スタッフのほとんどが財務省官僚出身であり、岸田首相は彼らの
提言に乗って政権運営を行っています。岸田首相は、あの「日本
は財政破綻に向かっている」という論文を『文芸春秋』誌にわざ
わざ掲載した事務次官をそのまま現職に置いており、財務省的イ
デオロギーに染まっているといえます。
防衛費増額に増税を持ち出したことで、「国債60年償還ルー
ル」の廃止ないし見直し議論が自民党内から沸き起こり、おそら
く財務省は内心「しまった」と思っていると思います。まさに、
「瓢箪から駒」であります。おそらく財務省が一番国民に知られ
たくないことは、このルールが日本独自のものであり、主要国に
おいては一切行われていないルールであることでしょう。
そもそもG7の主要国では、国債は利息は支払うものの、その
元本については返済する意思はなく、償還期限が来たら、すべて
借換債を発行して済ませています。それにもかかわらず、どこの
国もやっていない国債の政府への元本返還を日本はわざわざやっ
ているのです。そうであるのに、「日本は借金大国である」とか
「そのうち財政破綻という氷山にぶつかる」とか、評判はさんざ
んです。理屈に合わないではありませんか。
もともとこの考え方は、1966年に財政法第4条に基づいて
「建設国債」が発行されたとき、この国債については元本につい
ても60年かけて返済しようとして生まれたものです。その趣旨
は悪くないと思います。しかし、それが今やすべての国債に適用
されているのです。
一方、国債60年償還ルールが適用されない国債もあります。
その典型的なものが「復興債」です。東日本大震災のための復興
債は、償還が復興特別増税に紐付けされています。震災発生時は
民主党の菅直人政権でしたが、期せずして増税議論が巻き起こり
復興特別増税が決まったのです。財務省にとっては「渡りに船」
でしょう。当時のデフレ色濃厚の日本において、増税をするとは
常識的には考えられないことであり、その結果として、日本経済
は、経済成長が一向に実現されないでいます。
本来菅直人元首相は、突然、所得税増税を掲げて参院選を戦い
大敗北を喫しており、増税賛成派です。その菅内閣に続いたのが
こともあろうに自民党と組んで「社会保障と税の一体改革」を実
現させた野田佳彦内閣です。野田佳彦氏は、自身のこの決断を誇
りに思っているそうですが、多くの国民は、民主党に対して怒り
をもっています。その考え方は、立憲民主党の枝野前代表に受け
継がれています。立憲民主党の支持率が上がらない理由がここに
あります。マニフェストなる公約を破っての増税の恨みは非常に
強く大きいのです。
それは、民主党の政権獲得時の選挙で「消費税を上げない」と
いう公約を平然と破り、消費税の5%の税率を10%に倍増させ
たからです。しかも、その増税額は社会保障の充実に一向に寄与
しているとは考えられません。野田氏は、財務大臣のときに、財
務省に洗脳されたものと思われます。
東日本大震災による復興財源の確保を目的とする復興増税は、
所得税、住民税、法人税に上乗せするという形で徴収されていま
す。所得税に関しては、2013年(平成25年)1月1日から
の25年間(2038年まで)、税額に2・1%を上乗せすると
いう形で現在も徴収されているのです。あと16年徴収されるこ
とになります。
岸田首相の防衛増税に関する所得税増税の考え方はこうです。
復興増税は忘れている人もいるほど長期の増税であり、「国民は
税額の2・1%天引きに慣れている」はずであるから、その税金
の額を増やさずに期間をさらに長期化させても、問題はないと考
えているようです。
今回の防衛増税に対して国民はどのように考えているでしょう
か。政府寄りとされるNNN(読売テレビ)と読売新聞の調査で
さえ、反対派が賛成派の倍以上という大差になっています。
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◎NNN/読売新聞/1月19日
防衛増税に賛成する ・・・ 28%
防衛増税に反対する ・・・ 63%
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しかし、NNN/読売新聞は、世論調査の結果の報道をしたに
過ぎず、岸田政権としては、世論がどうであれ、増税を実施する
構えです。そもそもメディアは、国債60年償還ルールの問題点
を知っていながら、まったく報道しません。新聞もテレビのモー
ニングショーなども同様です。
そのような報道をすると、財務省はそのメディアに対して圧力
を加えるからであり、財務省は、そのための潤沢な予算を持って
います。
しかし、この国債60年償還ルールの見直しに火をつけたのは
朝日新聞です。その記事は、2023年1月12日の朝刊に掲載
されています。この記事のリード文をご紹介します。
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防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く政府の借金にあ
たる国債を安定的に返済するしくみである「60年償還ルール」
を見直す議論を始める。制度の廃止や60年の延長が想定される
が、市場の信認に影響を与えかねない。財務省も財政規律が緩む
ことを警戒しており、国債残高が膨張する恐れもある。
──2023年1月12日/朝日新聞朝刊
https://bit.ly/3jc4fLz
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非常に慎重な書き方ですが、この記事は政治部に所属する記者
が書いたものです。財務省ベッタリの経済部の記者には絶対に書
けない記事です。国債60年償還ルールを見直せば、増税をする
必要はなく、防衛費増額を賄うことは可能です。
──[メタバースと日本経済/011]
≪画像および関連情報≫
●防衛財源議論で国債償還ルール変更が浮上:岸田首相は施政
方針演説で増税への理解を訴える/木内登英氏
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政府は、防衛費増額について、歳出削減策などとともに、
増税策を含む財源確保を昨年末に閣議決定した。岸田首相は
1月23日の施政方針演説で、増税実施の決意を改めて述べ
るとともに、増税実施への理解を広く国民に呼びかけるとみ
られる。
しかし閣議決定されたにもかかわらず、増税実施への反対
意見は与党自民党の中で根強く残る異例の事態となっており
財源議論は未だ決着していない。実際、自民党は19日に、
防衛費増額の財源について増税以外の確保策を検討する特命
委員会の初会合を開いた。その中では、一段の歳出改革や税
外収入などが検討されたが、さらに、国債の「60年償還ル
ール」を見直すことも議論されたのである。これは国債償還
費を減らし、それを防衛費増額の財源に回すことを狙った措
置であるが、財政健全化の観点からは大いに問題だ。
政府が発行した長期国債を、60年かけて完全に償還する
という「60年償還ルール」がある。例えば10年国債を6
兆円発行すると、10年後の満期には1兆円を完全に償還し
た上で、残り5兆円分については、10年の借換債を発行し
て借り換えるのである。仮に「60年償還ルール」を「80
年償還ルール」に変更すれば、10年後の償還額は7500
億円と、25%減少することになる。その分を防衛費増額の
財源に回すことは可能である。 https://bit.ly/3WJo0I0
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防衛増税に反対する萩生田政調会長