2023年01月27日

●「国債60年償還ルールを廃止せよ」(第5894号)

 1月23日から通常国会がはじまっています。閣議決定された
にもかかわらず、防衛増税実施への反対意見は、与党の自民党の
なかでも根強くあります。防衛費増額の財源確保について、政府
は十分な努力をしていないという不満が渦巻いているからです。
そのための特命委員会も結成され、1月19日に初会合を開いて
います。
 この特命委員会で、国債の「60年償還ルール」を見直すこと
が議論されています。ところで、「60年償還ルール」とはどの
ようなルールでしょうか。
 たとえば、2000年に600億円の10年物国債を発行して
財政支出を行ったとします。2010年になると、600億円の
国債の償還期限がきますが、このさい600億円の国債を償還す
ると同時に、500億円の10年物国債の借換債を発行して、実
質100億円だけ償還します。
 2020年にこの500億円の国債の償還期限がきますが、そ
のさい500億円の国債を償還すると同時に、400億円の10
年物国債を発行して、実質100億円だけ償還します。このよう
に、10年ごとに6分の1ずつ償還していくと、2000年発行
の国債は、2060年に事実上償還を終えることになります。こ
れが、国債の「60年償還ルール」です。
 それでは、なぜ「60年」なのでしょうか。
 一応の理屈はあります。国債を発行して、橋や道路という国の
インフラを整備するとします。これらのインフラの平均耐用年数
が約60年だからです。したがって、耐用年数までに債務の返済
を終えるようにすれば、「インフラという資産」と「国債という
負債」はバランスすることになります。つまり、政府のバランス
シートにおいて、「資産」と「負債」は一致するわけです。
 しかし、これは「建設国債」という名の国債に適用される理屈
であって、「特例公債」──国の歳出が歳入を超えた額に対して
補填目的で発行される国債(赤字国債)にはあてはまらないこと
は明白です。それでは、特例公債はどうするのでしょうか。
 何国債であろうと関係ないのです。すべて60年償還ルールで
償還します。そもそも「なんとか国債」という区別自体が無意味
なのです。なぜなら、これは政府内での便宜的な呼び名であって
国債は国債だからです。仮に、「建設国債」を買おうとしてもそ
んな国債はないので、買うことは不可能です。
 それでは、毎年償還する60分の1の償還費は、どこからくる
のでしょうか。それは「国債整理基金特別会計」です。毎年の国
債残高の「1・6%」が一般会計から組み入れられることになっ
ています。これを「定率繰入」(定率法)といいます。これに対
して、上の例のように10年後に一定額(100億円)を償還す
るのは「定額法」といいます。つまり、債務の償還は定額法なの
に、償還費の積み立ては定率法──これじゃ、計算が合うはずが
ありません。
 ところで、なぜ、1・6%なのでしょうか。それはきっと60
分の1を意識しているものと思われます。上の例にしたがって、
実際に計算してみます。10年経過すると、600億円の1・6
%にあたる9・6億円が国債整理基金特別会計に積み立てられ、
10年目には、100億円ではなく、9・6億円が償還されるこ
とになる──4億円不足します。
 この1・6%は国債残高の1・6%であるので、残高が少なく
なってくると、積立額も減ってきます。上の例で60年目になる
と、国債残高は100億円であるのに、年間積立額は1・6億円
しかなく、84億円も不足します。それでは、どうするのかとい
うと、不足額は別途一般会計から支出することになります。そう
であるなら、年間積立など意味はありません。きわめていい加減
であり、わざわざ財政を悪く見せたいのでしょうか。
 実は、「60年償還ルール」のようなことをやっている国は日
本だけです。グローバル・スタンダードでは、原則的に、政府の
債務(国内で自国通貨で発行されたもの)は、完全に返済(債務
をゼロに)することはなく、事実上、永続的に借り換え(満期が
来た国債を償還するさい、償還額と同額の国債を発行する)され
債務残高は維持されていきます。
 これが個人であれば、「借金を借金して返済する」ことになる
ので問題ですが、国のレベルであれば、何の問題もないのです。
米国、英国、フランス、ドイツなどの主要国は、単に利払いしか
計上していないのです。まして、日本の財政破綻率は、先進国の
なかではドイツと並んで最も低いレベルです。それなのに、財務
省はこの「60年償還ルール」を行い、わざわざ財政を厳しくし
ているのです。
 ZUUオンラインのサイトに掲載されているレポートでは、こ
の日本のやり方に関して次のように述べています。
─────────────────────────────
 グローバル・スタンダードでは積み上がった国の債務をどう返
していくのかという問いそのものが存在せず、利払いを続けなが
ら、債務残高を経済状況も安定させながらどう維持していくのか
という問いのみ存在する。
 その理由は、政府の負債の反対側には、同額の民間の資産が発
生し、国債の発行(国内で自国通貨で発行されるもの)は貨幣と
同じようなものとみなされるからだ。
 日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれ
ば、歳出は債務償還費分の16・8兆円程度も削減できることに
なる。防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本
主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能と
なる。60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめ
ない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい
資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能とな
るだろう。             https://bit.ly/3R6LFRu
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/010]

≪画像および関連情報≫
 ●「建設国債の買いオペ」は実行可能か――国債の「60年償
  還ルール」について考える
  ───────────────────────────
   防衛費増額分の財源確保の問題をめぐって、国債の「60
  年償還ルール」のことが話題になっている。このルールを見
  直せば、「埋蔵金」が発掘できて増税なしで防衛財源が確保
  できるという話もあるようだが、そのようなことは実現する
  のだろうか。以下ではこの点について論点整理を行い、それ
  を踏まえて財政運営をめぐる課題について考えてみることと
  したい。
   あらかじめ記しておくと、60年償還ルールをめぐる議論
  をながめるうえでの大事なポイントは、財源不足を補填する
  手段という財政運営の面から見た場合の「国債」と、国が資
  金調達をするために発行する債券(金融商品)としての「国
  債」をきちんと分けて考えるということだ。赤字国債・建設
  国債というのは前者(財政面)から見た場合の国債の区分で
  あり、短期国債・長期国債というのは後者(金融面)から見
  た場合の国債の区分である。
   この両者の違いを意識的に分けて考えると、議論の見通し
  がよくなる。まずはこの点を確認するために、「建設国債の
  買いオペ」について考えてみよう。10年前、「日銀に建設
  国債を買ってもらう」という安倍晋三自民党総裁(当時)の
  発言が話題になったことがあった(2012年11月17日
  の熊本市での講演における発言)。https://bit.ly/3JoQ9B0
 ●グラフの出典/https://bit.ly/401U3G3
  ───────────────────────────
国債60年償還ルール.jpg
国債60年償還ルール
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする