2023年01月06日

●「『円安狂騒曲』はなぜ起きたのか」(第5887号)

 2022年は、2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、日本
では「円安狂騒曲」といえる状況が起きています。実はこの傾向
は、2021年秋から、いつまでも新型コロナウィルスの感染対
策にこだわる日本は金融市場から忌避されつつあると、一部の専
門家が警鐘を鳴らしていたのです。
 それにしても、22年初めには、115円ほどだった対ドル円
相場が、10月には「1ドル=151円」台まで円安に振れたの
ですから、まさに「円安狂騒曲」そのものです。このレベルの円
安は、実に32年ぶりのことです。
 「朝まで生テレビ」では、円安狂騒曲については、ほとんど取
り上げられていないのです。為替の問題は、話がどうしても難し
くなるからで、議論していると話が混乱するからでしょう。しか
し、多少難しくなることを承知で、EJはこの問題を取り上げま
す。通貨が安いということは日本の国力に関係するからです。
 一般的に、円高よりも円安の方がメリットがあるといわれてい
ます。「価格効果」といわれるものがあります。円安における価
格効果とは、外貨建てで取引されている製品やサービスにとって
は、円安が進むと、外貨建ての価格は変わらないが、円に換算し
たときの価格は上昇することをいいます。
 例を上げると、1個当たり1ドルで輸出している製品があると
します。「1ドル=100円」のとき、その製品を円換算したと
きの価格は100円ですが、円安が進んで「1ドル=140円」
になったとき、その製品のドル建ての価格は1ドルと変わらない
のに対し、円換算では140円に上昇します。しかし、その製品
を輸入している企業は、円安が進めば進むほど、今までよりも高
い価格で、その製品を輸入しなければならなくなります。
 これによると、日本では世界的に有名な輸出企業が多いので、
円高よりも円安の方が日本経済にとっては有利なように考えられ
ますが、輸出企業の多い製造業では輸出金額の増加によって収益
力が改善しやすくなるものの、非製造業では、輸入コストの増加
によって収益力が悪化するので、円安が必ずしも日本経済に有利
であるとはいえなくなっています。
 これについて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部
研究員の藤田隼平氏は、次のように述べています。
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 総務省の公表している2015年の産業連関表(最新調査)を
用いて、円安が進んだ場合に企業の収益力(付加価値率=付加価
値/生産額)がどの程度変化するのかを試算してみると、円安に
よって製造業の収益力が改善する効果よりも、非製造業の収益力
が悪化する効果の方が大きいとの結果が得られる。
 特に近年は、円安がメリットとなる製造業において海外現地生
産比率の上昇により輸出が伸び悩んでいるほか、グローバルサプ
ライチェーンの構築により、製造業、非製造業ともに海外部品や
原材料への依存度が高まっていることなどから、円安が製造業の
収益力を改善する効果は徐々に小さくなり、逆に非製造業の収益
力を悪化させる効果が大きくなっている。
                 https://nkbp.jp/3Zc5uKM
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 2023年1月3日の外国為替市場では、対ドル円相場は、一
時「1ドル=129円」という円高ドル安水準をつけています。
これは、日銀がさらなる金融緩和策の修正を行うのではないかと
いう警戒心があるとみられます。
 そもそも、なぜ、円安ドル高になったのかについて、1月4日
付の朝日新聞は次のように報道しています。
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 円相場は2022年、日米の金利差拡大を背景に急速に円安ド
ル高が進んだ。激しいインフレを抑えようと米国の中央銀行、米
連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げする一方で、日銀
が金利を低く保ったことで、金利の高いドルを買い円を売る動き
が加速。22年初めに115円ほどだった対ドル円相場は、10
月に32年ぶりに1ドル=151円台まで円安に振れた。
 政府と日銀は円買いドル売りの為替介入にも踏み切った。しか
し、その後は逆に日米の金利差が縮小するとの思惑から円高が進
んでいる。       ──2023年1月4日付、朝日新聞
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 それなら、1月3日の外国為替市場では、なぜ、円高/ドル安
になったのでしょうか。それは、日銀が12月20日に、長期金
利の上限をそれまでの0・25%程度から、0・5%程度へ引き
上げたからです。日銀の黒田総裁は「これは利上げではない」と
いいましたが、どうみても利上げそのものであり、外国為替市場
ではそう判断したのです。
 そのため、日経平均株価は一時820円を超える急落に見舞わ
れ、外国為替市場では一気に6円以上円高が進むなどの大混乱に
陥ったのです。市場関係者は、この日銀の措置を「だまし討ち」
と呼び、評判がすこぶる悪いのです。
 この市場の混乱には理由があります。国会では、当然この円安
/ドル高について、日銀への質問が相次いだのですが、この長期
金利の変動幅の引き上げも提案されていたのです。5月10日の
参議院財政金融委員会でのことです。そのとき、日銀の事務方の
トップである内田真一理事は次のように答弁しているのです。
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 長期金利の変動幅の引き上げについては、事実上の利上げとな
り、日本経済にとって好ましくない。  ──日銀内田真一理事
─────────────────────────────
 この発言によって、市場関係者は「長期金利の変動幅の引き上
げはない」と警戒心ゼロであったところをいきなり日銀がやった
ので「だまし討ち」ということになったのです。なお、この日銀
の判断には、官邸も一枚噛んでいるともいわれています。11月
10日に黒田日銀総裁が岸田首相と会っているからです。
           ──[メタバースと日本経済/003]

≪画像および関連情報≫
 ●日本円に何が起きている?止まらない円安とその影響
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   20世紀末、日本は経済大国として初めてゼロ金利を導入
  した。新型コロナウイルスのパンデミックの際、多くの国が
  経済を支えるためにこの戦術を導入した。現在は、こうした
  国々は利上げに転じている。他方、複数報道によると、日本
  銀行は2022年10月28日まで開いた金融政策決定会合
  で、金融政策の現状維持を決定。短期金利をマイナスにし、
  長期金利はゼロ%程度に抑える大規模な金融緩和策を維持す
  ると決めた。
   この低金利政策が、日本円に悪影響を与えている。日本円
  は長らく、危機に際して投資家が買う安全な通貨とされてい
  た。しかし今、この立場が危うくなっている。今年だけで対
  ドルで5分の1以上の価値を失っており、1990年以降で
  最安値を更新した。
   円安は、日本とアメリカの政策金利の違いによって生じて
  いる。今年3月以降、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備
  制度理事会(FRB)は、生活費高騰に対処するため、金利
  を0・25%から3・25%まで積極的に引き上げた。金利
  が高ければ高い方が、投資家にとっては、その国の通貨の魅
  力が増す。その結果、低金利国の通貨の需要は減り、その価
  値も下がる。しかし、円安は日本の財政状態がその原因だと
  指摘する専門家もいる。日本経済は過去30年間、ほとんど
  成長していない。また、同国は世界で最も公的債務残高の多
  い国だ。さらに、出生率が低く、世界で最も高齢者の割合が
  多いため、人口の時限爆弾を抱えていると言える。
                  https://bbc.in/3InrU66
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黒田日銀総裁.jpg
黒田日銀総裁
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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