2023年01月31日

●「60年償還ルール見直し実現するか」(第5896号)

 1月25日の衆議院代表質問で、立憲民主党の泉健太代表と岸
田首相の間で、防衛費増額の財源と防衛力強化に関して、次のや
りとりがありました。
─────────────────────────────
泉 健太代表:額ありき、増税ありきだ。決算剰余金の防衛費へ
 の転用は問題。特定財源化すれば、あらかじめ予算を膨らませ
 て余らせることで(さらに)転用可能だ。
岸田文雄首相:行財政改革の努力を最大限行う。決算剰余金は過
 去の実績を踏まえて規模を見込んでいる。あらかじめ予算を膨
 らませて防衛費に充てることは意図していない。
泉 健太代表:国債の「60年償還ルール」を変更して防衛費を
 捻出するのか。
岸田文雄首相:(ルールを)見直し、政策的な経費増加に使うと
 結果的に国債発行額は増加する。さらには市場の信認への影響
 に留意する必要がある。
         ──2023年1月26日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 岸田首相は、役人の書いた答弁書を読んでいますが、それは、
ルールを見直すと、結果的に国債発行額は増加し、市場の信認が
損なわれるというものです。
 財務省側に立って、「60年償還ルール」の見直しに反対を述
べる主要な意見を列挙することにします。
─────────────────────────────
◎鈴木財務相ほか
 償還期間を延ばすと、国債に対する信用にも影響してくる。日
本の債務残高対国内総生産(GDP)比はすでに世界最悪水準に
あり、異次元緩和で国債を大量購入してきた日銀が政策を見直せ
ば、借換債を含む国債を市場で消化しきれるのかという課題に直
面することになる。日銀が金融緩和策を修正し、金利が上がれば
その分、利払い費も増える。
◎土居丈朗慶応大学教授
 国債償還費は財源とはいえない。米国は議会が政府債務に上限
を設け、ドイツは国債発行を例外とするなど日本より厳しい財政
規律のルールがある。日本では60年償還ルールがそれにあたり
見直す場合には他の規律を考える必要がある。
◎木内登英野村総合研究所エクゼクティブ・エコノミスト
 赤字国債も含めて「60年償還ルール」が見直され、期間が延
長されれば、より将来世代へ負担を転嫁することになる。世代間
の負担の公平性の観点、経済の観点からの問題はより深まること
になる。償還ルールの期間を延長しても、政府の国債発行額、つ
まり政府の債務の水準は変わらない。他方、償還費を抑えること
が可能となるため、新規国債発行へのハードルが下がることで、
財政の規律が一段と緩むことになりかねない。それは、潜在的な
金利上昇リスクや通貨価値の信認低下リスクを高めるだろう。
─────────────────────────────
 財務省系の人は、今回のように、防衛国債を発行しようとした
り、償還ルールを変更しようとしたりすると、「国債が増加して
国債の信認が落ち、長期金利が上がって国債が暴落する」とか、
「将来世代に負担を転嫁する」といって反対します。
 さらに、「日本の債務残高対国内総生産(GDP)比はすでに
世界最悪水準である」とか、「日本は、財政破綻という氷山に向
かって突き進んでいる」のように強い言葉で警告を発し、今にも
日本の財政破綻が起きるかのようにいいます。
 しかし、その一方において、日本は債務残高にほぼ匹敵する金
融資産を保有していることに加えて、国債のほとんどが国内で消
費されているので心配はないとか、日本はダントツの対外純資産
国であって、しかも31年連続世界一であるという事実があった
りします。
 安倍晋三政権のときですが、経済財政諮問会議に2001年に
ノーベル経済学賞を受賞した米国のスティグリッツ・コロンビア
大学教授が出席したことがあります。そのとき、スティグリッツ
教授は、次のように安倍首相にアドバイスしています。
─────────────────────────────
    永久債と長期債で、債務を再構築したらどうか
      ──スティグリッツ・コロンビア大学教授
─────────────────────────────
 この提言にしたがって、永久債はともかくとして、100年後
に償還される国債であれば、少なくとも3世代くらいは、償還費
のことを心配しなくてもいいし、償還費該当分を教育費や防衛費
など他のことに使えることになります。
 「元本が戻ってこない国債なんか売れない」という人がいるか
もしれません。しかし、投資で重要なのは、「元本」よりも「利
子」なのです。
 仮に年率5%の国債を100万円購入したとします。100万
円の5%は5万円であり、20年で100万円の元が取れ、あと
は毎年5万円ずつ増えていくことになります。投資としての魅力
は十分あります。まして相手は民間企業ではなく、政府であり、
絶対安心です。十分売れると思います。
 国家は永続するという前提に立っています。したがって、今回
の「60年償還ルール」の見直し議論は、必ずしも廃止せよとい
うのではなく、60年を80年に延ばすぐらいのことなら十分可
能であるし、それをしたからといって、日本国債の信認が失われ
暴落することなど起こり得ないと思います。
 木内登英氏のいうように、「60年償還ルール」を「80年償
還ルール」に変更すれば、10年後の償還額は7500億円と、
25%減少することになり、その分を防衛費増額の財源に回すこ
とは可能です。しかし、財務省色の強い岸田政権で果たしてこれ
が実現できるかというと、それはほとんど実現性がないと考えら
れます。おそらく防衛増税は実現するものと思われます。
           ──[メタバースと日本経済/012]

≪画像および関連情報≫
 ●国債「60年償還ルール」見直しで防衛費捻出の悪手
  ───────────────────────────
   自民党内で国債の「60年償還ルール」見直しの議論が始
  まっている。岸田文雄政権が決めた防衛費増額では、その財
  源として歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、増税の4
  つの確保策が検討されている。積極財政派が多数集まる安倍
  派では、増税への反対意見が強いが、同派の幹部である萩生
  田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長らが中心となって浮
  上させたのが、国債60年償還ルールの見直しだ。
   現在のところ、2027年度ベースで年1兆円強(防衛費
  増額の約4分の1)を増税で確保するというのが政府の計画
  だが、償還ルール見直しによって新たに防衛費財源を捻出で
  きれば、増税幅は圧縮できる。安倍派を中心とした積極財政
  派の狙いはそこにある。
   建設国債を財源とした公共事業の建築物は、耐用年数がお
  おむね60年であるため、その建築のための借金(国債)も
  60年で現金償還を完了させるのが望ましいのではないか。
  そうした考え方から生まれたのが60年償還ルールだ。
   具体的には、国債発行残高の1・6%(約60分の1)を
  毎年度の国債償還費として一般会計に計上する。実際には誤
  差が生じるものの、そうやって60年かけて元本を償還して
  いく形を取る。         https://bit.ly/3jawM44
  ───────────────────────────
ジョセフ・スティグリッツ教授.jpg
ジョセフ・スティグリッツ教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。