2023年01月01日

新年特集号/「新年のご挨拶/2023.1.1」

 2022年のEJは、1月5日の第5644号から12月28
日の第5884号までの241本を、営業日の毎日、一日も欠か
さず、お届けしました。その間、同じコンテンツをブログにも投
稿しています。EJ第6000号は、2023年5月頃に達成す
る予定です。
 2022年は、次の3つのテーマを取り上げて、執筆してきて
おります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.新しい資本主義 ・・・・・・・・・・ 130回
 2.新中国論 ・・・・・・・・・・・・・・ 51回
 3.ウェブ3/メタバース ・・・・・・・  60回
 ―――――――――――――――――――――――――――
                      241回
―――――――――――――――――――――――――――――
 2022年の3番目のテーマである「ウェブ3/メタバース」
において、GAFAMについて詳しく取り上げました。しかし、
そのGAFAMも丸3年になろうしているコロナ禍において、大
きなダメージを受けています。そのGAFAMのなかで、4つ目
のAであるアマゾンは、コロナ禍で逆に利用価値が高まり、通販
市場において、リーディングカンパニーになっています。
 しかし、ここにきて、アマゾンの対抗馬というか、反アマゾン
ともいうべきEコマースの注目すべきプラットフォーム企業が出
現しています。それは「ショッピファイ/Shopify」 といわれて
いますが、ご存知でしょうか。
 ショッピファイは、2006年にカナダのオタワで創業され、
2020年現在、世界175カ国以上で、100万以上の店舗で
利用されています。2021年現在、カナダロイヤル銀行、トロ
ント・ドミニオン銀行などを超え時価総額でカナダ最大の企業と
なっています。
 このショッピファイについて、クーリエ・ジャポンは次のよう
に紹介しています。
─────────────────────────────
 ショッピファイは、もともとはありふれたEコマースサイト構
築会社にすぎなかった。出店したい人は支払いや決済処理、プロ
グラミングなどの複雑な処理を気にすることなく、ただ、商品の
写真をショッピファイに転送し、価格を決め、銀行口座情報を提
供すればすぐに商品を売ることができる。
 ここ15年ほどでeコマースは物珍しい存在から日常の一部へ
と成長した。ショッピファイの事業もそれに伴って拡大を続け、
いまや時価総額1000億ドル超の上場会社だ。ショッピファイ
のサービスには、同社プラットフォームの加盟店向けに資金を提
供する「ショッピファイ・キャピタル」や、顧客用決済システム
「ショップペイ」などがあり、こちらは6000万人以上のユー
ザーがいる。(中略)
 このショッピファイ方式は、アマゾンをはじめ、ウェイフェア
やウォルマートなど、サードパーティー運営型マーケットプレイ
スで利益を折半したり、ブランドが弱体化したりすることを望ま
ない「ダイレクト・トゥ・コンシューマー/D2C」ブランドの
あいだで歓迎されている。     ──クーリエ・ジャポン編
  『変貌する未来/世界14社の次期戦略』/講談社現代新書
─────────────────────────────
 ショッピファイは、米国内でよく利用されているEコマースサ
イトの売上高の順位で、2019年に「イーベイ」を抜き、2位
に浮上し、Eコマース全体の6%を占めるまでになっています。
2020年には、さらにシェアは8%に上昇しますが、1位のア
マゾンのシェアは37%でダントツですが、ショッピファイの伸
び率は急ピッチで上昇しています。
 ここまでの説明では、ショッピファイが何をするプラットフォ
ームで、何をする企業かわからないと思います。理解するカギは
「D2C」にあります。これに関連して「B2B」と「B2C」
を理解する必要があります。
─────────────────────────────
      B2B ・・ Business to Business
      B2C ・・ Business to Consumer
      D2C ・・  Direct to Consumer
─────────────────────────────
 「B2B」は、企業同士の取引であり、「B2C」は企業と消
費者との取引です。これに対して「D2C」は製造者がダイレク
トに消費者と取り引きをすることをいいます。
 D2CとB2Cは混同しやすいのです。B2Cは、企業と消費
者の取り引き全般のことです。例えば、楽天市場や、アマゾンと
いったオンラインショッピングモールは、消費者と取り引きをす
るのでB2Cですが、製造者ではないので、D2Cではないので
す。なお、D2Cは厳密には通販と同義語でもないのです。通販
は、店舗を介さずに商品を購入することですが、D2Cは実店舗
も使えるからです。
 すなわち、D2Cは、メーカーなどの製造者が自社ECサイト
で商品を消費者に直接販売するため、販売業者を介さないという
ことが最大の特徴です。D2Cのショッピファイは、ECサイト
の製作・管理をはじめ、さまざまなアプリや商品を売るための諸
サービスのプラットフォームを格安の料金プランで提供します。
 アマゾンの成功のカギが「顧客第一主義」にあったとすれば、
ショッピファイの成功のカギは「出店者第一主義」ということが
いえると思います。ショッピファイについては、いずれEJで取
り上げたいと考えています。
 日本では、どうしてこういうスタートアップが生まれないので
しょうか。今年のEJでは、そのことも含めて、ICT技術を中
心に書いていこうと考えています。新年のEJの配信は、1月4
日から新テーマで行います。

≪画像および関連情報≫
 ●ショッピファイとは?
  ───────────────────────────
   皆さん。現在世界で最も利用されているECプラットフォ
  ーム「Shopify(ショッピファイ)」をご存知ですか?
   ショッピファイは全世界175カ国、170万店舗以上の
  ストアで利用されている世界最大のECプラットフォームで
  す。グローバルでの流通総額はなんと30兆円を超えていま
  す。2022年1月ジェノスAIの調査によると、2020
  年3月から2022年1月の間に、ショッピファイで作られ
  たウェブサイトのの数は201、53%急増しました。パン
  デミックの影響により、ショッピファイは1287547の
  ウェブサイトを新規でホスト(公開)し、累計3882345
  サイトを記録しました。したがって、ショッピファイは直近
  2年間で2594798と驚異的な数の新しいショッピファ
  イサイトを追加しました。
   初期費用がいらず月額課金制。そしてデザイン性も高くシ
  ンプルで高機能。更にクラウド型(SaaS型)のため日々
  バージョンアップされていく、現代のニーズにマッチしたE
  Cカートと言えるショッピファイ。国内でも徐々にコミュニ
  ティが増え、ショッピファイでのECサイト構築はトレンド
  になりつつあります。2020年1月には日経新聞にも取り
  上げられ、大きな注目を浴びています。
                  https://bit.ly/3jLmW8Y
  ───────────────────────────
2023年元旦.jpg
2023年元旦
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2023年01月04日

●「朝生で激論/今年の日本はどうなる」(第5885号)

 このEJは、元旦特別号を除いて、2023年はじめてのEJ
になります。今年もEJをよろしくお願い申し上げます。
 例年の私の習慣ですが、新年は「朝まで生テレビ」は録画して
元旦の午後見ることにしています。しかし、今年の朝生は、録画
はしたものの、徹夜になってしまいましたが、最後まで全部生で
見ました。今年の朝生のテーマは次の通りです。
─────────────────────────────
  ◎朝まで生テレビ「元旦SP」/テレビ朝日
   2023年1月1日(日)01:45〜05:5
    『2023年の日本は良くなる?悪くなる?』
─────────────────────────────
 なぜ、生で見たかというと、新年のEJのテーマに関係がある
と思ったからです。出演者は、片山さつき、小川淳也、小幡績、
小林慶一郎、駒崎弘樹、田内学、たかまつなな、デービッド・ア
トキンソン、藤井聡、三浦瑠麗、森永卓郎、藤川みな代、そして
田原総一朗の各氏です。今年のテーマに関する視聴者からのメッ
セージの結果は次の通ります。
─────────────────────────────
      今年の日本は良くなる ・・ 14%
      今年の日本は悪くなる ・・ 85%
             その他 ・・  1%
─────────────────────────────
 「今年の日本は悪くなる・・85%」──今年の日本、何とも
暗い結果になっています。岸田政権に対する国民の強い不満があ
るようです。大きな話題になっている防衛費の増額について岸田
首相は増税を含む財源確保を強引に打ち出す一方で、日本にとっ
て喫緊の課題である少子化対策の財源に対して、あえて曖昧にし
ています。これにはウラがあります。
 防衛費の財源について「消費増税」に言及しなかったのは「消
費税は社会保障の財源である」といってきた手前、いえなかった
のです。しかし、少子化対策としての消費増税なら矛盾しないと
いうことで、岸田内閣は必ず財源の一部として、消費増税を訴え
てくると、経済評論家の森永卓郎氏はいっています。
 今年の朝生のパネラーの一人として、小林慶一郎氏というマク
ロ経済学者が出演しています。シカゴ大学大学院博士課程を修了
して、現在は、東京財団政策研究所研究主幹を務めています。日
本の財政は危機的であり、その膨大な借金を何とかしなければい
けないと主張しており、財務省の考え方とそっくりです。EJで
は、MMT(現代貨幣理論)をテーマに取り上げたさいに、小林
慶一郎氏の主張を対論として紹介しています。小林氏は、「オオ
カミ少年といわれても毎年1冊は財政危機の本を出していくつも
り」というぐらい、日本の財政については強い危機意識をもって
いる経済学者です。
 小林氏は、朝生の議論のなかで、日本の現代の若者は、日本の
膨大な借金に不安を持っており、近い将来財政破綻が起きるだろ
うと不安に思っているので、安心して投資もできない、結婚もで
きないと思っている。したがって、これを解決することが何より
も重要であると主張しています。
 これに対して、経済評論家の森永卓郎氏は、この小林氏の主張
に対して、次のように真っ向から反論しています。
─────────────────────────────
 2020年度でいうと、政府が1600兆円の負債をかかえて
います。その一方で、1100兆円の資産を持っており、その7
割は金融資産なんです。つまり、日本の純債務は500兆円しか
ない。GDPとほぼ同額の債務であるなら、先進国ではほぼ並み
の水準です。しかも、日本の場合、日銀が大量に国債を持ってい
て、それが500兆円ぐらいになる。日銀が国債を保有した瞬間
に借金は消えるんです。ということは、日本は、完全に無借金に
なっているのです。にもかかわらず、財務省は増税を続けようと
している。         ──森永卓郎氏の朝生の発言より
─────────────────────────────
 小林慶一郎氏の発言に対する痛烈な反論です。しかし、当の小
林氏は、ご自身の主張が間違いであるといわれたのにもかかわら
ず、それに対して何も反論しないし、他のパネラーからも、森永
氏の主張に対する反論はなく、別の話題に移っています。まとも
に反論しても森永氏に勝てないからです。
 正確にいうと、普通国債残高は、2022年度末には1029
兆円になるといわれています。GDPの約2倍です。重要なのは
これを「国の借金」と呼ぶことです。これは、正しくは、日本政
府の借金であり、これに地方政府の借金である地方債の約200
兆円を加える必要があります。それに、国の借金というときは、
それに対応する資産についても言及する必要があります。実際に
財務省は借金の額だけを強弁し、資産に関しては一切ふれようと
せず、国民一人当たり約1000万円を超える借金と強弁し、国
民を不安におとしいれています。だから、森永氏は、財務省とい
うカルト宗教に近い役所を廃止せよとまで、朝生において発言し
ているのです。
 しかし、本当に日本は膨大な借金を抱えて、もうどうにもなら
ない状態なのでしょうか。
 そんなことは、けっしてないと思います。しかし、それには成
長戦略が必要ですが、それは、インターネットの次といわれる宇
宙産業や量子コンピュータなどに代表される次世代コンピュータ
の領域ではなく、メタバースがあります。その理由については、
明日から述べていきますが、2023年の最初のテーマのタイト
ルは次のようにしたいと考えています。
─────────────────────────────
     メタバースと日本経済の関係について考える
     ─コンテンツ大国としての強みを生かす─
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/001]

≪画像および関連情報≫
 ●田原総一朗氏「だったらこの国から出て行け!」 朝生で出
  演者に激高
  ───────────────────────────
   2023年1月1日に放送された討論番組「朝まで生テレ
  ビ!」(テレビ朝日系)で、司会の田原総一朗氏が共演者に
  「スタジオから出て行け!」と激高する一幕があった。「本
  当は日本は良くなると思ってるの、思ってないの?」
   大晦日に放送された「朝まで生テレビ!/元旦スペシャル
  〜激論!ド〜する?!/日本再興2023〜」とする約4時
  間の拡大生放送でのひと幕だ。
   司会の田原氏と激論を繰り広げたのは、ジャーナリストと
  して活動するお笑いタレントのたかまつななさん。「日本は
  立て直せる?」とするトピックについて、出演者が番組に出
  演するパネリストらの顔ぶれが長年変わらないことについて
  問題提起したシーンだ。田原氏はたかまつさんなど若いパネ
  リストが出演していることについて触れ、「彼らなんて若い
  じゃない」と発言した。
   もっと若い人に発言させるべきとする指摘が上がったとこ
  ろで、たかまつさんは「発言させてください」と手を挙げ、
  「私は(『日本は立て直せる?』とする質問に対し)「×」
  にしたんですけども、理由としては日本社会でもう諦めがは
  びこってると思うんですね」と切り出した。
                  https://bit.ly/3GxhAXx
  ───────────────────────────
森永卓郎氏.jpg
森永卓郎氏
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2023年01月05日

●「GDP500兆円は結構大きな金額」(第5886号)

 元旦の「朝まで生テレビ」のなかの発言でも光る納得のできる
発言もあります。立憲民主党の政務調査会長、小川純也氏の次の
発言です。
─────────────────────────────
 GDPは一定を割り込むと、国民は食っていけない。ただし、
未来永劫ずっと成長し続けることは地球環境が耐えられない。し
たがって、一定の幅のなかで、均衡させる必要がある。そのため
成長経済に変わる持続可能な均衡経済という概念を入れていかな
ければならない。
 日本のGDPは500兆円。これ、結構大きな数字である。国
民一人当たりでいうと500万円。勤労者が5000万人いると
すると、一人当たりの年収が1000万円であってもおかしくな
いGDPの規模である。
 ところがGDPというのは、賃金と支払い利息、家賃、さらに
企業収益などを総じて500兆円だから、労働者に分配されるも
のが少なく、低賃金になっている。したがって、GDPの拡大よ
りも、再分配を強化すべきである。
 家賃収入という名の不労所得、支払利息という名の金融所得、
そして企業収益、配当、内部留保。これらが厚く成り過ぎていて
500兆円を血液が全身に循環するように国民のすみずみまで行
き渡させるようにしないといけない。
 そのために何をしないといけないか。それは再分配の強化であ
る。相続課税、法人税、所得税の累進性の復活などが、いま必要
になってきている。        ──小川純也氏の発言より
─────────────────────────────
 同じような発言をテレ朝のモーニングショーで、成田悠輔米イ
エール大学准教授から聞いています。成田准教授は最近売れっ子
になっています。日本のGDPは、約500兆円ですが、これが
30年間伸びていないという話が出たときに、成田准教授は「で
も500兆円を30年間持ちこたえるって凄いことですよ」と発
言したのです。
 そこで調べてみたのです。日本の名目GDPが500兆円を超
えたのは1992年のことです。その後のGDPの推移は次の通
りですが、2年間だけ500兆円を割っています。皮肉なことに
民主党政権のときです。これまで、名目GDPの最高額は、安倍
政権時の2019年の558兆円です。
─────────────────────────────
◎日本の名目GDP推移
  1992年・・505兆円 2007年・・ 539兆円
  1993年・・505兆円 2008年・・ 527兆円
  1994年・・510兆円 2009年・・ 494兆円
  1995年・・521兆円 2010年・・ 505兆円
  1996年・・535兆円 2011年・・ 497兆円
  1997年・・545兆円 2012年・・ 500兆円
  1998年・・536兆円 2013年・・ 508兆円
  1999年・・528兆円 2014年・・ 518兆円
  2000年・・535兆円 2015年・・ 538兆円
  2001年・・531兆円 2016年・・ 544兆円
  2002年・・524兆円 2017年・・ 535兆円
  2003年・・523兆円 2018年・・ 556兆円
  2004年・・529兆円 2019年・・ 558兆円
  2005年・・532兆円 2020年・・ 537兆円
  2006年・・535兆円 2021年・・ 541兆円
                  https://bit.ly/2X1gn1X
─────────────────────────────
 2022年の名目GDPは、22年7〜9月期名目GDPの季
節調整値は554兆円であり、間違いなく500兆円を達成でき
ます。確かに、日本は、これほど長く500兆円以上をクリアし
てきています。成田准教授のいうそのふんばり力はたいしたもの
であり、その力があれば、必ず日本は、経済を復活させることが
できる可能性を持っていると思います。
 しかし、現代の若者は、日本の将来に対して、強い不安を感じ
ています。なぜなら、日本は名目GDPの2倍に当たる1000
兆円を超える借金があり、30年間にわたって経済が成長せず、
諸物価が高騰しているのに、賃金が上がらないままです。それに
加えて、日銀による異次元の金融緩和政策の継続によって円安が
進んでおり、「安い日本」のイメージが定着しつつあります。
 そのため、現代の若者は、日本という国に対して負のイメージ
を抱いています。つまり、必要以上に「自虐的」になってしまっ
ていると思います。例えば、「東洋経済オンライン」は、日本の
ことを次のように書いています。
─────────────────────────────
 日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく
言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、G
DPのG「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GD
Pの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世
界の常識です。
 日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、
世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でした
が、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下
のほうになっています。       https://bit.ly/3IjscKV
─────────────────────────────
 この1人当たりGDPで、日本は近く韓国や台湾にも抜かれる
といわれています。日本にとって負の情報ばかりです。しかし、
日本は本当にそんなに貧乏な国になってしまったのでしょうか。
プラスの情報はないものでしょうか。
 隠されている情報はたくさんあるのです。日本はいわれている
ほど、本当に貧乏なダメな国になってしまったのでしょうか。し
ばらくプラスの情報を収集してみたいと思います。
           ──[メタバースと日本経済/002]

≪画像および関連情報≫
 ●それでも『国の借金問題』が心配な方に寄せて〜日本国家の
  債務はゼロであるハナシ〜
  ───────────────────────────
   お金は負債であり、国債は政府による通貨の供給でありま
  す。
            借方      貸方
   日本政府         1000兆円
   みなさん 1000兆円
   上記の通り、いとも簡単な会計が成立します。もしも、日
  本政府が全ての国債を償還すれば、みなさんの資産であるお
  金(お札・預金)が全て徴収されます。
   お札の発行も、日銀は国債を買い取る事で供給しているわ
  けです。
             借方       貸方
    日本銀行     国債    日本銀行券
    民間銀行  日本銀行券       国債
   この仕訳以外に、日本銀行がお札(日本銀行券)を発行す
  る方法はありません。よって、国債がなければ、日銀はお金
  を発行する事すらできないのです。
   それでも、国債が『国の借金だ!」と頑迷な方には、この
  論説はいかがでしょうか・・・
   『日本の債務残高は1000兆円じゃなくてゼロだよ!』
  っていう、真実のカウンターパンチです。しかも、その資料
  は、財務省さまが提供してくださっています。
                  https://bit.ly/3Gzjebe
  ───────────────────────────
小川純也立憲民主党政調会長.jpg
小川純也立憲民主党政調会長
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2023年01月06日

●「『円安狂騒曲』はなぜ起きたのか」(第5887号)

 2022年は、2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、日本
では「円安狂騒曲」といえる状況が起きています。実はこの傾向
は、2021年秋から、いつまでも新型コロナウィルスの感染対
策にこだわる日本は金融市場から忌避されつつあると、一部の専
門家が警鐘を鳴らしていたのです。
 それにしても、22年初めには、115円ほどだった対ドル円
相場が、10月には「1ドル=151円」台まで円安に振れたの
ですから、まさに「円安狂騒曲」そのものです。このレベルの円
安は、実に32年ぶりのことです。
 「朝まで生テレビ」では、円安狂騒曲については、ほとんど取
り上げられていないのです。為替の問題は、話がどうしても難し
くなるからで、議論していると話が混乱するからでしょう。しか
し、多少難しくなることを承知で、EJはこの問題を取り上げま
す。通貨が安いということは日本の国力に関係するからです。
 一般的に、円高よりも円安の方がメリットがあるといわれてい
ます。「価格効果」といわれるものがあります。円安における価
格効果とは、外貨建てで取引されている製品やサービスにとって
は、円安が進むと、外貨建ての価格は変わらないが、円に換算し
たときの価格は上昇することをいいます。
 例を上げると、1個当たり1ドルで輸出している製品があると
します。「1ドル=100円」のとき、その製品を円換算したと
きの価格は100円ですが、円安が進んで「1ドル=140円」
になったとき、その製品のドル建ての価格は1ドルと変わらない
のに対し、円換算では140円に上昇します。しかし、その製品
を輸入している企業は、円安が進めば進むほど、今までよりも高
い価格で、その製品を輸入しなければならなくなります。
 これによると、日本では世界的に有名な輸出企業が多いので、
円高よりも円安の方が日本経済にとっては有利なように考えられ
ますが、輸出企業の多い製造業では輸出金額の増加によって収益
力が改善しやすくなるものの、非製造業では、輸入コストの増加
によって収益力が悪化するので、円安が必ずしも日本経済に有利
であるとはいえなくなっています。
 これについて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部
研究員の藤田隼平氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 総務省の公表している2015年の産業連関表(最新調査)を
用いて、円安が進んだ場合に企業の収益力(付加価値率=付加価
値/生産額)がどの程度変化するのかを試算してみると、円安に
よって製造業の収益力が改善する効果よりも、非製造業の収益力
が悪化する効果の方が大きいとの結果が得られる。
 特に近年は、円安がメリットとなる製造業において海外現地生
産比率の上昇により輸出が伸び悩んでいるほか、グローバルサプ
ライチェーンの構築により、製造業、非製造業ともに海外部品や
原材料への依存度が高まっていることなどから、円安が製造業の
収益力を改善する効果は徐々に小さくなり、逆に非製造業の収益
力を悪化させる効果が大きくなっている。
                 https://nkbp.jp/3Zc5uKM
─────────────────────────────
 2023年1月3日の外国為替市場では、対ドル円相場は、一
時「1ドル=129円」という円高ドル安水準をつけています。
これは、日銀がさらなる金融緩和策の修正を行うのではないかと
いう警戒心があるとみられます。
 そもそも、なぜ、円安ドル高になったのかについて、1月4日
付の朝日新聞は次のように報道しています。
─────────────────────────────
 円相場は2022年、日米の金利差拡大を背景に急速に円安ド
ル高が進んだ。激しいインフレを抑えようと米国の中央銀行、米
連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げする一方で、日銀
が金利を低く保ったことで、金利の高いドルを買い円を売る動き
が加速。22年初めに115円ほどだった対ドル円相場は、10
月に32年ぶりに1ドル=151円台まで円安に振れた。
 政府と日銀は円買いドル売りの為替介入にも踏み切った。しか
し、その後は逆に日米の金利差が縮小するとの思惑から円高が進
んでいる。       ──2023年1月4日付、朝日新聞
─────────────────────────────
 それなら、1月3日の外国為替市場では、なぜ、円高/ドル安
になったのでしょうか。それは、日銀が12月20日に、長期金
利の上限をそれまでの0・25%程度から、0・5%程度へ引き
上げたからです。日銀の黒田総裁は「これは利上げではない」と
いいましたが、どうみても利上げそのものであり、外国為替市場
ではそう判断したのです。
 そのため、日経平均株価は一時820円を超える急落に見舞わ
れ、外国為替市場では一気に6円以上円高が進むなどの大混乱に
陥ったのです。市場関係者は、この日銀の措置を「だまし討ち」
と呼び、評判がすこぶる悪いのです。
 この市場の混乱には理由があります。国会では、当然この円安
/ドル高について、日銀への質問が相次いだのですが、この長期
金利の変動幅の引き上げも提案されていたのです。5月10日の
参議院財政金融委員会でのことです。そのとき、日銀の事務方の
トップである内田真一理事は次のように答弁しているのです。
─────────────────────────────
 長期金利の変動幅の引き上げについては、事実上の利上げとな
り、日本経済にとって好ましくない。  ──日銀内田真一理事
─────────────────────────────
 この発言によって、市場関係者は「長期金利の変動幅の引き上
げはない」と警戒心ゼロであったところをいきなり日銀がやった
ので「だまし討ち」ということになったのです。なお、この日銀
の判断には、官邸も一枚噛んでいるともいわれています。11月
10日に黒田日銀総裁が岸田首相と会っているからです。
           ──[メタバースと日本経済/003]

≪画像および関連情報≫
 ●日本円に何が起きている?止まらない円安とその影響
  ───────────────────────────
   20世紀末、日本は経済大国として初めてゼロ金利を導入
  した。新型コロナウイルスのパンデミックの際、多くの国が
  経済を支えるためにこの戦術を導入した。現在は、こうした
  国々は利上げに転じている。他方、複数報道によると、日本
  銀行は2022年10月28日まで開いた金融政策決定会合
  で、金融政策の現状維持を決定。短期金利をマイナスにし、
  長期金利はゼロ%程度に抑える大規模な金融緩和策を維持す
  ると決めた。
   この低金利政策が、日本円に悪影響を与えている。日本円
  は長らく、危機に際して投資家が買う安全な通貨とされてい
  た。しかし今、この立場が危うくなっている。今年だけで対
  ドルで5分の1以上の価値を失っており、1990年以降で
  最安値を更新した。
   円安は、日本とアメリカの政策金利の違いによって生じて
  いる。今年3月以降、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備
  制度理事会(FRB)は、生活費高騰に対処するため、金利
  を0・25%から3・25%まで積極的に引き上げた。金利
  が高ければ高い方が、投資家にとっては、その国の通貨の魅
  力が増す。その結果、低金利国の通貨の需要は減り、その価
  値も下がる。しかし、円安は日本の財政状態がその原因だと
  指摘する専門家もいる。日本経済は過去30年間、ほとんど
  成長していない。また、同国は世界で最も公的債務残高の多
  い国だ。さらに、出生率が低く、世界で最も高齢者の割合が
  多いため、人口の時限爆弾を抱えていると言える。
                  https://bbc.in/3InrU66
  ───────────────────────────
黒田日銀総裁.jpg
黒田日銀総裁
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2023年01月10日

●「日銀『だまし討ち』の真相を推理する」(第5888号)

 日本銀行の黒田総裁は、なぜ、長期金利の変動幅の引き上げを
行ったのでしょうか。この話には、ウラがあると思います。1月
6日の話の続きです。
 黒田日銀総裁が就任以来やってきたことを振り返ってみること
にします。黒田東彦氏が日銀の総裁に就任したのは、2013年
4月のことです。「脱デフレ」を政策に掲げる故安倍晋三首相に
請われての就任です。黒田総裁は、安倍首相の要請に応えて、国
債を買って金融市場に資金を大量に供給する「異次元金融緩和」
を開始します。その目的は、消費者物価の対前年上昇率を2%に
することです。しかし、ことは簡単ではなかったのです。
 2016年には、短期金利をマイナスに設定するマイナス金利
を導入し、長期金利を0%前後に抑える金利コントロール政策を
はじめます。しかし、日銀の保有する国債が2022年9月末時
点には、発行残高の50・26%に積み上がってしまっても、日
銀は目標の消費者物価の対前年上昇率2%には到達できず、岸田
政権になっても、政府は脱デフレ宣言ができないでいます。
 それでは、なぜ日銀は、市場から「だまし討ち」といわれるこ
とがわかっているのに、長期金利の変動幅の引き上げを行ったの
でしょうか。その理由は2つあります。
─────────────────────────────
   @市場が機能不全状態に陥る兆候があらわれたこと
   A円安対応で苦慮する官邸からの要望があったこと
─────────────────────────────
 @の市場の機能不全とは何のことでしょうか。
 これについては、1月7日付の日本経済新聞に関連記事が掲載
されています。
─────────────────────────────
◎国債、強まる買い手不在/長期金利日銀上限の0.5%到達
 長期金利が6日、日銀が上限とする0・5%に達した。7年半
ぶりの高水準で、日銀が2022年12月20日に長期金利の上
限を0・5%に引き上げてから初の上限到達となった。日銀が、
再び政策修正に動けば、長期金利が上昇(債券価格は下落)する
との警戒から、国債は、日銀以外の買い手が付きにくくなってい
る。市場機能が一段と低下し、企業の資金調達にも支障が出かね
ない。       ──2023年1月7日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 10年物国債(10年債)といえば、長期金利の指標になる国
債ですが、実は、その国債が、昨年の秋以降、業者間取引で売買
が成立しない日が多くなっていたのです。日銀はこれを市場の機
能不全状態であると判断し、長期金利の変動幅の引き上げに動い
たのです。
 上記の日本経済新聞の記事でも10年債に買い手がつかないこ
とを伝えていますが、これは1月17日と18日に控える日銀の
金融政策決定会合で、日銀がさらなる長期金利の変動幅の引き上
げを行うのではないかという市場関係者の疑心があるからです。
なぜなら、1月6日には、日銀が長期金利の上限とする0・5%
に既に達しているからです。
 つまり、市場関係者は、日銀が、6日時点で既に達している長
期金利の上限が0・5%のままで今後推移するとは考えていない
はずです。なぜなら、もし、日銀が10年債をこの利回りのまま
推移させると、他の年限の利回りとの逆転や乖離といった歪みが
さらに拡大すると考えられるからです。
 10年債の利回りは重要な指標です。社債の利回りを決めると
き、10年債の利回りを基準にして、その会社の信用度などを加
味して決定しているからです。
 市場の機能不全状態の典型といえば、英国での「トラスショッ
ク」があります。英国では、国債の暴落をきっかけに、大規模減
税策を掲げて就任したばかりのトラス首相が、辞任に追い込まれ
るという予想を超える事態が起きましたが、この暴落は、政治が
経済に大きな問題を引き起こし得る政策を行おうとしたときに、
「債券自警団」が警鐘を発したといわれています。債券自警団と
は、インフレを誘発するような金融・財政・政策に対して債券を
売ることで抗議する投資家の一団のことをいいます。
 Aの官邸からの要望とは何でしょうか。
 2022年11月10日のことです。黒田日銀総裁は、岸田首
相と会談しています。会談後、黒田総裁は、岸田首相から、持続
的な経済成長を実現するため、エネルギー価格高騰への対応や構
造的な賃上げ、成長のための投資や改革に取り組むとの話があっ
たことを明らかにしています。これについて、第一生命経済研究
所首席エコノミストの熊野英生氏は、情報として、次の趣旨のこ
とを述べています。つまり、10年債の事実上の利上げについて
話したのではないかというのです。
─────────────────────────────
 為替が実体経済に影響するまで3カ月以上のタイムラグがある
とされる。今回の金利上限引き上げを受けた円高が、効果を発揮
するのは、23年4月以降になる。23年4月の電気料金改定で
は、3割近い引き上げが予想されるが、為替が円高方向に修正さ
れれば、電力会社のコスト上昇圧力が軽減され、電気料金を押し
下げる効果が期待できる。      https://bit.ly/3vLspze
─────────────────────────────
 さらに熊野英生氏は、黒田日銀総裁は、次期日銀総裁が金融政
策をやりやすくするため、自らの手で、異次元金融緩和の後始末
に着手したのではないかと予測しています。そうであるとすれば
長期金利の変動幅が0・5%のままであるはずがなく、さらに引
き上げる可能性が十分あります。
 ちなみに次期日銀総裁は、雨宮正佳副総裁と前副総裁の中曽宏
大和総研理事長が有力視されていますが、サプライズとして「新
しい資本主義実現会議」のメンバーである、翁百合氏の名前も挙
がっていることを指摘しておきます。
           ──[メタバースと日本経済/004]

≪画像および関連情報≫
 ●初の女性総裁誕生か?岸田首相が画策する日銀トップ“サプ
  ライズ人事”と政権浮揚シナリオ
  ───────────────────────────
   新年早々、為替相場が大きく動いている。3日の外国為替
  市場では、円が急上昇し、一時1ドル=129円台半ばと7
  カ月ぶりの円高・ドル安水準を付けた。昨年10月の151
  円台後半から約22円も上昇したことになる。マーケットは
  この先、日銀が金融緩和策を縮小すると判断し、ドル売り・
  円買いの動きを強めている。
   今後、為替はどう動くのか。マーケットが注目しているの
  が、日銀の次期総裁人事だ。現職の黒田総裁の任期は4月に
  切れる。低支持率にあえぐ岸田首相は、“サプライズ”人事
  を画策しているという。「サプライズとして浮上しているの
  が、日銀初の『女性総裁』の誕生です。日銀総裁は基本的に
  財務省OBと日銀出身者が交互に就任する『たすき掛け』人
  事が行われてきた。財務省出身の黒田総裁の後任は、日銀現
  副総裁の雨宮正佳氏、中曽宏前副総裁、山口広秀元副総裁の
  名前が挙がっています。ところが、3人とも地味で、総裁に
  なっても刷新感が薄い。そこで岸田首相は『女性総裁』誕生
  で、世間にアピールするつもりではないか、とみられていま
  す。掲げる『女性活躍』政策ともマッチします」(霞が関関
  係者)有力候補として名前が挙がっているのが日本総研の理
  事長で、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」のメンバー
  でもある翁百合氏だ。他に、日銀政策委員会の審議委員を務
  めた白井さゆり慶大教授と、日銀初の女性理事を務めている
  清水季子氏の名が浮上。     https://bit.ly/3k16IbB
  ───────────────────────────
翁百合氏.jpg
翁百合氏
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2023年01月11日

●「日本にも誇るべき『世界一』がある」(第5889号)

 年末から年始にかけて、メディアが取り上げたのは、「安い日
本」「堕ちる!ニッポン」「買い負けする日本」など、どちらか
というと、日本にとって暗い話題ばかりです。
 国の問題点を指摘するのは悪いことではありませんが、あまり
自虐的になるのは考えものです。日本にもまだ「世界一」といわ
れるものがあるからです。
 しかし、それを説明するのは必ずしも簡単ではありません。な
ぜなら、そのためには、現在、日本が、経済的にどのようなポジ
ションにあるのかについて知る必要がありますが、それを理解す
るには、いくつかの難解な経済の専門用語の意味を知る必要があ
るからです。
 「有事の円」という言葉を聞いたことがありませんか。「円は
安全資産」という言葉はどうでしょうか。
 これについて、みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐
鎌大輔氏は、近著で次のように説明しています。
─────────────────────────────
 為替市場で円が安全資産と呼ばれてきた最大の理由は、多額の
経常黒字を安定的に稼ぎ、結果として、「世界最大の対外純資産
国」というステータスを保持していたことにあった。これは言い
換えれば、「世界で最も外貨建ての純資産を有する国」であり、
「有事の際にはそれだけ外貨売りを行って時間稼ぎをする余裕が
ある」という解釈にもなる。実際、対外純資産には売却が難しい
資産も多く含まれているはずだが、少なくとも世界に多くの通貨
が存在するなか、「相対的に防衛能力が高そうな通貨」であるこ
とは事実である。世界最悪の政府債務残高やハイペースで進む少
子化、結果としての低成長などにもかかわらず円や日本国債が安
定してきた背景に、そうした「鉄壁の需給環境」への信頼があっ
たことは論をまたない。──唐鎌大輔著/日経プレミアシリーズ
              『「強い円」はどこに行ったか』
─────────────────────────────
 「日本は世界最大の債権国である」──このようにいったら、
信じますか。
 そもそも「債権国」とは何でしようか。
 債権国とは、対外債権が債務を上回っている国をいい、逆に債
務超過の国を債務国といいます。日本は、1980年代に入り、
巨額の経常収支黒字を続けた結果,対外債権が累積し,1985
年以降、世界最大の債権大国となっています。
 それでは、米国はどうなのでしょうか。
 米国は、1975年には1400億ドル以上の債権を保有して
いましたが、その後、経常収支の赤字が続いたため、1985年
には債務国になり、1980年代末からは有史上最大の債務国に
転落しています。つまり、米国は、他国から最もたくさんお金を
借りている国ということになります。しかも、その債務は現在も
増え続けています。
 それなら、米国はなぜ破綻せず、繁栄しているのでしょうか。
これは実に興味あるテーマです。このテーマについては、改めて
取り上げることとして、ここでは昨年6月に公表された2022
年度の対外純資産の世界ベスト4を日本円で比較すると、次のよ
うになります。
─────────────────────────────
      ◎2022年対外純資産ベスト4
      1位/日 本 ・・・ 411兆円
      2位/ドイツ ・・・ 315兆円
      3位/香 港 ・・・ 242兆円
      4位/中 国 ・・・ 226兆円
                  https://bit.ly/3IzFCms
─────────────────────────────
 2022年度(2021年末)の日本の対外純資産の正確な数
値は、前年比15・8%増の411兆1841億円になります。
1年で56・1兆円増加し、その増加幅は過去最大です。世界2
位のドイツとの差は、100兆円近くまで開き、31年連続の世
界最大の対外純資産国のステータスを維持しています。
 「国際収支の発展段階説」という考え方があります。1950
年代に、英国の経済学者ジェフリー・クローサーと米国の経済学
者チャールズ・キンドルバーカーによって提唱された概念です。
簡単にいうと、一国が債務国から債権国へと発展する段階を国際
収支の観点から6段階に分けて定義づける考え方です。
─────────────────────────────
          @未成熟な債務国
          A成熟した債務国
          B  債務返済国
          C未成熟な債権国
          D成熟した債権国
          E債権取り崩し国
─────────────────────────────
 上記6つのうち、@〜Cまでを以下に簡単にメモしておくこと
にします。DとEは明日のEJで取り上げます。
 @「未成熟な債務国」──新興国は経済力が弱く、輸出は低水
準、多くのものを輸入しなければならないから貿易収支は赤字、
海外からの所得収支も赤字。したがって、全体収支である経常収
支も赤字。
 A「成熟した債務国」──国内産業が発達し、輸出が増加。輸
入を上回って貿易収支は黒字化。しかし、借金が残っているので
経常収支は赤字のままで、債務国を脱出できない。
 B「債務返済国」──経済力がさらに向上すると、貿易黒字が
一層拡大。経常収支も黒字化するので、本格的な借金返済ができ
るようになる。
 C「未成熟な債権国」──仕事が増えて、給与が上がり、借金
を返済して貯蓄や投資ができるようになる。
           ──[メタバースと日本経済/005]

≪画像および関連情報≫
 ●31年連続「世界最大の対外純資産国」はほぼ円安効果
  経常黒字減でドイツと逆転の日が近づいて・・・
  ───────────────────────────
   財務省が最新(2021年末現在)の「本邦対外資産負債
  残高の状況」を公表。NHKや日本経済新聞など代表的なメ
  ディアが、日本の「対外純資産」が400兆円を超えて過去
  最大になったと報じた。
   対外純資産とは、日本国内の企業や個人、政府が海外に持
  つ資産額から負債額を引いたもの。巨大な対外純資産の存在
  は、国内への投資機会が乏しかった(あるいは魅力がなかっ
  た)ことの裏返しでもあり、過去最大を記録したからと言っ
  て必ずしも喜ばしい話ではない。
   とは言え、日本政治・経済の弱体化が指摘される昨今、円
  の価値が底割れに至らないのはこの巨大な対外純資産のおか
  げというのも一面の真理だろう。
   具体的な数字を見ると、対外純資産残高は前年比15・8
  %増の411・1兆円と2年ぶりに増加した。1年で56・
  1兆円という増加幅も過去最大。世界2位のドイツとの差は
  100兆円近くまでに開き、31年連続「世界最大の対外純
  資産国」のステータスを維持した。しかし、56・1兆円と
  いう増加分の内訳をみると、若干の不安もよぎる。「取引フ
  ロー」要因で増えたのは10・7兆円。後は資産価格の変動
  によるもので、「為替相場変動」要因が62・2兆円の増加
  「その他調整」要因が、116・8兆円の減少だった。
                  https://bit.ly/3ZloXZt
  ───────────────────────────
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唐鎌大輔氏
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2023年01月23日

●「政府のエネルギー対策で大丈夫か」(第5890号)

 EJは、1月12日と13日、16日から20日までの7日間
休刊とさせていただきました。24年間継続してきた営業日連載
記録が途切れてしまいましたが、今日からEJを再開します。こ
れからもEJをよろしくお願いします。
 2023年1月21日付の日本経済新聞によると、2022年
12月の消費者物価指数(CPI)は、4・0%に上昇したとい
うことです。これは、変動幅の大きい生鮮食品を除く前年同月比
での上昇率です。消費者物価指数4%の上昇は、第2次石油危機
の影響で物価が上昇した1981年12月以来、実に41年ぶり
のことです。
 あらゆるものが値上がりしていますが、とくにエネルギー関連
は実に15・2%上昇し、その伸び率は、前月の13・8%から
拡大しています。このうち、電気代は21・3%、都市ガス代は
33・3%も上がっています。
 このような物価高騰で心配されるのは、消費の落ち込みによる
大不況の到来です。総務省による昨年11月の家計調査によると
物価変動の影響をのぞいた実質の消費支出は、6カ月ぶりに前年
比マイナスになり、明らかに消費マインドが弱まっています。今
回の不況が深刻なのは、今年の前半にかけての中国、米国、欧州
が景気減速に陥る懸念があることです。
 これに対して、岸田首相はどのような対策を講じようとしてい
るのでしょうか。岸田首相は、エネルギー価格高騰対策として、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガ
スに対して、集中的な激変緩和措置を講じる。エネルギー関連の
物価高対策として「総額6兆円、平均的な家庭で23年前半に総
額4万5000円の支援となる。        ──岸田首相
              https://s.nikkei.com/3Hku1GN
─────────────────────────────
 23年前半までに平均家庭に対して4万5000円の補助──
これを人気取りのためのバラマキという批判もありますが、岸田
政権としては、もっと「異次元の措置」を講ずるべきです。これ
によって日本経済が不況の淵に沈んでしまうと、元も子もないか
らです。
 実際に、日本をはるかにを上回る大胆な補助をしている国があ
ります。それはドイツです。
─────────────────────────────
【ベルリン=南毅郎】エネルギー問題に関するドイツの専門家委
員会は2022年10月10日、高騰するガス価格の抑制に向け
た具体案をまとめた。12月に国民の負担軽減へ一時金を出し、
2023年3月からガス価格に上限を設ける措置が柱だ。ショル
ツ政権は最大2000億ユーロ(約28兆円)規模の総合対策を
表明済みで、実現すればうち900億ユーロ相当を投じることに
なる。委員会がまとめた中間報告書によると、負担軽減策は2段
階で構成する。
 まず12月に一時金を支給することで、ガス価格の上限制を導
入するまでのつなぎ措置として利用者の負担を直接和らげる。金
額にして1カ月分以上のガス代が免除される可能性がある。
 そのうえで、ガス価格の上限制は23年3月から24年4月ま
で導入する案を示した。具体的には、ガス価格を1キロワット時
あたり原則12セントに抑えることで利用者の負担増を防ぐ。補
助対象は過去の利用実績に照らしてガス消費量の8割となる見込
みだ。産業用ガスは7セントに引き下げ、先行して23年1月か
ら導入する案も盛り込んだ。 https://s.nikkei.com/3QWXNEP
─────────────────────────────
 日本の総額6兆円に対してドイツは2000億ユーロ(約28
兆円)のうち、900億ユーロ(約12兆4000億円)をエネ
ルギー支援に充てるといっているのです。規模がぜんぜん違いま
す。ドイツという国は平時はシブチンといわれるほど、財政を引
き締める国ですが、コロナ禍やウクライナ危機のようなときは、
素早く巨額の資金を使い、国民に手厚い支援を行います。
 諸物価物価高騰は、昨年の秋頃から顕著になっていたのです。
そこでドイツは、12月に一時金を支給し、2023年3月から
ガス価格に上限を設ける措置を設けるという2段構えです。これ
なら、国民は不安を感じないでしょう。その一時金──1か月分
のガス代に相当──は既に年末に支払われています。
 日本についてはどうでしょうか。岸田首相は、2022年10
月に、上記のようなエネルギー価格高騰抑制対策を打ち出しただ
けです。これでは、本当にやってくれるのか、国民は不安になる
と思います。しかも、2023年1月21付の日本経済新聞は、
一面で次のような報道を行っています。
─────────────────────────────
◎東電、3割値上げ申請へ/家庭向け今夏までの実施目指す
 東京電力ホールディングス(HD)は来週はじめにも一般家庭
向け電気料金の値上げを経済産業省に申請する。経産省が認可す
る規制料金とよばれるプランで、家庭向け契約の過半を占める。
申請する値上げ幅は3割前後となる見通し。国の審査を経て今夏
までの料金引き上げを目指す。東電が規制料金を上げるのは、東
日本大震災後に収支が悪化した2012年以来、11年ぶりとな
る。             https://s.nikkei.com/3iS6zaj
─────────────────────────────
 東日本大震災のとき、時の民主党政権が何をしたでしょうか。
なんと復興特別所得税です。税額は、基準所得税額の2・1%で
日本国民は現在もこの税金を支払っています。「こんなときに増
税とは」──信じられない話ですが、岸田政権は、この復興特別
所得税の期間を延長し、防衛費の一部に充てようとしています。
この国民生活が苦しいときにまたしても増税です。どうやら「減
税」という手段は岸田首相の頭の中にはないようです。
           ──[メタバースと日本経済/006]

≪画像および関連情報≫
 ●日本が抱えているエネルギー問題
  ───────────────────────────
   朝食にガスコンロで卵を焼いてトースターでパンを焼く。
  電車に乗って会社や学校へ向かいながら、スマートホンで、
  ニュースをチェックする。日中、パソコンに向かって仕事や
  勉強をし、夜には冷房が効いた快適な部屋で、宅配便で届い
  た本を読む・・・。
   日本のこうした便利な暮らしを支えているのは、電気や都
  市ガス、ガソリンといったエネルギーです。エネルギーなく
  して成立し得ない現代の生活スタイルですが、実は、日本の
  実質GDP当たりのエネルギー消費は世界平均を大きく下回
  ることに成功しています。GDP世界第1位のアメリカと比
  べ、約2分の1、同じ非資源国の韓国と比べ約3分の1程度
  の消費に抑えられているのです。これは、1970年代、2
  度に渡って生じた石油ショックを教訓として、官民を挙げて
  省エネルギー対策に注力してきた結果といえるでしょう。
   しかし、エネルギー利用効率が非常に良い一方で、日本の
  エネルギー需要量そのものは、石油ショック後拡大していま
  す。経済成長と共に生活が便利になり、家庭や企業でのエネ
  ルギー利用機器や自動車の利用が増えていったことがその原
  因です。最終エネルギー消費量は2004年度まで増え続け
  ましたが、その後は減少傾向となり、第1次石油ショック当
  時の1973年度に比べ、2015年度では全体で1・2倍
  のエネルギー需要量となっています。
                  https://bit.ly/3WlYPuY
  ───────────────────────────
総合経済対策で記者会見する岸田首相.jpg
総合経済対策で記者会見する岸田首相
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2023年01月24日

●「日本経済のポジションとはどこか」(第5891号)

 2022年10月21日、それは起きたのです。その日の外国
為替市場は「1ドル=151円」を付けたのです。これは、32
年ぶりの円安であり、日本経済にとって衝撃的な出来事だったと
いえます。問題は、この円安をどう見るかです。
 さまざまな意見がありますが、日本の通貨である円の推移を鋭
い視線で分析している、みずほ銀行、唐鎌大輔チーフマーケット
・エコノミストは次のように述べています。
─────────────────────────────
 従来「1ドル=100〜120円」だった円相場の変動域が、
「120〜140円」や「130円〜150円にスライドしてい
る可能性は高い。この原因として、日本の貿易黒字の消滅と対外
直接投資の急拡大がある。          ──唐鎌大輔氏
─────────────────────────────
 確かに、1922年度の貿易赤字(通関ベース)は20兆45
60億円であり、比較可能な1979年以降で最大になる見通し
です。2023年も13兆5540億円の赤字になるといわれて
います。
 ここで、国際収支の発展段階説における日本のポジションに話
を戻す必要があります。国際収支の発展段階説を以下に再現する
ことにします。
─────────────────────────────
          @未成熟な債務国
          A成熟した債務国
          B  債務返済国
          C未成熟な債権国
        → D成熟した債権国
        → E債権取り崩し国
─────────────────────────────
 以上のうち、@からCまでは簡単に説明をしております。結論
から先にいうと、日本はDの「成熟した債権国」のポジションに
あります。Dの「成熟した債権国」とEの「債権取り崩し国」の
違いは次のようになっています。
─────────────────────────────
           成熟した債権国   債権取り崩し国
      経常収支      黒字        赤字
 貿易・サービス収支      赤字        赤字
   第一次所得収支    大幅黒字        黒字
     対外純資産    大幅黒字        黒字
      金融収支      赤字        黒字
    ──唐鎌大輔著/『「強い円」はどこへ行ったのか』
                 日経プレミアムシリーズ
─────────────────────────────
 前提的な知識として「経常収支」について理解する必要があり
ます。経常収支とは、海外との貿易や投資といった経済取引で生
じた収支を示す経済指標のことです。
 この経常収支の構成要素として、自動車などのモノの輸出から
輸入を差し引いた貿易収支、旅行や特許使用料などのサービス収
支、海外からの利子や配当を示す第1次所得収支、政府開発援助
(ODA)などの第2次所得収支があります。
 この経常収支に、企業の買収や株式投資など金融資産の動きを
示す「金融収支」を加えたものが、国際収支となります。これに
ついては、財務省が毎月統計を公表しています。
 文章で説明すると、わかりにくいので、財務省が公表している
数値を以下に示します。
─────────────────────────────
                 2022年9月現在
   貿易・サービス収支 ・・・ ▲2兆1028億円
        貿易収支 ・・・ ▲1兆7597億円
          輸出 ・・・  8兆8275億円
          輸入 ・・・ 10兆5872億円
      サービス収支 ・・・   ▲3431億円
     第1次所得収支 ・・・  3兆2226億円
     第2次所得収支 ・・・   ▲2104億円
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        経常収支 ・・・    9094億円
                  https://bit.ly/3ZRL0ra
─────────────────────────────
 第1次所得収支の3兆2226億円から、貿易・サービス収支
の赤字2兆1028億円と第2次所得収支の赤字2104億円を
引くと、9094億円という経常収支が得られます。
 コロナ禍で海外の旅行客が日本に来れなくなることによる、い
わゆるインバウンド需要が減り、サービス収支が赤字になったこ
とと、原油や天然ガスなどのエネルギー資源の大半を海外に依存
する日本は、折からの円安ということもあって、貿易収支は赤字
になっています。
 もともと日本という国は、1970年以降、貿易黒字を確保し
たうえで、海外投資の利子や配当金などの第1次所得収支の黒字
を加えて、大幅な経常黒字を稼ぐ国だったのです。このときの日
本は、国際収支の発展段階説では、Cの「未成熟な債権国」だっ
たのです。この膨大な経常黒字の累積が「世界最大の対外純資産
国」を築き上げたのです。このとき日本は、貿易収支と所得収支
の両方で稼ぐ国家だったわけです。
 しかし、コロナ禍から完全に脱却していないことはあるものの
貿易収支は赤字に転落し、結局、現在、日本の経常収支を支えて
いるのは、第1次所得収支だけということになります。しかし、
第1次所得収支の累積額は大きく、現在でも依然として「世界最
大の対外純資産国」のステータスを守っています。したがって、
現在の日本は、国際収支の発展段階説のDの「成熟した債権国」
に位置付けられているといえます。
           ──[メタバースと日本経済/007]

≪画像および関連情報≫
 ●成熟した債権国に進む日本経済/長谷川正氏
  ───────────────────────────
   日本経済を過去数十年間にわたって振り返ると、大きく変
  化している。この変化を多方面からとらえることができるが
  その1つは産業構造からのアプローチである。石油ショック
  後、産業の「軽薄短小化」、すなわちエネルギー消費量が少
  ない産業構造への転換が生じたが、生産するものは依然とし
  て「モノ」であった。その後、さらに構造転換が進み現在、
  「情報」という目には見えないもの、すなわち「IT化」が
  進展している。このほか、就業構造の変化からもとらえるこ
  とができる。女性の就業率が高まり、いまや日本経済は、女
  性労働力なしでは成り立たなくなっている。労働市場では、
  さらに終身雇用・年功序列制度といった日本経済に深く根付
  いていたと思われた制度が、最近では崩れてきている。この
  ように日本経済の変化を多方面からとらえることができるが
  本レポートでは、日本と海外との、「モノ」や「サービス」
  さらに「所得」の取引によってとらえることにする。日本経
  済の国際化が急速に進んでいるだけに、海外との取引におい
  て、日本経済の構造転換が鮮明に表れているはずである。本
  レポートで明らかになったことを前もって述べると、次の点
  である。
   @貿易・サービス収支の黒字額が縮小傾向にあること。
   A一方、所得収支黒字額は拡大傾向にあること。
   すなわち、日本経済は成熟した債権国に進みつつある。こ
  の動きは、今後さらに強まると見込まれる。なお、「成熟し
  た債権国」の厳密な定義については後で行うことにする。
                  https://bit.ly/3Hm89Lb
  ───────────────────────────
経常収支の推移.jpg
経常収支の推移
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2023年01月25日

●「日本経済に構造変化が起きている」(第5892号)

 「有事の円買い」という言葉があります。2008年に起きた
リーマンショックや、2011年の東日本大震災後では、円が安
全資産として、世界中の投資家から買われ、円高になったもので
す。とくに、2011年10月21日には、「1ドル=75円」
まで円高が進んだのです。
 しかし、日本は国民の誰もが知るいわゆる「借金大国」であっ
て、普通国債の残高は2022年度末には1029兆円に達して
います。そんな国の通貨が、なぜ、有事のさい、世界中の投資家
から買われるのでしょうか。
 それは、日本が世界一の「債権国家」であるからです。財務省
は、日本が稀有の借金大国であることは、財務省のトップである
財務事務次官が、わざわざ一般誌に論文を発表してまで国民に周
知させようとしますが、日本が世界一の債権国家を続けているこ
とは積極的には報道しないので、多くの国民はこの事実を知らな
いでいます。
 しかし、日本は、海外に莫大な資産を保有しているのです。し
たがって、リーマンショックのような経済市場が混乱する有事が
起きた場合、日本の企業や個人の多くが、海外にある資産を国内
へ引き上げることが予想されます。海外資産(多くの場合は米ド
ル建て)を国内に引き上げるということは、米ドルを売って円を
買うということであり、この動きが円高を進行させているという
わけです。これが有事の円買いです。
 しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻では円安が進行し
ています。有事の円買いが起きておらず、逆に円が売られていま
す。この事実をもって「円の実力が低下している」という論調が
支配的です。2022年10月21日には「1ドル=150円」
になったことをもって「円の価値は半減/75円→150円」と
までいわれていますが、必ずしもそうとはいえないと思います。
それならば、2022年2月にウクライナ危機が起きたとき、な
ぜ、円が買われず、ドルが買われたのでしょうか。
 これについて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大
作チーフ為替ストラテジストは、それには2つの理由があるとし
て、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 大きく2つの理由があります。1つ目は、確かに株価が崩れる
と円買いの連想が働きますが、足元では、ユーロやポーランド・
ズロチなど幅広い通貨に対して、全面的なドル買いが起きていま
す。ドルは世界一の軍事大国の通貨であり、世界中で使われる基
軸通貨であって、市場での流動性も円より高い。この「有事のド
ル買い」と「有事の円買い」が綱引き状態になっています。
 もう1つは、需給面で日本の貿易収支が赤字に転落しているこ
とです。国際商品は基本的に決済にドルを使います。日本の1月
の通関統計をみると、貿易赤字は2兆円規模に上っており、輸入
のためのドル買い需要がそれなりに出ていると考えられます。
                      ──植野大作氏
                  https://bit.ly/3kthDLz
─────────────────────────────
 ロシアのウクライナ侵攻により、コモディディ価格が上昇傾向
にあります。「コモディティ」とは、「商品先物」として取引さ
れているもののことです。具体的に何かというと、原油や天然ガ
スなどのエネルギー、銅や鉄鉱石などの工業用金属、金やプラチ
ナなどの貴金属、あるいは木材や小麦などまで含め、商品先物と
して取引されているもの。それらを総称して「コモディティ」と
呼んでいるのです。
 ウクライナやロシアは、穀倉地帯で貴金属の輸出国でもありま
す。したがって、コモディティー価格が上昇傾向にあるのですが
ドル買い需要が強くなるとの見方から、円買いは限定的になりま
す。逆にいえば、ユーロやズロチといった他の通貨に対しては円
買いがそれなりに進んでいます。
 しかし、今回の円安には構造変化が起きているという見方があ
ります。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストである唐鎌
太輔氏による分析です。添付ファイルをご覧ください。
 変化は、2002年から2011年の10年間と、2012年
から2021年までの10年間を比較してみるとわかるというの
です。2つのグラフがありますが、はじめに、棒グラフの方を見
てください。
 経常収支は、約172兆円から約144兆円と減少しているも
のの、依然高水準にあります。これは、貿易収支が約96兆円か
ら約8兆円の赤字に転落したものの、第一次所得収支が約125
兆円から約195兆円へと大幅に黒字が拡大した結果なのです。
 続いて折れ線グラフの方をご覧ください。これは、貿易収支と
ドル円相場の推移をあらわしています。これを見ると、2012
年以降、貿易黒字が稼げなくなった結果、その後に際立った円高
・ドル安が起きていないことが分かります。これらについて、唐
鎌大輔氏は、近刊著書で次のように述べています。
─────────────────────────────
 「貿易収支ではなく所得収支で稼ぐ」というのは「成熟した債
権国」の姿である。リーマンショック、欧州債務危機、アベノミ
クスという局面変化を経験した直後の10年間(2012〜20
21年)で日本は、「未成熟の債権国」を卒業し、国の発展段階
が1つ進んだという事実は間違いなく、ここに構造変化の跡を確
認することはできる。            ──唐鎌大輔著
             『「強い円」はどこへ行ったのか』
                  日経プレミアムシリーズ
─────────────────────────────
 2021年から2022年にかけて、資源価格が高騰し、貿易
赤字が拡大しつつあります。2022年上半期(1月〜6月)の
貿易赤字は過去最大を記録しています。この状態がいつまで続く
のかについても注視する必要があります。
           ──[メタバースと日本経済/008]

≪画像および関連情報≫
 ●「円安」で起こっている日本人が知りたくないこと
  ───────────────────────────
   短期的には、アメリカのインフレ率急落を祈ることが、超
  円安に対処するための日本の唯一の選択肢かもしれない。し
  かし、長期的には、日本企業の競争力を根本的に強化しなけ
  ればならない。なぜなら、それが「実質」円安の根本原因だ
  からである(「実質」円の定義と経済的意義は後述する)。
  円安は、日本企業が国際市場で元気をなくしているから起き
  ているのだ。
   まず、短期的な話をしよう。この1年半、円安の唯一最大
  の要因は、アメリカの金利と日本の金利の差である。そして
  金利の上昇は、アメリカの高インフレに対するアメリカの武
  器である。日米金利差が大きければ大きいほど、日本からア
  メリカへの資金流入が増え、円安が進む。
                  https://bit.ly/3iWQTCM
 ●グラフ出典/唐鎌大輔著の前掲書より
  ───────────────────────────
2つのグラフ.jpg
2つのグラフ
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2023年01月26日

●「誇るべきでない最大の対外純資産国」(第5893号)

 対外純資産は、毎年5月頃に発表されますが、2021年の対
外純資産のベスト4は次の通りとなっています。対外純資産とは
企業や政府などが海外に持つ外貨建て資産の評価額のことで、日
本は、31年連続世界第1位です。
─────────────────────────────
   ◎対外純資産ベスト4
    第1位/日 本 ・・ 411兆1841億円
    第2位/ドイツ ・・ 315兆7207億円
    第3位/香 港 ・・ 242兆7482億円
    第4位/中 国 ・・ 226兆5134億円
─────────────────────────────
 日本が経常黒字を続ける限り、その累積結果として、世界一の
対外純資産のステータスが保持されることになります。しかし、
対外純資産を支える構造は大きく変化しています。これについて
は、添付ファイルのグラフをご覧ください。
 その構造変化は、10年前から顕著になっています。2010
年以前は、海外投資としては証券投資が中心であり、直接投資は
限定的であったのです。ここで、証券投資とは、国外の株式や債
券などの金融資産に投資することであり、これに対して直接投資
とは、国外で事業活動を行うために企業を買収したり、生産設備
などに投資したりすることをいいます。
 これについて、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの
唐鎌大輔氏は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 2000年代前半においては、日本の対外純資産は、その大半
が証券投資残高、すなわち米国債や米国株などに代表される海外
の有価証券だった。しかし、2011〜2012年頃を境に日本
から海外への対外直接投資が増えた結果、2021年末時点では
約半分(45・8%)は直接投資残高になっている。これは、日
本企業による旺盛な海外企業の買収(いわゆるクロスボーダーM
&A)の結果である。(一部略)
 リーマンショック後は、「金利なき世界」が常態化していたの
で、収益率に優れる直接投資が証券投資より好まれるのは合理的
な展開だったが、背景事情はそれだけとは考えにくい。それまで
断続的に日本が直面していた超円高や自然災害(地震、台風、津
波など)、硬直的な雇用法制など日本特有の様々なカントリーリ
スクが考慮された結果、直接投資は増えてきたのだという解説は
多い。とりわけ、2011〜2012年という時代を境にして直
接投資が増えていることを鑑みれば、やはり2008〜2012
年の超円高局面、2011年3月に発生した東日本大震災などの
影響は大きかったのではないかと推測される。
          ──唐鎌大輔著/日経プレミアムシリーズ
             『「強い円」はどこへ行ったのか』
─────────────────────────────
 この対外純資産の構造変化は、「有事の円買い」に大きな影響
を与えることになります。証券投資が中心であった時代では、有
事が起きたとき、流動性の高い海外有価証券を手放して円に換え
ることは容易に予想することができます。この場合は、有事の円
買いは機能を発揮することになります。
 しかし、直接投資の場合は、リスク回避のために買収した企業
を簡単に手放すとは考えにくいのです。したがって、直接投資の
割合が増えるということは、外貨のまま戻ってこない円の割合が
増えることを意味します。事実そういう傾向は強くなっており、
結果としてそれは「有事の円買い」そのものの退潮を意味するこ
とになるのです。
 しかし、ここで日本として考えるべきことがあります。ここま
で円の価値を支えてきたと思われる「世界最大の対外純資産国」
というステータスは、それほど日本として誇れるべきものではな
いということをです。
 なぜなら、国内から国外への証券投資や直接投資が旺盛だとい
うことは、日本企業として、日本国内に投資すべき魅力的な対象
がないことを意味します。企業として、縮小し続ける国内市場に
投資するよりも、勢いのある海外企業の買収や出資を通じて時間
や市場を買う方が、経営上プラスであると判断した結果であると
考えられるからです。
 唐鎌大輔氏にいわせると、『「世界最大の対外純資産国」は、
単純に資金の流れだけを捉えれば、日本企業による資本逃避(キ
ャピタルフライト)といえなくもない』と断じています。そうす
ると、このステータスは、いわゆる「失われた30年」の副産物
とみなすこともできます。
 31年連続世界一の「世界最大の対外純資産国」というステー
タスを日本はいつまで守れるでしょうか。日本の背後には、ドイ
ツが迫ってきています。これについて、唐鎌大輔氏は、次のよう
に分析しています。
─────────────────────────────
 この点、筆者は諸外国、とりわけドイツとの比較を気にしてい
る。ドイツは単一通貨ユーロという「永遠の割安通貨」を武器に
貿易黒字を稼ぎ続け、「世界最大の経常黒字国」としてのステー
タスを盤石なものにしてきた。この経常黒字のほとんどが貿易黒
字であり、通常ならば「通貨高→輸出減→貿易黒字縮小→経常黒
字縮小」という展開を辿るはずである。
 しかし、ユーロはドイツのほかイタリアやスペインやギリシャ
を含めてユーロであるため、ドイツの地力に相応しいほど強くな
ることは構造上絶対にない。だから、ドイツの経常黒字は減りづ
らいという特質がある。この点は断続的な通貨高をひとつの要因
として輸出企業が生産拠点の海外移管を進め、貿易黒字が消滅し
た日本とは対照的である。
    ──唐鎌大輔著/日経プレミアムシリーズの前掲書より
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/009]

≪画像および関連情報≫
 ●日本は31年連続「世界最大の対外純資産国」/
  それでも円買いに貢献しない理由/唐鎌大輔氏
  ───────────────────────────
   円の信認に注目が集まりやすい昨今、「世界最大の対外純
  資産国」というステータスが「安全資産としての円」のより
  どころになっているのは間違いない。その意味で、年1度の
  対外資産負債残高統計は丁寧にチェックする価値がある。こ
  の点、5月27日、財務省から『本邦対外資産負債残高の状
  況(2021年末時点)』が公表されている。
   今回の本欄ではこの数字を詳しく掘り下げてみたい。具体
  的な数字を見ると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資
  産から負債を引いた対外純資産残高は、前年比56・1兆円
  増の411兆1841億円と2年ぶりに増加している。これ
  は年間の増加幅としては過去最大だ。2位のドイツ(315
  ・7兆円)との差は100兆円近くまでに拡大しており、こ
  れで31年連続「世界最大の対外純資産国」のステータスを
  維持したことになる。      https://bit.ly/3ZTUoup
 ●グラフ出典/──唐鎌大輔著の前掲書より
  ───────────────────────────
日本の対外純資産関連データ.jpg
日本の対外純資産関連データ
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2023年01月27日

●「国債60年償還ルールを廃止せよ」(第5894号)

 1月23日から通常国会がはじまっています。閣議決定された
にもかかわらず、防衛増税実施への反対意見は、与党の自民党の
なかでも根強くあります。防衛費増額の財源確保について、政府
は十分な努力をしていないという不満が渦巻いているからです。
そのための特命委員会も結成され、1月19日に初会合を開いて
います。
 この特命委員会で、国債の「60年償還ルール」を見直すこと
が議論されています。ところで、「60年償還ルール」とはどの
ようなルールでしょうか。
 たとえば、2000年に600億円の10年物国債を発行して
財政支出を行ったとします。2010年になると、600億円の
国債の償還期限がきますが、このさい600億円の国債を償還す
ると同時に、500億円の10年物国債の借換債を発行して、実
質100億円だけ償還します。
 2020年にこの500億円の国債の償還期限がきますが、そ
のさい500億円の国債を償還すると同時に、400億円の10
年物国債を発行して、実質100億円だけ償還します。このよう
に、10年ごとに6分の1ずつ償還していくと、2000年発行
の国債は、2060年に事実上償還を終えることになります。こ
れが、国債の「60年償還ルール」です。
 それでは、なぜ「60年」なのでしょうか。
 一応の理屈はあります。国債を発行して、橋や道路という国の
インフラを整備するとします。これらのインフラの平均耐用年数
が約60年だからです。したがって、耐用年数までに債務の返済
を終えるようにすれば、「インフラという資産」と「国債という
負債」はバランスすることになります。つまり、政府のバランス
シートにおいて、「資産」と「負債」は一致するわけです。
 しかし、これは「建設国債」という名の国債に適用される理屈
であって、「特例公債」──国の歳出が歳入を超えた額に対して
補填目的で発行される国債(赤字国債)にはあてはまらないこと
は明白です。それでは、特例公債はどうするのでしょうか。
 何国債であろうと関係ないのです。すべて60年償還ルールで
償還します。そもそも「なんとか国債」という区別自体が無意味
なのです。なぜなら、これは政府内での便宜的な呼び名であって
国債は国債だからです。仮に、「建設国債」を買おうとしてもそ
んな国債はないので、買うことは不可能です。
 それでは、毎年償還する60分の1の償還費は、どこからくる
のでしょうか。それは「国債整理基金特別会計」です。毎年の国
債残高の「1・6%」が一般会計から組み入れられることになっ
ています。これを「定率繰入」(定率法)といいます。これに対
して、上の例のように10年後に一定額(100億円)を償還す
るのは「定額法」といいます。つまり、債務の償還は定額法なの
に、償還費の積み立ては定率法──これじゃ、計算が合うはずが
ありません。
 ところで、なぜ、1・6%なのでしょうか。それはきっと60
分の1を意識しているものと思われます。上の例にしたがって、
実際に計算してみます。10年経過すると、600億円の1・6
%にあたる9・6億円が国債整理基金特別会計に積み立てられ、
10年目には、100億円ではなく、9・6億円が償還されるこ
とになる──4億円不足します。
 この1・6%は国債残高の1・6%であるので、残高が少なく
なってくると、積立額も減ってきます。上の例で60年目になる
と、国債残高は100億円であるのに、年間積立額は1・6億円
しかなく、84億円も不足します。それでは、どうするのかとい
うと、不足額は別途一般会計から支出することになります。そう
であるなら、年間積立など意味はありません。きわめていい加減
であり、わざわざ財政を悪く見せたいのでしょうか。
 実は、「60年償還ルール」のようなことをやっている国は日
本だけです。グローバル・スタンダードでは、原則的に、政府の
債務(国内で自国通貨で発行されたもの)は、完全に返済(債務
をゼロに)することはなく、事実上、永続的に借り換え(満期が
来た国債を償還するさい、償還額と同額の国債を発行する)され
債務残高は維持されていきます。
 これが個人であれば、「借金を借金して返済する」ことになる
ので問題ですが、国のレベルであれば、何の問題もないのです。
米国、英国、フランス、ドイツなどの主要国は、単に利払いしか
計上していないのです。まして、日本の財政破綻率は、先進国の
なかではドイツと並んで最も低いレベルです。それなのに、財務
省はこの「60年償還ルール」を行い、わざわざ財政を厳しくし
ているのです。
 ZUUオンラインのサイトに掲載されているレポートでは、こ
の日本のやり方に関して次のように述べています。
─────────────────────────────
 グローバル・スタンダードでは積み上がった国の債務をどう返
していくのかという問いそのものが存在せず、利払いを続けなが
ら、債務残高を経済状況も安定させながらどう維持していくのか
という問いのみ存在する。
 その理由は、政府の負債の反対側には、同額の民間の資産が発
生し、国債の発行(国内で自国通貨で発行されるもの)は貨幣と
同じようなものとみなされるからだ。
 日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれ
ば、歳出は債務償還費分の16・8兆円程度も削減できることに
なる。防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本
主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能と
なる。60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめ
ない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい
資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能とな
るだろう。             https://bit.ly/3R6LFRu
─────────────────────────────
           ──[メタバースと日本経済/010]

≪画像および関連情報≫
 ●「建設国債の買いオペ」は実行可能か――国債の「60年償
  還ルール」について考える
  ───────────────────────────
   防衛費増額分の財源確保の問題をめぐって、国債の「60
  年償還ルール」のことが話題になっている。このルールを見
  直せば、「埋蔵金」が発掘できて増税なしで防衛財源が確保
  できるという話もあるようだが、そのようなことは実現する
  のだろうか。以下ではこの点について論点整理を行い、それ
  を踏まえて財政運営をめぐる課題について考えてみることと
  したい。
   あらかじめ記しておくと、60年償還ルールをめぐる議論
  をながめるうえでの大事なポイントは、財源不足を補填する
  手段という財政運営の面から見た場合の「国債」と、国が資
  金調達をするために発行する債券(金融商品)としての「国
  債」をきちんと分けて考えるということだ。赤字国債・建設
  国債というのは前者(財政面)から見た場合の国債の区分で
  あり、短期国債・長期国債というのは後者(金融面)から見
  た場合の国債の区分である。
   この両者の違いを意識的に分けて考えると、議論の見通し
  がよくなる。まずはこの点を確認するために、「建設国債の
  買いオペ」について考えてみよう。10年前、「日銀に建設
  国債を買ってもらう」という安倍晋三自民党総裁(当時)の
  発言が話題になったことがあった(2012年11月17日
  の熊本市での講演における発言)。https://bit.ly/3JoQ9B0
 ●グラフの出典/https://bit.ly/401U3G3
  ───────────────────────────
国債60年償還ルール.jpg
国債60年償還ルール
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2023年01月30日

●「朝日政治部記者の書いた衝撃記事」(第5895号)

 「国債60年償還ルール」の話を続けます。岸田政権は、その
スタッフのほとんどが財務省官僚出身であり、岸田首相は彼らの
提言に乗って政権運営を行っています。岸田首相は、あの「日本
は財政破綻に向かっている」という論文を『文芸春秋』誌にわざ
わざ掲載した事務次官をそのまま現職に置いており、財務省的イ
デオロギーに染まっているといえます。
 防衛費増額に増税を持ち出したことで、「国債60年償還ルー
ル」の廃止ないし見直し議論が自民党内から沸き起こり、おそら
く財務省は内心「しまった」と思っていると思います。まさに、
「瓢箪から駒」であります。おそらく財務省が一番国民に知られ
たくないことは、このルールが日本独自のものであり、主要国に
おいては一切行われていないルールであることでしょう。
 そもそもG7の主要国では、国債は利息は支払うものの、その
元本については返済する意思はなく、償還期限が来たら、すべて
借換債を発行して済ませています。それにもかかわらず、どこの
国もやっていない国債の政府への元本返還を日本はわざわざやっ
ているのです。そうであるのに、「日本は借金大国である」とか
「そのうち財政破綻という氷山にぶつかる」とか、評判はさんざ
んです。理屈に合わないではありませんか。
 もともとこの考え方は、1966年に財政法第4条に基づいて
「建設国債」が発行されたとき、この国債については元本につい
ても60年かけて返済しようとして生まれたものです。その趣旨
は悪くないと思います。しかし、それが今やすべての国債に適用
されているのです。
 一方、国債60年償還ルールが適用されない国債もあります。
その典型的なものが「復興債」です。東日本大震災のための復興
債は、償還が復興特別増税に紐付けされています。震災発生時は
民主党の菅直人政権でしたが、期せずして増税議論が巻き起こり
復興特別増税が決まったのです。財務省にとっては「渡りに船」
でしょう。当時のデフレ色濃厚の日本において、増税をするとは
常識的には考えられないことであり、その結果として、日本経済
は、経済成長が一向に実現されないでいます。
 本来菅直人元首相は、突然、所得税増税を掲げて参院選を戦い
大敗北を喫しており、増税賛成派です。その菅内閣に続いたのが
こともあろうに自民党と組んで「社会保障と税の一体改革」を実
現させた野田佳彦内閣です。野田佳彦氏は、自身のこの決断を誇
りに思っているそうですが、多くの国民は、民主党に対して怒り
をもっています。その考え方は、立憲民主党の枝野前代表に受け
継がれています。立憲民主党の支持率が上がらない理由がここに
あります。マニフェストなる公約を破っての増税の恨みは非常に
強く大きいのです。
 それは、民主党の政権獲得時の選挙で「消費税を上げない」と
いう公約を平然と破り、消費税の5%の税率を10%に倍増させ
たからです。しかも、その増税額は社会保障の充実に一向に寄与
しているとは考えられません。野田氏は、財務大臣のときに、財
務省に洗脳されたものと思われます。
 東日本大震災による復興財源の確保を目的とする復興増税は、
所得税、住民税、法人税に上乗せするという形で徴収されていま
す。所得税に関しては、2013年(平成25年)1月1日から
の25年間(2038年まで)、税額に2・1%を上乗せすると
いう形で現在も徴収されているのです。あと16年徴収されるこ
とになります。
 岸田首相の防衛増税に関する所得税増税の考え方はこうです。
復興増税は忘れている人もいるほど長期の増税であり、「国民は
税額の2・1%天引きに慣れている」はずであるから、その税金
の額を増やさずに期間をさらに長期化させても、問題はないと考
えているようです。
 今回の防衛増税に対して国民はどのように考えているでしょう
か。政府寄りとされるNNN(読売テレビ)と読売新聞の調査で
さえ、反対派が賛成派の倍以上という大差になっています。
─────────────────────────────
     ◎NNN/読売新聞/1月19日
      防衛増税に賛成する ・・・ 28%
      防衛増税に反対する ・・・ 63%
─────────────────────────────
 しかし、NNN/読売新聞は、世論調査の結果の報道をしたに
過ぎず、岸田政権としては、世論がどうであれ、増税を実施する
構えです。そもそもメディアは、国債60年償還ルールの問題点
を知っていながら、まったく報道しません。新聞もテレビのモー
ニングショーなども同様です。
 そのような報道をすると、財務省はそのメディアに対して圧力
を加えるからであり、財務省は、そのための潤沢な予算を持って
います。
 しかし、この国債60年償還ルールの見直しに火をつけたのは
朝日新聞です。その記事は、2023年1月12日の朝刊に掲載
されています。この記事のリード文をご紹介します。
─────────────────────────────
 防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く政府の借金にあ
たる国債を安定的に返済するしくみである「60年償還ルール」
を見直す議論を始める。制度の廃止や60年の延長が想定される
が、市場の信認に影響を与えかねない。財務省も財政規律が緩む
ことを警戒しており、国債残高が膨張する恐れもある。
          ──2023年1月12日/朝日新聞朝刊
                   https://bit.ly/3jc4fLz
─────────────────────────────
 非常に慎重な書き方ですが、この記事は政治部に所属する記者
が書いたものです。財務省ベッタリの経済部の記者には絶対に書
けない記事です。国債60年償還ルールを見直せば、増税をする
必要はなく、防衛費増額を賄うことは可能です。
           ──[メタバースと日本経済/011]

≪画像および関連情報≫
 ●防衛財源議論で国債償還ルール変更が浮上:岸田首相は施政
  方針演説で増税への理解を訴える/木内登英氏
  ───────────────────────────
   政府は、防衛費増額について、歳出削減策などとともに、
  増税策を含む財源確保を昨年末に閣議決定した。岸田首相は
  1月23日の施政方針演説で、増税実施の決意を改めて述べ
  るとともに、増税実施への理解を広く国民に呼びかけるとみ
  られる。
   しかし閣議決定されたにもかかわらず、増税実施への反対
  意見は与党自民党の中で根強く残る異例の事態となっており
  財源議論は未だ決着していない。実際、自民党は19日に、
  防衛費増額の財源について増税以外の確保策を検討する特命
  委員会の初会合を開いた。その中では、一段の歳出改革や税
  外収入などが検討されたが、さらに、国債の「60年償還ル
  ール」を見直すことも議論されたのである。これは国債償還
  費を減らし、それを防衛費増額の財源に回すことを狙った措
  置であるが、財政健全化の観点からは大いに問題だ。
   政府が発行した長期国債を、60年かけて完全に償還する
  という「60年償還ルール」がある。例えば10年国債を6
  兆円発行すると、10年後の満期には1兆円を完全に償還し
  た上で、残り5兆円分については、10年の借換債を発行し
  て借り換えるのである。仮に「60年償還ルール」を「80
  年償還ルール」に変更すれば、10年後の償還額は7500
  億円と、25%減少することになる。その分を防衛費増額の
  財源に回すことは可能である。  https://bit.ly/3WJo0I0
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防衛増税に反対する萩生田政調会長.jpg
防衛増税に反対する萩生田政調会長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月31日

●「60年償還ルール見直し実現するか」(第5896号)

 1月25日の衆議院代表質問で、立憲民主党の泉健太代表と岸
田首相の間で、防衛費増額の財源と防衛力強化に関して、次のや
りとりがありました。
─────────────────────────────
泉 健太代表:額ありき、増税ありきだ。決算剰余金の防衛費へ
 の転用は問題。特定財源化すれば、あらかじめ予算を膨らませ
 て余らせることで(さらに)転用可能だ。
岸田文雄首相:行財政改革の努力を最大限行う。決算剰余金は過
 去の実績を踏まえて規模を見込んでいる。あらかじめ予算を膨
 らませて防衛費に充てることは意図していない。
泉 健太代表:国債の「60年償還ルール」を変更して防衛費を
 捻出するのか。
岸田文雄首相:(ルールを)見直し、政策的な経費増加に使うと
 結果的に国債発行額は増加する。さらには市場の信認への影響
 に留意する必要がある。
         ──2023年1月26日付、朝日新聞より
─────────────────────────────
 岸田首相は、役人の書いた答弁書を読んでいますが、それは、
ルールを見直すと、結果的に国債発行額は増加し、市場の信認が
損なわれるというものです。
 財務省側に立って、「60年償還ルール」の見直しに反対を述
べる主要な意見を列挙することにします。
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◎鈴木財務相ほか
 償還期間を延ばすと、国債に対する信用にも影響してくる。日
本の債務残高対国内総生産(GDP)比はすでに世界最悪水準に
あり、異次元緩和で国債を大量購入してきた日銀が政策を見直せ
ば、借換債を含む国債を市場で消化しきれるのかという課題に直
面することになる。日銀が金融緩和策を修正し、金利が上がれば
その分、利払い費も増える。
◎土居丈朗慶応大学教授
 国債償還費は財源とはいえない。米国は議会が政府債務に上限
を設け、ドイツは国債発行を例外とするなど日本より厳しい財政
規律のルールがある。日本では60年償還ルールがそれにあたり
見直す場合には他の規律を考える必要がある。
◎木内登英野村総合研究所エクゼクティブ・エコノミスト
 赤字国債も含めて「60年償還ルール」が見直され、期間が延
長されれば、より将来世代へ負担を転嫁することになる。世代間
の負担の公平性の観点、経済の観点からの問題はより深まること
になる。償還ルールの期間を延長しても、政府の国債発行額、つ
まり政府の債務の水準は変わらない。他方、償還費を抑えること
が可能となるため、新規国債発行へのハードルが下がることで、
財政の規律が一段と緩むことになりかねない。それは、潜在的な
金利上昇リスクや通貨価値の信認低下リスクを高めるだろう。
─────────────────────────────
 財務省系の人は、今回のように、防衛国債を発行しようとした
り、償還ルールを変更しようとしたりすると、「国債が増加して
国債の信認が落ち、長期金利が上がって国債が暴落する」とか、
「将来世代に負担を転嫁する」といって反対します。
 さらに、「日本の債務残高対国内総生産(GDP)比はすでに
世界最悪水準である」とか、「日本は、財政破綻という氷山に向
かって突き進んでいる」のように強い言葉で警告を発し、今にも
日本の財政破綻が起きるかのようにいいます。
 しかし、その一方において、日本は債務残高にほぼ匹敵する金
融資産を保有していることに加えて、国債のほとんどが国内で消
費されているので心配はないとか、日本はダントツの対外純資産
国であって、しかも31年連続世界一であるという事実があった
りします。
 安倍晋三政権のときですが、経済財政諮問会議に2001年に
ノーベル経済学賞を受賞した米国のスティグリッツ・コロンビア
大学教授が出席したことがあります。そのとき、スティグリッツ
教授は、次のように安倍首相にアドバイスしています。
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    永久債と長期債で、債務を再構築したらどうか
      ──スティグリッツ・コロンビア大学教授
─────────────────────────────
 この提言にしたがって、永久債はともかくとして、100年後
に償還される国債であれば、少なくとも3世代くらいは、償還費
のことを心配しなくてもいいし、償還費該当分を教育費や防衛費
など他のことに使えることになります。
 「元本が戻ってこない国債なんか売れない」という人がいるか
もしれません。しかし、投資で重要なのは、「元本」よりも「利
子」なのです。
 仮に年率5%の国債を100万円購入したとします。100万
円の5%は5万円であり、20年で100万円の元が取れ、あと
は毎年5万円ずつ増えていくことになります。投資としての魅力
は十分あります。まして相手は民間企業ではなく、政府であり、
絶対安心です。十分売れると思います。
 国家は永続するという前提に立っています。したがって、今回
の「60年償還ルール」の見直し議論は、必ずしも廃止せよとい
うのではなく、60年を80年に延ばすぐらいのことなら十分可
能であるし、それをしたからといって、日本国債の信認が失われ
暴落することなど起こり得ないと思います。
 木内登英氏のいうように、「60年償還ルール」を「80年償
還ルール」に変更すれば、10年後の償還額は7500億円と、
25%減少することになり、その分を防衛費増額の財源に回すこ
とは可能です。しかし、財務省色の強い岸田政権で果たしてこれ
が実現できるかというと、それはほとんど実現性がないと考えら
れます。おそらく防衛増税は実現するものと思われます。
           ──[メタバースと日本経済/012]

≪画像および関連情報≫
 ●国債「60年償還ルール」見直しで防衛費捻出の悪手
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   自民党内で国債の「60年償還ルール」見直しの議論が始
  まっている。岸田文雄政権が決めた防衛費増額では、その財
  源として歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、増税の4
  つの確保策が検討されている。積極財政派が多数集まる安倍
  派では、増税への反対意見が強いが、同派の幹部である萩生
  田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長らが中心となって浮
  上させたのが、国債60年償還ルールの見直しだ。
   現在のところ、2027年度ベースで年1兆円強(防衛費
  増額の約4分の1)を増税で確保するというのが政府の計画
  だが、償還ルール見直しによって新たに防衛費財源を捻出で
  きれば、増税幅は圧縮できる。安倍派を中心とした積極財政
  派の狙いはそこにある。
   建設国債を財源とした公共事業の建築物は、耐用年数がお
  おむね60年であるため、その建築のための借金(国債)も
  60年で現金償還を完了させるのが望ましいのではないか。
  そうした考え方から生まれたのが60年償還ルールだ。
   具体的には、国債発行残高の1・6%(約60分の1)を
  毎年度の国債償還費として一般会計に計上する。実際には誤
  差が生じるものの、そうやって60年かけて元本を償還して
  いく形を取る。         https://bit.ly/3jawM44
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ジョセフ・スティグリッツ教授.jpg
ジョセフ・スティグリッツ教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | メタバースと日本経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする