2023年01月24日

●「日本経済のポジションとはどこか」(第5891号)

 2022年10月21日、それは起きたのです。その日の外国
為替市場は「1ドル=151円」を付けたのです。これは、32
年ぶりの円安であり、日本経済にとって衝撃的な出来事だったと
いえます。問題は、この円安をどう見るかです。
 さまざまな意見がありますが、日本の通貨である円の推移を鋭
い視線で分析している、みずほ銀行、唐鎌大輔チーフマーケット
・エコノミストは次のように述べています。
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 従来「1ドル=100〜120円」だった円相場の変動域が、
「120〜140円」や「130円〜150円にスライドしてい
る可能性は高い。この原因として、日本の貿易黒字の消滅と対外
直接投資の急拡大がある。          ──唐鎌大輔氏
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 確かに、1922年度の貿易赤字(通関ベース)は20兆45
60億円であり、比較可能な1979年以降で最大になる見通し
です。2023年も13兆5540億円の赤字になるといわれて
います。
 ここで、国際収支の発展段階説における日本のポジションに話
を戻す必要があります。国際収支の発展段階説を以下に再現する
ことにします。
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          @未成熟な債務国
          A成熟した債務国
          B  債務返済国
          C未成熟な債権国
        → D成熟した債権国
        → E債権取り崩し国
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 以上のうち、@からCまでは簡単に説明をしております。結論
から先にいうと、日本はDの「成熟した債権国」のポジションに
あります。Dの「成熟した債権国」とEの「債権取り崩し国」の
違いは次のようになっています。
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           成熟した債権国   債権取り崩し国
      経常収支      黒字        赤字
 貿易・サービス収支      赤字        赤字
   第一次所得収支    大幅黒字        黒字
     対外純資産    大幅黒字        黒字
      金融収支      赤字        黒字
    ──唐鎌大輔著/『「強い円」はどこへ行ったのか』
                 日経プレミアムシリーズ
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 前提的な知識として「経常収支」について理解する必要があり
ます。経常収支とは、海外との貿易や投資といった経済取引で生
じた収支を示す経済指標のことです。
 この経常収支の構成要素として、自動車などのモノの輸出から
輸入を差し引いた貿易収支、旅行や特許使用料などのサービス収
支、海外からの利子や配当を示す第1次所得収支、政府開発援助
(ODA)などの第2次所得収支があります。
 この経常収支に、企業の買収や株式投資など金融資産の動きを
示す「金融収支」を加えたものが、国際収支となります。これに
ついては、財務省が毎月統計を公表しています。
 文章で説明すると、わかりにくいので、財務省が公表している
数値を以下に示します。
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                 2022年9月現在
   貿易・サービス収支 ・・・ ▲2兆1028億円
        貿易収支 ・・・ ▲1兆7597億円
          輸出 ・・・  8兆8275億円
          輸入 ・・・ 10兆5872億円
      サービス収支 ・・・   ▲3431億円
     第1次所得収支 ・・・  3兆2226億円
     第2次所得収支 ・・・   ▲2104億円
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        経常収支 ・・・    9094億円
                  https://bit.ly/3ZRL0ra
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 第1次所得収支の3兆2226億円から、貿易・サービス収支
の赤字2兆1028億円と第2次所得収支の赤字2104億円を
引くと、9094億円という経常収支が得られます。
 コロナ禍で海外の旅行客が日本に来れなくなることによる、い
わゆるインバウンド需要が減り、サービス収支が赤字になったこ
とと、原油や天然ガスなどのエネルギー資源の大半を海外に依存
する日本は、折からの円安ということもあって、貿易収支は赤字
になっています。
 もともと日本という国は、1970年以降、貿易黒字を確保し
たうえで、海外投資の利子や配当金などの第1次所得収支の黒字
を加えて、大幅な経常黒字を稼ぐ国だったのです。このときの日
本は、国際収支の発展段階説では、Cの「未成熟な債権国」だっ
たのです。この膨大な経常黒字の累積が「世界最大の対外純資産
国」を築き上げたのです。このとき日本は、貿易収支と所得収支
の両方で稼ぐ国家だったわけです。
 しかし、コロナ禍から完全に脱却していないことはあるものの
貿易収支は赤字に転落し、結局、現在、日本の経常収支を支えて
いるのは、第1次所得収支だけということになります。しかし、
第1次所得収支の累積額は大きく、現在でも依然として「世界最
大の対外純資産国」のステータスを守っています。したがって、
現在の日本は、国際収支の発展段階説のDの「成熟した債権国」
に位置付けられているといえます。
           ──[メタバースと日本経済/007]

≪画像および関連情報≫
 ●成熟した債権国に進む日本経済/長谷川正氏
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   日本経済を過去数十年間にわたって振り返ると、大きく変
  化している。この変化を多方面からとらえることができるが
  その1つは産業構造からのアプローチである。石油ショック
  後、産業の「軽薄短小化」、すなわちエネルギー消費量が少
  ない産業構造への転換が生じたが、生産するものは依然とし
  て「モノ」であった。その後、さらに構造転換が進み現在、
  「情報」という目には見えないもの、すなわち「IT化」が
  進展している。このほか、就業構造の変化からもとらえるこ
  とができる。女性の就業率が高まり、いまや日本経済は、女
  性労働力なしでは成り立たなくなっている。労働市場では、
  さらに終身雇用・年功序列制度といった日本経済に深く根付
  いていたと思われた制度が、最近では崩れてきている。この
  ように日本経済の変化を多方面からとらえることができるが
  本レポートでは、日本と海外との、「モノ」や「サービス」
  さらに「所得」の取引によってとらえることにする。日本経
  済の国際化が急速に進んでいるだけに、海外との取引におい
  て、日本経済の構造転換が鮮明に表れているはずである。本
  レポートで明らかになったことを前もって述べると、次の点
  である。
   @貿易・サービス収支の黒字額が縮小傾向にあること。
   A一方、所得収支黒字額は拡大傾向にあること。
   すなわち、日本経済は成熟した債権国に進みつつある。こ
  の動きは、今後さらに強まると見込まれる。なお、「成熟し
  た債権国」の厳密な定義については後で行うことにする。
                  https://bit.ly/3Hm89Lb
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経常収支の推移.jpg
経常収支の推移
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする