家の杉江弘氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 MRJでも、サポート体制には力を入れていくと一応言ってき
たものの、今回のCRJの買収劇を見ていると、当初から本当に
十分なサポート体制を構築できる計画があったのかと疑わざるを
得ない。ボンバルディア側は航空事業から手を引いて、今後は鉄
道事業だけに経営戦略を変更していこうとするなかで、三菱側の
CRJ事業の買収はいわば渡りに船であった。それだけに三菱側
としては、今回の買収によって今後コスト面で経営にどう影響を
与えるかという不安材料も加わったかたちである。
                  https://bit.ly/3EuwGM3
─────────────────────────────
 三菱重工にとって不幸だったのは、「三菱スペースジェット」
が最も重要な時期に、コロナ禍が重なったことです。新型コロナ
の流行により、東京五輪も延期になり、航空機需要が消滅したこ
とがMSJに追い打ちをかけたかたちです。
 三菱重工によるCRJ買収によって、リージョナルジェットの
分野では、ブラジルのエンブラエルと中国のARJが残ることに
なります。エンブラエルは、ブラジルの航空機メーカーであり、
世界第3位の旅客機メーカーでもあります。中国のARJについ
ては、中国国内でしっかりと、シェアを確保しています。
 大きなネックは、これら2社に対して、MSJは価格面では対
抗できないことです。MSJの50億前後という価格に対して、
エンブラエルは約35億円、中国のARJにいたっては30億円
前後の価格といわれます。ボーイング757〜800の価格が約
51億円といわれているので、価格が高すぎます。
 杉江弘氏は、この国産ジェット開発の失敗の原因の一端は、三
菱の「上から目線」と「秘密主義」も関係しているとして、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 私は2008年秋からエンブラエルのパイロット要員として、
県営名古屋空港にあるジェイエアで勤務を始め、翌2009年3
月より機長として乗務を開始した。一方、三菱航空機のMRJ生
産開発拠点はジェイエアの会社からわずか数百メートルの地にあ
った。そこで私が仮に三菱航空機のスタッフだとしたら、ライバ
ルのエンブラエルのことは当然気になり、それを実際に操縦して
いるパイロットや会社から参考になる話を聞こうとするはずであ
る。しかし、私を含め、同僚のパイロットやジェイエアの会社に
も一切のコンタクトはなかった。   https://bit.ly/3Z9ann8
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/029]

≪画像および関連情報≫
 ●三菱重工業が国産ジェット開発を断念 → 日本が航空機を
  つくれない理由
  ───────────────────────────
   三菱中工業が、国産初のジェット旅客機「スペースジェッ
  ト(SL、旧MRJ)」の開発を断念し、事業から撤退する
  ことを決めました。2008年に日本初のジェット旅客機を
  つくろうとしてスタートした開発プロジェクトは、15年の
  歳月をかけて失敗に終わったということです。
   日本は「ものづくり」が得意な国と言われます。特に乗り
  物には定評があります。自動車にしても鉄道にしても船にし
  ても、日本のメーカーがつくるものは品質がいいといわれて
  世界で高い評価を受けています。ただ、航空機は世界で存在
  感がまったくありません。
   旅客機はアメリカのボーイング社とヨーロッパのエアバス
  社が世界の2強で、日本の航空機産業はボーイング社の下請
  けに甘んじているケースがほとんどです。そうした現状を打
  破しようとしてスタートしたのが旧MRJプロジェクトでし
  たが、結局、打破できませんでした。どうして日本の航空機
  産業は自前の旅客機をつくれないのでしょうか。
   その原因を探るため、日本の航空機産業の歴史を振り返っ
  てみましょう。日本の航空機産業は軍用機の開発からスター
  トしました。第1次世界大戦で航空機が威力を発揮したこと
  から、日本も軍用機の開発に力を入れ始めました。第2次世
  界大戦が始まると、開発に拍車がかかり、名機と言われる戦
  闘機が次々に太平洋戦争に投入されました。
                  https://bit.ly/3SnmECj
  ───────────────────────────
航空評論家/杉江弘氏.jpg
航空評論家/杉江弘氏
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2023年02月27日

●「ゼロ戦/YS11の設計者は誰か」(第5914号)

 WBCのキャンプをテレビで見ているが、雰囲気はとても良い
ように感じます。とくにメジャー選手で唯一キャンプに参加して
いる、ダルビッシュ選手が、投手たちにカーブやフォーク、ツー
シームやスライダーの投げ方をていねいに教えている姿が印象に
残っています。ITなどの真の技術の指導は、このようにOJT
であるべきと思います。
 2月7日、MRJから撤退を決めた社三菱重工業の泉沢清次社
長は次のようにいっています。
─────────────────────────────
 大きく二つの視点がある。初期の段階で開発の規模の見積もり
手間のかかり方ということが、正直言って少し甘かったのではな
いか。そこの段階でのリソースの確保が足りなかったのではない
かというのが一点ある。もう一つは、単に頭数が足りないという
ことではなくて、経験を持ったエンジニアが我々にいなかった。
おそらく日本の中にいなかった。それで海外の経験のあるエンジ
ニアを投入したということ。その意味で、足りないリソースにつ
いて、いろいろと手は尽くしてきたと思うが、それは十分ではな
かった。             ──泉沢清次三菱重工社長
─────────────────────────────
 「経験を持ったエンジニアが我々にいなかった。おそらく日本
の中にいなかった」と泉沢社長は嘆いています。三菱重工といえ
ば、かつて天才航空機設計者、堀越二郎を擁し、彼の手になる戦
闘機九六式艦上機(ゼロ戦)を開発した名門ですが、そのDNA
が残っていなかったようです。そうさせたのは、間違いなく米国
であり、日本の技術を恐れて、日本には一切の航空機を製造させ
なかったのです。
 ゼロ戦といえば、日中戦争から日米戦争の初期に関しては、向
かうところ敵なしで制空権をほしいままにした戦闘機です。なお
堀越二郎については、2013年のジブリ映画『風立ちぬ』で描
かれています。
 ゼロ戦が戦闘機としていかに優れていたかについては、機銃配
置にあります。ゼロ戦の武装は、左右の主翼に20ミリ機関砲を
各1門に加え、最前方にあるエンジンのすぐ後ろ、胴体の上部に
7・7ミリ機銃が2門設置されています。問題は後者の胴体機銃
に関してです。この機銃は、発射時にプロペラの回転面を弾丸が
通過することになります。弾丸がプロペラにぶつかってしまった
から大変なことになります。
 ゼロ戦では、この難問を解決しているのです。同調発射装置と
いいます。開発者は深海正治氏という人物です。また、松平精氏
という人物は、ゼロ戦の飛行時の異常な振動を制御することに成
功しています。ゼロ戦にはこのように多くの光る技術が凝縮され
ているのです。
 ところで、なぜ、弾丸がプロペラにぶつからないかというと、
「プロペラにぶつからないよう機銃から弾丸が出るタイミングを
調整している」からです。つまり、プロペラの隙間を縫って、弾
丸が通り抜けるようエンジンの回転速度と機銃の発射速度が調整
されているのです。驚くべき技術です。
 しかし、米国は日本のこの驚くべき技術を知っており、終戦後
の昭和20年11月18日、GHQ(連合国占領軍総司令部)の
命により、民間機の航空活動も含め、航空機の生産、研究、実験
を初めとして一切禁止したのです。運輸省航空局も廃止され、大
学の航空学科および航空研究所などもすべて廃止され、日本の空
には模型飛行機すら舞うことがなくなったのです。
 しかし、米国から航空機の研究・開発を禁じられた深海正治氏
は、分野の全く異なる医療現場で内視鏡を設計し、胃カメラを世
界で初めて実用化しています。また、松平精氏は、新幹線の振動
を制御する台車を設計しています。
 GHQの禁止命令も解けた約10年後の昭和31(1956)
年のことです。堀越二郎氏は当時の通産省からオファーがあり、
秘密のプロジェクトに従事しています。それから8年後の、昭和
39年(1964年)、日本初の国産旅客機「YS11」が飛行
に成功したのです。堀越二郎の設計によるものです。YS11は
日本航空機製造が製造した双発ターボプロップエンジン方式の旅
客機で、第二次世界大戦後に初めて日本のメーカーが開発した旅
客機です。
 「YS11」は、普通「YSじゅういち」と読みますが、正し
くは「YSいちいち」です。その理由は、次の通りです。
─────────────────────────────
 「YS」は輸送機設計研究協会の「輸送(YUSOUKI)」
と「設計(SEKKEI)」の頭文字の「Y」と「S」をとり、
「YS」とした。「11」の最初の「1」は搭載を予定した各種
候補エンジンごとにとった資料ナンバーで、「ダート10」の番
号の「1」であった。後ろの「1」は検討された機体案の番号を
表し、主に主翼の面積や位置によって第0案、第1案となって、
「1」とし、「YS11」と命名された。
                  https://bit.ly/3xN8Mb7
─────────────────────────────
 しかし、「YS11」は、2006年をもって日本においての
旅客機用途での運航を終了しています。そして、2023年2月
7日の三菱重工の「スペースジェット」の開発中止、事業からの
撤退──堀越二郎のDNAは残っていなかったようです。堀越二
郎は、次のようにいっています。
─────────────────────────────
 飛行機は非常に高級な総合工業であり、これに包含される技術
の発達を促進してやみません。日本が将来、本当の文明国に進む
ためには、高度の工業であるとともに、規模の大きいものも持た
なければならない。それには航空機が有望だと思います。
                       ──堀越二郎
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/030]

≪画像および関連情報≫
 ●ボーイングB787は「準日本製」だろう?なぜ日本は大型
  旅客機が作れないのか=中国
  ───────────────────────────
   日本はものづくり大国ではあるが、作れないものもある。
  中国メディアの網易は、2021年8月17日、「日本は民
  間で大型ジェット旅客機が作れない」と指摘する記事を掲載
  した。「米ボーイングの機体製造の一部を担っていて、ボー
  イング機のB787などは準日本製と言っても良いほどなの
  に」と不思議がっている。
   日本の航空機製造はもともと技術が高く、戦時中のゼロ戦
  機は世界最強と言われていたほどだ。記事は、連合国軍総司
  令部(GHQ)の航空禁止令により、航空機産業が止まった
  時期があるとはいえ、日本の部品製造のレベルは非常に高く
  ボーイング社に部品供給するほどの実力があると指摘した。
  しかしながら、「軍用機は作れても民間の大型ジェット機が
  作れない」のは不思議なことだ、といぶかっている。
   記事はこの理由について、3つの要因があると分析してい
  る。1つは「能力不足」の問題で、日本にはこの巨大プロジ
  ェクトを成功させるのに必要な、資金、人材、部品、市場な
  どの総合的な条件が揃っていないとした。2つ目は総合的な
  「技術不足」で、部品を作る能力はあってもコア技術がない
  と指摘した。戦後7年間、航空機の開発・製造が止まってい
  た間に、欧米と差が開いてしまったと分析している。3つ目
  は「市場不足」だ。現在はボーイングとエアバスが市場を独
  占しているので、日本がジェット機を開発しても市場が不足
  しているとした。        https://bit.ly/41nbhyj
  ───────────────────────────
YS11.jpg
YS11
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2023年02月28日

●「世界初のコンピュータENIAC」(第5915号)

 「生成AI」というものが話題になっています。生成AIとは
画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなどさまざ
まなコンテンツを生成することのできる人工知能のことです。大
量のデータを学習した学習モデルが人間が作成するような絵や文
章を生成することができます。
 生成AIの中心にいるのは、「オープンAI」という2015
年に設立された米国の非営利団体であり、現在、そこを中心とす
る多くのスタートアップ企業に巨額の投資が集まっています。こ
のような先端技術はやはり米国がいつも先陣を切っています。
 生成AIについては、目下情報を収集しており、いずれEJで
取り上げるつもりでおります。その前に「ものづくり日本」の象
徴ともいえるものの、意外にも多くの人が知らない、日本のコン
ピュータの製作秘話を取り上げたいと思います。
 世界はじめてのコンピュータは、米国が1946年に開発した
「ENIAC(エニアック)」です。ENIACとは、次の英語
の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
  ◎ENIAC
   Electronic Numerical Integrator and Computer
─────────────────────────────
 ENIACを考案・設計したのは、ペンシルベニア大学のジョ
ン・モークリーとジョン・プレスバー・エッカートの2人です。
開発の目的は、米国陸軍の弾道研究所における砲撃射表の計算で
す。ENIAC開発の資金を出したのは米国陸軍であり、契約は
第2次世界大戦中の1943年6月5日に行われています。ペン
シルベニア大学では「プロジェクトPX」として秘密裏に設計が
進められたのです。1946年2月14日にマシンは完成し、翌
日にペンシルベニア大学で正式に使用が開始されています。EN
IACは1955年10月2日まで運用・使用されています。
 ENIACとはどういうコンピュータだったのでしょうか。
 幅30メートル、高さ2・4メートル、奥行き0・9メートル
総重量27トンという大掛かりな装置で、開発にかかった費用の
総額は、50万ドルであったといわれています。ENIACには
次のようなものが使われていたのです。
─────────────────────────────
        真空管 ・・・・ 17468本
      ダイオード ・・・・  7200個
      リレー装置 ・・・・  1500個
        抵抗器 ・・・・ 70000個
      コンデンサ ・・・・ 10000個
─────────────────────────────
 なぜ、ENAICはこのような巨大なマシンになったのでしょ
うか。それは、今でこそコンピュータは2進数が当たり前になっ
ていますが、ENIACは、内部構造に10進数を使っているか
らです。
 少し専門的になりますが、1桁の10進数を格納するのに10
ビットのリング・カウンターを使っており、1桁の記憶に対して
36本の真空管を必要とするのです。これでは、1万7000本
の真空管が使われても不思議ではないでしょう。
 しかし、メモリがごくわずかなため、プログラムの内蔵能力は
ほとんどなく、パンチカードなどの外部デバイスからプログラム
を取り込む方式が採用されていたのです。
 それでもENIACでは複雑なプログラムを組むことができた
のです。ループ、分岐、サブルーチンが可能で、このプログラミ
ングには女性が大活躍したといたわれています。1997年のこ
とですが、当時ENIACのプログラミングを担当していた6人
の女性がWTTIの殿堂入りを果たしています。WTTIとは、
次の言葉の省力形です。
─────────────────────────────
     ◎WTTI
      Women in Technology International
─────────────────────────────
 ENIACの開発プロジェクトには、ロスアラモス国立研究所
で、マンハッタン計画(米国の原爆開発・製造計画)に従事して
いた著名な数学者、ジョン・フォン・ノイマンが強い関心を持っ
ていたといわれます。ロスアラモス研究所では、ENIACに深
く関与するようになり、最初にENIACで計算したのは、水素
爆弾に関するものだったといいます。その計算の入出力には、約
100万枚のパンチカードが必要だったといわれています。
 ノイマンのこのENIACへの関わりによって、後にノイマン
は、ENIACに変わる新しいコンピュータの開発を示唆するレ
ポートを書くことになります。このノイマンのレポートによって
モーリス・ウィルクスとケンブリッジ大学の数学研究所のチーム
が、1949年に開発したのが「EDSAC(エドザック)」と
いうコンピュータです。
 このコンピュータは2進数を採用し、プログラムとデータの両
方を一緒に格納できる記憶装置(メインメモノ)を備えた世界初
のプログラム内蔵方式のコンピュータであり、後にノイマン式コ
ンピュータと呼ばれるようになります。EDSACは、次の言葉
の省略形です。
─────────────────────────────
  ◎EDSAC
    Electronic Delay Storage Automatic Calculator
─────────────────────────────
 このENIACとEDSACの開発は、日本の科学者たちの強
い関心を引き、日本でもコンピュータを作ろうという機運が盛り
上がってきたのです。日本におけるその1つのプロジェクトが、
東京大学と東芝によるコンピュータ開発プロジェクト「TAC」
です。これについては明日のEJで取り上げます。
           ──[メタバースと日本経済/031]

≪画像および関連情報≫
 ●ENIAC開発の背景
  ───────────────────────────
   ENIACは、一般には、弾道計算のために開発されたと
  いうことになっています。実際、開発の資金を提供した陸軍
  は、弾道計算のために資金提供したのでした。しかし、EN
  IACの構想を考え出したモークリーは、趣味の気象予測の
  ために強力な計算機を必要としていたようです。当時、「気
  象は十分な計算パラメータがあれば完全に予測できる」とす
  る仮説が話題となっており、多くの人が実際の予測に取り組
  んでいました。
   物理学者であったモークリーもその一人で、アメリカの降
  水と太陽の回転の関係について、仮説を立てていました。し
  かし、この仮説が本当かどうか調べるための計算は、あまり
  にも膨大で当時の計算機では間に合わなかったのです。
   モークリーはさまざまな計算機を調べ、自分でも試作し、
  やがて真空管を使うと高速な計算機を作れると言うアイディ
  アにたどりつきます。真空管計算機を作るために、電子工学
  を学ぶ中で、モークリーは若き天才電子工学者、エッカート
  と出会います。陸軍が開催した電子工学の特別講座で、エッ
  カートは最年少の研究助手、モークリーは最年長の受講者で
  した。二人は意気投合し、電子計算機の設計にかかります。
  モークリーは真空管については素人でした。そして、エッカ
  ートは怖いもの知らずの若者でした。
   そんな二人だから、こんなたいそれたことを考えついたの
  です。当時、身近なもので真空管を使った一番複雑な機器は
  テレビで、30本の真空管を使っていました。
                  https://bit.ly/3Z3UpuL
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ENIAC/1946.jpg
ENIAC/1946
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする